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August 19, 2016
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カテゴリ: 教授の読書日記
 朝起きて、スマホ開いて、吉田沙保里選手の敗戦を知って、ガックリした人、手挙げて! (はーい! はーい!)

 私もその一人。

 もう、今日はテレビ、見られんなあ。可哀想過ぎて・・・。

 私、格闘技関係詳しいので、吉田選手だって負けることはあると思うわけ。相手はめちゃくちゃ研究して吉田選手の得意ワザを封じてくるわけだし。柔道もそうだけど、たとえ実力が上でも一瞬のスキで負けることはあるからね。

 だけど、世間はそうは思わないと思うんですよね・・・。

 たとえば我が父上とか。

 昨日までは「吉田は絶対勝つ。また金メダルが増えるぞ〜」とか言っていたのに、今朝になったら「やっぱり年齢か。昨日見た試合も圧倒的に強そうには見えなかったしな。調子に乗ってテレビCMとか出ているからじゃないのか? CMなんか出ている間に、練習しなくちゃダメだったんじゃないのか?」とか、すっかりお見限り。

 いや、たまたま今回は負けたけど、それは年齢のせいじゃないよ。33歳の今でも吉田は圧倒的に強い。それにCMの撮影なんてせいぜい一日で終るので、練習不足なんてことはありえないよ。

 ・・・と、そんな風にいくら私が弁解したところで、「吉田はもう歳なんだ。それにCMやテレビに出てばっかりで、あんまり練習しなかったに違いない。もう彼女はダメだね」という父の確信はまったく揺るがず。



 勝つことを期待され続けることって、裏返せばそういうことなんだろうな。

 その想像を絶する辛さを思うと、私は今日、沙保里ン関連の報道なんかとても見られない・・・。伊調は4連覇したのに、という明暗がまたね、何ともアレで。

 でもまあ、ともかく、沙保里ンよ、お前さんが空前絶後の驚異的に偉大なレスラーだってことを1000%分かっている人もまた大勢居るんだから、涙を拭いて顔をあげて、伊調選手と肩組んで堂々と帰っておいで。



 さてさて、このところ時間がある時に読んでいた森本あんりさんの『反知性主義』、ようやく読み終わりましたので、ちょっとだけ心覚えをつけておきましょう。

 「アメリカの反知性主義」っていうと、「そうそう、アメリカ人って馬鹿っぽいよね。まだ進化論信じないで、聖書に書いてある通り、人間は神が直接作ったので、サルから進化したんじゃないって考えている人が大勢居るんでしょ?」的な理解をしてしまう人って多いと思うんですよね。つまり、アメリカ人は基本馬鹿で、だから逆に頭のいい奴とかエリートなんかが嫌いだと。

 そんな感じの「反知性主義」理解ってのは、半分くらい当たっているところもあるけれど、残りの半分は誤解であるーーじゃあ、それがどうして誤解なのか、それを説明したのが本書でございます。

 アメリカはキリスト教国家。それはそうなんだけれど、宗教ってものは、それが根付いた土地によって土俗化し、固有のものとなるわけですよ。で、アメリカの場合、カトリック、あるいはその亜流たる英国教会の腐敗を糺さんとして派生したプロテスタント国家として誕生する。

 プロテスタントだから、教会の権威とかは認めないのだけれど、そのため逆に一般キリスト教徒がしっかりしなきゃいけない、ということになり、一般信徒に要求される知的レベルのハードルが上がると。

 教会の司祭が教会を取り仕切ってりゃそれでいい、っていうのは、ある意味、楽なのよ。司祭だって、毎週決まりきったラテン語のお念仏を十年一日のごとく唱えているだけでいいんなら楽なもんだし、それを聞いたフリしてりゃいいってんなら、信徒だって超楽。

 だけど、そういう形式的な礼拝ではなく、毎週、牧師が自分の言葉で信徒たちに語りかけ、聖書の文句を詳しく解説しなきゃいけないとなったら、プロテスタントの牧師は勉強が大変だし、その牧師の長口舌を何時間も聞いて理解しなきゃいけないとなったら、信徒もきつい、きつい。

 で、アメリカの場合、プロテスタントの牧師にはそういう義務が課せられたからもう大変、牧師になるのも大変で、その養成機関としてハーバード大学やイエール大学、プリンストン大学などが作られた。これらの大学がアメリカで国家自体よりも長い歴史を持っているのは、植民地時代、牧師の養成が焦眉の急だったからですな。



 当時、「回心」を経験し、信念をもってキリスト教徒となった人だけが正式な教会員として社会的な認知を受ける(だから政治運営にも携われる)システムだったのだけど、植民二代目、三代目ともなると、自分がちゃんと回心したんだろうか、神の恩寵を実感として感じたことはあるんだろうか、って部分に自信が持てなくなってくると。オレ、ちゃんとしたクリスチャンなんだろうか? という疑問に悩まされるわけですな。

 そこへ登場したのが、「リバイバル(信仰復興運動)」って奴ね。時代は18世紀半ば、立役者はジョナサン・エドワーズと、イギリスからやってきたジョージ・ホイットフィールド。特に後者の平易な言葉による情熱的な説教が、アメリカ人の「俺も早く回心しなくちゃ!」という焦りとの相乗効果で集団ヒステリーを生み出し、通常の教会活動の外部において宗教的熱狂を煽ることとなる。このホイットフィールドの説教には、かのベンジャミン・フランクリンもすっかり当てられたというのだから、すごいもの。もちろん、ちゃんとした教会はこうした事態を由々しきものと考え、ホイットフィールドには教会を使わせるなとか、意地悪をする。だから仕方がないからホイットフィールドは日曜以外の曜日に、屋外で説教したりするんだけど、庶民はホイットフィールドの説教の方が面白いから、みんなむしろそっちの方に聞きに行ってしまう。

 これよ、これ。ハーバード出のインテリが語る知的な聖書講義より、庶民派ホイットフィールドの平易な言葉の方が、民衆の心を捉えるという現象。これが、いわば、「反知性主義」の萌芽でございます。

 さて、その後、アメリカでは長老派などの主流教会の他に、バプテストとか、メソジストとか、クエーカーとか、色々な宗派が栄えるようになるのですが、そうなるとそこに主流派対分派の争いが起るようになる。で、もちろん主流派が分派を弾圧する形になるのですけれども、そこで第三代大統領ジェファソンとか、第四代大統領マディソンなんかが登場。彼等は熱心なクリスチャンじゃなかったけれども、自由とか平等とか、そういったものの熱心な信者ではあったので、主流派とはいえどもいじめはゆるさーん! とか言って、政教分離しちゃった。これによって、それまで地域の税金で賄われてきた主流派教会は、その税金収入を失うわけ。その意味では、主流派も分派も「平等」になっちゃったと。



 それはともかく、こうした流れの中で、今まである意味威張っていた主流派教会は、こうした動きの中で威張れなくなっちゃった。「宗教的権威」が一敗地にまみれたわけですけど、これもまた「反知性主義」の顕われでございます。とにかく、「権威」をやっつけるってのが、アメリカの国是みたいになってくるわけ。

 同じことが政治の世界にも起ります。それまでアメリカの大統領って、ワシントンにしてもアダムズにしてもジェファソンにしてもマディソンにしても、いいとこの坊ちゃんばかり。よく考えれば意外なんだけど、この時代までは貴族的なジェントルマンがリーダーとしてアメリカを仕切ってきたし、庶民もそれを望んでいた。

 ところが19世紀前半、アンドリュー・ジャクソンがアダムズ(ジョン・クインシーの方)の再選を阻止して大統領になるんですけど、このジャクソンが庶民出身の超悪ガキだった。後のリンカーン、「丸太小屋からホワイトハウスへ」のリンカーンの先を行って、庶民派大統領の誕生です。これもまた、「エリートなんか糞食らえ」の反知性主義の一つの実例。そしてジャクソニアン・デモクラシーと呼ばれる、叩き上げ重視、庶民パワー重視の時代がやって来る。口八丁手八丁、知性よりも腕力、みたいな時代ですな。もっとも19世紀末になると、再び専門家の出番となるので、こういう非エリートが縦横に活躍する時代というのは案外短いのですけれども、それだけにこの時代は「アメリカの青春時代」と言うこともできましょう。

 で、この時代に第二回目の「リバイバル」がやってきます。このときの立役者はチャールズ・フィニー、そしてドワイト・ムーディー。特にムーディーは、相棒の歌手サンキーを伴い、サンキーの提供する「音楽」という武器でもって人心を惹き付けることに成功。

 ところで、フィニーやムーディーの説教の運営方法自体がすごくビジネスライクだということも含め、彼等の説教のキモは、信心深くあることが現世での利益につながるよ、ということで、それがまた多くのアメリカ人を惹き付けることになるんですな。トクヴィルも指摘するように、アメリカの宗教の顕著な特徴として、信仰が現世利益に密接に結びついていたと。ま、もともとアメリカのプロテスタンティズムには、「信仰するから、色々恵んでください」という二方向の契約を想定しているという特徴があったのだけど、それがここへ来てその性格がより明確になったと。そしてまたそれは「自助」と「天助」は二つで一つだ、という考え方にもつながって来るんですな。一生懸命やったものを、神が助けてくれるっていう。

 そいでもって、二十世紀に入って、もう一人、強烈に個性的な説教師が登場する。それがビリー・サンデーでございます。

 孤児院育ち、プロ野球選手を経て説教師へという型破りな生い立ちのサンデー、これまた無知無教養ではあるのだけれども、神を信じることにかけては人後に落ちず、情熱とショーアップされた説教一本槍でガンガン人を回心させてしまい、大統領からも一目を置かれるほどの時代の寵児となっていくという。二十世紀に入ってもまだ、彼のようなタイプが伸して行くスペースがアメリカにはあったのでしょう。

 とまあ、こんな感じでアメリカの歴史を振り返ってみると、要所要所でこの種の「反知性主義」の事例が噴出してくる。

 で、じゃあ、この反知性主義ってのは何なのかと言いますと、その基本は、アメリカ人の骨身に徹した「平等主義」だと、森本さんは指摘されています。学問のあるなし、金のあるなし、身分のあるなし、それは色々ある。だけど、神の前ではみな平等なのであって、だから学問も金も身分も何にもなくたって、そういうものを持っている人たちと同じように活躍できるという信念。そしてこの信念が最も発揮されるのは、学問や金や身分が「権威」という衣を纏った時。

 つまりね、学問があるのはいいことなんです。反知性主義は、学問の価値はちゃんと認めるわけ。だけど、学問をもった人だけが政治を牛耳る、社会で発言権を持つ、そういうのはダメなんですな。同じように、金を持っている奴が金にあかせて権力を握ろうとしたり、貴族的な人がその貴族的であることを笠に着て、庶民を牛耳ろうとしたりしたら、それには猛烈に反対する。

 そういう意味で、アメリカにおける反知性主義というのは、特権的なものが特権を得ようとした時に、それを阻む方向で動く。そういうものなんですな。ここが間違っちゃいけないところで、「馬鹿な奴が馬鹿な奴を支持する」というのとは全然違う。そうではなくて、それは社会を健全な方向に引き戻すための力、なんです。

 ま、これが森本さんのご著書の言わんとしているところでございます。

 でもそうやって考えてみると、色々分かることもあるかなと。例えば昨今のアメリカ大統領選。エスタブリッシュメントを代表するヒラリー・クリントンがなぜトランプみたいなアホに苦戦するかというと、そこに反知性主義があるからなんでしょうな。だから、反知性主義というレンズで見ると、アメリカの理解できない動きというのが理解出来るようになるところがある。

 そういうことに加えて、アメリカの宗教派閥についての基礎知識とか、本書を読んで勉強になったことは沢山あります。ま、そういう意味では面白い本でございました。

 ただ、何だろう、この本、普通なんですよね。

 なんか突出的に面白いとかそういうところがなくて、普通なの。普通に良い本。だからね、本書の帯にあるように「朝日、読売、毎日、日経・・・各紙で絶賛の嵐!」とか書かれると、うー、そうかなーーって思います。普通だよ、普通。絶賛ってのは、もっと他の本にとっておいた方がいい賛辞じゃないかな。

 でも、普通に良い本ですよ。だから普通に、教授のおすすめ!としておきましょう。


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Last updated  August 19, 2016 02:37:44 PM
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Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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