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April 4, 2019
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カテゴリ: 教授の読書日記
先日、嵯峨景子氏の『コバルト文庫で辿る少女小説』を読んで得るところがあったので、今度はコバルト文庫のライバルたる「講談社X文庫ティーンズハート」の方の事情を知りたいなと思い、初期ティーンズハートの花形作家だった花井愛子氏の『ときめきイチゴ時代』という本を読んでみました。ので、ちょいと心覚えをつけておきましょう。

 この本、序文が面白くて、花井さん、この本を書く前に『いちご畑に吹いた風』なる同趣旨の本を思いつきで書き上げ、その300枚の原稿を知り合いの編集者に託していたというのですな。が、いざ講談社がそれを本にしてくれるとなった時、その編集者から原稿を取り戻そうとしたら、既に処分されていた。だから、この本は一度失われた『いちご畑に吹いた風』を苦労して再現させた二度目の本であると。

 いやあ、キツイね、それ。300枚の原稿を勝手に処分されるって・・・。

 ま、そんな来歴を持つこの本ですが、これ、『コバルト文庫で辿る少女小説』を読んだ後で読むと、より一層、面白く読める本です。

 『コバルト文庫で辿る・・・』では、コバルト文庫成功の背景として、まず『小説ジュニア(後のコバルト)』という雑誌が母体としてあり、この雑誌で新人賞を創設して新人作家を次々と発掘、その新人にコバルト文庫を書かせることで、文庫の新陳代謝の仕組みを作っていたこと、さらに作家同士の交流の場や、作家と読者の交流の場を出版社が率先して作ったことによって、コバルト文庫を愛する人々の団結を強めたことなどが指摘され、さらに講談社のティーンズハートはそういうことをしなかったから没落したのではないか、ということがほのめかされておりましたが、確かに『ときめきイチゴ時代』を読むと、その指摘は正しかったのかなと。

 で、その意味で講談社の作家の扱いやファン対応のまずさを一番強く感じていたのが、ティーンズハートの花形作家、花井愛子だったのかなと。

 そもそも作家というよりはコピーライターとして成功し、その縁でたまたま講談社X文庫ティーンズハートの企画に途中から参画することになった花井氏、もともとコピーライターとしてイベントの企画などは得意だったわけですが、そういう観点から見ると講談社のティーンズハート企画の甘さは相当なものだったようで。

 大体、ティーンズハートの企画・編集を担当すべき部署が文芸サイドとコミックサイドの二部門に分かれていて、相互に協力しようという気概がない。集英社のコバルト文庫が売れているようだから、うちでもそういうのをやっといた方がいいんじゃね、的な安易なところからスタートしているので、企画・編集への熱さもない。言っては悪いが、ダメダメ編集者の寄せ集めみたいな部署だったんですな。



 そういう、作家ではあるんだけど、企画にもある程度参画する、という不思議な立場で花井さんはティーンズハートを育てていくわけですな。例えば表紙絵に人気漫画家を採用し、普段コミックを読んでいるような女子中高生を表紙のイラストで引きつける作戦など、花井さんが発案して押し通したものだったのだとか。また、一人の作家には一人の漫画家、というように、作家と漫画家をセットで売り出すというやり方も花井さん考案の戦略だったそうで。

 一方、作家としての花井愛子は、講談社の校閲部と喧嘩しながら、当時のイマドキの中高生の口調を再現するような言い回し、句読点の打ち方を採用し、「ページの下半分真っ白」と揶揄されることもあったあの単文を並べる特異な(あるいは宇能鴻一郎的な)文体を確立。さらに別のペンネーム2種も駆使して月に3作書くというようなすごいペースで作品を発表し続けたと。何しろ10年間で200作、2000万部を売ったというのだからその売れ方は半端ない。

 しかし、そうやってティーンズハートの中枢に居て花井さんが忸怩たる思いを抱くのは、集英社の作家対応・ファン対応とは異なる講談社の在り方。例えば、原稿料における差を知られないために、作家同士をなるべく引き離しておくような戦略とか。売れ筋のコミック部門を守るため、多忙な売れっ子漫画家にティーンズハートの表紙絵を描く仕事をやめさせようとするとか。ティーンズハートの作家を低く見て、彼女たちを社主催のパーティーに呼ばないとか。

 ま、結局、講談社にとってティーンズハートは鬼子扱いというか、どーでもいい部門だったんでしょうな。しかし花井さんたちティーンズハートの作家たちからすれば、自分たちの仕事によって講談社は相当潤ったはずだという自負がある。それなのに、なんでこんなに冷遇するんだ、と。

 コバルト文庫が存続し、ティーンズハートが終刊せざるを得なかった要因というのは、突き詰めていけばそういうところまで遡れるのかも。

 しかし、それだけではもちろんない。あれほど短期間に大量の小説を書いた花井愛子自身のブランド力の低下も、もちろん要素の一つとしてあった。

 ま、花井愛子氏自身、自分はコピーライターであって作家としての腕がそれほどある訳ではないという自覚はあるのですが、それがなりゆきで200作も書いてしまうと、やはり飽きられるのも早かった。

 で、いつしか「花井愛子」の名前が付いているだけで、その小説が売れないという状況がやってくる。そのため、花井さんも新しいペンネームの下、花井愛子であることを隠して書いてみたりもしたようですが、売り上げの低下は無惨なほどで。

 ま、冒頭で書いた「原稿300枚勝手に処分される」事件も、業界内に既に「花井愛子の本は売れない」というアレができ上がっていたからこそ、なんでしょうな。

 『ときめきイチゴ時代』を出すに当たって、花井さん自身は当初「単行本で」と思っていたようですが、講談社の方からリスクが高すぎるとして、文庫で出すことを逆提案される始末。でも、花井さんは、「自分、まだまだ頑張っているよ!」ということをかつてのファンに訴えたいがために敢えて文庫でもいい、と譲ったわけ。そんな裏事情を聞くと、なんか花井さんが可哀想で・・・。

 でも、可哀想ったって、200冊の著書、2000万部の売り上げですからね。これはもう、堂々たる実績ですよ。大したもんだ。



 だけど、あれこれググってみると、案外この本、評判がよろしくない。アマゾン・レビューなんか見ても、割と否定的な意見が多いようで。

 そうかな~。私は結構、面白かったけどなあ。ちょっと世間、花井さんに冷たすぎるんじゃないの? 

 ま、花井さんもこの辺で一発、起死回生の何かを書いて、冷たい世間を見返してやってくださいな。



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Last updated  April 4, 2019 02:49:30 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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