M17星雲の光と影

M17星雲の光と影

PR

×

Keyword Search

▼キーワード検索

Freepage List

2008.02.04
XML
カテゴリ: その他
某年某日某所においてロボットコンテストが催されることになった。

課題は直径30センチの金属製の球体と三本の足から成るロボットを作り、水槽の上に渡された長さ10メートル、幅3メートルの板の上を向こう岸まで渡らせるというものである。

このコンテストの審査基準は一風変わっている。最短時間で向こう岸にたどりついたものを勝者とするタイムトライアル形式ではなく、ロボットの移動する様子をビデオカメラに収め、その動きを審査員が点数制で採点するというのである。さらに、「このコンテストの意味するところを、漢字一文字、ないしは漢字を含む三文字の動詞で表現せよ」という奇妙な問題がついている。参加者はその指示書を見ながら、首をひねる。「いったいなんなんだ、このコンテストは?」

しかし、とにもかくにもロボットを作らなければ話にならない。クイズの答を考えるのはその後だ。

なるべく軽量の金属を用いて30センチの球体を作る。加工しやすいアルミにしようということになり、中空構造の球体を作る。比較的簡単にこの作業は終わる。

次は足である。これがなかなかむずかしい。そもそも三本の足でどうやって球体を支えるか。固定するだけならば三脚の形にすればいいのだが、これでは歩けない。まず歩行スタイルを決めなければならない。

転倒しないこと、スムーズに歩行すること。この二つの条件を同時に満たすためにはどうすればいいか。

さんざん考えた末、チームのリーダーが次のようなアイデアを出した。

球の真下に一本の足をつけ、その足に平べったい靴を履かせる。これで安定性を確保する。



リーダーは、真下に伸びる一本目の足を「からだ」と名づけた。二本目の足には「こころ」、三本目の足には「あたま」と命名した。

「なんだよ、そのへんてこりんな名前は」。不満そうなメンバーの声を聞きながら、リーダーは「まあ、まあ」となだめる。

「球体を根本的に支えるのは、Aだ。これがなければ、ロボットは立つことさえできない。だから、これは『からだ』なんだ。

でも、からだだけではロボットはただ突っ立ってるだけのでくの坊にすぎない。これを前方に移動させるためには、からだを動かすための二本の足が必要になる。その一つは「こころ」だ。からだがこころを動かし、こころがからだを動かす。このふたつのものを緊密に連動させて、はじめて歩行か可能になる。だが、二本足だけでは安定感に欠ける。ちょっとした振動でも倒れる危険があるし、『あっちに行きたいから、そっちにからだを動かす』というだけでは、目の前の危険を察知できない。ここではどうしても前方を観察し、情報を把握し、適切に判断する『あたま』が必要になる。この三本目の足が「あたま」なんだよ。」

みんなはわかったようなわからないような顔をしていたが、とにかく一本足と二本足を交互に前に出して歩く歩行スタイルは悪くないと思ったので、足の取り付け作業に入った。小さなモーターをアルミ製の球体の中にセットし、三本の足をスムーズに駆動できるように調整を行う。

ここで難しいのはBとC、つまり「こころ」と「あたま」のバランスである。どちらかの脚力が強すぎると直線的な歩行が困難になる。こころが先行すると、徐々に右に曲がって水槽に落下してしまうし、あたまが先行すると、逆に左に曲がって落下する。このバランスのとり方がきわめて微妙かつ困難なのである。

何回か実験してみると、左に曲がって落下するケースの方が圧倒的に多かった。極端な場合には、左に曲がりすぎてUターンして逆方向に歩きだすことすらあった。あたまがこころばかりか、からだまでも支配下に置こうとすると、ロボットは逆走を始めてしまうのである。

姿勢を保持するためにも、スムーズな歩行を行うためにも、三本の足の中では「からだ」を最優先すべきだということになった。さらに、こころとあたまのバランスもとらなければならない。試行錯誤の末に、「からだ:こころ:あたま」の力のバランスを「2:1:1」に設定することにした。

しかし、何度やっても「あたま」の力が徐々に強まり、どうしてもロボットは左に曲がってしまう。どうも「あたま」は自分の内部で力を増幅させて勝手に強くなってしまうようなのである。

リーダーはこの問題を解決するために頭を悩ませた。そして、「あたま」が力を増幅させ、一定レベルを超えたら、その力を自動的に「こころ」に振り向ける回路を作ることにした。具体的には「あたま」の余剰エネルギーを使って「こころ」の分析、探索をさせるようにしたのである。そうすることによって「あたま」の余分なエネルギーは「こころ」に吸収され、その分、「こころ」のエネルギーが増大する。この回路が完成すると、ロボットのバランスはよくなり、ようやく直線歩行が可能になった。

しかし、こうするとどうしてもスピードは出なくなる。「あたま」と「こころ」がエネルギー交換を行うときに、動きがぎこちなくなり、時に転倒することもあった。



しかし、問題は「からだ」と「あたま」だ。「あたま」はしばしば「からだ」を無視して勝手に行動しようとする。「からだ」を置き去りにしたまま、こころを連れて暴走するために転倒してしまうようなのだ。

それならば、あたまの過剰エネルギーをからだに恒常的に流すようにしたらどうだろうか。第一段階としてあたまの余剰エネルギーをからだに流す。その後に、あたまとこころの間でフィードバックを行う。試行錯誤の結果、やっとうまく直線歩行できるようになった。エネルギーの相互交換で時間がかかり、依然としてスピードに欠けるのろのろ運転ではあったけれど。

ロボットは完成した。右に振れ、左に振れ、よちよち歩きながらも、なんとか前方へ歩けるようになった。ただ、あたまのエネルギーを他の二本足に振り向けるため、どうしてもスピードは遅くなる。考えるために時には立ち止まりさえする。でも、こうしない限り、向こう岸までたどりつくことはできないのだ。

このコンテストがタイムトライアル制ではないことの意味が、メンバーにもしだいにわかりはじめてきた。

右に曲がり、左に曲がりしながら、そして時には立ち止まってじっと考えこみながら、ロボットはようやく向こう岸へ渡った。



「ここに問題の答を書いてください」

他のメンバーが手許を覗き込むなか、リーダーはペンをとって書き出した。

「生」

漢字一文字でそう書いた。そして、その横に

「生きる」と書いた。

その紙をしばらく眺めた後、彼はその紙をくしゃくしゃと丸め、紙をもう一枚くださいといった。

そして、何も書かない白紙のまま、その紙を提出した。

この問題には、「答え」はないと信じたのである。

はたしてどちらが正解だったのか。あるいはどちらも不正解だったのか。

私はその答を知らない。みなさん、自由に考えてみてください。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2008.02.04 20:30:50
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Calendar

Archives

・2026.10
・2026.09
・2026.08
・2026.07
・2026.06

Comments

和久希世@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) >「彼はこう言いました。「それもそうだ…
kuro@ Re:「チャンドラーのある」人生(08/18) 新しいお話をお待ちしております。
あああ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 非常に面白かったです。 背筋がぞわぞわし…
クロキ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 良いお話しをありがとうございます。 泣き…
М17星雲の光と影@ Re[1]:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) まずしい感想をありがとうございました。 …
映画見直してみると@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 伊集院がトイレでは拳銃を腰にさして準備…
いい話ですね@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 最近たまたま伊丹作品の「マルタイの女」…
山下陽光@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) ブログを読んで、 ワクワクがたまらなくな…
ににに@ Re:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) 文句を言うだけの人っているもんですね ま…
tanabotaturisan@ Re:WILL YOU STILL LOVE ME TOMORROW(07/01) キャロルキングの訳詩ありがとうございま…

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: