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July 12, 2009
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カテゴリ: 教授の読書日記



 1960年代初頭、伊丹さんが若き国際派俳優として外国映画『北京の五十五日』や『ロード・ジム』などの撮影に参加するにあたってヨーロッパに渡った時の経験などを元に、彼の地で見聞した風俗を語ったり、またヨーロッパの本物に触れたことで培われた伊丹さんのダンディズムなどを語ったのが本書の内容、と言えそうですが、何せ1960年代初頭なんて、日本人で海外に出かけられる人なんぞ、そう沢山はいなかった時代ですから、ここに書かれたもの珍しい見聞録がいかに日本で多くの人に興味をもって読まれたか、想像できるというものでしょう。

 例えば「ヨーロッパじゃカクテルを楽しめるようじゃなきゃ」とか、「スパゲティの食べ方の正調ってのはこんなもんだ」とか、「男たるもの、タクシード(タキシードではないところに注目)の一着も持っていないようじゃダメ」とか、そういう話がバンバン出てくる。で、こういう話はヨーロッパのことを知っている著者と、日本から出たことのない読者の間の圧倒的な知識の差に基づいて語られるわけですから、少なくとも当時の読者としては、キザな若造俳優の蘊蓄を拝聴する形になってしまう。

 となると、なんとなく、厭味な本になりそうな気がするでしょ? ところがね、実際に読んでみると、そんなに厭味な感じがしないんだなあ。

 ま、当時と今では状況が違いますからね。私にとって伊丹さんはよほど年上、大物俳優であり、人気映画監督であり、すでに物故された方ですから。上の人からそういう話を教えてもらう形になるので、全然違和感がない。

 それに加えて伊丹さんという人は、なんかこう生まれつき超俗の人で、どこか貴族的なところがあるものだから、そんな人に「ヨーロッパじゃこうですよ」なんて言われると、ついこちらも素直に「ああ、そうなんですか・・・」と承ってしまうところがある。本人が意図したかどうかは別として、本質的に厭味になれない人だったんじゃないでしょうかね。

 むしろ私が驚くのは、よく短期間にこれだけヨーロッパ通になれるもんだな、というところです。詳しく伊丹さんの経歴を知っているわけではないですが、彼がヨーロッパに行っていた期間なんて、そんなに長くないでしょ? それなのに、これだけの蘊蓄を語れてしまう。すなわち、伊丹さんという方はそれだけ頭の回転が速い、ということなのではないかと。

 でまた、そういう頭の良さと同時に、今回この本を読んで、「伊丹さんというのは、そういう人だったのか・・・」と驚いたのは、彼がものすごくオーソドックスな思考をする人だ、という点です。

 伊丹さんはミドル・クラスというか、中流階級の感性を嫌うところがある。例えばダンヒルのライターを買ったり使ったりするのはいいと。ただ、そのダンヒルのライターに、自分の名前を彫り込んでいたりしたら、それはダサいでしょ、と言うんです。また、高級車に乗るのはいい、ただ、高級車で銭湯に行ったらカッコ悪いでしょ、と言う。高級なものを使うなら、生活の隅々まで高級にやれ、と。逆に貧しいなら、背伸びするな、と。その中間をとって、高級なものをケチケチ使ったり、貧しいのに無理して高級なものに手を出すのは、ミドル・クラスっぽくてカッコ悪いよ、と、その辺は断固として思っている。



 暑い日本の夏で、半袖のワイシャツを着るのはいい、ただ、そこにネクタイをするのは良くない。そもそも暑いから半袖にしたのであって、そこへ持ってきてネクタイをして余計暑くするのは筋が通らん。そういう風に言い切る伊丹さんの感性というのは、すべからくこの「筋を通す」というところから発していて、一切ブレがない。

 で、多分、伊丹さんという人は、この調子で万事、筋を通して、ブレなく生きた人であり、それが彼のダンディズムなんだろうと。

 ま、この本を読んで私は、伊丹さんという人をそのように理解しました。それが当たっているかどうかは分かりませんが。

 とにかく、処女作というのは往々にしてその人のすべてが出るものでありまして、その意味で、伊丹十三という人を手っとり早く知るためには、本書『ヨーロッパ退屈日記』は、恰好の材料ではないかと思います。

 彼が亡くなって早や十年。再考するのにはふさわしい時期かも知れません。才気溢れる男の若かりし日のエッセイ、一度読んでおいても損はないのでは。教授のおすすめ!です。


これこれ!
 ↓

ヨーロッパ退屈日記





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Last updated  July 12, 2009 07:33:33 PM コメント(2) | コメントを書く
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Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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