ミステリの部屋

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2007年06月18日
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感想 )を読みましたが、今回は文藝春秋社から出ている、P.G.ウッドハウス選集の2巻目です。

これはジーヴス物ではなくて、イギリスの田舎、シュロップシャーのブランディングズ城 に住むエムズワース伯爵が主人公です。

綿菓子のようなスローな頭脳の持ち主、第九代エムズワース伯爵。
美しい庭と平穏な暮らしを何より愛する老伯爵に、今日もトラブルが容赦なく襲いかかる。
不肖の息子に鉄血の妹。腕はいいが頑固な庭師。
騒動に揺れる伯爵の領地に平和は戻るのか?
世界で高い人気を誇るエムズワース卿シリーズの全短編に加え、巻末にアントニイ・バークリーによるウッドハウスのパロディも収めた第2巻。

(「BOOK」データベースより)



エムズワース伯爵は、夢見がちな老人。花を愛でることが大好きで、南瓜や豚を育てながらブランディングズ城でのんびり穏やかにすごすことが彼の望みです。

ところがそんな願いも虚しく、伯爵の周りでは騒動が絶えません。
トラブルメーカーである次男フレディは厄介ごとを持ち込んでくるし。庭師だって、元秘書だって思うようにならないし。
ガミガミうるさい妹にも頭が上がらない伯爵は、びくびくと顔色を伺いながら暮らしています。

前半はまさに受難録。いつの間にかこのおじいちゃんに愛着を感じてしまっているので、何を言われてもなすがままのエムズワース卿が歯がゆく感じる場面が多々あります。それでも最後はほっとすることができるのですが。


特に「ブランディングズ城を襲う無法の嵐」は傑作。おかしくて痛快でちょっとした悩みならふっとんでしまうこと間違いなしです。

結婚して変身をとげたフレディが主人公となる「フレディの航海日記」と、破天荒なフレッドおじさんに振り回される甥のポンゴの苦労が描かれた「天翔けるフレッド叔父さん」の2編が番外編として加えられています。

クリスティーやセイヤーズも影響を受けたというだけのことはあって、ウッドハウスの文章は練りに練られた表現が、密度の濃いおかしさをもたらします。

たとえば、ある犬が片目を開けてこちらを見ている場面では、
『何の変哲もない毛深い犬だが、あくどい信用詐欺に引っ掛けられたのではと警戒する株屋のように冷たい、用心深く疑わしそうな目付きをしていた。』
いつの間にかそんな顔をして読んでいる自分がいます。

登場人物の能天気さに口元がゆるみ、馬鹿馬鹿しさに声を出して笑い、読書の楽しみをしっかり感じることが出来た1冊でした。


豚ちゃんや。
わしはおまえと
カボチャと美しき庭が
安泰ならいいのじゃ。
なのに起きるのは騒動ばかり、
どうしたらいいかのう。



P・G・ウッドハウス選集(2):P・G・ウッドハウス










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最終更新日  2007年06月19日 09時03分40秒
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