のぽねこミステリ館

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2007.03.31
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~勁草書房、2000年~

 徳井淑子さんによる、フランスの歴史家たちによる七つの論文の編訳書です。なお、徳井さんのその他の著作は、最近ブログの記事で紹介しました(『服飾の中世』については こちら 、『色で読む中世ヨーロッパ』については こちら )。 本書に収録されている論文は以下の通り。

1.子ども
ダニエル・アレクサンドル-ピドン「巻き紐から衣服へ―中世の子ども服(13-15世紀)」
2.生活
フランソワーズ・ピポニエ「生活の白布・身体の白布―ブルゴーニュ地方の財産目録から」

ペリーヌ・マーヌ「中世の図像からみた仕事着の誕生」
4.町と城
フランソワーズ・ピポニエ「都市の布と宮廷の布」
5.色彩
ミシェル・パストゥロー「青から黒へ―中世末期の色彩倫理と染色」
6.男と女
ピエール・ビュロー「《ズボンをめぐる争い》―ある世俗的主題の文学と図像のヴァリエーション(13-16世紀)」
7.文学的想像力
フランソワ・リゴロ「ベルールの『トリスタン物語』における衣服の形象価値」

 さらに、編者あとがきは各々の論文の要点と問題点を指摘しているほか、索引では、服飾関係の用語に説明も付されていて便利です(私はじっくり読んでいませんが…)。
 ピポニエ氏の名前は、徳井さんの著書でもしばしば引かれていて覚えていました。15世紀のブルゴーニュ地方の財産目録に関する詳細な調査をした方らしく、本書第二章でも、そうした統計的な調査結果が報告されている感じです。今回はほとんど流し読みしました。他にも流し読みした論文もあるため、ここでは、特に興味深かった二つの論文についてふれておくことにします。


 乳児は、地域差はあるものの、基本的に紐でまかれました。イタリアでは、ミイラのようにぐるぐる巻きにされます。フランスでは、もう少しゆったり巻くそうです。それは、子どもの四肢がまっすぐなるようにという、当時の人々からの配慮からでした。といって、きつく巻かれたわけではなく、しゃがむような姿勢もとれたり、手も自由にできたりしたそうです。
 産着について付言すれば、赤色がよく用いられたといいます。赤は、出血や病気から守る色と考えられたといいます(このあたりの事情は、徳井淑子『色で読む中世ヨーロッパ』第二章、特に70-78頁を参照)。
 さて、中世には、「人生の諸時期」と呼ばれる図像あるいは思想があります。これに関する仏語論文(?)をいまノートにしているので、また記事にするつもりですが、たとえば、子ども、青年、壮年、老人などのように、人生の初段階をいくつかに分ける考え方です。本稿では、各々の段階特有の衣服を指摘するだけでなく、同じ子どもでも、大体何歳くらいから人生における段階がかわり、衣服も変わるかということが示されます。このあたりがとても興味深かったです。

 第六章「《ズボンをめぐる争い》」。ここでは、民衆的な「笑い話」(ファブリオー)に見られる夫婦の争いで、ズボンを制する者が主導権を握る、という話がまず紹介されます。著者は、その後、説教の中で聴衆の目を覚まさせたり、説教の本題自体に注意を向けさせるための例話(エクセンプラ)にふれた後、ある説教が紹介します。その説教でも、女性がズボンをはきたがる、ということが言われています。
 このように、文学や口頭での説教の分析の後、著者は図像資料の分析に移ります。そこで検討の対象となるのが、教会の聖職者席のミゼリコルド(座板持送り:座板を支えるため、ひとつひとつの座板の下に突き出た部分)と、写本の欄外挿絵です。

 本稿ではさらに、ズボンをめぐって争う図像と、<パノア>という遊び(一本の棒を二人でひっぱって、よろけた方が負け。綱引きの1対1バージョンみたいな感じでしょうか。もっと似てる遊びも日本にあるのかもしれませんが…)を描いた図像が似てるという指摘など、面白い話題が多く、興味深かったです。特に、説教を史料として用いているのが、個人的には関心をひかれました。

 他の論文についても簡単に付記しておきます。
 第三章は、標題通り、中世の人々の仕事着を紹介しています。
 よく紹介しているパストゥローの論考が第五章にありますが、この中では、特に色彩(染色)のコストの面の研究も必要だと強調していることが重要な点でしょうか。同じ青でも、莫大な費用をかけて作った「青」と、安価な「青」は、別物として考える必要があるというのですね。
 第四章と第七章については一言もふれませんでしたが、ほとんど流し読みしたので、お許しください。
 なお、本書は図版が豊富に掲載されているので、それだけでも興味深いです。





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Last updated  2008.07.12 18:46:44
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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