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2016.08.31
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~岩波ジュニア新書、2015年~


 西洋中世史研究者の池上俊一先生による、岩波ジュニア新書シリーズ(?)第3作です。パスタのイタリア、お菓子のフランスときて、今回は自然からたどるドイツ史です。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
はじめに

第1章 ゲルマンの森とその支配
第2章 山と川に拠る生活
第3章 宗教改革と自然の魔力
第4章 ハプスブルク帝国からドイツ帝国へ
第5章 産業発展と山の賜物

第7章 経済大国からエコ大国へ

あとがき(参考文献)
ドイツ史年表
―――

 シリーズ(?)前作の 『お菓子でたどるフランス史』 でも感じましたが、本書も、ドイツ史の概要にふれた後に、その時代の自然(特に、森、山、川)に関する話題を紹介する、といったかたちで、ドイツの自然の歴史が前面に押し出されているという感じではありません。もっとも、紹介される自然に関するエピソードは、その時代時代にふさわしい話題となっているので、とってつけた感じではなく、興味深く読み進めることができました。

 たとえば、古代から中世への転換期には、ライン川などの大河をつかった商人の取引が活発化したことの重要性が指摘されます。この時代の森については、君主による狩猟権など、皆の共有の場所とされてきた森が「私有化」されていくことも指摘されます。

 また、自然に関するドイツ的な思潮としていろんな人物やその思想が紹介されますが、その文脈でフロイトやユングもふれられているのが興味深いです。

 現代の、ドイツのエコ思想、「有機」を求める風潮にも当然ふれられています。数年前、勉強で数日ドイツに行きましたが、わが国での原発事故を受けてドイツはすぐに脱原発を決定したということや、ドイツ人にはケチなところもあるが、「有機」や安全のためにはお金を惜しまないというニュアンスのドイツ人の言葉が、とても印象に残っています。ちなみに、本書でもふれられている市民農園(クラインガルテン)については、少し将来の見通しは暗いという話もうかがいました。

 本書の終盤で語られる、ドイツ民族意識についての話も興味深く読みました。2005年に移民法を施行するまで、ドイツは自国を「移民受入国」とは認めてこなかったそうですが、一方、2015年にはシリア難民への積極的な受け入れ姿勢を見せました。小見出しの「過去の克服はできたのか」という問いかけに、肯定的な答えができるのではないか。そう感じます。

 と、印象に残った点を中心にメモしてみましたが、ここには書ききれない興味深いエピソードがもりだくさんの一冊です。





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Last updated  2016.08.31 21:55:29
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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