Accel

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June 23, 2010
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 ハーギーで兄弟のように暮らしつつも殺し合う、理不尽な運命を辿っていた沢山の男たち。
 そして、女性たちといえば、個々に名前すら持ってはいなかった。
 彼らは以前から、あのハーギーを出る手立てを模索していたのである。
 個人的に出た者も居たが、命令により追われ殺されてしまった。
 また、以前にも団結してハーギーを出ようとせんとする者があったが、とうとう叶わなかったのだ。


 しかしこうして、ようやくの思いでハーギーを出てきたのだ。
 だがどれほどあの場から離れても、過去の忌まわしい記憶が振り切れる訳がなかった。
 遠くに逃げていると思えば思うほどに、大きく彼らに不安の雲が募ってくるのである。


 事態は早々に解決を求められていたのである。


 大きな集団を統率する男たちは何人かいたが、最も上に立つ立場であったブナンも、この解決策についてよい案を見いだせないでいた。
 しかし先日、カンによって出された意見・・・
 まだ体力があまりない子供たちや、その子供を抱える女性、そして、これから子供を産む女性が、今の集団の移動速度について行けないのだという話を聞かされ、直ぐにブナンも現状を確認したのである。
 そして、カンの言うとおり、この身重の女性集団を一つとした班を作り、残りの仲間を更に三つに分け、これから四つに集団を分散させることとしたのだった。


 かくして、先日ブナンは主だった男たちと別れも告げ、とうとう、大きな集団は4つの班に別れた。
 彼らは今後互いに、遭える日が再びあるのか・・・
 互いに別れがたい想いが強かったが、ブナンの強い口笛の合図を区切りに、とうとう人々は4つに離れ、そして、離れて行ったのであった。




 西へ行くカンは、身重の女性が居る班に居た。
 節くれだった分厚い手を持つブナンと共に。


 あまり動けない女性のために、輿を作り、彼女達が自分で動かなくてもいいようにしたり、小さな子供を入れて運べるよう籠を作ったりと、なかなか最初は難儀したが、色々な物ができあがると、だんだんこの集団も早く動けるようになってきた。


 そして、ある日、身重の女性の一人に、子供が生まれた。
 この新たなる命は、もう”ハーギー”ではない!!!
 人々は新たな希望を顔に浮かべ、少しの間陣営を作って祝宴をしたのであった。


 しかし、これからハーギーと闘っていかなければならないかもしれなかった。
 身軽な女や、少年少女に、剣技を教えるのが、青年カンの役目の一つとなった。



 心配されていた、ハーギーからの追っ手も特になく、ブナンの班は穏やかに移動が進んでいた。
 数人の少年と共に、今日も和やかに食事を取っているカンの元に、女性が二人、やってきた。
「あ・・・」
 カンは、思わず、後ずさりした。
 その一人は以前・・・自分の肩に包帯を巻いてくれたあの女性であった。
 ニルロゼが追いかける”ナーダ”を見つけようとしていたら、なぜか何度も出逢って話をした女性でもあった。

「いよっ!
 お兄ちゃんが二人に囲まれたぞ!
 どうしちゃったのかな!!」
 少年達が一斉にはやし立て始める。

「う、煩いぞ、お前ら!
 ちゃんとご飯を食べろ!
 大きくなれないぞ!」
「はーーーーい」
 少年達は比較的おとなしく従った。

 一応知らないふりをしてくれている少年達の顔を見てから、首を竦めつつカンは女性をチラっと見た。
「や、やあ・・・」
 カンは、我ながら情けない声だな、と思った。
 そして、包帯を巻いてくれた女性は、以前と同じように、つまらなそうに言った。
「あなた、身重の女の班には、入らないはずだったんじゃないの?」


 カンは必死に身を細くして、食事を食べてごまかした。
「いや、それが、どうも、予定が狂った・・・」
「あら、そう・・・」

 女性二人は、その場に腰をかけた。
 食事を食べ終わった少年が、ダッと女性に駆け寄ると、甘えるようにその膝に飛び乗った。


「えーと、君は、もう子供が生まれたようだね」
 カンは、口元をぬぐって言った。
「あたしは、サーシャっていう名前よ」

「は?」
 カンは、女性をまともに見てしまった。

「”みんな”ナーダじゃ大変だから、好きな名前を持ったのよ」
 隣の女性が笑ってそう言った。

「あ、あ、そう」
 カンは、なぜか吹き出る額の汗をぬぐった。
 そして、”サーシャ”の隣の女性に目を移してなにげなく聞いてみた。
「じゃあ、君の名前は?」
「あたしは、ニルロゼにしちゃった」

「はあああああああああ???????」
 カンは思いっきりのけぞった!!
「じゃ、じゃあ・・・君は・・・」

 サーシャが隣の女性に笑いかけた。
「ほんと、物好きよね、ニルロゼは」

「うっ・・・」
 カンはもはや頭を抱えるしかない。
「なんでよりによってあいつと同じに・・・・???
 これから、ど、どうするんだよ、一体・・・」

 と、サーシャがあっけらかんとして言った。
「まあ、いいじゃないの。
 どうせ”あの子”は、この子に興味持たないんだから・・・」
 カンは思いっきり深いため息を吐き、がっくりとした。
「・・・そういう問題じゃないと思う・・・・」


 すると、後ろの方から、年配の女性がやってきた。
「こら!!!
 ニルロゼ!サーシャ!
 ここにいたのね!
 あんたたち、子供が泣いているわよ!」
「あっ!
 ルーフーだわ!
 怖いのよ、あのおばさん!
 じゃあね~!!!」
 さっと女性たちは立ち上がる。

 カンは、頭を抱えたまま言った。
「うわっ。
 鳥肌が立つぜ、ニルロゼ、かよ・・・。
 女の考える事は、ほんっとわからん・・・・・」

 すると、サーシャが振り向きざまに言った。
「わかろうとしないのも、よくないかもよ!」



 まだ頭を抱えているカンに、しみじみと言ってきた少年がいた。
「お兄ちゃん、大変だね」

 カンはまたも溜息をついた。
「そりゃそうだ。
 わからないものは、わからない」

 少年は、へへへっと笑った。
「わかろうとしないからじゃないの」


 カンは、思いっきりムッとした。
 お前に言われたくないわい!

 だが、核心を突かれているのも事実で、声に出して反論できないのが悲しすぎた。



 わかろうとすれば、わかる日が来るのかなあ・・・



 今日も、日は、西へと、沈んで行った。



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Last updated  June 23, 2010 02:35:08 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
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