のぽねこミステリ館

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2005.08.20
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凶笑面

~新潮文庫~

「鬼封会」岡山県K市にある名家に伝わる儀式、鬼封会。その様子を撮ったビデオが、民俗学者である蓮丈那智のもとに送られてきた。送ってきたのは、彼女の講義を受けている男子学生。儀式に興味をもった蓮丈は、助手の内藤とともに調査をはじめる。しかし、予想外の障害が生じた。男子学生が殺された。加害者は、その名家の娘。加害者は、被害者にストーカーにあっていたという。
 コメント。冒頭から面白い。私は、日本民俗学はあまり勉強しておらず、仙台にいた頃にちくま新書から出ているシリーズ、それから概説書の一部を読んだ程度。京極夏彦さん、高田崇史さんの小説で勉強している部分が大きい。それらが、ありうる解釈の一つとは認識しているつもり。
 本作は、蓮丈さんが作成した試験問題の引用からはじまる。難問に頭を悩ませる学生の多い中、一定の水準を送ってきた学生がいた。彼が、「鬼封会」のビデオを送ってきたのだった。
 本作は三人称の形であるが、助手の内藤さんの視点が中心である。もちろん彼は、民俗学を専門にしていただけに、知識がある。京極堂シリーズ、QEDシリーズを考えてみると、前者は関口さんの一人称、後者は棚旗さんの視点を中心に語られる。二人は、妖怪、歴史、民俗学に詳しいわけではない。一般読者に近い存在といえる。というわけで、専門的な話をおうときには、京極堂シリーズ、QEDシリーズの方が分かりやすいと感じた。もっとも本作は短編であるため、分かりやすく、詳しく説明するのに余分なページを割けなかったのだろう。とはいえ、短い言葉でうまくまとめてくれていると思う。わかりやすい・わかりにくい、というのは、あくまで相対的な話。ミステリの要素よりも民俗学の話の方にテンションが上がってしまい、いろいろ勉強してきたくなってしまった。中世ヨーロッパ史を民俗学的な視点から考察する研究をいろいろ読んできて、そちらは比較的勉強しているつもりだけれど、日本の「鬼」や儀式についてはまだまだ知らないことだらけだ。たとえば、「鬼ごっこ」を民俗学的に考察すると、どのように説明できるのだろう、などと疑問が浮かんだ。すでに高田さんあたりの作品に書かれているかもしれないが…。
   *
 なお、岡山県K市は私がよく買い物に行くところです。身近な舞台はテンション上がります。ちゃんと岡山弁だったし。二階堂黎人さんの『宇宙神の不思議』にも岡山県K市が出てくるけれど、こちらは岡山弁がなってなかったので、満足できませんでした。高田さんの『QED 鬼の城伝説』も、岡山弁という点では…。もっとも、私は日常で、岡山弁をあまり使わなくなりましたが。語尾は仕方ないですが(笑)

「狂笑面」蓮丈と仲がよいとはいえない骨董品屋の主人、安久津から、資料が届く。「狂笑面」の写真と、いわれ。見るからに不気味なその面は、そのおかげで村に不幸を呼び起こしたとして、神社に封印されていた、といわれる。安久津は、その面の調査を蓮丈に依頼してきたのだった。蓮丈と内藤は、夏休みに入ると、現物のある長野県の名家を訪れる。そこには、安久津と、別の大学の民俗学者がいた。そして、安久津が殺される。


「不帰屋」二年前。蓮丈と内藤は、社会学者宮崎きくえの依頼で、東北のとある名家へフィールドワークに向かった。宮崎は、その名家にある離れは不浄の間に違いない、そのことを証明してほしい、蓮丈にいう。蓮丈は、自らの学問のため、地元に残る伝承を調べていた。まだフィールドワークとして滞在している間に、宮崎が離れで死亡する。季節は冬。現場は、いわゆる雪の密室であった。
 コメント。雪の密室ということで、ミステリ色が俄然強くなった。今回の主題は、「女の家」。女性と神事、不浄については、諸研究があると思うが、私が最近読んだ本として、牧田茂さんの『神と女の民俗学』(講談社現代新書)がある。この本については、記事をアップしている。先の「狂笑面」では、言葉と表情の多面性についてふれたが(先に書いた内容だけだと、厳密には二面性というべきか)、性、神事、祭り、他あらゆるものが多面性を有しているといえるだろう。手がけるのにためらいを覚える、難しい領域だと感じている。

「双死神」在野の研究者から、内藤に連絡があった。だいだらぼっち伝説と製鉄の歴史への新しい観点。内藤はその仮説に夢中になり、中国地方のT県に向かう。しかし、在野の彼が見つけたという遺跡が崩落により、彼は死んでしまった。仮説と、裏にひそむ大きな問題について調べるためもあり、蓮丈もやってくる。
 コメント。ある方から、北森さんの作品は他のシリーズと関係してくるから、どつぼにはまるよ、ということを聞いていたが、なるほど、と感じた。素性を隠す謎の女性の登場。そして、事件のうしろにある背後にある大きな力。ここまで壮大になりすぎるのは、個人的には苦手なのだが、主題であるだいだらぼっち、そして鉄の話は面白かった。鉄、一つ目、一本足(差別用語だ、という非難もあるかもしれないが、私は差別をするつもりはない。民俗学、歴史学をしていれば、どうしても直面してしまうジレンマだと思う)の問題については、小説で例をあげれば、高田崇史さんのQEDシリーズが詳しく扱っている。逆にいえば、日本史については専門の本、研究を読んでいないので、私には高田さんの小説しか例示できない…。

「邪宗仏」「聖徳太子はイエス・キリストだったんだ」蓮丈の一言から、本作はつづられる。蓮丈と内藤は、山口県のある村に、両腕のない仏像があると聞き、訪れる。その情報は、蓮丈が発表した論文に影響を受けた、在野の二人の人間からそれぞれ送られてきたレポートだった。二人が村に着くと、レポートを送ってきた片方が殺されていた。彼は、両腕を切られていたという。
 コメント(ですます体で)。冒頭から、びっくりの言葉で、好奇心が刺激されます。うまいですね。いかんせん、私の日本史の知識が浅いため、必死に思い出しながらの読書でした。話が進むごとに、蓮丈さんが探偵っぽくなっていきます。けれども、あくまで民俗学者としてふるまいます。かっこいいですね。

 全体を通して。北森さんの作品を読むのはこれが初めてですが、とても面白かったです。
 ある方に、京極さんの『絡新婦の理』に、参考になる箇所がある、とうかがっていたのですが、ちょっと思い出せませんでした。いま、文庫版の『絡新婦の理』を持ってみたのですが… やっぱりおかしいですよ、あの厚さ。600頁で、まだ半分きてませんからね。本がもういっぱいいっぱいの形です。
 なお、本作は約330頁。手頃ですね(笑)





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Last updated  2005.08.20 19:47:22
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