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2014.07.26
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~中公新書、2001年~

 池上俊一先生が、イタリアの都市シエナについて語る一冊です。
 先生は、初期の頃はどちらかといえばフランスを中心にされていたイメージですが(ジャック・ル・ゴフのもとで研究されてもいますし)、その後、地域としてはイタリア史を中心にされていますね。
 さて、本書の構成は次のとおりです。

ーーー
プロローグ
第1章 自然の力と人間の匠
第2章 都市の宇宙空間
第3章 コントラーダ―シエナ社会の細胞
第4章 芸術のリリシズムと誇大妄想

第6章 悦楽のトポス
エピローグ

あとがき
シエナ史年表
シエナ観光情報
ーーー

 ひとつの都市を、多面的に捉えた本書は、方法論としても学ぶところが大きかったです。都市のまわりを取り巻く環境を概観した後、都市全体の概要を述べ、都市民が実際に生活する際の単位であるコントラーダ(街区)と人々の生活を見ていく。さらに、芸術、宗教、食事や化粧といった、生活面に入っていく―という構成は、とてもわかりやすいと思いました。

 興味深かったトピックスをメモしておきます。

 それは、マレンマ(湿地帯)平野がたどった歴史です。古くは、荒涼たる岸壁、広大で荒れ果てた沼地などからなる「呪いの地」でした。ここは、14世紀頃から、牧草地として整備され、さらに干拓・開墾が進み、肥沃な畑となり、農耕も盛んになりました。しかし、17世紀、メディチ家によるシエナ市民たちを無視した禁輸措置と統制経済により、借地人がやる気をなくし、再びこの地は荒れていきます。そこで、シエナの大助祭サッルスティオ・バンディーニ(1677-1760)という人が立ち上がります。彼は、経営状態を綿密に調べ、農家の生産性を高めるためには自由経済が必要だと説いたというのです(この人物は、自由貿易主義の先駆けとも言われます)。さらにバンディーニの影響を受けた人物によって穀物輸出の自由化が促進され、マレンマは再び豊かな農業地帯へ変身した、とのことでした。人間の営みや思想が、いかに自然に影響を与えるか、また理念のある思想がいかに重要か、ということがうかがえるエピソードでした(わが国の刹那的なごたごた政治にはもううんざりです)。

 シエナは説教師として有名なベルナルディーノ・ダ・シエナを輩出した町ですし、上記のマレンマのエピソードをはじめ、興味深い逸話も多く(地下水道の整備や、聖母マリアの絵に惚れ込んでしまう人々の話などなど)、楽しく読めました。

※2014年2月、池上先生は『公共善の彼方に―後期中世シエナの社会―』という専門書も刊行されました。先生によるシエナ論の集大成のようで、またいつか読んでみたいです。





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Last updated  2014.07.26 13:03:28
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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