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2007.05.17
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~東京大学出版会、2004年~

 中世ヨーロッパの人々が、どのような環境の中で、どのような住居に暮らし、どのように食事をし、どのように他の人々とコミュニケーションをとっていたのか…。などなど、人間にとって身近なテーマについて、研究者が簡単な言葉遣いで紹介してくれる、新しいタイプの入門書です。中世ヨーロッパの入門書といえば、どこか教科書的な記述を思い浮かべますが、本書は全くそうではありません。知的好奇心を刺激してくれ、そのテーマに関する重要文献の紹介もしてくれるので、どんどん自分で勉強を深めるきっかけになるような性格をしているといえます。もしも大学一年生の頃に本書が出版されていれば、またもう少し違ったテーマを専門にしていたかもしれないとも思いました。
 と、先に全体の感想のようなことを書いてしまいましたが、以下、いつものようにいきましょう。本書の構成は以下の通りです。

「中世の扉を開けよう!」(甚野尚志、堀越宏一)

1.自然と人間
「中世アイリッシュ海風雲録」(有光秀行)
「アルビオンの森林史話」(遠山茂樹)
「水車は領主のものか?―ひとつの公共性の誕生」(堀越宏一)


2.日常生活の作法
「衣服の色と文様が語る中世フランスの感性―フィリップ・ル・ボンの涙模様の黒い帽子をめぐって」(徳井淑子)
「フォーク誕生の秘密」(池上俊一)
「騎士の住む城、暖炉のある農家」(堀越宏一)

3.人びとの絆
「母とこども」(高橋友子)
「「老いと病い」を生きる」(河原温)
「遺言にみる中世人の世界―ジェノヴァの事例から」(亀長洋子)
「職人兄弟団―宗教がとりもった仲間たち」(佐久間弘展)

4.出会いのかたち
「楽師伝説―人びとと音楽をつなぐもの」(上尾信也)

「巡礼と観光―「余暇社会学」序説」(関哲行)
「写本絵画の物語叙述とコンテクスト―斬新な聖人伝挿絵サイクルの成立をめぐって」(前川久美子)

 全ての章についてコメントするのも大変なので、興味深かった論考についてふれておきます。

 遠山先生の「アルビオンの森林史話」は、パストゥローの論文「イノシシ狩り」をちょうど整理していた頃に読んだこともあり、面白かったです。現在、森を意味するforestという語は、中世では、王のシカ狩りのために指定された排他的な猟場を意味したそうです。その土地―御料林に関する法では、シカの殺害が重罪とされていました。ところが、シカの密猟はしばしば行われた― それも、肉食はいけないはずの修道士たちが、しばしば密猟していた、というのです。

 甚野先生の「災害を前にした人間」も興味深かったです。私が卒業論文のテーマにして以来関心を持っている模範説教集、そしてその中に挿入された例話が史料として紹介されているのが、その大きな理由です。私が3年強ほどじっくり研究したジャック・ド・ヴィトリという人物の例話には、自然災害に関する言及はなかったように思うのですが、甚野先生の論考では、自然災害について語る例話が紹介されています。たとえば、不品行な人物が修道院をのっとったために、神の怒りにより、山の崩落が起こったという逸話ですね。説教の中で語られる例話は、本来民衆教化の性格が強く、その観点から分析されてきましたが、現実の自然災害についても伝えてくれる史料になるということが、勉強になりました。


 もう一つ、この論文が面白いのは、後半で扱っている学生の書簡の紹介です。パトロン、あるいは親にお金の無心をする学生たち、自分の子供が勉強せずに遊んでばかりいることを叱る父親の書簡など、読んでいて面白い史料が紹介されます。…現代の私たちが書き残した手紙なども、後世の人々にとっては貴重な史料となることと思いますが、どこか恥ずかしいような気分にもなりますね。

 その他の章もとても興味深かったです。一気に二日で読んでしまいましたが、良い読書体験でした。





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Last updated  2008.07.12 18:38:46
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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