のぽねこミステリ館

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2006.05.04
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東京バンドワゴン

~集英社、2006年~

 東京の、とある下町にある昔ながらの古本屋<東京バンドワゴン>。古本屋とカフェを営む四世代家族の周辺で起こるいくつかの事件をつづった連絡短編集(中編集?)です。以下、それぞれの簡単な内容紹介と感想を。

「春 百科事典はなぜ消える」
 新学期が始まった、ある朝。店主の勘一は、店の本棚に、見たことのない百科事典が二冊だけ入っているのに気づく。しかし、その夜には、百科事典はなくなっていた。そんなことが何度か続いたとき、一家の子どもたち、花陽(かよ)と研人(けんと)が、百科事典の持ち主を知り、家族とともにその周辺を調べていく。夜回りで勘一らが気にしていた、ストーカーと思しき人間との関わりも浮上してきた。

 全体の感想ともつながりますが、とにかくどの登場人物も素敵なのです。勘一の息子、 60歳になりながら金髪・長髪の我南人(がなと)さんなど、登場人物一覧のところで読む限り、とんでもない人だと先入観をもってしまったのですが、マイペースで素敵な方でした。LOVEはキーワードですね。
 頑固者の勘一さんが、嫌っていた外国人への態度をやわらかくするあたりも、すごく温かくてほのぼのしました。
「夏 お嫁さんはなぜ泣くの」
 花陽の母親、藍子が知人の葬儀に出た頃から、その態度がおかしくなっていった。一方、女性トラブルを持ち帰る青に、また新たな女性訪問者。名を牧原みすずという。彼女は、青と結婚するつもりできたという。そして、古本が大好きで、住み込みで手伝いたい、と。いつもなら、女性を追い返させる青だが、彼女への態度は違った。一家の男性たちもみすずに好感をもち、彼女は住み込みで働くようになる。その頃、一家の周辺にしばしばストーカーと思しき人間が現れ、また藍子の絵が切り裂かれるという事件が起こる。



「秋 犬とネズミとブローチと」
 10月。古本の値付けの以来を受け、岐阜県のある廃業した旅館に、紺が向かった。多くの本の値付けを終えた翌日、奇妙な事態が起こっていた。主人も、多くの古本もなくなっていたのだ。
 同じ頃、老人ホームに入っている勘一の友人が<東京バンドワゴン>を訪れた。お店からホームに借りていった本の中の一冊を持って、ホームの利用者の女性が失踪したという。女性が持っていったというある作家のエッセーを手がかりに、青たちは女性を探す。

 ミステリとしては、一番わくわくしました。一夜にして、旅館の主人と大量の本が消えた。物理的には不可能ではないですが、なぜこんなことをしたのか。ラストでは、やっぱり温かい気分になりました。失踪した女性も、いろんな人たちに心配をかけてしまったのは事実ですが、素敵なひと時だったでしょう。
「冬 愛こそすべて」
 青の結婚の日が近づいてきた頃、藍子は、父の我南人に、青の母親について問う。藍子は、青の母を知り、ひどく驚いた。同じ頃、式をあげてくれる神社の康円に、浮気の疑惑がもちあがる。

 本書の要所要所で活躍している我南人さんですが、このお話の中では、特にかっこいいと感じました。IT企業の社長さんも、なんだか素敵だと思いました。

ーーー

 さて、全体を通して。本書は、今は亡き勘一さんの奥様であるサチさんが、一家を見守りながら語ってくれるというスタイル。サチさんによる一人称です。かわいいおばあちゃんなんだろうなぁ、頑固な勘一さんとも良いカップルだったろうに、と思いながら読みました。優しい語り口。家族に対する愛情にあふれています。というか、人間に対する優しさ、というか。亡くなった方も含め、いろんなことに気を配りながらお話を進めるのが素敵です。
 とにかく優しさにあふれていて、読んでいてほっとしました。

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コメントをくださった、でこぽんさんの記事は こちら です。リンクもはっていただきました。





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Last updated  2006.05.04 13:08:44
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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