のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

PR

×

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2008.11.25
XML
ミシェル・パストゥロー『紋章学概論』第1巻第2章
「中世社会全体による紋章の採用(1180頃-1320頃)」
(
"L'adoption des armoiries par l'ensemble de la societe medieval (vers 1180-vers 1320)"
)

 今回は、ミシェル・パストゥロー 『紋章学概論』 より、その第1巻第2章「中世社会全体による紋章の採用(1180頃-1320頃)」を紹介します。
 まず、本章の構成は次のとおりです。

ーーー
I.貴族全体への紋章の使用の拡大(1180頃-1230頃)

  a)防具の変形 b)トーナメントの流行
 2.過程
II.全ての社会階層への紋章の使用の拡大(1230頃-1330頃)
 1.女性の紋章
 2.聖職者の紋章
 3.「ブルジョワ」と職業人の紋章
 4.農民の紋章
 5.都市的・宗教的共同体の紋章
III.西洋紋章学の成立
ーーー

 以上の流れに沿って簡単に内容紹介をして、若干のコメントを付け加えたいと思います。



 Iでは、騎士たちの防具の変形が、紋章の流行の原因となることが指摘されます。 第1巻第1章 では盾が大きくなることが指摘されますが、ここでは、兜と鎖帷子が体を覆う面積が広くなることから、識別のしるしとして図柄で飾られる必要が出てきたことが示されます。
 トーナメントについては、後には切れ味の鈍い剣や木製の武器を使うようになりますが、13世紀半ばまでは実際の戦場での装備とかわらない装備で行われていたということが指摘されます。ちなみに、トーナメントでは死者も出ますが、教会はそうした死者を教会の墓地に埋葬することを拒んでいました。
 2の「過程」の中でいちばん面白かったのは、「同一紋章集団」(groupes d'armoiries. これは試訳ですが、なにか定訳があるかもしれません)の存在です。従来、家臣や陪臣(家臣の家臣)は、自分の領主と同じ紋章を使っていました。13世紀頃には、自分の紋章をもつようになりますが、それも、領主の紋章をちょっと変えたくらいのものも多いそうです。そのため、ある地域の中で、親族関係にない(ように思われる)いくつかの家系がそっくりの紋章を持つようになる、というのです。これが「同一紋章集団」です。…むむ、厳密には微妙な違いもあるわけですから、訳語に「同一」を加えるのは不適切かもしれませんね…。はてさて…。

II.全ての社会階層への紋章の使用の拡大(1230頃-1330頃)


 1では女性の紋章とありますが、もちろん貴族階層の女性のことです。もっとも、14世紀以降には庶民の女性も紋章をもつようになるそうです。
 なお、女性の紋章は、おおまかにいって4つに分類されます。(1)夫と同じ紋章。(2)父(稀には母)の紋章。(3)それらの組み合わせ。(4)夫のとも父のとも異なる新しい紋章。以上の4つです。
 少し飛ばして、農民の紋章は、描かれた図柄の一覧表も示されていて興味深かったです。動物が多く描かれる伝統的な紋章とは違って、農民の紋章描かれた図柄は、圧倒的に植物が多く、その他、日常生活や仕事で用いる道具も多いようです。なお、ここでパストゥロー氏は興味深い問題提起をします。というのは、こうした農民の紋章の特徴は、農民たち自身の嗜好によるのか、それとも、それらの印章を作った職人さんが農民に対してもっていたイメージを反映しているのか、という問題です。

III.西洋紋章学の成立

 ここでは、本章で扱った時代―特に13世紀に、厳格な紋章規則がほぼ完成することが論じられます。氏は、その厳格な規則のため、貴族の紋章と農民の紋章は、見た目には違いがない、ということを強調しています。たとえば、誰の紋章か分からない紋章があるとして、その持ち主が貴族なのか農民なのか、判別することはできない、というのですね。
 また、この時期には、伝説の人物にも紋章が付与されたり、次男以下が長男が引き継ぐ紋章とちょっと違った特徴を付け加えた紋章を使うという差異化brisureも見られるようになったりします。
 もう一つ、Iの2で、家臣たちが領主のと同じ紋章を使っていたと書きましたが、やがてそういう習慣も消えていくそうです。そうした中で、それぞれの嗜好や集団的な心性が果たした役割を氏は強調するのですが、これについてはまた別の章で論じるとのことです。

   *   *   *

 ひとまずこの章も全訳を作ってみましたが、註を見ていると、イタリア語からスペイン語(?)の文献まであって、研究者の博識ぶりに圧倒されるばかりです。
 そして、農民の紋章のところでも少しふれましたが、パストゥロー氏の論考を読んでいると、つねに問題提起があり、ますますその研究分野に興味をひきつけられます。本書は、かなりの大著で、ミシェル・パストゥロー氏の研究の一つの集大成と思うのですが(研究生活の割合早い時期に出された集大成的な書物という意味で、私はジャック・ル・ゴフ 『中世西欧文明』 と本書が近い位置づけにあると思っています)、それでいて、さらなる研究をうながす視点をつねにもっています。わくわくする読書体験です。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2008.11.25 07:08:13
コメント(2) | コメントを書く
[西洋史関連(洋書)] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

のぽねこ @ Re:銀色夏生『流星の人』(05/16) スパイシーチューリップさんへ コメント…
スパイシーチューリップ @ Re:銀色夏生『流星の人』(05/16) 流行りましたね!キラキラ系、あまり知ら…
のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 なにぶん…

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: