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2012.05.03
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 上智大学中世思想研究所が発行している『中世研究』第1号です。
 もともと、1982年に『聖ベネディクトゥスとその修道院文化』というタイトルで刊行されていたのですが、 1998年に、改版されたようなかっこうですね。1982年版にはなかった数編の論考が追加されていたり、再録された論考も若干の加筆・修正がなされているという良い点がある半面、1982年版にあった論考がこの版では収録されていない(たとえば朝倉文市先生の「クリュニー=シトー論争について」)という残念な点もあります。
 とまれ、本書の構成は次のとおりです。

ーーー
序言(K・リーゼンフーバー)

一 『聖ベネディクトゥス修道規則』におけるdiscretioの理念(坂口昴吉)
二 ベネディクトゥスの『戒律』とアレイオス主義(古田暁)
三 聖ベネディクトゥス修道霊性の歴史体験(鈴木宣明)
四 混淆戒律時代におけるベネディクトゥスの『戒律』―中世前期のガリアにおけるベネディクトゥス修道制の伝播についての一考察―(徳田直宏)

六 クリュニー修道院における救済の構図―ペトルス・ウェネラビリス『奇跡について』を中心に―(杉崎泰一郎)
七 サン=ティエリのギョーム小伝(国府田武)
八 中世の修道院霊性における自己認識の問題(K・リーゼンフーバー)
九 中世の写本処(スクリプトーリウム)(J・フィルハウス)

邦語文献表
執筆者紹介
索引
ーーー

 まず、本書の中心人物である聖ベネディクトゥス(480頃-547年頃)について、簡単にメモしておきます。
 彼は、ヌルシアの上流貴族の家に生まれました(そのため、ヌルシアのベネディクトゥスと呼ばれます。後代に登場する、アニアヌのベネディクトゥスと混同しないように注意!)。
 ローマで学んだ後、隠修士の生活を経て、529年、モンテ・カッシーノに共住修道院を建てます。

(以上、第一章の叙述を参考に整理)。
 修道院の歴史を考える上で、最も重要な人物の一人です。

 さて、以下では、本書の諸論考の中で印象に残った点や感想を、簡単にメモしておきます。

 まず第一章は、『聖ベネディクトゥス修道規則』のなかで、「分別」(discretio)という概念が非常に重要であるということを明らかにしています。
 同時代にヌルシアのベネディクトゥスの唯一の伝記を記したグレゴリウス一世は、その『修道規則』について、「彼(ベネディクトゥス)は修道士たちのために分別において優れた規則を書いた」と述べているといいます。その指摘から始まり、『修道規則』を丹念に読み、その中の「分別」の重要性を指摘していく過程は、とても興味深いです。


 第二章では、典礼の祈祷文、特に栄唱の分析を通じて、異端とされるにいたったアレイオス主義と、正統(そしてそれを受け継ぐ『修道規則』)との対立が示されており、興味深かったです。

 第三章は、ベネディクトゥスの『修道規則』や、それを遵守する修道院を通史的に見ていく、概説的な論考です。この中で、カロリング時代に、『聖ベネディクトゥス修道規則』を「唯一の修道規則」とするのに尽力したアニアヌのベネディクトゥスについても割合詳しくふれられていたのが、個人的には特に勉強になりました。

 第五章は、本書の中で唯一、図像史料の分析を行っています。読むには興味深いですが、図像の解釈の手続きは難しそうだなぁと、あらためて感じました。

 第六章は、修道士たちの教化のために記されたクリュニー修道院第八代院長ペトルス・ウェネラビリスによる『奇跡について』の分析を通じて、クリュニーの修道士による祈祷が、死者の救済に重要な役割を果たすというプロパガンダがあったことを明らかにしています。
 亡霊譚や「煉獄」の誕生との関連など、若い頃によく読んだテーマで、やはり面白いです。
 ただ、限られた紙面という制約もありますが、社会的背景についての議論が駆け足なのが少し残念です。

 第七章は、ベネディクト会修道士の改革派であるサン=ティエリのギョームが、伝統的ベネディクト会(クリュニー修道院など)への反発から生まれたシトー会の中でも非常に重要なクレルヴォーのベルナルドゥスと親交を持っていたこと、そしてベネディクト会の改革のために、ベルナルドゥスにベネディクト会批判を書かせたと考えられることを指摘しており、興味深いです。

 第九章は、第六章とならび、私の関心の強いテーマです。
 どんな種類の写本が作成されたのか。どのくらいの数量が作成されたのか。などなど、興味深い問いかけを冒頭におき、それらについて論じていきます。個別具体的な分析というよりは、やや概説的な印象の論文ですが、その分、写本制作の概要をつかむのには便利な一編だと思います。

 哲学史を扱う第八章は私には難しくきちんと読めませんでしたが、全体的に興味深い論文ばかりで、勉強になりました。





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Last updated  2012.05.03 09:42:10
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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