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2005.12.23
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ヨハン・ホイジンガ(堀越孝一訳)『中世の秋』(上)
~中公文庫、1976年~

背表紙に「たぐいまれな想像力の所産であるこの史書」とあるように、根拠がなんなのかわからない、つっこみどころ満載の描写が多いですが、その分中世末期の雰囲気はよく伝わってくるように思います。緒言に、本書は14,15世紀をルネサンスの告知ではなく、中世の終末としてみようとする試みだ、とありますが、文体はそうとうテンション高いです。

目次は以下のとおり。

1.はげしい生活の基調
2.美しい生活を求める願い
3.身分社会という考えかた
4.騎士の理念
5.恋する英雄の夢

7.戦争と政治における騎士道理想の意義
8.愛の様式化
9.愛の作法
10.牧歌ふうの生のイメージ
11.死のイメージ
12.すべて聖なるものをイメージにあらわすこと

本書については、面白かったところ、テンション上がったところをメモしておきます。
先に、想像力の所産と紹介されていることにふれましたが、雰囲気で書いているところをいくつか。
「誇張のうちにこそ、真実の背景がうかがえる。つまりは、18世紀の感傷人が流す涙と同断であろう。落涙は、ひとの心を高める。涙は美しい」(22頁)…後半、ホイジンガの主観ですよね。
「女性のみまもる前で、勇気を示し、あえて危険に身をさらし、強くありたい、苦しみをしのび、血を流したいと願う気持ち、16歳の少年ならば誰でも知っているあの熱望の直接のあらわれである」(145頁)。16歳の少年、と決められているのがたまりませんでした。
「愛ゆえに苦しむ男というのは、男自身がそうみられたいと望んだ姿なのか、それとも、女が男にそうふるまえと望むのか。おそらくは前者であろう」(146頁)。このあたりは「恋する英雄の夢」の章ですが、教会がトーナメントに向けた非難などにもふれられていて、興味深かったです。


ひとつは、ミニョンです。貴族のうちでも重んじられていた血盟の間柄、戦場での友情とならんで、15世紀にはあるセンティメンタルな友情のかたちが知られるようになったそうです。その関係がミニョンと呼ばれます。こちらは男性同士の関係でして、女性同士ですと、ミニョンヌと呼ばれます。ミニョンヌはおそろいの衣装をつけていたのだそうです。
もうひとつは、フィリッピーヌ遊びです。すももを食べていて双生の核がみつかったなら、その場にいる異性の人に、核の一つを渡します。その後、はじめてであったときに、「こんにちは、フィリッピーヌ」と呼びかけた方が、相手から贈り物をもらう権利をもったとか。

訳も、私が良い訳ができるわけでは決してありませんが、気になるところが多々ありました。同時に、これは名訳だ!と思えるところもあったので、それぞれいくつか。
「生の不安、それは、美と幸福とを否定しようとする気持である、美や幸福には悲惨と悲嘆とがつきものだから、というので」。~である、のところは、句点の方が読みやすいかと…。
「それに、なにかたいへんな、おどろくべき啓示でもあったかのように、この会のことを売りこむなんて、と、反対するものたちは非難の声を結ぶ、夢想か幻想、年寄りのたわごともいいところだ、と」。この前のところまで非常に興味深く読んでいたので、この訳で逆にテンション下がってしまいました。「~、と…が言っている」、とか、「…が言っている。~と。」とすればまだ読みやすいと思うのですが…。原文の構造に忠実なのだとは思いますが。


「人びとは、いきのいい呪詛の言葉をひねりだそうと競争する。いちばんすごい呪いを発したものが、師匠として尊敬される」。これは内容自体も気になりますね、どんな呪いなんでしょうか…。
次は面白かった訳。「口にも鼻にも、なめらかなのと鬚もじゃらなのと」。鬚もじゃら、って…。そして、「日の光のさんさんとふりそそぐドリームランド」訳というか、ホイジンガの文章のすごさですよね…。

同時代人がジャンヌ・ダルクについてあまり語っていないこと、「死のイメージ」のところで紹介される、死をめぐる図像の解釈。「牧歌ふうの生のイメージ」では、詩などに描かれたのどかな生活が紹介されます。などなど、他にも内容自体興味深い部分もあるのですが、ずいぶん時間がたってしまったのでこのあたりで。

追記。
本書はハードカバー版を上下巻に分けて文庫化したものですが、ハードカバーに載っている図版がありません。手にとりやすいのはたしかなのですが、図版がないのが残念です。





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Last updated  2008.07.12 21:05:12
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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