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April 4, 2025
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カテゴリ: 教授の読書日記
堀越英美さんが書いた『親切で世界を救えるか』という本を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。

 ちなみに、何で私がこの本を読んだかと言いますと、今の私の関心が「親切」にあるから。この本の中で堀越さんも引用されていますが、カート・ヴォネガットというアメリカ作家が『ジェイルバード』という作品の中に記した「愛は負けても、親切は勝つ」というフレーズ、これこそが人類に必要な自己啓発思想なのではないかと、思っているもので。

 で、この本を読み始めたわけですが、実際に読んで見ると、本書の中に「親切」というフレーズはあまり出てこない。代わりに出てくるのは「ケア」という言葉。

 では、そのケアという言葉を、堀越さんはどういう意味で使っているのか。本書16頁にある「ケアの倫理」という言葉の定義によると「ケアの倫理とは、儒教道徳のように秩序を守るために一般化された原理ではなく、それぞれ異なる他者の感情を想像し、配慮し、手を差し伸べるといった具体的な実践に価値をおく倫理である」と。ポイントは、一般化されたルールではなく、ケース・バイ・ケースで、他人の立場やら感情を慮った上で、その他人を助けてあげる、その具体的な行為が重要、ってことですな。

 まあ、そう考えると、それは「親切」という言葉の定義と、紙一重って感じ。まあ、親切は、そこまで他人の感情まで慮らないですよね。例えば、近くにいる人がはらりと何かを落とした際、それを拾って「これ、落としましたよ」と手渡す行為。これは親切だけど、別に相手の感情なんか慮ってないし。

 でも、まあ、方向性としては親切=ケアと考えても、さほど間違ってはいないかな。

 で、堀越さんのお考えでは、今こそ、ケアが必要な時代であろうと。

 だけど、この論考の中で中心的に論じられるのは、女性の立場。

 昔から、ケアする主体は女性、特に母親の手にすべて委ねられてきたと。しかも無償でね。



 でも、そんな、家庭の中でケアしっぱなしの母親をケアする人ってのはいないわけ。だから、堀越さんも、若い時、ああいう立場にはなりたくないと家を飛び出し、地元を飛び出し、大学生・社会人として人生を謳歌した。でも、その後結婚し、子供が生まれてみると、やっぱり自分もかつて忌避した母親の立場になっちゃったと。しかも堀越さんの場合、次女がアスペルガーだったので、余計大変。

 で、そういう大変な立場の中で、何が救いになったかというと、他人の親切だった。

 たとえば次女が大切にしていた猫のぬいぐるみを失くした時、次女は心のコントロールを失い、大変なことになるわけですけど、そこでツイッターにそのことを挙げたら、見も知らない善意の人たちから救いの手が差し伸べられた。それで堀越さんも次女さんも大いに救われるわけね。

 で、「これか」と堀越さんは思われたのでありましょう。これが、この親切という行為が、世界を救うのではないかと。

 で、ふと周りを見渡せば、親切=ケアが注目されている。

 例えば『鬼滅の刃』。あの主人公の竈門炭次郎君。あの少年ほどケアをする人、いなくない? あるいは煉獄さんもそう。あの人も、父親に放棄されて辛い少年時代を過ごしたけど、その後ケアする人となるという責務を全うするじゃん? 

 『すずめの戸締り』もそう、『エブリシング・エブリウェア・オール・アト・ワンス』だって、主人公の母親が、ケアというものに気づく過程だと考えると、映画の趣旨がよくわかる。

 『コンビニ人間』という小説、あれは、当初、資本主義社会の中で人間が人間性をはく奪されていく物語と解釈されてきたけれども、アスペルガーの人からすると、主人公はああやってマニュアル通りに行動することで、この世での居場所を確保しているのだと分かるんですって。だからマニュアル通りの世界があるということは、アスペルガーの人にも「ここで生きていいよ」というメッセージを発信しているようなものなわけ。

 なるほどね~。

 最近、文学研究界隈でも「ケア」ということが話題になっていて、でもケアと文学がどう関係するのか、イマイチ分からなかった。でも、この本を読んだおかげで、ケアという概念から文学を分析するということの意味が分かるようになりました。それが、私にとっての一番の収穫かな~。

 ただ、自己啓発思想でいう親切と、ケアがまったく同じかっつーと、やっぱりちょっと違うようなところもある。堀越さんが言っているケアも、ケアを一手に、しかも無償で背負わされている人達の問題を取り上げているわけで、主に女性と弱者の話だからね。しかし、自己啓発思想でいう親切とは、そういう文脈はないから。




これこれ!
 ↓

親切で世界を救えるか ぼんやり者のケア・カルチャー入門 [ 堀越 英美 ]





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Last updated  June 10, 2025 09:33:17 AM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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