仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2016.07.23
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カテゴリ: 仙台
数日前の河北新報に出ていた記事だ。他のメディアでは報道されていないようなので、河北の独自取材、つまりは、厚生病院から河北新報に持ちかけたネタだろうと読める。

記事の概要はこんなものだ。



・厚生会は、東北大学農学部キャンパス移転後の再開発に関して、イオンモールと連携して厚生病院を移転整備することとなっている。
・この土地利用を審議した今年2月の審議会の場で、斎藤市議が、厚生会は県内の医療界に混乱をもたらした、ダッチロールをする問題ある団体だ、という趣旨の発言をしたという。
・厚生会としては、この斎藤市議発言が、同会の医学部構想が場当たり的で一方的に撤退したとかのような発言であり、社会的評価を低下させるものだとする。
・なお、斎藤市議コメント。審議には実現可能性に言及する必要ある。法的手段に訴えるのは、他の委員や他の審議会にも萎縮の悪影響ある。


農学部移転後の再開発に関しては、すでに土地を東北大学の落札で7者のうちイオンが220億円で落札しており(2014年1月)、イオンの土地利用の計画では、全体10haのうち、西側の4ha余りを医療福祉エリアとする。ちなみに、東半分は、商業系と住宅エリア(北側)となる。

おそらく、計画は淡々と進んでいるのだろう。2017年度中に農学部施設が解体されてイオンに土地が引き渡されるのだそうだ。仙台厚生病院は手狭で老朽化していることもあり、移転新築は厚生会としても宿願というところではないだろうか。

斎藤市議の発言を、仙台市公式サイトの 都市計画審議会 議事録(第192回、2月3日)で読んでみた。担当課長の説明のあとで最初に発言している。

(当ジャーナルで要約)
・地区計画決定にあたっては、その実現可能性が重要な視点だ。
・病院開設にあたっては医療法上の許可が必要だが、県や市に確認しても厚生会の話はないという。

(担当課長から、土地利用の制限を議論するのもので、特定の施設の協議状況などはわからない、との趣旨。)
・それで良いのか。仙台は病床過剰地域だし、どんな医療施設か、福祉もあるいうがどのような施設か、それが示されないと判断できない。
(担当課長から。決定を持って建築物の内容が定まり、実際に協議ができる状態になるもの。)
・まず地区計画を決定してくれと言うのでは審議にならない。(医療法上の)許認可監督官庁に話もない状態で審議できない。
(担当局長から。用途地域としては第二種住居地域で今でも病院はできる。さらに、地区計画によってこれ以外のものはできないようにするという趣旨だ。医療法との関係では、まず土地利用が先で、手続面では問題はない。)
・医療法の許可が前提と言っているのではなく、 どのような施設が検討されているのかを判断に際して確認したい のだ。単に厚生病院の移転だというだけで判断できない。
厚生会は医学部新設構想と関わっていた。当初は東北福祉大学と連携して構想され、今審議の場所を検討した。一転して栗原市と一緒にやろうとして、当地は医療センターともされた。そして実現が難しくなったと構想を撤回しており、ここ数年宮城県の医療関係で大変混乱をもたらしている。ダッチロールを繰り返して今に至る非常に問題のある団体だ。今移転と言うが本当に可能か大変疑問だ 。この程度の話で実現性は判断できない。


このほか、委員からは、交通渋滞、景観などの質問。病院の全面移転の実現可否についての質疑もあった。終盤で、会長から、斎藤委員の疑問を再び取り上げて「今日決めないとどうなるのか」と問われて担当課長が、「これが決まらないと施設設計が進まない。また、イオンが大学から土地を取得しているので時期までに事業を進めなければならない制約がある」と説明。

これに対して、斎藤市議は、しっかりした材料を提供して次回の5月の会議で決めても影響はないのでないかと発言。担当局長は、逆に3か月で具体的な許可の見通しは立たない、今が最善の時期だと説明。まず、本日採決することについて、挙手採決で賛成多数。



採決は多数決で承認。斎藤市議の求めで反対者2名(斎藤市議、男澤委員)を議事録に記載している。


斎藤市議の意見は、市民感覚的にはもっともだという気はする。ただし、仙台市の都市計画当局が説明するように、都市計画審議会の場においては、(事業者や当局がもつ情報は極力適時に提出されるべきだということは当然としても)移転の可能性や施設内容の詳細の点は、制度的に論議されるべき必須の事項とまでは言えないということなのだろう。

しかし、奇妙なのは、厚生会の対応だ。

公の論議なのだから、さまざまな意見があって良い。かりに斎藤氏の言い方が気にくわないとしても、その「言葉狩り」をするよりも、「医療法上の課題は現在こう考えている、当局には事前にこう説明している、見通しはこうだ」などと説明するのが先だろう。医療を提供する社会的存在として、何より患者さん達や地域住民のために、そうあるべきだ。新しく医療福祉の施設を形成するというのだから、市民や県民にその概要や手順を語るべきことは、なおさらではないか。

あるいは、斎藤市議との間に何らかの経緯があるのか。



河北新報の報道の仕方は、あくまで事実だけの形で、厚生病院の訴えに理があるとも、斎藤市議の萎縮効果の反論に理があるとも言っていない。ただし、提訴したことを見出しに掲げてややセンセーション感を醸し出したのは、関係の深い厚生病院への一応の配慮だろうか。


東日本大震災のちょっと前に、仙台厚生病院は東北福祉大学と連携した医学部構想を打ち出した。震災の後で、河北新報は、東北再生に向けた3分野11項目の提言の一環として、医学部構想を取り上げた。地域重視、臨床重視という厚生病院サイドの「理念」に河北新報社が共鳴、追随した形だ。

厚生病院が医学部を公言した頃には、すでに東北薬科大学(現在の東北医科薬科大学)は医学部設置に向けて準備を進めており、その実現可能性はともかく、医学教育界や病院関係者では周知のことのようだったが、薬科大学はあくまで周到に実現のためのステップを進めようとしていたのだろう。

その後、厚生病院側は、表面的には突然のようにみえる構想の撤回。東北福祉大学の側に課題があったと言ったり、今度は東北学院大学との関係が言われたり、栗原市が出てきたり、実態はよくわからないが、とにかく迷走だと言われても仕方ない印象はある。

事態はさらに混迷して、厚生病院の断念を受けた形で、急に宮城県が県立大学方式で設置を表明。なお、この直後に厚生病院の土地と建物が民間会社に売却されたことが、後に報道でわかっている。医学部新設の方は、郡山市に本拠をおく医療機関も構想を提出して、結局は、これらと薬科大学の三者の応募主体のうちから、文部科学省の審査会によって薬科大学が選定されたのが、2年前のことだ。

振り返ってみれば、西高東低の医師養成や充足の状況の中で、根強く伏在した仙台・東北への医学部増設論議(反対論や慎重論もあったろうが)が、大震災を機に現実のものとして滑り出した。岩盤規制に風穴を開けたのは、村井宮城県知事や関係国会議員らによる政治の力が大きいと評したいが、東北の声を形成・喚起した河北新報の役割も重要だったと思われる。

厚生会は、医学部構想と断念についてどう公に説明したのか、何らかの報道はあったかも知れないが、あまり記憶がない。迷走を指摘されて過剰に反応するよりも、「ダッチロールではない」というなら経緯や理由などを説明することが大事だろう。迷走かどうかの評価は、市民県民が行うものだ。


今回の件は、あまり気持ちの良い話ではない。足引っ張りの仙台文化が、またぞろ発露しているようで。何と後ろ向きなことか。





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最終更新日  2016.07.24 06:43:46
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