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「や、あ、あの。夏都兄っ……」「夏都って呼んで。ここもしてあげるから」 そんな甘い声で僕の自身を握らないで!「あっ! や、やだっ! ああん!」 首を振って嫌がっても指が刺激を与えてくる。呼吸が苦しい、もう・もたない。「いやっ、あっあっ、あ……アアッ!」 乱暴な扱きに興奮して放出してしまった。膝の力が抜けてふらついた僕を、夏都兄が慌てて支えてくれた。「大丈夫? 立っていられる?」「う、うん。今日はちゃんとしたいから」「その健気な気持で、跳ねそう」 夏都兄がキリキリとジッパーを下ろした。 狭い場所からようやく解放された夏都兄の自身は、屹立した逞しい姿を僕に見せ付けた。「な・夏都。それは……」初めて見た夏都兄の大きな自身に顔が紅潮して、怖気づいてしまう。「千里、もっと足を広げて」引き気味な僕の腰を強引に掴んで、頭をもたげた自身を僕の奥に突き立てた。「痛い! 無理っ!」「逃がさない」 そんな、強引に来ないで!「ああっ! ……嫌だ!」 ねじ込んでも困る。呑み込めないよ、太いもん。入口で暴れないで、腰がひくひくする「いや……もう無理……」「もっと力を抜いて、動いてごらん」 腰を動かすとようやく入って来た。でも足が震える、このまま夏都兄が僕の体を突き抜けそうで怖い。どうしたらいい。腰がひくつくし、頬を静かに汗が流れる。「くっ、うん。ん……」 ああ、腰を前後に振ると楽になる。これで誘えるんだ。あ、あとどのくらい?「ううんっ……」「あ、そんなによがって」 夏都兄が僕の腿を持上げて激しく突始めた、このまま貫かれてしまいそう!「いっ、嫌だ! 待って、アッ、いやあ!」「千里、もっと。もっと声を聞かせて」 突上げてくる力は加減を知らない。(強引過ぎるよ) 中で擦れる感覚に思考が飛びそう。 目の前がチカチカ光るよ……? アア!「あっ! 千里、千里!」 ……大声で呼ばれて、はっとした。でも胸が苦しくて、肩を上下させながら大きく息を吐くと、夏都兄が背中をさすってくれた。「千里、急がせてごめん」「な、夏都兄。夏都……」「震えないで。ね、ゆっくりするから」言葉通りに僕の中をゆっくりと夏都兄がかき回す。あ、さっきよりきつくない。「夏都、ん……あ、ん……ううん」「いいよ、千里。気持いい……」半円を描く腰の動きは僕の中を突いて、いい場所を探り当ててくれた。「アッ! んっ、んー! そこ……」「千里、いい声。感じちゃう」「夏都っ。そこ、そこが……!」 体が疼くんだ、どうにかして! 「あっ、ああん!」「ん、もっと良くしてあげるよ」 夏都兄がこの角度を集中的に突いてきた。「アアッ!」突き上げられて気持がいいし、肌の触れ合う音が聞えて興奮する。「ア・ああっ、んっ、んっ!」 のけぞる体を更に追い込んでくる腰に壊されそう。「千里、千里っ。もう、持たないっ」夏都兄の荒い呼吸が僕の肌を濡らし、反らした胸に力んだ後の吐息がかかる。同時に僕の中に何かが注がれたのを感じた。溢れた雫が腿を伝う。あ、これって……。「……千里、凄く良かった」 夏都兄の首筋に汗が光っている。「僕も。……ねえ夏都兄」 かすれる声で恥かしいけど、聞いて欲しくて夏都兄の手をぎゅっと握った。「好きだよ」「ありがとう」 いつもの穏やかな笑顔。その瞳に奪われたままの心ごと、抱きしめて貰った。クラブを出ると、夜風が涼しい。ようやく秋の気配かな。頬に触れた髪を除けると、夏都兄がキャリーケースを引きながら微笑んだ。「今夜は、一緒にいよう」「一緒? えっ!」 クラブの前で慌てる僕を促して歩き出した。「話とかしたいし。ね?」驚いて口が半開きの僕を見て、夏都兄が笑いを堪えている。「母さんに聞いたけど、昨日は焼肉じゃなくて炭を作ったんだって? 俺がいないと千里が寂しがるから側にいてと言われたよ」 母さん、余計なことを!「父さんが怪しがらないかな」「兄弟だから平気でしょう」(そうかな) 夏都兄を見上げると、すぐ僕に気づいて微笑みながら少しかがんでくれた。「他に、何か心配?」「一緒に寝てくれるか、聞いておかないと」「……それは考えておこうかな?」震える指先を夏都兄が握ってくれた。もう、手を離さないで。お願いだよ。「千里、ゆっくり歩こうか?」その気配りが嬉しくて頷いた。終わり ありがとうございました!
2008/10/11
「これで、KINGは終了」夏都兄は堂々と僕を連れてエントランスに出ると、インカムを外してクラブのスタッフに渡した。これで、ようやくKINGの役目から解放されたのか。数日のことだったけど、とても大事な気持に気づけた。僕は夏都兄が好き。離れられない気持を知ったんだ。 「やっと、2人きりになれるかな」 夏都兄が前傾姿勢で目線を合わせてくれた。「よく似合うよ。普段もそうしたら?」 カールした髪を指に巻いて、その髪にキスしてくれた。嬉しいけど毎日はできない。「なあに、黙っちゃって」「……面倒くさい」「そう言うと思ったよ」 夏都兄の口角が上がった。「減らず口を、どうしてやろうかな」夏都兄が両手で僕の頬を包み込んで、唇を重ねてくれた。僕は大事にされているのかな、錯覚じゃないよね? 気持が高まるよ!「千里。離れると想いが募るね。恋しくてたまらなかった」「夏都兄、僕もそうだよ。寂しかったよ!」「寂しい思いをさせてごめん。これからは、ずっと独り占めしていいよ」 僕のおへその辺りを触っている。これは。「……僕が独り占めされるんじゃないの?」「そうだね。何だか、暴走しそう……」 夏都兄に耳たぶを甘噛みされた。「や!」「ごめん、もたない。今すぐ抱きたい」 その声で心臓が跳ねた。体を硬くしたら、夏都兄が僕の手を握った。「怖がらないで」夏都兄が僕を何処かに連れて行く。慌しく響く靴音がお互いの限界を知らせているみたいだよ! 静かなロッカールームに駆け込むと、本当に2人きりだと意識した。ドキドキしながら冷たいロッカーに凭れると、夏都兄が横倒しにしたキャリーケースの上に僕を立たせた。あ、身長差が無い。目線が合う。「千里、もう我慢できない」 腰を寄せて頬を撫でてくれる。その夏都兄のきつそうな股間にどきんとして、ついつい視線がそこに行ってしまう。「か、替えのパンツが無いんだけど」なすがままにシャツを脱がされ、突起を弄られている。「足元のキャリーに着替えがあるから」「んっ。……準備していたのかよ」「濡らしたいから、千里を」指先で突起を転がすなんて、ちぎれてしまいそう! 息が苦しいよ。「あ、ん!」鎖骨に夏都兄の髪が触れてくすぐったいし、突起を舐める舌の熱さに溶けそうだ。「あ、汗をかいちゃう……ああん!」 突起を吸われて、声を上げてしまった。「いい声。何なら、着替えも手伝うよ?」 パンツの中に、するりと手が入ってきた。「びっくりした……。下着を履いていないかと思った!」 ローライズの下着では隠せなかった腰を撫でられた。この為に買ったつもりは無いけど。「お尻が出ているよ。誘われているみたい」「そんなつもりじゃ……。あ、イヤ」 お尻をゆっくりと撫でて、割れ目を指でなぞっている。じわじわと体が火照ってきた。「熱いよ、夏都兄」「腰をくねらせて、可愛い。感じやすいね、もうこんなになって」濡れた下着を脱がされた。そして指がためらいなく奥へ進んでいく。早くも息が絶え絶えになった僕は夏都兄にしがみついた。でも濡れた自身が夏都兄のデニムを汚しそう。あ、擦れて……気持がいい、感じちゃう!それに奥で動く指も僕を駆り立てる。性急に中を広げようとしているのか、激しく動かしている。(無茶しないで、急がせないで)●拍手をありがとうございます●励みになります、嬉しいです。
2008/10/11
力を落としていたら、誰かに肩を叩かれた。振り返ると、帽子を目深にかぶり、胸に十字架の刺繍を施した黒い服を着た神父さんが立っている。……今度は、誰?「汝、迷える子羊よ。深き寂しさに震える心を私が救って見せよう」 胡散臭いなあ。でも、でもその声は!「汝の望みを素直に打ち明けなさい。そうすれば、必ずや望むものは与えられる」 間違いない! 帽子に隠れた顔が見たくて手を伸ばすと、細い指がきゅっと絡め取る。「今こそ救おう。汝の望みは私にあり」 顔が見えなくても指を絡ませるだけで体が火照る。名前を呼ぼうとして、息が乱れた。「……どんな望みか、わかるのかよ?」「わかるさ。恋情は、相手に必ず伝わるものだから」何だか周りがざわついている。ダンスフロアーにKINGが現れないので落胆しているのか。皆が求めている人は、今僕の目の前にいる。こんなに有名人になっちゃったけど、僕の大事な人なんだ。「汝が恋焦がれる者の名を呼びなさい」「こんな所で言えるか」 もう、からかっているのか?「木下千里!」 名前を呼ばれて気がついた。僕は夏都兄にフルネームで呼ばれたことは無かった。家族だから呼ばないのが当たり前だけど、ドキドキする! まるでその声に体を縛られたみたい。これが、感激しちゃうと言う気持なのか。胸を押さえて動揺を隠そうとする僕の耳元に、ふうっと息がかかった。「聞かせてよ」 囁いた唇を目で追う事しかできない! 手を握られただけで体が痺れる、奥の方まで感じてしまう。衝動が突上げそう!「好きな人の名前は?」「目の前にいる、木下夏都だよ!」「ふふ。言わせちゃった」口角が上がったのが見えた。また得意そうな顔をしているんだろう、その顔を見せてよ。「じゃあ、行こうか!」 帽子を取った姿に、近くにいた人が気づいて叫び声を上げた。「木下夏都! KINGだ!」「夏都!」その歓喜の声に応えるように、神父さんの服を脱いで放り投げた。現れたのは、バタフライプリントのタンクトップにダメージデニム、お兄系の私服姿だ。ワイルド、そしてゴージャスでセクシー。腰の銀の鎖が輝いている。「おお! 夏都先輩!」野太い声と拍手が沸き起こる。まさにKINGだ、何をしても称賛されるのか!どよめく歓声に飲み込まれそう、動揺していたら、ひょいと抱き上げられた。「誰にも触らせないから」僕を抱いたまま、人の波をかきわけて柵まで来ると、片足で柵を蹴った。「逃げるよ、千里」夏都兄の微笑に聞く間も無く、周りの景色がぐるりと回転した。目が回ったのか? 違う! 夏都兄が僕を抱っこしながら、背中から飛び下りていた!「2Fなのに! 危ない!」誰かの悲鳴が遠くなる。僕だって怖い、白い煙の中に急降下する体をどうすることもできなくて、心臓が喉から飛び出しそうだよ!でも、急に体を押し返すような反動が来た。「何だ?」 僕の体の下で、大きなマットに倒れこんだ夏都兄が笑っている。体育の授業の走り高跳びで使う大きなマットだ、こんな物を用意していたなら、先に言ってくれないと!「笑いごとじゃないだろう!」 その体に馬乗りしながら怒っているのに。「でも、無事に逃げられたよ」 悪戯が成功して嬉しそう。その笑顔も大好きだけど、こんな悪戯は心臓に悪い。不覚にも泣きそうになった僕の頭を撫でながら、夏都兄がインカムを使う。「始めちゃってください」 すると、突然フロアーの照明が消えて耳をつんざく大音量の音楽が流れ始めた。そんな中をアフロ頭の男達が現れてマットを運び去ると、再び照明が一斉に点灯した。「本日はー<ジャイル>にご来店いただき、ありがとうございます。それでは体を揺らしていきましょう。いいかな、男子達? ダンスチューン」 王様の仮装をした男前なDJが、3人がかりで場を盛り上げに現れた。そして先程のアフロ頭の男達が茶目っ気たっぷりに拳を上げると、歓呼の声がフロアーに轟いた。17話に続きます。●まだ言うか●指穴カットソーを集めています。可愛いし楽チンなので。しかし何処も品薄だな―再販して欲しいな。 ボーダーもありかも。
2008/10/11
胸の高まりを抑えながら携帯を切ると、支度に取り掛かる。母さんにカールドライヤーを借りて、中途半端な長さの髪を巻いてスプレーでセットを終えたら、面白がって見ていたはずの父さんが目を細めてデジカメを持ち出した。「髪型1つで垢抜けるな。デスクの写真をこれに替えよう。ファンが増えるぞ、千里!」「千里ったら可愛い。今から誰に会うの?」 父さん、母さん、ごめんね?「王様に会うんだ」 目指すクラブは学校から二キロ離れた繁華街にある。歩いて行こうとしたら歩道は人の波。しかも仮装らしく、ウサギやパンダの着ぐるみが照りつける日差しの中を黙々と同じ方向へ歩いて行く異様な光景だ。ウサギを見送り、タクシーで行く方が早いと思って乗ったのに渋滞に巻き込まれた。「すみませんねえ」「いいえ」やっと動いたと思ったら赤信号。ちっとも進まないタクシーの中で気持が高揚していく。 夏都兄に早く会いたい、この気持はもう止められないよ。 ようやく着いたクラブ<ジャイル>は地下にダンスフロアー、地上1.2FにVIPスペースを構えた大掛かりな大人の遊び場だ。 ゴールドに光るパネルラインのテーブルと革張りのソファーが並べてあり、まさに大人のムード。しかもエントランスが吹き抜けになっていて、落下防止柵越しに1.2Fからダンスフロアーを見下ろす事ができる。モデルは二千年に最盛期を迎えたディスコらしいが、これは楽しそうだ。薄暗い店内を見ていたら、仮装というのかコスプレな人達が通り過ぎて行く。首にスカーフを巻いたフライトアテンダントなお姉さん達や、ネクタイに白衣のお兄さん。あれは医者のつもりか? 皆、声をかけあって楽しそうだな。見ている僕もつられて笑顔になりそう。でも、背後に熱気を感じる。……嫌な予感! 「ちーさーと。みーつけたー」 担任の声に振り返ると、ライオンがいた。「……実行委員が何をしているんですか!」「皆で仮装だよ。千里も髪を巻いちゃって、可愛いなあ。先生、興奮しちゃうなー」「先生に見せる為に巻いたんじゃないです」「その冷たい言い方にぞくぞくするよ。先生は胸を張って言うがマゾなんだよねー。千里と相性がいいと思わないか? 今日こそ、その髪に触らせろー」「嫌だ、近寄るな!」 ライオンのお腹を蹴って脱出。これは早く夏都兄を見つけなくちゃと焦ったら、今度はドスドスと足音を響かせて白熊が歩いて来る。「どいて、白熊!」「どけないよ、やんちゃな子は確保だ」 その声、関取か。もさもさした着ぐるみに気をとられ、軽々と担ぎ上げられてしまった。「関取! 御輿じゃないんだから担ぐな!」 丸い耳のついた白い頭を叩いたけど、びくともしない。それに、この毛皮のような着ぐるみに触れるだけで気力が萎える。「あれ? その声、夏都の弟くんか! どうりで暴れると思った!」僕が騒いでいても誰も咎めない。通り過ぎる人達は何かを待ちわびているようだ。「KINGは何処にいるの?」「木下夏都は来ているんだろう?」そんな声が聞えてきて、はっとした。僕だけじゃない、皆が夏都兄を探しているんだ。誰よりも先に見つけたいよ! 焦る僕をよそに歓声が上がる。周りを見渡すと、皆がダンスフロアーを見下ろして騒いでいる。もしかして夏都兄が下にいるのか?「関取、早く降ろせ! 行かせてくれ!」「何を急いでいるんだ、弟くん」 やっと降りられたけど、柵には大勢の人が張り付いている。隙間から見えたのは立ち上るドライアイスの白い煙だけ。「下を見たいなら、階段に行けばいい」白熊に教えて貰って非常用の階段に走って行っても、こちらも満員御礼。手すりに身を乗り出して拳を振り上げる者やミニスカなのに飛び跳ねている子、皆が夏都兄の名を呼んでいる。何だよ、この熱狂振り。まるで人気バンドのライブみたい、こんなに人気者になっていたんだ。夏都兄が遠い存在になった気がする。折角会いに来たのに。こんなに会いたくてたまらないのに! 皆のものにならないで!16話に続きます
2008/10/10
「次男坊。いい加減、起きないか」 え。食欲をそそる匂いがすると思ったら、キッチンで焼肉が始まっていた。「父さん、母さん、お帰りなさい。あれ? 夏都兄は?」「目を覚ましたら、すぐに夏都か。おまえ達は一瞬でも離れる事ができないのか」 そうだよ、視界にいないと居ても立っても居られないんだ。「だから、夏都兄は?」「落ち着いて、千里。今日は遅くなるって電話があったのよ。テレビ局の人達が出演料代わりに夕食をご馳走してくれるんだって」「え! そんな!」「さあ、お父さんと焼肉を食べましょう」 家で食べる焼肉は好きだけどさ。夏都兄、僕にも連絡してよ。「辛気臭い顔をするな、千里。おまえがへこむだろうから、焼肉でもしてくれないかと、夏都が言ったそうだぞ」「そうなのか!」 僕のことを考えてくれたのが嬉しい。「夏都の面倒見が良いと言えばそれまでだが、おまえは、どれだけ夏都に、おんぶに抱っこなんだ」 どきんとして、箸を落としてしまった。「その動揺、さては自覚があるのか」「あ。あ、うん……」別の意味の、自覚もあるんだけど。「自覚があるなら結構。夏都もふらふらした面があるが、千里はやんちゃで見ていられない。大体何だ、昼間のテレビ番組での態度は。おまえはそんなに暴れたいのか」「見ていたのかよ! 仕事しろよ、父さん」「息子の晴舞台を見ずにいられるか、仕事が何だ。そこにまさか千里まで登場するとは。しかし、おまえの顔を見て社内の女性陣が、『可愛い・可愛い』と大喜びさ。お蔭で私も鼻が高いぞ」「誉めているのかけなしているのか、わかんないよ」それに誰も仕事をしていないのかよ、その会社。「明日は会社帰りに学校へ行ってやろう」「来なくていいよ。だって、ビールやおつまみは置いてないから」「あらあら、お父さん一本取られましたね。会社の人に連れて行ってと頼まれたんじゃないです?」「ま、そうなんだけどな」 ずばり言い当てられて恥かしそうに照れる父さんと微笑む母さん。 この2人が出会ってくれた事に感謝だよ、おかげで僕は夏都兄に出会えたんだから。――僕にとって夏都兄は、生きる為に必要なライフラインだ。水や電気と同等にあの瞳と笑顔・声、夏都兄の存在が僕に必要だ。側にいてくれたら安心できるから、いないと困るんだ。あの瞳を求めて、焦がれてしまうんだ。寂しいのは耐えられないよ。僕は夏都兄が好きだ。自分の気持に気づいたらとても切ないし、目が痛くて泣けてくる……。「……しっかりして、千里。煙いわ」「千里、考えごとなら後にしろ。さっきからおまえは肉を焦がして、炭ばかり作っているぞ。この煙をどうしてくれる!」 部屋で寝転がりながら時計を見ると二十二時を過ぎた。でもまだ夏都兄は帰って来ない。 ぼんやりしていると突然お尻のポケットに入れていた携帯が鳴り出した。期待して画面を見ると……慎吾からだった。「タイミングが悪いなあ」『何のことだよ。仮装は決まったか?』「あ、何も考えていなかった」 ツインテールだけはしたくないが。『俺と同じものを貸してやろうか』「同じものって何だよ?」『着ぐるみだよ! ウサギやパンダの格好をすれば女子に受けそうだろう?』 慎吾は正気か? 残暑が厳しいのに、何故あえてそんな格好をするんだ。受け狙いも大概にしろよ、受けた先に期待しても何も無い、暑苦しい我慢大会だ。「僕のことは構わずに頑張れ!」(ごめんな、慎吾。今夜の僕は余裕が無い)結局、夏都兄は帰らなかった。もやもやした気分で起き上がると、携帯が鳴った。また慎吾かと思って起き抜けの声で出たら。『おはよ、千里。まだ眠い?』 やっと待っていた声が聞えた。「眠くないよ。おはよう、夏都兄」(挨拶の前に言うことは無いのかよ)「夏都兄」『なあに?』「昨日、寂しかったよ」『ごめんね。クラブの打ち合わせもしていたんだよ。もう、打ち上げは今日だし』「そっか……」『あはは。本当に寂しかったんだね』「笑いごとじゃないよ、酷いな」 明るい笑い声が続いている。『本望だよ。俺は自分の独占欲を自覚したからね。……早くクラブにおいで』 甘い声に思わず目を伏せた。15話に続くのだ。
2008/10/10
やった! 気づいてくれた。早く僕の帽子を渡さなくちゃ。「すみません、この子を通してください!」 僕の腕を引っ張りながら夏都兄が叫んだ。「あ! 抜けがけした子がいる!」「誰、誰! 夏都くん、こっちも見てよ」(何が抜けがけだ。弟だってば)携帯を向けるな、勝手に写真を撮るな!「あっ! この子、可愛い!」誰かの弾んだ声がした。途端に喧騒が静まって、知らない人達の視線が一斉に僕に向けられた。その中にテレビカメラもある。何だ? 何が起きようとしているんだ?「木下くん、この子は誰ですか?」 僕はよりによって、レポーターの人に見つかったのか。マニキュアを塗った爪が僕の肩に近づいた時、それを払い除ける指が。「……俺の弟です。中継の趣旨には関係無いので、映さないでください」 夏都兄、様子がおかしい! 苛立っているみたい、もう熱中症になっているのか? 「まあ、木下くんの弟。どうりで可愛い!」 リポーターの声にあわせてカメラが僕を映し出す。それを夏都兄が片手で遮った。「だ・か・ら。さっき、言ったでしょう?」「え?」「弟を映さないで下さいよ」(声が低いよ……?) どうしたんだよ、と聞こうとして、夏都兄が言ったことを思い出した。僕に何かあったら『女性でもひっぱたくかもしれない』だ。これは危ない! 地方局とはいえ、女性に暴力を振るう姿が放映されたら大変だ!「夏都兄、帽子!」 強引に帽子をかぶせると、素早くこの場から逃げようとしたのに。興味津津な表情のお姉さん達に捕まってしまった。「弟なの? ちゃんと顔を見せて!」 げ、動けない。「実行委員! 早く来て」 夏都兄が叫んだ。すると力任せに野次馬を押しのけて、何かが突進してくる。「弟くんの身柄確保!」 関取だ。驚いていたら、先日と同じように軽々と抱え上げられてしまった。「今日は暴れるなよ、弟くん。俺も実行委員の1人でね、主に騒動の沈静化をする役を引き受けているんだ」 へえ、誰が決めたか知らないけど適材適所だな。感心した僕を抱えたまま、関取は不意に振り返って片手を上げた。「ありがとう。千里を頼む」 人の渦の中で手を振っているのは夏都兄か。チューリップハットで顔が隠れてしまっているけど、あれで日差しを除けられるな。 安堵したら、何だか蒸し暑い。あ、関取に抱えられているからだ! 「千里! 無事か、ケガは無いか!」 慎吾だ、来てくれたか。「吉報だ。おまえもテレビに映ったぞ! 地上デジタル放送デビューおめでとう。これで兄弟揃って有名人だ、羨ましいぜ。気分はどう?」 この能天気野郎。「……降ろしてください。ぶん殴りたい奴がいるので」学園祭は自由登校だし、初日から騒ぐのも疲れそうだから早々に引き上げた。帰る途中で行きつけのショップに寄って、服を物色していたら、ローライズ用の下着が並んでいた。 これは本当に丈が短い! これで、隠れるのか? はみ出ないだろうか?とりあえず試そうと1枚買って帰り、冷房をつけたリビングでゴロゴロしていたら眠くなってきた。いつもなら夏都兄が帰ってくる頃だから、話ができるしキスもしたい。だけど意識が遠のいていく……。14話に続くのだ。●今着る服に困るのだ●ずっとこんなことを言っている気がする。
2008/10/09
目が覚めたら朝。えっ? 僕はあの後、寝てしまったのか!慌てて制服を着てキッチンに行くと、夏都兄がベーグルを食べていた。「おはよ、千里」 いつもと変わらない、穏やかな微笑だ。「おはよう、夏都兄。あの、僕、あの後を覚えていなくて、もしかして寝ちゃった?」「うん。そうだね」これは謝るべきだよな……。僕だけが気持良くなって、奉仕してくれた夏都兄は置いてきぼりだったんだから。「夏都兄、ごめん」「謝る必要は無いよ。俺がいけない」 夏都兄が僕の腰に手を回した。「ごめんね、俺が性急すぎたんだ。失神させちゃって焦ったけど、じきに寝息が聞えて安心したよ」 あ、そ、そうなんだ。「続きはクラブの後で、しようかな」「クラブ?」「学園祭の打ち上げをクラブでやるんだよ。全員、仮装して参加」「はいい?」いいのか? クラブだよ? 高校生にふさわしいと思えない企画を誰が通したんだ。しかも堂々と開催するなんて。「あれ? まさか。KINGを引き受けた条件が、これ?」「うん、面白そうだろう? 貸し切りだよ」「凄い! 教師がよく許したねー」「ねえ? 伝統を守って毎年同じことをするのも大切かもしれないけど、たまには羽目を外したいからさ」「確かに!」「千里もそうだけど皆も喜ぶかなあと」 微笑む夏都兄が眩しい。「仮装なら何でもいい、とにかく踊れる格好をしておいで」 頬にキスされた。「楽しみにしているよ」 目線を合わせてくれるから嬉しいけど……。 笑いを我慢しているのは何故だ?「ツインテールのウイッグとか似合いそう」(妄想していたのか!)「女装かよ! 嫌だよ! それに仮装したら僕がわからないだろう? 見つけられるのかよ?」「俺が見つけてあげる。どんな格好でも、どれ程沢山の人がいても、千里を見つける自信がある。信じなさい」 その自信の根拠は何だろう。「どうしてわかるんだよ」「さあ、どうしてだろうね。出会ったときからずっと照準を合わせているから、狙いを外さない自信があるんだよ」 目元を指して微笑む夏都兄に、心を乱されそうなくらいの色気を感じてしまった。 僕は自分の気持を悟った。僕は夏都兄が好き……なんだ。夏都兄の宣伝効果で学園祭は女性が大勢駆けつける中、華々しく幕を開けた。オープニングセレモニーと称して、カラフルな色の風船が水色の空に飛んでいく。むさ苦しいはずの男子校のお祭りとは思えない爽やかさ。「しかし暑いなあ」 僕もそうだけど、外にいる皆は帽子をかぶり、団扇を手放せない。厳しい残暑はまだ続いている。「テレビカメラが来ているんだって?」 慎吾がはしゃいでいる。そうだよ、そのせいで夏都兄は僕より先に登校したんだ。だけどKINGは学園祭の宣伝が仕事で、始まったらもう関係無いだろう? どうしてまだこき使われているんだ。納得できない。「夏都先輩を見に行こうぜ」慎吾に引っ張られて校門まで戻ると、テレビ局の社用車から取材用カメラを担いだ男の人が出てきた。そして野次馬の隙間からは女性レポーターと夏都兄の姿が見えた。「あの女性レポーターは、テレビで見るより痩せているなあ」 そんな事はどうでもいい。「中継って、夏都兄が案内役をやるのかよ」「そうだろう? KINGだから」 これでまた、有名人になってしまうのか。「夏都先輩! 今日も格好いいな!」 慎吾のおたけびを聞き流す。「凄いな、沢山の人が集まっているぞ。しかも女ばかり」 校門に女性が群がる中で、実行委員が拡声器で『皆さん、騒がないで下さい』と注意している。まるで芸能人扱いだ。「大変そうだなあ。この暑い中で」「今日も二十七度まで上がるんだろう? いつまで残暑が続くのかな」 友人達の呟きに、はっとした。そうだ、今日も暑いんだよ! 夏都兄が心配だ。「あれっ? 何処へ行くんだ、千里! もみくちゃにされるぞ? 戻れよ!」 背中に声がかかるけど、僕はもみくちゃでも何でもいい。夏都兄が熱中症で倒れないように、せめて僕のこの帽子を貸してあげたいんだ。しかし行く手を阻むのは野次馬の壁。負けるもんか、人の隙間を抜けて叫んだ。「夏都兄!」 でも、女性の歓声が遮った。「盛り上がっていまーす! 男子校とはいえ、お隣の女子高の皆さんをはじめ、大勢の方が押し寄せて来ていまして賑やかですよ!」レポーターの人も声を張り上げて大変そうだ。でも僕も負けられないんだけど。「では、KINGの木下夏都くん、校内を案内してくださいねー! わ、押さないで!」 ごめんなさい。でも、守りたいんだよ。「夏都兄! この帽子をかぶって!」「……千里!」学園祭は13話に続きます。
2008/10/09
「僕、夏都兄が気になるんだ」「うん」「だけど、どうしてこんな気持になるのかも、わからない」「それで十分。独り占めさせて貰う」 僕の首筋に、もぞもぞと顔を埋めた。「千里。いい匂い」「そんな、汗くさいの間違いだろう?」 夏都兄の髪が頬にかかって、くすぐったい。「この減らず口」 外されたベルトが音を立てて床に落ちた。ずるりとボトムを脱がされて下着姿にされてしまった。「強がりを言っちゃって」 下着の上から僕の茎を掴んだ。力を感じて萎縮しそう、腰がひけてしまう。「そっ、そんな乱暴にするな」「でも早くしないと零れちゃうでしょう。もう濡れているし」 どきっとした。自分でもわかってはいたんだ、下着が湿っているって。でも、そんな事を言うな! 恥かしすぎる。「感じてくれているのが嬉しい」 下着の上から僕の茎を撫でられて、腰が震える。焦れてしまって膝を立てた。「な、夏都兄。体が何か、変。熱いよ」「お尻を少し上げてごらん。良くしてあげるから」 そうか、と素直にお尻を上げてみた。すると下着をぺろりと下ろされた。「な!」 湿っていた場所に空気が触れる。僕の茎は、まるで懐くように夏都兄の手の中に。「あ、あの?」「声を出すなよ。母さんに何事かと思われて覗かれちゃう」 唇に指を当てて微笑まれても、困る!「じゃあっ、ドアを閉めて」搾り出した声は、またもかすれた。「その困った顔が見たいんだ。やんちゃな千里のそんな顔は滅多に見られないから」 夏都兄の指が僕の湿った茂みを弄って、筋を擦っている。「くうっ。そんな所、触らないで……」(熱い、喉がカラカラだ)「声、でそう?」 慌てて頷いた。触られるだけで声が漏れるのに、これ以上何かされたら叫んでしまう。「我慢できる?」「無理!」 何度も首を振ると、抱き起こされた。「じゃあ、こうしようか」 夏都兄は僕をベッドに座らせると両足を開かせて、膝をついた自分の体を割り込ませた。そして僕を見上げた。「声が出そうなら俺の肩を噛んでもいいよ」 そう言うと僕の目を見ながら、片手で僕の茎を扱き始めた。「んんっ!」 夏都兄の肩に腕を回して、しがみつきながら刺激に耐える。で、でも息が……。僕の荒い息で夏都兄の髪が湿っていく。「あ、どうし……」 誰かに奉仕されるなんて初めてで戸惑ってしまう。しかも、それが夏都兄。あの瞳が僕を急きたてていると思うだけで……。「やっ、ううん!」 堪えきれない、出してしまいそう。「我慢しないで?」 そんな甘い声を聞かせながら、髪を触らないで。耳朶をいじらないで!「千里、こんなに硬いのに」 その茎に息をかけないで。「うっ、ん! 乱暴にするな!」「千里、好きだよ。出してごらん」 夏都兄の手を僕の液で汚したくない!「千里。出して」 先端をいじられて、はじけてしまった。 夏都兄は手首まで僕の液で濡れて、指先が滴っている。「ごめん! テイッシュ、使って!」「平気だよ? それより腰を浮かせて」 夏都兄が僕のお尻の奥に、濡れた指を入れた。異物感に、きゅっと締めてしまう。「力を抜いて」 ぐいぐいと指をねじ込んでくる。「ん……」 夏都兄に体を預けて吐息を漏らした。痛みは無いがむず痒いし、恥かしい。「あ、はあ……」 指が動く度に熱さが増すみたい。「ん、もう……」 のぼせるような、この感覚は何だろう?「千里。おとなしいね?」 その甘い声にどきんとした。「だって、動けないじゃないか」「そう? ここを自分で動かしてごらん」 こ、腰をなぞるな!「恥かしい? でも気持ち良くなるよ」「え。ど、どうやってすればいいの?」「俺に擦りつけるように前後に振ってみて」「あ、辛い……。もう、どうにかなりそう」「いい声だね、千里。もっと揺れてみて」「無理―」 大きく首を振ったら、その動きで指を深く受け入れてしまった。「あ、ん!」「よがる姿も可愛い。……ねえ、千里。欲しいって言える?」「……何、何が」 呼吸が苦しい、大きな声が出ないよ。「俺が欲しいって言って」 夏都兄が僕の胸元を撫でて唇を近づける。「早く言ってごらん、千里。んっ」 突起を吸われて胸が反る!「あ! 夏都兄、アッ」 体が……僕が、はじけちゃう!「ん、ん……、千里。言ってよ……」「舐らないで。いや、いや……アアン!」追い込まれているのに体が焦れる。「あ、もう……夏都兄、出ちゃう!」12話に続くのだ。こんな夜更けに私は何をしているんだろう。
2008/10/08
「やんちゃだなあ。少しおとなしくして貰おうか」 床に足がついた。ほっとしたら顎を指で上げられて、そのまま唇が重なってきた。(えー!) しかも唇を舐められた、夏都兄の舌が入りたがっているサインだ。どうしようと迷っていたらベルトを外す音がする! 声を出そうとして、口を開けてしまった。ぐっと入り込む舌が僕の歯をなぞり、舌を捕らえる。逃げようとして身をよじると体を寄せてくる。急に息苦しくなってきた。 唾液を吸われて舌を絡められて、頭の中が真っ白。力が抜けて、だらりと下げた腕をかすめて夏都兄の手が僕のお尻に触れた。「嫌だ、何するんだよー!」どん、と突き飛ばして体を離したのに、唇は銀色の糸で名残惜しげに夏都兄と繋がっていた。「何、これ……」「わかっているくせに、聞くかなあ」 糸を手繰り寄せるように体が近づいた。「ねえ、千里。俺に言わせたいの?」 夏都兄にシャツの上から胸を撫でられた。「感じているって、いってごらん」「やめて、夏都兄。シャツが擦れて痛いよ」 でも夏都兄の手は止まらない。刺激を受けて起きた突起の形が、シャツの上からくっきり見えて、心臓が早鐘を打った。「あ、硬くなってきた」 指先で突かれたのは突起なのに、体の奥の方までズキンと感じてしまう。足の付け根が熱い、これは知られたくない。「ちょ、ちょっと待って? 夏都兄」「どうしたの?」「あの。何処かが痛いんだ」「だろうね」 どうしてそんな返事ができるんだ?いつもと違う!「そ、それだけじゃなくて……ドアが開いているよ。母さんに見られちゃう」「ふうん」 僕の忠告に興味がなさそうでシャツをめくられた。夏都兄の温かい指に触られて肌が溶けてしまいそう。「聞いている? 夏都兄っ……」 叫んだはずが、僕の声はかすれていた。「聞いているし知っているよ。さっき、俺が開けたもん」「母さんがまだ起きて……」 話しているのに乳首を引っ張るな、お尻を撫でるな! 「ねえ、つま先で立ってよ」 中腰で何を言い出すんだよ!「夏都兄っ、やめ……」 立っていられなくて床に膝をついた。ぺたんと尻餅をついて、肩で息をしてしまう。体が熱いし、力が入らない。「夏都って、呼んでよ」「え?」 夏都兄が僕の前に座って、目線を合わせた。「行為の時は、俺を呼び捨てにして」「こッ?」 僕は今から夏都兄と、するの?「今までキス止まりで辛かったよね。そろそろ、いいかな」 喉を撫でないでよ、びくっとする!「ちょっと待って! 僕、そんなの経験無いし!」「だろうね。俺が大事にしてきたもん」 キス止まりでねーと微笑むので焦る。「キスは、お約束だからしたんだろう!」「お約束で唇にキスすると思っていたのか。少しは察しろよ」「え、どういうこと?」 聞こうとしたら唇を吸われた。少し離して、小鳥が啄ばむように連続してキスをされた。「小悪魔だな。わかっているんだろう?」まるで魔法にでもかけられたみたいに体が夏都兄から離れない。耳元で名前を囁かれて胸が高まる。(で、でも)「や、やめてよ、夏都兄。好きな子がいるんだろう、その子の代わりになりたくないよ」 駄々をこねると手を取られて、そのまま押し倒された。床に背中が当たって痛い!「好きなのは千里だけ。だから、唇にキスをしてきたんだ」(え、好き? 僕?)驚いて見つめると、夏都兄の瞳の光に包まれてしまいそう。生唾を飲み込むと夏都兄の体温が伝わってきた。「好き。出会ったときから、ずっと好き」 僕の事を? 本当に?「知らない人達に追われたとき、千里のことが心配でたまらなくて……。思い知らされたんだ、側にいなくちゃいけないって。俺の視界に千里がいないと不安なんだ」 僕の髪を指に巻きながら呟く。視界にいないと不安な気持って、僕と同じだ。「折角同じ高校にさせたのに千里はやんちゃで、目立つから心配だよ。それに警戒心無さすぎ。何が『会ってもいい』だ。父さんの面子なんて関係無い、知らない人に会うな。千里を誰にも渡したくないんだ」 ぎゅっと抱き締められて、耳に熱い息がかかる。体が熱くなって、まるで夏都兄の体温を吸収しているような錯覚がする。「……だって、夏都兄に彼女がいるって聞いたから」「それで、誰かに会おうと思ったの?」「夏都兄に彼女がいるなら僕もそうしようって。でも本当は誰でもいいわけじゃない。夏都兄、どうしたらいいのかわからないよ」 言いながら肩が小刻みに震えてしまう。「じゃあ、会う必要は無い。俺には彼女がいないから」 夏都兄が微笑んでキスをしてくれた。11話に続くのだ。やらしい兄さんです。●しかし●隠語しまくりのこの苦労はまだまだ続くな―
2008/10/08
騒ぎの波紋は親にも伝わった。ご近所から連絡が入ったそうで、母さんが勤務先から慌てて帰ってくるし、連日残業続きだった父さんまで菓子折を抱えて帰宅した。「とんだ騒ぎを起こしたのだから、ご近所におわびをせねばなるまい!」 父さんと夏都兄が出かけると、母さんが僕の近くに来た。「夏都くん、大変だったわね」 父さんの連れ子だった夏都兄を未だに『くん』づけで呼んでしまうのは母さんの癖だ。夏都兄を父さんから紹介されたときに、『大人びた子だから呼び捨てにできない』と感じてしまって、もう直せないらしい。「いつもクールなのに、珍しく取り乱したように見えたわ」「うん。ちょっとね」「千里は優しいね。ずっと側にいてあげたんでしょう?」「あ。あ、うん」 というか、膝の上にいたなんだけど。「千里は覚えているかなあ? 五年前に母さんがお父さんと再婚したときのこと」「え」「夏都くんが『大事なものが出来た』と言ってくれたの。『お母さんのことは父さんと俺で守ります。でも千里は俺に任せてください。千里はやんちゃで小さくて細くて、誰かが守らないと何処かに吹き飛んでしまいそうだから、俺が側にいて守ります』って。普通は言えないよね、あの頃夏都くんはまだ十歳だったよ? 大人びた子だなってびっくりしたけど、嬉しかった」「へえ……」「そんな夏都くんに守られているだけじゃなくて、支えられるようになった千里の成長も母さんは嬉しいの」 えへへと照れながら目元を拭いて、母さんはキッチンへ行った。その背中を見ながら軽くへこんだ。夏都兄が母さんにそんなことを言ったなんて全然覚えていなかったから。 それに支えていないし。僕は膝の上でじっとしていただけだ。こんな僕が、夏都兄の支えになれる時なんてあるのかな。 夕食は母さんが腕を振るって、ちらし寿司を作ってくれた。大皿に盛られたちらし寿司を分け合いながら食べるのは楽しい。「夏都。学園祭にはご近所の皆さんを勿論招待するんだろうな?」 父さんがビールを片手に釘を刺してきた。「あ、そうした方がいいのかな。でも男子校だよ? 男ばっかりで、むさ苦しいよ?」「何だ、その消極的な態度は。おまえは王様なんだろう?」(王様って)「父さん、夏都兄はKINGだよ」「同じじゃないか、千里。どう違うんだ」(言葉が……明らかに違うので別物に聞えるんだけどな)「まあいい。夏都、ここまで来たならその肝の座った態度で学園祭を大いに宣伝して、このご町内に錦を飾れ」ご町内なのか。狭いなあ。「そしておまえ目当てで発生したこの騒ぎを治めるべく、学園祭の場でおまえの彼女を皆さんに紹介すればいい。むさ苦しい男子校の盛り上がりに花を添えられて、一石二鳥だ」「何だよ、それ!」喜んだのは母さん一人。夏都兄は卵焼きを吹き出しそうになるし、僕は絶叫してしまった。「夏都くん、彼女がいたの! どんな子?母さんに紹介し……」「夏都兄、彼女って何だよ!」「……母さんも千里も、ちょっと黙って? 父さん、何を言い出すんだよ」「この前、おまえに会社の女性を紹介しようとしたら『好きな子がいる』って断ったじゃないか。何処のお嬢さんだ? 連れて来い」「それは無理」 ふーっと息を吐いて、何事も無かったようにちらし寿司を食べ始めた。何だよ、その掴み所が無い態度は!「夏都兄!」「千里、早く食べな。折角母さんが作ってくれたんだから」「ううむ、連れて来られないなら、おまえを信用するしか無い。相手に迷惑をかけるような行為だけはするな」「わかっているよ」「いいか! 菓子折では済まない事は未成年のうちは慎め!」 今度は僕がお茶を吹き出してしまった。「千里も! このやんちゃ次男坊。目も当てられない状況に追い込まれるんじゃないぞ」「父さん、それはどんな状況だよ。僕には、意味がわからない」「会社の女性陣が、大層おまえを気に入っているんだ。まあ念の為にデスクに飾った写真で見るよりも、実物は数倍子供っぽいと話したが、更に喜ばれた。どうしてだか、おまえは年上の女性に好かれる顔かもしれん」 そうなのか? と夏都兄を見たら軽く頷いている。聞き流したな?「会わせろと言う人もいる。どう思う?」 いきなりそんな事を言われても困る。あ、でも夏都兄に彼女がいるなら……。「それが実は、社長の娘さんで」 ふうん、面子を保ちたいのか。これは息子として協力しよう。「年上の女性に出会う機会なんて滅多に無いから、会ってもいいけど」「そうか! じゃあ、一度会うか?」 上機嫌の父さんをよそに、僕の膝を夏都兄が触れた。あれ、どうかしたのかな。「しかし、千里。女性はおまえを座敷犬のように可愛がるだろうが油断するな。虎視眈々とおまえの隙を狙い、あわよくば連れ去ろうとする魔女には体を許すな! その小さい体に重い責任を負わされてしまうぞ」「父さん、飲みすぎ」 夏都兄がビールを取り上げた。酔った父さんの介抱をして疲れた。寝ようと思って自分の部屋に入ると、何故か僕のベッドで夏都兄が服を着たまま、横になっていた。「次は夏都兄か?」 呟いた声で目が覚めたみたい。ん・と起き上がりながら後ろに手をついてまだ眠そう。「疲れているなら風呂に入って、寝たら?」「でも千里に話しておかなくちゃと思って」「……彼女のこと? どうして黙っていたんだよ、教えてくれてもいいのにさ」 と言うか、いつの間に彼女がいたんだ。デートは、いつしているんだ? どうしてかな、かなり腹立たしい。「彼女はいない。好きな子はいるけどね」 その返事に安心した。「そうか、父さんの早とちりか!」しかし疑問は残る。好きな子は誰だ?まだ聞きたいことがあるのに、夏都兄は欠伸をした。「好きな子って? ちゃんと話せよ」「やっぱり、先にお風呂に入ってくる。眠くて話ができない」 ベッドから降りて、ふらふらと立ち上がる。「中途半端じゃないか。逃げるのかよ」「じゃあ、一緒にお風呂に入る?」 それは……。 「バスルームは広いから2人で入れるよ?」(あれ?)夏都兄、本当に眠いのかな……? 悪戯を企んでいる笑顔に見えるけど。いつもと同じで背筋を正して立っているし、どうも眠そうじゃないけど?「嫌じゃないだろう?」 間合いを詰められて困ったら、にっこり笑顔で腰に手を回された。「さっきお茶を吹いたね。洗ってあげるよ」 僕の体をひょいと小脇に抱えて、足でドアを開けた。「な、何するんだよ!」「捕まえないと逃げそうだもん」「逃げそうなのは、そっちだろう!」 腕を振って暴れたら脇腹をくすぐられた。「ひゃっ!」ちょっと危ない10話に続きます
2008/10/08
慎吾は仲間ではなく同志だ。「いいな、本当に千里が羨ましい。こんなに格好いいお兄さんは家宝だな」「家宝……?」「話題になりそうなこのポスターも序の口だろう、今日は夕方のニュース番組に出演だもんね」「はああ? タレントかよ!」「KINGだもん、宣伝活動だよ。夏都先輩は昼から早退してテレビ局へ行くんだ。でも生放送じゃなくて録画らしいけどね」 学業よりもお祭り事を優先かよ。呆れるなあ、この学校。 でもテレビを観ようと、急いで帰宅した。真剣にニュース番組を見たのは初めてだ。5分くらいのイベント紹介のコーナーに、夏都兄が制服姿で登場した。綺麗な女性アナウンサーが隣にいても見劣りしない夏都兄の顔を大画面で見て、ぼうっとしてしまった。しかも『この学校へは駅から直行バスも出ていますから、皆さん遊びに来て下さい』だなんて、僕なら棒読みするような台詞だよ。普通に話せるなんて度胸があるなあ。感心しながら、僕はあることに気がついた。夏都兄のこの余裕のある笑顔でおちない女性がいるだろうか。テロップで流れた<木下夏都・高2>という紹介をメモらない女性がいるだろうか? いわゆる眉目秀麗の夏都兄だ。注目しないはずがない。気が気でない、不安が的中しそうだ。夏都兄は人気者になって、僕からどんどん離れてしまうのか?「千里、帰って来ている?」 ドアを乱暴に閉めた音に驚いて振り向くと、夏都兄がリビングに駆け込んできて、カーテンを勢いよく閉めた。 明らかに様子がおかしい。「ど、どうしたの?」「外に知らない人達がいるんだよ」「え?」 聞き直す間も無く、インターホンが鳴り止まず、ドアがノックされ続ける。「何、これ?」「テレビでの名前の公表で、すぐに住所がばれたみたい。父さんに怒られるなあ、これ」「え。夏都兄目当ての人が来ているのか?」「うん。腕を組まれそうになったし、写メも撮られた」(げ! 恐ろしい!)「はあ。とりあえず、このままではまずいから帰って貰おう」 冷蔵庫から水を出して一口飲んでいる。いつも穏やかな夏都兄でも、冷静さを欠くことがあるんだ。「夏都兄、警察に通報しようか?」「大げさだよ。それに学園祭の成功がかかっているから、警察沙汰はまずい」 溜息をついて再び外へ出て行った。出待ちをしている人達には、正に鴨が葱をしょってきたようなもので、女性の甲高い声が聞えて、ぞっとしたけど、次いで何やらざわつく声がする。何ごとだろうとカーテンの隙間から覗いたら、実行委員が集結していた。「ご近所に迷惑な行為です。皆さん、直ちにお帰りください。木下夏都くんに会いたければ学園祭に来てください!」 実行委員が声を張り上げてから20分程で外が静かになって、ようやく夏都兄が戻って来た。しかし、顔色が悪いなあ……。「お帰り、夏都兄」 ソファーに寝転がっていた僕の側に夏都兄が座った。そしてクッション代わりか、僕を抱き寄せて膝の上に乗せた。「千里」 僕をぎゅっと背中から抱き締めてくる。相当、参ったのかな。キスもしない。「夏都兄、着替えないの?」「じっとして」「う、うん……」 つけっぱなしのテレビから軽快なCMの音楽が流れる。それがいくつも変わっていくのに、夏都兄は身動きしない。「心配したよ、夏都兄」 知らない人に囲まれるなんて、滅多に体験する事じゃない。怖かっただろうな。「……俺は千里が心配だった」「僕? どうして」「千里がまだ帰る途中だったらどうしようって、不安でたまらなかった。俺のせいで千里が知らない人に追われたら、相手が女性でもひっぱたくかもしれない。そう思った自分が怖かった」「なつ……」 抱き締める腕に、僕達・兄弟の絆を大事にしている夏都兄の気持が伝わる。「元気出してよ」「ごめんね、千里。心配させて。学園祭が始まれば、きっとこの騒ぎも治まるから」「いいよ、夏都兄が悪いんじゃないし」「ありがとう」 お礼なら僕の方だ。夏都兄が僕を守ろうと思ってくれたなんて感激だ。「な、夏都兄。ちょっと、いい?」 体の向きを変えて正面で向き合った。恥かしくて俯いてしまうけど、夏都兄にお礼がしたいんだ。「千里?」 きょとんとしている夏都兄の肩に腕を回して顔を近づけたら、シャツの擦れる音がした。「そんな気分じゃないだろうけど。あの。お帰りなさい」 唇に軽く触れると、僕の背中に手が回り抱き締められた。「千里」 下唇を名残惜しげに舐めるので、僕は応えたくて口を開けた。「千里、千里」 唾液がシャツに零れ落ちた。いつもよりキスが長く感じた。9話に続くのだ。二年前のものとはいえ、何だか自分でつっこみしたくなるな…
2008/10/08
言い負かされた気がしながら着替える。そういえば夏都兄がKINGを引き受けた条件が何なのか気にはなるけど、それよりもあのキスだ。舌が絡み合うあのキスはレベルが違う。体が焦れた感じがしながらリビングに戻ると、夏都兄は涼しい顔をして立ち上がった。「じゃあ、出かける」「今から? どうして?」 慌てて聞いたら、夏都兄は腰に手を当てて首を傾げた。「早速、寂しいんだ?」 あははと笑う夏都兄に敵わない……。「学園祭の告知ポスター用の撮影だよ。適当な写真を使ってと言ったけど、実行委員が撮りたいって」「ふうん」 アルバムにある写真で十分なのに、わざわざ撮るなんて力が入っているなあ。「趣味で写真を撮っているから任せろって、言う教師がいたんだよ。千里の担任だろう? 山田って名前の教師」「……あいつ! 関わるなって言ったのに」あの変態、どうして実行委員なんだよ!「千里、教師をあいつ呼ばわりはおかしい」「だって!」「それに『関わるな』?」(うっ)「聞かなかったことにしよう」 苦笑いをして玄関へ向う夏都兄に駆け寄って腕を掴んだ。「ん? どうしたの」「あ、あのさ。外は暑いから気をつけてよ」「……俺が中学生のときに熱中症で倒れたことを覚えていたの? 心配してくれてありがとう。もう大丈夫だよ、夕方だし」 頭を撫でてくれた。嬉しいけど……こ、これも子供扱い?「帰りが遅くなるかもしれないから、父さん達と先にご飯を食べてね」「待っているよ!」「何を強がっているんだよ……。ま、その性格も好きだけどね」 じゃあ、と出て行ってしまった。1人ぽつんと玄関に残されると、まるで捨てられたような悲しい気分になる。リビングに戻り、何気なく見た鏡に映る自分の首筋に驚いた。このキスマークは!「な、夏都兄……」 もしも父さんと母さんに見られたら、何て答えればいいんだよ! ああ、もう。僕を混乱させてばかりなんだ、夏都兄は。 気付いたら朝日が眩しい。昨日は待ちくたびれて寝てしまったらしい。慌ててキッチンへ行くと夏都兄がベーグルを齧っていた。「おはよう、夏都兄……」「おはよ。よく眠れたみたいだね」僕だけに注がれている笑顔に嬉しくなった。 「昨日は何時に帰って来た?」「二十二時くらいかな」「えっ、僕はその時間に寝ていたのか?」 「うん。夕食を取らずに寝たから、お腹がすいただろう? ベーグル食べる?」「いい」「母さんが『病気じゃないか』って心配していたよ。好物の和風ハンバーグなのに、一口も食べずにリビングで膝を抱えていたんだって?」 母さん。とんでもない報告をしないで。「そんなことをしたかな……」「とぼけちゃって。冷蔵庫にハンバーグが2つ入っていたけど、俺と誰の分だよ?」 笑いを噛み殺している。ばれているなあ。「……今日のお弁当にしようかな」「この減らず口が」 夏都兄が吹き出した。僕は夏都兄の笑顔が好きなので、朝からとてもいい気分になれた。「撮影はどうだった?」「無事に終わったよ。写真のデータをパソコンで処理して、すぐに印刷するって。お手軽なポスターだけど、何処に貼るんだろうね」「へえ……」 きっとカラーコピーみたいなものだろう。夏都兄は『本当に貼るのかな?』と笑っていたけど、僕が先に外に出たら笑えない状況だった。何と学校までの道筋のコンビニやスーパーには勿論、子供が遊ぶ公園の出入口にも夏都兄のポスターが貼られていたのだ。これは深夜から早朝にかけて、担任が貼って歩いたのかな、相当な意気込みを感じる。――そのポスター自体は何のひねりも無い、学園祭の開催日を告知しているだけなのに、何故か生唾を呑み込んでしまう。水色の背景に穏やかな微笑の夏都兄の写真だけど、色気を感じるんだ。その瞳を見ると気持を見透かされているようだし、それに、艶のある口元に誘われているみたいな錯角を起こしてしまう。僕だけかな、こんなことを思うのは。しかも家族相手に欲情するなんてどうかしている。ドキドキしていたら駆け寄る足音がする。「おはよう、千里―! これ見ろよ!」 慎吾がポスターを携帯の待ち受け画像にしていた。流石、崇拝者、ぬかりないことで。「俺、このポスター貰えないかな?」 慎吾の顔が赤いし、鼻息も荒い。 僕は仲間を得た気がした。「担任に頼めばいいよ」「えっ。先生が作ったのか」 あの変態、きっと何枚も余分に刷っているはずだ。うわ、想像しただけで鳥肌が。「いいなあ、撮影に立ち会いたかった。夏都先輩には目力があるんだよな。ほら、これ。見つめられると、たまんなくない?」「……そんな事を弟に聞くなよ」じれったいまま、8話に続くのだ。●眠いですね―●余分に寝ても眠いです。そういう時期かな―
2008/10/07
「千里」 唇が離れるときに舌で舐められて、ぞくりとした。「ん、何だよ?」「いい加減、口を開けろよ」「嫌だよ! そんなディープなキスは、こいび……」「この生意気な口が」そう言って僕の鼻を摘んだ。息が出来なくて口を開けると、夏都兄がまたキスをして、そして何かが口の中に入ってきた! 僕の舌を舐めて絡めているのは、夏都兄の舌? 唾液を吸われて、思わず胸が反った。体を離そうとする僕の後頭部を押さえて、夏都兄の舌が溜まった唾液をすくう。その滴る音が聞えて、体が熱くなった。 どんっと、両手で体を突き放したけど、胸の高鳴りと痺れたようなこの感覚は何だろう。「どうした?」「こ、これは恋人同士がするキスだろう? 兄弟だと、おかしいよ!」「本当の兄弟じゃないから平気だろう?」 あ、そうか。本当の兄弟じゃないから別におかしくはないんだ?「嘘だ。丸め込もうとして!」強気に出たけど、夏都兄の胸元に触れたままの両手をひっこめるタイミングも掴めない。「千里。この手が邪魔」 手首を持たれて内側にキスされた。「ひゃ!」 背筋に電流が走ったみたいだ! 「や、やー!」 ぞくぞくして震える腕を舌で舐められて、叫びだしそう! 「その反応も可愛いけど、千里は俺が手伝ってあげないと着替えも出来ない?」「また、子供扱いして!」「じゃあ、早く脱いでごらんよ」「嫌だよ」 ここでは嫌だ、恥かしいんだ。「真っ赤な顔をして。誘っているみたい」「さそっ?」「意識しすぎなんだよ、千里は」ボタンを外されて襟元をめくられた。首筋にふっと息を吹きかけられて、思わず体を硬くしたら、肌を唇で強く吸われた!「あ、跡が残る!」 胸を反らせて抵抗したら唇が離れた。「残るようにしているんだ」 そんなことを耳元で囁かないでよ、動けなくなる。顔が熱いよ!「な、なーつー兄! からかうな!」 拳を振り回したら、笑っている。 その自信満々な笑顔が憎らしい。「着替えてくる!」「ああ、いい子だね」「子供扱いは止めてよ」「ふうん?」 正す気がなさそうな笑顔だ。「じゃあ、何処が大人?」 何も言い返せなかった。7話に続くのだ。●拍手をありがとうございます●力が湧いてきます。連続更新は久々なので、UPするのが楽しいです。
2008/10/06
学校から帰ると、玄関に夏都兄の靴があった。僕より早く帰って来ているなんて珍しい。部活はどうしたんだろう?「夏都兄?」 慌てて靴を脱いで大声で呼んだ。「お帰り、千里」 リビングから手招きしてくれたが、おへそが見えたぞ?「着替えていたの、か?」リビングに入ると冷気が流れ込んできた。冷房をつけてくれていたんだ、お蔭で汗をかいたシャツもひんやりして気持がいい。「風邪ひくよ? 千里」 夏都兄が着替えたシャツの裾を引っ張った。ローライズのデニムとVネックのリブシャツの間から腰がちらっと見えた。制服はきちんと着て私服は今どき。どちらも似合うなあ。「千里。外は暑いから汗をかいただろう?さっさと着替えておいで」 後ろ髪をダッカールで留める仕草を見ながら、ソファーに座った。「面倒くさい」「着替えたらアイスクリームをあげるよ?」(そんなに微笑まれても)「……子供じゃないんだけど」「子供でしょう。十六歳の千里くん。AVを見られないうちは子供だよ」 確かに一理あるけど、それなら十七歳の夏都兄も子供じゃないか。言い返そうとしたら隣に座られた。足を組んで僕に目線を合わせてくれる。「なかなか言うことを聞かないね。ここで着替えてもいいけど」 脇を締めて、前傾姿勢で微笑まれると心が引かれる。でも、隙がありそうで、無いんだ。「こ、ここでは無理!」「どうして。ここなら涼しいじゃないか」 そうだけど、夏都兄の前で着替えなんて、恥かしくてできないよ。「俺はテレビを観ているから、構わずに着替えろ」 夏都兄はリモコンを手に取った。迫力の五十二型・液晶画面が映し出したのは何と、ボクサーパンツ。(えー?)ニュース番組だろうけど、これは大画面で観る映像じゃない。何故か見ているだけの僕まで羞恥心を覚えてしまう。『はーい、こちらが話題のローライズパンツ用の下着なんですねー。従来の下着に比べて丈が何と二センチも短いので、股上の浅いパンツをはいてもこれなら下着が見えません。このように最近は、男性も下着にこだわりを持つ傾向が見られます。売れ行きも上々のようですよ?』 アナウンサーの声が、テレビ通販に聞えるが、矢張りニュース番組の一コーナーだった。画面が事故のニュースに切り替わると、何気なく僕は夏都兄を見た。もしかして、夏都兄はこれを履いているのかな。デニムを腰で履いているのに、下着が見えていないもん。「千里。何度も言わせるな、早く着替えろよ。千里に風邪をひかれたくないんだ」「あ、うん」「そういえば」 夏都兄が急に体の向きを変えて僕を見た。「どうかした?」 「俺、KINGを引き受けた」「はあ? 何を言っているんだよ! 興味無いって、言ったじゃないか!」「それが理由ありで」夏都兄は溜息混じりに組んだ足を交代した。「俺達の高校は夏休み中に羽目を外して警察のお世話になった奴らがいて、世間の評判が良くないんだよね。その悪いイメージを払拭したいって、実行委員に説得されてさ」「そんなことは夏都兄に関係ないよ!」 呆れて開いた口が塞がらない。「でも、口裏を合わせたのか学年主任までが現れて『力を貸せ』って言い出して」「えー! 根負けしたのかよ!」 どうして流されたんだよ、人が好すぎる。「そこまでされたら気が咎めるよ。だけど、条件を1つ出して、それを呑んでくれたらやると言った。それが見事に通ったからね」 ん? 夏都兄は何だか楽しそうだぞ?「……条件って?」「それはまだ内緒」「言えよ!」 すると夏都兄の口角が上がった。「それがお兄さんに対する口の利き方か?」「だって、勿体ぶるからだろう!」「あ。一つ忘れていた」 僕の髪を撫でて、顔を近づけてきた。「お約束だ。怒りんぼの弟」 僕は夏都兄と、唇を重ねた。――このキスは去年の春に端を発した。当時中学3年生だった僕の進路選択に突然夏都兄が口を挟んできた。『俺と同じ高校にしろ』と言うのだ。僕は行きたいのは山々だが『学力不足だから絶対に無理』と言い張ると、夏都兄は意を汲んだのか微笑んだ。『そこまで言うなら勉強を教えてやるから、1つ約束しろ。受かったら、毎日俺にお帰りのキスをするんだぞ』と、勝手に決められた。夏都兄の指導のお蔭で同じ高校に合格して、それから毎日、お帰りなさいの挨拶の後は唇にキスだ。嫌じゃないけど、恥かしい。6話に続くのだ。●通販が待てない●みかんに飢えていまして、通販で頼みっぱなしなのですが、もう辛抱たまらずに近くのスーパーで買いました。味が薄く感じるのは気のせいか?●HUNTERXHUNTER●キルアちゃんの活躍を見て、この技はいつ身につけたかしらと悩む。コミックスを読み返さなければ…でも色々と注釈というか説明があったので、今見につけたか…
2008/10/06
「えっ!」すっかり忘れていた!慌ててベルトに手をかけると、かなりボトムがずり落ちていた。公衆の面前で下着をちら見せしてしまい、顔が熱くなった。「気にするな。ケガをしていないから、安心したよ」巨体の関取を倒したとは思えない爽やかな笑顔だ。余裕なんだなあ。「ちょっと、やんちゃが過ぎるけど。千里は今朝みたいに元気が無いより、その方がいいから許す」(え、夏都兄? 気づいていたのか)「じゃあな。また後で」 ひらりと手を振って校舎に向う夏都兄を、わらわらと先輩達が追いかけていく。「夏都、凄い蹴り!」「あいつを倒したのは夏都が初だろうな!何だよ、おまえはー。弱点あるのか?」 今更ながら、僕の兄が如何に人気者かを思い知らされた。沢山の人に声をかけられて、あんなに慕われている夏都兄がKINGじゃなければ、他に誰が選ばれると言うんだ。「格好いいなあ。夏都先輩……」 ふらふらとした足取りで、夏都兄について行こうとしている慎吾を見つけた。「慎吾、何処にいたんだ?」「いいなあ……。本当に千里が羨ましい。暴れても助けて貰えるなんて、千里は夏都先輩に相当可愛がられているんだな」「あ。それはそうかも」 でも、子供扱いな気もするんだけど。「あれれ? 千里、顔が赤いぞー? 実の兄にときめいちゃったのか!」「はああ?」「気持はわかるぞ、あんなに格好よければ、ブラコンにもなるさ!」「こっ・これは……日焼けだよ!」「あはは。元気になった、良かったー」 慎吾のお蔭で、僕はようやく笑顔を取り戻して校舎に入った。「ブラコンでも、俺は千里の友人だからな」 慎吾の気持はありがたいが、しかし『ブラコン』と言われてもピンと来ない。実は夏都兄と僕は本当の兄弟では無いから。再婚した親の連れ子同士で、血の繋がりが無い義理の兄弟。……面倒くさいから、慎吾や友人の誰にも話していないけど。――夏都兄とは、僕がまだ小学生の時に出会った。「こ、こんにちは」緊張しながら挨拶したら、夏都兄は笑顔で頷いてくれた。「こんにちは。夏都です」この人が僕の兄になる、それがとても嬉しかった。初対面以来、僕は夏都兄の穏やかな光を満たした瞳を追いかけてしまうんだ。いつも僕を見ていてくれるように願って。側にいたら嬉しい。離れたら寂しい。どうしてこんな気持になるんだろう? 僕は自分の気持がちっとも掴めないんだ。そんな僕のことを夏都兄が笑顔の先で待っているような気がする。僕が心を奪われた、あの瞳の中に答えがあるのだろうか。教室に入ると途端に「ぎゃ!」と声を上げてしまった。誰かに僕の項に息を吹きかけられたのだ。「ちーさーと。さっきは貴重なものを見られて、先生は興奮したよー」「はっ?」まさか担任の悪戯とは思わなかった。「夏都の蹴り! 普段は穏やかな子が怒ると、ぞくぞくするよねえ。その夏都が学園祭の宣伝役か。先生も実行委員になって、夏都が出かける先々に付き添っちゃおうかなー」 この担任、前から『夏都は綺麗だ』発言をするので怪しいと疑ってはいたけど、こうもあからさまに言われると、ひく。「夏都兄は、KINGに興味が無いって言いました!」「断りきれるかなあ? 学校行事だよー」 にやにやするなよ。「でも万が一、引き受けても、先生はこの件には絶対に関わらないでください!」「千里の怒った顔も先生は大好きだよ。穏やかな夏都に、やんちゃな千里。木下兄弟、二人共、先生の好みなんだよねー」 教師のくせに変態をカミングアウトか? それとも、からかっているのか? 「その、ひいた表情もいい。千里はすぐに表情が変わるねえ、ところで、そのまっすぐな黒い髪を触ってみてもいいかなー」 鼻息が荒い、ケダモノか?「先生、近寄らないでください!」 下敷きを扇いで追い払った。「嫌われちゃったー」一難去って、ふと先程の騒動を思い出した。先輩相手でも、腕力があれば太刀打ちできると思い上がった自分を反省した。 中学生の頃はケンカに自信があったけど、高校に来たら相手の体格が違う。ほぼ大人だ。僕の背丈と体重では、敵わない相手が多すぎるんだ。夏都兄は一見スレンダーな体つきだけど、部活で鍛えているし、モデル並の腕と足の長さがあるから、リーチの差でも勝てるだろう。今日は夏都兄の凄さに気づいた。爽やかでしっかり者で、加えてケンカも強いなんて、無敵じゃないか。 校内でさえ人気者なのに、KINGになったら、僕からもっと遠ざかってしまうんじゃないか。嫌な胸騒ぎがする。5話に続くのだ。●拍手をありがとうございます●何の話だ的なSSで、すみません。押していただいたお気持がありがたいです。●なんて可愛いの!● これも買おうかな。3045円なんて安いな―!!
2008/10/05
「ほーら。弟くん、お祝いだ!」 僕は知らない先輩に、ひょいと抱え上げられてしまった。「な、何をするんだよ!」「そりゃ! ばんざーい」(えええ!)僕は空中に浮いて、またすとんと腕の中に落ちる。「おおっ。胴上げか、おめでたいな」「そーれっ。もう1回、ばんざーい」 僕をまた空に上げようとするから、寸での所で狙いを定めた。「ふざけんな!」 先輩の横腹を肘で打った。受け手が無い僕は、体勢を崩した先輩と一緒に地面に叩きつけられた。「何しやがるんだ、こいつ!」 先輩は立ち上がると僕を睨みつけるが、ここで負けるもんか。 隙だらけの足を払って再び倒し、その体に馬乗りした。「おお! 素早い」そして首筋の頚動脈を押さえる、ここを絞めれば体格の差があろうと僕の勝ちだ。「おおお!」「やるなあ、夏都の弟くん」「体が小さくて軽いから、素早い!」 何だ、この歓声は。面白がっているのか? 「千里、凄い!」 慎吾の声だ。あいつまで何のつもりだ。「ギブ・ギブ! 絞めないでくれ!」 呻き声を聞いて、更に熱狂の声が上がる。ギブならと体をずらしたら、先輩が起き上がり、あっけなく押し倒された。「痛い!」「素直だねえ、弟くん」先輩が鼻で笑った。反撃したいけど、僕は図体の大きい先輩に馬乗りされて動けない。「やんちゃな一年生に、どんな罰を与えようかな? まあでも、今日はお祝いだからな」「関取、そいつの顔をよく見せろよ、怖がっているか?」 誰が怖がるかと睨み返してやる。 「へえ? 弟くんも夏都と同じで女顔だね。これは……脱がせちゃおうか?」 ほおおと低い声が響き渡る。圧倒されそう、この雰囲気。「あれ? こうして見ると、夏都とは顔が全然似ていないな。あいつは顎が尖っているけど、弟くんは卵顔だし。本当に兄弟?」「おいおい見ろよ、弟くんの顔。小さくて俺の片手で隠れちゃうよ」 汗ばんだ手をかざすなよ、この先輩。「観察するな!」「あははは。面白いな。その威勢の良さがいつまで続くか」「さーて、始めるぞ。一つ目のボタンを」(げっ)腕を押さえられてしまった。本気で脱がすつもりか? 抵抗できずに、たやすくボタンに手をかけられてしまった。「どんな気分だ? 体の小さい一年生」「こんなことをして、先輩面をするんじゃない!」「まだ威勢がいいのか。……泣かすぞ」 そんな脅しに屈しないと、ようやく足をばたつかせたら、何故かこの関取は笑った。「この状況でも刃向かう気力があるんだな。じゃあ、下から脱がせちゃおう」 ベルトに手をかけられた!「離せ! この関取!」「先輩を呼び捨てかー? 元気だなあ。ところで弟くんの名前は何て言うのかなー? 泣かせる前に聞かな……」 不意に日差しが遮られた。「おまえが先に名乗って、謝れよ」(え。この声?) 僕の目の前を黒いローファーを履いた足が横切って、がすっと鈍い音を立てた。関取が地響きをさせて地面に横倒しになり、砂煙が舞った。「俺の弟に何をしているんだ」やっぱり、夏都兄だ! 先程まで僕の上に跨っていた関取の腹に、しっかりと靴の跡がついている。この巨体を蹴るなんて凄い。「ふざけた真似をするんじゃない」夏都兄は前髪をかきあげて、先輩達に近づいた。目を三角にして雰囲気が怖い。滅多に怒る人じゃないのに。「な、夏都! 悪かった、本当にすまない」「そんなに怒るなよ、なあ、おまえは選ばれたKINGなんだぞ? お祝いしよう?」 おろおろする先輩たちを一瞥して、「そんなものに興味は無い」夏都兄はきっぱり言い放つと、ふう・と息を吐いて僕を見た。「千里」怒りの表情が薄れていくのがわかる。僕を見つめながら、夏都兄はいつもの穏やかな表情に戻った。「千里、起き上がれるか?」 夏都兄が手を差し出した。背に日の光を受けて、茶色い髪が輝く姿に見蕩れそう。「……あ、うん。大丈夫」「そ。良かった」僕が手を握ると、それ以上の力で握り返して、ぐいっと引き起こしてくれた。「あ、ありがとう。夏都兄」「どういたしまして」 夏都兄は僕の髪を撫でて乱れを直すとシャツについた砂を払ってくれた。そこまでしてくれなくてもと思ったら、耳打ちしてきた。「ベルトは自分で直せない?」4話に続くのだ。押していただけると嬉しいのだ。
2008/10/05
夏都兄は悪戯が成功した子供のような明るい笑顔を見せて、先に歩いて行った。青いストライプで襟だけ白いクレリックのシャツ。制服だから同じ物を着ているのに、僕や他の連中よりも爽やかに見える。「朝から会えてラッキー! 声もかけて貰えたよ、嬉しすぎる!」「煩いなあ」 慎吾のはしゃぎぶりが理解できない。「おい、見ろよ、夏都先輩は背筋がまっすぐだなあ。俺も真似しようっと」 慎吾が大げさに背筋を正した。そして腰で履いていたボトムを引き上げ、ベルトをかけ直しているのを見て気がついた。(ああ、そうか)夏都兄は僕と慎吾みたいにポケットに手を突っ込んだり、制服のパンツを腰ではいたりしないから誰よりも爽やかに見えるんだ。 その夏都兄に一人また一人と先輩が集まっていく。皆と挨拶を交わし、連れ立って歩く後姿を見ながら落ち着かない。 もしも、KINGになってしまったら?今以上に距離を感じる気がして不安でたまらなく、胸が塞がりそうだ。こうして僕も歩いているのに、夏都兄に追いつけない現実が寂しさを募らせる。「ああ! 思い出した! 大変だ、千里」 突然の慎吾の声にびくついた。「いきなり、何の話だよ」「生徒会長の田中先輩がいたじゃないか。あの人も票が集まるぞ! ルックスは夏都先輩が上だけど、田中先輩は眼鏡男子だからな。女子に受けるんだよ」「まだ、KINGの話かよ」 もう辟易してきた。田中先輩の顔を思い出せないし、眼鏡男子が女子に受けるとかも僕には興味が無い。でも……待てよ? その田中先輩がKINGになれば、僕の悩みは解消される!「慎吾! それ、マジな話?」「うん。予想していた友人の話だと、田中先輩は人脈があるから夏都先輩とデッドヒートだろうって」「接戦なのか」 田中先輩は人脈で分がある。どんな顔かまだ思い出せないけど、この際そんな事はどうでもいい。「そうか、それは勝ちそうだな」 口元がにやけてきてしまう。「生徒会長だから皆に顔が知られているし、人望もある。それに加えて眼鏡男子だよ。大丈夫かな、夏都先輩」「慎吾、おまえは良いことを言った。ようし、結果を見に行こう!」「え。おい、千里?」 僕は一縷の望みをかけて本気で走った。人波をかき分けてようやく校門をくぐると、結果が発表されているはずの掲示板の前には、またしても黒山の人だかりだ。「えー! 何だよ、これ。見えないよ!」 息を切らしていると、すぐ近くにいた人達が振り返った。「あ、夏都の弟だ。おまえの兄貴は人気者だなあ。弟として鼻が高いだろう?」「おめでとう、弟くん!」 まさかの喝采に目の前が霞む。額の汗を拭いながら、信じられずに意識が遠のきそうだ。「け、結果は?」「だーかーら。KINGは木下夏都だよ」「げっ」 田中先輩は、どうしたんだ? デッドヒートで負けたのか?「しかし、2位以下に差をつけて独走で1位なんて凄いな。夏都なら、良い宣伝ができそうで安心だ」「だよなー。あいつ肝が座っているし」「何よりも夏都目当てで、他校の女子が集まるぞ。もしかしたら、会社帰りのお姉さんとかも?」「なーんだ。皆、考えることは同じだな」 わいわい騒ぐ先輩達が憎たらしい。僕の兄を人寄せに使うなんて、最低だ!3話に続くのだ。携帯でも読めるように短く切っているつもりですが、長いかな―●ワッチキャップ●これからの必需品。私は年中これですが。
2008/10/05
澄みきった水色の空に、時期を外した蝉が鳴いている。もう九月だって言うのに、残暑が厳しいからかな。道を行き交う人の顔も気だるそうに見える。朝から皆さん、覇気のないことで。 そう言う僕も、今日は学校へ行きたくなくて、こうしてだらだらと歩いているんだけど。「おはよう、千里。いよいよ今日だなあ!」友人の慎吾が駆け寄って来た。その陽気な声に気持が益々沈む。全く、こいつは他人ごとだと思って……。「この日を待っていたぜ! 俺は夏都先輩で決定だと思う! なあ、千里も夏都先輩に票を入れたんだろう?」「まさか。兄に票を入れる弟がいるかよ」「ええー? そんなことを言っちゃって。学園祭の成功を左右する<KING投票>なのに、じゃあ一体誰に票を入れたんだよ!」「白紙で出した」「勿体無い! 無効票かよ」 これが僕の憂鬱の原因。校内一番の男前を決める<kING投票>の結果が、今日発表されるんだ。 KINGに選ばれた人は、今年の学園祭の宣伝者になる。顔写真で告知ポスターを製作されるし、地元マスコミにも取り上げて貰うべく学園の情報を提供して、いわゆる広報活動を一手に引き受けるらしい。名目上は学園祭を盛り上げる役目。しかし実際は色気のない我が男子校に他校の女子を呼び寄せる餌。その為に女子に受けそうな男前を選出するなんて、何だか騙しているみたいで僕は納得できない。それに……そのKINGに僕の兄・夏都が選ばれそうだから、凄く嫌なんだ!「夏都先輩がお兄さんっていいなあ。本気で千里が羨ましい!」 僕の悩みを知らない慎吾は楽しそうだ。「あの人は顔も良いけど、身長が百八十センチはあるだろう? 今は高2だから、これからもまだ伸びるぜ」 伸びてたまるか。僕の身長は百六十二センチしか無いのに。一学年違いの兄弟で、これ以上差をつけられたくない。「それに聞いた話だけどさ、面倒見も良いらしいね。部活の後輩の顔を覚えて、ちゃんと名前で呼んでくれるんだって。一年生が三十人もいる大所帯の部なのに、顔と名前が一致しているなんて凄いし、あの笑顔で名前を呼ばれたら感激しちゃうよなあ!」 名前を呼ばれたら嬉しいのかな。僕はいつも呼ばれているから、その気持がわからない。「さあ?」「……さあって。いいなあ、千里は弟だもん。呼ばれても感激しないだろうけどさ」 慎吾が不意に黙った。ザッザとスニーカーの踵を引きずる足音だけが聞える。「どうかした?」 「……夏都先輩って、頭も良くて成績が学年で上位だろう? それを全然鼻に掛けないし、いつも笑顔で接してくれるから好印象なんだよ。はあ、やること成すことに隙が無いって感じで憧れちゃうなあ」 憧れ? そんな風に思っていたのか。「その夏都先輩がKINGなら、弟としては相当自慢できるはずなのに。何で千里は陰気な顔をしているんだよ?」 僕が陰気だって? そんなつもりは無いけど、夏都兄に憧れる慎吾には僕のやるせない気持はわからないだろうな。「構わないでいいよ」「朝からその顔は縁起が悪い。夏都先輩が選ばれなかったら、どうしてくれるんだよ」「まだ、結果を見ていないだろう!」「今度は怒った。情緒不安定だなあ」 慎吾が笑っているけど、僕はちっとも楽しくない。もしもKINGになって、学園祭に女子を呼ぶ為に夏都兄がこき使われるなんて納得できない。あの笑顔は安売りするべきじゃないんだよ! 思わず握った拳が恥かしくて、ポケットに突っ込んで隠した。肩から提げたエナメルバッグを揺らしながら、溜息まじりに歩いていたら、誰かに背中をぽんと叩かれた。「え?」顔を上げたら僕を抜かす肩が見えた。慌てて見上げるともう後姿。その背中に息を呑むと、急に足を止めて振り返ってくれた。微笑みながら、その瞳は僕を見つめている。「猫背注意。背筋を伸ばせ」(夏都兄だ!)びっくりしすぎて声が出ない。口が半開きのままだ。「わかった? 千里」一緒に住んでいるのに外でいきなり会うと、どうしてこんなにドキドキするんだろう? その癖毛みたいな外ハネパーマをかけた茶色い髪に、ワックスをつけて手際よくセットをする姿を家で見たばかりなのに。家族だし、この人は兄。でもその笑顔に見つめられると鼓動が激しくなってしまう。「なつ……」「夏都先輩! おはようございます!」僕より先に声を上げるな、慎吾。それにどうしてこいつ、頬が赤いんだ。「おはよ。そんなにのんびり歩いて、2人とも遅刻しないようにね」2話に続くのだ。●実は●これはBL雑誌に初投稿したもので、商業というよりブログ連載の感じに近いな―と思います。夏都兄はなつにいと読んでください…●寒かったり暑かったり●でも今のうちに買わないと… 指穴カットソー大好きです。後で買おう。
2008/10/05
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