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2008.12.07
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~岩波書店、2008年~

 岩波書店から刊行がはじまったシリーズ「ヨーロッパの中世」の第1巻(第1回配本)です。主に政治史・法制史の面が強いですが、最新の研究も紹介しながら、ヨーロッパ中世の世界を描いています。
 本章の構成は以下の通りです。

ーーー
序章 「中世」を切り出す
第一章 小国家の時代
 1 民族集団の生成
 2 ポスト・ローマ国家の独自性

 4 領主と農民の共生
 5 覇権国家カロリング朝のパラドックス
第二章 中世ヨーロッパ・システムの生成と展開
 1 定住空間の変容―集村・城塞集落
 2 交換活動の発展
 3 中世法の論理と社会秩序―紛争決着の諸相
 4 支配の原理として封建制は機能したか
 5 騎士と傭兵
第三章 統治と政治秩序の体系
 1 帝国と王国
 2 王権の変遷

 4 俗権と教権の長い対話
第四章 碧き血統―ヨーロッパ貴族の歴史的変遷
 1 フランク貴族の相貌―六世紀-十一世紀
 2 中世貴族の誕生―十二世紀
 3 身分制の貴族へ―十三世紀-十五世紀

 1 禁欲の心性
 2 支配の類型としての修道制
 3 中世キリスト教学の増殖炉
 4 霊性と奇蹟の空間
 5 修道士と異端
おわりに―ヨーロッパ世界と「中世」

参考文献
索引
ーーー

 上にも書きましたとおり、本書は政治史や法制史の領域に重点があります。学生時代に目を背け続けていた分野なので、苦手ではあるのですが、それでも興味深く読み進めました。
 まず、序章。ギリシャ・ローマの時代は、ヨーロッパは世界システムの考え方(世界を中心―半周縁―周縁に分類し、それぞれの関係を分析)でいえば「中心」の位置にありました。それが、ゲルマン民族の侵入により、ヨーロッパは半周縁に置かれる。本書では、これが、中世の始まりとされます。そして中世の終わりは、オスマン・トルコによるビザンツ帝国(東ローマ帝国)の滅亡が置かれます。というのも、この事件まで、ヨーロッパには周辺(東方)の地域からの侵入が相次いでいました(マジャール人、モンゴル人などなど…)。それが、ビザンツの滅亡以降(というのは、オスマン帝国の強大化以降)、大がかりな東方民族の侵入は止むというのです。そして、ヨーロッパの空間は輪郭が明確になり、新しい時代につながっていく、というのですね。
 というんで、西ローマ帝国の滅亡から東ローマ帝国の滅亡までが中世という、割とよく聞かれる時代が本書でも「中世」と位置づけられますが、しかしその意味付けが興味深かったです。
(しかし、まったくの印象論ですが、別の視点から見てみれば、また別の時代区分も想定できるかと思います。)

 その他の章も興味深いです。第一章は、あえて中世の国を「国家」ととらえ、近代的な国家観を適用するのではなく、中世国家の独自性を明らかにしようとします。メロヴィング朝とカロリング朝の地方統治の在り方の対照性が特に興味深かったです。

 第二章はちょっと飛ばしまして、第三章では、2節の王権の変遷、王の性格の変化について論じている部分が面白かったです。たとえば、ゲルマン民族の王は、もとはその家系の高貴さが条件でした。ところが、やがて軍隊を率いる者として、軍隊指導の資質も求められるようになります。そして西ローマ帝国の滅亡後、支配領域が安定してくると、今度は日常的支配に力を注ぐ必要が出てくる…と。

 第五章は、いままで勉強もしてきている分野ですが、修道院長の性格と修道院内の支配について論じた第2節は私には目新しく、難しいながらも興味深く読みました。
 エピソードとして面白かったのに、こんな話があります。生前に奇蹟を起こした聖人の教会(修道院)は、民衆がどっと押し寄せ、修道士たちは普段の仕事が妨げられるほどになったそうです。そんな中、シトー会士のクレルヴォーのベルナールは数々の奇蹟を起こし、なのでその修道院には多くの群集がやってくる恐れがありました。そこで、こうした事態を防ぐために、ときの修道院長は、ベルナールの墓に、奇蹟を起こすのを禁じたそうです。(奇蹟は聖人の死後も起こるので…)。これはまた、聖者と死者の関係についても興味深い問題だなぁと思いました。

 記事の冒頭では、最新の研究が紹介されているということも書きましたが、考古学の成果もいろいろ紹介されていて、こちらも勉強になりました。
 今月はまた、同シリーズ第8巻(第2回配本)、池上俊一先生の『儀礼と象徴の中世』が刊行される予定です。こちらも楽しみです。
(2008/12/05読了)





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Last updated  2008.12.07 07:50:33
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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