草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2024年09月06日
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第百二十五聯、美々しい貴人に対して天蓋を捧げ持ち、これ見よがしに外面(そとずら)を崇めて

みても、また、永遠の輝かしい名声を残そうとして巨大な礎石を築いても、それが私にとって何

の得になろうか、何の得にもなりはしない。そんなものは、家屋敷が荒廃する程の間も持ちはし

ない。顔や容貌にこだわる者達が、素朴な香りを捨てて、甘ったるい混ぜ香水を欲しがり、高い

代価を支払って一切合財を失うのを私は見なかったか、あれらは外見を気にして失ない破産し

た哀れな成り上がり共だ。いや、いや、私は君の麗しい清潔な心にだけ忠実に仕えたい。貧しい

けれど、心からなるこの捧げ物を受けてくれたまえ。私のは見かけ倒しの混ぜものではないし、

わざとらしい技巧も知らぬ。ただ、お互いを交換して、君に私の全てを差し出すだけだ。あっち

へ行ってしまえ、穢らわしい、金で買われた密告者共め。大切な真実を守る者はどう謗られよう



 第百二十六聯、ああ、ああ、君よ、ああ、愛する若者よ、君は時の神の持つ気まぐれな鏡も

時間という小鎌も、自らの手で管理統括している。時は移ろうが、君の美はいや増すばかりだ、

だから、その美貌が成長すれば周囲の友人たちの衰えが変に目に付く。破壊を統御する女王たる

自然の女神は、君が先に進むと絶えずに後ろに引き戻すが、君を自分の手元に留めておくのは彼

女の技をもって時の神に恥をかかせ、ケチな時刻を滅ぼすためなのだ。ああ、君は彼女のお気に

入りだが、決して気を許したりしないでくれたまえ、あれは自分の宝を引き止めても、永遠に傍

らに置く力はない。彼女の決算が遅れても、いずれ報告はなされねばならない。そして、その支

払いとは君を引き渡すことなのだ。

 第百二十七聯、ここからは美貌の青年ではなく、黒い女が対象になる。昔の人は黒が美しいと

は思わなかった、よし、そう思っても、口に出してまでは美しいとは言わなかった。金髪で色白

なのが女性の美の標準だったから。だが当今では、黒が美の相続人に成り上がり、金髪色白は私



ら借りた贋の顔で醜を美のスタンダードに変えた、それで、麗しい美は名声を失い、聖なる住み

家を奪われて、俗界に落ち、汚辱に生きる身ともなりかねない始末だ。それゆえに、わが恋人の

眼は鴉の如くに黒い、美人に生まれもしないのに技巧で美を手に入れ、ありもせぬのにあるかの

ように見せかけて、創造の力を貶める者らを、その黒い装いは嘆くかのようだ。だが、その眼は

如何にも優雅に悲しみを嘆くので、どの人も、美とはこういう色に違いないと主張する。



奏で、その美しい指の動きにつれて木片の動きが楽音に変わるとき、また、お前が弦の和音をた

おやかに操り、わが耳を陶然とさせるとき、お前の柔らかな手の窪(くぼ)に接吻しようとて素早

く跳躍する鍵どもを、私はどれほどしばしば憎んだことだろうか。その収穫を刈り取る筈の私の

哀れな唇と言えば、木片の臆面もない振る舞いを、下衆な男どものようだと感じて、顔赤らめて

見守るばかりなのだよ。お前の指は踊る鍵盤の上を軽やかに歩くけれど、私の唇だって、こんな

素敵な愛撫を受けられるのならば、喜んで奴らと身分や境遇を取り替えようよ。その指は命のな

い木片を命のある生きている唇よりも幸せにしてやるのだもの。生意気な鍵はこれで大満足なの

だから、接吻をさせるのなら、奴らにはその指を、私にはその唇を与えてくれ。

 第百二十九聯、恥ずべき放埒のあげくに、精気を消失すること、これが淫欲の行為というもの

だ、また、行為に至るまで淫欲は偽証や、殺人や、流血を事とし、数多くの罪を犯し、野蛮、凶

暴、残忍、無慈悲にして、到底頼み難い。人は一旦これを享楽し終われば、たちまちにして蔑

む。分別をうちやって捜し求めても、手に入れてしまえば、分別をうちやって憎む。人を狂わせ

る為に仕掛けた餌を呑み込めば、こうもあろうというように。追い求めるときが狂乱の様子な

ら、手に入れても狂乱のまま。行為の後も、最中も、これからという時にも凶暴のきわみ、体験

の最中には至福を味わうが、体験の後には悲しみだけが残る。前方には歓びが見えても、振り返

れば一片の夢にしか過ぎない、世の人だってそれは篤と御存知だが、こういう地獄に人を連れ込

む天国を避けて通るすべは、誰も知らない、知らされてはいないのだ。

 第百三十聯、私の彼女の魅惑の瞳などは輝く太陽などとは比較にもならぬ。あれの唇の赤みよ

り珊瑚の方が遥かに紅色だ、雪を白いと表現するなら、彼女の乳房はさしずめ薄い墨の色と言う

べきか。毛髪が針金と形容するのが詩歌の常套句なら、あれの頭には黒い針金が生えているわけ

だ。赤や、白や、色混ざりのバラを見たことはあるが、だが、彼女の愛らしい頬にそんな薔薇が

咲いたのをかつて見たことがない。香水の中にだってあれの吐く息よりももっと芳しい香りをは

なつやつがある。あれが喋るのを聞くのは好きだが、音楽の方にだってもっとずっと妙なる響き

があるのを、私もよく承知している。確かに私は光り輝く美しい女神が歩むのを見たことがな

い、私の女が歩くときは大地を踏みしめて歩くのだから。だが、神掛けて言おう、わが麗しの恋

人は勝手な比較を操ってでっち上げたどの女に比べても、見事引けをとらない。

 第百三十一聯、この通りに黒いお前だが、昔なら美とは無縁だった、その無慈悲さときたら、

美貌を笠に着て酷い仕打ちをする女等にも負けない。愛にのぼせたこの心には、お前は世にも美

しく、貴重な宝石だ。それを、当のお前が心得切っている、だが、実のところお前を見て、あの

顔には恋人に溜息を吐かせる力はない、と言う人たちもいる。それは間違いだと主張する程私は

向こう見ずにも大胆にもなれない、ただ、自分だけには間違っていると誓言してみるのだが。そ

して、この誓言が偽りであることを信じさせるためにか、お前の個性的な顔を思い浮かべるだけ

で、次から次へと無数の溜息が漏れ来たって、証人となり、わが判定の場たる心の中で、お前の

醜くも美しい黒さがこの上もなく美しいと断言する。お前が黒くて醜いのはそもそも振る舞いだ

け、他にはない。だから、思うに見当違いな、恋人を十分に魅了する魅力に欠けるなどという、

中傷も生まれるのだろう。

 第百三十二聯、私はお前の黒い瞳を愛している、それはお前の心が私を蔑み、苦しめるのを知

って殊更に憐れむように、黒い衣服を纏い、愛の喪に服して、優しい憐憫の情を抱いて私の痛ま

しい苦悩を見守っている。まことに、天空の朝の太陽が東の空の灰色の頬に相応しかろうとも、

また、夕暮に先ず現れる明星が宵闇の西空にどのような輝きをそえようとも、この喪服を着た二

つのつぶらな瞳がお前の顔を飾るのにはとても及ばない。ああ、喪服がお前に優雅さを添えるの

なら、お前の心も、私を嘆くのにふさわしい装いにしてくれ。他と同様に、お前の哀れみにも

喪服を着せてくれ。そうしたら私は、美の女神自身が黒いのだ、その色ならぬものは全て醜く見

るに堪えない、と誓って見せように。

 第百三十三聯、わが麗しの心友と私に、あれほどの深い手傷を負わせ、わが心を呻かせる、あ

の残忍な心に禍いよ降りかかれ、私ひとりをこっぴどく痛めつけるだけでは飽き足らずに、わが

優しい繊細この上ない友まで奴隷の身に堕とさねば気がすまないのか。その残忍な眼は私から私

自身を奪い取り、その上になお無情にも、第二の我なる宝石の如き友を虜にしてしまった。結

果、私は友にも、私自身にも、お前にも見捨てられた、ボロくず同然に。こんな酷い目に遭うな

んて九層倍もの拷問を受けるにも等しい。私の脆弱な心はお前の鉄の胸の牢獄に閉じ込められて

も、わが友の純真極まりない心は大切に真綿に包むようにして、私の哀れな、惨めな、可憐さで

満ち満ちている心に収監しておきたい。誰が私を独房に繋いでも、私の心は彼専用の個室にして

おこうよ、私の牢獄でなら、お前も手加減なしの酷い仕打ちには出られまいからね。でも、やは

り駄目か、絶望か、お前に鋼鉄の鎖で繋がれている私は、身も心もひっくるめて全部が全部、お

前のものなのだから、お手上げなのだ、やはり…。

 第百三十四聯、さて、彼がお前の所有になったのも認めたし、私自身、お前の意のままになる

抵当物件なのだから、私は自分を没収されても構わない、第二の私を返してもらって、いつまで

も我が慰めに成しうるならば。でも、お前はそうはしないだろうよ、彼も自由を求めまい、お前

は貪欲だし、彼は根っから気のいい男だからね。彼は自分をも身動きならない目に引き込む。あ

の証文に、保証人気取りで署名することしか知らないのだ。あらゆるものに利子をつけねば気の

済まない、この強欲な高利貸しめ。お前はその美と魅力ゆえに手にした権利書を盾に取り、我が

為にむざむざと莫大な債務者と化した友人を無慈悲にも訴えようと言う。だから、私は己の心無

い仕打ちによって、友を失う。私は彼を失ったが、お前は彼も、私も手に入れた。彼が全額を

支払うのに、私はまだ自由の身にはなれない。

 第百三十五聯、他の女はいざ知らず、お前は自分のウィル、心、願望、意志、欲情、男根、女

陰、ウィリアムの愛称、などの様々な意味が込められている、を確かに手に入れた。その上に、

おまけのウィルも、あり余りのウィルもある。いつもお前を悩ます私などは、そのお優しいウィ

ル・心に、こうして、もう一つ加わった余計者もいいところだ。お前のウィル・心は大きくて広

やかだが、せめて一度だけでも私のウィル・心をその中に包み込んでくれないだろうか。他人の

ウィル・心は誠に有難い幸せを授かったようであるが、私のウィル・心には気持ち良い受納のし

るしを見せてくれないのか。海は一面の水だが、いつでも雨を受け入れる。有り余る富を抱えて

いても、なお富を加えるのだ。お前も豊かなウィル・心の持主だが、その心・ウィルに私の・心

ウィルひとつ加えて、お前の大いなる心・ウィルをもっと増やしてくれ。つれない拒絶で嘆願者

達を殺さないでくれ、すべてをひとつと考えて、私もそのひとつの心・ウィルに入れてくれ。

 第百三十六聯、私が側により過ぎると、お前の心が咎めるのなら、これはあたしのウィルよ、

と盲目の心に言ってやれ。彼も知っての通り、ウィルなら入れてもらえる。頼むからそれくらい

はわが愛の願いを聞き入れてくれ。ウィルがお前の愛の宝庫をいっぱいに満たしてやる。そうと

も、数多の思い・ウィルを詰めてやる、私の思い・ウィルはそのひとつだ。広い宝庫を使う時に

は、数あるうちの一つは数のうちには入らぬと容易に証明できるさ。だから、数に紛らせ、数え

ないで私を通してくれ。お前の財産目録の中では、私も一項目にはなるけれど。勿論、私を零と

見てくれていい、ただ、その零の私がお前に素敵な者だと思ってもらえるなら。私の名前だけを

恋人にして、それをいつも愛してくれ。それで私を愛することになる、わが名前がウィルだも

の。

 第百三十七聯、盲目の愚か者、愛の神キューピッドよ、私の眼に何をしたのだ。この眼は見て

いるのに見ているものが分かっていない。美とは何かを知っているし、何処にあるかも見ている

のに、最低の物をこよなく優れていると思い込む、恋の僻目に馴れて堕落した眼が、どの男たち

でもが乗り入れる港に錨を下ろしたからと言って、何故、お前は眼の過ちで釣り針を作り、わが

心の判断力を引っ掛けるのか。広い世間の共有地だと心は納得しているのに、その心がこれは個

人の私有地だなどと何故考えるのか。また、私の眼はこれを見ながらこれではないと言い、こん

な醜い顔に美しい真実を、どうして、装わせるのか。私の心も、眼も、誠真実なるものを見誤り

今はこの迷妄の苦しみに憑かれて生きているのだ。

 第百三十八聯、わが恋人が、あたしは真実そのものと誓えば、嘘をついているのが解っていて

も信じてやる、それも皆、私が初心(うぶ)な若者で、嘘で固めた世間の手管など何も知らぬ、と

思わせたいがため、女は私が若いさかりを過ぎたのを知っているのに、こちらは女に若く見られ

ていると虚しく自惚れ、愚かな振りをしては彼女の嘘八百を信じてやる。両方がこんなふうに露

骨で無遠慮に真実を押し隠す。だが、何ゆえに彼女は己の不実を白状しないのか。また、私は

何ゆえに自分の老いを認めようとしないのか。ああ、ああ、愛が作る最良の習慣は信じあう振り

をすることだ。恋する老人は年齢を暴かれるのを好まない。だから、私は彼女と寝て、嘘をつ

き、彼女も同様に嘘を言う。二人は欠点を嘘で誤魔化し合い、慰め合うのだ。





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最終更新日  2024年09月06日 21時16分29秒
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