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2008.04.20
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筒井康隆『わが良き狼(ウルフ)』
~角川文庫、1983年25版(1973年初版)~

 筒井康隆さんの短編集です。バラエティ豊かな9編の短編が収録されています。
 では、簡単な内容紹介と感想を。

ーーー
「地獄図日本海因果(だんまつまさいけのくろしほ)」 突如、北朝鮮の艦隊が日本海に侵入してくる、というお話。相手が使った原爆は、できそこないで、時間を歪ませてしまいます。

「夜の政治と経済」 予知夢を見るホステスが主人公です。ママが事故死するなどの夢を見てからの、彼女とパトロンたちとのやりとりが緊張を誘います。

「わが家の戦士」 とつぜん、家の中で(ベトナム)戦争が展開されるというお話。面白く読みました。

「わが愛の税務署」 少しでも多く納税するために虚偽の申告をこころがける男の話。こちらも面白かったです。家での妻とのやりとり、税務署の職員とのやりとりなど、ドタバタ要素も多く、楽しかったです。それでいてどこかずきっとするのも、筒井さんの作品の魅力ですね。

「若衆胸算用」

「団欒の危機」 カラーテレビが届く前にテレビを手放してしまった家庭で、夕食時間が苦痛の時間になってしまう、という話。子供たちをなんとか楽しませようと、親たちは物語をするのですが、それがどんどん変な方向に行ってしまうのが楽しいです。

「走る男」 ずっと未来、オリンピックがまったく熱狂を呼ばなくなった時代に、長距離に挑戦する男の話。なんとも深い味わいがあり、ラストは哀愁を誘います。

「下の世界」 頭脳労働を専門とする人間と、肉体労働を専門とする人間が完全に二分化され、後者は地下で暮らしている世界が舞台です。主人公は下の世界でもっとも運動能力に秀でていて、大会で優勝すれば上の世界にいけるため、練習に励みます。なんともやりきれない思いになりますが、物語としてとても面白かったです。

「わが良き狼(ウルフ)」 帰りの電車で読みながら、涙が抑えられませんでした。ある星で、悪漢ウルフをこらしめていたキッド。彼が久々にその町に戻り、懐かしい人々と近況を語り合います。 この物語については、田辺聖子さんによる解説の一節がとても素敵で、共感したので、引用しておきます。


私はこの、絵本のような詩情を愛する。


 とても素敵な短編です。
ーーー

 全体的に、面白かったです。味わい深い作品、ドタバタが楽しい作品、泣ける作品などなど、冒頭にかいたように、バラエティ豊かです。
 本書は、上でも少し引用しましたが、田辺聖子さんによる解説も素敵です。
 そして、なによりかにより、表題作がとても素敵でした。
 電車の中で少しずつ読み進めたので、それぞれの物語をよく味わいながら読めたように思います。良い読書体験でした。
(2008/04/17読了)





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Last updated  2008.04.20 08:10:00
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