京極夏彦『後巷説百物語』
~角川書店、 2003
年~
「巷説百物語」シリーズ第3弾。
40
年ほど後、すでに明治に入って数年が経った頃。
百介さんは、九十九庵なる閑居を薬研堀に構え、一白翁と号し、遠縁に当たるという、小夜さんという娘と暮らしていました。
6話の中短編が収録されています。
それぞれ、警視庁の一等巡査で不思議な話などに詳しい矢作剣之進さん、元北林藩の藩士で貿易会社につとめている笹村与次郎さん、洋行帰りで海外の状況に詳しい倉田正馬さん、剣術の道場を開いている豪傑・渋谷惣兵衛さんの4人が、剣之進さんがもたらす、事件にまつわる不思議な話についてあれこれ議論を交わした末、一白翁に相談に行く。そして、過去に一白翁さんが経験した不思議な話を聞き、現在の事件の解決にもつなげていく―といった構成の物語です。
それでは、簡単に内容紹介と感想を。
―――
「赤えいの魚」
島が消えたという伝説について見解を求められた百介は、かつて、自身が体験した奇妙な島の事件を語る。本土の人がほぼ近づけない島で、奇妙な風習で暮らす人々。主の言葉が絶対で、島民はそれに疑問を抱かず、どんな残虐な仕打ちも受け入れていた。しかし、ある日、主に異変が起こり……。
「天火」
放火事件が相次ぐ中、犯人と目される人物の家に火が飛んで入り、全焼した。飛ぶ火にまつわる話を、百介は4人に聞かせる。ある集落で怪火にまつわる噂が飛び交っていたが、霊験あらたかな六部―又市―により、怪火は消えたという。しかし集落に新たな年貢を課そうとする動きがある中、代官の家を火が襲い……。
「手負蛇」
70
年も生きている蛇はいるものか―。剣之進が新たに手掛ける事件では、まるでそんな蛇に被害者が襲われたかのような状況があった。現地で、過去に起こった蛇をめぐる事件に、百介は関わっていた。素性の知れぬ男がその家を訪れて、娘と結婚してから、家は裕福になっていった。男は一生懸命働いていたが、そんな状況をねたむ村人もいた。そんな中、当家にまつわる、蛇の祟りかのような奇妙な事件が起きて…。
「山男」
行方不明になった女が、数年後に発見されたとき、やせ細った彼女は赤子を抱き、山男の子供を産んだという。同様の事件を、過去に百介も経験していて…。
「五位の光」
有名な儒学者、由良公篤の父、公房から、鷺は光るのかと尋ねられた剣之進。聞けば、公房の子供の頃の記憶で、自分は青白く光る女から父に手渡された、女は鷺だったという。また、長じて、偶然その場を訪れた公房は、鷺と名乗る女と出会っていて…。
「風の神」
小夜の生い立ちに関わる物語。百物語をすることになった剣之進たちは、百介の依頼で、ある人物を呼ぶことになり…。
―――
基本的には、剣之進さんが扱う現在の事件と、百介さんが関わった過去の事件が語られ、それぞれの謎が解かれるという、一話で二度おいしい物語となっています。
冒頭の「赤えいの魚」は、なかばホラーのような味わいもある、怖い物語でした。
一白翁の言葉で、事件解決の糸口をつかむ剣之進さんたちですが、「山男」あたりからは、さらにそれを受けて自ら仕掛けをし、まるで又市さんのように平和な解決を模索していくあたり、「赤えいの魚」で初登場の4人の成長も味わえます。
また、「五位の光」は、百鬼夜行シリーズの長編 『陰摩羅鬼の瑕』
の前日譚でもあり、興味深いです。
そして最後の「風の神」。これまでの物語が思い出され、感慨深くなりました。
(2025.03.08 再読 )
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