仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2025.06.04
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カテゴリ: 仙台




この福田町停車場問題は、福田町駅と高砂駅のいずれにするかで、当時の政友会と民政党の政治問題にもなって紛糾し、結局双方に設置することとなったものである。

■参考 佐藤芳男『仙石線物語』2017年
(本記事はおだずま再構成。なお、佐藤さんは1937年塩竈市生まれ、日本共産党塩釜地区委員長をされた。塩釜時事新報の連載をまとめた本とのこと。)

1 問題のはじまり

会社は福田町停留場の位置について、大正12年6月に認可を得ている。用地買収を始めた当初、数名の地主が応じないので、土地収用法の適用も考えたが年月を要するので、むしろ予定地点を放棄して高砂駅を設置しようとした。これは宮城電鉄社長山本豊次談によると(後出大正14年2月5日河北新報)、中野に停留所を要望された際(次の段落に叙述)に種々考えた結果なのだという。

中野の要望とは、大正12年12月、高砂村長遠藤音右衛門、多賀城村長鎌田猛両名の連署で、田子と八幡の中間の中野字只屋敷地点(おだずま注、現在の中野栄駅近くのようだ)に停留所設置の請願書が出された。請願の趣旨として、中野字只屋敷に隣接する部落は出花、曲田、蓬田、向田、追分、沼田、北新田の各区と多賀城村の高橋区、停留所が設置されると利便性が生まれるのは高砂村和田、蒲生町及び中野成区で、これらの部落には戸数540、人口3300余おり、県道、鉄道が通ると将来村の開発、交通運輸、子弟の教育の便が成る。請願地点の停留所は前記部落民の乗降が最も便宜の位置で、この地点を通過するだけでは、田子、福室両部落が恩恵に与るだけ。村と部民のためこの地点に停留所を設置すべき。

この中野案は会社側が停車場との間が短距離なので設置しないことにしたのを知り、高砂郵便局長花淵源吉などが、中間地点の北福室に変更するよう山本社長に懇請し、安価で敷地や人夫の提供も申し出る。会社は調査の上、建設費の少額などを理由に北福室に変更申請を行うこととなった(大正13年9月20日)。

これを知り福田町の有志家たちが会社側と交渉、政治家にも運動方を依頼して、部落の間の紛糾となったものである。



ここで、地域を知る前提として旧村を記しておく。宮城郡(陸方2郷27村)のうち、明治22年の町村制施行の際に、岡田、蒲生、田子、中野、福室の5村が、高砂村となる。

上の地図は昭和50年代のもの。まだ中野栄駅はない。

2 福田部落の対応

福田部落は大正13年7月頃から、従来通りの福田町停車場を請願してきたが、同年9月鉄道大臣に陳情書を提出。高砂村会議員佐藤松三郎など10名、区長10名、吉田源太郎外4500名の連記署名入り。

陳情の趣旨は、こうだ。大正12年に宮電が工事にあたり、停車場を高砂村福田町字原嶋に設置するから線路敷地の買収を社長から依頼された。高砂村長が町民に訴え、佐藤松三郎、菅野源太郎を代表として、将来の村の発展のため私利をなくし安価で会社の買収に応じるよう、所有者との交渉を働きかけ、約1800坪を確保した。工事中の田畑への被害も我慢してきた。すでに認可が下りたにもかかわらず、敷地が水害にあったことがないとは疑わしいと言い立て、それを口実に福室部落に移転するという。福田町は高砂村の中枢で、役場、小学校、郵便局もあり、居住する住民も福室部落の10倍、もし福室に移転するなら多数の住民は不便を強いられるから、移転認可をせず直ちに取り消すように、と陳情している。

県選出代議士藤沢幾之助外5代議士を介して嘆願書も提出している。

3 福室部落の対応

他方、福室部落を中心に大正13年10月、県知事上田満平あてに「請願書」及び「宮城電気鉄道停留所位置認可指令請願理由書」が提出された。

この概略は、高砂村は中野、蒲生、福室、岡田、田子の旧5か村からなり、田畑1800余町歩、戸数1200、人口8000余の県下唯一の大村で、仙台塩釜の中間に位置し仙塩県道が中央を通る交通上便利なところだが、七北田川が交通上障害となり中野、岡田、田子の3か所に分かれ経費が膨張し村民負担が増大、この解決が求められている。停車場の予定変更は村民の希望と一致しており、村の最西端の荒寥たる田野に面した福田町停車場予定地はほとんどの村民は便益を受けず、中野停留所の設置を要望することになった。

新旧予定地の比較がある。
・新予定地

戸数 7百余
人口 5千
・旧予定地
区(部落) 田子四区、福室一区、岡田二区(七区)
戸数 4百余


さらに、新予定地の利点があげられる。福田橋を起点としてみれば、旧予定地周辺のうち岡田二区はむしろ新予定地の方が便利という。また、旧予定地は仙塩県道と3百間余隔たり新道が必要で、村財政窮迫から実現不可能だが、新予定地は県道に接する。新予定地は福田橋から3百50間(おだずま注、約640メートル)、北に福室の大部落が風雪を防ぎ、出水の恐れもないが、旧予定地は福田町から420間と遠く、雲洞院墓地の北裏の淋しい田畑。藤川が氾濫逆流して水中に浸る恐れ。

4 宮城郡長の回答

鉄道省監督局から宮城県知事あての照会(大正13年9月26日)があり、10月13日、県から宮城郡に「宮城電気鉄道停車場の位置変更に関する件ー比較調査の上回答ー」の照会が出された。これに対する宮城郡長糟谷哲郎から、県内務部長あてに10月29日付回答がある。

郡長の回答書は、甲(田子)乙(福室区)を比較し、次のようにいう。
(1)県道等との連絡
甲は福田に接近し、福田は県道仙台蒲生と岩切及び七郷方面に通ずる町村道との十字路上にあり更に仙塩道路の分岐点にも近接。乙は、仙塩道に近接のほか、多賀城及び中野方面に通ずる町村道に接近。
(2)連携部落の利便
高砂村内において連携する部落は点々人家散在。福田は役場及び小学校の所在地にして戸数200、主に商業を営む蒲生は仙台及び塩釜への連絡は福田を経由しなければならない。
甲より福田まで約5丁、蒲生まで約1里。乙より福田まで6丁、蒲生まで約30丁。
(3)既往供水の実例
甲乙とも冠水したることなし
(4)利用区域の名勝と人口比較
甲利用を便とする区域は、福田、田子で、乙は北福室及び向田。甲は約3700人、乙は約3300人。
(5)高砂は東西約3里南北3里の地積を有し、七北田川が中央を両分する。いずれか一方に停車場を設けると他方が不便になる。ことに本村は郡内有数の米産地で、輸出上停留所をこの停車場以外に適当なる箇所にさらに必要だ。

5 塩釜警察署長の報告

また、治安面で塩釜警察署長警部木村三郎からの報告書「報告 電鉄停車場争奪問題に関する件」が知事あてに出されている。

高砂村福田町に決定しすでに認可を受け今春起工線(ママ。おだずま注:起工せん、では)としたところ、高砂村長と多賀城村長連名の上停車場の予定地より東方25丁の同村中野字只屋敷(宿在家と称する部落)に停留場設置方を請願したので、会社側が調査の結果、停車場と短距離なので設置しないことにした。しかし、高砂郵便局長花淵源吉(憲政会派)は従来福田町に郵便庁舎を借り受け北福室の自宅から通勤していた関係上自己の便宜のため停車場の予定地と停留場を設置せんとしたところとのやや中央に位置する前記北福室に停車場の位置を変更せしめんと社長山本豊次に対し停車場を変更するなら敷地を安価に提供し人夫も寄付する条件で変更方懇請したるが如く、そして予定敷地は福田町に接近し位置適当なるも田地の土盛りその他工費多額を要するに対して、北福室は位置不適だが現畑地で地価低廉かつ土工費も少額などから、山本社長は北福室に変更すべきことを応諾するに至る。これを知りたる福田町の有志家佐藤松三郎、伊藤重左衛門、安達葛四郎等は現場維持方を会社と交渉し、かつ仙台市伊澤平左衛門に運動方を依頼するなど相対峙して紛糾した。

而して、両位置の適否、地方民の意向などを視察すれば次の通り。
(1)位置の適否
予定地(福田町)は、戸数約200人家連軒し、同村のやや中央にして乗降上一般便宜の地なり。変更すべき地(北福室)は、会社からは土盛りその他工費は少額、かつ暗渠費(約800円)及び人夫の寄付あり利益になるが、この場所は、付近人家40軒散在に過ぎず不適当。
(2)地方民の意向
両部落民は各自の利便より打算し互いに自説を主張し我田引水に過ぎず、公平な観察からは福田町を適当なりと認めている。
(3)政党関係
変更の首謀者たる郵便局長花淵源吉は憲政会系として憲政会宮城県支部長の村松亀一郎と現場維持。福田町は佐藤松三郎など政友会系に属し、政友会支部長の伊澤平左衛門に運動方を依頼している。

以上の如く、目下両部落民はその成り行きを傍観し至って平静なり。然れども位置変更されるならば福田町部落民は紛擾を起こす情勢にある。現場維持なら大きな紛擾なきものと認められる。

6 当時の河北新報の報道から

・大正13年8月8日「電鉄福田町停車場問題」
高砂村の宮城電鉄停車場問題で村民が二派に分かれ大騒ぎしている。元来同社は村当局に対して福田町に停車場を設置する条件で土地買収方を依頼してきたので、交渉の結果地主も普通一段歩600円の土地を450円で買収に応じ、会社もこれを諒とし工事に着手した。しかし同村の福室部落の融資が停車場位置変更運動を会社に持ち出した結果、会社では実地測量の上同地なら工事費に余裕が生じると突如位置変更を申し込んできたので、福田町は大いに驚き、早速区民招集協議の結果、工事変更と条件撤回されては死活問題になると、交渉委員を選任し今後とも多少の犠牲を払い妥協してもらう目的で会社に交渉したところ、会社から工事費の関係で変更したとの答弁だったため、委員は工事費ならある程度まで捻出寄付する旨誓約書を申し出たがやはり交渉不調で引き揚げた。福田町に属する5部落300名は更に会社に考慮を促すと言っているが、これがために村会議員も二派に分かれ、町長(ママ)の態度曖昧と評判されている。

・同年12月23日 高砂電鉄問題 ー協調気分に傾く

・同年12月29日 停車場問題はいよいよ紛糾 ー村長助役共に辞職

・同年12月30日 「3百余名大挙して事務所を包囲 ー宮城電鉄の停車場変更から憤慨した福田部落民」
29日宮城郡原ノ町苦竹の宮城電鉄に向け、同郡高砂村福田部落民300余名が殺到し、事務所を包囲、きわめて不穏なりとの急報に接し、原ノ町派出所の桜井隼人部長は仙台署に急報すると同時に南の目苦竹南小泉その他駐在巡査を招集して現場に駆け付け鎮撫策を講じているが、血の雨を降らさんばかりの形勢なることから、高等主任梶原警部補は高砂相沢佐々木啓治部長(ママ)伊藤刑事などとともに現場に急行し協商に努めている模様。原因は、会社で最初福田部落に停留所を決定し有志家の奔走にて設備中如何なる事情か同社では突如福田側に無断で停留所を福室部落に決定したため、福田側が極度に憤慨し会社重役連を詰問すべく示威運動となったと推測される。
「代表者3名を警察部に招致、趣旨を聴取」
仙台警察署の高等主任梶原警部補の鎮撫により一時平穏に帰したが、部落民は3人の陳情者を選定し、29日午後知事官邸に面会を求めたので澤田高等課長は一同を警察部へ招致し趣旨を聴取中である。小学生の同盟休校又は同盟滞納等の不穏な計画もあるので、塩釜警察署とも連絡を取り合って善後策を講じている。
「停車場問題で滞納休校 ー福田町町民はいよいよ騒ぐ」
宮城郡高砂村福田町の宮城電鉄停車場問題はますます紛糾し村長辞職に至ったが、福田町民の意思は容易に動かず、あくまで目的貫徹の運動を続けており果ては福田町より高砂小学校に通学する児童の登校を阻止し税金滞納の挙に出る計画をめぐらせている。目下小学校は冬季休業中だが、明年1月6日より決行と示威運動しているものもあるとか、警察当局も万一を警戒している模様。

・大正13年12月31日「福田部落民無事帰村 ーその後不穏な形勢はない」
・大正14年1月16日「停車場問題と郡長の態度 ー奇怪な風説があり県も調査中」
・同年1月22日「停車場問題出郡長は板ばさみ ー無根の風説が流布されるのは心外と語る」

・同年1月29日「高砂停車場問題解決条件」
去る26日東京呉服橋末広亭に山本社長、伊澤、内ヶ崎両代議士及び福室側から花淵源吉、福田町側より佐藤松三郎氏が代表として会見し熟議の結果、会社としては一旦福室に停車場を設置すべく鉄道省に申請し近く認可に至らんとしつつあるので変更できないが、その代わりに福田町に停留所を設置して福田町側の面目を持たせることの調停案が成立したので、今後紛争を起こさないことを誓い手打ちを済ませた。なお、会社側では認可あり次第直ちに工事に着手すべく諸般準備中で、昨日帰仙せる村松亀一郎氏も問題の解決を見たことは会社にも地方にも喜ばしいと語っていた。

・同年2月1日「高砂停車場問題の条件」
確実なる妥協案は下のごときもので、いまだ何れに停留所を置くかについては鉄道省の指定に任せ何れともまだ決定せざるとの由である。
(1)停車場の設置場所は鉄道省の認可通りにて異議なきこと
(2)停車場を設置されない方には停留所を設置すること
(3)停留所を設置の方に対して、停車場設置の部落より金3千円を提供すること

・同年2月5日「福田福室の工事同時に着手して同時に使用する計画 山本電鉄社長談」
山本社長はこう語る。高砂村内の停車場位置について村内の紛糾を惹起したことは遺憾に堪えない。実は中野に停留所を設置してもらいたいとの要望(おだずま注、大正12年12月、中野字只屋敷地点に設置の請願書)があった際、種々考慮の結果、停車場を福室に変更すればその中央に位置するが故に村内の利便ともなり且つ会社の建設費を節約しうるので、変更設計を立てたのであった。然るに村内では、電鉄の利用に重きを置いた結果面白からぬ事象を現出すべしとて福田町に停車場を設けるべしとなし熱心に唱導された。かくして延遷し解決に手間取る有様となったところ、各方面の同情となりことに本県選出の代議士及び県会議員の斡旋を受け去る24日関係者の会合を東京で開いたのを端緒とし福田町福室間の妥協が急転直下的に進捗し、26日には停車場は福室に停留所は福田町に設け、かつ福室より停留所建設費として3千円を福田町へ提供することにて解決を告げるに至った。かくして今月2日付で認可の指令を発せられた。以上の如く各有力者の尽力を煩わしそんなない多数者に心痛せしめたことは慙愧の他はなく、今後ますます奮励して一般の期待に副うべく各方円の援助を受けたい。されば、福田町と福室の建設工事については同時に着手し同時に使用せんとの計画を進めている。

・同年2月16日「宮城電鉄 高砂条件ー遂行は容易」
1月下旬円満解決した高砂村停車場問題は、その条件として福室より福田町停留所の建設費中金3千円を提供する件について、一部落では負担に堪えうるか疑問ありというが、会社においてもいよいよ起工の場合には有利の採算にて福室側の負担を遂行せしむるよう取り計らうというから、一概に現金提供と見たる一部の推察は杞憂に過ぎまいとの事である。





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最終更新日  2025.06.04 19:05:49
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