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2011.01.02
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カテゴリ: カテゴリ未分類
062.JPG

山代温泉の一角にあるガソリンスタンド立石石油店。

 旅館紅柿荘の女将啓子さんは女の子に給油を頼んで事務所に入った。

 「ねえ、辰ちゃん。アンタ、今年で50になるんじゃない」

 「なんだ、女将さん、また嫁取りの話ですか。オレ、結婚なんてメンドくさいことイヤですよ」

 「なに言ってんの、ウジがわくわよ。アンタの同級生の公ちゃんなんかもう孫が産まれたんだから」

 「他人は他人。オレはオレっすよ。一人が気楽でいいや」

 「もしかして、アンタ、静江さんのこと忘れられないんじゃないの」

 「やめて下さいよ、20年前のことですよ。もう忘れちまった」



 「ミス山代にもなった綺麗なヒトだったものねえ。無理もないわね、気立ても良かったし」

 給油の車が入って来て辰夫さんが出て行ったので敬子さんは話を切り上げて帰った。

 夜。紅柿荘のカフェ レッド。

 道路側の入り口のドアが開いて中年の綺麗な女性が入ってきた。

 「いらっしゃいませ。あら、あなたは確か亡くなった南静江さんの妹さんじゃなかったっけ」

 「はい、静江の妹の佳代です。今、加賀温泉駅の前でチッポケな居酒屋をやっているんですよ」

 「そうなの。東京でOLやってて結婚なさったって風の噂に聞いていたけど」

 「フフ、とっくに別れちゃった。で、生まれ故郷に帰って来て、バツイチの年増女に出来る仕事なんて旅館の仲居かスーパーのレジ打ちくらいでしょう。他人に使われるのもイヤだから貯金をはたいてお店はじめたんですよ」

 佳代さんは注文したビールをグラスに受けて口に運んだ。

 そのヒラリとした仕草が可愛くて本人が言う年増女とは見えない。

 「アノ」



 佳代さんは2杯めのビールをグッと飲みほして、

 「立石さん、スタンドの辰ちゃんがよく来てくれるの。姉とは将来を約束していたようで、その当時姉に焼き餅を焼いていたわ。姉があんなことになって、達ちゃんは今でも独身を通してるって聞いたけど」

 「佳代さんは辰ちゃんの事が好きなの」

 「まさか、私みたいな出戻りの年増女が勿体ない、あのヒトには」

 「好きなのね。好きで好きでたまらないって顔に書いてあるわ」



 「あら、いやだわ、私。こんな年になって照れてる。ばかみたい」

 「そんなことないわよ。あなたはまだ若いし、とても綺麗」

 「私ね、前の夫にだまされたのよ。ろくでもない奴だったわ。本当は居酒屋を始めたのは世の中の男たちに復讐しようと思ったからなのよ。ふふ、おかしいでしょう」

 「それで、どうだったの」

 「私を目当てに来るスケベったらしいオヤジ達からふんだくって商売繁盛になったんだけど、なにか心に風が吹いてどうしようもなかった。そして、ある日、辰ちゃんが組合の忘年会の帰りにうちへ来たの」

 「運命の出会いね」

 「だといいんだけど、女将さん、私、もう2度と騙されるのはイヤ」

 佳代さんの綺麗な顔が一瞬にクシャクシャに曇る。

 「大丈夫よ。辰ちゃんはそんな女の人を騙すような男じゃないわ」

 「昨日、お昼、内に来てくれて、『一緒に暮らしてくれ』ってプロポーズされたんだけど、またおんなじことになるのが怖くって返事出来なかったの」

 翌朝。

 「辰ちゃん、モーニング珈琲を飲みにおいでよ」

 という女将啓子さんの電話に誘われて辰夫さんがレッドに来た。

 レッドのドアを開けた辰夫さんが「アッ」と驚くのを見て、

 「辰ちゃん、珈琲ここに置いとくから」

 佳代さんの横に珈琲をおいて女将さんは出て行った。

 「佳代ちゃん、一昨日は突然あんなこと言ってごめん」

 「いいえ、悪いのは私の方だわ。ちょっとビックリしたんだけど、結婚ってもう怖くなっていて、確かに嬉しいんだけど、でも、私で本当にいいの。後悔なんてしない」

 「しないよ」

 「それと、私は佳代なのよ。姉の静江の代理なんかじゃないよ」

 「わかってる。オレは佳代ちゃんが好きなんだ」

 「ホント、信じていいの」

 「本当だとも。オレは佳代ちゃんが好きなんだ。死ぬほど好きだ」

 佳代さんは辰夫さんの首に抱きついて自分の頬を辰夫さんの頬に寄せた。

 「好き、好き、好き、私、辰夫さんが大好き。私、幸せになっていいんだね」

 「ああ、オレが絶対に幸せにしてみせるよ」

 佳代さんは泣いた。大声で泣いた。

 フロントで新しい想い出石に女将さんが書いた。

 『女は幸せになるために産まれてきている』






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Last updated  2011.01.02 06:52:33 コメント(24) | コメントを書く


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