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2014.06.21
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~岩波新書、1967年~


 増田四郎先生(1908-1997年。没年はウィキペディアにより確認)が、わかりやすく「ヨーロッパ」の特徴を論じた一冊です。
 先生は、一橋大学の名誉教授。一橋大学といえば、阿部謹也先生も同大学名誉教授ですね。増田先生の著作を読むのは今回がはじめてですが、人々の実生活に気を配っているあたり、お二人の研究姿勢が似ていらっしゃったんだなぁと感じました。
 さて、本書の構成は次のとおりです。

ーーー
はしがき
I ヨーロッパを知ることの意義
II 現代の歴史意識と「ヨーロッパ」の問題
III 地理的にみたヨーロッパの構造
IV 古代世界の没落について

VI 転換期の人間像
VII ヨーロッパの形成
VIII ヨーロッパ社会の特色
年表
ーーー

 本書の要点を一言でいえば、近代日本が参考にしたヨーロッパの本質は、中世初期、フランク王国に形成されたということです。著者はそれを、現代(執筆当時)の歴史観のあり方を論じたのち、ヨーロッパの地理的な性格をみたうえで、古代末期から中世初期の特徴的な諸相を描くというかたちで論じていきます。

 第1章では、近代日本がヨーロッパの思想や制度を取り入れたものの、ヨーロッパにある国際的関連のようなものは日本には存在しておらず、そうした基本的な違いの理解の不足が、日本の一般生活面にはそうした思想が地につかなかった一因ではないか、という私的が興味深いです。さらに、「都市の設計というものがなっていないとか……貧民救済、学校・病院など社会施設に対する配慮が足りないとかいうのも、すべてこの基本的な意識の欠如によるものであり、一般民衆もまた社会生活の面での訓練はゼロに近くて、おそろしく後進国的な性格を帯びている。早い話が、すべての日本人は自分の家の床の間を飾ることはできても、自分の家の前のドブをちゃんと掃除し、町全体を清潔に保持するという考え方はない。これでは経済的に先進国であっても、社会生活の面ではお義理にも先進国だとはいえない」という指摘が、私自身の反省も含めて、興味深かったです。50年近く前に書かれたこの言葉が、いまだに日本に通用しそうなのが末恐ろしいですね……。

 第2章は、いわゆる西ヨーロッパで生まれたヨーロッパ中心史観が、二つの世界大戦後に見直しを迫られた背景が描かれます。ここで興味深いのは、歴史観(歴史記述)のあり方が、西欧、共産圏、アメリカでは異なっている、という指摘です。

 第3章は、本書のなかで最も興味深かった章の一つです。山脈や河川の状況などをふまえて、著者はヨーロッパを(1)地中海世界、(2)西ヨーロッパ、(3)東ヨーロッパの三つに区分します。いうまでもなく、ギリシア・ローマ時代に栄えていたのは(1)ですが、やがて(2)がこんにちのヨーロッパの中心としての役割を担っていく……。その過程が、第4章以下で論じられます。

 詳しい議論は省略しますが、ヨーロッパとは、「ギリシア・ローマの古典文化の伝統と、キリスト教徒、ゲルマン民族の精神と、この三つが歴史の流れのどこを切ってみてもからみあっているもの」(9頁)だとすれば、それは初期中世にはじめて誕生した、と著者はいいます。たとえば、農村の構造が例に出されるのですが、5,6世紀~800年頃のあいだに、セーヌ川流域からライン川にかけてのギリシア・ローマとゲルマンの混合文化の地域で、ほかの地域に先駆けて三圃制が形成されていたことが示されます。また、ギリシア・ローマの古典文化とは決定的に異なる意識が形成されたのが、初期中世の修道院であったということも、とりわけ強調されます。

 フランスやドイツという国レベルで考えるのではなく、ヨーロッパというより広い地域の性格の起源を考察する点や、一方では方言もふまえながらふつうの生活にも目を配るなど、広い視野からの記述で、とても勉強になる一冊でした。





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Last updated  2014.06.21 13:36:33
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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