草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2024年06月06日
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(へスターの目は部屋を彷徨っている。アンがそれを凝視している)

アン 何かお探しでしょうか。

へスター ええ、私は手紙をどこかに置いたはずなのです。 (アンはマントルピースの所に行

き置時計の後ろから手紙を取り出した)

アン これではないですか。(へスターに手渡した)

へスター (物憂げにそれを見詰めて)そうですわ、これです。(彼女は手紙を寝巻きのポケット

に滑り込ませた。 フィリップに対して慇懃に)何かお話があったようですが…。

フィリップ あなたは僕に対して激怒されるか知れません。

へスター そうでない事を願います。



殆ど死の瀬戸際にあった、事実は…。 (へスターは暖炉を見て、何も言わずにいる。フィリッ

プは一息吐いてから続ける)ペイジ氏は外出していて、我々は何処で彼を補足したらよいのか分か

らなかった…。

へスター 私に訊くべきでしたよ、彼はサニングデールの王の首ホテルにいるのですからね。

アン 彼は今朝此処に戻られる予定なのですか。

へスター いいえ、彼はゴルフを楽しんでいるのです。(微笑んで)私はゴルフ寡婦なのよ、ウエ

ルチ夫人。毎週末に私は捨てられるのよ。衝撃的な出来事なのよ、(フィリップに)続けてくださ

いな。

フィリップ (ヤケを起こして)僕は誰かと連絡を取らなければならなかったのですよ、我々はあ

なたのご両親が何処に住んでいるのか知りません…。

へスター 両親は死んでいますの、既に。



たのですよ、ウイリアム・コリアー卿に。(間があって、へスターが立ち上がってタバコを消し

た)

へスター 何を彼に告げたのですか。

フィリップ 偶発事が起きたことを。

へスター ここの住所を教えたのですか。



へスター どのくらい直ぐにでしょうか。

フィリップ 直ちに、と言っていました。(へスターは寝室のドアーを見る、逃げ出す時間を考

えているかのように)僕は間違いを犯してしまったようですね。僕には判断がつかないのですが。

へスター そうですわ、あなたは間違ってはいなかった。

アン (誠実に)主には私の責任なのですよ、コリアー夫人。フィリップに電話するべきだと言っ

たのは私なのですからね。

へスター ええ、分かります。済みませんがその名前は使わないでくださらない。

アン ごめんなさいね。

へスター エルトン夫人があなたに教えたのですね。

フィリップ 彼女は偶然に口を滑らせたのでしたよ。アンと僕自身に関してはあなたの秘密は完

全に守られると言っていいでしょう。

へスター (微かに微笑んで)私の罪深い秘密ですか。おふたりは随分と親切だわ。

フィリップ (硬くなって)さあてと、もう行かなくては。おいでよ、アン。(フィリップとアン

はドアーの方に行く)

へスター (後悔するように)さようなら、御親切に、有難う御座いました。

フィリップ どう致しまして、何か御用命があるようでしたら、仰ってください。

へスター あなたに出来ることがありますわ、一言もこのアホらしい、偶発事件を、誰にも、

他の誰にも、仰らないで下さいね。

フィリップ 分かりました。

へスター あなたは私の、フレディー・ペイジを御存知ですか。

フィリップ いいえ。

へスター もしも、彼に出会うことがあっても、何をおいても、この事については彼に知らせな

いで下さいな、そうしたら、彼は吃驚仰天するに違いないのですから、極めて不必要に肝を潰さ

せるでしょうから。

アン 私達夫婦は一言も話しませんよ、二人共に。

へスター 有難う、そして、さようなら。

フィリップ さようなら。

アン さようなら、ペイジ夫人。 (フィリップに続いて外に出る。へスターはひと呼吸置いて

から、踊り場まで出てみる)

へスター (叫ぶ)エルトン夫人、エルトン夫人。

エルトン夫人 (舞台外で)只今、参ります。(姿を現した)起きていらっしゃったのですね、そう

すべきではありませんのですよ。

へスター (突然に)エルトン夫人、ウイリアム・コリアー卿が来ても、私は会いたくないので

す。

エルトン夫人 どうもすいません、二人から聞き出されてしまったのです…。

へスター 解っていますよ。

エルトン夫人 卿には何と伝えましょうか。

へスター 何なりとお好きなようにお話ください…、私が彼と会わないようにして下されば。

エルトン夫人 承知致しました。コーヒーでもお造り致しましょうか。

へスター いいえ、結構です。今は何も要りませんのよ。

エルトン夫人 ペイジ氏は何時お戻りでしょうか。

へスター 分かりません、今夜のうちにはと、考えているのですが。

エルトン夫人 宜しければその時まで、私がお話のお相手を致しましょうかしら。丁度、自分の

仕事を終えたところなのです。

へスター 御親切有難うございます、でも、私は一人で完全に大丈夫ですから。

エルトン夫人 (疑わしそうに)本当でしょうか、大丈夫ですか。

へスター はい、私を信頼してくださいね。

エルトン夫人 おやまあ、そう言う意味ではないのですが。

へスター (優しく)分かっておりますわ。

エルトン夫人 (怒りを見せて)どのような事があって、あんな恐ろしい事を企てたりしたのでし

ょう。 (間)

へスター (椅子に背をもたせかけて両目を閉じ)悪魔の仕業でしょう。

エルトン夫人 私も、そんな風に感じていますよ。あなたはカトリックの信者ですか。

へスター 「眠そうに)その種の悪魔と言う意味ではありませんのよ、もしかした、その種の悪魔

かも知れないわ。二つの危難に挟まれて進退極まった時に、深くて青い海はとても魅力あふれる

物に見えるものなの。昨夜がそうだったのよ。

エルトン夫人 私には全く理解不能ですよ、あなたは決してずる賢い女性ではありませんが、そ

れでも昨夜の事件は狡くて、残酷ですよ。仮にですよ、あなたではなくて、ペイジ氏が床に横た

わっていたとしたら、あたはどんな風に感じたでしょうかね。

へスター とても、とても、吃驚したでしょう。

エルトン夫人 それだけですか…。

へスター はい、そうです。もう少しかしらね、全宇宙かも。(微かに微笑んで)彼はそこには横

になっていない、ゴルフをしているのですよ。 (間、エルトン夫人はへスターをジッと見つめ

続けている、不審そうに)やがて彼はゴルフから帰って来て、昨夜起こったことは何も知らないで

しょう、分かりますか、エルトン夫人。何もです。

エルトン夫人 そんな風に望んでいるのならば…。

へスター 私は、そんな風に望んでいるわけです。 (間)

エルトン夫人 金銭が原因ではないのですね、あなた。

へスター ええ、お金が原因ではありません。

エルトン夫人 もし金銭が原因なら、私は言うつもりでいたのです…、このアパート…。

へスター (慌てて遮り)大変に御親切様ですが、エルトン夫人、そして私は深く感謝いたします

が、その申し出は受け入れられません。我々は一ヶ月分の家賃の滞納があるのですが、それはお

支払い致します、お約束致しますよ、一日二日の間に…、実を申しますと、私には当てにしてい

る人がいまして、あそこにある二つの絵画ですが、あれに興味を感じてくれていまして…(壁に

掲げられた絵を示す)

エルトン夫人 ああ、はい。とても素晴らしいわ。(一つを指差して)あれは桟橋ですね。

へスター ウエイマス桟橋です。

エルトン夫人 (丁寧に)まあ、そうね。直ぐに即答出来る、頭脳明晰ね。あの絵でいくらぐらい

の値段がつくのかしら。

へスター そうですね、二つで、二十五ドルをお願いしようと考えているのです。

エルトン夫人 本当ですか、そうなのね、私には想像もつかない…、(やや、間があって)無礼を

許してくださいな、ペイジ氏は今職に就いておられるのですか。

へスター いいえ、無職ですの。目下のところはですが、彼はロンドンの商業区に関係した仕事

をしているのです、おわかりになりますか…。

エルトン夫人 (彼女は前に一度明らかにこの事を聞いていたので)ああ、はい…。そうですね、

彼は直ぐに定職に就くことになるでしょうよ、最近では就職難ではありませんからね。(彼女は

ドアーの方に近づく、それから、明瞭なドアーをノックする音で立ち止まり、へスターに手で姿

を隠すように合図してから、ドアーを開けた。コリアー、精力的な風貌で、四十代半ばで、短い

モーニングコートと縦縞のズボン姿、が敷居の所に立っている)

コリアー ペイジ夫人は?

エルトン夫人 失礼ですが、中にはお入れできません。ペイジ夫人は危篤状態で、人との面会は

不可能ですので…。 (コリアーは我慢できなくなってエルトン夫人を押しのけて、中に入って

来る。たちまちにへスターを見る。両者は言葉なく互を見つめ合った。エルトン夫人はふたりの

間でどうしようもなくウロウロしている)

コリアー (へスターに)彼女に席を外すように言え。

へスター エルトン夫人、もう大丈夫ですわ。有難う。 (エルトン夫人は肩をすくめて、立ち

去る。コリアーとへスターはまだ互を見詰めている。へスターの驚愕は、自分の夫と対面した今

は、消え失せてしまったようだ)

コリアー 大丈夫なのかね。

へスター 全く大丈夫よ。

コリアー 何があったんだね。

へスター あの青年は電話でどの位まで伝えたのかしらね。

コリアー 君が嘘をつかないで済むくらい十分な事は聞いているよ。

へスター 私は自分の言うことに気を付けなければいけないわね。自殺未遂は犯罪でしょう。

コリアー そうだよ。

へスター そして私は判事に話をしているの。

コリアー 君は自分の夫に話しているのだよ。

へスター フランス語で言えば、ヒステリーの発作、とでも言うのかしらね。

コリアー ナンセンスだよ、君は世界中のどんな人間よりも正常だ。

へスター 私はあなたを捨てて以来、変わったのよ、ビル。いいえ、そうは言わない方がいいわ

ね。私がそう言ったと、貴方に言わせる口実を与えることになるわね。

コリアー 君は私を誤解しているよ。

へスター 判事を誤解するですって、それこそ、フランス語で言えば、大逆罪ね。 (へスター

が相手を見詰めている間に間隙がある)

コリアー 何故ロンドンにいることを知らせなかったのだね。

へスター 貴方に最後に会った時に、貴方は二度と私から連絡を受けたくないと言ったわ。





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最終更新日  2024年06月06日 15時43分03秒
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