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2007.02.04
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Michel Pastoureau, "Le symbole medieval. Comment l'imaginaire fait partie de la realite"
dans Michel Pastoureau, Une histoire symbolique du Moyen Age occidental , Seuil, 2004, pp. 11-25.

 一月に購入した、ミシェル・パストゥロー 『西洋中世の象徴の歴史』 より、「中世の象徴―いかに想像界が現実の一部であったか」を紹介します。また、パストゥローの紹介も一つの記事として書きたいと思っていますし、本書についても、標題を並べた論文紹介リンクとかねて、本全体の感想をつづるような記事を書きたいと思っています。

[序]

 中世の著作家にとって、象徴symboleは、わざわざ断って使うまでもないほどありふれたものでした。現在、象徴symboleと訳しうるラテン語にはsignum, figura, exemplum, similitudoなどがありますが、これらは各々本質的なニュアンスをもっているために、注意すべきだといいます。一言で言えば、象徴symboleという概念は、一般化できないということだそうです。

構築すべき歴史

 この節では、大衆的な「象徴」についての歴史が実に嘆かわしいと愚痴を述べた後に、紋章emblemeと象徴symboleの違いを的確に指摘しています。
 紋章embleme…個人あるいは一つの集団のアイデンティティを示す:名前、紋章、図像におけるアトリビュート(ある人物などに結びつけられるもの)など
 象徴symbole…抽象的、概念的


語源

 中世では、ある言葉の語源は、ラテン語の中に求められていました。これだけでは意味不明なので、具体例を一般名詞と固有名詞から見ておきましょう。
 たとえば、くるみ(ラテン語でnux)は、ラテン語で「損なうこと」を意味するnocereと結びつけられます。なので、くるみは有害な木だと考えられていました。悪魔におそわれてはいけないので、その木の下で寝てはいけない、などと考えられたとか。
 固有名詞では、聖人の例が紹介されています。フランスの聖マクルーMaclouは、できもの(clous)を治癒する聖人だそうです。目の病を治癒する聖人は、フランスでは聖クレールClaire、イタリアでは聖ルチエLucie(イタリア語読みには自信がないので、間違っていたらすみません)なのですが、いずれの名前も光(フランス語でclarte、ラテン語でlux)に通じているのです。これまた面白かったのは、ユダについて。イスカリオテ(ドイツでは、Ischariot)は、ist gar rot(いつも赤い)に通じることから、ユダは赤色と結びつけられたというのですね(赤毛ですね)。パストゥローは12世紀からのこととしていますが、ユダの図像表現に私は詳しくないので、ここでは、こういう風に紹介されている、ということでメモしておきます。
 とまれ、このように、ある人物や事物の言葉が、近いラテン語(言葉)に結びつけられて、その性格が決定されるということが、この節で指摘されています。

類似(アナロジー)

 中世の象徴は、類似との関連で意味をもっていたといいます。たとえば、現代では寒色と考えられる青は、中世では暖色と考えられていたといいます。というのも、青は空の色で、空は温かく乾いているから、というのですね。

ずれecart、部分、全体

 まずは、ずれについて。これは、全体としては現存するものに似ているのに、一部だけ違いがある表現のことです。たとえば、角のある人間ですね。このような人物は、モーセを例外として、怪しい、悪魔的な存在として示されています。逆に、いつも角のある悪魔ですが、角のない悪魔は、より怪しい存在を示したということです。
 極端extremeの事例も見ておきましょう。ユダの裏切りでイエスが捕まるとき、イエスの髪や髭も、ユダとの相互浸透のために赤く表現されている図像があるそうです(私はおそらく見たことがないのですが)。
 部分が全体を表現するということも、中世の象徴の特徴です。たとえば、聖遺物の信仰では、聖人の骨や歯が、その聖人を示します。日本でもブッダだなんだの骨がいろんな寺院にあると言われていると思いますが、そういうことですね。骨など、聖人の一部をもつことで、教会は箔が付きますし、御利益もあるということです。
 また、主君が家臣に土地を与える際、土塊やわらを与えたという事例があります。これも、土塊やわらが、その土地を示しているということになります。

介入interventionの様式

 介入interventionという概念はよく分からないので、そこには目をつむりつつ、事例を紹介しておきます。いくつかの色が紹介されています。赤は、暴力性を仲介し、緑は、切断・無秩序・刷新を意味し、青はなだめ、安定させる…。このように、色などの象徴性が、人間に働きかける意味のことでしょうか…。
 中世の象徴は、先行する時代の三つの遺産の上に成り立っているといいます。一つは、聖書。第二に、ギリシア・ローマ文化。最後に、「蛮族」文化、すなわちケルト文化、ゲルマン文化などです。ここでパストゥローが強調しているのは、ある時代・社会をこえた、普遍的な象徴はない、ということです。象徴を研究する際には、その象徴が用いられた社会との関連で研究すべきといいます。

 想像界(イマジネール)も、現実であるということを、パストゥローはこの論文で強調しています。

   *   *   *

[序](これは私が便宜的につけた見出しです)で出てきたexemplum(例;例話)やsimilitudo(類似)については、中世の説教について勉強する中で具体例にふれてきていますので、また紹介する機会があるかもしれません。今後は、またこのように西洋史関連の記事も増やしていきたいと思うのですが、どうなるやら…。無理せずぼちぼち続けていきたいと思います。





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Last updated  2008.07.12 20:47:51
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