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2007.03.27
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筒井康隆『東海道戦争』
~中公文庫、1978年~

 筒井さんの第一作品集です。9編の短編が収録されています。ごく簡単にそれぞれの内容を。

「東海道戦争」大阪と東京が戦争をはじめる。それは、マスコミ的な、大衆が喜ぶための、理由のよく分からない戦争だった。
「いじめないで」戦争の際、シェルターのような倉庫にいた「私」は、たまたま生き残った。同じく残ったコンピュータによれば、生きているのは「私」だけだという。コンピュータとのやりとりで腹を立てた「私」は、コンピュータを責める。
「しゃっくり」8時41分から51分の十分間が、何度も何度も繰り返される。しかし、人間の記憶だけは残っていた。なんとかしようと理性をたもっていた「おれ」だが、何度目かのループで、ついにひどい行動に走ってしまう。
「群猫」地下に繁殖した群猫(特に、ミオ)と、一匹の鰐(バクー)の戦い。
「チューリップ・チューリップ」タイムマシンを開発し、過去に行こうとした「おれ」だが、操作に失敗し、ついに「おれ」は16人になってしまう。ナルチスト気味の「おれ」だが、同じ「おれ」に対する嫌悪感を募らせていく。
「うるさがた」宇宙探査に出かけていた「私」と、嬉しそうに本部からの命令を伝えるロボット。ロボットは、「私」のすることになんやかやと注文をつける。

「やぶれかぶれのオロ氏」重大な会見を終えたオロ氏は、ロボット記者を対象にした記者会見を開いた。しかし、ロボット記者の質問に対して矛盾だらけの答えを述べたため、ロボット記者は論理的矛盾にたえられず、次々と壊れていく。
「堕地獄仏法」政教一致の恍瞑党(総花学会)が政権をとり、言論統制が強化される。党の以降にそわない言論をする者は、党公認の暴力組織などにより、殺されることもあった。

 ロボットと人間のケンカということで、「いじめないで」と「うるさがた」が共通しています。「東海道戦争」と「堕地獄仏法」ではマスコミ論も展開されていて興味深かったです。筒井さんの短編を最近よく読んでいますが、痛烈なマスコミ批判は一つの特徴だといえるでしょう。
「やぶれかぶれのオロ氏」は痛快でした。何をおっしゃっているのか理解しがたいことをおっしゃる政治家の方々を思い浮かべながら読みました。ナントカ還元水などの問題はどうなっているのでしょうね。
 この中で異彩を放っているのが、「お紺昇天」だと思います。人工頭脳をもち、自分で走る車ロボットが登場するというばりばりのSFなのですが、ラストでは涙を誘われました。
「しゃっくり」では、少し設定は違いますが、竹本健治さんの『フォア・フォーズの素数』という短編集に収録された「非時の香の木の実」という短編を連想しました(こちらは、ある行動をとると、時間を逆戻りさせることができるという設定です)。「しゃっくり」は、何度も同じ時間がループする、ただし何度ループしてもその間の記憶は消えることなく残る、という設定です。このような状況下で人間がどのような行動をとるか。連想した竹本さんの話では、時間を逆戻りさせることのできる主人公以外の記憶は残らないのですが、この作品では全員の記憶が残ります。本作の主人公など一度死にますが、やっぱりループで生き返ります。けれど、あなたが死んだのを見たよ、などと言われるわけです。とまれ、どうせ時間が戻るのだから何をしてもいいだろう、とは普通に考えればいきません。なにかすれば、それはそれを見ていた人が覚えているからです。しかし、何度も時間が繰り返すというのはフィクションとはいえ極限状況です。そんな中、ついに主人公も一線を越えてしまうのですが、ラストは不快ではありません。けれど、独特の余韻が残ります。それほど泣ける話ではないと思うのですが、涙ぐんでしまったのでした。

   *

 前後しますが、「東海道戦争」と「堕地獄仏法」は、「大衆」への風刺も強いです。後者の方で印象的だったセリフがあるので、引用しておきます(文字色は反転させておきます)。

大衆って奴を、そんなに信じていいのかね? 僕は懐疑的なんだ。その証拠に、現在の大衆を見ろよ。わずか二、三年で完全に頭の中の思想を入れ替えちゃってる。人間って奴はさ、だいたい理性を使うことを億劫がるんだ。そしてその結果は容易にデマゴーグや広告で釣る政治家や証人たちの餌食になる。精神的に怠惰だから、無分別に物ごとに盲従する。利己的な人間にあやつられるんだ 」( 240-241 頁)





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Last updated  2007.03.27 22:17:24
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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