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April 14, 2016
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カテゴリ: 教授の読書日記
 研究室の窓からふと外を見ると、ついこの間まで落葉しきった枝で空に格子を描いていた欅が、芽吹いたばかりの新緑を風にざわざわとなびかせております。段々、寒くも暑くもない、いい季節に入ってきますな。GWまであと2週間の辛抱。

 父の米寿記念の写真俳句集の出版へ向けて、少しずつ動いておりまして、昨日は出版社の方と打ち合わせ。

 ところで、写真俳句というのは写真と俳句が対になって一つの作品をなすので、句のページと写真のページが隣り合わせになる。だけどね、出版コストという面から言うとこれはまさに地獄絵図でして、一番金がかかるタイプの出版形態なわけ。例えば「口絵」と称して本の冒頭とか真ん中辺にカラーページを集めてしまうと、めでたくコストダウンになるのですけど、文章と写真が混在するとなるとそうはいかない。結局、白黒のページも含め全頁カラー印刷になるので、出版費用がすごく高くなってしまう。

 ということで、普通の印刷・製本方式だとお金がかかりすぎることが判明したので、今回は「オンデマンド方式」の出版形態をとることに。これだと、1冊単位で出版部数も決められるので、無駄がないからね。



 さてさて、「昭和の男」シリーズ、今日は1980年代前半の、アカデミック系雑誌について。

 ニュー・アカ・ブームが起こっていた1980年代初頭、『ユリイカ』とか『現代思想』といった雑誌が幅を利かせていたって話をしましたが、もう一つ忘れてならないのが、冬樹社が出していた『GS たのしい知識』という雑誌。1984年創刊で、浅田彰、伊藤俊治、四方田犬彦責任編集で、印象としては「鳴り物入り」で出た、って感じ。その創刊の辞がこちら。


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 知識は長いあいだ重力の魔にとらわれてきました。ものを知れば知るほど、人は悲しみの淵に沈みこむ。学問を重ねるほどに、陽もささぬ、狭い洞窟のうちに幽閉されてしまう。古来より哲学者たちが唱えてきた「絶学無憂」の一語こそは、こうした知識の不幸をめぐるパラドクサルな意識のあらわれであったといえるでしょう。



 十二世紀のトゥルバドールたちは自分の作詩術を、オック語でla Gaya Scienzaとよびました。この語がのちにニーチェの警句集の標題となり、最近では映画作家ゴダールが〈五月〉直後に撮った作品にまで深い影を投じていることは、よく知られているところです。陽光のなかの軽快な知識。舞踏と哄笑をともない、たえずおのれの位置をずらしてゆく知識。わたしたちが必要としているのは「歓ばしき叡智」でも「華やぐ知慧」でもありません。音楽に、哲学に、映画に、休みない横断線を引き続ける「たのしい知識」なのです。

 速度、浮気っぽさ、ユーモア。「たのしい知識」は、これまで知識が厳粛な表情のもとに禁じてきたこうした要素を、異教の神の魔法のマントのように身にまといます。秘教伝授の経典でも、能率のよい啓蒙書でもない、この軽薄にして過激な知的倒錯の企てを、どうかあたたかい眼で見守って下さるよう、お願いいたします。

*******


 うーん! 今、こうして読み直すと、今から30年ちょい前の知の最前線の傾向っていうか、手触りが実によく蘇って参ります。

 軽やかに書いてあるけれども、この文章の中にはニーチェだとかなんだとか、様々な引用やオマージュが散りばめられていて、それらに気づいたら、実はこれが恐ろしいほどの教養を踏まえた文章だということがわかるし、その一方で、そうなんだよ、というヒントもあちこちにあって、教養を隠しているのか、見せびらかしているのか、どっちにも取れる(実際、両方なんだろうけれども)。その辺のことも含めて、1980年代ってこんな感じだったよなと。

 だけど、大きく見ればやっぱり「軽チャー」の流れの中にあるものでしょうねえ、この雑誌に集った執筆陣はそのつもりはないのでしょうけれども。

 そう、それからこんな感じで「知」が「たのしい」ものとなり、やがてファッションともなった1984年、『マリ・クレール』っちゅー雑誌が、『スーパー・エディター」こと安原顕氏の手によって、女性ファッション誌からカルチャー誌に変貌した、なんてこともありました。安原顕さんって、以前には『パイデイア』とか『エピステーメー』を創刊した人で、毀誉褒貶相半ばする人ですけれども、ま、それでもとにかく1980年代の知のありようを考える時にはどうしても名前の出る人ではありますな。

 とにかく、1980年代のニュー・アカ・ブームってのは、今振り返ってみると、「知」なるものをファッションにまで変えたという点で、案外、大きなムーヴメントだったのではないかと。そして、まさにそういうブームの中、私は大学生活を送っていたのでございます。





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Last updated  April 14, 2016 11:02:07 PM
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Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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