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3ヶ月以上も更新していないので続きと言えないかも知れないが…『珊瑚礁のサンタクロース』のオープニング・クレジット以後のシナリオを公開する。●東京都内・レストラン(以下、回想シーンが続く) レストランの厨房で皿洗いをしている慶介(24歳)。慶介「(声のみ)小さい頃に両親を共に亡くした俺は、富良野の高校を卒業するとすぐに上京。東京の予備校で2浪し何とか3流の大学に進学した。しかし、金の援助が一切なかった俺は学費も生活費も全て自分で稼がなければならなかったのだ…」 いつも慶介をいじめている先輩コック(A)が煙草をふかしながら、 彼をじっと見つめている。慶介「(声のみ)やっとのことで大学も終ろうとしていた4年生のとき、俺は些細なことによりバイト先で事件を起してしまった…」 洗い場に自分の汚れた調理服を投げ込む職場の先輩(A)。A 「おい、苦学生、これも洗っとけよな」慶介「どうして、そんなことをするんです?確か、調理服や制服などはクリーニング屋が… 」A 「先輩の言うことが聞けないってわけ?お前が東京で生活しながら大学に行けるのも、ここで仕事をしているからだろうが…と言うことは、先輩の俺たちに感謝の気持ちがあってもいいはずだろ?」慶介「……………」A 「ボンクラな俺は大学なんか行ってねえよ。だからお前さんのような同情を求める苦学生ぶった奴のツラを見ていると、腹が立ってしょうがねえんだ」 洗い場に、Aは今までふかしていた煙草の吸殻も投げ入れる。 怒りが爆発した慶介はAと無意識のうちに大乱闘を始める。慶介「(声のみ)青春の疾走にしては代償が余りにも大き過ぎた。相手に全治6ヶ月の重傷を負わせてしまった上に手を出したのも自分が先だったため、俺は傷害事件の加害者となってしまったのだ。裁判所の判決では情状酌量として実刑にはならず執行猶予だけになったものの、前科者であることに変わりはなかった…」●東京都内・銀座界隈 人ごみに紛れて歩いている慶介。慶介「(声のみ)卒業間近であったが俺は自ら大学をやめた…浪人時代を含めて、東京で6年間も自分のみを頼りに頑張ってきたはずだが、その努力も全て泡のように掻き消えてしまった」 慶介は旅行代理店に貼られた1枚のポスターの前で立ち止まる。 オーストラリアの雄大なグレートバリア・リーフの写真。慶介「(声のみ)何気なく立ち止まって眺めた旅行代理店のポスターに、なぜか俺は吸い寄せられてしまった…」●旭川市内・水族館(さらに遡った少年期の回想へ…) 祖父に連れられて訪れた慶介(10歳) たくさんの種類の珊瑚礁と彩りの鮮やかな熱帯魚が泳ぐ大水槽に、彼は何 時間も魅入ってしまう。慶介「おじいちゃん、どこの海に行ったらこんなに綺麗なお魚たちを見られるの?」祖父「……………」慶介「(声のみ)まだ小学生の頃、親代わりとして育ててくれた祖父が、旭川市内にある水族館に連れて行ってくれたときから、暖かい南国の海に俺は憧れていたような気がする…」●石狩湾 同級生と一緒に日本海の海原を眺める慶介(14歳) 大波が押し寄せ、荒れ狂う黒い海… 湾が広がる砂浜で慶介は砂に埋もれた貝殻をひとつ見つけると、 拾い上げてズボンのポケットに入れる。慶介「(声のみ)住んでいる富良野にも近くの都会だった旭川にも海はない。中学生になってから友人と石狩に遊びに来て、俺は初めて本物の海を眺めた。しかし、石狩で見た荒れ狂う波が押し寄せる日本海は、小学生の頃、旭川の水族館で感動を覚えた南国の海のイメージとは全くかけ離れた世界だった…」●青函連絡船 函館港を出航する連絡船。 船上のデッキで津軽海峡を眺めている慶介(18歳)慶介「(声のみ)富良野の高校を卒業して、北海道を離れるときに眺めた津軽海峡も、俺のなかではさほど石狩の黒い海と変わらなかった」●東京湾 岸壁に停泊している貨物船の荷役作業をしている慶介(20歳)慶介「(声のみ)予備校に通っていた2年間の浪人時代…バイト先で眺めた東京の海は最悪だった…工場の汚水やヘドロが沈殿した東京近郊の海は人の心までも荒廃させてしまう…」●東京都内・銀座界隈(回想シーンの終り) グレートバリア・リーフのポスターを暫く眺め続ける慶介だが… 彼はポスターに吸い寄せられるかのように代理店内へと入って行く。慶介「(声のみ)南国の海であれば、別に国内の沖縄でも良かったんだろが、ポスターに魅入られてしまった俺は、全財産を叩いてでも観光ビザのぎりぎりまで日本を離れようと心に決めていた…小学校のとき、旭川の水族館で見たあの風景に出会えれば、自分自身も今と何かが変わるような気がしたからだ」●JR滝川駅 ホームに滑り込むように特急列車が入る。●同駅・特急列車の車内 指定席に座っている慶介、宗八朗、瑠璃子。宗八朗「お前の故郷の富良野へ行くには、確か、今は乗換えが必要なんじゃないのか?」慶介「ああ…でも、その前に行きたい場所があるんでね」瑠璃子「どこなの?」慶介「旭川さ…」●函館本線(滝川~旭川間) 雪が降り積もるなか、快適に走る特急列車●JR旭川駅前 駅舎から出てくる慶介、宗八朗、瑠璃子。 凍て付く寒さに身震いをしながら、宗八朗「それにしても、旭川ってところは寒いよな。よく人が住めるもんだと感心してしまうぜ…」瑠璃子「宗八朗は沖縄出身だからね」慶介「(声のみ)そう…沖縄出身の宗八朗と初めて出会ったのは、オーストラリア大陸の最北端の街・ケアンズのトリニティ湾でだった…」●ケアンズ市内・トリニティ湾(以下、再び回想シーンが続く) ビーチ沿いの広々とした芝生に寝転んでいる慶介。慶介「(声のみ)日本を脱出し、まずクイーンズランド州の玄関口の街でもあるケアンズに到着した俺は、ビーチ沿いの芝生に寝転んでオーストラリアの強い紫外線を楽しんでいた…」 そこへ、ぶらりと現れたのは、Tシャツと短パン姿の宗八朗(24歳)宗八朗「お前、日本人だろ…旅行者か?」慶介「あんたもだろ?」宗八朗「ワーキングホリデーというビザを取って、俺は働きながらオーストラリアを周ってるんだ。今は、この街のダイバーショップにお世話になってる…」慶介「なら、ここのグレートバリア・リーフで潜ったのか?」宗八朗「もちろん。ケアンズに来てグレートバリア・リーフの海中を見なきゃ、バカを通り越した大バカ者といわれてしまうぜ」●トリニティ湾を走るクルーザー 地元のオージーが運転するクルーザーは快適に海上を走る… 後部席にはウエットスーツ姿の慶介、宗八朗。 酸素ボンベ、レギュレーター、足ビレなどのダイビング用品も、 船内に所狭しと積まれている。慶介「(声のみ)偶然に出会ったブッキラボウな宗八朗とは気が合いそうだった。さっそく、俺は彼の勧めるスキューバダイビングを一緒に経験してみることにした…」●海上に浮かぶポンツーン(海上に浮く波止場) ダイビングの中継ポイントとなるポンツーン。 そのポンツーンに慶介らを乗せたクルーザーが近づく… クルーザーの上から手を振る宗八朗に、 ポンツーンのデッキから手を振り 返す瑠璃子(20歳)慶介「(声のみ)その当時20歳であった瑠璃子との出会いだった。彼女も宗八朗と同じように、ワーキングホリデーを利用してオーストラリアに来ていたのだ」●同・デッキ上 エメラルドグリーンの美しい海を眺めている慶介。 透明度が高いせいか、海中を泳ぐ熱帯魚たちや珊瑚礁も見える。慶介「(声のみ)小学生のとき以来、求めていた海にやっと出会えた喜びを俺は全身で感じ取っていた…」 慶介の側で、談笑している宗八朗、瑠璃子。慶介「(声のみ)瑠璃子はポンツーン上で、毎日訪れるダイバーたちの雑役係りをしていた」宗八朗「なあ、せっかくだから瑠璃子も一緒に潜ろうぜ」瑠璃子「でも、仕事中だし…」宗八朗「気にすることねえよ。あちらのお客さんが一緒なわけだし、これもお前の仕事のようなもんさ」瑠璃子「宗八朗はしつこいんだから、いつも…」 仕方がなく、ダイビングの準備に取り掛かろうとする瑠璃子。慶介「(声のみ)今思えば、俺をグレートバリア・リーフに案内するということよりも、彼女をダイビングに誘いたいという目的の方が、宗八朗には比重が大きかったようだ」●海中(回想シーンの終り) 5メートル程下の海底を散策している慶介、宗八朗、瑠璃子。 カラフルな色彩に彩られた珊瑚礁の絨毯。 そして、周囲を華やかにさせる数々の熱帯魚やイソギンチャク、 ヒトデ、エビ、カニ、貝類などの南洋の仲間たち… 海中に射し込む太陽の陽射しがスポットライトのように、 それらを幻想的 に映し出す。慶介「(声のみ)驚くほどの美しさだった…まるで旭川の水族館で見た水槽のなかで泳いでいるような気分だった」 そして、現在にオーバーラップ…回想シーンが前後にかなり出てくるので混乱するかも知れないが、このシナリオで今流行の映画技法を真似している。現在と過去が交差し続けるので、初めて読んだ方が映像を浮かべるのは大変だろうが、この続きは次回に…http://www.stepone-movie.com でも続きを読めます。
Mar 17, 2006
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3ヶ月以上も更新を休んでいたのには理由がある。昨年から今年にかけて、暫くTV番組の海外ロケが続いたからである。ドキュメンタリー番組が二本、紀行番組が二本、バラエティ系道中番組が三本と、海外ばかりが目白押しに続いたのだ。海外ロケのドラマがなかったのは残念だが…エジプトの首都・カイロでピラミッドを撮影中に、ハリウッド映画のロケ隊にたまたま遭遇し、主演していた女優のペネロペ・クルスと暫し話すことも出来た。映画は昨年に日本でも公開された『サハラ』の続編らしいが、今度の続編が日本で公開するのかは未定のようだ。我々のロケ隊とは規模が全く違うせいか、砂漠地帯にかなり大掛かりなセットを組み、何百人というスタッフが働いている。ニュージーランドでは、ロケの合間で『ロード・オブ・ザ・リング』や『ラスト・サムライ』のロケ地跡を見学した。オーストラリアでは、『MI:2』のロケ地で撮影をした。海外の行く先々で…別に意識はしていなかったが、何となくハリウッド映画に浸った日々を過ごしていたのかも知れない。もし機会があれば、その時の面白話をブログでもしてみようかとは思っている。海外に限らず、常に俺は愛用のデジカメを持ち歩いている。ドラマや映画のシナハン(シナリオ・ハンティングの略称)のため、自分勝手に絵になりそうな風景を押さえるためだ。戻って来てから、その時の写真を眺めてイマジネーションを膨らませると、シナリオ創作が順調にはかどるのだ。こんなにもブログを休んでいたのにも関わらず、少しづつでもアクセスが増え続けたのが嬉しかった。興味のある人が多いからだろう。さて、次回からは暫くぶりにドラマ制作の本題に戻りたい。追伸:全く関係のない話だが…海外にいる間でも俺はよく酒を飲む。そして、日本の酒の肴が無性に恋しくなる時がある。長期間も海外に滞在すると、どうしても食べたくなる日本の酒の肴として、ウドの酢味噌和え、タラの芽の天婦羅、馬刺し、レバー刺しの4品だ。世界中に日本食レストランは存在するが、この4品は日本以外のどこの国へ行っても食べることは難しく、とても不自由するのだ。特に、馬の生肉や生のレバーなんぞは、海外ではゲテモノ料理と同じ扱いである。外国人にとって、日本食の梅干や納豆、魚の刺身なんかはまだかわいい方で、馬の生肉を食う日本人は、それこそゾウやカバの生肉を食う野蛮人と同類に見られてしまうのである。歴史と共に、世界の生活文化や食習慣は複雑でさまざまなのだ。
Mar 16, 2006
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正月に向って特番の制作に追われ…毎日書こうと思っていたブログも無理な日が出てきている。しかし、俺の場合は日記と言うよりも、テレビドラマの制作全般のことを毎日書き込んでいる訳だから、あまり気にはしていない。アフィリエイトで収入を稼ごうと思う人は、日記の更新でアクセス数を増やすことを考える訳だが…俺がブログを公開した理由は、この業界のことにどれだけ興味がある人がいるのだろうかと思ったからである。どんな仕事にだって裏事情は付き物だが…俺の仕事だと第三者からは華やかに見える業界だけに、けっこう地味な苦労が多いんだなとギャップを感じて貰えれば、それで充分だと思っている。誰もが歌手や俳優になりたいとか、映画やドラマを制作してみたいとか、一度は思ったことがあるのかも知れないが、中途半端な努力ではだいたいは夢か挫折で終わってしまう。一流のプロスポーツ選手などのように、生まれつき才能があるからと一流になれるものでもなく、運も才能のうちと言うように、その都度の運みたいなものも左右して来る仕事のように思える。ところで最初の項で、番組制作に関る人々の話を書いていたのだが、ついうっかり広告代理店の存在を忘れていたのだ。いろいろな業界の代理店が存在する中、番組制作に必ずしもなくてはならないと言う訳でもないのだろうが、「持ち込み企画」の番組においてはプロデューサーの役目を担うため、なくてはならない存在へと変わってしまう。スポンサーから依頼されたあらゆる広告を取り扱っているせいか、広告代理店は「資金集め」のプロである。媒体事業部のある大手代理店になると、広告のイメージ戦略で採用する大物俳優さんとも親しいし、「プロデューサー集団」のようなものである。だから民放の大きなテレビ番組や映画には、複数のプロデューサーが存在しており、その中に広告代理店の担当者も加わっているケースが多いのだ。次回こそ、オリジナル脚本の続きを公開したい。
Dec 2, 2005
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演出家にとって、撮影現場での俳優さんとのコミニケーションは大切だ。それに撮影が始まると、俳優さんのそれぞれの動きに合わせてカメラアングルは考えなければならないし…演出助手、カメラ、音声、VE、照明、ヘアーメイク、スタイリストたちなどの、各担当スタッフにも適切な指示を出さなければならない。撮影現場を統括する演出家は、大人数の全てをコントロールするために、膨大な役割を担うのである。孫悟空やドラえもんなら、分身の術でたくさんの自分を出現させることが可能だが…現実はそうはいかない。そこで、数人の演出助手が演出家の手足となって、現場を忙しく動き回るのである。映画業界だと、助監督(テレビ業界の演出助手)にもちゃんとランク分けがあり、ファースト、セカンド、サードぐらいに身分が分かれていて…巨匠の監督の映画だと、サードの助監督にかなりの人数がいて雑役業務もこなしている。しかし、テレビの世界では演出助手はあまり身分が分かれておらず、スタッフロールで演出補の肩書きだと、映画業界のファーストの助監督と同じと考えてもいいかも知れない。(サードぐらいの身分になると、名前すら掲載されないことも多い。)この演出助手の連中を統括する演出補のヘッドが優秀であれば、撮影の半分は成功に終わったと言っても過言ではないのだ。演出補は事前に演出家の考えを汲み取り、他の演出助手や演出家の代役として俳優さんと全スタッフに適切な指示を出す役割だからである。演出補が優秀であれば優秀であるほど、演出家は俳優さんたちと大切なコミニケーションが図れる時間が多く取れることになる。ここで、演出家としての俳優さんへの扱いだが…1)徹底した厳しい演出2)褒め称えることに徹した演出3)「アメとムチ」を使い分けた演出どの業界にも相通じる上司のパターンなのだが…俺の場合だと、スタッフには3)であり、俳優さんには敢えて2)になることにしている。日本以外でも名前の売れている某舞台演出家は1)で有名だが…だいぶ前の項で述べたように、演技力は俳優さんの持つ自らの才能であり、演出家の助言でそう簡単に変わるものだとは、俺は思っていないのだ。俳優さんとのコミニケーションで必要なものは、何の意味のない雑談で盛り上げて、単に現場での本番前の緊張感を解してあげる…これでいいのだと、俺はいつも思っている。撮影前から役になりきっている俳優さんなら、その役のキャラクターのままで自分に接して貰えばいいだけのことなのだ。演出面で俳優さんへ必要な指導は、それぞれの感情表現の動きや行動に尽きるような気がする。無名の俺が偉そうに言えることでもないのだが、自分のプログだからこそ勝手に何でも言わせて貰えれば…どんな業界でも、口煩い上司よりも自由奔放にさせてくれる上司の下にいる部下の方が、部下も業績を上げているようなことが多いはずである。次回は、続きの脚本を公開する前にもうひとつ…テレビの番組制作には欠かせない、広告代理店の存在について説明したい。
Dec 1, 2005
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あくまでもヴァーチャルだが…前項で公開した冒頭の脚本部分を、演出家の立場で作業をするとなると、まずは脚本をこと細かく分解することから始まる。脚本はドラマ制作における完成予想図なので、パーツごとに分解しながら設計図を作り上げるのだ。既に、この時点でキャスティングは決まっているので、出演者である俳優さんたちにも製本版になった最終決定稿の脚本が配られているのだ。もちろん、各制作スタッフにも脚本が配られており、撮影当日までにそれぞれの部署で準備が進められている。公開した冒頭の脚本部分だけで8シーンがあり…カット総数を考えると40カット以上はあるだろう。この中でいちばん難しい撮影になるのは、出演者のテロップが表示されるバックの映像である。●海中 海底は淡い色彩に彩られた珊瑚礁と、 その珊瑚礁の周囲を泳ぐたくさんの熱帯魚たち… そんな龍宮城にも似た美しい海中を、 スキューバの装具を身に付けて自由奔放に泳ぐ三人。 強い陽ざしが射し込む海底へ、 サンタクロースの衣装である 帽子、上着、ズボン、靴などが沈んで行く…演出家が計算すると、このシーンのカット数はおよそ9カットぐらいだろうか…主要な出演者のテロップの表示が終わるまで、1分30秒の時間尺は欲しいところだ。1分30秒だと、1カットがおよそ10秒前後の時間となる。演出家はこんなことを考えながらカット割りを考えて、事前に絵コンテを作成して行くのである。その絵コンテのひとつが、いちばん上に貼り付けた画像である。俺の場合はパソコンのグラフィック・ソフトを使って、絵コンテを作成している。このシーンは全てが海中撮影である。最後の「サンタクロースの衣装である帽子、上着、ズボン、靴などが沈んで行く…」と言うト書き描写も、撮影時に珊瑚礁のある海中へサンタクロースの衣装を沈める必要があるのだが…実際には海中に海流などが走っているので、衣装はぐちゃぐちゃに丸まって沈んでしまうことが多く、絵コンテのような幻想的な美しいカットは無理となる。そこでCGとの合成を考える訳だ。珊瑚礁のある海中の実写と、サンタクロースの衣装のCGとを合成したりするのだ。かなりの費用もかかるが、もっと手の込んだ撮影方法もある。スポーツセンターなどでスキューバの講習をする水の入った水槽を借りて、水槽面の全面にブルースクリーンを張る。(編集での合成の際、クロマキーにするため。)次に、水槽の底から水面までピアノ線を引っ張り、細い針金のハンガーに吊るしたサンタクロースの各衣装部分を、ピアノ線に引っ掛けて水槽の底まで下ろすのだ。水槽の底では撮影をするカメラマンと、衣装に付いた糸を引っ張る演出助手のアシスタントがいて、衣装の形が崩れないように速度を調節しながら沈めるのである。そして、この衣装の実写と珊瑚礁のある海中の実写を合成すると、よりリアルな映像が出来上がるのだ。また、水槽の水面上からワット数の高いライトを当てると、水中を降下する衣装に光や影を付けたり、強い太陽の陽ざしが射し込む海底の雰囲気も醸し出すことが可能だ。制作予算を考えながら1シーンだけでもいろいろな撮影方法を考えて、演出家は最高の演出技法までに到達させようとするのだ。充分に理解が出来ただろうか…完成予想図である脚本を、パーツごとに分解しながらこつこつと忍耐強くカメラ割り(絵コンテ)の設計図に作り上げて行くのが、撮影前までの演出家の仕事なのだ。次回は、実際に制作するつもりになって、この脚本部分の撮影時における演出テクニックを説明したい。
Nov 30, 2005
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10年以上も前に、俺はオーストラリアに3年間住んでいたことがある。北半球にある日本とは季節が逆なため、南半球のオーストラリアは真夏にクリスマスを迎えるのだ。数年前のことだが…その真夏のクリスマスを脚本に利用出来ないものかと、オーストラリアをメインの舞台にして、俺なりに青春群像劇のドラマ脚本を書いたのだ。その脚本を企画書にして…プロデューサーに企画が通れば、近いうちにドラマか映画で演出したいと思っていたのだが、残念ながらその夢は果たせず今日に至ってしまっている。これからの実践編として、まずはその脚本を公開しよう。何度か書き直しをしているが、企画が実現し実際に撮影をする時は、プロの脚本家にちゃんと書いて貰うつもりだったので、ストリー展開には俺流の都合合わせの部分もあるがご了承願いたい。。長編のスペシャルドラマなので、以後は数回に分けて公開するつもりだ。男2人と女性1人が主人公の回想劇だが…企画書にするつもりだったので、俺のイメージで主人公だけはキャスティングしている。本宮慶介 長瀬智也(TOKIO)仲間宗八朗 山口智充(どんどこどん)神崎瑠璃子 仲間由紀江読む人それぞれが、勝手にこの脚本のイメージを膨らませて、自分だけのキャスティングをする練習をしてみるのも面白い…『珊瑚礁のサンタクロース』 作 toshichan5682( オープニング・プロローグ )●ケアンズ市内・トリニティ湾 スーパー 「200○年・9月○日 オーストラリア クィーンズランド 州・ケアンズ」 太陽の強い紫外線が照り付ける中… 陽気なオージー(オーストラリア人)たちで賑わうヨットハーバー。 停泊しているクルーザーの横の通路を、 手を繋ぎながら仲良く並んで歩く、 仲間瑠璃子(38歳)と彼女の一人息子である慶介(3歳)。 ビーチ沿いの芝生では、 フリスビーやローラースケート、サッカーなどの野外の遊びを、 水着姿のままで地元の若者たちが楽しんでいる… そんなのどかな南国の風景を、 芝生にごろんと寝転んだまま眺めている、 瑠璃子の夫・仲間宗八朗(42歳)。 そこへ、ヨットハーバーから戻って来た瑠璃子と慶介が現れる。瑠璃子「慶介、ここケアンズが気に入ったみたい…日本から着いたばかりだと言うのに疲れた様子も見せず、はしゃぎっぱなしよ」宗八朗「そうか…本当の父親とそっくりだな」 慶介を抱き上げて、宗八朗の横に座る瑠璃子。瑠璃子「ねえ…どうしてなの?20年以上の月日がたった今になって、ここケアンズへ来ようと思ったの?」宗八朗「単なる、お前たちへの家族サービスさ…深い意味なんかない…」瑠璃子「そんなのウソよ…産まれた子供にまで同じ名前を付けるなんて、貴方は慶介のことが忘れられないんじゃないの?」宗八朗「そう言うお前はどうなんだ?この子は慶介の形見なんだし…」瑠璃子「正直言って、わからない…確かに、時々今も慶介が生きていれば、私たちどうなってたんだろうなと思うことはあるわ」宗八朗「アイツが生きてりゃ、長いこと刑務所に服役してたかも知れんが…この地ケアンズで苦い青春時代を励ましあった、本当の仲間だもんな…」瑠璃子「きっと、慶介は誰よりも人の痛みを感じ取ることが早い、繊細な神経の持ち主だったのよ…」宗八朗「…………… 」 ふいに、自分の首から、 貝殻に紐を通したネックレスを外す瑠璃子。瑠璃子「慶介の一生は、貴方や私の心の中心部へ入り込みながら、グレートバリア・リーフのような珊瑚礁の海に憧れ続けた人生だったわね。でも、慶介とはもう決別することにしたの…だから、これはいらないわ…」宗八朗「瑠璃子…」瑠璃子「4年前…お見合いした相手と結婚したばかりだったのに、すぐ離婚して私は貴方と再婚した。自分のお腹に慶介の置き土産を宿したまま…もう、いいの…私が愛するのは貴方だけで充分なの」 幼い慶介を宗八朗に託し… 瑠璃子は立ち上がると、 海辺の波打ち際まで駆け寄る。瑠璃子「これ、慶介に返すわね。慶介の大好きだったグレートバリア・リーフの海よ…さようなら…」 海原に向って、 瑠璃子はネックレスを思い切り投じる。 宙を高く舞い、 海面へと落下するネックレス…慶介 「(声のみ)今の俺は、魂だけの存在だった…宗八朗と瑠璃子の心の中へ、悲しさと哀れみの感情だけを残す結果となってしまった…それは、忘れもしない4年前のことである。今思うと、自分で選んだ俺の死に方は、とても無残であったのかも知れない…」●東京都内・宗八朗のマンション(早朝) スーパー 「200○年・12月○日 東京」 ベッドの側にある電話のベル音が鳴り渡り、 せっかくの気持ち良い眠りから目を覚ましてしまう宗八朗(38歳)。 フトンから手だけを伸ばして、面倒くさそうに受話器を取る。宗八朗「もし、もし…慶介か?週末の休日の朝っぱらから何事なんだ。いったい、もう…多分、浮気性のお前に嫌気がさしたカミさんと、喧嘩でもしたんだろう…え?違うって?これから北海道へ行く?カミさんとか?違う?師走だというのにひとりでなんて、いいご身分じゃんか…お前のことだから、冬眠中のメス熊にでも会いに行くのか?うん?何だって?」 突然、驚いてベッドから上半身を起す。宗八朗「俺や瑠璃子も一緒にだと?」●羽田空港・出発ロビー 先に来ていた慶介(38歳)と落合う宗八朗。 慶介から新千歳までの搭乗券を受け取る。宗八朗「せっかくの土・日の休日を…いきなり北海道へだなんて…お前は何を企んでいるんだ?」慶介 「バツイチのお前に、休日に特別な用事があるとでも?どだいお前が若い独身女性と休日にデートだなんて想像出来るかよ…旅費は全て俺が持つわけだし、文句を言わんでもらいたいな」宗八朗「そんな台詞、普通は言うか?俺と違って、どうせお前は妻子のいる幸せな家庭を築いているんだろうけどさ」 慶介は腕時計を見ながら話題を変えて、慶介 「ところで、瑠璃子、遅いな…」宗八朗「最近、彼女は結婚したばかりだし…俺たちと一緒だと知ったら、嫉妬深い旦那が許してくれないんじゃないのかな 」 そのとき、こちらに向って走って来る瑠璃子(34歳)の姿。宗八朗「あいつ、マジで来やがった…」 満面に笑顔の瑠璃子。瑠璃子「遅れてごめんなさい…首都高をタクシーで飛ばしたんだけど、渋滞にハマっちゃって」宗八朗「2日も空けて、家の方は大丈夫なのかよ」瑠璃子「ふたりに会うのは、暫くぶりだし…」宗八朗「気持ちはわかるけど、野郎同士に挿まれた旅行だぞ。ひょっとしてお前…旦那にウソをいったんじゃないのか?」慶介 「宗八朗、いい加減にしないか。モタモタしていると、飛行機に乗り遅れるぞ」●同空港・滑走路 エンジン音を響かせて離陸する飛行機。●飛行機の機内 エコノミー席に瑠璃子を挿んで座っている慶介と宗八朗。慶介 「(声のみ)20年ぶりに帰る北海道であった。それも、14年来の付き合いのある宗八朗と瑠璃子も一緒に…」( メイン・タイトル表示 )●空撮風景 オーストラリア最北端の街・ケアンズ。 雄大に広がる、上空から眺めたグレートバリア・リーフ。 メイン・タイトル「珊瑚礁のサンタクロース」●砂浜 美しい白砂のビーチに軽装で腰を降ろして、 夕陽に染まる南洋の海原をぼんやりと眺めている当時の、 本宮慶介(24歳)、神崎瑠璃子(20歳)、仲間宗八朗(24歳)。 彼らの各々の両手の中には、 銀色の大きなリボンが付いて丁寧に包装された、 クリスマス・プレゼントが…( キャスティング紹介 )●海中 海底は淡い色彩に彩られた珊瑚礁と、 その珊瑚礁の周囲を泳ぐたくさんの熱帯魚たち… そんな龍宮城にも似た美しい海中を、 スキューバの装具を身に付けて自由奔放に泳ぐ三人。 強い陽ざしが射し込む海底へ、サンタクロースの衣装である 帽子、上着、ズボン、靴などが沈んで行く…まだドラマが始まって7~8分程度の尺の、オープニングアバンからタイトルカットまでの流れを公開した。キャスティングもそうだが、どんな映像にするのか演出家の立場で読むといいだろう…次回は、脚本の続きを公開する前に、ヴァーチャルだがこの脚本を実際に使って、演出実践をしてみようと思う。
Nov 29, 2005
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ドラマのMA作業は、大きく分けると下記のような種類に分類される。1)ナレーション登場人物の声やドラマに登場しないナレーターの声。2)効果音(SE)演出によって、実際に音の出ないものに音を付加したり、実際の音よりも迫力のある効果音を付ける。3)アテレコ騒音などやロングのアングルなどで、撮影時に俳優さんの台詞を録音出来なかった部分を再度収録する。4)BGMドラマの盛り上がりのシーンやエンディングには不可欠な音楽。どれもがMAではとても大切な作業だ。1)なんかは、登場人物の回想シーンや倉本聰脚本のドラマ「北の国から」では重要なエッセンスになっている。2)はアクションドラマには欠かせないもので、銃撃戦の拳銃音や爆発音、パトカーや救急車のサイレン音、殴り合いをする格闘シーンでの拳音なども、全て人工的に作られた効果音である。3)はロングショットなどで集音マイク(ガンマイク)では拾えない俳優さんの台詞などを、スタジオで完成された画像を見ながら本人が吹き込むのだ。4)のBGMなどは、視聴者が感情輸入し易くするための演出法である。音楽レーベルとのタイアップ曲が、ドラマの高視聴率によってその音楽CDの売上げにも、大きく反映されることは今や日常茶飯事となっている。MA作業のスタッフには、演出家の指示によって、BGMを選曲する音効担当者や、オリジナル曲を手掛ける音響担当者、全ての音のアレンジや調整をするミキサー担当者が携わり、局内やポスト・プロダクションなどにあるMAブース内で収録される。そこには、ラジオ局やレコーディング・スタジオにあるような本格的な業務用のミキサーが置いてあり、万全な環境でドラマの総仕上げに掛かるのだ。2)の効果音などは、パソコンの音源ソフトで簡単に作ってしまうことも多いので、映像がデジタル編集の場合などはそのまま貼り付けることもある。また、効果音やBGMが素材集として市販されているので、手っ取り早く利用することも多い。これらのMA作業が一通り終了すると、全ての音をドルビーのステレオ音にまとめて、それぞれ単体になっている音を映像にミックスさせてしまうのだ。こうした長い過程を経て…局から指定された業務用録音テープにダビングすると、編成部に納品するドラマの完璧な完成品となるのだ。しかし、喜ぶにはまだ早いのがこの業界である。当然のことだが…完成品として編成部に納める前に、プロデューサーのチェックやスポンサーを集めてチェックする試写会などもあり、今までの苦労が泡と化すような手直しをさせられることも多いのだ。以上で、ドラマ作りの流れの簡単なノウハウは終了する。次回のプログからは、俺の書いたオリジナル・ドラマの脚本を、実践編として公開するつもりだ。
Nov 28, 2005
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編集作業には、従来のアナログ編集とデジタル編集がある。プロの世界も、現在は「ノンリニア」と呼ばれるデジタル編集が主流だ。高スペックなパソコンがあれば、自宅でも動画編集ソフトを使って編集が可能なのである。最初に、収録したテープをパソコンに繋がった業務用レコーダーを使ってハードディスクに取り込んでしまうのだが、デジタルカメラで撮影したデジタル映像であれば画像が劣化することはない。アナログ変換の業務用レコーダーもあるので、ベーカムなどのアナログカメラで撮影したものでも心配はない。従来のアナログ編集機だと、収録テープを回しながら編集用テープに録画して行くため、テープに傷が付いたり画像が劣化することは避けられないのだが、デジタル編集だとマウスでクリック・ドラックするだけなので、収録テープを傷めてしまうこともない。一般的な録画品であれば、VHSのビデオテープとDVDの違いと考えて貰うといいかも知れない。これからの時代は一般の地上波局もデジタル放送へと変わるので、アナログ編集は衰退しデジタル編集が更に進化して行くと予想される。かなり後回しになってしまったが、これからは収録したドラマの編集作業の説明を始めたい。まずは、撮影時にスプリクターが記録しているOKテイクを脚本通りに繋げていくのだが、全体のバランスや時間尺を見るために仮編集(このことをオフラインと呼ぶ。)を行う。因みに、俺の場合は自宅のパソコンでオフライン編集のみ行い、業界専門の編集プロダクションで完成させるのだ。そしてオフライン編集後、放送時間枠に収まらないカットやシーンを削除したり、演出的に不必要と思われる部分なども削除して行く。音声は、同時録音している出演者の台詞や必要な現場音のみを貼り付ける。また、ドラマを盛り上げるために、演出家はさまざまな編集技術を利用する。例えば、よく使われる一般的なパターンだと、登場人物が過去の話を語る回想シーンで、画像はセピア色にして出演者の台詞にエコーなどを掛ける技法が使われたりする。いつも映画界の話ばかりになるが、岩井俊二監督の代表作「ラブレター」なんかは編集での表現力の素晴らしさが際立つし、リドリースコット監督の「グラディエーター」や「ハンニバル」「ブラックホークダウン」などは、編集においても演出家としての力量が感じられる作品なのだ。もちろん、CGなどとの合成や特撮も編集時に加工され…業界では、画像と現場音のみが完成品に仕上がったものを「白(シロ)」と呼び、それにオープニング・タイトルやエンディングロールなどへ紹介文字(テロップ)が入ったものを「白完(シロカン)」と呼んでいる。二時枠の通常の特番ドラマで、およそのシーン数が80シーン以上…総カット数ではおよそ300カット以上が使われているのだから、編集は根気と体力のいる作業なのである。映画になると、中途半端な根気では作れない。ルーカス監督は一作品の編集に1年間もの歳月を掛けて、映画「スターウォーズ」を完成させているのだ。(「エピソード3」の1分間のシーンで、100人のエディターが編集時間に3ヶ月を費やした部分もあるそうだ。)次回は、最終段階の完璧な音入れ作業(MA)について説明したい。
Nov 27, 2005
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俳優さんもプロだから、ドラマの撮影時に素人相手のような何から何までこと細かに指示すると、俳優さんのプライドを傷付ける可能性がある。俺は大先輩の演出家から、「カメラやスタッフの前で演技をしていて、本当に泣ける俳優を使うのが演出のカギ」と言われたことがある。視聴者の目は、そう簡単に誤魔化せない。目薬だと「ウソ泣き」がバレてしまい、リアルさに欠けてしまうと現場のテンションも盛り上がらない訳だから、それだけ感情挿入が出来る俳優さんは演技力がある証なのだ。演出家に一々言われなくても、優れた俳優になると、迫真の演技をする上で役の人物になりきるのが当然だと思っているから、本人自らさまざまな努力をしている。例えば、適役同士の俳優さんならば、普段はとても仲が良くても撮影中は一切顔を合わせることをワザと避けたり…熱々カップル役の俳優さんならば、プライベートでもデートをしてみたりと、各自で惜しまない努力をしているのだ。だから、演出家は俳優さんから質問された時にだけ演技の指導をすればいいのであって、メインはカメラアングルである構図を考えて、俳優さんたちの位置を決めて動きを徹底指導するのである。演出家の頭の中には絵コンテが入ってるので、そのコンテのイメージに合った動きを俳優さんにさせるのだ。しかし、演出家にとってこれがなかなか難しいことだ。俳優さんの演技のNGに併せて、いまいちの構図だったためにNGを出すことも多い。本番の際、演出家は俳優さんが実際に演技している現場を見ていることは殆どなく、構図のことばかり考えているので、いつもカメラに繋がったカメラの台数分のモニターを凝視しているのだ。(実際に俳優さんが演技している現場などは、演出家の指示で演出助手のスタッフが動くことが多い。)そして、演出家の側には必ずスプリクターもいる。スプリクターとは、演出家がOKを出したテイクの録画テープのタイムコードを記録したり、編集時におけるカットごとの繋ぎ合わせの順番も記録したりする、撮影時の記録全般を行うスタッフのことだ。もちろんモニターの横にはVE(ビデオ・エンジニア)もいて、画像の色具合や音声担当が録音した音声のチェックをしているのだ。前にも登場したが、故・黒澤明監督の構図のこだわりは、日本映画の巨匠だっただけにかなり徹底していた。晴天の青空に雲がひとつあってもイメージと違うからとロケを中止したり、撮影に邪魔になるものは一般の民家だって買収して撤去するこだわりなのだ。現代のようにCGの技術が発達していれば、そんな苦労をしなくても良かったはずだが、演出家の立場で今でも黒澤哲学から学ぶことは多い。次回は、撮影が無事にクランクアップした後の、本格的な作業となる編集について説明したい。
Nov 26, 2005
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俳優さんたちの演技もさることながら、演出家の絵コンテのイメージに合わせたカメラワークも重要である。そして、そのシーンの映像美…即ち色合いもだ。またまた映画界の話になるが、「ラブレター」や「スワロウテイル」の代表作がある岩井俊二監督は、映画を作る以前に数々の音楽アーティストのビデオクリップを作ってきただけのことはあって、色合いでそのシーンの登場人物の心情を表現する天才だと俺は思っている。最新作では「花とアリス」を観れば、色彩の美しさに唸ってしまう程なのだ。この色の美しさを表現するために、テレビドラマだと音声の録音をメインに優秀なVE(ビデオ・エンジニア)が担当するのである。それではカメラワークの話に戻そう。肩担ぎで臨場感を表現するドリィ撮影…カメラマンが鎧のような器具を付け、そこにカメラをぶら下げてスムーズな動きを表現するステディカムと言う機材もある。(これを使った代表的な映画では、スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」の戦闘シーン)大掛かりなものでは、大型クレーン、ジブ(カメラマンが乗らないで、アームを操作する小型クレーンのこと)、レール(並行ドリィ撮影に用いる)、ピンカメ(車の前方から車内シーンなどを撮影するための超小型カメラ)など、特別機材(通常は特機と略す)を使用する。もちろんこれらも特機になるが、車での並行ドリィ(車の走行シーンを撮影するため)、空撮では専用ヘリコプターやセスナを使用したり、ラジコンにカメラを搭載(近距離での空撮のため)したりもするし、スキューバの装備を付けたカメラマンが防水カメラを持つ(水中シーンの撮影のため)こともあるのだ。また、カメラのレンズだってさまざまな種類があるし…プロミストと言うフィルターをレンズに装着すると、照明器具の明かりがぼんやりと広がるので、夜風景の回想シーンなんかに使うと効果が充分に発揮されることになる。カメラもいろいろなアングルから同時に数台利用すると、編集時にさまざまなカット割り(無数のカットが繋がって1シーンになること)も可能だ。そして、カメラワークには構図も関係してくる。たくさんの登場人物が絡み合いながらも、構図を綿密に計算して長い1カットで納める撮影技法がある。海外テレビドラマの「ER(救命救急室)」なんかは、その撮影技法の代表作だ。日本では、三谷幸喜監督の映画「ラジオの時間」が、完全に「ER」を意識した作りをしている。構図に遊び心満載なのは、堤幸彦監督の「トリック劇場版」だ。ある1シーンで重要な登場人物が二人で会話しているのだが、そのシーンの中で全くストリーに関係ないエキストラ的な人物たちが、大袈裟に絡み合っているのである。わざと完全な野次馬的存在を登場させるなんて…なかなかこう言う構図は、普通の凡人には考えれるものではない。優れた脚本と俳優さんたちの演技力、そして演出家やスタッフ一同がこうしたあらゆる技法や努力を惜しみなく発揮しても、高視聴率のドラマとなりヒットするかの問題は別である。ナポレオンのごとく睡眠時間を減らして必死に働いても、悲しいことに収入面も含めて苦労が伴わない場合が多いのが、この業界の掟になっているようだ。次回は、俳優さんたちへの演出技法を説明したい。
Nov 25, 2005
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テレビドラマや映画の場合、よく演出家や監督の名前を取って「XXX組」と呼ばれることが多い。それだけたくさんのスタッフが関る大所帯の仕事だからである。ところで、ロケ地が決まって撮影の準備が整っても、直ぐにドラマ制作には行けない。これからが、大道具・小道具係りの出番なのだ。スタジオ内で撮影する場合はまるごとその部屋をセットで作ってしまうが、野外ロケになるとそうはいかない。例えば、「XXXX株式会社」のビルが必要になると、シナハンで許可を得たオフィスビルの名前だけを変えてしまうのである。それは看板だったりする場合は、ロケ前に大道具係りが作ってしまうのだ。それが出来ないようなビル自体に実名の会社名が入ってる場合、編集でCG処理をするケースもある。外観は実在するビルでも内部はスタジオ内のセットとか、内部だけ他のロケ地を使用することもある。時代考証の必要なドラマになると、歴史の専門家が監修をして山奥に関所や茶屋などを作るのである。よく時代劇の映像に出てくる城下町は、京都の太秦撮影所や日光江戸村などが使われるし、もう少し近代劇になると名古屋にある明治村なんかも使われる。城などは外観をそのまま使い、その時代風に編集時にCG処理をしたり、現在は焼失などしてしまった建造物は、セットで作ったりまるまるCGで再現したりするのである。ハリウッド的に、日本でも今なら自衛隊の戦車や戦闘機、護衛艦までも撮影に協力してくれる時代であり、制作予算さえ気にしなければCGの特撮と合成して、どんなストリーでも作れてしまう良い時代なのだ。まあ、テレビドラマの場合はメジャー映画と違ってそんな予算はないから、余計な話だろうが…大道具・小道具(美術係りを含める。)の準備が整い次第、漸く待望のロケが始まることになるのだが、ここで制作進行を担当するAD(以後は、演出助手と言わせて貰う。)が登場する。制作進行とは、全出演者のロケ先までの交通機関や移動手段、宿泊先の手配などをコントロールしながら、出演者の出番に合わせたスケジュールの段取りまで行うのである。前者の部分はロケ・コーディネーターとの共同作業で賄えるが、後者は制作進行の能力が問われる作業となる。人気俳優ともなれば掛け持ちで仕事を抱えているのは当然なので、制作進行は出演者の出番に合わせたスケジュールを組むのだ。例えば、Aと言う俳優が単独でのシーンならどうにでもなることだが、BやCの俳優と絡むシーンとなるとスケジュールを合わせなければ撮影は出来ない。AとBが大丈夫でもCが他の仕事でNGなら、やはり同じく撮影は無理となる。もちろん、ABCの三人がちゃんと揃っても、Aが今日の夜までに遠方での仕事先に入らなければならない時だってある訳だから、それぞれの俳優さんのマネージャーと相談して、それらをきっちりと管理するのが制作進行の役目なのだ。だから、脚本の時系列(あらすじ通り)で撮影することは殆どなく、ロケの最初でいきなりエンディングを撮影することもしばしばなのである。次回は、いよいよロケが始り…撮影機材や撮影スタッフについて簡単に説明しよう。
Nov 24, 2005
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無事に企画が通り、スポンサーも決定して制作予算が取れると、局の編成がその番組の曜日や時間枠を決める。そして、いよいよドラマ制作がスタートするのだ。連ドラの場合は1クール(週1回の3ヶ月)が基本なので、放送する半年前からの準備が必要になるが、特番や2時間ドラマの単発になると、3~4ヶ月前ぐらいからの準備となる。この準備に欠かせないのが、脚本とコーディネーターの存在だ。主な登場人物やキャラの設定などは企画段階で決まっているものの、脚本はプロの脚本家が何回もストリーを書き直して進められ、プロデューサーからOKが出ると漸く決定稿を完成させる。コーディネーターにはいろいろな種類があるが、ドラマ制作に必要不可欠なのはキャスティングとロケのコーディネーターである。キャスティングの場合、コーディネーターがエキストラも含めて全出演者を予算に合わせて手配してくれるのだ。もちろん、ドラマに話題性を持たせるために大物人気俳優を主役にする場合などは、プロデューサーが自ら交渉に乗り込むケースも多い。視聴率が確実に稼げる人気俳優などは、2年先の連ドラまで決まっていることもあるので、出演交渉は結構難攻する作業であり、プロデューサーの実力が試される場でもある。それと同時に、ロケ専門のコーディネータも動き始める。シナリオ・ハンティング(シナハン)と言って、脚本の場面設定となるロケ地を探して許可を得る役割のコーディネーターである。現在は、フィルム・コミッションと言う名称で地方自治体にロケ協力機関の部署があるので、コーディネーターはフィルム・コミッションと共同作業でロケ地選定を進めて行く。ロケ地候補がリストアップされると、ディレクター(ディレクターとは呼ばずに、以後は演出家と表示)やチーフカメラマンが現地に赴き、最終的にロケ地を決めるのだ。この間まで演出家は何をしているのかと言うと、決定稿の脚本を読み込んでカメラ割り(テレビ画面に映る実際の映像構図)を考えて、紙芝居のような絵コンテを作る作業をしているのだ。この絵コンテの書き方は、演出家によってさまざまである。美術を心得て、画家のごとく細部までリアルに表現するので有名な巨匠には、映画界の故・黒澤明監督やマーティン・スコセッシ監督などがいる。俺の場合などは落書き程度のものだが、元漫画家でコンテ画を専門に描くコンテ・ライターもいるので、そういう専門のプロに依頼することも多い。以上で準備段階も大半が終了となるが、次回はいざ撮影に入る前の最終準備について説明する。
Nov 23, 2005
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国営放送は全く別物だけど、ディレクターがスポンサーから制作費を捻出させる訳ではないので、企画書でプロデューサーに知って貰いたいことは…1仮題(最終的にはプロデューサーが決める。)2ストリィの概略(本編はプロの脚本家が書くので…)3大まかな絵コンテ(カメラ割りのための紙芝居のようなもの。)4企画意図(どうしてこの内容のドラマを作りたいのか…)5主役のキャスティング(これも、最終的にはプロデューサーが決めるものだが、主人公のイメージが大切なので…)いちばん重要であり、頭を悩ませるのは2と5である。3は実際に制作する時には必要なので、あればかなり親切な企画書となる。5は役者によってドラマのイメージががらっと変わるから…例えば、プロデューサーに「私はXXXXXさんを主役にして、ピュアで切ない恋愛ドラマを作りたいんです」とかを提言すると、企画書にかなりの説得力が生まれるはずだ。俺も東京の制作会社で働いていた頃、この手で2時間ドラマを何本か制作したことがある。海外の旅番組で一緒に仕事をした俳優さんだったが、二週間もロケが続いたのでたまたま意気投合し「今度はドラマで仕事がしたいもんだね」と言ってくれたのだ。悲恋もののドラマでは最高の演技をする俳優さんだったので、ある局のプロデューサーに企画書を提出してみたら「いいじゃん。この話いけそうじゃん」と軽いノリで企画が進行し、何とかドラマになったのだ。但し、その俳優さんはスケジュールの関係で、どうしても出演はNG。プロデューサーが懇意にしているプロダクションの別の俳優さんが主役となったが、俺が意気投合した俳優さんとは互いに仲が良い俳優さんだったので、俺のような無名ディレクターでもスムーズに仕事が進んだのだ。少し余談が多くなってしまったが…ドラマでなくても、どんな番組でも報道やスポーツ以外の制作ものであれば、企画書からスタートして費用を捻出し制作までにこぎつけることになる。次回からは、いよいよドラマ制作の実践へと進みたい。
Nov 22, 2005
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ひとえにテレビ番組と言っても、さまざまな番組がある。スポーツや報道、公開歌番組などの中継ものや、ドラマやバラエティ、旅番組などでお馴染みの録画収録もの(業界ではENGと呼んでいる。)と、大きく分けると二分されるのだ。このプログのタイトルは「テレビドラマを制作する」となっているので、今後はドラマのみで考えてみたい。当然、ドラマ制作は何度もNGを連発してながらの忍耐力のいる作業なので、録画収録がセオリーとなっている。それでは最初に何をするのかと言うと、まずは企画書の作成だ。プログのいちばん初めに、制作費を捻出するためにスポンサーに提出する企画書をプロデューサーが作成すると記したが、ディレクターもプロデューサーに提出するための企画書を書くことが多い。なぜなら、ドラマで高視聴率を連発している有名ディレクターなら、何もしなくても実績でプロデューサーからご指名されるが、ドラマを作りたくても無名ディレクターにはチャンスが巡って来ないからである。無名ディレクターは、「私ならこんなに面白いドラマが作れますけど…」と、プロデューサーを納得させられるような企画書を作らなければ、制作費に金がかかるドラマなど作らせて貰えるはずがないのだ。ドラマのADや映画の助監経験が多くても、バラエティ番組などの再現ドラマを作るのがせいぜいと言う仲間も多い。ハリウッド映画のスターであるシルベスタ・スタローンは、自分でボクシング映画の脚本を書いて映画会社に持ち込み「この脚本は、俺が主役を演じないと売らない」と言った話は有名で…この話は名作「ロッキー」誕生の逸話にもなっているぐらいだから、ディレクターも頑張らないとドラマ作りなんか夢の夢で終わってしまう可能性もあるのだ。周囲には羨ましがられることも多いが、この業界も実績が全てのかなりシビアな世界である。次回は、プロデューサーを説得させるための、ディレクターが書く企画書のノウハウをわかりやすく説明したい。
Nov 21, 2005
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松本清張の書いた小説「渦」を読んだ人はいるだろうか…テレビの視聴率問題を鋭くえぐった話題の小説である。ぜひ読んでみたいと思う方は、下記にある楽天ブックスのバーナーをクリックし、「松本清張全集(40)」を検索して購入するといいだろう。小説はあくまでもフィクションだが、以前に東京のキー局のプロデューサーが視聴率アップを計るために事件を起こしたことがメディアで報道されたのを、記憶している人も多いはず。そんな事実関係と小説がリンクし、その全貌が充分に把握出来る小説が「渦」なのである。それでは本題に入りたい。テレビ番組の視聴率は、視聴率データを計る会社に委託される。音楽CDの売上げデータならば、オリコンのような類の会社である。しかし、視聴率の場合、音楽CDなどのように有料で購入するものではないから、視聴率は確率でデータを集計するのである。例えば、都道府県別に分けるとするなら、東京都の人口およそ1300万人・全世帯数XX件の中でXX件に市場調査をするとか…1000万人以上が住む大都市でも、市場調査をする世帯数は数百件単位のレベルだとも聞く。俺が住むローカルだと、数十件がせいぜいかも知れない…視聴率の市場調査をする対象世帯は、老若男女が幅広い職業柄で無作為に選ばれるらしいが、もちろん業界関係者のいる世帯や縁者は除外される。そして、その対象世帯のテレビに、視聴率のデータを集計するブラック・ボックスたる名称の機器が取り付けられるのである。「黒い箱」の詳しい説明は、敢えてここでは省略させて頂く。あくまで個人の主観と言えども、俺自身も業界関係者であり、世間を騒がせることをしたくはないからだ。ここで言えるのは、現代において機器類が目覚しく進歩していても、一世代前のストリーであっても、松本清張の「渦」を読めば「黒い箱」の正体が理解出来るはずだ。このように素朴な疑問だって多いのが、テレビの視聴率データだが…スポンサー側は、番組に提供する自社のCMをたくさんの人へ見て貰いたいので視聴率に一喜一憂し…プロデューサー側も、スポンサーを納得させるために視聴率には一喜一憂する。もちろん、制作側のディレクターも視聴率にはかなり敏感である。ディレクターの場合、今後も面白い番組を作らせて貰えるかどうかの運命を、全て視聴率に委ねられてしまっているからだ。昔から視聴率データを疑うことをしない我々業界関係者は、もっと摩訶不思議な存在なのかも知れないけど…次回は、番組が出来るまでの流れを簡単に説明する。
Nov 20, 2005
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現在、俺はローカルテレビ局で朝の番組を制作している。立場は、どこにも所属しないフリーのディレクターである。番組でのディレクターとは、撮影におけるカメラワークの指示や出演者への演技指導、編集テクニックなどの演出全般に携わる仕事である。ハリウッド映画などでは監督をディレクターと呼んでいるので、まさしくテレビ業界での監督なのである。番組制作もかなりの分業であり、裏方として働くそれぞれの専門スタッフに指示をしなければならない役割もあるから、かなり大変な重労働なのだ。であれば、名称はよく耳にするけど、プロデューサーってどんな仕事をする人なのかと思うに違いない。ディレクターが制作の責任者であれば、プロデューサーは番組においての最高責任者みたいなものだ。映画業界でもお馴染みだが、制作費を捻出するために、プロデューサーには企画書を提出してスポンサーから資金をかき集める大きな仕事がある。その他にも、目玉となる出演者のキャスティングやディレクターを決めるのもプロデューサーの主な仕事なのだ。そこで、資金を出すスポンサーのメリットとは…映画の場合、スポンサーは出した資金の割合によって興行収入の何割かを貰えるが、一般地上波と呼ばれるテレビの場合は無料で放映するので、スポンサーには提供CMの広告で反映するしかない。だからこそ、テレビ業界は視聴率が全てなのである。次回は、ディレクターの立場である俺が、その視聴率のカラクリや疑問点をわかりやすく述べようと思うので、プログの読者みんなと考えてみよう。新聞・雑誌などの書籍物や有料テレビ・ネットなどのコマーシャルニズムとは巨大組織の地上波テレビ局には大きな違いがあるのだ。
Nov 19, 2005
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