草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年07月30日
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何を言うのもお気慰め、ひらに頼むと強いられて源七下地好きの道、てんぽの皮やりましょうと、箱から

取り出した三味線の、糸は昔に変わらねど引くその主の成れの果て、親の罰ではないが、撥駒(三味線の胴

と糸とが触れぬように胴の下部につけた駒)、上駒の音色優しく弾きなせり。

 紙子の袖に置く露と共に離れし妹背の仲、哀れ昔は全盛の松の位も冬枯れし風呂敷包み行く先は、知ら

ぬ旅路にとぼとぼと、築地の陰に安らえば、珍しい三味線、なんぼ大内(公家、堂上家)方でも洒落の浮世

に廻り来る。車寄せから立聞けば、はああ、不思議やあの小唄は、わが身が廓にあった時に坂田の蔵人時

行殿になれそめ、作り出だせし替え唱歌、かの人ならで誰が伝えたのか、懐かしや、どうぞ入り込んで見

たいものじゃと、出放題に声を張り上げて、これは難波の遊女町に誰知らぬ者のない傾城の祐筆(ゆうひ

つ、代筆)、濡れ一通りの状文なら恐らく私が一筆で叶わぬ恋も叶うように、仮名書き筆、びらりしゃら



そんな御用ならお頼みあれとぞ言い入れたのだ。

 奥では女中が耳を澄まし、さっても変わった売り物、いざ呼び入れて痴話文(色文)書かせてお慰み、更

科掃部、呼んでおじゃ。あい、と答えて二人ずれにて走り出て、是のう、傾城の祐筆殿はこなたかえ、こ

の御殿の姫君様、何やらそもじに御用有り。こなたへいざと手を取れば、はあ、御用とは何やらん、おめ

もじ様にと言う夕顔の、庭の飛び石、すな、すな、すな、ちょこ、ちょこ、ちょこと奥座敷へと。

 何の遠慮も無く、並み居たる大裡女郎(公家の女房)に場うてせぬ(その場の様子に気おくれしない)、い

ずれそれ者(遊女上がり)と見えたのだ。

 煙草売りの源七も何心もなく側近くに寄り、顔と顔とを見合わせれば、やあ、離別せし女房、南無三宝

と木隠れの(ちょっと顔を隠したが)、女はそれと見て、水臭い男、畜生、人でなし。赤恥かかせてしまお

うかと飛び立つ胸の内も人目が関となり邪魔をする。

 気持ちを押し静め、押し静めして心を砕き折々に尻目に睨むも恋である。



りゃと有りければ、ああ、どなたかは存じませぬがお優しいお詞、お尋ねがなくても言いたくて言いたく

て、胸が咳上げる折ですので、さらば、お話しを致しましょう。

 恥ずかしながら私の昔は、憂き河竹の傾城、荻野屋の八重桐とて大夫仲間の立て者(頭株)と言われた程

の全盛の末も、遂げぬ仇恋に上り詰めてこの通り、夜な夜な替わる大臣(豪遊する客)の中でも坂田の何某

とて水揚げの初日(遊女が初めて客に接すること)からふと会い染めて丸三年、何が互いの浮気盛り、上り



頂天になった意)の宙ならぬ、中二階夜昼なしの床入りに、掛け鯛(元日に小鯛を二尾荒縄で結び竈の上

に掛ける)様と異名を受け、水も漏らさぬ仲だったのですが、また同じ廓に小田巻と言う大夫、かの男に

ゆきついて毎日百通二百通、書きも書いたり痴話文は大方馬に七駄半、舟に積んだら千石舟、車に積んだ

らえいやらさ、木遣りでも音頭でも祈っても呪っても微塵毛も無い二人の仲がいよいよ募って会う程に、

小田巻は大に腹を立てて、忘れもしない八月の十八日の雨あがりに、月は山からおぼろ染め、打掛をひら

りと取って捨て、白無垢ひとつにひっしごき脛(はぎ)も露わに私が膝にふうわりとんと居かかって、是、

八重桐、あんまり見られぬ、いやじゃぞや、さあ、男をたもるか(呉れるか)たもらぬか、いやか、おう

か。いやか、二つに一つの返答が聞きたいと胸ずくし(胸倉、胸元)をひっつかむ。

 こっちも一期の大事とぞ弱みを見せずに、こりゃ、小田巻とやら、管(くだ)を巻くとやら、光は(威勢、

威光)は喰わぬ、出直しや。この広い日本にあの人ならで男はないか、よしないにしても有るにせよ、そ

れ程に床しい男なら何故に先に惚れなんだ。男盗人、いき傾城、といいざまに取って投げつければ明かり

障子をぶち破り、つぎ三味線を踏み砕き、縁から下にころころころと這い柏杉(びゃくしん)までこけかか

り、木こく南天めっきり、めっきりと切り石の上にま俯け、鼻血は一石六斗三升五合五勺。

 そりゃこそ喧嘩が始まったぞ、大事なこっちの大夫様にひけを取らせてはすむまいよ。加勢をやれと言

ったほどに、遣り手・曳舟(大夫に従う囲い女郎)・中居、まま焚き・出入りの座頭・あんま取り、神子・

山伏に占算、雪駄(せきだ)片足(かたし)に下駄片足、草鞋(わらんず)がけで来るのも有る。

 台所から座敷まで、大夫様の仕返しと、あそこでは叩き合い、此処ではぶち合い、踊り合い、茶棚、へ

っつい煙草盆、当たる物を幸いに打ちめぐ、打ち割る、踏み砕く、めりめり、ひひゃりひしゃりと鳴る音

にそりゃ地震よ神鳴りよと、世直し、くわばらくわばらと我先にと逃げ様に、水擔桶(みずたご、みずをく

んできた桶)・盥(たらい)にこけかかり、座敷も庭も水だらけに、成るほどに、南無三、つなみが打って来

るわいな。悲しや、と喚くやら、秘蔵の子猫を馬ほどな鼠がくわえて駆け出すやら、屋根ではイタチが踊

るやら、神武以来の悋気諍い、こことは世上に隠れなく、かの男はその場から親御様の勘当を受けて、わ

が身も廓を夜抜けして、根本恋路(恋路の大元と言う)の浮き名(艶聞)を取った。

 鍋の蓋取る、杓子取る、馴れぬ世帯のその日過ぎ、男め故で御座んする。ああ、あんまり喋って息が切

れた。お茶ひとつ下さんせと語りかけた。

 姫君を始め腰元衆、さて心中(愛する男に真心を捧げる女)の女郎や、たとえ如何なる身になっても想う

男と添うからには面白かろうとの給えば、されば末を聞いて下さんせ。その男の父(てて)親が闇討ちに討

たれて敵討たねば叶わぬと、私は縁を切って行方もなく別れて、親の敵を狙うとは跡かたもない赤嘘(真っ

赤な嘘)、わが身に秋風が立ちけれども、何を潮に逃れることも出来ずに、親御様が死なんしたのを究竟

一(くっきょういち、なによりよい)のかこつけに敵討ちとの口上は釈迦でも一杯参る(一杯食う、まんまと

騙される)こと、まんまと私をたばかり女房には紙子を着せて、わが身はちゃんと栄耀らしい若い女中に

立ち混じり三味線を弾いて居けつかり、腐り腐るを見るような、日本国の姫御前(ひめごぜ)の因果を一つ

に固めてもわが身には及ぶまい。初対面の皆様に在りし昔の懺悔咄を致し、お恥ずかしやとばかりにて、

おろおろ涙にくれければ、おお、道理、道理、身にかからぬこちとさえ煙とうて堪らぬぞ。

 さりながら、構えて短気な心を持ちやんな。まだ咄たいこともある、奥へおぢゃ、こちへ、こちへと

人々は皆々、一間に入ったのだ。

 跡見送って八重桐、さらば奥に参って憎さも憎し、男の懺悔を言ってしまおうと入ろうとするのを、時

行が取って引き戻し、はったとねめ、さすがは流れの女だな、親の敵を討つまでと相対づく(相談して承知

しあった上)での離別ではないか。ただ今の詞は誰に向けての当て言、いまだ敵の行方は知れず、心を砕

く夫の 躰(てい)、哀れとも思わずにおのれの栄耀に引き当てて、面白そうな仇口(無駄口)。

 恨めしやとばかりにて、無念の涙に暮れければ、女房は益々あざわらい、あの、まがまがしい(まざまざ

しい、本当らしい)顔はどうじゃ、親の敵は何人いるのじゃ。

 こなたの妹御糸萩殿とやんらが先月二十三日に佐夜(さや)の中山で討ち給う物部の平太は敵ではないか

いな、時行、はっと驚き、何、妹が敵平太を討ったるとは必定(ひつじょう、確か)か。

 さ、定か誠か、碓氷(うすい)の荒童と言う人を語らい(味方に頼み)、易々と討って源の頼光様を頼み、

駆け込みしとは日本国中に隠れも無い事と言えば、最後まで聞きもあえず、南無三宝、天道にも見放され

て弓矢神にも捨てられた。口惜しの運命やとわが身を掴んで泣いている。

 女房が側に立ち寄って、是なう、今悔やんで済むことか、忝くも頼光様、妹御を匿いなされた遺恨によ

って敵の主人・右衛門の督平の正盛は清原の右大将と心を合わせて、頼光様を讒奏し、勅勘の身となり給

う。これほどに大きな騒動を今まで知らぬとは狼狽え者の浮き名を、世間にふれようと言う事か。

 前後を思案して下さんせ、日頃の心には似ないこと。ええ、おとましい(忌々しい、疎ましい)世に連れ

て、心までが腐ったかと縋り付いて泣いたので、時行は突っ立って、さては敵ゆえに頼光の御難儀となっ

たるとや。妹に先を越され、親の敵は討たなくとも正盛・右大将は敵の敵である、いで、二人の首を獲っ

て頼光の御恩に報じ、名字の恥をすすがんと躍り出でんとするのを引きとどめて、それ、それ、それ、し

れは悉皆気違いか。

 討とうとすれば討てるくらいならば頼光様に油断があろうか。彼等は威勢真っ最中、討たれぬ仔細があ

ればこそ日蔭の御身となられたのです。こなたが今駈け出して心安く首を獲ろうなどとは、重ねて恥が掻

きたいのですか。こなたが今まで悪戯(浮気)で娘をころりと落とした(靡かせた、口説き落とした)のと、

首をころりと落とすのとは雲泥・万里の差がありますよと、恥しめた。

 時行ほうど(ぐっと)行き詰まり、あっあ、そうじゃ、誤った。しからばこれより頼光の御行方を尋ねて

御家来となり、御威勢を借りて正盛の首を引き抜いてやろう、と駈け出そうとするのを再び引き留めた。

 たった今、恥しめた舌も乾かないのに無分別、武勇正しき頼光様、御内には渡邊の源五綱と言う一騎当

千の兵(つわもの)、同じく碓氷の荒童、鬼も欺く(鬼と見違える)その中に、生温い(意気地のない、柔弱

な)形(なり)をして、妹に先(せん)を越され敵を討たなかった無念さ故に、御奉公致したいと言えるもので

すか。それともそれでも仰いますか。

 御取り上げが無い時にはすごすごとは戻られまい。棒を頂いて(棒でぶたれて)戻るよりも行かない方が

遥かにまし。どうぞ分別はないかいの。ええ、情けないお人やと、突き倒してぞ泣いている。

 時行は道理に攻められて行きつ戻りつ、歯噛みをなして、拳を握り、立っていたが、もうこの上の分

別なしと皮籠(かわご)の中から氷のようなる鎧通し(短刀、敵と組んだ時に刺す為の物。多くは九寸五分、

無反り)を押っ取り腹にぐっと突き立てて、背骨にかけて引き廻した。

 女房、これは狂気かと縋がり付けば、あっ、あっ、音が高い、音高し。男が今の悪言は伍子胥(ごしし

ょ)が呉王を諫めたる金言よりも猶重い。恐らくこの一念項羽・紀信の勇気にも劣るまいとは思うのだが、

時来たらねば力なし。これまでまだまだ(ぐずぐずと、のんべんだらりと)長らえ、臆病者、腰抜けと指を

指されるのは無念の上の無念である。

 我が死んでから三日の内に御身の胎内に苦しみがあれば、我が魂が宿ったと心得て十月を待って誕生せ

よ。神變希代(しんぺんきたい)の勇力の男子となって、今一度人界に生まれ出て、正盛・右大将を亡ぼす

であろう。

 お事が身も今日より常の女と事代わり、飛行通力あるべきぞ。深山幽谷を住処として生まれる子を養育

せよ。さらば、さらば、と声と共に劔を抜けば紅の血は夕立と争うが如し。最後の念ぞ凄まじい。

 あら、不思議や、切り口より炎のまろかせ(かたまり)が女房の口に入れば、うんとばかりにそのまま息

が絶えてしまった。

 かかる所に若侍五六十、無二無三に群がって、屋形の四方を押っ取り巻、やあ、やあ、兼冬、右大将

高藤公より汝が姫を召されたのだが、頼光と縁組とて承引なき条、憚り千万。それによって姫を引っ立て

来たるべしとの御使い、乱れ入って奪い取れとおめき叫ぶその声に、兼冬公驚き給い、やあ、主ある娘を

奪わんとは人畜類(人の姿をした畜生)の右大将、返答するには及ばない。あれ、追い散らせとの給えど

も、言うに甲斐の無い公家侍、防ぐ方法も無いと見えたる所に、伏したる女がむっくと起き、表に立った

る奴ばらを取っては投げ、取っては投げ、姫君のおわします御簾を囲って立った姿は、さながら鬼女の如

くである。

 正盛の家の子、太田の太郎、数にも足らぬ下衆女だ、何事をかしいださん。あれ、引き出せと下知すれ

ば、何、某を女とな、おお、女とも言え男なりけり。胎内に夫の魂が宿り、木の梅と桜の花心、妻となり

子と生まれ、思う敵を討つそれではないが、空蝉の体は流れの大夫職、一念は坂田の蔵人時行。そのしる

し、是見よと二抱え程の椋(むく)の木を片手もじりに、えい、やっと捩折って寄り来る奴原、はら、は

ら、はら、はらり、はらりと薙ぎ立てたのは人間業とも思えない。

 この勢いに恐れをなし、返し合わせる者もなく、皆ちりじりに失せにけり。

 おお、さも、そうずさもあらん、我が魂は玉の緒の御命、恙無く行く末待たせましませと姫君に一礼し

て、今よりは我いづくをそこと知らず、白妙の三十二相(あらゆる美しさを備えた顔)のかんばせも、怒れ

る眼(まなこ)物凄く、島田がほどけて逆様に忽ち夜叉の鬼瓦、唐門(からもん)、四つ足門、塀も築地も跳

てね越え飛び越え、飛び越え跳ね越え雲を分けて、行方も知らずなりにけり。





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最終更新日  2025年07月30日 16時15分46秒
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