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September 17, 2005
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カテゴリ: 教授の読書日記



先日、ミルズ&ブーン社がペーパーバック出版に関してカナダのハーレクイン社と業務提携を結び、その結果、1960年代末には押しも押されぬロマンス小説出版の大手になって行った、というところまでお話ししました。そして、その得意の絶頂にあった1968年、さらなる追い風がミルズ&ブーン社に向かって吹いてきた、ということも言いましたね。今日はその続きです。

さて、では1968年に何が起こったかと言いますと・・・この年、ロマンス小説にまつわる学術的な調査が行なわれたんです。そして、その調査結果が公にされ、巷の話題になったんですね。何しろそれまで「女子供の読むもの」として蔑まれてきたところのあるロマンス小説が、この時初めて学術的な研究対象になり、その結果が公表されたというのですから、いわばこれは「ロマンス小説」に関する「キンゼイ・レポート」みたいなものだったわけ。その意味で、これはなかなか画期的な出来事だった。

で、その調査を行なったのはシェフィールド大学の社会学の先生で、ピーター・マンという人です。ピーター・パンじゃないですよ、ピーター・マン。彼はミルズ&ブーン社の顧客リストから9300人を選び、彼女らを対象として25問のアンケート調査を行ったんです。で、回答してくれたおよそ3000人分のアンケート結果から、「ロマンス読者」の傾向というものがおおよそ分かってきた。

それによると、ロマンス小説を読む層というのは15歳から80歳と幅広いものの、メインとなる読者層は25歳から44歳の女性なんですね。で、読者の38%は主婦、37%はOLで、「ブルーカラー」の範疇にある読者は予想外に少なく、9%という結果が出た。さらに教育面から言うと、読者の44%が高校卒業、17%が専門学校卒業資格を持っていることが分かり、当時のイギリス女性の教育状況から言えば、平均以上の学歴を持っていることが分かった。

つまり、それまでロマンス小説を読む人なんて、よほど学歴・教養のない連中だろうと思われていたところがあったのですけれど、この調査によって、この偏見が根拠のないものであることが明らかになった。ミルズ&ブーン社のロマンスを読む女性たちの典型というのは、中程度以上の教育を受け、中流の仕事についている女性たちであり、またそういう仕事を経て結婚した主婦たちであって、どこから見てもごく健全な読者層だったわけ。ここが重要なんですね。しかも、そういう健全な読者層からの評価として、ミルズ&ブーン社のロマンスは「読み易く、かつ健康的である」というお墨付きも、この調査で得ることができた。

ミルズ&ブーン社のロマンスは健全な娯楽であり、またそれを読んでいる読者層もきわめて健全な人たちである。ピーター・マンの調査によって明らかになったこの結論は、ミルズ&ブーン社にとって非常に重要な転機となりました。え? この程度のことが転機になるの? と思われるかも知れませんが、少なくともミルズ&ブーン社の経営陣にとってはそうだったようで、同社の経営部門を率いていたジョン・ブーン自身、ピーター・マンのレポートは「センセーション」だったと回想しています。なぜなら、このレポートの後、ロマンス小説という文学ジャンルに対する一般社会の軽蔑的・揶揄的な態度が少なくなったからです。ま、逆に言えば、ロマンス小説を主力商品としてきたミルズ&ブーン社が、それまでいかに業界内外からのいわれなき揶揄を受けてきたか、ということの証左でもあります。それほど、ロマンス小説というものの文学的評価は低かったんですね。それだけに、そういう評価に耐えながら良質のロマンス小説を出版し続けた甲斐があった、ようやく報われた、という感慨があったのでしょう。

さて、このような社外からの予期せぬサポートのせいか、この後もミルズ&ブーン社のロマンス小説は売り上げを伸ばし続けます。1969年には年間セールスが1500部を突破しましたが、この勢いは止まらず、1970年には1800万部、翌1971年には2500万部となる。しかもこの年にはミルズ&ブーン社のロマンス小説は14カ国語(フランス語・ドイツ語・イタリア語・スペイン語・ポルトガル語・オランダ語・デンマーク語・ノルウェー語・スウェーデン語・フィンランド語・ギリシャ語・マルタ語・ヘブライ語・アフリカ語)に翻訳され、海外への輸出も順調でした。ペーパーバックの売り上げも450万部となり、これはイギリスのペーパーバック出版社の中でも第9位に位置するもの。トータルの純益は21万2千ポンドと、こちらもまずまず。イギリスでも数少ない家族経営の出版社として、これは錚々たる実績と言ってよいでしょう。

で、これだけ順調に利益を上げる出版社となると、他の会社から目をつけられるようになるのも当然で、この頃から同社は大手出版社から買収の話を持ちかけられるようになります。たとえば1971年にはハイネマン社という大手がミルズ&ブーン社に対して買収を持ちかけている。ま、既に専属の人気ロマンス作家を数多く擁しているミルズ&ブーン社を買収すれば、すぐにでもこの市場に参入できますからね。もっとも、この申し出に関しては、結局ハイネマン社の方からキャンセルすることになりました。下世話なロマンスなどを出版してはハイネマン社の名折れだ、という意見が社内の趨勢を占めたんですね。先程、ピーター・マンのレポートでロマンス小説の株が上がったということを言いましたが、それでもやはり、貴族的なイギリスの大出版社の目から見れば、ロマンス小説の出版社なんていうのは、この程度に見られていたわけです。



とまあ、そんなことを考え始めた矢先、カナダのハーレクイン社がミルズ&ブーン社に対して買収の申し出をしてきたんですね。まさに渡りに舟のタイミングです。で、ミルズ&ブーン社はこの話に乗り、1971年10月、ミルズ&ブーン社はハーレクイン社の買収を受けることとなります。買収価格は1200万ポンド。と同時に、アラン・ブーンとジョン・ブーンはハーレクイン社の社外重役に納まるわけ。かくして、二人の野心溢れる出版人が興し、後にはブーン一族のファミリー・ビジネスとなったミルズ&ブーン社は、その創業から60年と少しの時間を経て、一つの区切りの時期を迎えたのであります。

さて、次回はこの買収劇について、今度はハーレクイン社の立場から振り返ってみたいと思います。それでは、続きはまた!


今日は午後から学会なんです。この地方のアメリカ文学の専門家が集る定期研究会。「お気楽日記」はまた夜更新しますので、そちらの方もお楽しみに!





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Last updated  September 17, 2005 11:59:07 AM コメントを書く


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釈迦楽@ Re[1]:スペイン優勝、そして早くもW杯ロス(07/20) ゆりんいたりあさんへ  いやあ、メッシ…
ゆりんいたりあ @ Re:スペイン優勝、そして早くもW杯ロス(07/20) 釈迦楽さん、 ご無沙汰しております。 お…
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