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途中UP中の羽生君です。マオちゃんの滑る曲、です。俺には絶対音感はある?のか?これらはPIXIVでもご覧になれます★
February 18, 2014
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青々しい緑の中で、少年達が数人集まっていた。 大きな木々が密集し、緑の風がそよぐ。 肌寒いその風の中でもなお、集まる少年たちは熱い目線を交わしていた。 少年たちの真ん中に、皮で出来た帽子を被った少年がいる。 周りに数人の少年に囲まれ、静かに佇んでいた。 茶色の帽子を被った少年は、これで何度目であろう・・・ 同じことを、周りの少年に話した。「あなた方がどう思おうと、私の行動は私の意志、どなたにも阻止できないはずです・・ 私は、ナイーザッツ城に行かなくてはなりません!」 茶色の帽子の下に、輝く黄色の髪を靡かせ、深く青い瞳をきりりと上げた少年は、ラトセィス・・・ 今までずっと、自分の主張をせずに、だまってセルヴィシュテの後をついて、ここまでやってきた。 先日、そのセルヴィシュテと離れ離れになったラトセィスは、いきなり、城に行きたいと言い出したのだ。 班を形成していた少年たちは、勿論青くなって反対した。 ごくごく当たり前の理由である。 なんといっても、班の者は勝手な行動は許されない。 そんなことをすれば、たちまち彼らは街の人々に警戒され、そしてすぐに住む場所を追われる・・・ ハーギーを出てから、何度も、町や村の人々と交流しようとして来たが、けして心を開いて貰えなかった・・・ このルヘルンの辺境に落ち着くことができたのも、つい最近のこと・・・ ナイーザッツ城の近くのこの地では、まだ身を隠してはいつつも、街で仕事をみつけたり、人々との交流がようやく交わせる段階になっていた。 班を纏めていたポネは、少年らの奥で今まで黙ってこのやりとりを聞いていたが、色の落ちた甲冑の前で組んでいた両腕を解くと、前に出た。「・・・ラトセィス・・ 確かに、君の意志を尊重しなくてはないだろう。 だが、他の仲間が言っているように、君は単なる一時的な客人とはいえ・・・ 今は、俺らが君の身を預かっているということ、もっと重要視して欲しい。 俺らは、沢山の仲間の連携で、この住む場を得ているんだ。 仲間の信頼を裏切ることはできない」 ざわざわと風が吹いて、少年ラトセィスの皮の帽子が揺れた。 ラトセィスは、帽子の下に表情を隠しながら、言った。「私が勝手に出て行ったと言えば、何の問題もないでしょう」「ありえない」 ぴしゃり、と、ラトセィスの右脇の少年が言った。 ポネが、再び腕を組んで言った。「そう、ありえない。 君が、“いつの間にか”いなくなるなんて、ありえないんだ、ここは」 ラトセィスの瞳がきりりとつり上がった。「ありえない、ですか」 淡い緑の上着に包まれた左手を、大げさに上げた。「では、こういうのもありえないですかね? ここの何人かの方々を、私が焼き殺した・・・ だから追い出した、というのは?」 左手に、右手を添える。 ラトセィスの瞳が、軽く笑みを含んだ。「・・・ 耳にしたことがあるでしょうか、どうか・・・ 地獄の炎の神、ガルトニルマ。 私は、そのガルトニルマと契約し、炎を使う。 さあ、どうです? 私がその気になればいつでも、炎を呼んで・・・ なんでも、そう。 なんでも、焼きつくす事ができるのですよ・・」 数名の少年が、ごくりと息を呑んで、ラトセィスの傍から僅かに離れた。 ポネは、ぐっと唇を噛みしめると、大きく呼吸を整え、ラトセィスに一歩近づいた。「ラトセィス・・・ 君は、いくつの過去を持つ? さっきまでは、城に行く理由は・・・ ターザラッツの王子で、ナイーザッツに妹がいると、言っていた・・・ そして今度は、炎の契約か・・・」 ポネを見据えるラトセィスは、両腕を下ろすと、深く青い瞳を西へ向けた。「どちらとも、私自身の過去、そして現在です。 だからこそ、私は行かなくてはならないのです。」 とうとう、班からラトセィスは出て行ってしまった。 誰も、見送る者はいなかった。 彼らの仲間が、今、ラマダノンへ行っている。 その仲間が戻った時、どのように説明したらいいだろうか。 しかし、ポネは、肝を据えるしかなかった。 過去と現在に於いて、目を背けることができぬ事に向かおうとする者を、どうして止められるだろう・・・ だが、同時にポネは少し弱気だった。 ラトセィスの、自らの意志を貫く精神の強さに、押されてしまった・・・ 彼の過去を聞いた時も、確かに驚きはしたが、それよりもなお・・ 歩みだしたその道に、疑問を持ちついつ、そして周りを傷つけてもなお、進んでいく姿に、押されたのだ。 ポネは、ナイーザッツ城の方向を、軽く見やった。 あのように、進む方向にまっすぐだったのは、ハーギーを出る時の事だったろうか・・・ キイッ! キイーーッ! 山鳥が鋭く鳴きながら飛び立って行った。 寒い風が吹く中、ポネは自分の陣地に戻りながらも、過去に思いを馳せずにはいられなかった・・・ 濡れた地面を踏み締めながら、ラトセィスは軽く頭を振った。 もはや、自分の意志では炎を呼ぶことはできない。 そう、ガルトニルマとの契約は、もうこの私が破ったのだから・・ しかし同時に、いつでも炎が呼べるような、矛盾した自信があった。 やはり、ガルトニルマの近くだからだろうか。 そう、あと少しだ・・・ あいつの、近くにいる・・・ リュベナ、待っていて・・・ 今まで、そこにずっと預けていたが 今度こそ、あいつの元から、君を取り戻す・・・*****************にほんブログ村 参加ランキングです
February 18, 2014
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PIXIVで、このACCLIをUPしはじめました。よろしかったら御覧下さい。愛する♪風とケーナ様へは・あ・と!んさーじさんもUPしましたはあと!その他の皆さんもぜひPIXIVに飛んで行ってミテやってくだされ~★☆
February 15, 2014
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朝日新聞さんを取ってるんすが、「しつもん!ドラえもん」のスクラップブックがあるのは新聞の広告で知ってました。 最近溜まりに溜まった新聞を見る心の余裕が出たらしく、「そうだ!『しつもん!ドラえもん』をスクラップしよう!」と思い付いた訳デス。 で、朝日さんに一昨日注文、さっき、着いたと電話があったので雪のなかえっこら×2行ったら、さてどごさ置いたべな~って始まり…なかなか見つからない(*^m^*) ムフッ やっとブツを出して来た50代の奥さん、何冊ですかって言うから二冊って言ったのに、「一家庭一冊なんです」ってを~い(°д°;;) 仕方ないから諦めてお金(夏目さん)をカウンターに置いたらなんとタダなんだそうだ。 「だから沢山出せない事になっている」って、なら最初からそうだと言えっつうの(-.-)y-~~~ まあ無事ロハでブツをゲットし意気揚々と帰路に着いてる訳だによ。 はっはっは(^_^)vちなみに方側1Pに2つの「質問」と「答え」を貼るタイプなので、見開きだと4つしか「質問」「答え」が張れません。15ページしかないので、60日で、このノートは満タンになる、んだと思います(計算合ってますか、リーブスさん??と聞いてみるw)てことは2カ月で1冊ですね、ハイハイ。ですよね?リーブスさん?(ww
February 15, 2014
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リュベナの部屋を出たニルロゼは、ふらり、と足が揺れた。 まったく、こともあろうに、姫をメルサと思い込んでしまうとは・・・ うかつだった。 確かに、あの部屋の雰囲気とか、姫の声とかは・・・ メルサそのものだった。 赤に取り憑かれているリュベナ・・・ 赤がある限り、メルサの形もまた、ありつづける・・・・ なんとしても、なんとしても、 赤の核を・・・ ニルロゼの膝ががくりと曲がり、少年は廊下に座り込んだが、面倒になったのか横になってしまった。 ああ、どうすれば、赤にたどり着く? どうすれば、赤を倒すことができる・・・・ ・・・リュベナ、ごめん、君を斬ろうとしてしまうなんて・・・ 廊下に倒れこんでいる少年を発見した人物がいた。 その人物の手には盆が握られていた。 盆の上には食事が乗っている。 この人物は、これから、王に食事を持っていこうとしてたところであった。 短く切られた、髪がさらりと揺れる・・・ 闊達そうな表情の、若々しい少女である。「あら! やだ! あいつだわ! あんなところで寝て・・・ でもなんで城に?!」 少女、マエーリは、思いっきり口と眉を曲げ、転がっているニルロゼを大きく避けて通ろうとした。 が、流石に少しは心配になってきて、ちょっとだけ近づいてみる。「ちょっと・・ ちょっと! なにやってんの?」 マエーリは、父マーカフに連れられて、ナイーザッツ城の中で暮らしていた。 主に、料理長である父の手伝いをすることが多かった。 本当は、付いて来たくなかったが、ドパガに目をつけられてしまったのだ・・・ あの日・・・ 使いから返る途中、旅人がドパガに絡まれているのを見過ごせなかったマエーリは、身代わりとなったのだ。 が、少女であることを隠すため、自ら髪を切り、ドパガの機嫌を取るふりをして、逃げる機会を窺っていた。 そこを、セルヴィシュテに助けられたのだが、ドパガはルヘルンではかなりの権力者の息子・・ いつ恐ろしい報復が来てもおかしくはなかった・・・・ オヤジと、城に住むのは、ちょっと狭苦しい気分でもあったが、あのドパガの手が届かないのは、確かにここ、城の中ぐらいであろう・・・・・ ずっと、城に住むのを拒んだオヤジが、城内に・・・・ それを思うと、申し訳ないような、でもやっぱりどこかでまだオヤジに反発したい気分もあるような、複雑な心境だった。「ねえったら! あんた、そこに寝てると警護に斬られるわよ!」 マエーリは、右足でニルロゼの背中を軽く蹴りつけてやった。 すると、蹴られた少年が僅かに動いた。 ものすごく青い顔をし、苦しそうなその表情をみたマエーリは、流石に尋常ではない事に気がついた。「・・・」 少女は、慌てて自分の部屋に戻ると、父マーカフを呼んだ。 城の料理長、マーカフは、自分が住んでいる部屋に、ニルロゼを休ませることにした。 それは同時に、マエーリが住んでいる部屋に、ニルロゼが入ることになった、訳だ。「もおおおおおお~!!! 嫌~!!!!!! こんな奴と一緒だなんて!」 マエーリはプイッと顔を背けると、仕切られた小さな部屋に隠れるように篭ってしまった。 マーカフは、やれやれ、と頭を掻いた。「そう嫌がるなよ。 一応病人なんだから、少し面倒みてやってくれ。 俺は、厨房に行かねば・・・ な?」 仕切りの向こうに、宥めるように声をかけ、マーカフは身支度を始めた。 城内の部屋に住まう事としたとき、寄越された服である。 マーカフはきっちりとした身なりは好みではなかったが、流石に我がままは言えなかった・・・ 濃い目の緑の襟元の衣装を崩して着ながら、マーカフはやや皺の寄った目でニルロゼの額に手を触れた。「マエーリ、頼むぞ。 じゃあ」 マーカフは、ゆるりと手を振って部屋を出て行った。 仕切りの奥から、恨めしそうにオヤジを見送ると、マエーリは仕方なく寝台の傍へと寄った。 その寝台はオヤジの寝台。 青い顔で寝込む少年の表情を、チラリと見て、仕方なく布を取り出して水に濡らした。 少年の額に濡れた布をあてがってやり、寝台の脇の椅子に軽く腰掛けると、オヤジが寄こした本を読み始めた。 この大陸の歴史の本らしい。 最初はまったく興味がなかったのだが、オヤジがここだけでも読めよと見せた場所に惹きつけられた。 何度も読んで、もう内容を熟読していたが、何回読んでも興味の持てる本だった。 マエーリが夢中で本を読んでいると、少年がうなり始める・・・ もう、嫌ね。 男と二人きりなんて、本当に嫌。 どうしてあたしがこいつの面倒みなきゃなんないのよーーー 少年ニルロゼに嫌悪感ばかりを持っているマエーリだ。 まあ、それも仕方ないのであろう。 何といっても、まだまだ15歳。 男友達といっても、精々街中で会話をする程度。 家の中にまで入れるような親密な関係の男性など、いない・・・ マエーリは汚いものにでも触るように、指先でニルロゼの額の布を持ち上げ、水に濡らして冷たくし、再度あてがってやる。 すると、ニルロゼがうっすらと瞳を開けた。「・・・」 蜂蜜色の髪の下の、蜂蜜色の瞳が、憂いるように揺れた・・・ ニルロゼは、よほど苦しいのか、瞳を瞑ると、右手を軽く上げた。「・・・ありがとう・・ 嬉しいよ・・・」「・・・」 マエーリは、左を向いて荒く息をする少年の表情を見ていると、段々彼の苦しみをなんとか取り除けないかと思えてきた。 マエーリは、恐る恐る、ニルロゼの右手首に僅かに触れた。 と、ニルロゼの手が動き、少女の手を取った。 ビクリ、とマエーリは手が震えたが、ニルロゼは苦しい息を吐いて、唇をかみしめている。 手を繋いでいると、気分が落ち着くのかしら? 少し、視線をニルロゼに落としながら、マエーリは椅子に座った。 ずっと前・・・ あたしが寝込んだ時、オヤジがずっとそばについていてくれたっけ・・・ 少女は瞳を閉じ、少年の手を両手で包んでやった。*****************にほんブログ村 参加ランキングです
February 12, 2014
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レガンは、心で、密かに思った・・・ なにかに似ている・・・ なにだ・・・ 歩み進めると、警護と思われる者が、彼らの体の前に長い葉を差し出してきた。 それはどうやら、行く手を遮る雰囲気である。 謁見は、ここで行うようである。 ポーーーーーーーーーーー・・・・・・ 低い、なにかの音・・・ なにかが、静かに鳴らされている音。 単調な音が、白々と流れている・・・ 5人の少年は、ここまで来ておきながらも、なお、固唾を飲み、果たしてどうしたらよいのやらと言った感じで立ち尽くした。 そんな彼らに痺れを切らしたセルヴィシュテは、とうとう第一声を発した。「初めてお目にかかります。 俺達は、ナイーザッツからやって参りました。 まさかこのように王の前で話を聞いて頂けるとは思ってもおりませんでした。 ええと、俺は、後ろの5人の方々に助けられ、身の安全をこうして確保できました。 ところが、彼らは、どうやら常に、なにか悩みを抱えているようです。 さあ、それを言うために、来たのですよね?皆? 大丈夫です、率直に、意見を聞いて頂いてください」 セルヴィシュテが口を閉じると、流れている音の調子がやや変わった。 警備の者の雰囲気も、少し変わった感じがした・・・・「もう少し前へ」 警備の者が、葉で先の場所を示す。 茶色の瞳で、その場所をいぶかしげに見ながら、セルヴィシュテは2、3歩歩み、そちらへと行った。 レガン達も、その場へと、おっかなびっくり移る。「・・・」 チルセの顔が、だんだん青くなり・・・、とうとう彼は額に手をあて、頭を降った・・・ オガラが、慌ててチルセの肩に手を当てたが、彼も、言いようのない感覚に身を縛られた。 なんだ・・・ この感覚は・・・ その様子を見たセルヴィシュテは、低い声で叫んだ!「みんな!下がるんだ! ここは俺だけで! 早く!」 セルヴィシュテが力ずくで彼らを後ろに押しやり、苦しむ少年達をその場所から出す。 「し、しかし」 レガンが、天幕の布とセルヴィシュテを何度も見比べた。 ここまで来たのだ。 来たからには・・・「いや、大丈夫、レガンさん。 でも、そこから手を伸ばして、俺と手を握ってください。 そして、喋ってください」「・・・?」 セルヴィシュテは、足元を改め、王への忠誠を現す動作をした。 だが、国が違うので、その動作が意味を成すかどうかは定かではないが。「ラマダノン王。 俺は、セルヴィシュテ・・・ 俺は実は、エルダーヤ大陸から来ました。 ですので、この大陸のできごとは、俺にはよくわからないのです。 俺を助けてくれた方々は、どうやら、あなたの力がとても強く感じるようです。 ああやって後ろに居ることを、どうか許してください」 一度言葉を区切って、少しだけ後方に目線を送った。「さあ、レガン。 王はご理解下さるだろう。 君が言いたい事を、言うんだ・・・言いたい事をね」 軽く後ろに向かって、ニヤリとセルヴィシュテは笑った。 例の音が・・・少し、低くなった。 レガンは、まだ躊躇していた。 先ほどは、来たからにはと決心したのに、いざとなると、なにから話せば・・・。 すると、セルヴィシュテの握る手が、少し強くなった。 レガンは、目を開け・・・ ゆっくり呼吸をして・・・ 話し始めた。「ラマダノン王・・・ 急に来た、俺の話、どこまであなたが信じるか。 しかし、俺は、話す話術、才能もなにもない。 俺は、自分の持ち駒を、全部出すしかないようだな・・・」 レガンは、銅の胸当ての内側にしまった、銀貨を5枚・・・ 取り出すと、床に置いた。「これは、俺の友がよこした・・・その残り、です。 友は、ナイーザッツの城に勤めている・・・ そいつが言った・・・ このラマダノンの様子をみてこいと・・・ あいつは、俺らの身なりがみっともないから、見苦しくなくして行けと言った。 俺は、この金を一緒に来る奴にやる、だからついて来いと言った・・・ そして銀かは5枚残っています。 王よ、あなたは、友は金を何枚俺によこしたか、ご想像できますか・・・」 ビクっとセルヴィシュテの手が震えた。 レガンは、言いたい事は半分は言った。 しかしなんだ? 王を試すような事を言うとは? なぜいきなりそのような無作法な言動を・・・?*****************にほんブログ村 参加ランキングです
February 4, 2014
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ラマダノン城。 白い石で城壁が築かれ、城内には赤く美しい絨毯が敷き詰められ、見事な装飾が壁やら柱やらに施され・・・ まるでもって、絵に描いたような城であった。 城内は大変に広く、たぶんここは大広間なのであろうか・・・ 貴人や、庶民的な格好の人も大勢に溢れている。 中には軽装の兵士のような者もいるが、物々しい雰囲気はなく、人々はまるで大きな市場にでもやってきたかのような活気である。 知り合いの者同士が出遭うと、声をかけあったり、小さな子供は駆け回ったりと・・・ はて?これが城の中? と、目を疑うような光景であった。 その、これが城の中?という場所に、茶色の髪の少年セルヴィシュテ、他にレガン、ルッカ、リュー、オガラ、チルセといった、ナイーザッツから密かに偵察に来ていた少年達が、紛れていた。 いや、紛れていたのではない。 一応、承諾は得ていた・・・ と、思う・・。 であるのに、少年達は、微妙に不安げである。 事がうまく運びすぎ? というか、商人の馬車に乗せて貰い、夜が明けて朝になり、馬車から降ろされたら既に「ここ」だった・・・ ついでに、夕方同じ場所に馬車で乗り付けるから、帰りも送ってくれると、商人は申し出たのだった。 長髪のレガンは腕組みをして唸るしかない。 こういう事態は彼にとって初めてであった。 普通の人たちが沢山いる、しかも城の中・・・。 思わず、レガンはセルヴィシュテに救いの目線を送った。 茶色の瞳の少年は、少年の集団を軽く端に集めると、決心した表情で話し始めた。「商人がここが城だというなら、きっとそうに違いない。 俺は、実は、エルダーヤの城の事は、少しは知っている。 あっちの大陸の王様も、一応知っている。 けれど、こっちの事は、また事情が違うようだ。 でもとりあえず、あまり緊張しないほうが得策だ。 都合よく、そこらへんの平民もいるみたいだ。 民衆に紛れて、王様の情報とか手に入れよう」 ルッカが、軽く頷いた。 そして、少年達に目を配って話しはじめた。「よし。 では、レガンは纏め役になれ。 俺とまずは二手に別れよう。 俺はあまり交渉には自信がない。 セルヴィに、俺についてもらう。 リュー、オガラ。 お前らはレガンに。 チルセは俺についてこい。 とりあえず、昼時まで情報収集だ。 それでどうだ」 少年達が頷くと同時に、2組は分散した。 ルッカは、チグハグな格好に、日に焼けた顔が勇ましい、そろそろ青年という風貌である。 チルセは、ややあどけない雰囲気を醸し出しているが、目つきはやはり鋭い。そのチルセは、銅の胸当てだけが防具らしいものである。 セルヴィシュテは、ルッカの斜め後ろにつき、にこやかにあたりを見回していた。「ルッカさん、あの剣士っぽそうな人どうです? 俺らは剣士として雇い先を求めている、とかって話しかけるといいかも」 と、素早くルッカは訂正した。「いや、あれは駄目だ。 あいつは、格好だけの剣士さ。 もうすこし剣が使えなきゃ話にならん」 言われたとたんにセルヴィシュテはムーっとふくれて言った。「もう、駄目なのはルッカさんですよ! そうやって、えり好みするから・・・ じゃあ逆に考えてください。 その、駄目駄目剣士が、いっぱしの剣士と”思われたら”、得意になって、色々話してくれるかもっ」「ん?ん・・・・んん~・・・・」 2組に別れた少年達が、それぞれに4、5人と話を交わしていた時。 ゴーーーーン・・・ ゴーーーーーーン・・・ と、厳かな雰囲気の鐘の音が、響き渡ってきた。「?」 ナイーザッツから来た少年達が、目線を上に上げ、音の正体を確かめようとすると、周りの人々が一斉に、城の壁際に寄り始める。 少年達も、それに習い、壁に寄った。「なにが始まるんですか?」 思わず小声になって、今まで話をしていた婦人にリューは言った。「あら、知らないの? 王のおでましよ」「・・・・・!!」 一方、セルヴィシュテ達も、全く同じ会話を交わしていた。 王が・・・ どこに? なぜ? わからないことばかりのまま、まだ鐘は鳴り響いていた。 おおお・・・ 人々の歓声が僅かに上がった。 なにかの楽器が吹き鳴らされ、爽やかな曲を奏でていた。 どうやら、この雰囲気は、王が姿を現したのであろう。 王と思われる者が、語り始めた。 その声は、丸い天井に反射されているのだろうか。 よく響いたが、穏やかで、透き通った声であった。「皆のものよ。 本日も、よき体、よきこころで過ごしておるかな? さあ、いつものように、変わりのあったもの、つらき思いをしたもの・・・なにかあれば、遠慮なく、我が前に来るがよい・・・」 楽器の音が低い音から、高い音に。 単調ともいえる、静かな音・・・ なにが、その音を奏でるか・・・ 壁際の人ごみから、誰かが王の居ると思われる方へと出て行った。「・・・・ 王様が、謁見しているんだ・・・」 セルヴィシュテが、思わず呟いた。「すごい。 こんな・・・こんな・・! 謁見があるなんて・・・!!! 聞いた? さっきのは王様が言ったんだよね?きっと? いつものように、って言っていたよ・・・ 毎日、やっているのかな・・・」 ごくり、と思わずつばさえ飲み込む。 目の前には民衆が立ちはだかり、謁見がどのように行われているのか・・・ 王がどこにいるのか・・・ 定かではない。 セルヴィシュテが思わず足を踏み出したのを、ルッカが軽く留めた。「・・・まさか、行くのか?」「・・・・い、行かないの?」「・・・・・」 ルッカ、チルセは、不安げな表情を隠しもしていない。 彼らは、剣での戦いは何度もかいくぐって来たが、このような状況は全く初めての事・・・ 未知というのは、まさになによりも恐怖なのである。 セルヴィシュテは二人の方に自分の手をそれぞれ置いて、大きく頷きながら言った。「大丈夫ですよ。 行くだけ行こう。 こんな機会を逃したら、直接お会いするなんて、ないかもよ」 単調な音楽が、高くなり、低くなり、滑らかに流れ続けている。 渋い顔のルッカが頷くまでに、6人の者が王の所に行った。 目の前の人々の壁を少しだけ押しのけ、若々しい少年3人が人垣の前に出た。 そして、仲間を探す・・・ 勿論、レガン達をだ。 彼らは直ぐに見つかった。向こうがこちらを見つけたからだ。 そして、ルッカは、レガンに合図を送ると、恐る恐る、広間の前へと足を出した。 ややぎこちない動作で・・・ 数人の少年が、広間の真ん中に、恐る恐る、歩み寄る。 そして、彼らは前方を見た。 王が居るであろうと思われる方向を。 壁際には、沢山の人々がひしめいて立っている。 赤い絨毯が、真ん中だけ、残っている。 その絨毯の先・・・・ 階段が、5段。 あまり高くない階段である。 その階段にも、赤い絨毯が敷いてあった・・・・ 階段の先は・・・・ よく、見えなかった。 半透明の布が、天井から垂らされ、天蓋のようになっている。 階段から向こうと、こちら側は、その布によって、一応遮られているようである。 さっ、 セルヴィシュテが、躊躇なく一歩踏み出した。 その後ろについていくように・・・・ ハーギーであった少年達が、ちょっとした萎縮感のようなものを感じながら付いていく・・・・*****************にほんブログ村 参加ランキングです
February 4, 2014
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ラトセィスがボボドの山だと言っていた、青い山が、大きく裾野に広がっていた。 どこまでも続くかのような平原を駆ける人影が5つ。 そのうちの一人は、一人を背負っていた。 背負われているのは、15歳位の少年。 背負っているのは、大体17歳位の少年だろうか。 駆けている少年達は、年上でも18歳位。 その一番年長者が、一番先頭を切って走っていた。 時は夕刻。 もう、日が傾き落ちて、暗くなり始め、辺りは寒々としていた。 背負われている少年は、半分寝ていた。 まあ、この走っている少年達から言わせれば、足手まといというところであろう。 この少年は走っても早くないし、休息や、眠る事も必要である。 ところが、他の少年には、殆どそれらは不要であった。 一般的な少年達の走りとはまた違った、足の運びで・・・ 腰に差した剣が邪魔にならないような走り方、そして、無駄のない動作、速さ。 俊敏さ、迅速さと、そしてなにより、洞察力に優れていた。 彼らが向かっているのは、今まで彼らが腰を落ち着けていた国の隣の、ラマダノン王国だった。 そこに行こうと言ったレガンは、昼間・・・ 仲間が今背負っている少年セルヴィシュテが言った言葉を反芻していた。 ハーギーって、西にあるんですよね・・・ ここまでに来る途中、ラマダノンは通らなかったんですか? 茶色の瞳で、屈託なく聞かれ・・・ レガンも、おや、と思った。 そう、通らなかった・・・。 その名前は知っていたが、神々の住まう山という場所だということを恐れ、やや南を移動して来たのだ。 勿論、ナイーザッツに来るまでの間、色々な町で落ち着こうと努力もしてきた。 が、結果的には追い出されるように東、東へと来たのだった・・・ レガンは、脇に流したやや長めの髪をいじりながら、夜空を見上げた。「おい、レガン」 チルセが声をかけてきた。 一番最後、つまり5番目に並んだ少年だった。「ああ。 判っている。 馬車が俺らを追っているな・・・」 レガンが頷くと、少年達は、わざと足を止めた。 しかもその上、わざと分散しなかった。 これまで、日中も馬車と廻り合わなかった訳ではない。 それらは、かなり遠方を通り過ぎて行っただけである。 だが、今度の馬車は、明らかに少年達を目標にしているのを、彼らは察知していた。 もし・・・追ってくる馬車が敵意を持っているのであれば、5人は散って、相手を包囲した方が戦術的にいいに決まっていた。 しかし、ルッカは足元に薪を焚き始め、オガラは地面に腰を下ろした。 レガンも腰を下ろすと、セルヴィシュテを背負っていたリューも腰を下ろし、眠そうな少年の目を少し開けさせた。「腹減っただろう。 夕食にしよう」 だが、それほど時刻も経たぬ間に、馬の嘶きが、セルヴィシュテの耳に聞こえてきた。「こんな時間に、馬・・・」 遠くを見るようなセルヴィシュテの目線に、オガラがカカカと笑った。「こんな時間にガキが走っているのも怪しいからな。 こうやって、わざと休息しているのさ」 セルヴィシュテは、はっとしながら、周りの少年達の表情に目を配った。 みな、一見穏やかな表情をしているが、その目線は、これから来る馬車を、見えても居ないのに捕らえているかのようだ。 しん、と静かになった。 どこからともなく響く馬の蹄・・・ 一頭ではない。 ・・・三頭? 明らかに、こちらに向かっていた。 特に道などないから、他にも経路がありそうなもの・・・ こちらに、人が居るのを知って来ている。 少年達は、焚き火に目を落としていた。 体温を落とさぬよう、旅人が焚く火・・・ 逆にまたそれは、旅人が望まぬ略奪者を呼び込む火でもある。 ガツ! ガツ! 馬の蹄の音が鳴り響き、ブヒヒヒ~ン!と嘶く声が、傍で停まった。 年上のルッカが、チラリとレガンを見、それからゆっくりと立ち上がった。 もはや、陽は落ち切り、辺りは暗い。 平原であるこの地で身を隠す事はかなり無理に近かった。 しかし夜となれば、常人であれば、闇に身を隠すこともできる・・・ その闇に馬を溶け込ませ、馬車がそこにいた。「こんばんは。 なにか、ご用件ですか?」 ルッカが、なにげない足運びで馬の方に近づいて、声を発した。 すると、意外にも落ち着いた雰囲気の声が返ってきた。「うむ。 実は、明るいうちから君達を見ていた。 私達は商人でな。 その様子では、なにかと入用ではないかと思ってな。 追いかけてみた」 その声の主が火の明かりに照らされると、茶色の髪の少年は、あっと驚いた!「あなたは・・・チューレンド王の時の?!」「おや、おや・・・」 商人は、とことん呆れたような顔になった。「君は、たしかセルヴィ。 どうしたんだね・・・ まったく、我らの行く先々に待ち構えるとは」 商人の後ろから、もう2人、商人が現れた。 茶色の髪の少年セルヴィシュテの記憶に強烈に刻まれた、あのチューレンド王への道のり・・・ その道のりを乗せてくれた、あの3人の商人達であった。「あ、あなた方は、チューレンド王のお抱え商人だったのではないのですか?」 急き込むように聞くセルヴィシュテの頭に、衣装の商人が手をあてがった。「まあ、そう慌てるな・・・ まったく、君と関係を持つと厄介な事になるようだな。 それよりもだ」 最初に声をかけてきたその商人が、セルヴィシュテ以外の少年達に、笑いかけながら言った。「このセルヴィとは、かなり前に知り合ったのだよ、君達。 君達を見たときに、面白そうだと思ってついてきたのだが。 どおりで面白いはずだ、このセルヴィがいるとは・・・」 衣装の商人は、どっこらしょっと言いながら、薪の脇に座った。 もう一人の剣の商人は、優しげな笑みを見せながら、6人の少年の姿を見回した。「わたしたちは、色々な方々と取引をする商人。 これまで沢山の人たちを見てきた・・・ 半年前であろうか? このセルヴィに出遭ったのは」 剣の商人も薪の前に座った。 少年達は、目を見合わせながら、ゆっくりと座った。「セルヴィシュテ。 知り合いのようだな」 レガンに言われ、セルヴィシュテは照れた笑いを見せた。「俺の名前は長いから、セルヴィでいいよ。 あの方々は、知り合いっていうくらいでもないんだ・・・ ほんの少し、馬車に乗せて頂いた程度だよ。」 セルヴィシュテは、薪に手を伸ばして言った。「セルヴィ、チューレンド王とはお会いしたようだが、君の用件はそれでは済まなかったのかな? 今度はどこへ行くのやら・・・」 剣の商人は、一番自分の近くに居たチルセの剣に注目していた。「・・セル・・・ヴィ・・・。 君は、チューレンド王という方にも、お会いしたのか」 レガンがたどたどしく聞いてきた。「うん。 素晴らしい方だったよ。 この3人の商人の方が、お城まで運んで下さらなかったら、辿り付かなかったと思う」 にっこりと、セルヴィシュテは笑った。 レガンは少し、セルヴィシュテを見る目つきが変わった。 ニルロゼが、この少年に剣術を教えた事には、確かに驚いてはいた。 が、ややタカをくくっていたかもしれない。 このセルヴィシュテ・・・何者だ? 衣装の商人が言った。「それにしても、セルヴィ・・・ 君は、友達を増やすのが得意なようだね。 しかも、かなりの手練の少年ばかり」 剣の商人が、チラリと5人を見回した。「うん。 有難いことに、俺の行って見たいところに、彼らも行くというから同行をと言ったら、嫌がらずに引き受けてくれたよ」「な・・・」 レガンが慌ててセルヴィシュテの方を見たが、茶色の髪の少年は、軽く片目を瞑って合図を送った。 そして、縫い合わせた茶色の服を着込んだ少年は、腕を組んで、自信満々に喋った。「俺はいつもこうして・・・・ 都合よく、自分の行きたい先に、誰かが連れていってくれる運命なのかしら。 まあ、半分以上はきちんと自分の意思で来ているはずなんだけど。 でも、ここっていうところで、こうして、俺を連れにきてくださる方も・・ ねえ、そうだろ、衣装の商人」「いや、しかし、君には参った」 ルッカが、やや呆れたようにそう言った。 鎧が積まれた馬車の荷台に、少年2人が乗っていた。 一人は、18歳くらいのルサである。 濃い金髪を短めに切り上げ、鋼の胸当て、皮の肘当て、銅の腰当と、まるでチグハグな出で立ちである。 それらは、ハーギーで勝つたびに、褒章で得たもので・・・ その度、得た年代も違うものであるからにして、一貫性がなくなっているそうだ。 とはいっても、かなり使い込んでいるので、本人に馴染んでおり・・・勿論、本人との均衡もなぜかあっていた・・・。 ルッカは、淡い色の青い瞳で、馬車の中の光景を眺めた。 なぜ、商人の行き先が・・・ラマダノンだと、このセルヴィシュテは判ったのだろう。 あれから、セルヴィシュテは、商人がラマダノン王とお会いするはずだ、俺らもそちらに向かっていると言い切った。 すると、商人たちは示し合わせたように頷き、馬車に自分達を分けて乗せ・・・ 馬車は3台並んで西へ走っていた。 ラマダノン王国に本当に行くのかどうか、実は・・・ やや、不安でもあった。 が、着いても着かなくても、この際ややどうでもいいのだが・・・・ 大体、この風貌では、庶民が怖がってまともに接しないことを、ルサも自覚していた。 例え、身なりを整えても、放つ雰囲気が、尋常ではないのだ・・・ だから、ラマダノン王国に行ったとしても、レガンが言ったように、偵察であり・・・ ちょっと、内部を見ればそれでいいのだ、と思っていた。 でなければ、6日で戻れる訳がない。 だというのに・・・・ いきなり、王と会う・・・とは・・・ ルッカは、固唾を呑んで・・・茶色の髪を持つ少年、セルヴィシュテの横顔を見やった。 そのセルヴィシュテは、ルサの様子などお構いなしで、荷物の甲冑に見入ったり触れたりと、忙しそうである。「いいなあ。こういうの・・・。 前回の積荷と、嗜好が違う感じもするなあ。 創っている場所が違うのかな」 天然なのか、強運なのか。 いきなり、馬車に乗せて貰うことになって・・ その上、目的地にいける・・・ これは、幸運なのか?「あのさ、君は、疑問に思わないのか・・・」 ルッカは、思わずセルヴィシュテの手元に近づくと、声をかけた。「なにがです」「だ、だから・・・ あの人たちが、俺らの行こうとする先に行くなんて、都合がよすぎない?」 馬車の車輪の音が鳴り響き・・・ 荷台は何度か傾いた。 硝子の嵌め込まれた窓は今は閉じられ、外は暗い・・・ この馬車がどこに向かっているかなど、中の者にはわからない・・・「都合、いいかな」 セルヴィシュテは、軽く笑った。「都合だというなら、それは向こうからやってきたんです・・ そうでしょ? 向こうが、先に声をかけてきた・・・ 彼らは、俺だって判って声をかけてきていた・・・」 セルヴィシュテは、鎧の山の中の一つに触れながら、ゆっくりと言った。「俺は驚いているんです。 あの方々は、チューレンド王のお付の商人だと思っていたから・・・。 でもそうじゃなくて、ほかにも行き来しているなら、勿論・・・ 他の王のところ・・・ こう思うのは自然ですよね」 セルヴィシュテはにっかりと笑った。 表情こそ笑ってみせた少年セルヴィシュテだが・・・ 心境は穏やかではなかった。 また、商人と出会うとは思っていなかった・・・ それが都合よいというなら、確かにそうだろう。 でも、それはまだ序の口なのだ・・・ チューレンド王の城のような・・・ あのような、城なのだろうか? ラマダノン・・・
February 2, 2014
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「この銀貨はまあ、支度金だ。 これで、甲冑、剣、服。 新調し、見目も悪くないようにし、隣国へ行く。 この銀貨。 早い者勝ち。 さあ、恨みっこなしだ。 早く来たもの順にやろう。 身支度をして、俺についてこい」 タツーーーーーン・・・・ 水溜りに・・・・ 木々の葉から、雫がまた。 落ちた。 大きな木の傍にいた少年・・・ セルヴィシュテは、レガンの姿が見えなかった。 しかし、目の前の少年達は、動こうとする気配はない。 足元の水溜りに、茶色の自分の姿が崩れた格好で映っていた。「なあ、ラトス」 セルヴィシュテは、ラトセィスの方を何度も見た。 これで、この会話は何度したであろう。 ラトセィスは、仕方ないですね、といった感じで、顔を僅かに振った。 ザ、・・・ この班の、客人となっていた少年・・・セルヴィシュテが・・・ 歩き始めた。 ハーギーであった少年達が、驚愕の目線でそのセルヴィシュテの姿を追う。 ある者は体をどかし、ある者は批難するように、ある者は息を呑みながら。 服があちこち焦げている少年が、ゆっくりと、歩み進めると、レガンの姿が目に入った。 レガンの足元に、銀貨が4枚。並んでいた。 セルヴィシュテは、レガンから目を離さず、その少年から一歩脇の斜め向かいに立った。「あ、えー。 俺は、こちらの皆さんの仲間ではないので、部外者で付いて行っていいですかね? 部外者には、身支度金はいらないと思います。」 セルヴィシュテが言った途端! 数名の少年がレガンの前に駆けつけた! 彼らは、お互い牽制の火花を散らしたが、流石にどちらが早く着いたかは己が一番判るというもの・・・ 早いもの順に、4人。並んだ。「レガン。 ラマダノンへ付いて行く・・・ 身支度なんて、クソくらえだ!!!!!」 と、レガンは余裕の笑みを見せた。「お前ら・・・ 結構、鈍いぜ」 セルヴィシュテは、これまで歩んできた旅で・・・ ラトセィスと離れるのは、初めてであった。 が、ラマダノン。 彼を、駆り立てる、その国の名前・・・ そして、ラトセィスは・・・ ラマダノンへは”行けない”と言ったのだった。 どうしてか? 判らなかったが、聞かなかった。 このハザの・・・ 王子であった、ラトセィス。 であれば、出入りできぬ国も、あるのであろう・・・ 国交というのは、えてして、そのようなものであろうから。 ラトスと離れるのは心配だったが・・・ でも、ラマダノンに行かないのもまた、心残りである。 ラトスは意外と、ハーギーの人々となじんでいたようだし・・・ それに、最近疲れているようだし・・・・・ ラトス・・・ 俺が、代わりに、見てくるから。 今の、ラマダノンを。 セルヴィシュテは、班の女性に、服を縫って貰っていた。 ハーギーの時、富豪に買われ、裁縫を教わったのだという。 優しい雰囲気のその女性に、セルヴィシュテは見ぬ母を思い描いた。 ラトセィスも、班の同じ位の年の少年と、パオの焼き方とか、ロワベの村の話で盛り上がっている。 そんなラトスを見ていると、エルダーヤで何も知らずに育った自分は、幸せだったのだな、とつくづく思うセルヴィシュテであった。 目の前の女性も、ハーギーで辛い思いをしているのだ・・・「ラトス、6日くらいで戻るってさ。 それまで、おとなしくしてろよ?」「どっちがですか」 こうやって、少しは嫌味みたいな会話までできるようになってきたラトスと、少しばかり離れて・・・ 見ぬ王国、ラマダノンへと。 レガンと共に、行く事にしたセルヴィシュテであった。 レガン達・・・レガン、ルッカ、リュー、オガラ達は、全く、あの班を出たときの格好そのままであった。 セルヴィシュテの目からみても、異形である。 それぞれが、異なる甲冑・・・形も年代も違うものを、見に纏っている。 それらは、明らかに大量の返り血を浴びた跡がある。 まあ、そのぐらいなら・・剣士であれば、致し方ないかもしれないが。 醸し出されている雰囲気が、まるっきり、”普通の少年ではなかった”。 どこをどう表現したらよいのやら。 その目つきや態度。 その足の歩み。 全てにおいて、無駄もなく、研ぎ澄まされ、危険な雰囲気が漂っている。 しかも面白いことに、本人達にはその自覚があるらしく、少しはその雰囲気を抑えようという努力をしているようである。 いやしかし。 これじゃせめて、格好くらい、やっぱり代えたほうがいいよと、セルヴィシュテは思うのだが、そのセルヴィシュテもまた、ボロッボロの上着を縫い合わせた物を着ているから、人のことは言えない。 言い方を一つ誤れば、”危険な集団”に、一人だけ、人質めいた少年が一緒にいるかのような、なんとも釣り合いのないご一行であった。 ご一行は、西へと向かっていた。 一人だけ、やや、小走りであった。 勿論、”まるで人質のような少年”が。 その他の少年にとっては、その速度が、普通の速さであった・・・・ 風が、駆けて行く。 若々しい少年達の後ろから。 どこまでも、障害などなく吹き行くその風に、茶色の髪が揺らめいた。 ラマダノン王。 お遭いしないと、始まらないのだ、全ては。 俺の、この布のことと・・・ あと、きっと、ラトスのことも・・・・***にほんブログ村 参加ランキングです
January 31, 2014
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恐ろしく、忌むべき場所ハーギー・・・ そのハーギーを、仲間と共に出てきた少年、ニルロゼ。 仲間達は、4つの班に分散していた。 そのうちの一つに残した女性、ナーダを、これまで・・・・ 忘れたことは、なかった・・・ 1年余、ずっと。 どれほど集中しても、ふと気が緩んだときに・・・ 赤い太陽が西に沈んで、大地が赤く染まり・・・あのメルサを思い出し、その空が暗くなって星が出たときなどに・・・ ナーダを思い出さずには、いられなかった。 そんな自分を振り切るように、彼女の居る場所から離れるように、離れるようにとひたすらに東へ駆けて来た。 目をうっすらとあけると、狭そうに、ビアルが眠っていた。 冷たく、石でできたハーギーとはまるで違う、木でできたビアルの家。 釜には火が入ったままで、パチリ、パチリと音を立てていた。 料理長の家に行って、 ナーダの処に行って、 また料理長の処に行って。そうしたら料理長は城に行っていて・・・? 城に行ったらリュベナは、馬を自分にくれた。 そして、あのセルヴィシュテが・・・・やって来た。 おもしろくなってきたな。 ニヤリ、ニルロゼは笑った。 ビアルに出遭って・・・ かなり、自分の見ていく場所が変わったな、と思った。 今まで、見えなかったのだから・・・ ビアルになら、見える。 そう、確信していた。 不思議なことに、ビアル自身のことは、まるで”みえなかった”が、ビアルなら”みえる”と思えるのだ。 この、奥底からの、静かなる強さ・・・ なににも、屈しない精神を持っているように感じた。 だからこそ、その強さに・・・人々が惹かれていくのだ。 その目に見える美しさではなく、そのつよさに。 そのつよさ、どこから来る・・・ 今日は、いつもどおり治療に出歩いて行ったビアル・・・ 少し塗れているかのような髪を、人差し指でいじってみた。「俺は・・・ お前に、お前ができない以上のことを、頼んでいるのかもしれない・・・ けれど」 ニルロゼは、美しいビアルの横顔を見つめた目を、少し逸らした。 ・・・でも、俺も、俺にできない以上のことを、やろうと思っているんだ・・・ 俺にはできないかもしれない。 でも、やらなきゃならないんだ・・・ だから、メルサ・・・ きゃつを、みつける・・・ いや、メルサの、その上だ! ぜったいあるはずだ・・・・ その裏の裏・・・・ ニルロゼは、ビアルに背を向けて転がった。 リュベナが見せてくれた、十二神記。 あれは、どのような意図で、リュベナは見せたのだろう・・・ リュベナ・・・ 触れると、少し。 俺が、包まれる感じがするんだ・・・ 同時に、リュベナ・・・ 君も、辛いの・・? なにか、切なく・・ 苦しんでいるようだ・・・ 明日になったら、ビアルに・・・ あの本の事を聞いてみよう。 ニルロゼは、自分の指を見て、それからその視線を壁際に向けた。 あの城に、ある。 ぜったい。 あかへ・・・ あかへのとびらが・・・ 朝露がぽたり、と、一枚の若葉から落ちた。 地面に落ちるまでの間に、沢山の若者の姿が、その雫に映ったであろう。 それぞれに、甲冑を着込み、剣を腰に挿し、そして、皆、若々しかった。 まるで、その朝露が触れれば弾くかのように。 彼らは、ハーギーから別れた班の一つで、東にやってきて・・・ 最近、ナイーザッツ城の付近で落ち着いていた。 落ち着いたのは、本当に最近のことである。 大人と食い違いが生じ、大人達と別れたのだ。 24歳位の青年が筆頭に、一番年少でも10歳位の少年達が、ひしめいていた。 この班の取り締まりは、以前ワーエという男がしていたが、その男も、別れた大人の方で・・・ まあ、自然と、年上のポネが、全体を取り仕切る格好になっていたが、みな、それぞれ力は同じ位だった。 それでも、年長者に敬意を持つよう、富豪に教わった者達がいるので、年長の者をたてていた。 そのポネを後ろに控えさせ、やや高めの位置に立っている少年がいる。 名は、レガン。 ハーギーで集結し、ハーギーを出る時の立役者となった者である事、この班で知らない者はない。 今日は、男性・・・というよりも、少年を集め、大事な話があると、昨日から触れ回っていたのであった。「なにがあるんだろうね」 この班の客人となっていた少年・・・ セルヴィシュテの茶色の髪が、朝の光に反射し、淡く優しく煌いた。 その髪の下の茶色の瞳は、踊るように動き、興味を隠せないようである。 客人は、昨日来たばかりなので、一番後ろでひっそりと、大勢の少年達の様子を見ていた。 全身茶色のものばかりを身に纏った少年の一歩後ろに、なんとなくはかない雰囲気の少年がいた。 皮の帽子、黄緑色の上衣、緑がかったフォルセッツ・・・ その様子だけを見たら、ただの町の少年のようでもある。 皮の帽子を被った少年ラトセィスは、青い瞳を、やや伏せていた。「みな、集まったな? 俺の声はよく聞こえるか?」 レガンの声が、浪々と響き渡った。 少年達が、一斉に頷いたり、あるものは軽く手を上げたりして意思を伝えていた。「よし。 後ろの者には見えないだろうから、ちゃーんと喋るからな。 よく聞いてくれ。 これから前に出て貰う人がいる。 自分だと思うなら、俺の前に出てきてくれ。 ただし、4人だ。」 レガンの声は、朗らかに一区切りされた。 少年達は、少し、知り合い同士の者達が目を合わせたらしいが、すぐにレガンの方へと目を向けているようだ。「ラトス。 なんか、4人、悪いことでもしたのかな」 セルヴィシュテは、軽く笑って相方のラトセィスに片目を瞑って見せた。 みせしめでもないのに、こうやって、わざわざ4人を出させようとは、何事だろう?「俺の言う内容を、間違えて捉えては困るからな?! そのまんま受け取るように。 ええ、実はだ。 アモから頼まれた仕事がある。 隣の国、ラマダノンに、これから調査に行く」 ざわり、少年達が少し声を出した。「調査といっても、まあ調査。深読みは不要だ。 だが、俺らはこのとおり。 長きの戦いで、見た目も悪い。 そこでアモが、銀貨をくれたのだ。 5枚だ。 ああ、勿論1枚は俺が貰った。 さあ、ここに置こう・・・」 レガンの声が一旦途切れた。***にほんブログ村 参加ランキングです
January 31, 2014
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果たして、昼時となった。 レシアが準備した昼食を、アモは喜んでいただいていた。 これで、彼女の食事を食べるのは3度目であった。 前回までは、レシアの父も一緒だった。 今日は2人きりで、向かい合っていると、少し間が持たない面もある。 壁側に座ったレシアは、やや疲れている雰囲気があった。 先日まで、目の見えない父を世話していたからもあろう。 それでも、ハーギーでの、もの悲しく切ない女性ばかりを見ていたアモにとっては、レシアは未知の生活を営む女の子であった。 レシアの方も・・・こうして、特定の男の子を家に上げるのは、初めての事なので、どうしたらいいのやら、戸惑いが隠せなかった。 今までは、ビアルが治療に来ていたが、ビアルは「特定」には入るわけもない。 ビアルはどの家にも行っているのだから・・・・ レシアは、濃い青色の瞳を、向かいに座ったアモに向けた。 甲冑も脱がず、弓も下ろさずに食事を取っているアモを見ると、レシアはちょっとだけ、アモとの“距離”を感じずにはいられなかった。「ごちそうさま!」 アモが、にこやかに言っている。「レシア、片付けるのを手伝おうか?」「・・・い、いいわ?それより、少しゆっくりしましょう?」 レシアが下げる皿の残りを、アモも下げる。 調理台の脇の水瓶の水で塗らした布巾で皿を拭くレシアを見ながら、アモは疲れた雰囲気の少女になにか気の利いた言葉をかけられないかと、必死に考えた。「そういえば、お父さんは、しばらく目が見えなかったんだってね。 どのぐらい前からなんだい?大変だったろう」 できるだけさりげない雰囲気を作ろうと必死のアモに、レシアも少し笑えた。「そうね。5年よ。 1年ちょっと前から、ビアル様に診て貰っていたの」「そう」 粗末な服を着た少女を、黙って見ていたアモは、食卓に戻って椅子に座った。「ビアル・・・か。 城にも出入りしている。とっても綺麗な人だよな。 何者なんだろう」 アモは、背の弓を手にとって、弓の張り具合を見るように弦を引っ張った。「わからないわ。 でも、とても素晴らしい方だと思うわ・・・」 レシアは、アモに背を向けたまま、頬を染めた。 以前は、心ひそかにビアルを想っていた・・・ほんの憧れではあったが・・・「人の生き方ってさ、色々あるな・・・ ビアルみたいに、望まれている人もいるし・・・ 俺は、自分の立つ場所を確保できたのは最近だ。 レシアは、お父さんが、大変だったかもしれないけれど、お父さんがいるってさ、素敵じゃないか・・・ 俺の仲間はお父さんを知らない人が殆どなんだぜ」 アモは、弦に目をやりながら、溜息をついた。「・・・・」 レシアはそこで、やっと、やや哀しげな雰囲気のこの少年が背負うものが、目に見え初めて来た。 遠くの噂でしか知らない、ハーギー・・・ 殺戮の場であり、人を殺すことで報酬を得るという・・・・ だが、アモから感じることができるのは、深い哀しみと、そして・・・・「まあ、でも居ないことを嘆いても始まらないさ。 仲間も一杯いるし、今は仕事もあるし、こうして君の家の手伝いもできる。 少しは役に立っているといいけど」 アモは、優しい笑みを見せた。 あの、黒き者から助けてくれたアモは、一途で、力強い精神があった。 その精神は、暗い過去の上に成り立っているのかもしれないが、それであってもなお・・・ つよい、と思えるのだ。「とても助かっているわよ、アモ。 お父さんも喜んでいるわ。 さあ、少しはくつろいだら? いつもこんな格好しているんでしょう? 肩が凝るわよ。」 レシアは笑いながら、アモに弓を下ろすよう促した。 アモは肩をすくめて従うと、弓を納める皮かけを下ろした。「君に初めて会ったときに・・・ 弓を持っていなかった。 あの時、どこからかともなく、とんでもない素晴らしい弓が現れたんだ。 あれは、俺への啓示だと信じている・・・ 俺は、弓を離してはならないのだ、とね」 アモは、片目を瞑って、自身の弓を指先で弾いた。「君が俺を気遣ってくれるのは嬉しい。 でも、君が思うより、俺らは練磨しているんだ・・・ こんなのずっと装着しているとか、どうってことないのさ」 そう言いながらも、弓を壁際に置いた。「・・・・ アモ・・・ ハーギーは、辛かったのね・・・」 レシアは、思わず口からその言葉がついて出た。「・・・・」 アモは、深いため息をついた。「・・・・ 大丈夫だよ・・・ もう、過去の話だ。 もう、終わった話さ・・・・」 アモが口を閉ざすと、二人は会話がなくなり、やや気まずい雰囲気になった。 どうしよう。 なにを言おう。 ああ、くそ。 どうすればいいのか、レガンに聞いてくればよかったな・・・・ アモは、両手を組んだり、頬杖したり、足を組んだり、必死に考えた。 が、なにも思い浮かばない。 レシアは、樹を削り上げて創ったかのような雰囲気のアモに、少し見とれたり、その姿から目線を逸らしたり、しながら、なにを話せばいいのか戸惑っていた。 色々聞きたいこともあったが、アモを悲しい思いにはさせたくなかった・・・ 無常にも無駄な時間だけが過ぎ、アモは、少し、窓の外を見た。「・・・屋根でも、修理しようか?」「?」「もう暫くしたら、俺は戻らなくちゃ。 屋根の上でも、見てくるよ・・・・」 アモは、壁に立てかけた弓かけを通り越し、ゆっくり玄関から外へと出た。 レシアは、アモが座っていた椅子に手を触れてみた。 もっと、アモの事が知りたい、と思っていた。 でも、それは、アモにとって、言いたくないことかもしれなかった・・・ アモは、レシアの家の屋根に上ると、壊れた箇所を早速見つけ、果たしてどうしようかと思っていた。 と同時に、その部分からレシアがちらりと見えて、少し鼓動が早くなった。 盗み見ようと思っている訳でもないのに、目線がレシアを追ってしまう。 見える範囲からレシアが見えなくなると、少しホッとしながら、鉄鎚を握りなおした。 どうやら、レシアの事が気になるのかもしれない・・・ 熱くなる胸を押さえながら、アモは、呼吸を整えた。 いや、いや、しかし、ええと・・・ ええと・・・ と、アモの耳に、誰かの足音が聞こえた。 すぐ近くまで来ていた。 人の気配が察知できるアモにとって、足音がするまで気が付かないなど、かなりの狼狽ぶりである。 きらり、と鋭い目線でその足音の方に精神を集中させた。「まあ!ビアル様?」「遅くなりました。申し訳ございません・・・」 レシアの声と、ビアルの声だ・・・ アモは、黒い瞳を揺らめかした。 レシアの声色が、明らかに、自分に対する声と、違っていた。「ビアル様・・・ 今まで、ありがとうございます。 父は、目が見えるようになったのです」「それはなによりです」「おかげさまで、仕事に行っています」「そうですか」 アモは、思わず会話に聞き耳を立てていた。「お元気になったドハーさんにお会いしたいです。 また日を改めて参りましょう・・・」「あ、あの、待って・・・」 声が、かなり低くなった。「あの・・・ビアル様。 あの、お願いが」 屋根の上に、両生類のように這い蹲っているアモには、二人の姿は見えない。 アモは、赤くなり、額と手に汗を滲ませ、なぜか歯まで食いしばって、その会話に聞き入っていた。「いかがしましたか?」「・・・は、恥ずかしいです、中に・・・」 コトリ・・・ 二人が、室内に入ったようだ。 う! これは、なんだ!? これはっ!!!!??? アモは、顔面が蒼白になってきた!「・・・」 少女は、なかなか本題に切り出せないようだった。 ビアルの雰囲気は、まったく読み取れない・・・・「お悩みですね」 静かに、ビアルが言った。「では、いいものをお見せします? あたるもはっけ、あたらぬもはっけ、 占い師ビアルとは私のこと・・・」 ビアルが、食卓に動いてきて、椅子に座った。 その姿の一部が、アモの目に入った。「さあ・・・ 私には、なにも気を回さずに・・・ あなたの心に集中してください」 ビアルの前に座ったレシアが、ビアルの置いた光る石に、目を凝らしているようだ。「・・・・ ビアル様・・・ ビアル様は、誰かを、お好きですか・・・」 レシアは、唐突に言った。「おや」 ビアルは笑っているようである。「常に・・・深く。 すべてにおいて、です」 ビアルは静かに応えた。 「誰かを好きになるというのは、潤いと、活力と、優しさに繋がること・・・・ 好きになるということは、自身を愛することなのです」 ビアルは、光る石を懐に仕舞うと、立ち上がった。「レシアさん。 あなたが始めてですよ。 私に、好きな人がいるかと聞いた方は・・・」 フフ、と笑ったようであった。 ビアルは静かに家を出て行った。 その黒い影を、レシアの家の屋根から、これまた静かにアモが見送っていた。 好きになるということは、自身を愛すること・・・ ビアルが言った言葉が、アモの心に深く、飲み込んだ湯のようにゆっくりと波紋を広げて行った。 好きになる、ということを・・・ 理解できない、したくない、そういう思いがあったかもしれない。 しかし、ビアルはなんと言ったであろうか・・・ 自分自身を愛することだ、と。 自分については・・・ そうだ・・・ 今まで、女性を傷つけた過去ばかりにとらわれて、だから女性との距離をついとっていたが・・・ それは、そんな過去を持つ自分が愛せなかったからなのだ・・・・ アモは、ビアルが別の人の家に入って行っても、その家を見続けた。 なるほど・・・ だから、姫に気に入られているのか・・・ ビアル・・・ たいした者だな・・・ アモは目を細めた。 そして、両手を見た。 自分自身を、愛せるだろうか? タコができ、あちこち黒ずんでいる手のひらに視線を落とし、少年アモは、彫刻のようにその場で同じ姿勢をとっていた。「アモ」「アモったら!」 大きな声が、少年を我に返らせた。 レシアの声だ。 アモは、屋根の上からひょいと飛び降りると、何事もなかったように、レシアの家に入った。「もう! そろそろ帰る時間じゃないの? 遅れたら、怒られるんでしょ?」「あ、ああ」 アモは、俯いて、自分の胸の、紫色に染められた布を仕舞った辺りを見た。「ねえ、アモ・・」 レシアが、少し向こうを見ながら言った。「・・・なに?」 アモも、ちょっと視線を外しながら答える。「今度の休みに、また来てね。 アモがよければ、ハーギーの時のことを、教えて・・・」「・・・・」 アモは、唾を飲み込んだ。 あの、血と、殺戮と、赤と・・・ あのハーギーのことを・・・レシアに・・・・「・・・無理にとはいわないわ。 喋れるところから、教えて」「・・・・」 アモは、ぐっと唇を噛んでレシアをちらりと見ると、少女もまた、切なそうな・・・それでいて、どことなく、確かめるような・・・?雰囲気の・・・ やや、頬を上気させたその表情を見て、アモは、鼓動が早くなってきた。「う・・・うん・・」「・・・・」 レシアは頬を染めたまま、視線を外していた。 ああ、うまく言えん。 ええと、なにを言えばいいんだ。 ええと・・・「じゃ、じゃあ今度ね・・・」 結局、通り一遍のことしか言えないアモだった。
January 29, 2014
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いやあ~どうも~猫です~FF9での裏ボスオズマをユーチューブってたら、FF5でも出てたことが判明、しかも9のラスボスも5で出てたらしく、それを知ってから急激に5がやりたくなり、オクで探したんだけど、スーファミもプレイできるけど「ファイナルファンタジーコレクション」なるものを発見。アマゾンの評価によると、FF4.5.6を「忠実に」再現、「ムービーはオープニングだけ」という話だったので、アマゾンで買う前にヤフオクを見たら、千円台だったのでオクで競り落としました、結局2千2百円なり~FF4FF5FF6喜孝の絵が印刷されてていい感じですねオクサン!ちなみに、デジカメをあまりに久しぶりに出したので、メモリーカードに移す方法がわからなくなり、これらの画像は携帯で撮りました。ムービーはないといいつつ、取説にはアヤシゲな画像が・・・・FF4。ローザか!?FF5。ファリスか?!FF6。知らんキャラw取説の巻末には、「超豪華メモリアルクリアケース」の宣伝が・・・・限定5000個、シリアルナンバーつき、喜孝のサイン(多分印字)つき。しかも抽選って・・・www応募した人いたのかな~ 「ケースだけ」で5800円もするのって高くない?流石にこれはオクションでもみかけないwww俺みたいなレアな人が大事に持っているんだろうな~wwww喜孝いいよ、すくえあもようまあこんなん作ったよ。喜孝万歳!さあ、みんなも「ファイナルファンタジーコレクション」を買うのだ~ちなみに俺は、今やっている「ファミコン」のFF3があるので、こっちが終わってから、コレをプレイしたいと思います。まる。一応念のため・・・↑は、俺が描いた模写です。
January 27, 2014
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今日のアモは、休みの日であった。 休みの日は、自分達の班の内部を丁寧にみて、それから必ず来ている所があった。 それは、ルヘルンのはずれの、とある一軒の家だった。 そこに行く前に、必ず、湖畔に寄っていた。 城で鏡を見ているので、自分がどのような格好をしているか判りきってはいたが・・・ あの少女と逢う前に、どうしても、もう一度確認しないと気がすまないのである。 ハーギーの時のような、殺気がないであろうか? 追い詰められた獣のような、あの恐ろしい雰囲気は、ないか? どうしても、不安で仕方がなかった。 特に、女性に関しては、辛い過去が多かった。 だから、できれば、女の子とは接点を持ちたくはなかったのだが・・・ 苦しめられている女性を助け出した以上、女性との関わりを避ける訳にいかない。 班の女の子とは、全員話をし、勤めて集まりに混じるようにしている。 けれど、やっぱり、どこかに負い目を感じていた。 湖で顔を洗うと、小さな紫色の布で顔を拭く。 アモは、以前助け出した少女、レシアの家に向かった。 レガンが、少女と恋をしているのに、以前衝撃を受け・・・ 理屈にならない怒りのような、情けないような、辛いような気持ちを味わった。 お前は、ハーギーでのことを忘れたのか!?と聞いたら・・・ 忘れてはいないよ、とレガンは言った。 忘れるわけは、ないだろう。 忘れられるわけなど。 あれほどの、煮えくり返るような理不尽な場所での思い出の上に・・・ 女性を心を通わせるなど、できるのかと、アモには理解に苦しんだ。 しかしレガンは言った。 お前がそう言うなら、俺はこう言おう。 ”あの苦しい思い出”を乗り越えるために、出てきたんだろ、あそこから。 富豪に買われ、共にハーギーを出るときの首謀となった仲間、レガン・・・ 若々しいなかにも、彼らはみな、共通した苦しみと、共通した強さ、そして精神を持ち合わせていた。 二度、あの間違いを繰り返さない、と・・・ 思いがけず、”ニルロゼの構え”を見たアモは、ちょっと苦い笑いを抑えた。 あのニルロゼが剣技を教えるとは、面白そうな少年だな・・・ アモは、濡れた布をそのまま懐に仕舞うと、レシアの家に向かった。 たどり着く前に、数人と出会い、会釈する。 ここらへんの人とは、顔見知りになった。 気立てのよい人々である。「こんにちはー」 アモは、レシアの家に入った。 レシアの家では、父、ドハーの目が見えるようになってから、父は大張り切りで家の修繕をしていた。 暖炉には火が入っている。 アモが来るのを見越して、暖めていたのだろう。「今日は、少し遅かったのね。 待っちゃったわよ」 レシアが、鉄鎚を持ったまま、笑いかけて来た。「お父さん、今日は仕事に行ってしまったわ。 アモが来るから、修繕を任せる魂胆なのよ。 嫌よね」 レシアは、斜めになっている棚を直していた。 その姿は少し危なかしい感じがする。「高い処は俺がやるよ」 アモはレシアに後ろから近づき、彼女の右手に握られた鉄鎚を取ろうとした。 と、レシアは、急にパッとアモから離れた。「?」 アモは、驚いてレシアを見た。 なんだか、恥ずかしがっているようである。 ひたすらに、頭を掻くと、アモは手を差し出した。「ほら、鉄鎚を貸しなよ。 高い処は、俺がやるから」 やっと少女は、恐る恐るアモに鉄鎚を手渡した。 この家では、アモを快く受け入れてくれていたが・・・ こうしたなにげない時に、少女との距離というか・・・ やっぱり、俺は怖いのかなとか、思わずにいられない。 一方のレシアは、早鐘のような鼓動を両手で押さえながら、こっそりアモを盗み見た。 父が、あげた布の事を、恋人にあげるものだと言ってしまった。 アモは、真に受けているだろうか? 周りの人に、アモとどういう関係かと、言われる。 狭い村のこと、若い男女のことだから、すぐ噂の種になる。 ひやかされるとつい、必要以上に意識してしまう。 アモが来てくれるのは嬉しかった。 けれど、来るまでは、待ち遠しいのに・・・・ こうして、彼が来ると、恨めしくも思えてしまう。 あんまり、考えちゃ駄目よ・・・ そう、アモは、家の修理を手伝いに来てくれているだけなんだから・・・・ 必死に、レシアはそう思い込もうとした。 父さんが張り切って修理している姿をみて、手伝うと言ったのはアモ・・・ ただ、それだけじゃない・・・ アモは、棚を打ち付けている手元を、少し休めた。 女の子の対応は、判らないなあ・・・ レガンは、いったい女の子とどういう話をしているんだろう・・・ また来てね、というから、来て・・・ でも、来ると、距離を感じる・・・ この距離は、なんだろう? アモは、また棚に釘を打ち始めた。 ***にほんブログ村 参加ランキングです
January 27, 2014
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木々に囲まれた狭い道で、5匹の馬がいななく。 馬に乗った大人に囲まれているのは、15歳くらいの2人の少年だ。 誰がどう見ても、少年の方が不利な体制である。 いったい何があって、このように、騎士に囲まれるなどという事に? そんな光景を見つめる目が、ひょう、と弓を放ってきた。 その矢は、ぱさり、と、情けなく、7人の間に落ちた。 何を狙って放った矢か・・・? どこにも当たらないその矢に、大人も少年も一瞬気を取られた。「おう!こんなところにいたかい! 悪いな、待たせて」 これまた若々しい声と共に、こげ茶の長い髪を後ろで束ねた少年が一人、現れた。 日に焼けた顔や手。 使い込まれている皮の甲冑。 その動作には無駄がなく、腰に下げている剣、鍛えられているのがわかる体躯、自信に満ちた視線は、年齢に不相応な雰囲気を醸し出している。 少年は、ズカズカと馬の間に割り入り、同じ位の年頃の少年達に近づいた。「ローガー様、失礼しました。 こいつらは、俺の客で」 束ねた髪の毛は背中の真ん中あたりまである。 こげ茶色の髪の少年は、腰に手を当てて、馬に乗った大人どもを睨んだ。「本当に大変しました。 じゃあ、行こう」 少年は、有無を言わさず、森の方へとセルヴィシュテの手を引いた。 ラトセィスがぼーっと突っ立っていたので、そっちの方も手を引っ張り、森の奥へ連れ込もうとする。 と、ひょう、と、また矢が飛んで、大人達と少年との間に落ちた。 どうやら、威嚇しているつもりらしい。「けっ、下手な弓め・・・ だが、どうやら何人か”ヤツラ”がいるようだな。 チッ」 ローガーと呼ばれた男、セルヴィシュテに手綱を切られた男は、苦虫を噛んだ様な表情になると、ぎらり、と、茶色の髪の少年の背を斬るように睨んで・・・ それから、仲間に合図を送った。 城に戻るか。 なにぶん、”ヤツラ”はやっかいだ。 あんな小僧に斬り込まれて恥をかいたが、”ヤツラ”の仲間となれば、まあ話も別だ。 荒々しく馬に拍車をかけると、ローガーは城への道に戻った。 5匹の馬は、何事もなかったかのように整然と、大きな道を登って行った。 森の中は明るかった。 自分よりもやや背の高い少年に手を引かれ、どんどんと、やや南に向かっていた。 使い込まれた皮の甲冑の少年の後姿に、以前自分が使っていた皮の甲冑の事を思い出しながら、セルヴィシュテは、どこまでだまってついて行こうかと、思案していた。 どうやら、この少年が助けてくれたのだ、というのは判った。 だが、なにか、感じ取れる雰囲気が、違う・・・ なんだろう? 以前にも感じたような雰囲気だ・・・ いつ? と、手を引いていた少年が立ち止まった。 そこには、樹によりかかってこちらを見る少年がいた。 青い甲冑が、きらりと光っている。 なかなかいい物のようで、凝った創りをしてあった。 皮でできた肩掛けを斜めに、甲冑の上にしている。 その腕は胸の前で組まれていた。 と、ここまで連れてきてくれた少年が、ゆっくりセルヴィシュテに対し間合いを取った。 セルヴィシュテは、なにが起こっているのか、理解に苦しんだ。 目の前の少年が、さらりと剣を抜いてくる。「・・・」 一旦助けておきながら、なぜ闘おうとする?「剣を抜け」 長髪の少年が、構えた姿勢を崩さずに言った。 セルヴィシュテは、少し、あの青い甲冑の少年に視線を送ってから・・・ 剣を抜いた。 間髪入れず、長髪の少年の剣が襲って来て、慌てて避けざまに、間合いを取る。 セルヴィシュテの握り直す剣は、しかし、躊躇した。「どうしてこんなことをするんです? 俺は、セルヴィシュテ・・・ さっき大人に囲まれた時も、さっぱりやられる理由がわからなかった・・・ どうして、あいつらから離してくれたのに、こんなことを・・・」 と、無表情にも、長髪の少年が切り込んできた! ものすごい力に腕がビリビリとし、思わずセルヴィシュテは顔をしかめた。 剣が離れると、セルヴィシュテは、手を中段に構えた。「ほう、やはり」 今まで切り込んできた長髪の少年が、そこでやっと一言言った。 ひょい、剣をくるくると回し、鞘に収めた。「セルヴィシュテといったな。 その構え。 誰にならった」 長髪の少年は、腰に手を当てて、ニヤリと笑っていた。 樹に寄りかかっていた、青い甲冑の少年が、こちらへと歩いてくる・・・「・・・ニルロゼ・・・です」 茶色の髪の少年がそう言うと、長髪の少年と青い甲冑の少年は、目を見合わせ頷いた。 長髪の少年は、レガンと言った。 驚いたことに、ニルロゼと同じハーギーのもので、ハーギーを出て、新しい生活をしている、と。 この時初めて、ニルロゼがハーギーであった事を知ったセルヴィシュテであった。 青い甲冑の少年は、こちらもハーギーのもので、名はアモ。 弓と矢を背負っていた。 大人達との間に矢を放ったのは、このアモだろうか? レガンとアモは、自分達の暮らす場所に、セルヴィシュテ達を招き入れてくれた。 そこで少年達は、ハーギーが暮らすこととなったロワベの村の話をして、何人もの人に、同じ話を何度もする羽目になったのであった・・・ それから、やっとレガンは、アモとまた二人だけになった。 アモと二人で話し合うつもりで、ああやって班から離れた場所にいたのだ。 そこに、見過ごせない少年を発見してしまった。 ニルロゼが得意とする切り込みの角度に似た剣さばきを使う少年を・・・「ニルロゼは、俺らの班には入らないのかな、やっぱ」 レガンは右脇に垂らしたこげ茶色の髪をいじりながら、笑った。 アモは、両手を組み合わせ、黒い瞳を伏せて笑う。「あいつは、昔から単独行動ばかりさ。 それより、俺が思ったより城の奴らはひどいな。 お前がいてくれてよかったよ。 俺がローガーとやりあうとまずくなる」「まあ、そうだろうな。 城勤めも大変だな、アモ」 言われたアモは、ちょっと切なそうに笑った。「ああ。 できれば、お前にも、城に来てほしかった。 が、こうやって、城に居る俺と、外の仲間と・・・。 別れていた方が、情報が交換できる。 城勤めとしてできないことをお前らはできるしな・・・」 アモは、懐から銀貨を数枚、レガンに渡した。「信頼できそうな人から聞いた。 隣国の王も、なかなか話が判りそうだと。 お前なら、きっとお目通りになるだろう。 何人か仲間を連れて、少し様子をみてきてくれるか? 身の回りを小綺麗にすれば、俺らだって、それなりの剣士に見えるだろう」 アモから金を受け取ったレガンは、黒い瞳で、きらりと頷いた。 レガンと別れたアモは、先ほど矢を放った所に戻り、矢を回収した。 自分で作っているこの矢は、相手に当たっていなければ、再度使う事ができる。 矢筒にそれらを収め、少年は音もなく走り出した。***にほんブログ村 参加ランキングです
January 26, 2014
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ほほほ ととのったな そう ととのった すべては ごおごおと うずまくかぜ たくさんの 驚愕の顔 男 女 動物 子供 驚愕の魂 怒り 苦しみ 悲しみ 諦め それらかたちなきもの ひしめいて いりみだれ ぶつかりあい せつせつと ごおごおと どろどろと ぐるぐると 驚愕のいぶきのかぜ くろのなかに さらにさらなるくろがありて すぶり ざらり するり だらりと くろのうねり ごお・・・ をを ごお くろがくろをのんで くろなのか? いろがあるか? うねるなみなみは のたうち咆哮し そのさけびは どこへむかうか なにをもとむか ちらちらと あかの、ともしび きき ほほほ・・・・ すべては わがものなれば・・・ わがものより・・・ ごおごおと あかが、くろで くろに、あかのなみがおおいかぶさり あかに、くろがなだれおち どこまで、つづくか・・・ これらのうねり・・・・ さあ ときはみちたり わがちから わがものなれば すべては・・・・・ 吹き渡る風は、既に寒かった。 焼かれてボロボロの、茶色い服を着た少年と、緑の服を着て帽子を被った少年が、道を歩いていた。 彼らの歩く道は、馬車が何度も通った痕跡のある、大きめの道だ。 道は、上り坂になっており、道の上になにがあるかは見えなかった。 道の両側は樹が並んで生えている。 どうやら、この道は森を開拓したらしい。 樹の上から、鳥の声がして・・・ 風が吹くと、木々がざわざわとした。 歩いている少年・・・ 少し寒そうに両腕を手で擦り合わせているのは、セルヴィシュテ。 茶色の髪はやや巻き毛で、少し伸びたから自分で切った。 ちょっと変な髪形である。 茶色の眉毛は綺麗な弧を描いている。 その下に、これまた茶色の瞳。 闊達そうで、朗らかな印象である。 そのセルヴィシュテの隣にいる少年は、ラトセィス。 皮でできた茶色の帽子を目深に被っている。 帽子の下に、輝く金髪の髪が揺れている。 同じ色の眉は、美しい曲線をなぞっている。 青い瞳は、爽やかな色であるが・・・ その瞳は、伏目がちであった。 ラトセィスには、実は・・・ この坂を上りきると、どのような光景になるかは、わかっていた。 その風景を、隣のセルヴィシュテは知らない。 ”それ”を見たら、きっと、セルヴィシュテは”そこ”に行く、と言うだろう・・・ と、ラトセィスは思っていた。 昨日の夜泊めてくれた人が教えてくれたのは、ラマダノン王国。 この国の隣である。 なぜ、あの背の高い少年がわざわざ隣国を教えたのかは、だいたい想像がついていた。 それは、自分達がルヘルンに入れないから、と言ったからだ。 ルヘルンは、ナイーザッツ王国の首都だ。 そこに入れないなら、ナイーザッツの城にも勿論入れない身分になった、と、そう、あの少年は思ったに違いがない。 それほど時間がかからずとも・・・ ナイーザッツ城が、見える・・・ ラトセィスの両手が、自然に握られ、唇は硬く閉ざされ、眉毛が釣りあがってきた。 彼の鼓動は彼の意思に反して早くなっていた。 城が、見えてくる・・・ ラトセィスは、高鳴る胸、早まる呼吸、色々な想いに、我を忘れていた。 そのころ、セルヴィシュテの方は、馬が数匹やってくる音を聞きつけていた。 どうやら、あの坂の向こうから来るようである。 今、自分達はゴロゴロした岩質の道端を歩いている。 道を譲る程でもないであろう。 小石が多いその道の坂のてっぺんを、興味ありげに・・・ セルヴィシュテは見続けた。 そして、ちらり、ほらりと馬の影が現れる。 馬は、素晴らしい速度で走っているようだった。 勿論のこと、そのままの速さで少年達の脇を通り過ぎるであろう、と思いたかったが・・・ 少年達に近づくにつれ、馬は速度を落とし・・・ ブルルッ、 とうとう、5匹の馬が、少年達の前で停まった。 五匹の馬の上には、甲冑を着た大人の男がそれぞれに一人ずつ乗っている。 茶色の髪の少年、セルヴィシュテは、僅かにラトセィスの前に出ると、にっこりと大人に笑いかけた。「こんにちは。 なにか、ご用ですか?」 男の一人が、右手に持った槍を見せびらかすように天に構えた。「ガキども。 どなたのお許しで、ここを歩いている? なにも知らないのなら、特別に許してやろう・・・ ここからは、城の領域だ。 早々に立ち去れ!」 男の太い声に、思わずセルヴィシュテが軽く汗をかいた。 あの、ニルロゼが、王国が西にある、と言っていた。 城がある? 城があるというのなら、その王国が、こんなに、近くに?「・・・城の王様には、お目通り叶わないでし・・・!?」 茶色の髪の少年がそこまで言うと、ラトセィスが、後ろから肘でドン!とセルヴィシュテを小突いた!「ほほう?王にお目通りだと?」 だが、男は、少年の半分言った言葉に、興味を持ってしまったようである。「小童の分際で、王にね!」 ワッハッハッハ! 男たちの哄笑がおこった!「おい、小僧、王様にお目どおりだなんて、頭でもいかれたか? お前らのようなヤツラが、行けるところだと思っているのか? 城に?」 ハハハハ! また、笑いが上がった! セルヴィシュテは、キリキリと唇を噛んだ。 チューレンド王のところでは、このような扱いをうけなかったのに・・・・「俺は・・・」 セルヴィシュテが食ってかかろうとすると、ラトセィスがまた肘で小突いてきた。 な、なんだよ、ラトス、さっきから・・・ 目線でラトセィスに訴えたが、ラトスの表情はよく見えない。「さあさあ、ガキども。 少し南に下がる道でも行くんだな!」 男たちが、剣や槍で、追い払うように少年を急き立てた。 ラトセィスの手が、セルヴィシュテの左肘を掴んで来た。「行きましょう、セルヴィ」 ラトセィスは、冷たいような、無表情な声を出し、セルヴィシュテを引っ張った。「ラトス・・・・」 セルヴィシュテは、苦い視線を大人とラトセィスとに何度も送り・・・ そしてとうとう、瞳を伏せると、ラトセィスの引っ張る方向へと足を向けた。 これまでずっと・・・ 俺が、前に進んできた。 その進む方向に、ラトスが反対したことはなかった。 ただ、だまって、静かに・・・ ラトスはついて来た。 なにを考えているんだろう? どうしてなにも言わないんだ? そう思ったことも、何度もあった。 けれど、嫌いにはなれなかった。 このラトスの、苦しみつつも、なにかを求める姿に・・・ 俺の姿が重なった。 やっと、やっと、少しずつ、見えてきている。 ラトスの、気持ちが・・・ その見えてきたラトスが・・・ 初めて、俺を。 俺の行こうとする方向から、足を遠のけてさせている。 セルヴィシュテは、もう大人の方を振り返らなかった。 だまって、ラトセィスに付いて行った。 いままで、ラトセィスがそうしてきたように。 と。 突如、セルヴィシュテは、ラトセィスの手を振り解き、素早く剣を抜いて、大きく振り返った! ガツッ! セルヴィシュテは、振り向きざまに槍を剣で受けていた!「くっ・・」 馬に、囲まれていた。 その馬の上の大人の一人が、面白くてたまらない、といった顔つきで、ニヤリ、と口から歯をこぼしている。 馬の上から槍を繰り出され、これまでにない戦いになった、と素早く感じたはいいが、相手は5人もいる! しかも、みな、馬に乗っている。「ラトス!?」 セルヴィシュテは、ラトセィスを左手で引き寄せた。 また、あんな魔法使うなよ? そう思いたかったが、これほど人数が多く、早く走る馬からの攻撃に、太刀打ちなどできそうにない・・・ 形勢は明らかに不利だった。 ラトセィスも剣を抜いていた。 どうやら、魔法ではなく剣で闘うつもりのようだ。 一応ほっとしながら、セルヴィシュテは剣を構えた。 ぶん、とうねりをあげながら投げたされるかのような槍を、受け流し、かいくぐって、セルヴィシュテは馬の手綱を切った!「ヒヒーーン!!!!」 馬がのけぞり、棹立ちになる! 騎手は慌てて体制を立て直すのに懸命になった。 この男は今まで、左手だけで手綱を持ち、右手に槍を持っていた。まあ当たり前だろう。 右で切り込んだその隙を付き、右の手綱を切るとは・・・「小僧っ・・・」 手綱を切られた男は、残りの手綱を握りなおし、茶色の髪の少年を睨んだ。 面白半分で追いかけてきて遊んでみるつもりが、自尊心を傷つかれてしまった。 仲間にも、この姿を見られ、もはやただではおかれない・・・ ぎらぎらと、彼の胃のあたりが煮えたぎってきた。 反対に、セルヴィシュテはあくまで冷静であった。 ニルロゼが斬り込みを教えてくれたのが、役にたっていた。 あの背の高い少年が、斬るときの角度をしつこく何度もなおしてくれた。 その角度の通りに切り出しただけだ。 たしかに、違った、手ごたえが・・・・「俺ら・・・ きちんと、おっしゃられたとおりに、通る道を変えました。 なにか、不都合がございましたか」 茶色の髪の少年は、キッ、と瞳を吊り上げた。 ひゅう、剣を回してみる。 逆手の剣を順手に。 構えた。*****************************にほんブログ村 参加ランキングです
January 24, 2014
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大きくて、古ぼけた食卓に、ニルロゼが湯気の立つ皿を置いた。 その皿の前には、勿論あの少女が座っている。「ほれーーー食え~食え~」 背の高い少年が、両手の指を波のように動かして、まるで少女に念でも送るような格好を取っている。 と。 黒髪の少女は、匙を取って、ゆっくりと食事を始めた。 木偶人形のように凝り固まり、その瞳も、その口も動かしていないセルヴィシュテの元に、ニルロゼがにこやかにやってきた。「おい、おい。 あまり、驚くなって。 そこまで驚く奴は、初めてみたよ。 まあ、あんな美人はそんなにいないが、惚れてはダメだぞ」「・・・・」 セルヴィシュテは、かなりの絶妙な視線を、背の高い少年に送った。「あの方・・・ ビアルさん・・って・・・ いうんですね?」「・・・」 ニルロゼも、セルヴィシュテの瞳を見た。「・・? どうした?」 流石に、その表情に尋常ならぬ様子を察知したニルロゼは、少し瞳が細くなった。「・・・ 俺ら・・・ あの方に、何度も助けていただいたんだ。 だから、ここまで来れたんだ・・・・」 ぽつり、とセルヴィシュテが言った。 ニルロゼが、少し息を呑んで・・・ ビアルと、セルヴィシュテを見比べた。「何度も?」「え、ええ・・・ 薬を塗っていただいたり・・・」「ああ!」 ニルロゼは手をポンと打った。「あいつは、薬師なのさ。 なんだか、色々なところで、人を治している。 俺も治してもらったよ」 ハッハッハ、とニルロゼは笑って、少女の方に戻った。 なんと、少女は机に突っ伏して寝ていた。 そういう事は、いつもの事らしい。 また寝てしまった少女をひょいと担ぎ上げ、また毛布の方へと運んでいく。「で、いつもはこうやって寝てばかりさ」 セルヴィシュテは・・・・ 寝ている少女と、ニルロゼを何度も見比べた。「あの」「なんだ」 ニルロゼは、両手を腰に当てている。「俺・・・ この方を、神様かな、って思っていたんです・・・」「は?はああああ?」 すっとんきょうな声を出されても、セルヴィシュテは真剣である。「だ、だってそうなんです。 いつもいきなり現れて・・・ どこからってこともなく・・・ そう、いつも、でした。 俺らが・・・ そう、俺も・・・ もう、もうどうしようも、どこにもいきようがないって、そういう時・・・ 来てくださって・・・」 セルヴィシュテは思わずつばを飛ばして言葉を続けた。「最初は、ただの綺麗な人だろう程度にしか思ってなかったけど・・・ いつも、俺らを見ていたみたいで・・・ だから・・・」 セルヴィシュテは、意識が遠のくのを感じた。 足がふらつき、前のめりに倒れそうになるところを、ニルロゼが支えに来た。「・・・」 セルヴィシュテは、やや、呼吸を整えながら言った。「・・・か、神様が・・・ こんなところに・・・?」 顔を青くしているセルヴィシュテを見て、ニルロゼもやや、動揺してきた。 神様だと?「でも、黒髪の方は、いつ髪を短くされたんだろう・・・ とても素敵な髪だったのに」 セルヴィシュテは、やっと笑うと、ニルロゼに軽く会釈をし、自力で立った。「髪?」 ニルロゼが、鸚鵡のように聞いた。「ええ。 とっても長くて・・・ それは、綺麗でしたよ。 風が吹いて、お、俺にも少し髪が触れたことが・・・・」 そこまで言うと、ちょっとセルヴィシュテは赤くなった。 ニルロゼは、そんなセルヴィシュテの表情など気が付かず、口を曲げて言った。「・・・・ セルヴィシュテ・・・ それは、もしや・・・ 髪の、長い、綺麗な人か?」 茶色の髪の少年は、ごく短く答えた。「は?」 「ううううううううううううううううううううんんんんんん」 セルヴィシュテは、まだ諦め切れなかった。「ほれ、ほれ、 人間諦めが肝心。 ハッハッハ」 ニルロゼが、剣を構えていた。 このニルロゼが言うには・・・ ニルロゼも、出遭った、というのだ・・・ 長い髪の美しい、不思議な力をつかう方と。 その時確かにビアルは別なところにいたし、よおおおおっく見れば、あの髪の長い人の方が、年が下のような気がするというのだ。 だからして、あの髪の長い人とビアルは別人!だ!というのだった・・・。「大体、短時間で髪は伸びないぜ。 俺が出会った時からビアルの髪はあの長さだ」 ニルロゼが、剣を振っている。「ほら、ほら。 角度が違う」 セルヴィシュテは、なぜかニルロゼに剣技を教えられていた。 ラトセィスが起きるまで、特にすることもなかったので、ニルロゼがいきなり、では、と剣を取り出したのである。「いいか、ここの角度で、こっちにずらすんだ」「こう?」「そうだ」 ニルロゼが、左手をひらひらとさせている。 思いっきり切り込んで来い、というのだ。「では!」 セルヴィシュテの猛烈な剣を、ニルロゼの剣はあっさりと受け流した。「甘い甘い。 もっと深く」 さっきから何度も斬りつけているので、セルヴィシュテの額には汗がにじんでいる。「そりゃっ」 カキーン! セルヴィシュテの剣はまたも、ニルロゼによって跳ね返され、床に叩き付けられた。「うう・・・ 本当に強いですね・・・」「っていうか君が弱いんだよ・・・ 俺は全然本気を出してないんだぜ?」 ニルロゼは自身の剣を斜め上に構えた。「ほれ、この角度に構えて、こっちに下ろしてみ」 茶色の髪のセルヴィシュテは、言われたとおりに剣を構えて振ってみた。「違う違う。 こうだ、こう」 ニルロゼは自分の剣を腰の鞘に納めると、セルヴィシュテの右手を握った。「こうやって、こっちに払う」 ひゅっ、何度もその払いをさせられ、セルヴィシュテは腕がジンジンと痺れて来た。「ほら、そうしたら、別の方に払うんだ」「ええ?逆に?」「そんな泣き事みたいな事を言うなよ。 ほれっ、左脇をもっと絞めて」「こうですか!?」 上段に構えた剣を、まずは右に刺し、すかさず左に持って行く。「左に行く時に目線に気をつけろ。 相手から目を離すな」 ニルロゼはセルヴィシュテの腕から離れると、自身の剣を抜いた。「じゃも一回」 蜂蜜色の瞳をきらきらさせ、ニルロゼは剣を上段に構えた。 ものすごい威圧感である。 セルヴィシュテは、唾を飲み込みながら、彼と同じように剣を構えた。「よし、いい角度だ。 じゃあ振り下ろせ」 ひゅっ、ニルロゼが剣を下ろすと、すばらしい音が鳴る。 セルヴィシュテはぎこちなく、彼に教わったように剣を回した。「まだしゃちほこばっているんじゃないか? どれどれ・・・」 ニルロゼは、ひゅん、と、美しく剣を回し、あざやかに仕舞う。 そして再びセルヴィシュテの手を握って来るのであった。「これが、素早くできるようになると、実戦はかなり楽だぜ」 結局、ラトセィスが起きた頃には、手に豆ができて、それが潰れてしまったセルヴィシュテである。 ニルロゼに、なかなか見込みがいい、と、笑われた。 こうして、彼らは西を目指すこととなった。「王国があれば・・・ 俺らの事とか、判るかも・・・」 セルヴィシュテは、まだ見ぬ地に思いを馳せ、ニルロゼに見送られて歩き出した。 ラトセィスは、やや遠くを見つめているようである。「ラマダノン王国があるんだってさ。 名前知っている?」」 ラトセィスは、セルヴィシュテを見ずに、頷いた。「・・・」 なんだか、ラトスは、不機嫌だなあ、と思うセルヴィシュテである。 今日はとても晴れていい天気だし、明らかに王国があるという場所にこれから行くというのに、なにが不満なんだろう・・・ ・・・ そういえば・・・ 俺の、おかあさんの国の名前は・・・ なんていうんだろう・・・ ふと、抜けるような空を見上げると・・・ 灰色の羽の小さな鳥が二羽、連れ立って西へ飛んで行っていた。 これから西へいこうという自分達を暗示しているようで、セルヴィシュテは暫し鳥を目で追った。 そして、その茶色の髪が揺れているのを、ラトセィスが静かに眺めた。 いま・・・ いま、いるところも、王国ですよ・・・ そう、言いたかったが、言わなかった。 ナイーザッツ王国。 ここは・・・・ ここは・・・・・・・ ラトセィスは、唇を結んだ。 軽く、右の鎖骨の下に手を添えた・・・ リュベナ・・・ ***にほんブログ村 参加ランキングです
January 20, 2014
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いきなりやってきた二人の旅人、セルヴィシュテとラトセィス。 疲れて寝てしまったラトセィスを気遣いながらも、食べ終わった食器を片付け、セルヴィシュテは興味ありげに入り口の真向かいにある扉に置かれた野菜を指差した。「一杯ありますね。 さっき、お二人暮しだと聞きました。 あれは、売るんですか?」「ん?」 ニルロゼは、微笑みながら、茶色の髪の少年の表情をゆっくりと見た。「ああ、俺に敬語はいいぜ、別に。 年も俺とそんなに変わりなさそうだな。 あれは、貰っちゃうんだな、だから、売り物じゃないんだ。 食べるのが大変だよ」 ニルロゼは、釜に木を足した。「今日は、寒くなりそうだ・・・ 焚いたまま、寝るかい」「・・・」 セルヴィシュテはまた、背の高い少年ニルロゼの目線を何度か受け、ある意味の戸惑いを感じていた。 この少年は、自分をどうしてこんなに見るんだろう。「あの」「なんだ」 セルヴィシュテは、思い切って核心に触れた。「ええと、あなたは、どうやら、人を見ると、色々なことを察する事ができるんじゃない? 例えば、俺の剣の腕とか」 切り出され、ニルロゼは、ちょっと首を捻った。「あ?いや? そういうつもりはなかったが・・・」 ニルロゼは、食卓に右手を置いて、ちょっと笑った。「珍しいなと思っていたのさ・・・ 旅をしているんだろう? 君の剣の腕は、君が想像したとおり。 俺は、大体は、察しがついている。 とっくの前からね。」 ニルロゼは、椅子に座った。「君の剣の腕なら、長旅をする間に、もっと強い奴に出遭って、とっくに死んでいただろう。 でも、こうして旅を続けている。 だから、不思議だなと思っていた」「そうですかね」 セルヴィシュテは、挑むような目つきで、机を挟み、ニルロゼの向かい側に立った。「確かに危険なこともあったけど・・ まあ、運がよかったんですよ、俺達は」 しばし・・・ 焚き木の音が、した。「じゃあ、すごい強運だろうね」 ニルロゼは、ふふ、と笑った。「ルヘルンの街に入られなくなったと言ったな。 まあ、あそこも色々あるからな。 もう少し西に行けば、ラマダノン王国があるから、そっちに大きな街があるかもしれん」「王国?」 茶色の瞳の少年が、身を乗り出した。「あ、ああ。 なんだよ、王国なんて、興味あるのかい」 ニルロゼが、やや驚いてちょっと言葉を詰まらせる。「あ、いえ・・」 セルヴィシュテは、ちょっと息を整えた。 あまり、深く詮索されては困るのだ。 二人は、しばし、黙っていた。 セルヴィシュテは、久しぶりに緊張していた。 今までは、それほど、突っ込んでこられなかったのだ・・・ なんだか、この背の高い少年に、色々見透かされているようで、やや、冷や汗をかいていた。「セルヴィ・・」 その時、ラトセィスが苦しそうに呟いたので、セルヴィシュテは、ちょっと慌てながらラトセィスの方へと駆け寄った。 ニルロゼは、座ったまま、考え込んでいた。 いくら、運がいいとはいえ・・・ まだ、ハーギーが少しウロウロしているし 盗賊もいるし 最近わかったことだが、黒い輩もいるし 奴らは、少年といえども、容赦などはしない。 ほんの僅かな金であっても。 ほんの僅かな食料でも。 奪ったり、面白半分で命さえも奪っていく。 この地で、か細い少年二人が、これほどボロボロになりながら、いったいなにを目的に旅を・・・「どうやら、悪い夢でもみていたようです」 セルヴィシュテは、軽く笑いながら、ニルロゼの方を見た・・・ と! ガシッツ! 一瞬の火花が散った! カツーンという音と共に、セルヴィシュテの剣は、向こうの扉の方へと弾き飛んでいった。 セルヴィシュテは、右手がビリビリとしていた。 呼吸をする間もなかった。 まったく、相手の動きが見えなかった。 ニルロゼが、やや短い剣を構えていた。 ニルロゼが、無表情に・・・剣を、構え。 足を、進めてくる。「・・・」 ほんの少しの殺気に、剣を出したはいいが、あっと言う間にそれを飛ばされ・・・ なす術もなく、セルヴィシュテの足は、後ろへと、下がってしまう。「さて」 ニルロゼは、ゆっくりと笑った。「こういう事も、何度かあったはずだ。 そういう時、どうしていた」 セルヴィシュテは、わなわなと震えた。 そういう時は・・・「あなたには・・・ 俺を殺す理由がない。 なぜなら、俺は海の向こうエルダーヤ大陸から来た・・・ ここの大陸の理屈は、俺には通らないんだ」 きりっと瞳を輝かせると、背の高い少年を睨んだ。 少し、剣が・・・ セルヴィシュテに近づいてくる。「ふん・・」 ニルロゼは、鼻で笑った。「それだけかい、理由って」 ひゅう! 剣を宙に放り投げ、2度回転させると、パシッと受け取った。「色々な奴を見てきたけど、あんたはなかなか面白い。 なるほど・・・海の向こうから来たのか」 ニルロゼは、のそのそと向こうの扉の方へ歩いて行って、セルヴィシュテの剣を拾った。「ずいぶん、長旅だな、セルヴィシュテ。 それを、この剣だけで、乗り切ったか。 たいしたもんだよ」 ニヤリと片目を瞑って、剣を渡してきた。「まあ、そんなに緊張するなよ。 驚かせてすまかなったな。 なかなか、感じたことがない雰囲気だったからな。 最近嫌な事が多くて、俺も猜疑心が絶えない。 色々深読みしたくなっちまったようだ」 人懐こい顔をして、セルヴィシュテに椅子を勧めた。「か、感じたことがない・・?」 まだドキマキしながら、セルヴィシュテは自分の剣を握った。 その手はまだ震えている。「ああ、そうだ。 君がこの大陸の人じゃない、というなら、それを信じよう。 こっちには、色々いやーーなのが、多くてな。 おっと、君の大陸の方にもいるかどうかはわからないが」 ニルロゼは、言いながら、奥の戸棚からなにかを取り出してきた。「大体、君が馬を見ているのがいけないのさ。 あの馬は大事な馬なんだから」 ニルロゼは、笑いながら、戸棚から出してきたものを差し出した。「これは、もらい物だが、なかなかうまい菓子だ。 俺も、いつかは、料理の幅を広げて、菓子も作りたいものだ」 ニルロゼは菓子をボリボリと食べ始めた。 セルヴィシュテは、恐る恐る言った。「あ、あの・・・ 大事な馬なら、馬舎をお作りになったら? ああやって、軒もないところに繋いでいれば、誰でも見ますよ・・・」「ん?」 ニルロゼは、これまたにこやかに答えた。「そうだね。 なんたって、リュベルちゃんは、昨日やって来たばかり・・・ 明日あたりから、馬舎を作るかなあ・・・」「・・・?」 セルヴィシュテは、ちょっと頭を捻った。 いきなり、リュベルちゃん、なんて名前が飛び出てきたが・・・ 馬舎の話が続いていたので、どうやら、馬のことらしい、と思った。 ようやく、剣を仕舞うと、セルヴィシュテも、菓子に口をつけてみた。 今まで全く味わったことのない、素晴らしい味である。「俺の大陸のお菓子とは全然違う」 素直な感想を述べるセルヴィシュテに、ニルロゼは笑った。「はは、こっちのお菓子は始めてかい」「ええ・・・」 ようやく、セルヴィシュテも笑った。 翌朝。 なかなか起きないラトセィスに、セルヴィシュテは悩まされていた。 こうして明るくなってみると、本当にこの家は小さかった。 今まで二人が暮らしていたのが不思議なくらいだ。 食卓が家の半分位を占めているかもしれない。 ニルロゼは、裏庭でなにかをしているようである。 そういえば・・・ 二人で暮らしている、とニルロゼが言っていたが・・・ そのもう一人は、どこに居るのだろう。 昨日は、別なところに出かけていたのであろうか。 背の高い少年は、裏庭から戻ってきて、釜の様子を見ていた。 セルヴィシュテは、雑巾で床を磨いていた。 まだ、ラトセィスは起きない。「ほんとうに、お狭いところ、色々すみません。 まったく、なかなか起きなくて・・・」 そこまで言って顔を上げたセルヴィシュテの茶色の瞳に・・・・ 驚愕の光景が繰り広げられた。 微動だにしなかった向こうの毛布が、もぞりと動いて そこから、黒い服の腕が、にゅっと出た。 そして、腕が、面倒くさそうに、毛布をかきわける・・・・ 毛布から、黒い外套を羽織ったままの 人物が、出てきた。 「・・・・」 あまりのことに、セルヴィシュテは、息をするのも忘れていた。 茶色の少年が、完璧に固まっているのを見て、ニルロゼは、フーン、と、深く息をついた。「もしもーし?大丈夫?」 セルヴィシュテの肩をつついてやる。 ニルロゼの予想は、大体こんな感じであった。 見たこともない美しい人物を目の当たりにして、硬直しているのであろう、と。 そして、そのニルロゼの予想は、半分当たっていた。”見たことのある”美しい人物を、目の当たりにしていたのだ、セルヴィシュテは。「あ、あ、あなたは・・・・・」 セルヴィシュテは、思わず右手の人差し指で、毛布の中の美しい人物を指差した!「く、黒髪の方っ!?!?」 愕然としている少年のことなど目に入っていないのか・・・ いや、入っていないであろう。 美しい人物は、まだ、目を閉じていた。「んーーーー」 そう言いながら、ふらふらと毛布をどかす。「ほら、ビアルちゃん・・・ しっかり起きろっつうの」 ニルロゼが、美しい人物に寄り添って、抱き起こした。「・・・・」 セルヴィシュテが、目をまん丸にして、その光景を見続けていた。 あの、傍に寄ることを躊躇させる、そのような雰囲気を醸し出していた、黒髪の少女・・・ 何度となく、ふしぎな薬と魔法のような力で、自分達を救ってきた少女が・・・「はい、ここに座ってね~。 いま、あったかいのでも、持って来るよ~」 昨日、恐ろしいまでの剣術を見せ付けた背の高い少年に、甲斐甲斐しくその身の回りの世話をされていた。「・・・・」 まだ、驚き覚めやらぬセルヴィシュテは、必死に、なにか、言葉を探した。 そう、あの”少女”に、聞かなくてはならないことが沢山・・・・「あ、あの、黒髪の方・・・」 必死に”少女”に語りかけたが、”少女”は、無表情である。 その少女の前に、茶が置かれた。「どうぞー」 ニルロゼが語りかけると、”少女”は、無表情のまま、茶を手に取る。「ああ、ビアルは、まだ寝ているぜ。 こいつに今なに言っても馬の耳にナントカ。 起きるのにはもう少し時間がかかる」 ニルロゼが、笑いながら、釜の傍でなにかを作っていた。 ビアル? この少女の名前・・? だんだん、セルビシュテの鼓動が正常なものになってきた。 窓からの明るい光に照らされ・・・ 少女は、あいかわらず、美しかった。 が・・・・「髪・・・」 セルヴィシュテが、ぽつりと呟いた。 長くて、美しい髪が・・・ 今、目の前の少女は、あの髪が・・・ 首元で切ってあった。
January 16, 2014
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「はあ」 その日は、雨が強く、冷たく、降っていた。 しかも、夜に近かった。 木の下に入っていても、雫が降り注ぎ・・・ 街の人の家に泊めてもらおうにも、ルヘルンの街からは、数日前出てきたばかりだ。 細い道が1つ。 ざあざあと雨が降る中、少年二人が、とぼとぼと歩いていた。「街を出ると、殆ど家ってないんだなあ・・・」 溜息まじりにぽつりと言ったのは、茶色の髪の少年、セルヴィシュテ。 楽天家の彼は、いきあたりばったりの旅を展開していた。 当初、母がいるかもしれないと思っていたこの地。 その思いが砕かれ、そしてそれが諦めを通り越したとき、少年にはまた別の、旅の目的ができた。 それは、それでもやっぱり不思議な布の成り立ち、 そして・・・ この布より、もっと不思議な、相方のラトセィスの事だった。 セルヴィシュテは、今回は、なぜか少し焦っていた。 なんとなくだが・・・ ラトセィスは、あまり、水が、苦手かもしれない、と、思っていた。 このあいだ、川に入った時の、あの表情。 切なくて、苦しそうだった。 今も、また・・・ 青ざめて、震えている・・・ 炎の魔法使いだから、水が苦手? いや、そういう次元の問題とは思えない感じがした。 道なりに進んでいくと、どんどん森が近くなる。 また、森に入ってしまえば、・・・ ”ああいう犬”がいたりして・・・ それも、嫌だし・・・ などと思っていたセルヴィシュテの瞳に、神が導いたかのように、小さな明かりが灯っているのが見えた!「おい、ラトス!誰かの家があるぞ! こりゃ、よかった!泊めてもらおう!」 明るい笑顔で笑うと、半分走り始める。 この少年に、泊まることを断られるなどという状況など、まったく入っていないのだ!「あ」 少年が、家の前に着くと、その家の脇に、馬が繋がれていた。 セルヴィシュテは、注意深く、馬に触れてみた。 馬は、ブルル、と啼いた。「おい、ラトス。 この馬、結構いい馬だぜ・・・ この家の人、どういう人だろう・・・」 少年セルヴィシュテは、ちょっと表情に緊張感を走らせた。 なにせ、父親が、城勤めだったのだ。 馬のよしあしは、ある程度わかっていた。 毛並みがたいへんいいし、よく調教されていて、筋肉のつきの均衡もいい。 ああいう馬を持つ人が、こんなおんぼろの家に? セルヴィシュテは、躊躇しつつも、扉を叩いた。「はあーい」 間髪いれず、すちゃ!と扉が開いた!「あら」 扉を開けたのは、背の高い少年だった。 とにかく、セルヴィシュテに、更にラトセィスの頭を足したよりは、身長があるだろう。「これは、驚いた。 さっき、馬をみていたね」 背の高い少年は、ジロジロとセルヴィシュテを見やった。「ど、どうして見ていたって判るんです」 セルヴィシュテも、視線だけは負けないように、睨みをきかせ、背の高い少年をみつめた。 相手はかなり、筋肉があるようだ。「ふふ。 まあ、俺の目は千里眼ってところよ。 馬を盗みに来た輩かなと思っていたのさ。 だから、どうやら違うようで、驚いた。 さあ、どうした? こんな夜に。しかも雨だ。 寒いんだろ? 俺の家ではないが、まあ上がれ」 背の高い少年は、鼻歌を歌いながら、奥に招き入れてくれた。「あ、ありがとうございます。 俺の名前はセルヴィシュテです。 こっちは、ラトセィス・・」 背の高い少年は、釜に火をつけ始めた。「俺は、ニルロゼ。 その様子だと、どうせ飯もまだだろう? なんか作るぜ」 ラトセィスが、疲れたように、壁際に座り込んだ。「おい、ラトス。 なにか、ご馳走をいただけるって。 食べてから休みなよ」「・・・」 なんとなく頷いたように見えた。 セルヴィシュテは、小さい室内をゆっくり見回した。 入り口からど真ん中に机。 右側に釜。 入り口の奥に、野菜と、扉。 左側に、なんか、毛布。 その、なんか、毛布があると思われるあたりが、もぞり、と動いた。 セルヴィシュテは、ちょっと驚いたが、目の錯覚かな、などと思いながら、ニルロゼと名乗った少年の近くに寄った。「すみません。 助かりました。 俺もなにかできることがありますか」「ん?」 振り返りながら、ニルロゼの手元で、ひゅひゅっと包丁がひらめいた!「わ!わああ」「あ、驚きすぎだよ! ははは。 こんなの、朝飯前だ。」 ニルロゼは、そういいながら、再度包丁を、一旦手からすっかり宙に浮かせ、4回転もさせて、まるで魔法のように手元に収めている。 そしてさっと野菜を切って、鉄鍋で炒め始めた。「上手ですね~」 セルヴィシュテが感嘆の声を出すまでもなく、あっというまに2、3種類の料理をニルロゼは作り上げてしまった。 セルヴィシュテはそれを皿に盛って、机に運んでいく。 そして、壁際のラトセィスを揺すった。「おい、ラトス、ラトス・・・全く、またラトスの病気だ」「病気?」 ニルロゼが、笑いながら、セルヴィシュテ達の方へと歩いてくる。「ええ。 こいつ、疲れると、いつまでも寝てしまうんですよ」 それを聞いたニルロゼは、ちょっと頭に手をやった。「ほほー? なんか、誰かに似ているなあ、それ・・・」 背の高い少年のその視線は、ちらり、と・・・ 毛布の方に、行った。 「あっちはラトセィス?だっけ? まあ、疲れているなら、泊まっていくといい。 だがこの家も狭くてなあ。 もともとは、一人だけ住んでいたんだ。 そこに、俺が転がり込んで、いま密度は2倍だ」 ニルロゼは、蜂蜜色の瞳を笑わせた。「すみません。長居はしませんから。 でも、どうしようかなあ・・・ なんか、ルヘルンには、もう入れそうにないんですよ。 ほかに、街はないですかね?」 セルヴシュテは、背負っていた荷物を降ろすと、くくりつけていた毛布をラトセィスにかけてやった。「ルヘルン? 君達、ルヘルンにも行ったのか」 ニルロゼが、ちょっと興味ありげな顔つきになった。「まあ、飯が冷める。 先に食べなよ」 背の高い少年は、セルヴィシュテを食卓の椅子に座らせた。 もう一組の食べ物には、皿で上手に蓋をしている。「こうしておくと、明日も食べられるってやつよ。 別の料理に混ぜたりな」 ニルロゼは、茶色の髪をしていて・・・同じく茶色の瞳をし・・・そして、ボロボロの茶色の服を着たセルヴィシュテを、まじまじと見た。「あ、あの、なんでしょう」 セルヴィシュテは、ちょっとその視線に赤面しながら、ニルロゼを見返す。「ああ、あまり気にするな。 俺は人間観察が好きなんだ。 まあ、遠慮しないで食ってくれ」「は、はあ・・・それでは、遠慮なく」 セルヴィシュテは、我慢できずに、匙を取ると、いただきまーすと言って、食べ始めた。「しかし、君。 いつも、こうやって、誰かの処に転がり込んで、夜露を防いできたのかい」 ニルロゼが、やや意地悪い笑いで、食べているセルヴィシュテに聞いてくる。「ええ。そうです。 最初の頃は、洞窟とか、あったのですが、こっちは、あまりそういう場所がなくて。」「ふうん」 ニルロゼは、お気楽な奴だぜ、という言葉を、半分飲み込んだ。 ただ、お気楽だ、というだけでは・・・ この地を旅するのは、並みではない。 目の前の少年は、どの程度旅をしていたのかは知らないが・・・ あの荷物の様子や、服の様子からして、かなり旅をしているのだろう。 それだけの長い旅を、今まで・・・ 乗り切ってきている。 ニルロゼは、段々、セルヴィシュテに興味を持ち始めて来たのであった。***にほんブログ村 参加ランキングです
January 13, 2014
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赤い絨毯の引かれた廊下は長く、壁は白い石でできていて、太い柱にはところどころに金の燭台、鳥の彫刻が施されている。 天井には豪勢にも美しい女性像などの絵が描かれている。 壁はところどころに配置された、色硝子が嵌められた丸い窓が、きらびやかである。 その窓からの光が彩る広い廊下を、黒い衣装の人物が音もなく歩いていた。 音がしないのは、音を殺しているのではなく、絨毯が厚いから靴音がしないだけである。 黒い靴は、硬い木の皮をなめした物を編み上げて作ってある。 ごく一般的な、庶民の履く靴だ。庶民は皆、自分で編んで作る。 この人物の靴はずいぶんボロボロで、細くした木の皮がはみ出ている部分がある。 足を覆うフォルセッツも、ごく一般的に流通しているヤカオ地方の物だが・・・ これも、黒色だが、かなり履いているらしく、灰色に退色している部分もある。 ばさり、と黒い外套を羽織っている。 これも、黒・・・だが、まさに着たきり雀なのだろう、こちらもシワシワで、ヨレヨレだ。 その内側に、灰色の薄い服を着込んでいる。 この美しい廊下は、ナイーザッツ国王の城内である。 王の城に、このようなくたびれた格好の者がたった一人・・・ 目的もなさそうに、静かに足を進めていた。 ヨレヨレの黒い服の人物が角を曲がると、警備の者が立っていた。 甲冑を着込み、帯剣している。 大柄のその男は、黒い服のその人物を見ると、素早く頭を下げた。 黒い服の人は、白い顔を静かに傾けた。 黒い瞳。柔らかな口元。 この者は、王の娘・・・すなわち、リュベナ姫のお抱え占い師、ビアル、である。 ビアルは、姫の部屋を出た後、一人で城の中を歩っていた。 この少年は、城の中をどのように歩いても、警護の者に咎められる事はない。 城の内部はかなり知り尽くしていた。 この城はなかなか面白い造りをしている。 城の二階部分に、城勤めする者を居住させる部屋を備えていた。 いや、勿論のこと、色々な城があるが、殆どの城の国王は、城勤めの者を、城の外に別棟を建て、そこに住まわせるであろう。 ところが、「一般的な」城勤めであっても、城内に住ませている城は、近隣では珍しい。 ”普通の”王であったら、かなりの腹臣でない限り、城の中に住まわせないであろう。 一階、地上部は、庭園が殆どである。 そう、つまり、この城は二階からが始まりと言っても過言ではなかった。 二階に上る階段が地上の多数を占めている。 二階は、謁見の間。 厨房。 城勤めの者の部屋。 奥に、姫の部屋。 三階が、王の部屋となっている。 かなり広い城で、流石のビアルも隅から隅まで知り尽くしていない。 ビアルは、先ほどまで、城内に住む城勤めの者の部屋を回り、生活はどうかとか、変わったことはないかとか、世間話をしていた。 殆どの部屋を回りつくし、かなりの人々と話をした。 そろそろ、日が傾いていた。 透明の窓越しに、橙色に染められたルヘルンの街を・・・ 黒い瞳でビアルは見つめていた。 ニルロゼはいつまで姫と話し込んでいるのであろう。 話が終わるまでと思って、城勤めの者の部屋を回っていたが、とうとう全員回ってしまい。 ぶらぶらと、あてもなく歩いていた訳であった。 さらさらとした黒い髪が、光を反射すると、少し紫に見える。 彫りはそれほど深くはないが、眉のあたりに憂いを帯びた感じが見える。 緩やかな丸みを描いたその瞳は、知性と潤いに満ちている。 しかし、どことなく、寂寥の雰囲気を・・・これまた、醸し出していた。 ビアルの顔立ちは、大変に整っているわけではない。 が、その醸し出されている雰囲気に彩られ・・・ 時に、角度によって? 表情によって? 驚くほど美しく見える。 ルヘルンの街から瞳を逸らしたビアルは、もと来た道を戻ろうと足を運んだ。 足に何か触れたのを感じ、足元を止める。 そこに、黄金でできたなにかが転がっている。 白い手でそれを拾い上げると、この城の象徴の鳥の形だ。 この廊下のどこかの装飾が取れたのだろう・・・ ビアルは、あちこちに視線を送ったり、壁伝いに、それが欠けた部分がないか一生懸命探した。 北側の廊下の壁沿いの手すり、窓の格子、欄干、扉の取っ手などをかなり見たが、どこにもそれらしい場所が見当たらない。 天井から落ちたのですかねえ・・・ 少し天井を見上げたが、天井から落ちたものであれば、どこから落ちたかなど見つけられるわけもない。 ビアルは、この欠片を、王に持って行こうと思った。 その時、触れていた手すりに、微妙な感覚を感じた。「?」 手すりを何度か摩ってみる。 よく見ると、その同じ部分の壁も、模様が一直線に途切れている。 隠し扉・・・? ビアルは、目を細めた。 もし、隠し扉であれば・・・ 進入すればビアルであろうと王は許さないであろう、と直感した。 ビアルは直ちにその壁に背を向けた。 だが、弾みで扉が内側に開く。 これはいけない、と、手すりを掴んで戻そうとしたが、どんどん内側に開いていく。 ビアルは、手すりを掴んだまま、室内を見る羽目になった。 室内は、どのぐらいの広さか判らなかった。 窓がないのか、暗がりである。 が、中に大量の人々が入っている雰囲気を感じ取った。「・・・・」 ごくり、と、流石のビアルも唾を飲み込んだ。 踏み入れてはならない場所を、見てしまっているのか? そのビアルの瞳に・・・ 数人、男の姿が捉えられた。 皆、城の警護のものとはやや違った格好をしていた。 ニヤニヤとした雰囲気が、明らかに漂っている。 彼らは趣味の悪い派手な装飾を施した甲冑、沢山の指輪を嵌めていた。 その指輪が嵌められた手には、使い込まれた剣がそれぞれ握られている。「ケケケケ・・・」 笑う男たちは、どのような者だろう。 しかし、ガラの悪い雰囲気が満々である。 ビアルは、手すりを掴んだままである。「おい、見ろ・・・ こりゃあ、すげえ・・・・」 男たちは、腰に袋を数個下げていた。「これほどの綺麗な子は見たことがねえなあ? こりゃすげえ」 ケケケ、と何人もが、ニヤニヤしながら笑った。 体格のいい、そして顔つきもふてぶてしい男が、ビアルに近づいて来た。「へええ・・・。 ねえちゃん・・・ こんなところに一人でいると・・・」「いると?」 男たちは、ハッと、驚いた。 急に、どこからともなく声が響いた。 若々しい男の声だ。 ビアルは、後ろから逞しい腕が自分の体に回されるのを感じた。 その逞しい腕の持ち主の、残ったもう一方の手が、ビアルの頭に優しく触れた。 ビアルを後ろから抱きしめながら、その美しい顔の頭の上で、ニヤリと笑う少年がいた。「すっげえ、美人さんだってえのは、俺も、認める。 けれど」 ビアルの頭の上で笑う少年は、蜂蜜色の瞳を煌かせて言った。「俺の大事なビアルちゃんに手を出して貰っちゃ、困るぜ?」 ビアルをひょい、と後ろに下がらせ、蜂蜜色の瞳の少年は、右手を剣の柄に触れさせた。「ニルロゼ。 ここは、いいです」 ビアルが、その少年の右手に触れ、軽く顔を振った。「早く扉を閉めましょう」 ビアルの視線を受け、ニルロゼ、と呼ばれた少年は、足を後退させた。 ビアルは、腕に力を込めて手すりを引き寄せる。 男達は、ケケケ、と哄笑をあげた! ニルロゼは、眉毛を吊り上げながらも、手すりを掴んで、ビアルと一緒に引き寄せた。 扉は・・・ 音もなく、閉まった。 中から、男達が出てくる気配は、なかった・・・・「なんだよ、ありゃ」 ニルロゼは、額を叩きながらうめいた。 ビアルが止めなければ、あの場に入って男達を斬り落としただろう。 だが、ここは城である。 もしかしたら、城に仕えている者達かもしれないのだ。 城勤めをするビアルや、国王や、姫のためにも、城の中で人を殺すのは、あまり芳しくない。 ビアルの判断は賢明なのだった。 だとはいえ、あいつらは、やろうと思えばこちらに出てくることも可能なのだ。 なぜ、閉められたら、出ては来なかったのだろう。「ニルロゼ、あんまり悩まないで下さい。 疲れたようですね。 今日はもう帰りましょう。 あなたが来たということは、もう姫ともお話が終わったのでしょう?」「ああ、そうだよ・・・」「では、参りますか・・・・」 ビアルは静々と歩いていた。 先ほど、ビアルをみつけたはいいが・・・ ニルロゼは、腑に落ちなかった。 なにかが、おかしい。 必要がない、入り込んだ創り・・・ わけがわからない者達の部屋。 沢山居る警護・・・ この城には、なにかあるのだろうか・・・・ ニルロゼは、ビアルと一緒に城から出ると、姫がくれると言った馬に乗り、岐路へと向かった。 リュベナに見せて貰った本は・・・ ビアルも読んだ事がある、とリュベナは言っていた。 神々の話の本。 なぜ、リュベナはあの本を見せてくれた? ああ、そうとも・・・ 俺が、結婚のこととか、聞いたから・・・ 愛の神について書いた本をみせてくれる、と。 たしかに、そうだった。 ニルロゼは、バサバサの髪の姫の姿を思い出していた。 あの姫・・・ 触れると、ビアルに似ている。 そして、赤の雰囲気・・・ 赤に、取り付かれている姫。 今日の姫は、赤が混じっていたのか? 夜・・・ 食事も作らず、ビアルの小さな家の室内をウロウロするニルロゼに、ビアルが瓶を差し出した。「料理長からです」「!?」 その言葉に、ニルロゼが戸惑う。「本当は、私達には、まだ早いのでしょうけれど、ちょっとヤッてみろとおっしゃっていました」 ニルロゼは、赤黒い液体が入った中ぐらいの瓶とビアルを見比べた。「これ、酒?」「だそうです」 ニルロゼは、眉をしかめ、瓶の蓋を開けた。 たちどころに、芳しい香りが彼の鼻を襲い、思わずニルロゼは軽くのけぞった。「な、なんかいい匂いだな・・・」 ニルロゼは、片目を瞑って、瓶を覗き込んだ。「あなたからどうぞ」 ビアルが優しく言っている。 少年ニルロゼは、もう一度、瓶とビアルとを見比べ、そっと瓶に口をつけ、少しだけその液体を含んだ。 口の中で、パッと果実の香りが広がり、やがて緩やかに香りが変化して花のような芳香にさえ感じる。 舌はややピリっとし、熱い甘さ、苦さが混じった不思議な感覚が、鼻に抜け、とろけるような感じだった。 ニルロゼは、思わず口元を拭うと、その手で鼻を擦り、そして目頭を押さえた。「ちょ、ちょっと目に差す・・・・」 ビアルは、なんだか、笑っているようだった。「ビアル、ほら」 ニルロゼはビアルに瓶を手渡した。 ビアルも、軽く口に含んだ。 そして再びニルロゼに寄越してくる。 ニルロゼは、また、確かめるように、瓶の中を見た。 今度は、先ほどよりも多めに口に入れてみた。 舌から広がり、喉に伝わり、鼻に伝わり・・・ 胃に届くと、血液が熱くなって、その甘い香りは全身を廻るかのようだ。「ビアル。 そろそろ、赤だな」 ニルロゼは、赤黒い液体を、瓶越しにみつめて言った。「俺は・・・ いつでも、いいぜ・・・ 扉が開かれれば、中へ入る。 ビアル。 開いてくれ・・・」 その瓶の更に向こうに立っている美しい少年ビアルは・・・ 黒い瞳を、キラキラとさせていた。 みつけるか? みつかるか? ・・・・・・・ みつけるとも!
January 11, 2014
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水色の絨毯や、白い石でできた床と壁。 広い室内の美しい石机はよく磨かれており、机の前に座った少年ニルロゼの顔が映るほどである。 石の本来の色、やや肌色がかったその色に映し出された自分の顔の上に、両手を乗せて、ニルロゼは金髪の姫の背を見つめていた。 今日は、なんとなく、”赤”っぽく感じたのは・・・ 髪を結んでいないからかな? そんな事を考えてみた。 あの、赤い衣装を着ていた時も、姫は髪を解いて振り乱していた・・・・ そのニルロゼの視線を感じ取ったように、姫が振り返りながら言った。「あなたの探し物は、みつかりました?」 姫は、白くて、側面に鳥の形を施してある茶碗を差し出してきた。「・・・」 ニルロゼは、ちょっと、押し花に視線を落とす。「たぶん、ね・・・」 少し、ため息混じりにニルロゼは呟いた。「この花・・ この間リュベナの着ていた服の、花だよね」 人差し指で、押し花の収まった木に少し触れてみた。 リュベナは茶碗を手にとって口元に運びながら微笑んだ。「あら。 よく判るわね・・・ これは、ラッサー・・・ 輝きの花、よ。」「今着ている服の花は?」「・・・」 リュベナは答えず俯いた。 すこし、二人は話すことがなく・・・ ちょっとお互いを見やったり、茶を飲んだりした。「ねえ、姫。 あの・・・ よかったら、教えて欲しいことがある。」 ニルロゼは、蜂蜜色の瞳をやや上目使いにし、姫にちらりと視線を送った。「どうしたのです?」 姫は、目を逸らしている。「結婚。 君は、たしか、結婚するって言っていたね。 結婚するってさ、どういうことかなと・・」「まあ・・」 リュベナが、口に手を当てた。 姫、リュベナは、出て行ってしまったビアルが少し心憎かった。 ニルロゼと二人で話すなんて・・・ なにを話せばいいのであろう。 先日、このニルロゼに抱きしめられ・・・ 今までにない感覚を感じ取った。 人の心の声が見えるリュベナ。 どれほど距離が離れていても、”その人”が”多くの人に聞いてくれ!”といわんばかりの声であると、聞こえてしまうのだ。 かといって、聞こうとしても聞こえないこともある。 この能力に悩まされ、以前は常に閉じこもりがちであった。 沢山の読書は、大きな外の世界を垣間見る楽しさであった。 幼少の時に出遭った、”美しい方”のおかげで、知性を磨くことを念頭に置いた姫は、その後外交もできるだけし、その目で本の世界の”現実”を体験もした。 目の前の少年は、先日、想う人に逢いたいと切に願っていた・・・ 人が、人を愛し・・・ 愛する人を見つめたい、 近くに行きたい、 話したい、 触れたい・・・ そのような気持ちは、”沢山の人”が抱いている感情で、更に生々しい欲の感情までもが、姫に”聞こえて”さえもくる。 今、目の前のニルロゼが、結婚とはなにか、と聞いていた・・・ 姫は、横を向きながら言った。「愛する人と、生涯を一緒に暮らす・・・」 と、ニルロゼが、姫の指に軽く触れた。「リュベナ。 なんだか今日は怒っているのかい? どうしたんだ・・・ なにかあった?」 姫は、頬が赤くなって来た。 手が僅かに震えてくる。 ニルロゼの指は、軽く、トントンと姫の指を叩いた。「君の指は”優しい”指だね。 いい指だ・・・」 ふう、と長い溜息をついて、ニルロゼは姫から指を離し、頬杖をついた。「いとしい・・・ 人、か・・・」 ニルロゼも、視線を逸らした。 天井が見える。 白い花と、白い鳥・・ それらの彫刻が見事に配置されている。 「結婚、するんだってさ」 ぽん、と投げるように言うと、視線を姫に戻した。「俺。 逢ってきたよ・・・ あいつの事が心配だったんだ。 またひどい扱いを受けたりしていないかってね。 でも、大丈夫みたいだよ。 結婚するってさ」 ニルロゼの喋っている、今の話は・・・ まったく、説明が足りてはいない。 が、姫には、段々、ニルロゼの心が・・・ 見えてきてしまった。 そうである。 相手が、なんの気なしに、心を開いたり、逆に閉じたり、そういった相手の気持ちの揺れで、姫にその気持ちが流れて来るのだ・・・ ニルロゼが、想っている人が、結婚する・・・。 波のように寄せて返す光景が、姫に伝わってきた。 女性の姿や・・・男性の顔・・・ 逢いたい・・・・ 抱きしめたい・・・ 逢ってはならない? 逢いたい どうしてだろう? 結婚ってなんだろう ニルロゼ・・・ 女性が、真っ直ぐに、ニルロゼを見つめている・・・ なんどでも言うわ あたし、あなたが好きなのよ「ニルロゼ・・・ その方、あなたに、なにか大事な事を言わなかった・・・」 姫は必死に頭を振って言った。「・・・?」 姫は、両手で顔を覆い、小声で言った。「ずっと、ずっと前によ・・ 思い出して・・・」「・・・・・」 ニルロゼは、哀しんでいるような姫の様子に戸惑いながらも、懸命に過去を探って行った。 少年は、眉間に皺を寄せ、瞳を左右に動かしながら、懸命に思い出していた。「俺が好きだって・・」 繋げて、考えていく。「俺が好きだから、逢いに・・・・!?」 急に、姫に、怒涛の光景が再びなだれ込んだ!「そうだ! 魂だ! 好きな人のためなら魂を! ああ・・・ 思い出した・・・ 大事な人だ・・・・ 求める人だ・・・・ 親を求めるけど、親が先に・・・いなくなる、だから・・・ 今度は自分が親に・・・ それが結婚だって・・・・」 ニルロゼは、机から乗り出して、姫に近づいたが、まだ姫は顔を覆っている。「リュベナ・・・ ああ、俺は・・・ 俺はあのとき・・・ どうして気が付かなかったんだろうね・・・・ 俺は、俺の求める人は、あの時他にいた・・・・ ナーダは、俺を求めていたのか・・・」 ニルロゼは大きな溜息をつくと、座りなおした。 そして、呼吸を整えると、まだ顔を覆っている姫を見た。「リュベナ。 どうしたの。 ごめんよ・・・ なにか悲しいかい? ああ、話がつまらないかな? ハハ・・ちょっと判りにくい? 俺が逢って来たの、ナーダってんだよ。 馬のおかげで行って来れた。 ありがとう」 一息入れて、茶を飲んだ。「なんだかねえ。 古株の野郎が、ナーダに逢うな、逢うなって言うんだよ。 なんだかわからなかったけど、それが、結婚するから逢うなってさ! 結婚すらわからないのに、どうしたらいいんだってのね」 蜂蜜色の瞳の少年が軽く笑うと、ようやく、姫が顔を手を離し・・・ 美しい小さな布で、顔を拭っていた。 どうやら、泣いているようであった。「君は・・・ いや、女性というのは、本当にわからないなあ・・・ そのように泣かれると、とても困る。 俺はどうしたらいいんだ?」 と、姫はどうやら肩を震わせて笑い始めた。「いやねえ・・・ニルロゼ」 笑いながら、言っていた。「な、なにが嫌なんだ? そ、そこらへんも全くわからないなあ・・」 必死に額を掻くニルロゼである。「あなた、女性の気持ちが判らないのね・・・・」 と、言われると、ニルロゼは唇を尖らせた。「判ったら困らないさ。 全く、その言葉、ナーダにも言われた」「まあ」 今度は姫は顔を上げて笑い始めた。「ほら。リュベナ。 君は笑っていた方がいいよ。 そのほうがよっぽど可愛い」「・・・!」 姫はビクッと体を後ろに下げた。 可愛い、なんて、初めて言われた。 ニルロゼは、茶の香りを愉しんでいるようである。「まあ、これで赤に集中できるよ。 あいつにも逢ったし・・・」 姫は、背の高い少年を恐る恐る見た。「ニルロゼ。 あなた、そのナーダさんは、好きではないの?」 ニルロゼは・・・・ 茶碗を持ったまま、ちら、と姫を見た。「・・・さあ。 命をかけてまでは好きではないかもな。 魂が、引き寄せられるんだってさ・・・ 魂だって・・・」 姫に・・・再び、ある光景が少しずつ見えてきた。 緑の甲冑だ・・・・「ねえ、ニルロゼ。 ちょっと、見てみますか・・・」 姫、リュベナは、ゆっくり立ち上がると、左側にある本棚から、一冊の本を持ってきて、ニルロゼの前に置いた。 やや古い感じで、表紙は木でできている。 その木に、焼き付けて標題が記されてあった。 十二神記「十二神記?」 ニルロゼは、本と姫とを見比べた。 姫は、おもむろに茶碗を二人分取って、それを奥へと戻しに行き、机に戻ると押し花の入った木も奥に置いて来て、そして机の前に座った。「ええ。 あなたが知りたいという事も書いていると思います」 姫は、いきなり真ん中よりも後ろのあたりの部分の紙を開いた。「ここらへんに、愛の神サドガジュの事が書いていると思います」「へ、へえ」 字は、ハーギーの時は一応習ったし、ビアルにも習ったので、大体は読めるニルロゼは、愛を司る神の話を、最初は興味ないな、と思いながら読んでいた。 愛を信じない人に、その愛とはなにかを切々と説くという話だ。 人を愛することすなわち 己を愛すること 人を愛することすなわち 大地をあいすること 人を愛することすなわち すべてをあいすること 読み進むうちに、いつかニルロゼは、サドガジュの言葉に引き込まれ、どんどん紙を捲って読んで行った。「ねえ、次の話も読んでいい」 姫が承諾するかも確認せず、目を本から離さずに、後半部分を読んでしまったニルロゼは、今度は最初から読み始めた。「へえ。沢山の神様がいるね。 真実の神。 光の神。 炎の神。 愛の神。 あとは・・・」 光の神の次を読み始めたニルロゼは、次の神の話に・・・ これは、また、別な驚きを感じてきた。 今までなおより真剣な眼差しで、その神の話を読み始めた。 その姿を、姫、リュベナは黙って見つめていた。 彼女の手の平は机の上で組まれていた。 バサバサに跳ねている髪は、腰まで長い。 少し痩せていて、体格も顔つきも容貌がいいとは言いがたい。 貧乏な家の少女が無理やり美しい服を着せられていて、ここに座っている、と・・ なにも知らない人が一瞬だけこの光景を見たら滑稽に思うであろう。 が、この、美しい部屋の持ち主であるのは、この少女である。 この少女はこの国の姫である。 見かけこそ、そう、こうして黙っていれば、ただの少女であろうが・・・ 備えられた知識と態度、培われた度量までは隠さなくとも醸し出されていた。 対面している少年は、蜂蜜色の髪を光を反射させ、幼さが残りつつも彫りのある眉目は研ぎ澄まされ、通った鼻筋と口元をしている。 蜂蜜色の瞳の少年・・・ ニルロゼは、一度読み終わったその神の部分を、また、再度・・・ 繰り返して読み始めた。 姫は、青い瞳で・・・ そのニルロゼを見つめていた。 その口元が、少し、噛み締められている。 組み合わせている手元も、やや、力がこもっているようだった。
December 31, 2013
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白い世界だ・・・ また、今日も。 わたしは、来ていた、てきとうの世界に。 これまで、数度となく、人世に行き・・ 人々の嘆きの言葉を受けてきた。 この世に神はもはやおらっしゃらぬ。と・・・ そして、わたしの見る彼らの世界もまた、神の無い世界をまさに描いたようなものだった。 不気味なものに、ある者はさらわれ あるものは たべられ あるものは こころをうしない あるものは にくしんをうしない かみ・・・ てきとうの、神よ。 わたしが、今仕えている・・・ この、白い光の世界の神・・・ 魂を導く神・・・ てきとうの神の目に、人の世界はどう映っているのだろう。 神は 人の世に 直接かかわれないのか わたしが、戒の力を もとむべく いざなった。 戒・・・ わたしは、瞳を細めた。 しかし、見えるのは、ただ白くたなびく景色だ。 今わたしがいる場所は、地上から上なのか? 下か? 全くわからないが なんとなく、上、かな、などと、思ってみる。 戒の根源を見つけたのだ。 あとは、そこを潰すのみだ。 ・・・ みつけた以上は 根こそぎ、消滅させてみせる。 わたしのすべてをかけても わたしは、ただ、白い風にふかれていた。 「?」 先ほど、てきとうの神と相対し これから、人界に戻ろうと思っていた。 また、光が、近づいてくるようだ。「・・・ちいさき神。 あなたですか」 わたしは、少しだけ、うんざりして、小さい光に見入った。 どうも、このごろ、このちいさい神に・・・ わたしは、勝手ながら、恐れを抱いていた。 いや、違う・・ 自分を恐れていたのだ。 この神に魅かれていく自分に・・・「戒のちからが、どれほどか、わかりませぬ。 ですが、全力で挑むのみ」 わたしは、光から目をそらして、できるだけ離れるようにした。 ウーーー・・・ ちいさい神が、ちいさく言っている・・・・「ちいさき神。 では、わたしは参ります」 ウーよ・・・「・・・・」 わたしは、目を瞑って、人界に戻るよう、精神を集中させた。 ほんとうに おおいなるかみの ちからは いらないのですね「いりません!」 叫んだ! ・・・ はやく、はやく、 この世界を後に・・・ では・・・ なにかのときはわたしの・・・ 「・・・??」 ちいさき神の言葉を最後まで聞かずに・・・ わたしの意識が、魂が・・・・ 人界へと、向かっていく。 白い色から だんだんと 沢山の色にいろどられ わたしは、人界に戻った。 水色を基調とした、美しい部屋で・・・ じっくりと鏡に見入っている人物が居た。 いつもは髪は頭の上に結っているが、今日は結ぶのも面倒な気分だった。 くせのある波がかかった髪は、あちこちに跳ねていて・・・ なんだか、冴えない顔が、ますますみすぼらしい感じさえする。 扉が、叩かれている。「どうぞ」 やや、怒った声で、その人物は言った。「お待たせしました、姫! ただいま、戻りました!!!!」 爽やかで透き通るような、優しい声が響いてきた。 しかし、やや、緊張しているようである。「まあ・・・ビアル・・・」 髪をバサバサにしたまま、姫、は振り返った。 美しい少年ビアル。 そして、あまり美しい、とは言いがたいナイーザッツの姫、リュベナ。 そして・・・「リュベナ。 馬、ありがとう! とても助かったよ!」 ビアルの後ろから、ひょい、と入ってくる、背の高い少年ニルロゼ。 なんとも不思議な組み合わせの3人は、姫の美しい部屋の、美しい机に少年達が二人並んで座った。 そしてビアルの向かいに姫が座って・・・いきなり、姫から変な言葉が飛び出した。「ところでニルロゼ。 探して来てとお願いしたものは、持ってきてくれたのかしら・・・・」「え?」 蜂蜜色の瞳の少年は、首を傾げた。 なんのことだろう? ナーダのところから帰ったニルロゼは、城に、これまでにない、なにかの力の持ち主の雰囲気を感じ、やる気満々であったが、いざ城の内部に入ると、あの雰囲気が嘘のように消え去ってしまっていた。 後で探してみせる、と思いつつも、最も怖かったのは、リュベナの事だった。 リュベナが、「どっちの部屋にいるか」が、ひじょおおおおおおおおおに、心配であったのである! そして、リュベナは・・・・ 水色の部屋に、居た。 その事は、ビアルもとても安堵している、ように、見える。 だが、ちょっと今日のリュベナは、水色だが・・・ ・・・・ びみょーに、”赤っぽい”ような、気も、しないでも、ない。「お願いしたもの」 って、なに? と、言う前に、ビアルがニルロゼの膝を抓って言った。「はい、お持ちしました」 にこり、と美しく笑っている! び・び・びあるううううう!!!!! な、なに考えてんだ! つか、なにを持って来たってんだ!!!! 青くなって汗をかくニルロゼなどおかまいなし、ビアルは、外套の裏から、なにかを取り出した。 薄い木の板である。 ビアルがそれを上下に二つに分けると、中に白い花・・・ それは押し花にしてあった。 姫は、ビアルからそれを受け取ると、ニルロゼに瞳を向けた。「そうそう。 これよ。 本当にわたくしの気持ちがよく判っているのね・・・ じゃあ、ニルロゼ。 あなたに、褒美に、あの馬を、あげます」「は!?・・・っ」 最後に小さく悲鳴を上げるニルロゼ。 また、ビアルに抓られた。「よかったですね、ニルロゼ」 ビアルは、恐ろしいほどに美しい笑顔で言った。 ”功績者”とゆっくり話をして下さい、と、ビアルは部屋を出てしまった。 ニルロゼは、なにがなんだかさっぱり判らなかった。 だが・・・どうやら、姫が・・・ あの馬を、自分にくれたのだ、というのは、段々わかってきた。 探して来て? なんて、言われただろうか? 俺は、俺が探したいものがあると言ったはずで、逆のことは言われていない。 そしたら、姫が馬を貸してくれた なのに? 馬を・・・? そしてやっとハッとした。 そういえば、ビアルは・・・ 王や、姫や、町の人から、”なにも受け取っていない”のだ。 だから、今まで、姫は・・・ ビアルにやりたくても、やれなかった・・・・ だが、”俺に”なら? なにも受け取らないビアルにやれないが、俺になら・・・ ・・・・ ニルロゼは、茶を入れている姫の後姿を見ていた。 今日は髪を結んでいないんだな、と、ちらり、と、思った。***にほんブログ村 参加ランキングです
December 26, 2013
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カンは、低い声で、ゆっくりと言った。「女神様。 また、俺の肩に触れてくれるか・・ 君が触れてくれると、ビアルさんより効果がある・・・」 サーシャは、恐る恐る、カンの肩に触れた。「またあんなことしたら、ただじゃおかないわ」「あ、そう?」 カンは、また右手を女性の頭に触れさせた。「ただじゃおかないって・・ どうされるんだろう、俺は・・・」 サーシャと目を合わせた。 カンがサーシャの頭に置いた右手に力を込めると、意外とあっさり女性は顔を近づけてきて・・・ 瞳を閉じる間もなく、唇が重なるのを感じた。 この感じは・・・ ビアルが、優しく触れていたときに・・・ 脳裏に駆け巡った、暖かい感覚だった。 やや長い口付けの後、カンは熱い息を漏らした。「女神の復讐は、なにだろうか・・・」 と、サーシャは笑って言った。「それは、あなたを嫌い続けることかも」「そ、それは怖い・・・」 カンが、瞳を開けたら、サーシャと目が合った。「・・・ 女神様は、すごく破壊的な方だ・・・ たぶん、きっと、俺の願いを聞き入れて、俺の傍にずっといて、その上、俺の子供も授けてくれるかもしれない」「それを、都合がよすぎる、っていうのよ」 サーシャは、少しだけ怒ったような顔をして、またカンの肩を叩いた。「痛たた・・・ 都合がよくなるまで、俺の傍にいてください」「どうしようかしら」「そこをなんとか」 二人の会話は少し、柔らかな暖かさに包まれていた。 サーシャは、また少し怒りながらも、カンの肩に触れた。 どうして、私が、嫌いだと明言しているにもかかわらず、こうして来ているのか・・・ 本当に判ってないわ・・・ カンは、右手でサーシャの左手を握っていた。 うとうとと、寝ているようである。 サーシャはそんなカンをみつめながら、前の事・・・ハーギーでのを思い出していた。 それは、初めてカンに出遭ったときのことだ。 カンがいう通り、自分は沢山の女性の中の一人にすぎなかったかもしれないが、自分にとっては忘れられない出会いだった。 カンは、牢番の身分を利用して好みの女性を牢に入れているという噂があった。 そしてそれは、その通りであろうと見受けられた。 だが奥底では知っている。 カンが本心でそういう振る舞いをしているのではないということは、無論他の男性と同じで、あくまでも表面上の事に過ぎなかった。 赤の者の命令に従っているだけ・・・判っていても、その事を、認められなかった・・・ 増長し、複数の女性を侍らす男の一人として名高い人が、ハーギーを出たとたん、その権威を女性を守る側として発揮しはじめると、女性からの支持がみるまにあがった。 それもそうだろう、カンは、班の中心的存在で、原動力は男達にも一目おかれていた。 背格好や顔立ちもよく、カンを想う女性も数名いた。 しかしサーシャは過去の事にしばられ、当時の男たちの行いは許せないでいたのだ。 あれから、うかつにも、眠ってしまったらしい。 はっと目が覚めると、カンに抱きついたまま、寝ていた。 体を動かすと、それに気が付いたのか、カンも目を覚ました。「・・・」 朝の明かりが容赦なく二人を照らし・・・ バツが悪くて、サーシャは横を向いた。「ああ・・ サーシャ。 ありがとう。 とても楽になった」 カンが、そっと言ってくる。「・・・ カン。 私・・・・」 サーシャは、カンから体を離そうとしたが、カンの右手に力が込められ、なかなか自由になれない。「また来てくれると言うまで、離さないぞ」 カンは、意外にも、有無を言わさぬ決然とした言葉で言った。「・・・」 サーシャは、観念したように、頭を縦に振った。「わかったわ・・・」 それを聞くと、カンは、やや、頬を蒸気させ、畳み掛けるように言った。「来てくれるからには、すっかり完治するまで、来てくれ」「・・・わかったわよ」 ちょっと怒ったような声で、サーシャは答えた。「俺の左手が動くようになったら、両手で君を抱きしめたい。 いいよね」 しばらく、サーシャは応えなかった。「左が動けば君の子供も勿論抱きしめられるし、俺の子供も抱きしめられるかも」 サーシャは、呆れてため息を吐いた。「昨日も言ったでしょ、都合がよすぎるって」「いや、俺は真剣だが・・・」「治れば、でしょ」「うん。 だから、治してくれ」「まあ・・・ 本当に、我侭だわ・・・」 サーシャは、ようやく折れると・・・ ちょっと試すように、こっそりと言った。「それで、私の気持ちは? 無視しちゃう訳?」 カンは、今度は自信ありげに言った。「うん。 頑張って、君が俺を好きになるように、努力でもしよう。 まあ、その前に、左手が使えないとな。 じゃないと、君を抱きしめられない。 まあ、そういうことだ。 ハッハッハ」「まあ・・・」 サーシャはちょっと呆れたが、結果的に、この勝負は負けのようである。「じゃあ、精々3月で左が動くようになることね」 というと、カンが、彼女の背に回した右手に力を込めた。「君が治してくれれば、動くだろうよ・・・」 二人はしばし、見つめあっていたが・・・ カンは痛むのも構わずにサーシャを強く抱きしめた。 風が寒かった。 日が落ちていた。 丸一日、走っていたので、流石に、馬を走らせていた少年は、馬を休ませることにした。 来るのには、3日かかった。 帰りは、2日で帰られるだろうか。 木陰で立ったまま寝ている馬、リュベルちゃんと、転がって寝ているビアルを交互に眺めながら、少年ニルロゼは、ぼーっとしていた。 ナーダに、逢わなければよかったような気もする。 逢わなければ、ナーダが変わった姿を見なくて済んだかもしれなかった。 でも・・・ もうじき、青年という域に足をかけ始めるであろうこの少年には、心の整理がまだつかないようだった。 周りで、夜の鳥が、小さく啼いている・・・ ニルロゼは、東の鍛冶の剣を取り出すと、夜光に照らした。 犬の遠吠えがした。 その声を聞いたニルロゼは、あの恐ろしい獣のことを思い出した。 そして・・・ あの、美しい人物についても・・・・ ニルロゼは、剣を仕舞うと、ビアルの顔をまじまじと見た。 どうして、あの人物と、ビアルを同じだなんて、一瞬でも思ってしまったのだろう・・・ 髪のこととか 外套のこととか 顔のこととか あの外見だけではなくて・・・ もっと、もっと別な・・・ 深い部分で・・・ にている、と、思ってしまったのだ。 そして、こうして落ち着いて考えれば、まるで別人だと思いたいのに・・・ なおかつ・・しかしまた・・・ でもやっぱり、同じか?などと、何度も恐ろしい思いがもたげてくる。 どうしてだろう・・・ ビアルは、謎が多すぎる。 でも、その不思議な存在、ただそれだけで充分である。 その奥に秘められたものなど、なにか俺に関係はあるというだろうか? ニルロゼは、ビアルから離れると、また、剣を抜いて、素振りを始めた。 そう・・・ これから、赤を探す・・・ あのハーギーを壊してもなお・・・ 燃える、あの赤。 今は、赤だけを見据えて・・・・ ニルロゼの脳裏に、再びナーダが現れ・・ 少年の瞳に呼びかける・・・ 彼の名前を・・・ ニルロゼは、頭を何度か振った。 ナーダは、結婚するんだ。 ええと、たしか、ずっと、支えていくんだってな・・ 生涯を・・・ そこまで考えて、ふと、あることに気が付いた。 そういえば、姫も、結婚するって言っていたな・・・ 結婚ってなんだろう・・・ 翌朝、ニルロゼは、またビアルを背負い、馬で駆けた。 走り方は、確実に上達していた。 馬の波長に、自分の波長があっていると思った。 よし、城に戻る前に、料理長の所に寄っていこう・・・ ニルロゼは、軽く笑うと、ルヘルンの街に向かった。 街に着き・・ 料理長の家に着くと・・・ 数人、顔をあわせたことがある男と出くわした。「あ、こんにちは。どうしたんです? 今日は、お休みですか?」 中年の男は、ニルロゼの顔を覚えていた。「おお、君か。 マーカフは、本格的に、城に行ったらしい」 中年男は扉に張られた紙を指差した。 少年も、ビアルを背負ったまま、蜂蜜色の瞳でその紙を見た。 しばらく王の傍に居る 短い、文面だった。「おやっさん、宮仕えは嫌っていたんだがなあ。 とうとう、折れたか」「折れたって?」 ニルロゼが、慌てて中年男に取りすがる。「マーカフだって、いつまでも独身でもいられまい。 ああやって城に出入りしていれば、それなりに女もほおってはおかないだろう。 ってことは、城にいい女ができたに決まっているさ」 中年男は、ニッと笑って、去っていった。「・・・・」 ちょっと、ポカーンとするニルロゼである。 と、背中で、ビアルがモゾモゾと言った。「おはようございます」 ビアルが起きたのも無視し、そのままの格好でリュベルちゃんの背に乗る。「・・・ニルロゼ・・・ 起きましたよ?」 ニルロゼは、そのまま、城へと向かった。 なにかが、動いている。 ニルロゼの瞳に、久しぶりに、覇気が宿った。 そう・・・ 感じてた。 そんじょそこらの、殺気なら・・・ どの程度の腕前か、すぐに読み取れる。 だから、勝負の行方など闘わなくても判る、闘う前から。 だが、だ。 ニルロゼの笑みが、段々危険なものになってきた。 久しぶりに、思いっきり・・・ やりあえそうだ・・・ そういう予感がした。 そういう相手が、いる。 料理長・・・ 見た目は、だらしないが・・・ あの精神は、誇り高い。 その彼を、無理に城に向かわせたものがいる。 ニルロゼは、段々馬の速度を速めた。 ビアルが、手を伸ばして首に抱きついてきた。「ビアルちゃん~! 今度は、好敵手がいそうだ~! いい感じがするぜ!」「・・・でしたら、私を下ろしてください・・」「そんな暇あるかい!」 二人を乗せた馬、リュベルちゃんは、斜面を駆け上がって自身の飼われる城へと飛ぶように走った。 みるみる近づく城の門に走り寄ると、門番など無視して柵を飛び越えた! さらり! ビアルを背負ったまま、少年ニルロゼは、馬から飛び降りる!「さーさー! 耳があるものはしっかり聞け! ここにいらっしゃるのは、ビアル様! ええそうだ、あのビアル様様をお連れしたぞ! 姫が、お待ちのはずだ! お通しを!」 きり、と笑うその顔は、ややあどけなさを残していた。 が、周りを囲む男たちは、そのあどけなさの下の強さを知っている。「ビアル様・・・お待ちしていました・・・」 案内人が、わたわたと駆けつけ、二人を囲んだ。 ニルロゼは、ようやくビアルを下ろし・・・ そして、ゆらりと、美しい少年ビアルの後ろについて、城の中に入って行った。***にほんブログ村 参加ランキングです
December 21, 2013
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カンの気持ちは乱れていた。 もう、とにかく、どうしたらいいのか判らなかった。 彼は、右手で涙を拭うと・・・ サーシャの右手首を掴んで、自分の肩から離した。「もう、もういいよ・・・ もう帰って・・・」 顔を左に背けると、女性の手も離した。 本当は、まるで、よくなんかなかった。 本当は、もっとこうして傍にいてほしいし・・・ 本当は、体さえ痛くなかったら抱きしめて、そして・・・・ すると、サーシャの左手が、カンの右手をとった。「・・・」 カンが、驚いてサーシャの方を見るのにも間に合わず・・・ サーシャは、右手で・・・ 再び、カンの左肩に、触れてきた。 カンは、サーシャにかける言葉が思いつかず、ただ、唖然としていた。 なぜ・・? 俺が嫌いなんだろう? なら、俺に触りたくもないはずだ・・・ 色々な思いが頭を廻って、なんだか訳が判らなくなっていた。 それでも、愛しい人が・・・ 覆いかぶさるように、こんなに間近にいて・・・ 少し触れる部分が柔らかくて・・・・ 鼓動は早くなる一方である。「ああ・・・まるで・・・」 カンは、ようやく、自分の心境に当てはまる言葉を思いついた。「これは、生き地獄だ・・・ いや、違うな、天国のようだ・・・ どっちだろう・・・」 カンは、我慢できず、右手を動かすと、サーシャの背に回した。「き、君はどっちなんだ・・・ 嫌な男がこんなに近くにいて・・・ 地獄かい・・・?」 サーシャは、黒い瞳を、やや、カンの目線に合わせ・・・ そして言った。「そうね。地獄の方ね、きっと」 カンは瞳を閉じた。 なんだか判らない・・・ 俺はどうすればいいんだ・・・・「サーシャ・・・ 君は・・・ なぜ・・・ わざわざ、地獄に足を踏み入れているんだ・・・」 カンは、右手を床に落とし・・・ 切ない笑みを浮かべて言った。「・・・・」 サーシャは黙っていた。「・・・ サーシャ・・・ そういえば・・・・」 カンは、そこでやっと、ある事に気が付いた。「なぜ、俺が嫌いなんだ・・・? 俺は、なにか、君に悪いことをしただろうか・・・」「したわ」 即答だ。 カンは、驚いて、瞳を開け、サーシャの顔を見た。「・・・そ、そう・・・? そうだっけ・・・?」 カンは、必死に色々思い出そうとしたが、これといって彼女に嫌われる要素を思い出せない。「私も聞きたいわ。 私のどこが好きなの」 いきなり、サーシャはとんでもない事を聞いてきた!「えっ・・・」 カンは、真っ赤になって、瞳を左右に動かした。 どこ、と言われても・・・「こ・・・これは、困ったな・・・ ああ、未だに、ビアルさんの仕返しなのだろうか、これは・・・」 カンは、思わず口走ってしまった。「なに、その仕返しって」 サーシャが聞いてくる。「・・・ニ、ニルロゼを苛めた仕返しだって。 俺は散々痛い治療を受けた上に、好きな女性をばらさないと更に痛くすると脅された。 あんな恐ろしい仕返しはこりごりだ・・・」 「そう」 サーシャは、僅かに、カンに体を寄せてきた。 わ・・・ た、頼む! こ、これは・・・ これは、本当に、生き地獄だ!「さ、サーシャ・・・ き、君は、本当にサーシャか・・・? まさか、ビアルさんが化けているのか? それとも、美しい地獄の使者か? た・・・ 頼むから・・」 カンは、真っ赤になって、サーシャを振り払おうとした。 その右手を、サーシャが遮る。「私の質問にまだ答えていないわ」 サーシャが、そう言うと、カンは、荒い呼吸の中で、必死に考えた。 え、ええと、 どこ、どこなんて・・ そんなの、知るか!「・・・ひ、一目惚れだ!」 とうとう、言ってしまうと、もうどうにでもなれ、といった顔つきになって、開いた右手でサーシャの右腕を掴んだ。「ど、どうせ俺は単純だ・・・ どうだ、結局男なんて、そうなんだ。 わかったか」 自棄気味に言った。「ふうん・・」 サーシャは、ちょっと呆れたような目をしていたが、考え入るような瞳になった。「じゃあ、どうして嫌われているかも、判るんじゃないの」「え・・・」 カンは、思わずサーシャの瞳に見入った。 なんだ? どういう意味だ・・・・「・・・ 逆・・か・・・? 君は、一目で俺が嫌いになったってか? こりゃ、いいや・・・ それは、いい理由だ・・・」 カンは、サーシャに触れていた右手に視線を移した。「いつ? いつ、俺を見たんだ・・・ いつから、俺は嫌われている・・・」「覚えていないの、本当に」「え・・・」 カンは、再びサーシャの顔を見て、そして視線を宙に泳がせた。 まさに、これは、試練だった。 本当に、未だにビアルの仕返しが続いているかのようである。「・・・君が俺を始めて見た時に・・・ 俺も君を見ている・・・ってことか? ・・・それは・・・ ハーギーの時の事・・・か・・?」 カンは、目の前の女性を凝視した。 ハーギーの時・・・ ”ハーギー”の時は、どれほどの女性を悲痛な目に遭わせただろう。 それは、己にっとってもまた、苦痛の思い出でもあった。「す、すまない・・・ 俺は、あの頃、どれだけの人に・・・その・・ 酷い事をしたか、覚えていない・・・ 君も、そのうちの一人か・・・」 カンは、サーシャの腕に触れていた右手を・・・ ゆっくり離した。「そう、そうだったか・・・ それは、知らなかった・・・ 申し訳ない・・・」 しばし、また・・・ 無言の、暗い夜が続いた。 その間もずっと・・・ サーシャは、カンの左肩に、触れていた・・・ カンは、目を開けていれば、その姿が目に入ってしまうので・・・ 目を瞑っている方が多かった。 ハーギーでのことが、思い出された・・・ まだ、自分が牢番になる前のこと・・・「ハーギーを出て」 ぽつり、とカンが言った。「皆で、一つの班を作って・・・ これから4つに別れるというとき、君を始めて見た・・・ いや、もちろん、君の事は知っていた。 牢に入っていたからな・・・ 他にも沢山の女性を見てきたのに・・・ どうして俺は君が好きになったんだろう・・・ ねえ、サーシャ・・・ 教えてくれ・・・ 他にも沢山男がいるのに・・・ どうして俺を嫌いなんだ・・・」「さあ」 サーシャは、短く答えた。 また・・・ 時間が無駄に流れていく。 カンは、ジリッと力を込めると、右手を動かし・・・ サーシャの背に腕を回した。「・・・夜が・・・ 明けたら・・・ もしかして、君は・・・ 朝の光と共に消えていなくなったりして」「さあね」 カンは、愛しい人の顔を、穴の開くほどに見つめた。 ぐっと右手に力を込め、女性の体を自分の方へと抱き寄せた。「なんだか、俺はもうどうでもよくなってきた・・・ 君がこうしてさえしていてくれれば・・・ 治らなくてもいいし、死んでもいいや・・・ 君が俺を嫌っていても、もうそれでも・・・ サーシャ・・・ いや、違う・・・ 違う・・・」 カンは、呼吸を乱しながら、必死に言葉を続けた。「前の事を忘れて、とは言わない。 どうか、お願いだ・・・ ずっと、こうして俺の傍にいて・・・」 しばらく、サーシャは応えなかった。 カンは、戸惑いながら・・・ サーシャの背を撫でていた。「・・・」 サーシャは、カンの胸に埋めていた顔を上げて、少し体を起すと、カンの顔を見た。 カンが、なんとも表現しがたい表情をしていた。 その瞳を見ていたサーシャは、体を屈めると・・・ カンに抱きついて、瞳を瞑った。 カンは、暫く呆然としたまま、右手でサーシャの背に触れていた。「・・・ああ、サーシャ。 俺は、どこまでも、欲が深いらしい・・・ 短期間で肩を治してもらいたくなってきた」 思わず、そう言った。「どうして・・・?」 サーシャはカンの体に抱きついたまま言った。「な、治ったら、両手で抱きしめられる。 そしたら、君の子供も抱きしめられるな・・・ そうだ、そういえば・・・つ、ついでに、俺の子供なんかも・・・ どうだろうか・・・」「欲が深いわ」 ペシッとサーシャはカンの肩を叩き付けた!「い!痛い! 頼む、女神様、優しく治療してくれ・・・」「まあ!女神様は、万能じゃないかもしれないわよ? あなた自分で言ったじゃないの、治らないかもしれないって」 サーシャが、それでも優しくカンの肩に触れた。「いや、治ってみせる・・・ 絶対、両手で君を抱きしめたい・・・ 絶対にだ」「まあ・・・呆れた人ね。 私の気持ちは、相変わらず無視ね」「ふん、君の気持ちは大体読めたぞ」 カンは、やっと余裕の笑みを見せた。「俺が嫌いだから、俺を治して、そして俺にミソクソ哀れな思いをさせるつもりだな? だが、そうは問屋が卸さないぞ・・・ 君がなんと言おうが、俺は何度でも、君を口説いてみせる・・・」「まあ」 サーシャは、笑い出した。「ずいぶん自信満々なのね」 と、カンは、右手でサーシャの背を撫で・・・ その手をゆっくり、目の前の女性の頬に触れさせた。「いや?口説き落とす自信はないよ。 だけど、俺は君が好きだっていうのだけには、自信があるな」「まあ、精々頑張ることね」 サーシャは、カンに触れていた手で、男の右手をゆっくり払うと、また右手で彼の左肩に触れ始めた。「サーシャ・・・」 カンの、少し甘えた声がした。「抱きしめたい・・・」 男の指が、躊躇いながら・・・ サーシャの背に、再び回された。「・・・ああ、俺はむしろ・・・ あの獣に感謝すべきか・・・ こうして君を抱きしめられるなんて。 ・・・本当に、何度も何度も・・・ 君を見ていて、いつも思っていたんだ・・・ 君を抱きしめたいって・・・」 カンは、肩が楽になって・・・意識が遠くなってきた。「・・・サーシャ・・ 俺の傍に、いてくれるよね・・・」 サーシャは、ただ黙っていた。 「俺の近くに、ずっと・・・・」 と、サーシャは、少し顔を上げた。「だったら、まず肩を治さなきゃね」 カンは、サーシャの瞳を見つめていたが、彼女の背に回していた手を、頭の方に回し、その頭を自分の方へと引き寄せた。「な、なにする・・」 サーシャが抵抗する暇を与えず、カンは彼女の唇を奪ってしまった。「なにするの・・」 サーシャが真っ赤になって、必死にカンから離れた。「・・・いや・・ もっと治るのが早くなるかなとか思って・・」「じょ、冗談じゃないわ」 カンは、サーシャから離れた右手を、彼女の右手に触れさせた。「冗談ではないよ。 俺は本当に君が好きだ・・・ ”あの時”と比べて貰うと困るよ。 俺は全身全霊をかけて君が好きだ! ・・・? まあ、今は左が使えないがな」 ちょっと笑うと、目を瞑った。***にほんブログ村 参加ランキングです
December 16, 2013
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カンの家の戸口から、少し隙間風が吹いた。 またサーシャの子供が泣き始めた。 サーシャは、家の入り口付近で、立ったまま子供をあやし・・・ ちらりとカンを見て言った。「カン。 別の人に頼んでよ。 私、子供が小さいし。 それに、どうして私なの? 私、あなたがどうなろうが、知ったこっちゃないわ」 サーシャはカンに背を向けて、冷たく言い放った。「そ、そう・・」 カンは、そこまで言われてしまい・・ もはやそれ以上、彼女を引き止める言葉を考えることができなくなった。 確かにそうだった。 サーシャの子供は、あと少しすれば1歳半になるし・・ ヤンチャの盛りだ。 カンも以前に、サーシャの子供、サレンと遊んだことがある。 おぼつかないが歩き回る年頃のサレンが、こんな小さな家にいたのでは、怪我人のカンにも影響がある。「悪かったね・・・変な事言って。 昨日はありがとう・・ そ、その、とてもうれしかった・・」 カンは、がっかりしたように言うと、また横になった。 その姿をちらりと見たサーシャは、横目使いで言った。「誰か、他の人を頼んであげる?」 するとカンは、顔をあげた。「・・・・」 右手を軸にして、体を起こした。 サーシャは、戸惑いながらカンの姿に見入った。「サーシャ」 カンは、ぎこちない動作で、右手を左肩から離し、これで何度目かとなるであろう・・・ 目の前の女性の名を呼んだ。「俺は君に頼みたい。 ずっとでなくてもいい。 君が開いた時間でいいから・・ だから、俺の治療をして欲しい。」 サーシャは、困ったような、気恥ずかしいような表情を浮かべ、カンの目線から逃れた。「い、嫌よ。 どうして私があなたなんか・・・」 またサーシャに背を向けられたカンは、すっかりと落胆の表情になってしまった。「そう?嫌? なら・・・仕方ないね。」 カンは、ふらふらと、また身を横たえた。「・・・」 サーシャは、その姿を横目で見て、ため息混じりに言った。「本当にいいの? 他の人を頼まなくても」 カンは、ふてくされたように目を瞑ると、ぼそっと言った。「他の人じゃ、嫌だ・・・」 額に汗をかき、真っ青な顔になって、顔をしかめるカンの姿を、サーシャは唇を噛んで見ていた。「なんでよ。 どうして私?」 俯いたまま、サーシャは入り口に寄りかかった。「そ、それは」 カンは心臓がドキドキしてきた。 ああ、ブナンは、あのアルジェに、ただ、治療を頼んだら、“なぜか”などとは、アルジェに聞かれていなかった。 ああ、俺はどうすればいいのだ・・・ 「サーシャ。 少し、こっちに来てくれ。」 カンが言う言葉に、今度はサーシャが素直に従い、カンの傍へと寄った。 すると、サレンがむずがってサーシャの手を離れ、カンの足を登り始める。「ああ、これは参った。 俺の唯一の右手がふさがれてしまった」 そういいながら、カンはサレンを右手で抱きしめた。「しばらく、俺はこのとおりの体だし。 もしかして、一生左手が使えないかも・・・ ああ、もう、面倒だな。 俺はだ、3月と言わず・・・ ずっと君にいてほしいが。 ああ、つまりだ・・・」 カンは、必死の形相で、早鐘のような鼓動の勢いのままに、まくしたてた!「お、俺が治っても、君に傍にいてほしい! ええと、俺は、君が、 ええと・・うわっ」 サレンが、カンの顔をいじっていたが、左肩に手を伸ばしたので、カンは痛みに顔をしかめた。 ちょっと、気まずい雰囲気になった。 カンは必死にサレンをあやしながら、また視線をサーシャに移す。「君が、好きなんだ」 ずばっと言ってしまってから、カンは哀れな程に赤くなった。「ふうん」 サーシャは、カンの手から子供を抱き上げると、ちょっと横を向いて、ぷいっと言った。「・・・ 私の気持ちは、無視するわけ・・・」 カンは、驚いて・・・ 左隣に座った女性の方を見た。「君の気持ちか・・・ 考えてなかったな・・」 カンはがっかりして、瞳を瞑った。「ああ・・ いや? 判っていたよ・・ 君は俺が嫌いなんだろう? だから、今まで言えなかった・・・」 もはや状況は絶望的だった。 カンは、うんざりしたような、諦めたような表情で、吐息をついた。「・・・せめて、俺の左が動けばなあ」「は?」 サーシャは、必死に表情を殺そうとしていたが、思わずカンを見た。「う、動けばなんだっていうのよ」「うん。 こっちが動けば、君の気持ちなんか無視して、君を抱きしめるのに」「ば、馬鹿じゃないの」 いきなり、歯の浮くような事を言い出したカンに、サーシャはあたふたとしてしまった。 カンは、もうヤケクソになったのか、少し口を尖らせて、頭を左右に振り・・ そして、思い切ったような表情になって、一言一言噛み締めるように言った。「こんな形で玉砕するとは、俺も思いたくなかったね。 言わないつもりだったのに・・・ でも言った以上は言うぞ。 俺は君が好きだ。 だから・・・だから、俺の傍にいてほしいです。 でも」 カンは、諦めたような笑みを浮かべた。「君が嫌なら、諦めるよ」 すると、サーシャは、立ち上がってカンの傍を離れ・・・・ とうとう、家を出て行ってしまった。 カンはがっかりし、痛む肩に顔をしかめながら、酒を飲んだ。 あ~。 もう、駄目だあ。 俺は痛くて死んでいくんだな~・・・ ああ、情けない。 俺はサーシャが好きなのに・・・ 痛みが酷くて・・・・ もう、肩から下を、取ってしまいたかった。 そうしたら、どんなに楽だろう。 ガンガンと鳴り響く頭の中で カンは、ニルロゼが寄越した東の鍛冶の剣を、掴んでみた。 本当に、斬ってしまおうか・・・・・ だが、再び襲った痛みに、またその手を左肩に添える。 俺は、俺は・・・ 激痛に耐えながら、ひたすら、床に身もだえし、歯を食いしばっていた。 夜に、なった。 カンは、夢を見ていた。 素晴らしく美しい人が・・・ 自分に触れていているのだ。 これは・・・ ビアルだろうか。 はっと目をあけると、蝋燭もつけずに、カンの脇に座って・・・ サーシャが、自分の肩に触れていた。 あまりのことに、呆然としていた。 これは、なにかの間違いではないだろうか・・・「サーシャ・・」 女性の名を呼んでみた。 呼ばれた女性は、少しだけ、顔を上げ、こちらを見た。「サーシャ。 ああ、なんてこった。 どこの天使様かと思ったよ・・・」 カンは、嬉しさと、戸惑い、そして、心臓の高鳴りに、呼吸が速くなるのを抑えるのに必死だった。 サーシャは、何も言わないでいるので、カンは何を言えばいいのか、全く困ってしまった。 サーシャは、俺が嫌いなんじゃないのか? どうして、また来てくれたんだ? 言葉にしたいのに、なかなか喉から出てこなくて、カンの動機は治まることがない。 しかも更に! サーシャは、カンの右隣に向き合って座って、右手でカンの左肩に触れていた。 少しだけ、彼女の二の腕が、男の胸に触れていた・・・ ああ、ええと・・・ 俺が、こんなにドキドキしているいのが目茶目茶にばれている! うう・・・ カンは、必死に目を瞑って、このどうしていいか判らない状況に、逃げることも打破することもできず、呼吸を抑えるのにひたすら必死になっていた。 どれだけ・・・ そんな体勢が続いていただろうか・・ カンは、ふと、ある事に気が付いた。「君、子供は・・?」 男が言い出した事は、まるで的を外していた。「ルイーゼに預けて来たわ」「・・・そ・・そう・・」 しばらく、また二人は黙ったままになってしまった。 カンは、ようやく鼓動が収まってくると・・・ 重たげに右腕を動かし、指先でサーシャの左手に触れた。「痛くて・・・ 朦朧としていた・・・ 夢みたいだ・・・」 サーシャは、だまって視線をカンの指先に落としていた。 やや青い顔を笑わせ、カンはサーシャの手を握った。「きみ、きみは・・・・ どうしてまた来てくれたんだ・・・」 カンは、困ったような表情を浮かべた。「無理しなくていいのに・・・ こうしてくれると、俺は・・・」 はあ、とため息をついて、カンはサーシャの手を離した。「また、頼みたくなってしまう・・・ ああ、俺はどうにかしているとも。 もうなんとでも言ってくれ。 どうせ君の気持ちなんて無視しまくりだろうし、 どうせ君に嫌われているんだ」 サーシャが、あっという間もなく、カンの右手に力が込められ、サーシャは引き寄せられて、カンの上半身に倒れこんだ!「ちょ、ちょっと、なにすんの・・・」 サーシャは抵抗しようとしたが、カンの傷を覆った布が目に入った。「や、やめてよ、痛いでしょ」「・・・」 カンは、痛むのも構わずに、自由な右手をサーシャの背に回した。「こうすると、もっと治りが早い」「・・・馬鹿じゃないの」 そう言うサーシャに、カンが呟いた。「あの、ニルロゼが連れて来た人はビアルさんと言うが・・・ 正直、俺は、あのぐらいの綺麗な少女を見たことはない・・・ あんなに綺麗な人がいるのに、ニルロゼの奴は、どうしてロゼに逢いたがっていたのか、俺にはいまいち理解できていなかった・・・」 カンは、サーシャの髪を、指先でいじってみた。「あの人・・・ビアルさんは、命をかけているそうだ・・ よく判らないけれど、多分、沢山の人を治しているんだろう・・・ その一人一人を命をかけて・・・ たいしたもんだ」 カンは、やっとサーシャを抱きとめた手の力を抜いた。 男の手は、サーシャの背をちょっとだけ、左右に触れ・・ 一旦、床にその右手は置かれたが、また手を上げて、目の前の女性の肩に触れた。「ええと、ビアルさんに言われたんだ。 命をかけられる人に頼めって・・・じゃないと、治らないとさ。 断られておいて、また言うのももう、なんというか、情けないし・・・ ああ、でも、これで、言わないで、どうしろっていうんだ・・・」 カンは、サーシャのやや長めの髪を、いじった。「ああ、わかったぞ。 じゃあ、聞けばいいんだな。 君の気持ちを。 ど、どうなんだ? 君は? ええと、3ヵ月、俺を看てくれる? というか、それ以上だ。 3ヵ月で居なくなられたら、俺は死んでしまう」 なんだか、やたらに時だけが長く流れるように感じた。 カンは、サーシャの髪をちょっと引っ張ってみたり、彼女の二の腕に少し触れてみたり、ちらりと彼女を見てみたり、そんなことを繰り返していた。「な、なにか言ってくれ・・・ サーシャ・・・」 とうとう、拗ねた子供のような声で、カンが哀願した。「・・・」 サーシャは、カンから少し離れると、ちょっと溜息をついた。「私は、あなたが嫌いよ」「・・・」 この言葉には、流石のカンも、衝撃をうけた。 では、ではなぜ・・・ではなぜ、こうして・・・ こうして、来てくれたんだ・・・「・・・じゃあ、俺はどうすればいい・・・ 君が嫌っているのを知っていて、こうやって感受できるほど、俺はできあがっていない。 嫌なら、お願いだから、もう来ないでくれ・・・」 そう言うと、カンの頬に、涙が伝わった。
December 11, 2013
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「だいたい、お前がニルロゼをここに入れるのが間違っている」 ビアルとニルロゼが去って行った朝、ブナンは、これで何度目かとなる説教を、カンにたれていた。「お、俺はこの場所なんか教えていない」「なんだと?ニルロゼは、お前に教わったといっていたぞ」「え・・」「全く、結局ロゼと逢うのも許しちまったし。 お前は甘い!」「え・・・」 ブナンに怒られながらも、カンは、必死に眉毛を寄せた。 俺は、そんなこと、全然許した覚えはないが・・・「まあともかく、お前も、あの別嬪さんの言いつけを守るんだな!」 ブナンは、赤くなってそう言った。 両手を使って扉の方までを移動する。 家の外では、青年が二人待機している。ブナンを運ぶ係りだ。 そして、女性が一人・・・ その女性はアルジェという名前である。 これから3月がかりで、ブナンの足の治療を、するため、呼ばれて来ていた・・・「・・・」 ブナンは、ムッとしながら、自分の家に運ばれて行った。 アルジェも、黙って着いていく。 ブナンの家は、独り者の家を絵に描いたような家で、酒と、水瓶と、干した肉くらいしかなかった。 ブナンを運んだもの達が、気を利かせてか、下がっていく。 そこでやっとブナンは口を開いた。「アルジェ。 君が嫌になったら、いつでも途中でやめていいから」 ブナンの足は、右足が太もものあたり、そして左足は脛に、何本かの切り傷のような跡が大きく浮かび上がっている。「・・・」 アルジェは黙って、両手でその跡に触れた。 ビアルに、言われたのだ。 本人が痛がるとき、そうでない時も、できる限り、常に触れていてください、と。 ブナンは、まさかこのような形で、想う人を傍に置くとは・・・思ってもいなかった。 そう、密かにアルジェの事を想っていた。 でも、ただそう想っていただけで・・・ ハーギーを出て2年も経過していないし・・・ 女性にとって、男は嫌な思い出の対象でしかないだろうと思っていた・・・。 しかし、ビアルに散々念を押された。 想う人に、触れてもらわないと、なおりません、と。 そんな程度で、治るのか、と聞いたら、あの美しい少女は言ったのだった。 わたしは、つねに、いのちをかけています。 そのように、いのちをかけられるひと・・・ または、いのちをかけていいとおもうひと。 そういうひとが、ちからをもつのです すべてにおいて。 小さな家に取り残されたカンは、左肩を押さえながら、フラフラと外に出た。 数名、青年が脇から支えてくれ、自分の家へと戻る。 ほぼ2日、美しい少女がずっと・・・・ 自分にずっと触れ続けて、くれたのだ。 そして今日、言ったのだ。 ニルロゼは、赤を探していらっしゃいました・・・ ですが、ナ-ダさんにお遭いしないと、探せない状態に陥っていました。 ニルロゼは、その根本的な原因を、ずっと自分で否定していたので、どうすれば赤が見えるかが、判っていませんでした。 ようやく、ナーダさんに逢えば解決すると、ご自分で気が付いたのです・・・ こころとおなじように・・・ 体もまた・・・ ちょっとした、差し水があれば、治るきっかけがあるのです。 私は、もう今日帰らねばなりません。 ですから、あなた方も、私の代わりに、治してくださる方が必要なのです。 さて。 ここからが、私の・・・ ニルロゼを苛めた仕返し、ですからね・・・ あなた方、散々、ニルロゼに言いたいことを言っていらっしゃいましたが・・・ ご自身方は、いかがですかねえ・・・・ 全く、どうやら、いいお年にもなって、お好きな女性をお傍に置いていらっしゃらない。 ニルロゼみたいな年なら、まだともかく、あなたがたはどうなんですか? ニルロゼに説教できる立場ではないようですねえ・・・ ちゃーーーんと白状していただきますよ・・ 私の代わりに、あなた方の傍に居て治療をしてくれそうな女性が、いるはずです・・・ 結局その後、ブナンは、以前から思っていた女性を呼んだ。 そしてカンは・・・ ぼさーーーーーーーっと一人でいた。 そうだった。 ”治療をしてくれそうな人”など、いなかったのだった。 カンは、班の東中央の、やや奥まった自分の家で左肩を押さえていた。「おーい、おにいちゃん・・」 子供達が、数人やってきた。 今まで、剣技を教えていた子供達だ。「お兄ちゃん、大丈夫・・・・」 カンは、右手を振って笑った。「ああ。 大丈夫だよ・・・」 大丈夫、ではなかったかもしれない。 ものすごい痛さだった。 ビアルが、”怒って”痛い治療を始めた以上の痛みが・・・ ビリビリと肩から広がって、頭まで痛かった。「俺、寝ているから、お前達、別なところで遊んでいろ・・」「・・・・・・」 子供達は、変わり果てたカンに、戸惑いの目線を送って、どこかへと走り去って行った。 ビアル・・・ あの手で、もう一度、触れてくれないだろうか・・・ うかつにも、そう思ってしまった。 カンは、少し赤くなって、頭を振った。 昼近くになると、痛みは更に増してきた。 汗ばむ体を、ふらつかせ、ロゼたちが住むところへと、行ってみた。 ロゼは、6人の女性と住んでいた。 ブナンが、ニルロゼと逢うのを、俺が許した、なんて言っていた。 だとしたら、ロゼは、ニルロゼと、逢ったのだろうか・・・「カン!?大丈夫なの・・・」 ロゼ達の家には、4人の女性が残っていた。「ああ・・それより、ロゼは大丈夫か? あいつに逢ったって聞いたが・・・」 家の入り口に寄りかかりながら、カンは家の中を見た。 どうやら、ロゼはいないようだ。「まあ、問題がなかったなら、いい・・・ 俺も、心配性かな・・・ じゃあ」 フラフラと歩くカンに、一人の女性がそっと後ろから支えた。「送ってあげるわ」「・・・い、いや、いい」「でも、大変そうよ」「・・・」 結局、カンは、その女性に自分の家まで送ってもらった。「すまなかった・・・。 ありがとう」 カンはそう言うと、左側を下にして横になってしまった。「ねえ、カン、本当に大丈夫なの・・・?」 女性は、不安そうに言った。「ああ、大丈夫。 だから、戻ってくれ」「な、なにか私にできる事ある・・・?」 カンは、暫く黙っていたが・・・「いや?」 と、短く言った。 女性は、少しだけカンを見守っていたが、帰って行ってしまった。「・・・」 カンは、青ざめた顔を、苦痛に歪めた。 ビアルが言った言葉が、また頭に繰り返された。 想う人に、触れていてもらってください・・・ 想う人? カンは、首を振った。 そんなに、そんなにうまくいく話なんか、ないのだ。 ブナンは、あの女性からも、前から慕われていた。 そんなこと俺だって判る。 俺は・・・俺が想ったって・・・ きり、肩が痛んで、カンは目を強く瞑った。「・・?」 と、人の気配に、カンはちょっと身じろぎした。 瞳を開けて、上体を起す。 扉が、叩かれた。「・・・どうぞ」 カンは、できるだけ顔色をよくしようと、右手で頬を拭った。「!?」 と、入ってきた人物を見て、カンは動揺した!「お昼、まだ食べていないんでしょう」 入って来たのは、サーシャだった。「聞いたわ。 ロゼの事、心配しているんだって? あの子は、大丈夫よ、あんたが思っているより強いから」 サーシャは、カンから僅かに離れた場所に座ると、果物や干し肉を置いた。「ちゃんと食べないと、治らないわよ。 じゃあ、置いておくから、食べてね」 言いたいだけ言って、サーシャが立ち上がる。「・・・」 カンは、ちょっと唾を飲んで・・・ 恐る恐る、言ってみた。「あの」「なに」 二人の間で、なんだか冷たい雰囲気が漂った。「あ、あの、ありがとう。 いやあ、丁度、腹が減っていたんだ・・・ ああ、でも、俺は、恥ずかしいながら、肩が痛くて・・・ 指もしびれて、巧く物が掴めない。 もう少し、俺の傍に、それを置いてくれないか」 サーシャは、ジロリ、とカンを睨んだまま、ぶっきらぼうに言った。「なに言っているの。 あなたが怪我しているのは左でしょ。 右手で取ればいいじゃない」 カンは、悲しそうな表情になった。「・・・ 左側にあるものを取るのは、辛い」「・・・」 サーシャは、怒ったような顔つきで、ふんっと食べ物を、右側へと移動させた。「これでいい?」「・・・」 カンは、右手を左肩から離した。 が、すぐに、苦痛に顔を歪め、また肩を掴みなおす。「見てわからないか。 俺のこのザマを笑いにきたのか? 早く出てくれ!」 とうとうカンは投げやりに言って、ぷいっと顔を背けた。 サーシャも、ふんっと背を向け、カンの家を出ようとした。「まて」 カンが、痛さに耐えながら、やっと言った。「サーシャ。 待って・・・」「な、なによ・・・」 サーシャは、入り口に手をかけながら答えた。「さっきのは取り消す。 すまない・・」 カンは思わずごくりとつばを鳴らして飲んでしまいながら、言った。「君に、お願いがあるんだ・・・ 今日、今日だけでいいから、俺の傷に、触れていてくれないか・・・ とても痛くてかなわない・・・ たのむよ・・・」 カンは、とうとう敗北宣言のように、うなだれてそう言った。「・・・なにそれ」 サーシャは、ちょっと顔をしかめて言った。「・・・俺を治してくれた人が、言ったんだ。 だた、触れてくれるだけで、いいそうだ。 それだけでいいって」 カンは、すがる様な目を、サーシャに向けた。「嫌だって言ったらどうするの」 サーシャは、両手を腰に当ててふんぞり返って言った。「・・・君以外に頼もうと思う人が思いつかない。 だから、たのむよ・・」 カンが、頭を下げていると、ふわり、と、女性の手が、カンの肩に置かれた。「・・・どうして私に? あなたを素敵だって思っている女性ならば、きっと喜んでいつでもあなたの傍で治療してくれると思うけど? そういう人に頼めばいいじゃない」 すると、カンは、サーシャの手に、自分の右手を重ねた。「・・・さっきも言っただろう。 頼みたいと思う人が君以外に思いつかない」「・・・」 しばらくカンに触れていたサーシャは、カンが眠ったのを確認してから、自分の子供を連れに戻った。 子供を連れて、カンの家に行くと、カンは青い顔をして寝ていた。 サーシャは、子供を横に寝せ、カンの肩に再び触れた。 翌朝、カンは、子供が泣く声で起きた。 サーシャは、子供を両腕で抱えている。「じゃあ、カン、一日って約束だったわよね。 私、子供の世話もあるし。 もう、いいでしょ?」 サーシャが、カンの顔を見ないように、そう言った。「・・・」 カンは、右手でポリポリと頭を掻いていた。「やっぱり、駄目かなあ」 モジモジとしながら、カンは言った。「・・・ 3カ月間・・・ 俺の、治療をして欲しいんだ、本当は」「は?」 サーシャは、思わずカンを直視した。 ***にほんブログ村 参加ランキングです
December 8, 2013
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ざわ・・・ 風が出て、目の前の女性の履いているサーンゲイン(腰に巻いて、腰元から足までを覆う布。胸から覆うものなど、種類も多く、男性も履く場合がある)が、ちらりとはためいた。 ニルロゼは、息さえするのも忘れたかのように、穴の開くほど・・・目の前に立つ女性を見続けた。「ニルロゼ」 どれほどの。時間が経ったか。 女性が、少年に向かって・・・少年の名を呼んだ・・・「・・・」 ニルロゼは、答えられなかった。 今、今、なにか、言ってしまったり・・・ 体の一部を動かしてしまっては、取り返しがつかない事になる、そんな気がした・・・。 女性・・・ロゼは、濃い青の瞳に、少年の姿を刻んでいた。 逢うつもりはなかったのだ。 だが。 ずっと・・・ずっと・・・ 待ち焦がれていた人が、目の前にいる。 あれは、1年ほど前のことか。 当時はここから更に南に行った場所で、班を形成していた。 ロゼは、子供と川に行って水を汲んでいた。 そこで・・見たこともない恐ろしい化け物に、子供を持っていかれてしまったのだった・・・ その後は、ずっと。 傍で、一緒にいてくれた人がいたのだ。 一度つけた名前、ニルロゼの名前も、その男が、ロゼ、ロゼと呼ぶから・・・ いつの間にか、ロゼになった。 だが・・・「忘れたことはなかったわ」 ロゼは、勤めて冷静そうな声で、目の前の少年に話しかけた。「元気そうね」 ニルロゼは、暫く息をするのを忘れていたが、やっと息を吸って、ようやく言った。「あ、ああ・・ き、君も、元気そうだね」 それだけ言うと、ちょっと横を向いてしまった。 なんだ? ほかに・・・ 言いたい事があったような・・・ 遠くで、小さな子供が泣くのが聞こえた。「あ」 ニルロゼは、ちらりと”ナーダ”を見て言った。「そういえば、子供は大きくなった? さっき、サーシャの子供を見たよ」 ロゼは、笑いながら首を振った。「死んでしまったわ」 ざざざ・・・ 朝の冷たい風が吹いた・・・「あ、そういえば、結婚するんだって? 俺はさあ」 ニルロゼは、顔が段々赤くなってきた。「俺・・・・ 今、今でも、メルサを追いかけているんだ・・・ 君の傍にいたかったけど・・・ でも俺、メルサの核を追いかけていたんだ」 少年は、これ以上にないほどに、赤くなって、聞き取れないような小さな声で言った。「あ・・ あの・・・ メルサを追いかけている途中なんだ、ナーダ・・・ 途中なのに、急に、君の事を思い出したんだよ。 だから、来てしまった。 悪かったね」 ニルロゼは、女性に背を向け、その場を一歩、離れた。「君が無事で・・・よかったよ。 逢えて、うれしかった。 じゃあ」 ニルロゼは、更に一歩、前へと歩んだが・・・ ぐるり、踵を返し、ダッと、女性の方へと大きく歩み寄って。 両の腕で、女性の肩を掴んだ!「ごめん、・・・ごめん」 そう言うと、ガバッと、ロゼを抱きしめてしまった。「ごめん、俺は、かなり、身勝手かもしれない、けど、許してくれ、 俺・・・」 しばらく・・・ ニルロゼは、突っ立った姿勢のまま、ロゼを、胸に抱きしめていたが・・・・ どこからか、また小さな子供の泣き声が聞こえてきて、ニルロゼは、少しだけ、瞳を開けた。「ナーダ・・・ 君、名前を変えたってね・・・ だけれど、俺にとって、君はきっと、ナーダのままだ・・・ 君は何回も何回も、俺を・・・ 俺を呼んでくれたね・・・ 俺は、そのたびに、君に助けられていた事に、ずっと気が付かなかったよ・・・。 きっと、今回も、君に助けて欲しかった・・・・ 俺は、いつも我侭だな・・ 俺の目の前が見えないとき、君に助けて欲しくなる・・・」 ニルロゼは、少しだけ、”ナーダ”を胸から離した。「君の安全が確認できれば、俺はもう大丈夫。 俺は、次に進む、ナーダ。 もう、君の助けはいらないよ。 俺、今、最高にイイのが傍にいるんだ。 俺は、そいつに助けてもらって、今ここにいる。 だから、君も・・・ 君も、君の道を」 ニルロゼは、ロゼを腕から離そうとした。 目の前の女性と、瞳が合わさった。「・・・」 ニルロゼは、ちょっとだけ・・・ 目の前のその瞳を覗き込んでいたが・・・「ねえ」 少年は、また照れたような顔つきで言った。「ええと。 前・・ こういうとき、どうすればいいかって聞いたよな・・・ 俺は、今、ああいう感じのを、して欲しいなと、思っている。 ダメかな」「ダメ」 ロゼは、速攻でそう言うと・・・ 目の前の少年の高い背に、両腕を回し、ゆっくり抱きついて・・「そう思っているなら、目を瞑りなさい」 と、言って、顔を近づけた。「・・・」 ニルロゼは瞳を閉じて・・・ 思わず、息を止めた。 唇が触れてくる・・・ ハーギーでの時とはまた違った、感覚が、した。「呆れるわ」 サーシャが、つくづく、首を何度も振りながら、ロゼと並んで村の中を歩いていた。「あんた、まだあいつが好きだったわけ・・・」「違うわ」「また、また~」 サーシャは子供をあやしながら、自分達の住む家へと入っていった。「結婚、どうするの」「するわよ」 ロゼは、憂いる瞳を宙に泳がせながら、言った。「あら、それは当て付け!?」 サーシャは、思い出していた。 ニルロゼと一緒にやって来た、とんでもない美少女のことである。「ううん?」 ロゼは、軽く笑った。「吹っ切った、ってところかしらね」「ふうん?」 サーシャは、眠った子供の顔を見て、また溜息をついた。「それよりサーシャ」 ロゼは、足を伸ばして言った。「あなたも、意地を張らないで、素敵な人の傍にいたら?」「・・素敵な人なんて、いたかしら」 サーシャはムッと頬を膨らませて言った。「ぎえええええええええ」 また、とてつもない悲鳴があがった! 家の外を守る男達が、ひい、と耳を塞ぐ。 今日は、朝から、この小さな家の中から・・・ブナンとカンの悲鳴が飛び交っていた。「おお、怖・・・ いったいどんな荒治療してるんだ」 中年の男が、家の扉に目をやる。 もう一人の青年と共に、家の前で見張り番をしていた。 中年男は、青年に片目を瞑って言った。「あの、すっごい別嬪さん、どう思う?お前」「え・・・」 言われた青年は、少し赤くなった。「え?そ、そりゃ、すごい綺麗だなあとは、ね」 と、また家からまた悲鳴があがる。「あの子、ニルロゼの・・なんなんだろう」 中年男は、ちょっと舌なめずりして、ニヤっと笑った。「俺もぜひ、あの子に治療して貰いたいもんだ」 と、小さな家の扉がカタリと音をたて・・・ 開いて、中から。 ゆるり、と、黒い外套を着た人物が出てきた。 朝の光に照らされているにかかわらず、その表情は、髪に隠れていた。「アルジェさんという方を、お呼びしていただきたいです」 黒い外套の人物はそれだけいうと、また家に引っ込んだ。「うは。 怖っ」 中年男は、肩をすくめると、青年に、アルジェを連れてくるように言った。「ふふふん♪」 ビアルは、唇だけを笑わせていた。 そのビアルの脇に転がっている男どもは、もはや精根尽き果てているようである。「チッチッチ・・・甘いですねえ・・」 その指を左右に動かし、クスリ、また、笑った。 ビアルは、きらりとする瞳を髪の隙間からのぞかせ、腰に手を当ててふんぞり返った。「さあ、ご理解しました?私も怒ると結構怖いのです」 そう言うと、ブナンの足から視線を外し、カンの肩に視線を移した。「はい、カンさんもですね、そろそろ白状した方が、らくーーーに、なりますよお?うふふふ」 ビアルが、ぎらりとカンを睨んだ。「わ“ああああああああ」 また、小屋から 悲鳴が上がった! 数人の男達が、慌てて、女性を一人、引き連れて来る。 連れて来られた女性もまた、青い顔をしていた。 悲鳴の合間に、扉が叩かれた。「どーぞおおおおおおお」 なんだか、機嫌のよさそうな、声が中からした。 家の中は、悲惨な状態であった。 床のあちこちに血が飛び、そして黒い外套を纏った人物もまた・・・ 顔を血に染め上げて、ニタリ、笑った。「うふ。 いらっしゃいませーーー」 おどろおどろしいその雰囲気に、男達も、女性も、圧倒されていた。「あ、あなた、なにをしたの!」 思わず、女性が声をあげる。「うふ。 なにって、私は薬師・・・ 治療していた、それだけですう」 なんだか、黒い外套の人物、かなり、足元も口調もフラフラとおぼろげない。「アルジェさん、ですね~。 これから大事なお話があるです~。 ささ、なかへ~」 黒い外套の人物が手招きし・・・ 女性、アルジェは、恐る恐る、部屋の中に入った。「はーーーーー」 黒い外套の人物は、でっかいため息をついた。「ええ~。 私は、ビアルですう。 いちおう、薬師です~。 ええと、一度診たお方は、最後まで責任持つのが私の主義~」 黒い外套を着たビアルは、ほにょーんとした声で言うと、疲れたかのように、ふんわりと座った。「ですが~。 ええと、もう今日ここを出ないとならないのですう~。 はい、では、ブナンさん、あとは、きちんとあなたが言って下さい」 ビアルは、がっくりと、壁の方に寄りかかって座り込んだ。「え・・?」 女性は思わず、ビアルの方と、ブナンの方を、見比べた。 眠ってしまったビアルを背中にくくりつけ、ニルロゼは、来た道を、馬のリュベルと引き返していた。 ゴウポル・ゲーギ達とも、一度顔をあわせ、そして数名の仲間にも挨拶もすませた。 カンに逢わないでしまったが、まあ、カンなら、きっと大丈夫だろう。 なんたって、ビアルが治してくれただろうから。「な、リュベルちゃん」 ニルロゼは、栗色の毛の馬の首を撫でながら、馬をゆっくり走らせた。 結婚・・・ まだ、それがなにをどう・・・ 意味するのか・・・ まだ、本当はよくわかっていなかった。 でも、なんとなく・・・ もう、ナーダは、俺がいなくても大丈夫なんだな、って・・・思ったのだ。 そして、俺も。 ニルロゼは、背負ったビアルの体温を感じながら、城の姫の所に戻るべく・・・ 馬を走らせた。 あの、おそろしい獣の声は、昨日しなかったし、もう居ないだろう・・・ あとは俺は・・・ 俺は、赤を。 ニルロゼは、ぐっと唇を噛み締め、東へと向かっていった。************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
December 5, 2013
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こんにちは、月夜見猫です。ぼちぼち小説を更新していますが、その末尾に参加ランキングへのリンクを張る事ができません。というのは、小説の中身の方が、本文の制限文字を超えてしまうからです。1つの話を2つに割って載せてもいいのですが、それだと書いた時の勢いが折られるし、というわけで、何話か書いているうちリンクが張れなかったらランキングリンクを別記事にしてUPするという方向にしてみようと思いました。時々ランキングバナーだけの記事が出るかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです(*^^*)************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
November 10, 2013
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「あの」 あくまでも、柔らかい声が発せられた。 まるで・・・これから日が昇り、段々と明るくなるこの朝の陰影をそのままに具現化したかのような声。「あまり、私の大事な人を苛めないで頂きたいですね」ビアルが、微笑みながら、ゆっくり言った。「カンさん。 そして、ブナンさん・・・ 私は、ニルロゼと出逢って数月しか過っていません。 が、彼の性分は、ずいぶん判っているつもりです・・・ ニルロゼは、あなた方が言っているような、回りくどい言い方では、理解できないですよ。 ご存知ないのですか・・・」 ビアルは、ブナンの両足に両手をあてがいながら、ふわりと首を傾げた。「どうして、もっとはっきり言って差し上げないのです? そのナーダさんは、結婚するのだ、と。 結婚を控えた女性に、昔の恋人を逢わせる訳にはいけない、と・・・」 ビアルは、ブナンの足を丁寧にさすりながら、ほんのりと言った。「ご心配及びません・・・ ニルロゼには、既にもう、この私というものがあります」 言い切った。「は?」 思わず、カンが身じろぎし、肩に激痛が走り、その顔を苦痛に歪める。 ニルロゼは、相変わらず、何の会話が繰り広げているのか、その話の中身は判るのに・・・なのに、判るのに、頭がついていかない。「全く、未だにニルロゼは、ナーダさんの名前を馬鹿の一つ覚えのように繰り返すのです。 今ニルロゼはですね、追いかけるものがあるらしく・・ それを見つけるのに、命をかけているのですね。 私はニルロゼのそのようなところに惚れ込んだのです。 ですがね、まあ、ニルロゼも普通の男となんら変わらない部分があるようで、ナーダさんに逢わないと、どうしてもにっちもさっちもいかないと申しているのです。 嫌な男です。 一度、二つは追えぬと言っておきながら」 ビアルは瞳を伏せ、ため息を吐くように言葉を続けた。「私の顔を立てて、ナーダさんに逢わせていただけませんかね? まあ確かに酷かもしれませんが、女性は現実的な生き物なのです。 過去の男にいつまでも縛られないのです。 そしてニルロゼは単純明快です。 未来のために、ナーダさんにお遭いしたいのですから」 ビアルは顔をあげ、ニルロゼの方を見つめた。「ニルロゼ。 さて、流石に鈍いあなたでも、話が理解できて来ましたね? ナーダさんは、ご結婚されるようですよ。 このお二人は、ご結婚前のナーダさんの気持ちを乱してはならない、と、あなたが逢うのを引き止めているのです。 いくらあなたでも、そのぐらいは理解できますね?」 ビアルが言葉を区切るが、ニルロゼは、まだ、硬直した表情のままである。「・・・結婚の意味さえ判らないとか言いそうですね、これは困りました」 ビアルはやれやれ、という表情になった。「カンさんとブナンさんがおっしゃっていましたね。 一生涯、相手を支える、それが結婚ですよ、ニルロゼ。」 ビアルはブナンから手を離し、ゆるりと立ち上がった。 一足・・・一足と・・・・ ニルロゼの方に、近づく。「ニルロゼ。 よく、聞いてください。 女性はですね、できるなら、愛する人と、生涯を供にしたいと思うものです。 ところが、人間の摂理・・・まあ、動物の摂理、ですかね。 我々は、子孫を残すようにできているのです。 つまりは、結婚は、二つの意味がある・・・ 女性が夢を見るような結婚と、そしてもう一つ・・・ 子孫を残すという目的ですね」 ビアルはとうとう、ニルロゼの目の前に立ち塞がった。「ナーダさんは、どのような理由か、どなたかとご結婚する事を決心されたのです。 ですから、あなたは、もう蚊帳の外という訳ですよ。 それでも、ナーダさんにお逢いになりますか」 遠い・・・・・ 長い、時間が。 過ぎたようだった。 ニルロゼは、目の前のビアルの瞳に、自分が映っているのをみつめていた。 ずっと・・・前も。 こうだった。 ニルロゼは、ふっと肩を落とすと、ふらりと後ろを振り返り、家から出ようとした。「待て、どこに」 カンが慌てて呼び止めようとするのを、ビアルが制した。「ニルロゼ、私は明日にここを出ますからね」 ビアルの声が聞こえているのか・・・ニルロゼは、音も無く家から出て行った。「さて」 ビアルは、きゅっと美しく笑った。「私の大事な目覚ましを散々苛めて下さったこの御代は高いですよ」 ビアルは、ぬっと外套の両腕を捲り上げ、まずはブナンの上体を引っ張って、カンの頭の方に、ブナンの足を持ってきた。「ふふ。 私を侮っていただいては、非常に困ります。 私は、今まで、ぜんっぜん! 中途半端な治療しかしてなかったんですからねえ・・・」 ニヤリ・・・ ビアルが、美しい顔で、恐ろしい笑みを作った。「あなた方・・・ 私の大事なニルロゼに、あそこまで言うという事はですね、ご自分方も、それなりの覚悟がおありですね? ふふふ。 私が本気になったら、ニルロゼが味わった以上の事を、あなた方は味わうのです。 さー、いいですねっ」 ビアルは、捲り上げた両腕を、くわっと構えると、まるで恐ろしい魔術師かのような笑みで、唇を吊り上げ、その瞳をきらきらとさせた! 霧が・・・ 出ていた。 チラリ、チラリと、その人物の影を見る男たちが居た。 彼らは、ニルロゼという男が、他の者に発見されないようにと、硬く言われていた。 彼らは、ニルロゼの動向を注意深く見ていた。 その、ニルロゼ。 まるで、幽霊のように、ふらふらと歩いていた・・・ ふら、と止まってみたり、また、一歩歩んだり・・・ それを繰り返しながら、とうとう、この班の出口へと、ニルロゼは辿り着いた。 ニルロゼは、がっくりとうなだれた表情で、深いため息を付いた後・・・ 出口を守る男の一人につぶやいた。「・・・俺の前にここに来た、旅人は」 護衛は、やや汗ばんで答えた。「ケルジのところにまだ居る」「そうか・・・ あの旅人は、ミョールという異国に行こうとしている。 誰か、志のある者があれば、彼らに付いていってほしい・・じゃあな」 ニルロゼは、それだけ言うと、とぼとぼと、出口から外へ出た。 太陽が、東の大地を染め始めている・・・ ニルロゼは、ちらりとその空を見たが、よろよろと大きな樹の近くに行くと、その樹に抱きついて、そして倒れこんで、再び大きな溜息をついた。 結婚? ニルロゼは、ワンワンと鳴り響く頭の中の音の中で、必死に考えた。 一生を、守る・・・・ いつの間にか、少年は、両手をきつく握り締めていた。 ただ、逢いたかった。 それだけだ。 それだけなのに・・・・ 若々しい少年の頬に、熱い涙が伝った。 涙が出ていることすら気が付かず、ひたすらに、首を振り続けた。 俺は、 俺は・・・ 地面に臥せったまま、ニルロゼは、声もなく泣き続けた・・・ 昼。 夜。 丸一日・・・ それから、ニルロゼは、ひたすらに、剣を振り続けた。 ンサージから教わった、剣舞だ。 何種類もの剣舞があった。 その中でも、ンサージが、一番好むと言っていた型・・・・ ンサージが、構え、かざし、繰り出す・・・ その姿を脳裏に浮かべ・・・ ただ、その姿を、浮かべて、ひたすらに。 美しくも、攻撃性と防御性を兼ねたその舞を、数人の男が、遠巻きに・・・惚れこむように見つめていた。 彼らは、ニルロゼの名を知らない者はなかった。 ハーギーで、一番強いのではないか、と言われた少年。 そして、東の鍛冶が認めた男。 夜も過ぎ、また朝が来る・・・ とうとう、ニルロゼは、樹に背を預けて、明け方の星を見ていた。 リュベナのことが、思い出された。 あの、怖いお姫様のところに・・・ そろそろ、戻らないとナ・・・・ ニルロゼが、入り口を守る者の方に近づこうとした時。 向こうで、誰かが手招きしているのが見えた。 少年は、少し首を傾げ・・・ そして、瞳を左右に動かすと、手招きする者の方へと音も無く走り寄った。「?」 その手は、物陰に隠れていたが、やがて、手の人物が現れる。「・・・」 ニルロゼは、ちょっと息を飲んだ。「あなたは」 唖然として言うしかなかった。 その人物は、女性だった。 ハーギーから出て、カン達の班に別れた時・・・ ナーダと一緒にいた、あの人だった。「君は・・ええと、」「私は、サーシャよ」 サーシャと名乗った女性は、腕に小さな子供を抱いていた。「・・・カンから聞いたよ。 女性は好きな名前をつけたって。 元気そうだね。 君の子供?」 ニルロゼは、ちょっと笑いかけた。「・・・私も、聞いたわ。 すっごい美人さんからね。 あなたが、ここに来ているって」「・・・」 ニルロゼは、スヤスヤ眠る子供に目線を落としながら言った。「俺、間違っているかな・・・ やっぱ、そうなのかな・・・ 俺は、もう少ししたら、出て行くよ。 あいつには、俺が来た事、言わないでくれ」「あいつって誰」 サーシャがピシリと言った。「・・・そ、それは・・・」 ニルロゼは、ちょっと赤くなってそっぽを向いた。「・・・あなた、やっぱり、あの子に逢いに来たのね。 呆れた人だわ」 サーシャが言うと、子供が目を覚まし、ぐずり始めた。「あ、ごめんごめん。 よしよし・・・」 サーシャが子供をあやす様子を見て、ニルロゼはあることを思い出した。「そういえば、ナーダの子供はどうなった」「・・・」 サーシャは、上目使いでニルロゼを睨んだ。「あの子は、今、ロゼって言う名前よ」「・・・ロゼ?」 ニルロゼは、瞳を丸くして驚いた。「そうよ。 あの子、最初ね、名前をニルロゼにしたのよ。 その後、ロゼにしたの」 サーシャは子供をあやしながら言った。「あんた、本当に好かれていたのよ」 ちょっと、間が開いた。「でも、過去だってさ」 ニルロゼは、頭に両手を当てた。「俺は、過去だって。 それに、ナ・・・えっと、ロゼは、結婚するんだろ?」 ニルロゼは、足元の草を蹴りながら言った。「ねえ」 サーシャが小声で言った。「あなた、どうしてあの子に逢いに来たの」「・・・」 ニルロゼは、また、カン達と同じような押し問答になるのか、と、がっかりしながら、それでもなお、同じ事を言った。「俺は、どうせ、馬鹿だよ、サーシャ。 俺は、単純なんだ。 あいつに逢いたいんだ。 それだけだよ」 ニルロゼの表情を見ていたサーシャが・・・ ふふ、と瞳を西に向けた。「だって、言っているわ」 サーシャが言い終わらない間に・・・ 西の岩陰から、人が現れた。 普段のニルロゼなら、人の気配を読めないなどということはない。 だが、今のニルロゼは、”普段”ではなかった。 色々な思いが1日中押し寄せ、それを整理するのが精一杯だった。 やっと、その思いを、どうにか自分なりに纏めた、そんな矢先だったのだ。 そんな矢先、のニルロゼの前に・・・ やや、赤茶けた髪の・・・ 小柄な女性が・・・現れた。 いつの間にか、二人は、まさに二人きりで、お互いみつめ合っていた。 時が、止まるかのようだった。 風も・・・音も・・・ 朝の光さえも・・・ 少年ニルロゼは、ただ、目の前の女性にその瞳が注いだ。 そしてニルロゼの口が、わななくように、やっと、開いた。「ナーダ・・・」 なんとも、この情景には、不釣合いな、情けない一言であった。 だが、少年にはそれしか言う言葉がなかった。 彼女に駆け寄って、その手を取って、その瞳を捕らえたかった。 だが、ニルロゼの足は、留まったままだった。 その想いと裏腹に、体は、全く動かなかった。
November 10, 2013
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「うう、俺としたことが。 お前があんなんと一緒のわけないよなっ! ああ、よかったよかった・・・うう・・・」 あまりのニルロゼの取り乱し様に、連れて来た男達が呆れた声を発した。「おい、大丈夫か、ニルロゼ・・・」 男に、肩をゆすられ、ニルロゼはようやく我に返った。「お、おお・・・すまんな、ケルジ。 俺としたことが、ちょっとな。 そ、それよりどうだ、カンは」 ケルジと呼ばれた男は、暗い表情で、顔を横に振った。 もう一人の男も、同じくうなだれている。 ニルロゼは、蝋燭の明かりで、カンの傷を改めて見た。 肩が大きくえぐられていた・・・「これは・・・骨が見えるな」 ニルロゼも、流石に再び青くなった。「ビアル・・」 ニルロゼが、ビアルを振り返った時・・・ ビアルは、体を起していた。 こちらを見ていた。 片膝を立て、その膝に腕をかけている。「・・・」 その場に居合わせた・・・ 皆が、息を飲んだ。 ビアルの居る方向には、蝋燭はない。 なのに・・・なぜだろう・・・・ その、かもし出される雰囲気から、煌煌たるきらめきすら、覚えるような・・・ 今までに、味わったことのない、美しい、その存在・・・ ビアルは、ゆっくり、立ち上がり、そして、カンの処に座った。 瞳をニルロゼに向ける。 そして、周りの人々に向けた。「・・・ニルロゼ。 あなたの言いたい事は、判りすぎます。 あなたの思っていることは、とても単純ですね・・・」 くすり、と笑って、カンの肩に手を触れた。 ケルジが、思わずビアルの美しさに見とれ、そしてもう一人の男も、息を飲んで立ち尽くしていた。「さて」 ビアルは、ぽつり、と言った。「ニルロゼ。 どうしましょう。 この方々が、こうやって、じーっとご覧になっていますと、とてもやり難いです」 ビアルは、恐ろしいほどの美しい笑顔を煌かせた。「あ・・・」 ニルロゼは、ちょっと回りを見回した。「ああ。 ケルジ、こいつは、ビアルってんだ。 治療に関してはすごい。 それは俺が保障する。 ええと、どうやらビアルは人払いを希望している。 すまんが、この方たち、別の場所に移動させてくれ」「・・・」 ケルジが、戸惑ったが、馬車に乗ってやって来た客人達が、立ち上がった。 それを見たケルジは、仕方なく言った。「じゃあ、君たち、俺の家でよかったら、来てくれ」 ケルジは、客人4人と、女性2人を外に出した。 ニルロゼも、外に出ようとした。「ああ、ニルロゼ、あなたはここに」 ビアルが言った。「へ?」 ニルロゼは、ちょっと冷や汗をかいた。「あなたは、ここに」 ビアルは、振り向きもせず、同じ事を言った。 ニルロゼは、部屋の隅で、ビアルに背を向けていた。 ビアルの治療の邪魔にならないように、だが・・・ この場合は、外にいた方が、ビアルが集中できるような気がするのだが、なぜ、自分を残すよう言ったのだろう・・・「ニルロゼ」 ビアルが柔らかな声で言って来る。 ニルロゼは、ちょっと首筋が痒くなった。「この方が、もう一人、治して欲しい方がいると、言っています」「は!?」 これには流石のニルロゼも唖然として、ビアルの方を見た。 ビアルは、カンの肩に手を当てていた。 その顔の表情は、よく見てとれない・・・「その方を連れて来るよう、表の人に言ってください」「・・・」 ニルロゼは、ぶすっとして表に出ると、家の前で待機していた者に、小声で言った。「おい」 ニルロゼに話しかけられた青年は、ビクリとして振り返った。「ブナンの体の状態は、どうなんだ」「・・・」 青年は、やや、ぎこちない表情をして答えた。「ブナンさんは、足を酷くえぐられ、歩けない状態です。 回復は無理でしょう。 あれから、ひと月経ちました」「そうか。 じゃあ、ブナンを担いで連れてきてくれ。 美しいお姫様が、治してくれるかもしれん」 その夜・・・ずっと・・・ ビアルは、聞き取れないような小さな声で、なにかを言っていた。 小さな炉を作って、火を起し、そこで薬も調合しているようである。 ニルロゼは、ずっと、ビアルに背を向け、壁を見つめていた。 どうして、ここに残るようにと、言ったのだろう・・・ 俺は、治療の役に立たないし・・・ あいつの精神集中に、邪魔かもしれない。 なのになぜ? ニルロゼは、胡坐と腕組をしたまま、瞳を閉じていた。 カンの居る班に、今いる・・・ ここのどこかに、ナーダが・・・ 深く、瞑想した。深い呼吸。 自分も、精神を統一させた。 「ニルロゼ」 呼びかけられた。「ニルロゼ」 二度、呼ばれ、ようやくニルロゼは我に返った。 蜂蜜色の髪の少年は、ちょっと慌てて振り返った。「カンさんが、お呼びです」 ビアルが、ブナンの足に両手をあてがいながら言った。「カンさんは、ずいぶん酷い方です・・・ 朝までに、どうにかしろとおっしゃいました」 ビアルは笑いながら、ちらり、とニルロゼを見た。 どうにかしろ、とは、どういう意味だろう・・・「カン・・」 ニルロゼは、黄色い葉が貼られたカンの肩を見ながら、カンの脇に膝をついた。 カンは、まだ青い顔をしていた・・・「ニルロゼ・・・」 カンが、くすんだ表情で、瞳を開けてきた。 ニルロゼは、カンの手を取った。 が、カンは、弱弱しく、その手を振り払った。「馬鹿野郎」 カンは、瞳に精一杯の怒りを込めて言った。 ニルロゼは、一瞬、なにを怒られているのか、と、戸惑った。「お前が、あそこであいつと闘っていなかったら、俺はお前を殴っていたぞ・・・」 カンは、途切れ途切れに言った・・・「カン・・ど、どうしたんだよ・・・」 ニルロゼは、あたふたとして、困ったり、驚いたり、様々な表情を浮かべた。「お前・・・なにしに、ここに来た・・」 カンは、肺の息を全て吐きつくすように言った。「え・・・」 ニルロゼは、一瞬言葉が詰まった。「ええと・・」 ニルロゼが言葉を選んでいると、カンが畳み掛けるように言った。「答えられないなら、すぐに出ろ」「えっ」「俺がまともな体だったら、お前を斬ってでも、ここに入れなかったぞ」「え・・・」 ニルロゼは、流石に、表情が硬くなってきた・・・「カン・・・どうして? なにがあった・・・」「なにがあった、だと? 俺の質問に答えろ・・・なにしに来た」 再び・・・間が開いた。 ニルロゼは、息を整えて・・・そして、唾を飲み込んで・・・ ちょっと、心臓の辺りに手を置いて、言った。「・・・お、俺、ナーダに逢いに来たんだ・・・」「ふん」 カンが、鼻で笑った。「じゃあ、やっぱり速攻で外に出ろ・・・ナーダはいない」「なに!?」 ニルロゼは、思わずカンに取りすがった!「そうだ。ここには、ナーダはいない」 カンは、端正な顔を、ニヤリと笑わせた。 ニルロゼは、瞳を大きく開けると、首を振って半分叫んだ!「ど、どこに!じゃあ、どこに!!!」「ふ・・・やっぱり、お前は、まだガキだ。 いいか、ここの女性の名は、前は全員ナーダだった。 そして、その後、それぞれ名前を好きな名前に変えた。 だから、ナーダなんて女性はいない」 カンは、瞳を瞑って言った。「カン!あ、あんた・・・ 俺を騙そうったって、そうはいかないぞ!? あいつを見ればすぐにあいつがわかる・・・ 俺は、あいつに逢いたいんだ!!!!」「なぜ」 素早く、カンが言った。「なぜ、逢いたい」 また・・答えられない・・・ 少年、ニルロゼは、”ナーダ”を任せた男、カンの変わりきったその表情に、ただ、唖然とした。「なぜ・・・」 ニルロゼは、宙に視線を泳がせた。「ニルロゼ・・・時間というものは、酷なものだ。 お前が俺らから離れてもう1年半・・・色々変わるんだ・・・ 女性の名前も変わったし、 俺らの住む場所も変わったし・・・」「カン!お・・俺は、変わらないよ! 俺は、今も、赤を探している・・・ 赤を見つけるために、俺、もう一度だけ、ナーダに逢いたいんだ・・・」 また取りすがるニルロゼに、カンが笑った。「ニルロゼ。お前は子供だ・・・ 俺の質問にきちんと答えろ。 なぜ、彼女に逢いたいんだ・・・」 ニルロゼは、首を振った。 ああ・・なぜだ? なぜ?そんなこと・・・「そんなこと、わからないよ・・・」「ふふ・・・判らないお前は、彼女に会う資格はない」「どうして!!!!」「カン、坊主を苛めるのはそのぐらいにしろ」 急に、太い男の声が横から割り入った。 ブナンである。 ブナンもその体を横たえていた。 ハーギーで1、2を争うかという力の持ち主、そして、頭も切れるこの男。 ニルロゼも、カンの次に尊敬している男である。「ニルロゼ。 お前は、あいつに惚れられていた・・・ そのぐらいは、理解していただろう? その女を残し、お前は出て行った。 いいか、女というものは、現実的にできているんだ。 構造的にも、精神的にもな。 一度好きになった男はとことん惚れ続けるのが女の恐ろしいところでもある・・・ またその逆も真なり」 ブナンは、ニルロゼを見ずに言った。「お前は、あいつが好きなのか・・?ニルロゼ? あいつが好きだというなら、逢っていくがいいだろう・・・」 ブナンは、やっと、顔を横に向け・・・ ニルロゼの瞳を真っ直ぐに捕らえた。「ただし」 きり、とブナンの表情が変わった。「ただしだ。 あいつを、きちんと最後まで、そう、きちんとだ! 支えて行くか?それができるか?お前に? 一度突き放しておいて・・・ また逢いたいなんて、都合がいいと思わないのか? 女は、そう、また言うが・・・ 女は現実的なんだ・・・ お前は、あいつを、生涯、そう、生涯をだ。 支えていけるか?」 ニルロゼは、呆然とその場に固まっていた。 彼は、何が言われているか・・・ その言葉の表面上の事は、理解できていたが・・・ 頭の中で、その言葉が鐘のように鳴り響いて、何度も繰り返して・・・クラクラしそうだった。「お、俺は・・ただ・・・」 焦点の合わない瞳で、ニルロゼがつぶやいた。 カンが、首を僅かに振った。「ただ、なんだ・・・ そんな生半可な気持ちか・・・ お前は、相手を傷つける事を知らないのか? お前はなにも判っていない・・・ どれほど、どれほどあいつがお前を想っていたか・・・ あいつの身の回りに変化さえ起こらなければ、もしかしたら俺はお前を止めなかったかもしれない。 が、物事、世の中というのは・・・ そう、時間というのは、皮肉だ、ニルロゼ。 お前は、誰かを本気で好きになったことがないのか・・・ 心の底から・・・あいつは、本当にお前を好きだったんだ・・・ でも、過去のことだ」 カンが、はっきりとした口調で唇を一度閉じた。「そう、過去だ。 お前は、もはや過去なんだ、ニルロゼ。 過去を蒸し返すか? 今、もはやお前は出る幕はないということだ。 お前は、彼女を傷つけるだけの対象なんだ。 俺の言っている意味がまだ判らないか・・・ あいつを・・・生涯、だ。 支える。 それだけの度量があるというなら、逢うんだ。 そして、ここに残る。 そのつもりがあるなら、逢え」 カンは、面倒くさそうに瞳を閉じた。 ニルロゼは・・・ カンの顔を見ていたのに・・・ その顔が、よく見えなかった。 今、自分は、どのような状態に置かれているのか・・・ 今、なにを言われているのか・・・ ここまで言われてなお・・・ ニルロゼには・・・まだ。 理解が、できていなかった・・・ いや、理解したくなかったのかもしれない・・・
November 7, 2013
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つつ・・・・ ニルロゼは、足をやや後方に下げた。 どんなに斬っても斬っても、相手の速度が変わらなかった。 それに、気のせいだろうか・・・ ヤツの大きさが・・・ 大きくなっている・・・・ ニルロゼの鼓動が、やや、早くなっていた。 あの獣は、明らかに、人がいるほう、いるほうへと、向かっていた。 どんなに食い止めようとしても、あの馬車があったほうへ、じりじりと、近づいていた。 まったく何も思考がない、そう、生きるためとか、摂取のためとか、そういう短直的な動物との戦いなら、まだ、どうにかなる。 しかし、相手は、普通ではない。 こんなものが、馬車に向かったら、馬車はひとたまりもないだろう。 ニルロゼは、何度目かの攻撃をしかけたが、とうとう相手に振り切られた! 相手が速度が速い!「くっ!」 動物の足が繰り出されてくるのを必死に避け、体制を立て直したが、また腕が襲ってくる! 素早く剣を構え、斬りつけたが、相手の速さに、ニルロゼはよろめいた! こ、これは・・・ ニルロゼは、一瞬の間に恐ろしい事が頭をよぎった。 これは、負ける・・・「ぐうううううう」 動物が、おそろしい腕を振り上げている。 殆ど最後の力を振り絞り、ニルロゼは後方に飛び去った! ヤツが、こちらを見ていた。 久しぶりの戦慄に、ニルロゼの手が震えた・・・ その震える剣に、自分の顔が映る。 蜂蜜色の・・・瞳。 ちらり。 剣から、獣へ・・・ 瞳を、移した。 こころがまけたとき、すなわち・・・ ニルロゼは、再び息を吐いた。 ヤツの腕が振り下ろされる! その腕に、両手で剣を突き刺した!「ぎゃあああああああああああああああ」 獣は更に大きな声を上げ、腕を振り回した! ニルロゼも素早くその腕から逃れたが、なんと、剣が・・・ ヤツの腕に刺さったままである!「・・・・!」 ニルロゼは、きりっと唇を噛んだ! しかし、更に短剣を抜いた。 盗賊とやりあったとき、きちんと回収してあったものだ。「!?」 思わず、後ろにその剣を突き立てそうになった! 流石に、ヤツとの事で目一杯だったニルロゼは、誰かが近づいていたとは気が付かなかったのだ。「・・・」 ニルロゼの短剣に、剣が軽くあてがわれた。 ニルロゼが今まで持っていた剣によく似た・・・ 少しだけ細身の、美しい剣だ。 その剣を持っている人の顔を、ニルロゼはまさに少年の笑みでみつめた!「カ・・・カン!」 呼ばれた青年は、肩よりやや長めの金髪を揺らして片目を瞑って言った。「再会に喜んでいる場合じゃないぜ」 ハーギーでメルサのところまでを一緒に行った青年、カンに廻り合い、少年ニルロゼは、視線を獣にと戻した。「あいつとやりあった事があるのか?」「いや」 カンの答えは短かった。 腕に剣を差したままの獣が、再度二人に襲い掛かり、二人は左右に分かれた。 ニルロゼは、自分の剣が刺さった腕の方に行った。 なんとしても、あれを取り戻さねば・・・ と、カンが、真っ向から獣に切りかかり、その首元に剣を立てた!「お、おいカン!」 ニルロゼはとっさにカンの方に寄り、更に胸元に斬りつけて、獣を後退させた。「カン、あいつはすごい素早いんだ! あんなに接近したら危険だ」「それは知っている」「なに?」 彼らが慌てて話す間にも、再び獣の腕が襲ってきて、二人は再度二手に分かれた。「ブナンが、やられた」 カンがそう言って剣を構えた。「ブナンが!?」 ニルロゼも、短剣を中段に構え、間合いを取る。「そうだ。 俺とブナンとで、こういうのをやつけようとして、やられた」 カンが再度切り込んだ。 ニルロゼも、短剣で相手の足を突き、そのまま反対側へと走り出る。 襲ってくる腕をかわすと、カンの隣へ並んだ。「ブナンが・・・まさか」「いや、死んではいない・・が」 カンが豪胆にもまた喉元に斬りつけた!「カン!」 ニルロゼは走り寄り、獣の肩の辺りを斬りつけた。「やめろ、ダメだ、こういうやりかたは・・」 そう言う間にも、彼らに獣の足がのしかかろうとして来る。 二人は素早く身を翻した。「ニルロゼ。 あいつは、戦いが長くなればなるほど、不利だ! 見ろ・・・」 カンが言うまでもない・・・ 獣は、ニルロゼが出遭った時と比べ、明らかに大きくなっていた!「ふうううううう」 恐ろしい唸り声・・・ ニルロゼは、思わず額の汗を拭った。「行くぞ!」 カンが再度獣の懐に飛び込む! ニルロゼは、後方に回って後ろ足を切りつけた! 短剣ながらも、狙いと力を間違えなければ、深く傷がつく・・・ 獣が、ぎらり、とニルロゼを振り返った。 喉元から、ダラダラと・・・ 黒い血のようなものを流していた。 ひゅう、 獣の腕がニルロゼを襲う。 少年は、身を低くしてかわすと、カンの方へ走った。「カ・・・」 ニルロゼは、我が目を疑った! カンが・・・倒れこんでいた・・・ 少年が驚いている間もなく、獣が襲い掛かってくる! ニルロゼは短剣を飛ばして獣の目を貫くと、カンの剣を手にとった!「カン、しっかりしろ! すぐに連れていくから」 さっ、立ち上がると、獣の喉元に切り込む!「があああああああ」 ニルロゼが、やった、と口元を思わずほころばせた・・ しかし、その口元は、すぐに・・・硬くなった。 獣の喉元から・・ なにかが、でてきた。 黒い、物体・・・ その時間は、一瞬のようで 長い時間のようだった。 動こうと思えば、動けたかもしれなかった。 が、まったく予期できぬその光景に、ニルロゼはただ立ち尽くした・・・ なんと・・・ 獣の首元から・・・ ずるり、と、獣の頭が出て 体がでてきて 足がでてきて そしてとうとう、ニルロゼの瞳に・・・ ふたつの、黒い。 獣の姿が・・・映った・・・。 口が、渇いていた。 手が、動かなかった。 頭が、ついていかなかった。 獣が、こちらを、みていた。 獣達が、飛び上がって、こちらに向かう。 その速さに、風がおこったかのようだった・・・ と・・・ 獣よりも、もっと黒いものが・・・ ふわり、ニルロゼの目の前に現れた。 一瞬のことだった。 ヤツらが、まばゆい明かりに照らされ・・・ その光に悶えて熔けていくかのように、どんどんと小さくなり・・・ そして、音もなく、消えてしまった。 明かりもまた、消えた。 だが、ニルロゼは、やや暗くなった森で・・・ 目の前に突如現れた人物を、明かりがなくても見てしまった。 なぜなら、その人物は、本当に目の前にいたからであある。 その人物は、微笑んでいた。 ニルロゼは・・・・ あの、獣が二つにわかれたときよりも・・・ 大いなる衝撃を受けていた! こんなことが・・・ こんなことが、あるのか・・・ それは・・・ 黒い、髪の・・・ 黒い、外套を着た・・・ 美しい、人物・・・「・・・」 ニルロゼは、頭の中で、ただ一つだけの、ある名前が恐ろしい速度で駆け巡っていたが、どうしてもその名前を口にできなかった! いや、いや・・・ ちがう!? 長い・・・ 長い、髪だ。 黒い、長い髪・・・ どんな夜よりも どんな闇よりも、黒い・・・ そして、長い外套だ・・ これも、黒い・・・ 白い、顔は・・・まるで、美しい石を磨いたかのように・・・ 黒い、瞳が・・・ ニルロゼを、みつめていた・・・「早めにここを出ないと、またアレが現れますよ」 唐突に・・・目の前の人物が、そう言った。 その人物は、木々に溶け込むように・・・姿を、消して行った。「・・・」 カンが、うめく声を聞いて、ようやくニルロゼは我に返った。 あの獣がいたあたりに、自分の剣が落ちていた。 ニルロゼは、剣を拾って鞘に収め、カンを背負って森を出た。 まだ、夜になっていなかった。 あれほど・・・・・ あれほどに・・・・・ うつくしいひとが・・・いたのか?この世に?? ニルロゼは、驚き、戸惑い、そして、また、しかし捨てきれないある思いを何度も消そうとした。 まさか、まさか、でも・・・ そう・・・ ビアルのはずがなかった・・・・ そう、違う。 ビアルは、もう少し、年が上だ・・・ それに、もう少し、”美人じゃない” そう、そうだ。 ニルロゼは、必死になって、馬車の方へと戻った。 すると、カンが、僅かに、首を振って、南だ、とつぶやいた。 ニルロゼは、少し南に向かうと・・・ 小さな村を発見した・・・ 心臓が、爆発しそうだった。 あの、獣にやられそうになったあの時よりも・・・ もっと、恐ろしい思いをしたような気がした。 あの、恐ろしいほどに・・・ 美しい あのひとは・・・ だれだ・・・ 黒い髪に・・・ 黒い外套に・・・ 黒い瞳・・・・? くそ! ニルロゼは、案内された小さな家に、転がり込んだ! どたり! 靴も脱がず、長身の少年、ニルロゼは、小さな家に上がり込むなり、床にはいつくばった! あまりに慌てていて、カンを背負っていたのを忘れていた。 カンの重みで、平行を失ったニルロゼは、見事なまでに情けない格好で転がったが、そんな事などお構いなしに、また体を持ち上げる。 ニルロゼを村の入り口から案内してきた青年二人が、ニルロゼの背からカンを丁寧に下ろした。「ビ・・・ビアルっ」 ニルロゼは、顔を真っ青にして家の中をぐるりと見回した。 知らない女性が二人。 そして、ゴウポル兄妹。 ジーン姉弟。 ゴウポルが、目を泳がせている方向を、ニルロゼが睨んだ。 そこにはまさに、毛布が蓑虫のように転がっている。「・・・・・・」 ニルロゼは、鬼の様な形相でその毛布にすがりつくと、バッと毛布をひっぺがした!「・・・び・・び・・・・びあるうううううううううううううう」 半分鳴き声で、黒い外套を着た、毛布の中身の人物に、取りすがった!「うわーーーーーん!俺、本当に、死ぬかと思った! うううううう!!!!」 その言葉だけを聞いていれば・・・ニルロゼが、「死にそうに」なった理由が、他の者には勘違いされたかもしらない。 そう・・・ニルロゼが、一番寿命が縮んだのは・・・あの、恐ろしく美しい人物と出逢ったこと。 その、人物が、ビアルではないか、と思ったことだった!************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
November 7, 2013
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ビアルは、その後眠ってしまった。 馬車を牽くのは、ラウポルである。 すやすやと寝るビアルに、毛布をかけて、ニルロゼは窓から外を見た。「どうやらそろそろ・・・かな?」 呟いた・・・・ 美しい薬師が寝たので、ゴウポルはようやく、背の高い少年に聞きたかったことを聞いてみた。「あの・・・この方は、いったいどういう方なんです・・・」 ジーンが、ダメよ、という表情をしていたが、それでもゴウポルは必死に言った。「あれは、あれは・・・契約の時に飲んだんだ、きっと。 それを取る事ができるなんて・・・」 ゲーギは、体力を消耗したらしいが、やや顔色がよくなり・・ 荷台の壁によりかかりながら言った。「・・そうだ。 契約の時に飲んだ・・・」 ニルロゼは、ちょっとビアルを見ながら、青年達に手を振った。「さあ。 ビアルの事は、俺も全然知らないよ。 知っているのは、こいつが寝たが最後、ひどいと4日は起きないって事くらいさ」 ニルロゼは、青年達が、ビアルを見る目つきがかなり変わった事にやや驚いた。 あれを取ったことが、よほどのことらしい・・・「それにしても、今日で3日か・・・ お姫様、怒ってないかな」 口の中でつぶやく。「ねえ」 ニルロゼは、窓の外を見ながら言った。「君らさ・・・ 今後、ああいう盗賊みたいなのに襲われたら、困るだろう? 俺は、ハーギーの仲間の所に向かおうとしているんだ。 そこには、きっと、”しっかりした奴”がいると思う・・・ そいつに頼んで、道中を守ってもらったらどうだ」 ニルロゼの横顔を見ながら、ゴウポルが、少し唇を噛んだ。 確かに、ニルロゼは強かった・・・ 今後、ああいうふうに襲われたら、命がないかもしれない・・・「でも、縁もゆかりもないのに、そんな事頼めるかな」 ゴウポルがつぶやくように言った。「そうか? 君達、バレジって人の所に、頼みごとにいくんだろう? そのバレジとは、縁とか、ゆかりとかあるのかい?」 ニルロゼが、ニヤ、と笑った。 風景は段々、ニルロゼの見覚えのある景色になった・・・ 以前に、通った道・・・ カンの班から離れて・・・ 一人で行動を取り始めた時の、あの頃の風景だ・・・ ニルロゼの脳裏に、段々・・・ ナーダの姿が克明に浮かび上がった。 牢でのこと・・・ ハーギーを出てからのこと・・・ 忘れたことは、なかった・・・ と、ニルロゼは・・・ ふっと、目を左右に動かすと、立ち上がった。 窓の外は、やや夕暮れに近かった。 背の高い少年は、じっと、窓枠から外を見つめていた。「とめろ」 短く、ニルロゼの声が響いた。「馬車を、とめろ」 その表情は、よく見えなかったが・・・ なにか、恐ろしい雰囲気を感じ、ゴウポルは妹に合図をした。 馬車が停まった・・・ ニルロゼは、黙って、馬車を降りた。「君達は、出てこないように」 言い残すと、さっと走り出し、東に見える森の方へと消えて行った。「どうしたのかしら・・」 ジーンが、口元に手をあて、驚いたように言った。「なにかあったのかな」 ゴウポルも、あのニルロゼの尋常ならぬ様子が気になった。「見てくるよ」「だめよ」 すぐに、ジーンが止めに入る。「出てこないようにって・・言っていたじゃない。 もしかして、敵に囲まれているのかも」「・・?」 ゴウポルは、立ち上がって窓から外を見た。 特段なにか変化があるようには見えなかった・・・ 荷台の奥で、あいかわらずビアルは眠っていて・・・ その向かいに、ゲーギが横たわっていた。 ジーンは、こっそりビアルの毛布に触れて、そしてビアルの顔をまじまじと見た。 寝ているときは、なんだか少し、普通の少女のように、見えた・・・ たしかに、感じる・・・ ニルロゼの右手が、剣の柄に・・・既に触れていた。 たしかに、感じる・・・ あいつだ。 ニルロゼは、呼吸を整えた。 左右をゆっくりと見回した。 太い樹が、まばらに生える森だ。 まだ、陽は傾いていないが、木々の陰が、陰影を作る・・・ ニルロゼは、全く躊躇していなかった。 今度で、ヤツのようなものと遭遇するのは二度目。 一度目のような、間違いは、しない。 ひゅう。 ニルロゼは、剣を抜いた。 ざわ・・・ 風が。 出てくる。 ニルロゼは、ただ、宙に、剣を掲げていた。 と、さっと左へと身を翻す! がさ・・ 太い、樹の影のような・・・ 黒い影・・・ ニルロゼは、目を細めた・・・ 剣を、構える。 「!」 切り込んだ! 手ごたえがあった!「ぐおおおおおおおおお」 森を揺らすような、ものすごい獣の声が上がった!「ふううう」 ニルロゼは、剣を構えながら、ゆっくり呼吸した。 目の前にいるのは・・・ あの・・・ビアルに出会ったときの・・・ あいつ、と同じ種類だ・・・ あれほど早く あれほど恐ろしい そんなものが、ほかにもいるとは思いたくなかった。 が、感じた。 あの雰囲気を。 そして、今、目の前に・・・・。 ひゅ、剣を上段に構える。 先ほど、”ヤツ”に切り込んだ剣は、既になにかの液体で黒く染め上がっている。「・・・」 右足を、前に。 あっという間もなく、そいつの”足元”に走りこみ、足を切った!「ごがああああああああああああああああ!!!!!!!」 のたうつ獣に蹴られないよう、飛び退ると、さっと樹によじ登り、刹那、一瞬も迷わずに飛び降りた!「はっ!」 ヤツの頭部に切りつけた! ! な! ニルロゼは、素早く頭部から飛び降り、さっと間合いを取る! な・・・あそこは切り込めない・・・ やや、ニルロゼが焦ると、恐ろしい獣の腕がうなりながらこちらへと伸びてくる!「!」 さっ、後ろに飛び下がる! これでは、”あの時”と同じだ! ニルロゼは、歯を噛んだ! 瞳を瞑った。 剣を構え・・・息を、吐いた。 素晴らしい身のこなしで、再び獣の足元へ潜り込む!「たっ!」 再度切り込むと、再び、猛獣が雄たけびを上げた!「あの声・・・」 ジーンが、馬車の中で身を屈めた。「なにかしら・・・」 ラウポルも、既に馬車の中に居て、ジーンと身を寄せ合っていた・・・ ゴウポルも、なす術がないまま、やや震えて外を見ていた。 と、3人ほど、こちらに向かう者の姿が見えた。「ラウ、誰かが来る・・」 ゴウポルは、腰の剣に手をあてがいながら、馬車を降りた。 どうせ襲われるなら、この方がまだいい。 人影は、段々近づき、そしてこちらに手を振っていた。「ご安心を、旅の方。 我々は、あなた方に危害を加えるつもりはない」 素早く駆け寄って来たのは、体格のいい男である。「あの声、聞きなさったか? 我々も、あれに脅かされていた。 よろしかったらこちらへ。 人数は多い方が、安心できましょう」 いかめしい雰囲気の男たちだった。 安心させるようなことを言って、謀るつもるだろうか? しかし・・・つまらない憶測に脅えるよりも、今は妹達を安全と思える場所に移動させたほうが得策だ・・・ だが・・・。「ありがとうございます。 ですが、一人、残しておりまして・・・ 待っていないと・・」 ゴウポルがそう言った時、馬車の奥からのっそりと、声が響いて来た。「ニルロゼなら、一人で来れます」 そう言ったビアルを、思わず見たジーンだが、ビアルはまだ寝ていた。 どうやら、寝言?らしい・・・? それにしては・・・ ゲーギが、少し笑って言った。「ビアルさんが、ああ言っています。 多分ニルロゼさんは、一人でも大丈夫でしょう・・・」 いかめしい雰囲気の男たちは、少し南に移動した。 そこには、簡素な作りの家が並んでいた。 どうやら、ちいさな村のようらしい。 女性達は、念のため、ビアルの顔が見えないように、”少女”に頭巾を被せ、毛布で丁寧に包んだ。 こんな状況だというのに、まだビアルは寝ている。 ゴウポルと、いかめしい男の一人に支えられ、ビアルは一つの家に運ばれた。「ご安心ください・・・ と、言っても、どこまで信用くださるか。 我らは、元は、ハーギーの出身。 そこから出て、こうやって暮らしている・・」 ビアルが運ばれた家に、同じく運ばれたゴウポルたちに、いかめしい男がそう言った。「そ、そうですか・・・」 ゴウポルは、ただそう言うしかなかった。 その家には、女性が2人居た。 彼らは、あまり話をしなかった。 ジーンやラウポルも、ニルロゼの話をしていいのかどうか、と目を合わせたり、落ち着かない時間が過ぎていく・・・ ごああああああ また・・・ あの、獣の声がした。「あなた方、馬車で旅をされていたと聞いたわ」 家の中に居た女性が、ようやく・・・口を利いた。「あの恐ろしい獣が、数年前から出るようになって・・・ 私の住む町は、殆ど壊滅よ。 その時に、ハーギーの方々に、助けて頂いたの・・ 私はケアナ。 数ヶ月前に、ここに来たの・・・」 ケアナは、平凡そうな顔つきの、20台の女性だ。「私もよ」 隣に居た女性が口を開いた。「私の町もよ・・・ 私は、たまたま別の場所にいたから助かったけれど、誰もたよりにできる人が残っていなくて・・・ 知らない村だけど来てみたら、ハーギーだったの。 最初はもうやぶれかぶれの気分だったけどね。 ハーギーの皆さんが、あなた方を私達の住むところに案内したのは、ハーギーの女性だと、気を使うと思っているからだわ、きっと」 女性二人は、顔を見合わせた。「また、聞こえるわ・・・」 ケアナと名乗った女性が顔をしかめた。「ハーギーの方々が・・・ また、あいつと遣り合っているのかしら・・・」 女性達は、俯いた・・・ ジーンは、床板を指でなぞりながら言った。「ここでは、安心できます・・?」 それを聞いた女性二人は、顔を見合わせて、少し笑った。「まだ、来て日が浅いけど・・・ どうやら、私たちと同じように、ハーギーではない人もいるのよ。 それに、ハーギーの方々は本当に親切よ」「ふうん」 ゴウポルが、ちょっとつまらなそうに言った。 また、あの獣の声が響いた。 ゲーギも、目をしかめた。 ニルロゼは、あの声の主と・・・渡り合っているのだろうか・・・・************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
November 7, 2013
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「なぜ、ミョールに向かっているのです」 馬車の中で、ビアルが、ゲーギの胸をさすりながら穏やかに言った。 相変わらず、ゲーギを膝枕していた。「ビアルさん・・・」 ジーンが、ちょっと心配そうな顔をしながら、弟の手を取った。「あの、足が痺れませんか?」「・・・いいえ?」 その、ちょっと間の外れた会話を聞いていたニルロゼが、窓枠から降りてきた。「あ、ジーンさん。 ビアルちゃんに、焼餅しなくても、いいよ。 こいつ、病人なら誰彼構わずなんだってするよ。 変な心配は不要!」 ニルロゼが、笑いながら、ビアルに寄りかかり、右手でビアルの首に抱きついた。「・・・」 ジーンが、少し顔を赤らめた。 ニルロゼは、既に乾いた服を着ていた。「俺も興味あるなあ・・ ミョール大陸か。 というか、エルダーヤ大陸っていうのも姫のところで初めて聞いたくらいなんだぜ」 と、ニルロゼが言うと、青年達が一同に驚いた!「え・・・」 彼らが驚くのも無理はない。 ミョール大陸ならともかく、隣の、この大地で一番大きな大陸、この大地で一番繁栄している大陸、エルダーヤを知らないなんて・・・「あ、俺、ほんと、なんにも知らないのよ。 なにしろ、聞いて驚くな、おいらは、ハーギーなのさ」「!!!!」 青年達が、明らかに身じろぎした!「・・・そ、そうでしたか・・ どうりで、お強い・・・ で、でも俺の知っているハーギーの印象とは、まるで違いますね・・・」 ゲーギが、溜息混じりに言った。「それは、そうです。 皆様は、通り一遍の・・・ うわべだけの・・・ 見えているだけの部分の物事しか、見ていらっしゃらないからです」 ビアルが、唐突に言った。「正しいもの・・・美しいもの・・・清らかなもの・・・ それらは、なにを指しますか・・・ 憎むもの・・・おぞましきもの・・・穢れたもの・・・ それらは、なにを指しますか・・」 ビアルの言葉はけして強い口調ではなかった。 滑らかで、柔らかく・・・静かで、穏やかだった。 その、瞳もまた、あくまでも、海の底に転がる黒い宝石の様に、静かに瞬いているようである。 しかし・・・今、ビアルが言った言葉は、なにを言わんとするのか・・・ あまりに、抽象的すぎて、そしてあまりに真実を射抜いているようで、しかし、かといって、また・・虚なもののような・・・ 多方面的なその言葉に、誰もが一瞬言葉を呑んだ。「正しいものか」 ニルロゼが、ビアルの首に回していた手を放して言った。「それは、俺の心が正しいとおもったもの・・・ 美しいもの、それは、俺が美しいとおもったもの、 清らかなもの、それは、この世界だ・・・」 ニルロゼが、蜂蜜色の瞳を、馬車の窓から外へと向けた。「憎むもの・・・おぞましきもの・・・穢れたもの・・・ それは、俺らを脅かすもの! 俺は、それを探している! 君達は?!」 にこり、とニルロゼが笑った。「・・・」 ラウポルが、両の手のひらを組み合わせて言った。「なにが正しいか・・・ わかりません。 ですが、ただ、言える事、それは・・・ 私達の兄弟が、契約したにもかかわらず、どんどんと病気になり、そしてアイツラの思うようになっていくこと! あいつらが正しいか、私達が正しいか、そんなことわからないわ! だけど・・・」 ジーンがラウポルにすがり寄った。「私達は、もう、私達のような思いがする人を増やしたくない」「・・・」 ニルロゼは、3人の青年をじっくりと見た。「それは、いいね」 ニルロゼは、ゆるやかな笑みを、満面に湛えた。「その想い、最高だ」 ラウポル達の住む地域では、契約さえ守れば、金が得られたが、おかしな病気にかかったり、また、”黒の者”に浚われていく人がいるのだという・・・ そして、なんと驚くことに、ビアルが言うには、ビアルが治して歩くあたりの村でも、そのような”黒の者”が蔓延しているとのことだった。「いったい、なんなんだ・・・」 ニルロゼは、歯軋りした。 まるで・・・ハーギーの時のようだった。 目に見えない、恐ろしい力を感じた。 ニルロゼが、この青年達の心意気に打たれたのは、自分達がハーギーで味わったような思いを彼らがしていたからだ。 しかしまさか、これほどまでに、似通った境遇を持っていたとは・・・「ところで、そのミョールに行くと、なんか解決するのか?」 すっかり打ち解けあった彼らは、いつしか時が立つのも忘れて話し込んでいた。「ええ。 あの大陸には、まだ神の力が残っているということなのです」 そう言ったのはジーンだ。「神・・・」 ニルロゼが、ちょっとまた眉毛をしかめた。「色々な大陸に、沢山の神がいらっしゃったと、昔聞きました。 それも、村の長老に・・・ その神のなかでも、最後まで気高い力をもっていらしたのが、ミョール神だと・・・」 ビアルに膝枕されていたゲーギがそう言ったとき・・・ ふと、ビアルの手が、わずかに、だが・・・ 力が篭った。「?」 ゲーギは、できる限り、美しい薬師の顔を見ないようにしていたのだが、流石にこのときだけは、思わずビアルの顔を見上げた。 ビアルは、どことも見ていないような瞳をしていた。 唇を半分だけ明け、少し、頬が紅潮していた。 わずかに開いた唇が・・・なにかを、言っていた。 すべるような、柔らかな唇で・・・「・・・」 ゲーギは、この段階で、初めて・・・ この、恐ろしいほどに美しい少女が、その表面上だけではない、なにか、もっと、奥底の・・・ そう、計り知れない奥からの、なにかでもって、その美しい風貌と・・・ そして、その美しい雰囲気を、携えているのではないか、と思え、急に戦慄を感じた。「・・・」 ゲーギの雰囲気を感じ取ったビアルが、真顔に戻った。 にこり、と笑ってくる。 ゲーギは、赤くなって、横を向いた。 正しいもの・・・美しいもの・・・清らかなもの・・・ それらは、なにを指しますか・・・ 憎むもの・・・おぞましきもの・・・穢れたもの・・・ それらは、なにを指しますか・・ あれは・・・ あの言葉は・・・・ ビアル自身に、向けられた、言葉なのだ! ゲーギは、額に脂汗を流した。 馬は、なかなかの速度で走り続けていた・・・ ラウポルが、流れる景色をちらり、と見て・・・「ゴウポル・・」 弟に、呼びかけた。「疲れたでしょう。 お昼にしましょう。 そしたら、馬を私が代わるわ」 ブルル、と馬がいなないて、馬車が停まった。「まあ、まだ疲れていないぜ」 ゴウポルはそう言いながら、深緑の瞳を笑わせ、馬車の荷台の中へと入って来た。 と、ニルロゼと目が合う。 ゴウポルは、少しばかり、このニルロゼに嫉妬を感じていた。 これまで、多々ある危機を乗り越えてきた・・・色々な契約の旅。 だが、あれほどまでに、強い者を、これまで見たことはなかった。 ゴウポルは、ニルロゼから目線を外し、姉の脇に座る。 と、ゲーギが今度は目に入った。 相変わらず、美しい少女に膝枕されていた。「ゲーギ、なかなかうらやましいぜ」 ニヤリ、とゴウポルが笑いかけた。「もう、ゴウポル、変な事言わないの! それより、段々食料も尽きてくるわ。 そろそろ調達しないとね」 ラウポルが、干した肉を上手に切り分け始めた。 ジーンも、荷台の奥から、なにやら出している・・・「どうやって調達するの?」 ニルロゼがごく当たり前な質問をした。「今までは、少しお金がありましたから」 ゲーギが、相変わらずの姿勢でそう言った。 ジーンは、なにか白くて硬い物を、ニルロゼに寄越してきた。「歯ざわりは悪いけど、どうぞ」「あ、どうも」 ニルロゼが、ジーンからそれを受け取る・・・「・・・?」 ジーンは、ニルロゼが自分をじっと見ているので、少し顔を赤らめた。「なにか・・・」 ジーンが、やや恥ずかしげに俯いたので、ニルロゼは、はは、と笑った。「いや、あなたと同じ位の年の、女性のことを思い出していた」 ニルロゼは屈託なくそう言うと、白い物体を食べ始めた。「そういえば、兄弟がどうのこうの、って言っていたけど、君達の住んでいるところには、もっと他に人がいるんだろう? その人たちは、どうしているの・・・」 ニルロゼが、今度はラウポルに聞いた。 ラウポルは、緑がかった髪を、少し指でいじった。「私たちはほとんど・・・それぞれ、契約が別なの。 だから、行動も別なのよ。 誰がどこで、どのようにしているかは判らないわ・・・ 村に残っているのは僅かの人・・・」 ラウポルは、白い物体にかぶりついた。 ジーンが、ゲーギに食べ物を渡した。 と、ビアルが、それを受け取る。「・・・」 ジーンは、一瞬、目を疑った。 ビアルは、ゲーギを膝枕していた体をどかすと、ゲーギを床につけた。「少し、じっとしていて下さい」 ビアルは、ゲーギの瞳に左手を触れさせた。「痛いかもしれません」 ビアルは、そう言うと・・・ 他の者が、息を飲む間もなく・・・ その顔を、ゲーギに近づけ、 その唇を、ゲーギの唇に重ねた。「・・・取れました」 皆が、我に返ったのは、ビアルのその言葉だった。 ビアルが、右手になにかを持っていた。「ゲーギさんは、ずっと、これを・・・」 ビアルの瞳が、その右手に注がれる・・・・「・・・」 最初に、ゲーギににじり寄ったのは、姉、ジーンだ! そのジーンは、もはや、何を言えばいいのか・・・ その瞳も、その唇も、その手も震えていて・・・ わなわなさせながら、ようやく・・・ ゲーギに抱きついた!「・・・」 ゴウポル兄妹も、唖然としてその姿を見守っていた。 彼らの驚く理由がわからないのは、唯一人、背の高い少年ニルロゼであった。 ニルロゼは、ちょっと、むすっとした。 うーーーーん。 俺も、アレを、やってもらいたい。 そんなニルロゼの思いなどとは裏腹に、ビアルは右手の中の小さなものを見つめた。 ・・・小さな・・・貝の形をしたものだった・・・・************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
November 7, 2013
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背の高い少年が、ちらり、と白い歯を出して笑った。 少年、ニルロゼは、今まで人質だった4人の無事を確かめたあとに、ゆっくりと立ち上がった。「惜しかったら?」 覇気のなさそうな声で、族どもに言う。 「あのーー」 まったりと。 柔らかな声が響いた。 男達に羽交い絞めにされている、少女、だ。 男達は、なんだ?と顔をしかめた。「あのですね。 あの背の高い、私の相方はですね。 今まで、自分の剣を抜いていません。 その意味が、わかりますかね」 少女も、危機感のなさそうな声で言った。「なんだと?」 美しい少女の首に手を回していた男が、前方の少年に目をやる。「あ・た・り!」 ニルロゼは、手放した、敵の剣を足で突付いて言った。「あんたら、疑問に思わない? 俺の腰には、きちんと“俺の剣”があるのに、俺は自分の剣をまだ使っていない」 少年が、目つきだけで威嚇してきた。 危険な笑みである。「二度は言わない。 俺は、無駄な殺しは好きじゃない。 その、めちゃくちゃ美人を、手放して、退散しろ。 それとも、俺に黙って殺される方を選ぶ?」 結局・・・ 族どもは、3人を斬られた時点で、やっと退散したのであった・・・「はあ、また服が汚れた」 情けない声で、そう言うと、背の高い少年は、助けた4人組みに笑いかけた。「大変だったね。 ひどい怪我がないだけ、まだいい」 そして素早く男性の方に触れてみる。 意識を失ってはいたが、ニルロゼの言うとおり、怪我はしてないようだ。 それから、女性の方に向き直る。「大丈夫か?」 彼らは20代の青年の集団であった。 女性の一人が、震えながらも、軽く頭を下げてきた。 黒い外套の“美少女”が、ゆっくりと、ニルロゼの近くにやってくる。「あんたたち、ずいぶん大員数に囲まれてしまったようだね。 ここらへんは、ああいうのが多いのか」 ニルロゼは、馬を引いてきて、近くの樹に手綱を結んだ。「・・・いえ」 意識のあるほうの男が言った。 まだ若々しい青年である。「俺ら、契約を破ったんで、だから、守ってもらえないんです・・・・」「・・?」 ニルロゼの蜂蜜色の眉毛が、少し、しかめられた。 青年が、少し疲れたような声で言った。「申し訳ないですが・・・ 東西に滝がある。その脇の窪みに、馬を隠して来た・・・ よかったら、連れてきてもらえますか?」 若い青年は、血の滲んだ額を手で拭った。「ゴウポル! 大丈夫?」 先ほど悲鳴を上げていた女性が、その青年に慌てて取りすがる。「ラウ。 大丈夫だ。 この方々には、馬がある。 俺らを助けて下さった上、わざわざ馬を奪っていくこともないだろう」 それを聞いたニルロゼが、ニヤリと笑いかけた。「そうそう! しかも滝があるならありがたい。 服が洗えるってもんさ。 じゃあ、君達の馬を連れてくる。 おい、ビアルちゃん、その女性に、お前の外套をかけてあげてよ。 服を裂かれたようだから」 ニルロゼが早速東西に向かい、歩き始めた。「ご安心を。 わたしはビアル。 あちらは、ニルロゼです」 ビアルは、ふわりと女性に笑いかけ、外套を脱ごうとしたが、馬を連れてくるようにと言った青年が、自分の服を脱いで、女性に渡した。「・・・」 女性は、ビアルを見上げながらゆっくり名乗った。「私は、ラウポル。 こちらはゴウポル、私の兄です」 青年が、会釈した。「こちらの気絶している方は・・・」 ビアルが丁寧に、気絶している方の男性に手を差し伸べた。「ゲーギ。 私の弟です。 私は、ジーン」 ジーン、と名乗ったのは、もう一人の女性だ。「みなさん、ご兄弟どうしなのですね」 ビアルは、気絶している男性、ゲーギに手を触れ始めた。「わたしは薬師です。 ご安心を・・・」 ビアルは、半眼になりながら、額、首、耳、瞳・・・ 特に頭の辺りを何度もなでていた。「特に、問題はなさそうですね」 ビアルは、ゆっくりと手を放した。 ジーンは、美しい薬師の顔を、まじまじと見た。 本当に、これほど・・・・ 美しい、少女は、始めてみた。「たっだいまーーー!」 パカリ、パカリと馬に乗ってきた少年ニルロゼ・・・ その馬はなんと! 馬車を曳いていた!「わーい!すごいぞビアル! 馬つきの馬馬だ」 ひょい、と馬から下りた。 ビアルを中心に、青年達が、恐れとも、敬いとも言えぬ表情を向けている。「おー、ビアルちゃん。 またもててるのね!」 彼らに近づいて来たニルロゼの体を見て、女性が悲鳴を上げた! 男性の方は、ぎょっとした表情をしている。「あ、あらーん。 そんなに驚かないで。 名誉の負傷なんだから」 ニルロゼは、滝で服を洗って、乾かすためにそれを手に持っていた。 流石にフォルセッツ(足に履く衣装)は履いていたが、上着は脱いでいる・・・ 上半身に、ぞろり、と6本の傷跡が、なぞられていた。「君達、馬車で旅していたのか・・・ よかったら、行き先を教えてくれ。 もし俺らと同じ方向なら、そこまでなら、一緒に行くぜ」 ニルロゼは、どかりと腰を下ろした。「ミョール大陸だそうです」 応えたのは、ビアルである。 ビアルは、一人の男性を膝枕していた。 その手は、男性の胸元に、丁寧にあてがわれていた。「ミョール?」 ニルロゼが、すっとんきょうな声を上げる。「ええ」 相槌を打ったのは、女性の一人だ。「あなたには、まだ自己紹介していなかったわね。 私は、ラウポル・・ 弟のゴウポルと、ミョールを目指しているの。 こちらは、友人のジーンと、その弟のゲーギよ」「へ、へえ。 ミョール大陸って、まさか・・」 ニルロゼが、頭を掻いた。「このメンニュール大陸から船に乗って、更に東のところにあるらしい」 ゴウポル、と呼ばれた青年が言った。「らしい・・なんて、曖昧な・・・。 俺の知っているかぎり、そのミョール大陸を知っているのは、リュベナお姫様だけだと思っていたぜ」「え?お姫様が?」「その大陸の人の嘆きの声を、聞いて知ったそうだ。 世界の大陸の地図に、今まで描かれてなかったみたいだ。 だから、誰も知らずにこれまで浮上してこなかったみたいで・・・」 ニルロゼは、やや歯切れの悪い口元で言った。 彼に姫が教えてくれた内容は、彼だけに教えられたと思っていたので、他の人には内緒よ、と念まで押されていたので、軽々しく口には出せなかったのだ。「そういえば、さっき、守って貰えなくなったって言っていたけど、前までは、誰かに守って貰っていたの?」 ニルロゼは、蜂蜜色の瞳を左右に動かしながら質問した。「・・・契約を・・・していたのです」 ビアルに膝枕されている男性が言った。「ゲーギ、無理しないで・・。 私が言うわ」 ゲーギの言葉を、姉のジーンが継いだ。「私たちは、黒き者と契約を交わしていたの。 今まで、エルダーヤ大陸へ、船で行き来して、お金を得ていたわ。 黒き者の言うようにさえしていれば、交易はうまく行ったし、盗賊とかにも、狙われることもなかったの。 でも、その契約を、破ったの」「は、はあ」 ちょっと、話の中身が濃かった。 ニルロゼは、彼らと接点を持ったことを少しだけ後悔し始めた。 もしかして、早く帰ることができなくなるかもしれない・・・ ゲーギの体調がよくなるまで、ゴウポル達はぽつり、ぽつりと色々な事を言った。 彼らの契約・・・それは、“黒の者”との取引であった。 最初にゴウポルが言ったとおり、黒の者に命じられるものをエルダーヤ大陸から持ってきたり・・・ 逆に、ここのメンニョール大陸へと運んだりとし、報酬を得ていたという。「しかし、大陸間を行き来していた船が沈みました」 ゲーギが、重々しい顔で言った。「あの船は恐ろしい船でした。 どのような動力で動いているのかも・・・どのような者が乗っているのかも・・・ 我らには知らされなかったのです」 ゴウポルも、肩を落として言った。 しかし、若々しい顔に、僅かながらの希望の光を宿した。「ですが、あの船に乗っていた仲間が集結し、これから西のはずれのバレジ様のところに行くのです。 誰がそのような事を思いついたか・・・ バレジ様は、最近船を作る計画を練っていらっしゃると・・ 俺らは、そのバレジ様に、ぜひぜひにと、お願いにあがる途中でした」「バレジ?」 ニルロゼが、その名前を繰り返した。 なぜか・・・ 覚えがあるような・・・ ビアルは、俯いたままだった。 ゲーギに当てた手を離さずにいたが、静かに言った。「ゲーギさんは、胸に持病があります。 少しなら、軽くすることができます・・・ 私たちは、これから西に向かいますが、ご一緒の方向ですね。 一度診た以上は、責任持ってお治しいたします」 その言葉を聞いたゲーギが驚いた。「・・・なぜ、それが判るのです・・・」 その、それ、とは、勿論・・・・ “持病”を指すのだろう。「そりゃ、ビアルちゃんが、すんばらしい薬師だからさ!」 ゲーギの質問に答えたのは、ビアルではなく、背の高い相方ニルロゼであった。 馬車には、上手に2匹の馬が繋がれた。 一気に2頭牽きとなった馬車を牽くのは青年ゴウポルである。 この青年、馬を牽くのがかなり巧みで、二匹の綱を上手に操っていた。 馬車の中は4人。 緑がかった黒髪の女性、ラウポル・・・ 明るい金髪の女性、ジーン。 その弟で、同じく明るい金髪のゲーギ。 黒い髪のビアル。 背の高い少年ニルロゼは、窓枠に腰掛けていた。 西に、向かっていた。 ハーギーから出て・・・ 班が4つに分かれて・・・ カンのところから、逆の方向を、ずっと歩んできた。 その、カンのいる方向に、向かっている・・・ ナーダが、いる。 ニルロゼ・・・ 触れてきた指が 触れてきた腕が 触れてきた、唇が・・・ ニルロゼは、思わず、自分の指で唇に触れてみた・・・ あおい、風景が、どんどん後方に下がっていく。 あおい、風が、どんどん、通り過ぎていく。 どうして、ナーダに遭いたいんだ・・・? どうしてだっけ・・・ ニルロゼは、唇に触れながら、黙って流れる風景を見つめていた。************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
November 7, 2013
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風がほの寒く・・・ 大地の草は少し茶変し、木々の葉は落ち、空はやや薄い青い色で満たされている・・・ やや湿った大地を蹴り上げ、走る動物がいる。 その速度は、動物の持つ本来の能力に比べ、あまり速くはない。 栗色の毛、黒く穏やかな瞳。 四本の足を一定の速度で交互に出す度に、草が舞い上がる。 動物に乗っているのは二人の人間である。 と、いっても・・・ 一人の人間が、もう一人を、背負っていた。 その一人は、短めの蜂蜜色の髪を、晩秋の陽にきらめかせ・・・ ただだまって馬に乗っている分には、ごくごくそこいらにいそうな少年である。 腰の左側には、やや短めで、わずかに弧を描いた剣と、ごく一般的な短剣の二つを下げている。 そして、その背には・・・ 黒い外套と、黒い頭巾をすっぽりと被った、人物を。 背負っている。 つまりは、この蜂蜜色の髪の少年と、その背に背負われた人物の二人・・・・ この奇妙な組み合わせを乗せた馬は、穏やかな速度で走っていた。「はーーー」 馬の上で、蜂蜜色の髪の人物が、ため息をついた。「なあ、リュベルちゃん」 髪と同じ色の瞳を、馬に向ける。 すばらしい長身の体躯を曲げ、馬の耳にボソボソと耳打ちをしていた。「おい、お前、信じられる? 本当に寝るなんてさあ・・・」 そう馬に愚痴るのは、16歳くらいの少年、ニルロゼ。 つい2日前に馬に乗れるようになったばかりだ。 だというのに・・・・ その少年は、黒い外套を着た人物を、おぶっていた。 ただし、普通に背負うと、両手が使えなくなる。 紐で、上手に、外套の人物を自らの体にくくりつけていた。「あー、リュベルちゃん~。 俺って結構やっぱ凄いよね。 こんな格好でも、ちゃーんと走れるなんて」 ニルロゼは、右手で”リュベルちゃん”の首を優しく叩いた。 しかし、一番偉いのは、その”リュベルちゃん”かもしれない・・・ なんたって、乗馬経験のない少年を、だまって乗せ・・・しかも、その少年は、寝ている人を背負っていた・・・ これまた、忍耐強い馬であった・・・。「あー、リュベルちゃん、あっち、あっち。 ここは、見覚えがある・・・ もう少し東だろう」 ニルロゼは、適当に手綱を握っている。 まったく、あれほどに硬い決意でカンの班に行こうとしていたなどとは到底思えないような雰囲気で、まるで旅行でも楽しんでいるようだ。 だが、その彼の瞳は、心なしか・・・曇っていた。 本当は、その心は乱れていたのである。 そう。 この道は・・・ この1年半、”カンの班から離れるために”辿ってきた道・・・ その道を、逆戻りしている・・・ なぜ、どうして、離れなければならなかったか? あえて、わざと・・・・カンたちとは反対の方向に、来ていたのだ・・・ ニルロゼは、唇を軽く噛んだ。 ナーダに、遭いたくなかった。 でも、・・・・ でも、なんだろう。 どうして、遭いたくないんだろう。 そして、遥か西の方にも目をやった。 勿論見えはしないが、そこにはハーギーがあるはずだった。 ニルロゼの瞳に、見えぬハーギーの建物がありありと映った。 ・・・・メルサ。 赤い部屋の赤いメルサ・・・ なんとしても、探す。 ニルロゼが、ひたすら馬を走らせていると、流石に馬が疲れたようで、益々その速度が落ちてきた。「おいおい、リュベルちゃん、意外と体力ないねえ」 ニルロゼは、仕方なく、”二人分”の体を地面に下ろした。 まったく、どこでも寝れるやつだ。 そう思いながら、ビアルを草むらに転がした。 ビアルは、本当に、なんと形容してよいか、もう、美しいという言葉の一言で済ましていいような水準ではない。 うっかりその姿を誰かが見たら、それこそ大変な事になりそうだ。 そういう訳で、寝てしまったビアルには、頭巾を被せていた。 ピラリ、と頭巾を捲って、寝顔を覗き込んだニルロゼは、その幸せそうで平和そうな寝顔に、ちょっと眉毛をしかめた。「ああ、お前が寝ているからだぞ、たぶん。 リュベルちゃんは、ご機嫌斜めだぞ」 ニルロゼの言い分は半分当たってはいるだろう・・・ ビアルが起きていて、きちんと馬の背に乗っていたら、それほど馬への負担はないはずであった。 カンのところへは、どのぐらいで着くだろう・・・・ 冷たい青空を、ニルロゼは仰いだ。 なにしろ、赤を探して、あちこちをさまよった。 だが、確実に。カンの行った方向だけは、行かないようにと、していたのだ・・・ 1年半も経ったとなれば、カン達も、それなりに移動しているだろう・・・ ニルロゼは、ビアルの横にごろんと転がった。 目を瞑ってみる・・・ ニルロゼ・・・・ 何度、ナーダに呼ばれただろうか・・・ ナーダは、俺が好きだと、何度も言っていた・・・ あの気持ちが、どうしても判らなかった・・・ けど・・・ ンサージを殺してしまって 赤の居ないときに ナーダがきてくれた あのときは・・・ ほんとうにうれしかった・・・ あのとき、ナーダがきてくれなかったら・・・ いまの、俺は、ない。 そう、それだけだ・・・ それ、だけ。 俺にとって、ナーダは・・・ ただ、俺を助けてくれた・・・・ それだけ、だ・・ つい、うつらうつらとしそうになったニルロゼの瞳が・・・ 軽く、開いた。 唇の端が・・・ ちょっぴり、釣りあがる。 ふふ? ニルロゼは、笑った。 誰かが、こちらを狙っている。 ニルロゼの右手は、彼の頭の下に回されている。 左手は、腹の上にあてがわれたままだ。「おう、小僧」 ふてぶてしい声が、聞こえてくる。「・・・」 小僧、は、眠そうな顔を、して、相手を見た。「命が惜しかったら、金目の物と、馬を置いていけ」 相手は、剣をニルロゼの喉元に向けていた。 ニルロゼは、ちょっと首を右側に倒した。「金目ね」 瞳を閉じる。 相手は15人。 見なくても、わかる。「ないね・・・」 ニルロゼは、わずらわしそうに、相手の剣を、左手でちょっと払った。「見れば、判るだろう? こんなガキに、金があると思うか」 あっと言う間のことである! 少年は、左手で、相手の剣の平を掴むと、その掴んだ部分を軸に逆上がりし、足で相手の顔を蹴飛ばした!「へ! 目をつける相手が間違い! さあ、命が惜しければ向かってきてもらおうかしら? さくっとお命頂戴しちゃうぜ」 明るい声で言っているが、内容は全くとんでもないことであった。 その手には、短い短剣である。 少年を侮った男どもが、4人がかりで歯向ったが、数秒もしないうちに打ちのめされる! ニルロゼは、ひゅう、と短剣を宙で構えた。「さあ。 あと11人! 隠れていても無駄! 50歩先に1人! 東の方に3人! おっと、大将は西かな」 ひゅ! 左手の短剣を飛ばし、一人がその剣に貫かれた! 瞬間、目にも留まらぬ速さで少年が別の男に手刀を繰り出し、相手の剣をもぎ取る。「うふふ。 俺に、長い剣を持たせたら、ちょっと危険だよ」 ひゅう。 風が、出てきた。 がさり・・・ やや、西から・・・ 何人か、まとめて人影が出てきた。 ニヤニヤした男が、女性の髪を引っ張って、引きずってきた。 別の男が、3人。 それぞれ、人質らしきものを、その手に持っている。「ほおん」 ニルロゼは、態度を変化させない・・・「誰それ」 背後に近づいた敵を、圧倒的な速さで切り落とし、ニヤリと敵将らしい者へ眼差しを送る。「誰、それ、だとよ」 別の男が、ニタニタと言った。 いや!と小さい悲鳴が上がり! なにか音がした。 布が裂ける音だ。 と。 そのほんの一瞬の後・・・ 例のニタニタいっていた男に、変化が起こった。 しかし、自分になにが起こったのか、わからなかった。 右手が、熱かった。 ビリビリとする、痺れが、だんだん、してくる。 目の前に、蜂蜜色の瞳をした少年が、無表情で立っていた。 信じられなかった・・・ さ、さっきまで。 20歩は、離れていた距離だ! 少年は、悲鳴を上げた女性を、後ろに下がらせ、統率者らしき者に、ちらりと笑みを送った。「だから、言っただろうが。 俺が、長めの剣を持つと、危険なんだ。 わかった?」 ニタニタ男は、自分の右手が、手首から下がなくなっていた。 そして、ニルロゼが、統率者に啖呵を切ったと同時に、統率者も、同じ運命を辿ることとなった・・・ この段階となって、賊どもは、ようやく恐れをなした雰囲気になって来た。 相手にしている少年は、あまりに強かった。 わなわなとしている賊に向け、ほい、と・・・ 背の高い少年が、持っていた剣を放り投げた。「さて。 おっさん達、俺はつまらない戦いはしないんだ。 さっさと退散してもらおうか」 少年が剣を離したので・・・・ 数人が、剣を抜いた。 馬の近くにいた、黒い外套を着た人物を囲んだ。 ニルロゼが、その模様を目を細めて見ている。 黒い外套の人物は、あっけなく賊に囲まれた。「おお、こりゃ!」 族の一人が声を上げた!「すげえ! こ、こりゃすげえ美人だ!!」 黒い頭巾を下ろされた“美人”は、5人くらいの男に羽交い絞めにされていた。 しかしその様子をあまり気にもとめず、ニルロゼは、助け出した4人の方に近づき、彼らの傷の様子を見ていた。「おい、こりゃ、高く売れる! いったいいくらで・・」 それを聞いた賊の一人が、そう言った賊を殴る。「ケケ、売る前に楽しむのよ」 族どもは、背の高い少年に向き直った。「おい、小僧。 これでも、こっちにかかってくる気があるのか? このねえちゃんが惜しかったら・・・」 族どもは、美しい人質の顔を、へへ、と撫でた・・・・************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
November 7, 2013
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客が、何人か、驚いて席を立つ! その姿を、黒い瞳で見つめていたビアルは・・・ シャラーーーン! と、首元からなにかを出した。「ふふふふ。 呼ばれるのであるのでしたら、どこまでも。 インチキ占い師、ビアルとは私のことっ!」 ジャーーーーーーーーン! キラリと光る、透明の石を、ビアルは高々と掲げた! はあ? ぽかーーーーーーんと口を開けているのは、背の高い少年ニルロゼと、少女マエーリである・・・。「いよ!!!!!!待ってました!」 ヤンヤヤンヤの歓声と、拍手が上がる! ビアルは、首から下げた紐の先に、小さな小袋を縫い付けていた。 それに、あの石が入っていたらしい。「さー、この私に占われたいという物好きはいらっしゃいますか」「俺!」 あっと言う間に、ビアルの周りに残りの客が押し寄せる・・・「な、なんじゃありゃ・・・」 流石のニルロゼも、呆れ顔である。 ビアルが占い師だなどとは、今の今まで知らなかったのだ。 というか、薬師じゃなかったんか!?「ビアルは、ここらじゃ結構有名な占い師だよ」 料理長が、揚げた肉を頬張りながら言った。「だから、王宮でも占い師をしている」「は?そうだったんですか」 ニルロゼは、ちょっと頭を掻いてそう言った。「ちぇ、占い終わったら、早く出発しなきゃ。 お姫様が、ご立腹になる前に・・・」 それはニルロゼの独り言であったが、マエーリが聞き逃さない。「お姫様?」 背の高い少年、ニルロゼは、少女に照れ笑いをした。「ああ、俺ら、城に出入りしているんだ。 こわーーーいお姫様が、俺らのお帰りを待っている。 早く帰らないとね。」 ひゅひゅっ、と、包丁を空中で3回転させ、ニルロゼは数人の人だかりに近づいた。「あーー、すんません、すんません。 俺のビアルは、今日は5人までしか占いしませんから~。 あとは、俺とイイトコ行くのよ~!」 背の高い少年がそう言うと・・・「な、なんだって~?!」「ほ、本当かよ~ビアルっ!」 色めき立つ客はみな男ばかり。 それも、そうだ。 これほど美しい、ビアルが。 なんだか知らないが、これから、この後ろの背の高いのと。 どっかに行く、というのだ。「はい、そうです」 ビアルは、あまりに美しく、微笑んだ。 昼下がり、彼らは料理長の家を出ることとした。 マエーリは、まだ、ニルロゼを憎らしそうに見つめていた。 そのニルロゼは、栗色の馬に乗り・・・後ろにビアルが乗る。「あの、料理長、ひとつお願いが」 ニルロゼは、馬上からマーカフに声をかけてきた。「なんだ」 マーカフは、ぼさり、と応えた。「できれば、長い紐みたいなの、いただけますかね」 ニルロゼがそう言う。 数人、彼らを見送る、客も居た。「紐?そんなのどうする」 マーカフは、それでも、娘に、紐を持って来いと言った。「いえ。 多分ですが、こいつ、馬の上でも寝ると思うんで、縛っておこうかなと」「・・・・・・・」 マーカフは、つくづく、ビアルの方を見た。 ビアルは、くすり、と軽く笑うだけである。「ビアル~! また来いよ~!」 客の一人が、そう声をかける。「ええ」 ビアルが、手を振る。 マエーリが、長めの紐を持ってきた。「ありがとうございます」 ニルロゼは、あくまでも料理長に礼を払うと、周りの人にも軽く会釈をし、馬を進め始めた。「料理長! 戻ったら、また教えてくださいね!」 ニルロゼは、太陽の光に蜂蜜色の髪を輝かせ、マーカフの家を後にした。「さて、行ったか・・・ 嵐のような奴だったな」 マーカフが、やれやれ、と溜息をつきながら言った。「ほんと、ほんと。 あんなのに、ビアルはもったいない!」 客の一人が、マーカフに嘆く。「まあ、ビアルはあのとおり、抜けているからな。 ああいうのが丁度いいんだろう」「まあ、そういう見方もありでしょうがねえ・・・ 少女達がなんと思うやら」「え?」 客とオヤジの会話に、一人。 疑問符を投げかけた少女がいた。 この料理屋の娘のマエーリである。 マエーリは、薄い青の瞳に困惑の色を浮かべて言った。「・・・・なにが、少女達に関係あるの?」 と、客が、逆に不思議そうな顔をしてくる。「なにがって、ビアルだよ。 まったく、ビアルに男がついたとなれば、嘆く少女がゴマンといるだろうな、と。 いや、女がついた、というほうが、よほど大変かもしれないが・・・ しかしまあ、でもなんで女じゃなくて男なんだ・・・」「そりゃ、あの少年も、おおかたビアルを女だと思ったんじゃないの?」 と、別の客が言った。「だろうね」 と、マーカフ。「でも、女だと思ってビアルに近づいて、あれほどビアルに信頼されている男は、今まで見たことはない。 ということは、うまくいっている、ってこったな」「だから、それが問題なんだろ、オヤッサンよ」 客が、オヤジに絡んできた。「ビアルは一応男なんだからさあ・・・ うっかり勘違いする少女が続出・・・」 あ・・・ と、その客は、目線を横にやった。「・・・」 マーカフの娘が・・・ 顔を真っ赤にしていた。「・・・おやっさん・・・」 客が、顔を青くして言った。 マーカフが、やれやれ、と溜息をついた。「どうやら、うちの娘も、その類のようだ」 夕刻になり、やっと、客が引けた。 マエーリは、未だに信じられなかった。 あの、寝台に寝ていたビアルが、男だなんて。 そして・・・・ その、男のビアルに!あたしを勘違いした、とういうのっ!!!! マエーリは、そう思うと、自然と鼻息が荒くなり、ムカムカして、イライラが増すのである。「おい、マエーリ、美容によくないぞ」 父、マーカフが、釜の掃除をしながら、娘に語りかけた。「まあ、ビアルにいちいち焼餅しても勝ち目はない。 あのぐらいの美人はほかにはいないだろう。 そんなの、ここらの少女はみんな知っている。 お前くらいだぞ、ビアルの事を知らなかったのは」 マーカフは、プンプンしている娘の脇に、安物の葡萄酒を持ってきた。「ほら、機嫌を直せ。 ハジューのヘベルだ」 マーカフが持ってきたのは、香りの高い焼き菓子である。 薄い生地を何層にも重ね、ハジューの果物を煮たのを丁寧に練りこんである、女性の好む菓子だ。 ヘベルは、その菓子を作るにはかなりの技巧が必要で、作れる職人は少ない・・・ もちろん、”それっぽい”ものなら、誰でも作れるが・・・ 今、マエーリに出されたように、ふんわりと、形よく作れる者は、あまりいないのだ。 マエーリは、黙ってヘベルに手を出した。 今、ヘベルが湯気を出しているということは、昼から既に、父が仕込んでいたに違いなかった。 そのぐらい、時間もかかる菓子である。「ねえ」 一口、ヘベルにかぶりついて、マエーリはオヤジに言った。「どうして、こいういふうにさ、優しくしてくれるの」「・・・・・」 一瞬、わずかながらの、時間がかかる。 マエーリは、オヤジの目が見れなかった。「そうだなあ」 オヤジは、困ったような声を出した。 また、更に時間がかかった。「あたし、オヤジの本当の子供じゃないんでしょ」 マエーリは、ヘベルを皿に置いて、溜息のようにそう言った。 この押し問答は・・・ 今回に限った事ではなかった。 マエーリが家出をして、マーカフが連れ戻す度に・・・ 彼らの間で、何度も何度も繰り返されていた言葉であった・・・「そうだなあ」 マーカフは、マエーリの皿のヘベルを取り返して、千切って半分にすると、マエーリの皿に置いた。「ビアルはなあ。 だいたい2年前に、ここらに来た。 あいつは、ずっと、一人で、あちこちを放浪していたようだ・・・ あのとおり、大変美しいからなあ。 我が物にしたいという、いやらしい、男もいてなあ」 マーカフは安物の葡萄酒を、瓶ごと口につけて、そう言った。「もちろん、男だからなあ。 あいつに、言い寄る女性も、多かった。 そりゃあ、もてたよ。 目に見えるようだろう?」 マーカフは、でかい口で、ヘベルを一口で食べてしまった。「沢山の、金持ちどもが、こぞってビアルに金を出そうとしても・・・ けして、ビアルは、誰の下にもつくことなかった・・・ ここいらへんでうろうろしていたから、たまに、俺が、飯を食わせていたのさ。 あいつは、金もないし、誰からも、金を貰わない。 俺も、あいつに金なんか、貰おうとおもわなかった」 マーカフは、くすり、と笑った。「それからしばらくすると、俺の客に可愛がられて、占いを始めて、自分の食いぶちだけは、適当にやっていたようだ。 なのに、姫に目をつけられてなあ。 そりゃあ、大変だったようだ。 王宮からも、金を貰ってないようだよ。 本当に、おかしい奴だ」 マエーリは、笑っているオヤジの目を、ちらり、と見た。「あいつは、ほかの場所では・・・ 無償で、人の治療もしているようだ・・・ ここらからいなくなったのは、そういう理由だ。 ずっと誰も寄せ付けていなかったあいつが、どうして、身近に一人・・・置く気になったんだろう・・」 マエーリは、また一口、ヘベルを食べた。 マエーリは・・・・ 自分が聞いた質問に、オヤジが答えていないのは、別に気にもならなかった。 その答えは・・・ ずっと前に、聞いていたから・・・・・・。************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
April 5, 2013
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白い、光。 上、下、左、右・・・ 見えるところ、すべて、白い。 いや、色というものは、そう、全ての色というものは、 ほかのいろがあるからこその”いろ”なのであって・・・ ここでは、ほかのいろ、がない・・・・・ その、ほかのいろのない世界を・・・ 黒い衣装を着た者が。 ゆっくり、歩いていた。 黒い、外套。 長々と、足元まである外套だ・・・ その足元から、ちらり、と。 これまた、黒い髪が、歩む度に・・・はみ出す。 黒い髪に囲まれた顔は・・・ 白かった。 ただし、周りの白と比べれば、断然に違う色彩を放っている。 精気と、硬い意思に彩られている。 黒く煌く瞳は、物憂げに長いまつげに覆われ・・・ ふわりとした、ほの赤い唇は、やや、悲しげな形に結ばれていた。 黒い衣装のその者は、ラ家の末裔、ラ・ルー・ヴァ・ウー・・・。 自ら仕えていたミョールを失い、この世界の神に・・・ てきとうの神に、仕えていた。 しかし、使っているその力は、依然として、ミョールの契約の力・・・・ 軽い眩暈を感じていた。 もう、ちからがもたないかもしれなかった・・・・ それでも、いい それでも。 黒い瞳が、美しい色彩を放った。 自らの大陸、ミョールが一度滅んだ時に・・・ わたしも、もはや滅んでいるのだ。 なにを、おそれる? 頭を軽く振っていると・・・ わたしは、足を止めた。 どうしてだろう・・・・ 最近は、いつも、てきとうの神にお会いする前に、その弟子にお会いしてしまう・・・・ わたしは・・・ 戒を追っていた。 それは、てきとうの神がそうするよう言い出したことであるが。 だが、自ら選んだのだ・・・ 戒。 以前、わたしたちが苦しんだようなことが、戒によって行われている。 また、同じようなちからが現れようとも いま、わたしができるのであれば・・・ ウー・・・・ ここちよい、響きが聞こえて来た・・・ あの、てきとうの弟子が、このわたしを呼んでいる。 弟子が導く白い魂のように・・・ 弟子の呼びかけは、わたしをみちびく・・・「てきとうの弟子よ・・・ みつけました。 戒の場所を・・・」 わたしは、黒い髪を、風に揺らした。 長かったか 短かったか これまで、いたるところへと赴いた あらゆる”黒”と相対してきた。 いままでは一つ一つしか潰せなかったが 元凶を潰せば、あとはもう・・・ ウー・・・・・・ また、弟子がわたしを呼んだ・・・ 弟子が、こちらに近づいて来るようだ。 てきとうの弟子よ・・・ わたしは、どうやらあなたをこそ恐れている・・・ わたしは、なぜ、あなたを恐れているのか・・・「きゃああああああああ!!!!!!!」 寒い朝。 ルヘルンの街の一角で、少女の悲鳴が響いた! その悲鳴は、このあたりではちょっと有名な料理屋の二階から発せられた。 あまりに朝早かったから、街の人はまだ起きてはなかったが、流石に、その下の部屋に寝ていた、少女の父親は、驚いた。 驚いたが、もさーーーーっと起き上がって、面倒くさそうに、肩をコキコキ鳴らしてから、二階へと向かう・・・「な、な、なにすんのーーーーーーーーっ!」「な、なにって・・・ あ、あれ?ビアルちゃんは・・・」「もう!信じられない!変体!スケベ!どうしてくれるの!結婚前なのに!」「ど、どうしてくれるって、抱きついただけじゃないの」「きゃあ、信じられない!乙女にあんなことしておいて・・・あっ! ちょ、ちょっと、オヤジ、なによ、こいつ!」 オヤジ、といいながら、モサツいた男の影に隠れた少女は、赤みのある金髪の、闊達そうな雰囲気である。 一方の、オヤジ、は、ぼさーーーっとしていて、こげ茶の髪はどうやら3日は洗ってないようで、着ている服はどう見ても夜着だ。「あ、料理長!おはようございますっ!」 シャキーーン!と爪先立ちになって、少女に叫ばれていた少年が、”料理長”に挨拶した!「なんか、俺らの寝台に、変なのいたんですよ!?本当、困りますよね! じゃ、俺、家の周りでも掃除しますよ」「ちょ!ちょっと! あんた、何考えているの! 謝りなさい! そ、その寝台は大体にしてあたしの寝台なの、変なのって誰の事よ!?」 少女が”料理長”の後ろから飛び出してきて、少年に詰めかかった。 その少年は、いたく背が高かった。 詰め寄って見上げたはいいが・・・・ なかなかに、鍛えているようで、薄い衣服の下に、筋肉が見え隠れしている。「え?き、君の寝台なの?」 少年は、濃い黄色の瞳を驚かせた。「り、料理長~!?」 少年が、思わず”料理長”の方に困った目線を送った。 料理長は、ぼさーーーーーっと言った。「俺の娘のマエーリだ。」 呆れたことに、ビアルは寝台の下に落ちて寝ていた。 蜂蜜色の瞳の少年、ニルロゼは、ビアルを寝台に引き上げ、毛布をかけてやった。 それを、憎憎しげに、マエーリが見据えている。「いや、ほんと、ごめんって。 本当に、ビアルだと思ったんだってば」「・・・・・・」 このマエーリは、16歳の少女である。 父親とは、昔から、そりが合わなかった・・・ いつも家出を繰り返しては、父に見つかって連れ戻されていた。 どうして、そんなに父が面白くなかったのかは、実はよくわからなかった。 最近、ようやく、家出癖も収まり・・・ 父の料理を手伝うようなことも増えた。 今回は、使いに行っていた。 そして、帰ってきて、いつものように寝台に寝ようとしたら・・・ 毛布から、ニュッと手が伸びてきて、マエーリを羽交い絞めにした、というわけだ。 事の発端は、昨日の事に遡る。 あの、背の高い少年ニルロゼと、美しい少女を、オヤジが勝手にあたしの部屋に、泊めたらしい。 いちいち、思い出すと、ムカムカするマエーリであった。 何分、これまで、男性とあのように抱きしめあったことがないというのに! この少年は、それを全く意に介していないようである!! その上・・・ 今、寝台に寝ている、ビアル、という少女と勘違いした、と言うのだった・・・ まあ、そう言うのなら、仕方ないわ、と、理屈をつけて、自分を納得させようとするマエーリであった。 なにぶん、ビアルは、恐ろしいほどに美しい少女、なのだ。 その少女に、自分を間違えた、というなら、そんなに悪い気もしないでもないのだった・・・ 下の方では、オヤジが、あのニルロゼに、なんだか料理をやらせているらしい。 オヤジが珍しく家にいるのを嗅ぎつけた街のやつらが、もう店に来ていた・・・・ マエーリも、下に降りて行った。 オヤジの事は、あまり好きではなかった。 でも、最近、まあ仕方ないのかなと思うようになってきた。 だって、あたしのオヤジなんだから・・・ マエーリは、階段を降りきらないうちに、急にあらぬ事を妄想して一人で赤くなってきた! あ・・あれ? あのニルロゼが、ビアルと間違えてあたしを抱きしめて来たってことは・・・ あの人たちって、 そういう関係、よね・・・? 急に、ドキドキしてきた。 どう見ても、自分と同年代のニルロゼ達。 特に、あの背高のっぽは、女性を抱きしめるなど、痛くも痒くもないようだ。 ということは・・・ 口に両手をあて、マエーリは、こっそり上の方を見た。 い、いやだ。 え、えっと。 私達くらいの年代で、もう、ねえ・・・ 少女の鼓動が収まるまでの時間が、かなりかかったような気がした。 ようやく、マエーリは厨房へと行った。 オヤジが、いつものように食材を切っている・・・ 背高のっぽは、うっとりするような目つきで、オヤジの手元を見ながら、自分の手元を見ないで野菜を切っていた。 マエーリも厨房に入ろうとすると、オヤジがそれを留めた。「昨日寝ていないだろう。俺の部屋で寝ていろ」 オヤジはぼそっと言った。「大丈夫よ。 ショーンさんの処で寝させてもらったの」 マエーリは、出来上がった料理を運び始める。 オヤジは、あまり好きではないが、ああやって、少しは自分を気にかけてくれるあたりが、少しは”オヤジらしい”んだな、というのが、最近ようやくわかってきたマエーリである。 不器用な父なのだ・・・ 背の高い少年も、皿を客に持っていくと、客人となにかよく話をしていた。 どうやらなかなか、客受けがいいらしい・・・ 昼間になると、客足が少なくなった。 面白いことに、この料理屋はいつも、昼や夕方のいわゆるご飯時の時間は込まないのだ・・・ マエーリが机を拭いていると・・・ 二階から、トン、トンと、誰かが降りてきた。 誰かが、などと、いちいち明記しなくても、もう判りきってはいたが。 あの、美少女に違いない。「あ、ビアル、おはよう」 背高のっぽが、”少女”に声をかけた。 黒髪の少女は、黒い服をばさりと着ていた。 その姿を見た、残りの客の一人が、驚いた声をあげた。「ビ!ビアルだ!」************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
April 5, 2013
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マーカフは、少年達にも、葡萄酒を薦めて来た。「まあ、少し飲め。あまり強くないから」「え、でも・・」 セルヴィシュテが困っていると、「もう!酔っ払いオヤジ!早く寝なさい!」 娘のマエーリに、マーカフは背中を叩かれた。 ルヘルンの街の入り口に近い場所にある料理屋で、旅人とその家の者共が押し問答をしていた。「それにしても、あれだなあ・・・ よくまあ、エルダーヤからねえ」 料理屋の料理長であり、この家の主であるマーカフは、もう面倒なのか、瓶から直接葡萄酒を飲んでいる。「あ、ねえねえ」 マーカフの娘マエーリが、ちょっと恥ずかしげに言った。「あの、コココ。 よく、見せて・・・」 マエーリに視線を向けられたセルヴィシュテは、ハ?という顔しかできなかった。「コココ? こいつが持っているのか?」 マーカフも、興味を持ったようだ・・・「・・・な、なんです、そのコココって・・・」 すると、マエーリが、あれ?と不思議そうな顔をしてきた。「あら・・・ あれよ、あの緑のよ。 ドパガに取られそうになった・・・」「ドパガ?」 今度は、マーカフは、厳しい目線を娘に送った。「う、うん、その・・・ コココをね、このセルヴィシュテが落として、あいつが拾ったのよ・・・」「・・・」 マーカフは、まだ厳しい目線を娘に向けていた・・・「こ、これ?」 セルヴィシュテは、おそるおそる・・・ 貝を差し出した。 この貝の名前が、コココ、なのだろうか? 先に、手を伸ばして来て貝を手に取ったのは父マーカフだった。 マーカフは、丁寧に、その貝をさすり・・・ そして、額にそれをつけてから、娘に渡した。「どうやら、君は、コココがどのような意味を持つか知らないようだね」 マーカフは、また葡萄酒の瓶を傾ける。「・・・え?ええ。 旅のおまじないだって貰いました」「ほう」 マエーリも、貝を何度も透かしたり、さすったり、頬ずりしたりしていた。「”あれ”は、ここらへんでは・・・ 魂の引き換えのものとして、大変高価に扱われているのさ」 マーカフは、一瞬、厳しい目をして・・・ そして、その瞳を伏せた。 その夜は、親子は一つの部屋で寝て、セルヴィシュテ達はマエーリの部屋を貸してもらっていた。 ラトセィスは、寝台で眠ってしまっていた。 そう、この部屋は、マエーリの部屋・・・つまり、寝台は一つしかない。 その寝台を、ラトセィスに占領されてしまっていた。 あいつ、ここらへんの出身なんだよな・・・ セルヴィシュテは、寝台のラトセィスを見やりながら、ぼんやりと考えこんだ。 どうして・・・貝の意味を、教えてくれなかったんだろう。 やっぱり、王子様だから、庶民的な事は知らないのかな? それとも・・・ でも、魂の引き換えってどういう意味だろう・・・ チラチラと光る蝋燭の光は、ラトセィスの所までは届かない・・・ セルヴィシュテは、またも増えた謎に、一人悩むのであった・・・ 翌朝、少年達は早めにルヘルンの街を出ることにした。 ドパガは、我侭で、横暴であるから、どのようなことをするかわからない。 マエーリだけなら守るが、それ以上となると難しいと、マーカフから言われた。 マーカフは、銅貨を数枚よこしてくれた。 とんでもない、と首を横に振りまくる少年に、いや、持っていなさいと、無理によこした・・・ 少年達を見送りながら、マーカフは、朝の霧に溜息を溶かした。 最近は、少年を泊める機会がなぜかできてしまった。 そして、そのたびに、マーエリがいるというのも、また、おかしな運命というものなのかなあ・・ そう考えていたマーカフは、先日泊めた少年達の事を思い出した。 特に・・・・ 背の高い、蜂蜜色の、少年の事を・・・・ その少年は、城で知り、料理を教えていた少年だ・・・ マーカフは、両腕を回しながら、家の中に入っていった。 娘が、ドパガに目をつけられたとなれば・・・ 城に連れて行った方がいいだろう。 マーカフは、釜の辺りを整理し始めた。 城の護衛をしている少年、アモが・・・ ヘプターの家の付近で助けた少女の所へと赴いたのは、赤い布を貰ってから6日も経過してからであった。 久しぶりの、丸1日の休暇であった。 勿論、ここに行こうと思えば夕方にでも行けるのであろうが、あまり遅くの時間に行くのは失礼だろうと、休日まで待っていたのだ。 周りの仲間にゆっくり休めよと労われたが、ヘプターにだけは、”ちゃんと行けよ”と目でニヤリとされた。 そのヘプターは、なんと、妻シーヤを城に連れて来てしまった。 この城の護衛で、家族で住み込んでいる者も確かにいた。 ヘプターは、あの事件の後、王に頼み、自分達も城の一部に部屋を借りてしまったのである・・・ そして、最近、どうやら、料理長も、城の一部に部屋を借りたという噂であった・・・ アモは、赤い布をフォルセッツの小物入れに突っ込んだままだった。 弓と矢は背負ったままである。 小走りで、あの少女の家へと走っていた・・・ 少年の目には、やや、困惑の色が浮かんでいた。 この布を返そうと思っていた・・・「こ、こんにちは・・・」 アモが少女の家に着いたのは、なんと昼過ぎである。 それまでずっと走り続けた訳だが、この少年に疲労感は見えていない。 戸が開いて、中年の男性が出てきた。「・・・」 アモが、なにか言おうとした時、その男性の後ろから、あの少女が姿を現した。「あ、あら、アモ!いきなり・・・ まあ、こ、こんにちは」 少女は、なんだか慌てている様子である。 中年の男性は、ゆっくりアモの様子を見やってから、言った。「まあ、中に入りなさい」 その家は、やや古ぼけていたが、最近手入れがされて、継ぎ足したり塗りなおしたりしているようである。 男性は、アモに椅子を勧めると、自ら茶を入れ始めた。「やあ。 俺はこの間まで目が見えなかったんだ。 最近見えるようになって、おかげで色々できるよ。 久しぶりに娘の顔も見た」 男性は、笑いながら天井を指差した。 そこも、最近補修したようである。「大変でしたね」 アモは、深く頷いた。 少年は、椅子にかける前に、弓と矢を下ろし、卓の脇に置いた。「それは、君の弓かね」「ええ」 短く答える。 男性は、茶をすすった。アモにも薦めてくる・・・ どこかに行っていた少女がやっと姿を現した。 なんと、わざざわ着替えてきていた。「さっきまで、漆喰を塗っていたのよ」 笑う少女の手は、二の腕まで白くなっている。「あ、あの、俺・・ ええと、あの布を、返そうと思って来たんです」 父の隣に座った少女が、思いっきり目を見張った!!! アモは、腰から小さな赤い布を取り出した。「俺、とっても嬉しいけど・・・ 赤だけは、受け取れない・・・」 アモが、深いため息を付きながら・・・ 少し、布をいじって、それを卓の上に置いた。 少女が、かなり驚いたように、アモを見ていた・・・ と、父親が、ほう、と小さく声を上げる。「なぜ、受け取れないかね」 アモは・・ 呼吸を整えると、決心を固めた。 全て言おう・・・ アモが、口を開けた時だ。「残念だなあ」 先に、父親が言った。「うちのレシアはなあ、まあ、ここらの少女ではよくありがちな、叶わぬ方恋をしておった。 そこを、ようやく、普通の男の子にも、興味を持ったと、喜んでおったのに」「と!父さ・・!」 抗議の声を上げる少女の頭を抑えて口を塞ぎ、父は、フフフ、と言った。「アモ。 お前、ここら辺の少年じゃないと聞いた。 だから、この布の意味がわからないのだなあ・・・ 教えてやるぞ。 これはだ。 まあ、俺もこういうのを持っている。 俺の妻から貰った・・」 ジタバタしている娘などお構いなしに、父が意地悪そうな目線をアモに送った。「かわいい娘がどっかの男にこれを送ったとなれば、本来俺は許さないと怒るべきだ。 が、それを受け取らないと目の前で言われるのも、面白くないなあ~・・・」 アモは、しばし、ポカーンとしていた。 そんな少年の顔を見て、更に父はよく説明が必要だと感じた。「う~む・・・かなり鈍感だな。 つまりコレは恋する相手に贈るものだ。 返すからには、うちの娘は嫌だということかな?」「は?」 やっと、アモは口を利いた。 しかも、全然脈略のない言葉を。 少年アモと、少女レシアは、ぼんやりと、湖の前に座っていた。 あの後・・・アモは、レシア達に、自分がハーギーであることを話した。 父はただ黙っていた。 レシアは、アモをこの湖に連れて来た・・・ レシアの気持ちがよく判らないアモだった。 まだ出合ったばかりだ。 恋する相手によこすもの、などと、大そうなものを受け取るような・・いや、自分には、そういう思いを受ける資格すらないように思っていた。 レシアはずっと黙っている・・・ なにを考えているのだろう・・・ アモは、立ち上がって湖に少し足を入れてみた。「あの日」 後ろで、レシアが言った。「あたしね、ここで水浴びしていたの。 そしたら、あいつに浚われたのよ」「・・・」 アモは、後ろを振り返るのが怖かった。「あの時脱いだ服は、どこに行ったのかしらね・・・ 浚われたときは、ここら辺に置いていたのに、後で探しても見つからないの」 アモは、ようやく振り返ると、少しレシアから離れて座った。「・・・・俺のこと、怖くないの・・・・」 と、レシアは、どうやら笑ったようである。「あら・・・少なくてもあの黒いのよりは怖くないわ」 レシアは、手元の小石を湖に投げ入れた。「あの布、染めてあげる・・・ 元が赤いから、紫ぐらいにしかできないけど」 レシアは、湖に向かって言った。「それに、また家に来てね。 お父さん、あなたを気に入ったみたいだから」 レシアが布を預かり、少年はまた城へと戻って行った。 レシアは、懐から白い布を取り出した。 少女達は、白い布に・・・”想う人”の名を刺繍するのだ。 そして赤は、勇気ある人に送られ、沢山持っている男は、尊敬される・・・ レシアは、家に着くと。 だまって、その白布を、釜に入れた。 誰の名も刺繍していない布・・・ ビアルの名を入れるには、あまりに・・・切なかった。 入れても、どうにもならなすぎた。 赤い布に刺繍されたアモの名前に見入りながら、レシアは、溜息をついた。 父が、”とんでもないこと”を言ってしまったが・・・ 軽く、彼女は笑った。 しばらく、”勘違い”させても、別に支障はないような気も・・・してきた。************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
April 4, 2013
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アモは、いつも通り、皆の集まる場所から、城へと向かっていた。 それは、今までは、必ず早朝に出て、日が沈む頃帰るとう時間帯にしてもらっていたが、大人のハーギーが一緒だったからで・・・ 今は、少年、若い青年、女性だけで結成されているこの班では、特段問題も起こっておらず、アモは城に泊り込む事もあった・・・ アモは、段々、班を単独で出たくなってきた。 もしかして・・・ いつか。 自分も、あの大人たちのように、自分勝手な理由で、女性をないがしろにしてしまうのではないか。 または、仲間が、また、そのような事をするのではないか。 なんだか、もう、そういう思いばかりが、頭を廻ってしまう・・・ だから、城も辞めて、いっそ、気ままな身分になってしまおうと思ったのだ。 しかし、つい先日、ソジンに言われた。 腰を据えて、地盤を固め、 ちゃっかりと、やりたいことをやっても、誰も咎めはしない、と。 王から金を得、住む場所も確保し。 そして、あの街を脅かす黒い者を追っていく・・・ それも、また、乙かもしれない。 城の庭で、体操をしながら、アモは太陽を見上げた。 ヘプターが、3日も、帰って来ない・・・ 中将バーゲルには、ヘプターの妻が怪我をしたから、と言い訳をしておいたが・・・ あれから、どうなったのだろう・・・ アモの脇に、4名、青年がやってきた。 みな、城の警護の仲間だ。 ようやく、気心が知れてきていた。 アモ達は、少し距離を取って、剣を振り合って、互いに楽しむのであった・・・ と、向こうの方で、少しざわめきが起こった。 アモ達は、目配せした。 城の入り口だ・・・ 侵入者だろうか? 彼らは、素早くそちらへと移動を始めた。 その人物は、侵入者ではなかった。 すぐに、王の所へと案内されたようであるが、どうやら、ヘプターが帰ってきた、というのだ! アモは、一呼吸した。 だが、また急に一つの心配が沸いてくる・・・ 彼らの夫婦仲はどうなったのだろう・・・ 黙って休んでいたから、王に怒られてはいないだろうか・・・ まさか、辞めるとか言わないだろうか? それほど時間がかからずに、ヘプターは、宿営地の方へと、手のひらをヒラヒラさせながら、やって来た。「いやあ、悪い、悪い! ちょっと長休みした分、しっかり働くよ!」 ヘプターの顔は、明るかった。 どうやら、アモの悪い予想は外れていたようである。「ヘプターさん!」 アモが駆け寄ると、ヘプターは、小声で言った。「あとで、西の小屋に・・」 そう言うと、ヘプターは、彼よりも位の高い者へ挨拶するために、また城の中へと戻って行ったのであった・・・ アモが待ちくたびれた、夜となった。 その夜は、虫の音が響き・・・ 西の小屋は鍵がかかっていたので、草むらに腰をかけ、ぼんやりと少年は月を見ていた。 ヘプターが、あとで、と言ったのは、夜だ、というのは、すぐに判っていた。 なにしろ3日も無断で休んでいたのだ。 沢山の中将や、大将、兵士に挨拶しているに違いなかった・・・ こんな、夜だった。 あの、黒い奴に、遭ったのは・・・・ アモは、少し肩を抱いて、震えを止めた。 メルサだけだと、思っていた・・・ この世に、恐ろしき・・・ 人々を、恐ろしき支配に置き、その血を見るのを好んだメルサ。 赤い、メルサ・・・・ ここらへんでは、ああいう力は、黒い衣装の者達のようだ・・・・ と、少年の目線が素早く、左に動く。 が、それは鋭い目線ではなかった。 ヘプターの気配であるのは明らかである。 まだ、その足音さえも、しないが。 この少年には、その距離でも判るのだ。 ヘプターがガサガサとやって来てから、アモは立ち上がった。「遅いですよ」 ちょっと拗ねたような声を出す。「悪い、悪い」 相手も、わざとらしく頭をかいていた。 二人は、少し濡れた地面に並んで座った。「・・・シーヤから、聞いたか・・・」 ヘプターが、いきなり切り出し、アモは、ぎくっと肩をすくめた。「・・・色々・・・」「そうか」 ヘプターは、ちょっと、アモににじり寄った。「俺は、知らなかったんだ・・・ あいつが、”最初の女の子”だとはな・・・」「・・・」 アモは、ヘプターの方に顔を向け、複雑そうな顔で聞いた。「俺は、ハーギーでしたから、さっぱり意味が判りません。 ”最初の女の子”が、なんだかに、差し出されるとかって・・・」「エゲルさ」 ヘプターは、足を投げ出して言った。「エゲルには、最初の女の子を、かならず、差し出す決まりなんだ・・・ 俺の親は、結構ここらで力を持っていたからな。 さらに力を持っているやつに頼んで、シーヤを見逃してもらったらしい・・・ ああ、というのは、俺の親が、あいつの親と、友達だから、という理由らしいが・・」 ヘプターは、少し顔を横に逸らした・・・ 間が開いた。 虫の音が、寒々と聞こえる・・・「そ、そして、その条件が、結婚だって・・・」 アモが、言いにくそうに、聞いてみた。「それも、知らなかった」 ヘプターは、俯いていた。「しかも、”お互いに愛してはならない”、と更に条件つきでな・・・・」 ヘプターは、顔を上げると、星を眺めるような目線で言った・・・「なんてこった・・・ なんて、つまらない・・・ どうして、そんな契約なんか・・・」 と、ヘプターが半分言った時。「つまらなくないです!」 アモが立ち上がった!「だって、だって、シーヤさんも、ヘプターさんも、好きなんでしょう?お互いに!」 暗くてよく表情が見えない少年の顔を見上げ・・・ ヘプターが、フフ、と笑った。「お前は、若いよ・・・」 つぶやいた。「まさか・・・」 アモはヘプターに詰め寄った。「まさか、シーヤさんと、別れて来たんじゃないでしょうね? そんな・・ あの人は、なにも悪くないじゃないですか・・・ あの人は、必死だったんですよ??」 両肩を捕まれ、ヘプターは・・・ 少し、微妙な顔を見せていたが・・・ 堪えられなくなったようで、とうとう・・・「ククク!」 笑い出した!「お、おかしい!お前!」 ヘプターが、思いっきり笑い始め、アモは、開いた口が塞がらなくなった。「な、なんです、なにがあったんです・・・」「だって、お前、真面目すぎる・・・鈍感すぎる! ああ、これだから、ハーギーは。 空気が読めないなあ・・・」 クックッと笑いながら、ヘプターは、アモに、ちょいちょい、と、耳をよこせ、と手で合図した。「ごにょごにょ・・・」「・・え・?」「うむ、だからその、ええ、つまりだ。 まあ、ようやくというか、その・・ まあ、ええと、その・・・・」 ヘプターは、夜目にも赤くなって、言った。「つまりだ。 まあ、うん、ええと、やっと、うん、まあ、夫婦としてだな、、、うん。 まあ、そういうことだ。」 しばし、間。「夫婦?」 アモが、眉間に皺を寄せた。「だって、ヘプターさん、もう夫婦なんじゃないの?」 率直な、少年の質問に、ごほん、ごほん、とヘプターが咳払いした。「う、いや、ええと、その。 だから、シーヤから聞いただろうが・・・ 俺は、ずっと、家では寝てばかりだったんだ・・・」 ヘプターが、少年の様に、首もとの襟巻きをいじりながら言った。「・・・・・・・・・」 アモは、更に眉間に皺を寄せた。「・・・ ヘプターさん・・・」「なんだ?」 ヘプターは、まだ襟巻きをいじりながら応えた。 目の前の少年は、首をかしげて言った。「ヘプターさんは、おいくつでしたっけ・・・」「26だが?」 ヘプターは、少し、不思議そうな声でそう言う。 と、アモは、とんでもない事をのたまったのだった・・・「・・・その年まで、なんにも・・・してなかったんですか・・・」 その後、アモが、こっぴどく、ヘプターにしごかれたのは、言うまでもないことであった・・・ 夜が白々と開けて来て・・・ アモとヘプターは、また、並んで小屋の前に座っていた。 一方のヘプターは半分寝ているようだった。 アモは、別段、寝ないのは平気だったので、ぼんやりと城壁を見やっていた。 ソジンに言われた事を、再度思い出していた・・・ ここの護衛が多いこと。 このヘプターも気が付いているのだろうか・・・ そういえば、ヘプターの親は、それなりに有力者だったという。 だから、城勤めとなったのだろうか・・・「アモ・・・そういうお前は、いくつだ・・」 ヘプターが、欠伸をしながら言った。「ですから、前も言ったとおり、正しい年齢は判りません。 多分16くらいです」「フン、ませガキが」 そう言って、なにか、赤い布を寄越して来た。「お前が先に帰った次の日にな、可愛らしい女の子が、親付きで、”お礼”にいらっしゃったぜ! ”ぜひ”また遊びに来てね!だってよ!ククク」 アモは、布の様に頬を赤らめた!「・・・な、なにか勘違いしてますよ・・・ 俺は、偶然、あの子を助けただけです。 中身が男であれ大人であれ、誰でも助けます・・・」「ほほおおおおお」 ヘプターは、わざとらしく口を尖らせて言った。「どーーーせ。 俺はこの年まで、なーーーーーーんにもしてなかったんだもんなーーーーーーー!!!!!!!! じゃあ、お前は、別に女に困ってないって事ね! じゃあ、そういうふうに、あの子に言っておくもん!」「ヘ!ヘプターさん!!!!! い、いえ、そう、そうじゃなくて・・」「ほおおおおおおお そうじゃなくてなんだ?」「え、、ええと、その」 赤くなったり青くなったりするアモを見ながら、ヘプターはいちいち笑うのだった。「・・・お前、苛め甲斐があるなあ・・・」「・・・ど、どうせハーギーですから!」「そう卑下するなって・・・ まあ、可愛い女の子のお礼はありがたく受け取っておくのが、礼儀なのよ。 そして、ちゃーーーーーーんと、遊びにいくのよ。 それ以上は、しちゃだめよ?」「う、うるさいですっ!」「クックク・・・」 アモは、赤い布を受け取った。 サラサラしていて、ちょっといい匂いがした。 白い糸で、刺繍がしてあった・・・ 彼の、名前が。************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
April 3, 2013
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客が、何人か、驚いて席を立つ! その姿を、黒い瞳で見つめていたビアルは・・・ シャラーーーン! と、首元からなにかを出した。「ふふふふ。 呼ばれるのであるのでしたら、どこまでも。 インチキ占い師、ビアルとは私のことっ!」 ジャーーーーーーーーン! キラリと光る、透明の石を、ビアルは高々と掲げた! はあ? ぽかーーーーーーんと口を開けているのは、背の高い少年ニルロゼと、少女マエーリである・・・。「いよ!!!!!!待ってました!」 ヤンヤヤンヤの歓声と、拍手が上がる! ビアルは、首から下げた紐の先に、小さな小袋を縫い付けていた。 それに、あの石が入っていたらしい。「さー、この私に占われたいという物好きはいらっしゃいますか」「俺!」 あっと言う間に、ビアルの周りに残りの客が押し寄せる・・・「な、なんじゃありゃ・・・」 流石のニルロゼも、呆れ顔である。 ビアルが占い師だなどとは、今の今まで知らなかったのだ。 というか、薬師じゃなかったんか!?「ビアルは、ここらじゃ結構有名な占い師だよ」 料理長が、揚げた肉を頬張りながら言った。「だから、王宮でも占い師をしている」「は?そうだったんですか」 ニルロゼは、ちょっと頭を掻いてそう言った。「ちぇ、占い終わったら、早く出発しなきゃ。 お姫様が、ご立腹になる前に・・・」 それはニルロゼの独り言であったが、マエーリが聞き逃さない。「お姫様?」 背の高い少年、ニルロゼは、少女に照れ笑いをした。「ああ、俺ら、城に出入りしているんだ。 こわーーーいお姫様が、俺らのお帰りを待っている。 早く帰らないとね。」 ひゅひゅっ、と、包丁を空中で3回転させ、ニルロゼは数人の人だかりに近づいた。「あーー、すんません、すんません。 俺のビアルは、今日は5人までしか占いしませんから~。 あとは、俺とイイトコ行くのよ~!」 背の高い少年がそう言うと・・・「な、なんだって~?!」「ほ、本当かよ~ビアルっ!」 色めき立つ客はみな男ばかり。 それも、そうだ。 これほど美しい、ビアルが。 なんだか知らないが、これから、この後ろの背の高いのと。 どっかに行く、というのだ。「はい、そうです」 ビアルは、あまりに美しく、微笑んだ。 昼下がり、彼らは料理長の家を出ることとした。 マエーリは、まだ、ニルロゼを憎らしそうに見つめていた。 そのニルロゼは、栗色の馬に乗り・・・後ろにビアルが乗る。「あの、料理長、ひとつお願いが」 ニルロゼは、馬上からマーカフに声をかけてきた。「なんだ」 マーカフは、ぼさり、と応えた。「できれば、長い紐みたいなの、いただけますかね」 ニルロゼがそう言う。 数人、彼らを見送る、客も居た。「紐?そんなのどうする」 マーカフは、それでも、娘に、紐を持って来いと言った。「いえ。 多分ですが、こいつ、馬の上でも寝ると思うんで、縛っておこうかなと。」「・・・」 マーカフは、つくづく、ビアルの方を見た。 ビアルは、くすり、と軽く笑うだけである。「ビアル~! また来いよ~!」 客の一人が、そう声をかける。「ええ」 ビアルが、手を振る。 マエーリが、長めの紐を持ってきた。「ありがとうございます」 ニルロゼは、あくまでも料理長に礼を払うと、周りの人にも軽く会釈をし、馬を進め始めた。「料理長! 戻ったら、また教えてくださいね!」 ニルロゼは、太陽の光に蜂蜜色の髪を輝かせ、マーカフの家を後にした。「さて、行ったか・・・ 嵐のような奴だったな」 マーカフが、やれやれ、と溜息をつきながら言った。「ほんと、ほんと。 あんなのに、ビアルはもったいない!」 客の一人が、マーカフに嘆く。「まあ、ビアルはあのとおり、抜けているからな。 ああいうのが丁度いいんだろう」「まあ、そういう見方もありでしょうがねえ・・・ 少女達がなんと思うやら」「え?」 客とオヤジの会話に、一人。 疑問符を投げかけた少女がいた。 この料理屋の娘のマエーリである。 マエーリは、薄い青の瞳に困惑の色を浮かべて言った。「・・・・なにが、少女達に関係あるの?」 と、客が、逆に不思議そうな顔をしてくる。「なにがって、ビアルだよ。 まったく、ビアルに男がついたとなれば、嘆く少女がゴマンといるだろうな、と。 いや、女がついた、というほうが、よほど大変かもしれないが・・・ しかしまあ、でもなんで女じゃなくて男なんだ・・・」「そりゃ、あの少年も、おおかたビアルを女だと思ったんじゃないの?」 と、別の客が言った。「だろうね」 と、マーカフ。「でも、女だと思ってビアルに近づいて、あれほどビアルに信頼されている男は、今まで見たことはない。 ということは、うまくいっている、ってこったな」「だから、それが問題なんだろ、オヤッサンよ」 客が、オヤジに絡んできた。「ビアルは一応男なんだからさあ・・・ うっかり勘違いする少女が続出・・・」 あ・・・ と、その客は、目線を横にやった。「・・・・」 マーカフの娘が・・・・ 顔を真っ赤にしていた。「・・・おやっさん・・・・」 客が、顔を青くして言った。 マーカフが、やれやれ、と溜息をついた。「どうやら、うちの娘も、その類のようだ」 夕刻になり、やっと、客が引けた。 マエーリは、未だに信じられなかった。 あの、寝台に寝ていたビアルが、男だなんて。 そして・・・・ その、男のビアルに!あたしを勘違いした、とういうのっ!!!! マエーリは、そう思うと、自然と鼻息が荒くなり、ムカムカして、イライラが増すのである。「おい、マエーリ、美容によくないぞ」 父、マーカフが、釜の掃除をしながら、娘に語りかけた。「まあ、ビアルにいちいち焼餅しても勝ち目はない。 あのぐらいの美人はほかにはいないだろう。 そんなの、ここらの少女はみんな知っている。 お前くらいだぞ、ビアルの事を知らなかったのは」 マーカフは、プンプンしている娘の脇に、安物の葡萄酒を持ってきた。「ほら、機嫌を直せ。 ハジューのヘベルだ」 マーカフが持ってきたのは、香りの高い焼き菓子である。 薄い生地を何層にも重ね、ハジューの果物を煮たのを丁寧に練りこんである、女性の好む菓子だ。 ヘベルは、その菓子を作るにはかなりの技巧が必要で、作れる職人は少ない・・・ もちろん、”それっぽい”ものなら、誰でも作れるが・・・ 今、マエーリに出されたように、ふんわりと、形よく作れる者は、あまりいないのだ。 マエーリは、黙ってヘベルに手を出した。 今、ヘベルが湯気を出しているということは、昼から既に、父が仕込んでいたに違いなかった。 そのぐらい、時間もかかる菓子である。「ねえ」 一口、ヘベルにかぶりついて、マエーリはオヤジに言った。「どうして、こいういふうにさ、優しくしてくれるの」「・・・・・」 一瞬、わずかながらの、時間がかかる。 マエーリは、オヤジの目が見れなかった。「そうだなあ」 オヤジは、困ったような声を出した。 また、更に時間がかかった。「あたし、本当の子供じゃないんでしょ」 マエーリは、ヘベルを皿に置いて、溜息のようにそう言った。 この押し問答は・・・ 今回に限った事ではなかった。 マエーリが家出をして、マーカフが連れ戻す度に・・・ 彼らの間で、何度も何度も繰り返されていた言葉であった・・・「そうだなあ」 マーカフは、マエーリの皿のヘベルを取り返して、千切って半分にすると、マエーリの皿に置いた。「ビアルはなあ。だいたい2年前に、ここらに来た。 あいつは、ずっと、一人で、あちこちを放浪していたようだ・・・ あのとおり、大変美しいからなあ。 我が物にしたいという、いやらしい、男もいてなあ」 マーカフは安物の葡萄酒を、瓶ごと口につけて、そう言った。「もちろん、男だからなあ。 あいつに、言い寄る女性も、多かった。 そりゃあ、もてたよ。 目に見えるようだろう?」 マーカフは、でかい口で、ヘベルを一口で食べてしまった。「沢山の、金持ちどもが、こぞってビアルに金を出そうとしても・・・ けして、ビアルは、誰の下にもつくことなかった・・・ ここいらへんでうろうろしていたから、たまに、俺が、飯を食わせていたのさ。 あいつは、金もないし、誰からも、金を貰わない。 俺も、あいつに金なんか、貰おうとおもわなかった」 マーカフは、くすり、と笑った。「それからしばらくすると、俺の客に可愛がられて、占いを始めて、自分の食いぶちだけは、適当にやっていたようだ。 なのに、姫に目をつけられてなあ。 そりゃあ、大変だったようだ。 王宮からも、金を貰ってないようだよ。 本当に、おかしい奴だ」 マエーリは、笑っているオヤジの目を、ちらり、と見た。「あいつは、ほかの場所では・・・ 無償で、人の治療もしているようだ・・・ ここらからいなくなったのは、そういう理由だ。 ずっと誰も寄せ付けていなかったあいつが、どうして、身近に一人・・・置く気になったんだろう・・」 マエーリは、また一口、ヘベルを食べた。 マエーリは・・・・ 自分が聞いた質問に、オヤジが答えていないのは、別に気にもならなかった。 その答えは・・・ ずっと前に、聞いていたから・・・・・・。***********************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
April 3, 2013
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それは、約20日前。 というか、旅人セルヴィシュテとラトセィスを、料理屋の主マーカフが泊めた20日程前に遡る。 まだ日が昇らなく、いつもだったらマーカフとマエーリ親子は寝ている時間だった。「きゃああああああああ!!!!!!!」 寒い朝。 ルヘルンの街の一角で、少女の悲鳴が響いた! その悲鳴は、このあたりではちょっと有名な料理屋の二階から発せられた。 あまりに朝早かったから、街の人はまだ起きてはなかったが、流石に、その下の部屋に寝ていた、少女の父親は、驚いた。 驚いたが、もさーーーーっと起き上がって、面倒くさそうに、肩をコキコキ鳴らしてから、二階へと向かう・・・「な、な、なにすんのーーーーーーーーっ!」「な、なにって・・・ あ、あれ?ビアルちゃんは・・・」「もう!信じられない!変体!スケベ!どうしてくれるの!結婚前なのに!」「ど、どうしてくれるって、抱きしめただけじゃないの」「きゃあ、信じられない! 乙女にあんなことしておいて・・・あっ! ちょ、ちょっと、オヤジ、なによ、こいつ!」 オヤジ、といいながら、モサツいた男の影に隠れた少女は、赤みのある金髪の、闊達そうな雰囲気である。 一方の、オヤジ、は、ぼさーーーっとしていて、こげ茶の髪はどうやら3日洗ってないようで、着ている服はどう見ても夜着だ。「あ、料理長!おはようございますっ!」 シャキーーン!と爪先立ちになって、少女に叫ばれていた少年が、”料理長”に挨拶した!「なんか、俺らの寝台に、変なのいたんですよ!?本当、困りますよね! じゃ、俺、家の周りでも掃除しますよ」「ちょ!ちょっと! あんた、何考えているの! 謝りなさい! そ、その寝台は大体にしてあたしの寝台なの、変なのって誰の事よ!?」 少女が”料理長”の後ろから飛び出してきて、少年に詰めかかった。 その少年は、いたく背が高かった。 詰め寄って見上げたはいいが・・・・ なかなかに、鍛えているようで、薄い衣服の下に、筋肉が見え隠れしている。「え? き、君の寝台なの?」 少年は、濃い黄色の瞳を驚かせた。「り、料理長~!?」 少年が、思わず”料理長”の方に困った目線を送った。 料理長は、ぼさーーーーーっと言った。「俺の娘のマエーリだ」 呆れたことに、ビアルは寝台の下に落ちて寝ていた。 蜂蜜色の瞳の少年、ニルロゼは、ビアルを寝台に引き上げ、毛布をかけてやった。 それを、憎憎しげに、マエーリが見据えている。「いや、ほんと、ごめんって。 本当に、ビアルだと思ったんだってば」「・・・」 マエーリは、16歳の少女である。 父親とは、昔から、そりが合わなかった・・・ いつも家出を繰り返しては、父に見つかって連れ戻されていた。 どうして、そんなに父が面白くなかったのかは、実はよくわからなかった。 最近、ようやく、家出癖も収まり・・・ 父の料理を手伝うようなことも増えた。 今回は、使いに行っていた。 そして、帰ってきて、いつものように寝台に寝ようとしたら・・・ 毛布から、ニュッと手が伸びてきて、マエーリを羽交い絞めにした、というわけだ。 事の発端は、昨日の事のようである・・・ あの、背の高い少年ニルロゼと、美しい少女を、オヤジが勝手にあたしの部屋に、泊めたらしい。 いちいち、思い出すと、ムカムカするマエーリであった。 何分、これまで、男性とあのように抱きしめあったことがないというのに! この少年は、全く意に介していないようである!! その上・・・ 今、寝台に寝ている、ビアル、という少女と勘違いした、と言うのだった・・・ まあ、そう言うのなら、仕方ないわ、と、理屈をつけて、自分を納得させようとするマエーリであった。 なにぶん、ビアルは、恐ろしいほどに美しい少女、なのだ。 その少女に、自分を間違えた、というなら、そんなに悪い気もしないでもないのだった・・・ 下の方では、オヤジが、あのニルロゼに、なんだか料理をやらせているらしい。 オヤジが珍しく家にいるのを嗅ぎつけた街のやつらが、もう店に来ていた・・・・ マエーリも、下に降りて行った。 オヤジの事は、あまり好きではなかった。 でも、最近、まあ仕方ないのかなと思うようになってきた。 だって、あたしのオヤジなんだから・・・・ マエーリは、階段を降りきらないうちに、急にあらぬ事を妄想して一人で赤くなってきた! あ・・あれ? あのニルロゼが、ビアルと間違えてあたしを抱きしめて来たってことは・・・ あの人たちって、 そういう関係、よね・・・? 急に、ドキドキしてきた。 どう見ても、自分と同年代のニルロゼ達。 特に、あの背高のっぽは、女性を抱きしめるなど、痛くも痒くもないようだ。 ということは・・・・ 口に両手をあて、マエーリは、こっそり上の方を見た。 い、いやだ。 え、えっと。 私達くらいの年代で、もう、ねえ・・・ 鼓動が収まるまでの時間が、かなりかかったような気がした。 ようやく、マエーリは厨房へと行った。 オヤジが、いつものように食材を切っている・・・ 背高のっぽは、うっとりするような目つきで、オヤジの手元を見ながら、自分の手元を見ないで野菜を切っていた。 マエーリも厨房に入ろうとすると、オヤジがそれを留めた。「昨日寝ていないだろう。 俺の部屋で寝ていろ」 オヤジはぼそっと言った。「大丈夫よ。 ショーンさんの処で寝させてもらったの」 マエーリは、出来上がった料理を運び始める。 オヤジは、あまり好きではないが、ああやって、少しは自分を気にかけてくれるあたりが、少しは”オヤジらしい”んだな、というのが、最近ようやくわかってきたマエーリである。 不器用な父なのだ・・・ 背の高い少年も、皿を客に持っていくと、客人となにかよく話をしていた。 なかなか、客受けがいいらしい・・・ 昼間になると、客足が少なくなった。 面白いことに、この料理屋はいつも、昼や夕方のいわゆるご飯時の時間は込まないのだ・・・ マエーリが机を拭いていると・・・ 二階から、トン、トンと、誰かが降りてきた。 誰かが、などと、いちいち明記しなくても、もう判りきってはいたが。 あの、美少女に違いない。「あ、ビアル、おはよう」 背高のっぽが、”少女”に声をかけた。 黒髪の少女は、黒い服をばさりと着ていた。 その姿を見た、残りの客の一人が、驚いた声をあげた。「ビ! ビアルだ!」************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
April 3, 2013
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平原ばかりだった大地の向こうに森が見えてくる。 その大きな森に囲まれるように、街が栄えていた。 秋刻が近づいているのか・・・ やや涼しい風が、少年セルヴィシュテの髪を凪いだ。 茶色の髪を、手でかき上げ、セルヴィシュテは街を見下ろした。 その隣に、皮の帽子を被った少年、ラトセィスが並んだ。 ラトセィスは、向こうにそびえる山を、染み入るような瞳で見つめた・・・・が、すぐに相方セルヴィシュテに向き直る。 実は、ラトセィスは、あの見えている街へは何度か行った事があった・・・ 時々休憩を挟みながら、少年達は、とうとう大きな街へと辿り着いた。 その街は、廻りをぐるりと木の柵に囲まれ、しかし、あまり柵はそれ程高くない。 だが、セルヴィシュテは、柵を左に巡りつつ、入り口を探した。 と、ようやくは入り口らしき場所を発見した・・・ そこには、2人、門番が立っていた。 結構退屈そうな雰囲気であった・・・「あの」 セルヴィシュテが言った時。 相方ラトセィスが前に軽く進み出た。「ハザ出身のラトスです。 旅で疲れているので、入ってよろしいですか?」 門番は、にこやかに二人を中に入れた・・・ 中に入ると、街は整然としており、家は木で創られており、石畳を行きかう人々は、なかなかによい服を着ている。 街角に物乞いもおらず、家々の前に花が植えてあり、よい香りが漂っていた。「結構いい街だね」 セルヴィシュテが、相方をみやりながら、笑った。「・・・そういえばさ」 茶色の髪の少年は、脇を通り過ぎる夫人が行き過ぎるのを見送ってからそっと言った。「どうして、わざわざ門番に名乗ったの?」 ラトスは、通路の脇に生えている桃色の花に、鼻を近づけ匂いを嗅いでいるようだ。「ここは、ルヘルンの街・・・」 ラトスは、振り返って意味ありげに微笑した。「ここでも、様々な契約が蔓延しているのです・・・」 桃色の花の向こうのラトスの表情に・・・ セルヴィシュテは、少し、ドキマキしてきた。 少し破れ加減の服をさすり、さて、とセルヴィシュテは深呼吸した。 これほどの街であれば、外れで寝ることも、ままならないようである。 どこかに、泊まらなくては。 また、親切な人に泊めて貰うか、または、宿賃を稼ぎ出さねばならなかった。 安宿!5ラワー! 宿の木の看板に、掘り出した文字が踊っていた。 ラワー、とは、どのぐらいの単価か、セルヴィシュテにはわからなかった。 なにぶん、今まで殆ど一文無しで乗り切って来たのだから・・・ お金を稼ぐにしても、どうやって・・・ 困り果てて、いつものクセの布をいじっていると、フォルセッツ(足に履く衣装)の内側の小物入れから、ぽろり、と・・・ 貝が、零れ落ちた。 少年がそれを拾おうとしたとき。「へえん?」 誰かが、それを蹴飛ばした。「・・?」 セルヴィシュテが、貝の行方を追う。 その貝は、別な者が拾い上げた。「すみません。 あれは、俺の貝ですが」 セルヴィシュテは、目の前の人物に睨みかかった。 相手は、20代前半の、ちょっと体格のいい男である。 しかし、セルヴィシュテは、臆面もなく、鋭い視線を投げつけた。「返してください」「だってよ、マエーリ」 男が、貝を拾った方のものに、笑いながら言う。「小僧。 俺をどなた様だと思ってそんな生意気な事を言う? ここの富豪の息子、ドパガ・・ せいぜい、首元に気を・・・」 と、男が半分言ったところに・・・ 茶色の少年、セルヴィシュテが。 そのドパガの首元に、短剣をさらりと突きつけた!「ふうん? 首元に気をつけるって、どうやってさ・・・」 セルヴィシュテは、軽く目を細めた。「富豪ってのは、人のものを勝手に取っていいご身分のようだね。 でも生憎。 俺は、”ここらへん”の常識にとらわれていないのさ。 なんといっても、俺は遥か向こうの大陸エルダーヤからやってきた! メンニョールのやりかたなんて、知ったこっちゃないね」 セルヴィシュテは、ドパガから目を離さずにニヤリと言った。「さあ、どうするね、富豪の息子さん・・・ 俺は結構剣が巧いんだよ。 さっさと貝を帰してくれるかな」 ようやく・・・貝を持っていた者が、おずおずとやってきた。「ふん。 まったく、メンニョール大陸は、俺の大陸と違って、嫌なことばかりだ。 こんなんじゃ、住民もさぞ苦しんでいるだろう。 ドパガとやら、俺は逃げも隠れもしないぜ、せいぜい富豪のお父さんに、泣き言いいな! 受けて立ってやる!!」 セルヴィシュテが、貝を持ってきた者から貝を受け取る・・・ と、周りの民衆から・・・ 少しずつだが、小さな声が上がってきた。「帰れ」 それは、本当に小さな声だった。「帰れ!」「帰れ!!!!」「かえれっ!!!!」 段々、その声は調和を増していく! 最初、セルヴィシュテが驚いたが、目の前のドパガが・・・ 慌てふためいているようであった・・・ この周囲の声は、ドバガへ向けられた声であったのである。「き・・・貴様ら・・・ いい気になりやがって・・・」 チッ、と舌打ちすると、ドパガは、今まで貝を持っていた者に合図した。 一緒に行くぞ、というのだ。「・・・」 目深に頭巾を被り、すっぽりとした外套を被った人物は、黙って立っている。「・・・・私は、いきません」 頭巾の置くから、少女の声が・・・した。「おい、貴様・・・あとで吠え面かくなよ」 言い捨てて、ドパガはきびすを返した。 辺りを囲んでいた人々は、ワッと歓声をあげ、喜んでいるようである。 頭巾の少女も、会釈してきた。「すみません。 ありがとう。 助かりました・・・」 頭巾を取ると、セルヴィシュテより、少し年上の少女のようであった。「・・・」 セルヴィシュテは、まだ、本当は・・・ 事の次第がわからなかった・・・「私は、マエーリ。 ドパガの気まぐれで、今日のお供をさせられてたの・・・ よかったら、家に寄って。 お茶でもご馳走するわ」 少女は、赤茶がかった黒い髪を、短めに切っていた・・・ もしかして、ラトセィスより、短くしてあるかもしれない・・・ 「あの」 セルヴィシュテは、先に歩く少女に聞いた。「富豪ってのは、みんなあんなもんなんですか・・・」「ううん?」 マエーリは、少し焼けた腕を振りながら言った。「あいつは、偽者よ。 富豪だなんて言ってるけど、”富豪に仕える人”の一人。 思いあがりもはなはだしいわ。 さっさと、あいつの親父、首になればいいのに・・・」 マエーリが、やたら、首元を、気にしている。 どうやら、痒いようだ。「・・・もしかして、髪の毛を切ったばかり?」 首筋まで見えるその髪形に、セルヴィシュテが寒そうに、という目線を送った。 そう、これから、冬になるというのに・・・・ マエーリは、応えなかった・・・・「あら・・」 暫く歩くと、マエーリの足が止まる。「どうしたの?」 後ろを歩く少年二人が前方を見やると、なんだか、人だかりができていた。「やあねえ・・・」 マエーリが、溜息をついた。 茶色の髪の少年、セルヴィシュテが、ちょっと瞳を瞬かせながら、少女に聞いた。「な、なんかあるの・・・・」 すると、前を歩くマエーリは、つくづく嫌そうに言った。「親父が帰っているわ」 マエーリの家は、料理屋であった。 しかも、今日はかなり、客でにぎわっていた。 マエーリは、裏口から、少年達を中へと案内し、二階へ連れて行った。「困った親父なのよ。 気が向いた時しか来ないの。 でも、それをかぎつけて、ああやって客が来るの、不思議よね」 マエーリは、ちょっと舌を出して、肩をすくめた。「しゃあない、手伝ってくる。 あなたたち、くつろいでいて。 気兼ねしなくていいからね」 マエーリは、外套を脱いだ。動きやすい、紺色の繋ぎを着ている。 少女は、階段を降りて行った。 下の客の声はこちらまで聞こえ、威勢のいい笑い声と、陽気な歌まで聞こえる。「ラトス」 セルヴィシュテは、腕捲くりした。「情報収集にもってこいだと思わない?」 そして、少年二人も、階段を降り・・・ できあがった料理を運んだり食べ終わった皿の片づけを手伝うこととしたのだった。「へえん、エルダーヤから」 濁った葡萄酒を傾ける男・・・ マエーリの父、マーカフ。 夜になり、客が帰って・・・少年達は、マーカフが、家に泊めてくれると言ってくれたのだった・・・ そのマーカフの見かけは、冴えなくて、ぼさーーーっとしている感じだった。 若々しいマエーリの父にしては、やや、年配である。 マーカフは、果物を切っているマエーリに聞こえるように言った。「お前、男はこりごりなんじゃなかったけ?」 と、マエーリが、スコーーーン!と、果物を、父の頭に投げて命中させた!「アホ親父!! あいつは、あたしの事を襲って来やがったのよ!ほんとムカムカするっ! その点、セルヴィシュテなんかは、とっても紳士的よ、なんたって、あのドパガに口で負けてなかったんだから」 ちょっとセルヴィシュテは赤くなって頭をかいた。「あ、いえ、そんな大それたもんじゃないです・・・ 俺は、ここらへんの風習がわからないから、まあ怖いもの知らずってやつですよ」「ふうん」 濁った葡萄酒をまた傾けるマーカフであった。 いまいち冴えない中年男性は、今度はラトセィスに目を向けた。 ラトセィスは、干した果物を裂いて食べているところだった。 マーカフの視線を受け・・・ ラトセィスは軽く帽子に手を触れた。「すみません、室内で。 火傷をしているんです」「ふうん」 また、マーカフは、葡萄酒を傾けた。************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
April 2, 2013
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朝露に濡れたアモが、城に着いた。 門番は、一人でやってきたアモに、少し懸念の目を送ったが、咎めることなくアモを中へと入れた。 自作の矢と、なかなかに立派な弓を背負い。 腰には中型の剣を下げたこの少年は、城の警備の者達に、一目置かれていた。 王が気に入っている料理長が連れてきたから、というのもあるが、なんといっても、その弓の腕は城で一番ではないかというほどだった。 そのアモが、中将のバーゲルに、王に面会したいと申し出た。 バーゲルは、40代の男で、実はアモをあまりよく思っていなかった。 これほどに若い少年なのに、うさんくさい匂いがプンプンするからなのだ・・・ しかし、どうどうと、面会を求められ、断る理由がない・・・ 王に取り次ぎ、王が却下しない限り。 このバーゲルには、面会者を自分で断る権限がなかった。 外からやってきた見ず知らずのものでもないのだから・・・・ バーゲルが、王の間へと行こうとしていた時だ。 後ろから、アモを追って、誰かがやってきた。「よっと! おお、少し、待ちなよ・・・」 軽い調子でそう言ってきたのは、アモやヘプター達の所属する、外の見回りで、アモも顔見知りの、ソジンだった。 アモは、ソジンを見て、やや、瞳を曇らせた・・・ この、ソジン。 アモは、快く思っていなかった・・・ みんなが、自分のことを、”普通ではない”と見て、やや距離を置いているのは、重々自覚していた。 だが、このソジンは、いずれ、かならずその”普通ではない”事がなにかを、掴んでやると、そう思っているのが、ありありと伝わってくるのだ。「アモ。 ヘプターの処に行ったんだろう? 一人で帰ってきたのなら、疲れたはずだ・・・ まあ、そんなに慌てるなよ。 一旦、宿営地に来な」 ソジンは、軽く歯を見せて笑った。 アモは、ハーゲルの方を一度みて・・・ 会釈すると、ソジンの方に体を向けた。 自分がハーギーであること。 この仕事を辞めようと思っていることを。 王に、言おうと思っていた。 王に言うのなら、もう誰に言おうとも、代わりはなかった。 もうアモの腹は決まっていたのだ。 ヤケッパチな気分で、アモはソジンについていくのであった・・・ 宿営地は、なかなかにいい造りであった。 土台は石でできていて、天井もしっかりと樹が組み込まれている。泊まりこみができるよう、仕切りもあるし、数名で炊事ができるよう釜も4つあった。 ソジンは、アモをやや狭い仕切りへと案内した。「大丈夫か?顔色が悪いぜ・・」 ソジンは、意外にも、アモを気遣い、頭を拭くよう乾いた布をよこすと、湯を沸かし始める。「・・・」 アモは、黙って、ソジンの様子を観察した。 この、ソジンは、いつか、自分を陥れようと、そういう目つきで時々見ていたように感じていたが・・・ こうやって、優しく対応してくれるのは、油断させるためか? だが・・・ アモは、ふう、とため息をついた。 もう、自分の身分を明らかにする決心がついていた。 今更ソジンを警戒してなにになるといのだ・・・「ソジンさん、俺・・・」「ああ、今は言うな」 ソジンは、こちらを振り向いて、野菜を漬けたものを出してきた。「まあ、お前が俺を警戒するのはわかる。 そう、怖い顔をするな。 どうも、お前は、危なっかしい」 ソジンは、茶を淹れて、アモの向かいに座ると、素手で漬物を食べ始めた。「まあ、食えよ。俺が作ったんだ。結構上手だぜ」 ボリボリと漬物を食べるソジンを見ながら、アモは茶の入った椀を両手で包んだ。「いただきます」 茶を傾け、口に含む。 不思議な香だ。「・・?」 奇妙な顔をするアモに、ソジンが笑って言った。「俺の故郷、ラマダノンの茶だ」 ソジンが再び素手で漬物を掴みながら、さりげなく、切り出した。「まあ、そんなに警戒するな。 先に俺の事を教えてやろう。 俺は、ラマダノンの国の密偵さ。 ずっと、この城のことについて、調べていた・・・ いわゆる偵察者さ」 アモは、わずかに眉をあげた。 ソジンの言わんとすることが、その意図が・・・計りかねている。「まあ、実を言えば、お前もその類かな、と思って、目をつけていたって事よ」 アモは、少し、茶を飲んで、呼吸を整えた。「偵察・・・城を? なぜですか? あ、いえ・・・といいますか・・・ どうしてそれを俺に教えるのです・・・」「いや?だから、さっきも言っただろう? 同じ類だと思っていたのさ、お前もどこかの国の偵察かなと。 目つきといい、腕といい、並じゃない。 まあ、俺は、腕はたたないが、情報収集には長けていて、そっち方面だがな」 ソジンは、茶をすすって、漬物を薦めた。「・・・偵察。 この城を? なにか、ありましたっけ? そんな、偵察するような、すごい秘密なんて・・・」 アモは、少年らしい表情で、目をパチクリさせた。「ハハ。 なんだ、お前は結構間抜けだな。 気がつかないか・・ 確かにこの城には色々財宝があるかもしれないが、それを守るにしては、護衛の数が多すぎることを・・・」 ソジンは、指を組み合わせて言った。「あ、あの、それと、偵察となんの関係が・・・」 それを聞いたソジンは、すっかり笑って言った。「おい、おい・・・ まったく、お前は何者だ? まあ、ここまで教えたから、教えてやるよ。 この城は、秘密が沢山ある。 一番の秘密は、こんなに沢山の用兵がいる事。 その給料は、どこから来る?」 アモは、目を宙に泳がせて言った。「ええと、王様から・・・」「カッカッカッ!」 もう笑いを堪えられない、という表情で、ソジンは腰を屈めた!「お前、平和だなあ! じゃあ、その王様、その金をどこから調達する?」 アモは、更に眉をしかめた・・・ 金がどこから来るか、なんて・・・ 知らなかった。「・・・わかりません」「おや、おや・・・」 ソジンは、軽く笑って、漬物に手を伸ばした。「まあ、若ければ、仕組みもわからないか? 大抵の国では、国王は、人民から税とかを集めてな。 その集めたお金で、国を運営するのさ。 まあ、俺らは、そのお金で雇われていることになる、って訳」 ソジンは、葉を巻いて作った煙草を取り出した。「ちょいと吸うぜ」 火打石で火をつけ、ぷかりと煙をくゆらす・・・「・・・国王様が集めたお金で、俺らが雇われているんですね。 でも、それがなんの問題が?」 ちょっと咳き込みながら、アモが聞く。「フフ」 ソジンは、目をアモに向けて笑った。「集められている人民は、どう思うかな?」 アモは・・・ 必死に考えた。「え? ええと・・・ お金のない人は、困ります・・・」「だろ」 ソジンは、煙草をもみ消した。「・・・この国の人々は、お金がある人ばかりだと思うか?」 2本目の煙草に火をつけた。「・・・、じ、実はそれもよく・・・」 アモはうつむいてしまった。「フフ・・・ やはり、お前はこの国の者ではないな? でも、偵察でも刺客でもない・・・ 何者だい?」 アモは、茶碗をいじっていたが、思い切って言った。「国王様に言おうと思っていたのですが・・・ 俺は、この大陸の西にある、ハーギーの出身です。 ずっと、ハーギーで暮らしていたので、その外のことは、まるで知らないのです・・・」 ソジンは、思慮深そうな目つきで、若い少年を見つめた。 アモは、軽いため息をついた。「ですから、お金の事も、国の成り立ちのこととか、ぜんぜん」 アモは、やっと、素手で漬物に手をつけた。「ソジンさんは、どうして、偵察などしているのです? 差し支えなければ、教えていただけますか・・」 ソジンは、更に煙草に火をつけた。「なるほど。 ハーギであったか。 只者ではないとは思っていたが・・・ しかし、おぬしら、殺戮を好むといわれているが? どうしてこんなところで、城の警護などしている・・」 アモは、逆に質問され、軽く笑う。「そう言われると思いましたよ。 そう、ソジンさんのおっしゃる通り。 ここのあたりでは、俺らは恐れられています。 俺らハーギーは、確かに殺戮を繰り返していました。 ですが、それは、ある恐ろしい者の命令を受け、歯剥くことができなかったからです。 生まれた時からハーギーで、あの世界が当たり前だったのです。 それ以外を知ることができずに、どのように、他を知るというのです・・・」「なるほど」 ソジンが、ぷかり、と煙をくゆらせた。「では、今ハーギーから、出ているのかな?」「ええ。 皆で協力して出てきました。 暮らしをよくするために、お金が欲しかったのです。」 アモは、ちょっとしょっぱい漬物を噛んだ。「なるほどね。 で、国王のところに、なにを言いに行くところだった?」「え・・・」 アモは、ちょっと目を左右に動かした。「・・・・ソジンさんはご存知かと思いますが・・・ この付近では、なんだか嫌なものが蔓延しているようなのです。 俺は、もう王から充分な報酬を頂きました。 仕事を辞め、その嫌なものを、今後は追いかけていこうと思っています」 ソジンは・・・じっくりと、煙草をくゆらせ、煙をはきながら言った。「アモ。 お前はまだ若い。 お前の気持ちは判るが、核心に近づくには、並ではないぞ・・・」「いえ、そうしたいのです」 若者の目線を受け、ソジンは、煙草を消した。「もう一度言おう、俺は、他国からの偵察。 この城について調べ、もう4年・・・ いまだ、まだ判らないことばかりだ。 王がどこから、俺らの給料を調達しているか? どうして護衛がこんなに必要か? 不思議に思わないか?」 アモは、ソジンの日焼けした肢体を見つめた。「この王家にも、秘密がある。 だから偵察に来ている・・・ アモ、もしかしたら、お前が探そうとしているのも、意外と近くにあるかもしれないぞ・・」 ソジンは、笑いながら席を立った。「辞めるのは、いつでもできる。 給料を貰いながら、調べたいものを、調べて行った方が、いいのではないか? 金はあったに越したことはないぞ・・・ 辞めたら、もう金を寄越す人のアテはないのだろう?」 ソジンは、奥の厨房から、燻製の肉を持ってきた。「慌てるな、アモ。 焦る気持ちはわかる。 だが、そういう時こそ・・・ 腰を据えて、地盤を固めながら、その上で・・・ ちゃっかりと、やりたいことをやっても、誰も咎めはしない」 ソジンは、自分の剣で、肉を切り始めた。 アモは、少しだけ、肩の力が抜けるのを感じた。 ソジンの言い分は正しいと思った。 自分の力だけではどうにもできない事もある・・・ アモは、切り分けられた肉を、ありがたく頂いたのであった。************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
February 20, 2013
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偶然助けた少女をその家に送り、通った道を踏みしめている影がある。 黒髪の少年、アモであった。 彼は、なんとなく肩を落として岐路を辿っていた。 この土地に来てから、ずっと、ハーギーであることを、他の人に隠して来た・・・ ヘプターに教える気になったのは、いつもヘプターが、自分をとても可愛がってくれて・・・ なにかを、隠しているのを、悟られていたからだ。 他の、城に勤めている者は、あまり自分に干渉をして来なかった。 ヘプターには、安心できる、なにかがあった・・・ 少女の紐を切った剣を少し抜いて、アモは自分の顔を剣に映した。 見慣れた、自身の黒い瞳だった・・・「・・・」 少し、剣から目を逸らす。 今住んでいる場所にも、何人か、同じくらいの年頃の少女がいる。 ハーギーの時、数名、肌を見た・・・女性もいる・・・ でも、女の子のことは、よくわからない、アモである。 ちょっぴり、赤くなって、雑念を拭うように、少年は頭を振った。 なんだか、心臓の鼓動が早まっている。 どうってことはないのだ。 久しぶりに・・・女性の肌を見てしまったから、ちょっと驚いただけで・・・ 別に、それだけなのだ。 アモは、剣を鞘に収め、ヘプターの住む屋敷へと、急いだ。 と、アモは、大きな屋敷の前で・・・足を止めてしまった。 ヘプターの部屋の明かりが・・・・点いていなかった・・・・ 二階を見上げる少年が、少し、ごくりと唾を飲み込んだ。 自分が帰る前に、婦人が先に寝ているとは、思えない・・・ どうしたんだろう・・・ アモは、慌てて扉にすがりつき、屋敷に入ると、二階へと上がる。 ヘプターの部屋の扉に手を当てようとしたとき・・・ 少年は、いきなり、とんでもない事を想像してしまった! よもや、夫婦水入らず・・・? アモは、いきなり、顔が真っ赤になってしまった! ど、どうしよう。 アモは、勝手に思案に明け暮れ、勝手に、赤くなり、勝手に、廊下をウロウロとした。 どうしよう。 じゃ、じゃあ、俺、外で寝ていようかな・・・・ アモは、別に、外で寝るのは慣れていた。 危険があれば、自らの事くらい、守れる。 しかし、だ・・・・ アモは、唇に手を当てた。 困り果てた少女を、外に送って来たのだ。 そのアモを、婦人が待たずにいるとは、やはり、思えない・・・ アモは、思い切って、扉を叩いた。「シーヤさん・・?」 控えめに、声をかける。「俺です、アモです、戻って来ました・・・」 しかし・・・中から反応はない。 アモは、やや日焼けした手を、扉に当てたまま・・・ 眉を少し、上げた。 その瞳が、僅かに、細くなる。 血の匂い・・・だ。 アモ達、ハーギーのものは、すぐに、判るであろう、ほんの僅かの、この匂い・・・ 中から、血の匂いがする・・・!「シーヤさん!?」 アモは、扉を開けようとした! 閂が下りているらしい! アモは、サッと剣を抜くと、閂と反対側の蝶番に剣を当て、こじ開けた!「シーヤさん!」 ガタリ、と音を立て、アモは部屋に飛び入った! 中は、暗かった・・・ が、アモには見て取れた・・・・ ヘプターの妻・・・シーヤが・・・ 食卓に半身をぐたりと横たえていた・・・「シーヤさん・・!!!!」 アモは、すぐにその脇に駆け寄った! なんということだろう・・・・ シーヤは、小さな剣で・・ 手首を自ら切りつけていた・・・ アモは、とっさに、シーヤの頚動脈に触れた。 まだ生きていた。 少年は、素早く蝋燭に火を点し、辺りを見回して綺麗な布を見つけ、それをシーヤの手首に巻きつけた。 それから、食べ物の置いてある戸棚に駆け寄ると、酒を取り出し、自分でそれを口にした。「失礼」 口移しで酒を飲ませてから、短くそう言った。 アモが、辛抱強く、シーヤの手を上に持ち上げ続けていると・・・ やっと、シーヤが、気が付いたようだった・・・「・・・」 アモは、なんともいえない目つきで、ヘプターの妻を見つめた。 どうしたというのだろう・・・ なぜ? そう聞きたかったが、今それを聞いては、彼女を更に追い詰めるのは、目に見えていた・・・「どうです、気分は・・・」 やっと、それだけ、言うと、シーヤは、青ざめた顔で笑った・・・「どうして死なせてくれないの・・・」 アモは・・・ 軽く首を振った・・・ なんだ・・・ どうしてだ・・・ わからないことばかりだ・・・・「俺の大事な人の奥さんは、死なせる訳にはいきません」 アモは、やや怒ったように、そう言った。 シーヤは、目の前に酒があるのに気が付くと、小さく言った。「・・・少し、飲ませて・・・」 少年は、黙って、それを椀に注ぐと、シーヤの口元に運んだ。 シーヤは、本当に少しだけ飲むと、まだ青い顔で言った。「私・・ 死ななきゃならないのよ・・・」 それを聞いたアモの手が、ひどく震えた。「な、なぜです・・・」 アモは、シーヤの肩を支えながら、震えを堪えきれず、そう言った。「アモ・・・ 気が付かないの・・・ どうして、あの人が寝たままなのか・・・」 シーヤは、奥で寝入っているヘプターの方に目線を送って言った。 アモも、はっとした。 確かに、おかしいとは思っていた・・・「あなたも知っているとは思うけど・・・ それでもなお、私は、特殊な契約を結ばされているのよ・・・ 私は、最初に生まれた女の子なのよ・・・ だから、本当は、エゲルのところに行くはずだったの・・・」 アモは、なにが言われているのか、判らなかった・・・ だが、あの助けた少女のように、”それが判らない”というとなれば、”ここの人ではない”ことが、たちどころにばれてしまう・・・「でも、あの人の親が、特別に計らって、私を助けてくれたのよ・・・ ただし、条件があったのよ・・・ それは、あのひとを愛してはいけないことと、それと・・・」 シーヤの瞳から、大粒の涙があふれた・・・「それから、生まれた子供を、かならず、”差し出す”ことよ・・・」 シーヤは、たまらなくなったのか、アモにすがり付いてきた。 アモは、多少赤くなりつつも、シーヤの背をだまってさすった。「だ、だから、あの人が帰って来て、二人になると、私は、あの人を、色々、知ってしまって、愛してしまいそうだから、いつも、ああやって、眠らせるしか、なかったのよ・・・」 シーヤは、泣きながらに、そう言うのであった・・・ アモは、若々しい顔に、苦渋の表情を浮かべた。 なんということか・・・ ハーギーの時のような・・・恐ろしい、辛い、思いを、している人が、ハーギーの”外”にも、あったとは・・・「だ、だけど、もう終わりよ・・・ 黒が来たわ」 シーヤは、首を振りながら、やっとアモから離れた。「・・?」 アモは、危うく、質問したかったが、なんとかそれを飲み込んだ。 シーヤは気が付かずに言葉を続けた。「あなた、連れてきたでしょう・・小さな子を・・・ 黒が、近くに来ているわ・・・ 黒に、もう気が付かれてしまっているわ・・・ わたしは、あの人を裏切り続け、そして、契約も裏切って・・・ もう、どこにも、立てる顔がないわ・・・」 シーヤは、がっくりとうなだれた・・・ アモは・・・ まだ、シーヤの左手を掴んでいた。 あの、助けた少女。 そしてこのシーヤ・・・ 共に”黒”が、大きくかかわっているのだ・・・・「・・・シーヤさん」 アモは、表情を殺して言った。「俺らは、誰かを、大切に思う、そう思う、自由があるはずです」 シーヤの肩が、僅かに、ピクリとした。「ヘプターさんは、俺のことを、隔てなく、大切にしてくれました。 だから、俺は、とてもヘプターさんが好きです。 シーヤさんだって、そうなんじゃないですか・・・」 アモは、ゆっくり、シーヤの手を離した。「俺は・・・」 アモは、後ろに下がると、一つだけ点けていた蝋燭に息を吹きかけた。「俺は、この大陸で、人々を殺すことを好むといわれる、恐ろしい闘技場、ハーギーの出身です」 アモは、ゆっくり、部屋の扉の方に向かった。「だから、ハーギーの外の事をしらない・・・ だから、あなたの恐れる、黒のことも、よく知らない」 アモの声は・・夜に熔けるようだった・・・「俺らは、恐ろしいものと、闘ってきた。 それは、俺らを恐ろしい目に遭わせた、ハーギーの中枢の奴。 そして、今は、俺らハーギーを、忌まわしいと思う人々の目線が恐ろしい・・・」 シーヤは、闇の一部に混じってしまった少年の方に、その目をひたすらに、向けた。「だけれども、シーヤさん。 あなたの旦那さんは、そんな俺でも、暖かく、接してくれた。 あなたは、ヘプターさんを、信じて、愛しても、いいと、おもいます」 アモは、音を立てずに、部屋から出ると、これまた音を立てずに、扉を閉めた。 アモは、素晴らしい速さで、山道を走っていた・・・・ 背中の弓筒が、いちいち音を立てた・・・ 黒の者・・・ 契約。 ここらへんの、人は、みなが、恐れ、そして、従わなくてはならぬもの。 あの、メルサに、似通ったような、そんな力・・・ アモの目が、ぎらりと光った。 ニルロゼ・・・・ アモは、口をきつく食いしばった。 ニルロゼ! 赤、メルサは、まだ死んでいないと、お前は言っていたな・・・ ここには、赤の力だけではなく・・・ 別の力がある・・・ そして、それに対抗する力もある・・・? アモは、あの白い弓のことを思い出した。 あの、弓。 あれは、なぜ、現れたのか・・・ なぜ、自分の元に。 アモは、足を止めた。 謎が、沢山ありすぎた。 これだったら、まだハーギーに居たほうが、謎が一つで楽だったか・・・? アモは、馬鹿め、と自分を叱咤した。 そう、もはやハーギーではないのだ。 ハーギーでない以上。 全てを受け入れ、全てに立ち向かわなくては。 そのためには、もっと強さが必要だ。「ニルロゼ・・・」 アモは、呟いた。 大きすぎる。 沢山のものが、ありすぎる。「ニルロゼ」 アモは、暗い夜空を見上げた。「俺も、”赤の核”を・・・ それから、”黒”を探す・・・」 アモは、自分に言い聞かせるように、そう言った。************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
February 19, 2013
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ほほ・・・ まだ・・・ まだ、かのう・・・ ふふ もうじき もう、じき、よ・・・ いつになれば、みつるのかのう・・・ ふふ・・ もう、みえておるわ・・・ うつわが みたされ いずれ ちからが・・・ ほほほ・・・ まちどおしい・・・ なんと、なんと まちどおしいことよのう・・・ 翌朝、小さな村で、数十人の人々に、少年達が送り出された。 その村は、どう見ても、50代以上の者しかいなかった・・・ 昨日の夜泊まった老夫婦から聞いた話だが、若い者は、ことごとく、黒い衣装を着た正体不明の者供に連れ去られてしまったのだという・・・・ やや大目の食料を分けてもらい、若々しい少年達は、村を後にした。 一人は、茶色の服に、茶色の瞳、茶色の髪の毛・・・・ 茶色一色といいたいところであるが、その瞳ははつらつとしており、その髪の毛は風が吹くと少し日に透けて軽く光る。 一人は、薄い黄色の柔らかな服と、その上にこれまた薄い緑の上着を羽織った、青い瞳をしている。 少しはみ出た金髪の頭部に、皮の帽子を被っていた。 茶色の瞳の方の少年はセルヴィシュテ。 今歩む大陸の向こう、エルダーヤから、このメンニュールまで、なにかに押されるように旅をしていた。 そのセルヴィシュテの右脇に並んで歩く、青い瞳の少年は、ラトセィス。 彼らは、数ヶ月に渡り、共に二人で旅をした仲でありながら、ほんの先日、初めてお互いの身分についてと、お互いの旅の目的を、明らかにしあったばかりであった・・・ セルヴィシュテは、南に聳えるボボドの山を、目指すこととしていた。 村の人から、栄養価の高い食料を分けて貰っている。 主食は、これから、樹に生える実や、動物の肉を捕っていけばいいや、と、どこまでも楽観主義のセルヴィシュテである。 このセルヴィシュテは、この天性ともいえる、あまり物事を深く悩まない性格のおかげで、いつも明るく旅を乗り切っていた。 一方のラトセィスは、これまで、そのセルヴィシュテの性格が疎ましかった・・・ なににも、悩まずに、生きてこれるという・・・ そのような、事が、ラトセィスには、とても信じられなかった。 そう・・・ ラトセィスの生まれたこの大陸では、かなりのものが、何かに常に脅えていた。 服従。猜疑。衰退。悲壮・・・ 彼らは、常に、恐れ、嘆き、苛まされていたのだ。 だから、セルヴィシュテの存在は、本当に腹だたしかったのだ。 だが。 ラトセィスは、ゆっくりと隣のセルヴィシュテを見つめた。 セルヴィシュテが、ラトセィスになにかの繋がりを感じているように・・・ ラトセィスも、茶色の髪の少年に、ある種の感情を感じるようになっていた。 不思議な感覚だった。 もとはと言えば、このセルヴィシュテの前では、あの魔法を使うつもりもなかったのだ! それなのに、使ってしまったし・・・ うまくごまかして目的地まで案内させてやろうと思っていたのに・・・ なのに、むしろ、自分が、セルヴィに助けられていた・・・ 「セルヴィ」 ラトスは、ちょっと照れてそう言った。 相方を、愛称で呼ぶのは・・・・初めてだった・・・ のに、その相方は、あまりにラトセィスが小さく言ったからか、聞こえなかったようで、足元の石を蹴りながら、歩んでいた。「ねえ、ボボドの山にやって来ていた神様の名前って、わかる?」 セルヴィシュテが、にっこりと聞いてくる。 ラトセィスは、少し山を見つめて、額に指を当てた。「沢山の神々が集っていたというので、あまりそのお一人お一人については・・・ それに、もはや昔の話。 もう、その話を紡ぐものも、いないのです」 真剣な眼差しで、言葉を続けた。「でも、おかしいですね・・・ 私の祖父母は、山に祈祷に行っていたはず・・ とすれば、その頃はまだ、今よりは、情勢がよかった・・・のでしょうか・・・」「ふうん・・・」 芸のない返事で、セルヴィシュテは答えた。「なあ、ラトス」 セルヴィシュテは、足元の石を蹴りながら言った。「はい?」 ラトセィスが、少し声高に答える。「あの、黒い髪の女の子・・・ あの人、神様だと、思う?」「・・・」 ラトセィスは・・・ また、顎に指を当てて、目を左右に動かした。「神様・・・」 ラトセィスは、自身に言うように、つぶやいた。「神・・・ですか・・・」 ラトセィスは、再び呟く。 そして、その瞳を・・・ 茶色の瞳の少年に、かちり、と合わせた。「セルヴィ」 今度は、はっきりと、そう言った。 呼ばれたセルヴィシュテは、一瞬だけ、息を呑んだ。「セルヴィ。 私の契約した、ガルトニルマ。 そのものも、神なのです。 炎の神、ガルトニルマ・・・」 ラトセィスは、瞳を山に向けた。「神、とは、なにを指しますか?セルヴィ・・・。 私も、わかりませんでした。 ガルトニルマは、炎を掌る神。 汚れたるもの、醜きもの、それらを浄化する神だと、思っていました」 ラトセィスは、セルヴィシュテよりも、一歩前に出た。「私達、人間にとっての、利益。 それは、なんですか?セルヴィ・・・」 ラトセィスは、ざわりとたなびく風に向かって言った。「それは、例えば、炎であれば、我らを暖め、光を与えるもの・・・」 セルヴィシュテは、ただ、呆然と・・・ 立ち尽くして、相方の背を見つめた。 ラトセィスは、ゆっくり歩き始めた。「そのように、解釈する、それが、我ら、人間の都合であって・・・ 神も、人間の都合によって、彩られているのだな、と、私は・・・・ 契約して初めて・・・わかったのです・・・」 歩き続けるラトセィスの肩に・・・ セルヴィシュテが、手を置いた。「昨日も、言っただろ」 セルヴィシュテは、きっぱりと言った。「信じるのは、俺らなんだ」 ラトセィスは・・・・ 立ち止まって・・・ 南の、山を、ただ、みつめた。 その、山が、かすんで見えた・・・ なんだか、自分の意思に反して肩が震えて・・・ そして、鼻の奥が熱くなるのを、必死に抑えた・・・・「そうですね」 ラトセィスは、目じりに滲んだ涙を、拭わないように、必死になりながら、またゆっくり歩んだ。 少年達が歩むにつれて、甘い香りが強くなり・・・ 向こうに、木々が生えているのが見えた。「ねえ、この匂い! もしかして、プーフっていう樹じゃない?」 セルヴィシュテは、少し走り出して樹の方へと行く・・・ 茶色の少年が想像したとおり、それは、果樹であった。 果樹があるなら、集落があるはずだった。「炎の神、かあ・・・」 セルヴィシュテは、のろのろとこちらにやって来るラトセィスに聞こえないように、ぼそりと言った・・・ この、大陸を、脅かすなにかの力。 それが、ラトセィスの契約した炎の神の力なのだろうか・・・ そして、あの、黒髪の少女は、なんだろう? もし、あの少女が神様だとすれば、なにの神だろう・・・ ぼんやりと、山々をみていると、その山頂から、少し、蒸気が吹き上がっていた。「・・・」 その、蒸気を目で追っていく・・・・ 山の裾に・・・ セルヴィシュテは、見つけた。 大きな町のようだ! それを、ぐるりと囲む形の、壁がある! 今まで旅をしてきて、あれほど大きな町を見かけたことはない。 セルヴィシュテは、急に、目をハツラツとさせた! 大きな町、ということは、沢山人がいて・・・ そして、沢山情報が集まる!「ラトス! あの街に行くぞ!」 セルヴィシュテは、落ちていた瑞々しい果物を拾って相方に放り投げ、自分も落ちている果物を拾って口に入れた!「セ・・・」 ラトセィスが、口を曲げて、それを見守った! もはや、ラトセィスが止める暇がなかったのだ!「・・・・」 セルヴィシュテは、最初。 ぽかーーんとしていたが・・・・「・・・」 茶色の髪の少年は、思いっきり苦虫を潰したような顔になった。「・・・セルヴィは、本当に、子供ですねえ・・・」 ラトセィスが、腹を抱えて笑った!「私は、おいしい果物だとは、一言も言ってませんよ!!!」 早く、食べられない、と、言えっ!馬鹿ラトスっ! セルヴィシュテは、うらめしそうに、相方をじろりと見たのだった。************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
February 19, 2013
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日が、平原の向こうに落ちていこうとしている・・・ どこからともなく漂ってくる甘い香りに鼻をヒクヒクさせながら、茶色の髪の少年は、再度辺りを見回した。 もう少し南に、なにか建造物が見える。 あそこまで歩けば、もしかして身を隠して横になる事ができるかもしれない。 茶色の髪を持つ少年は、セルヴィシュテ。 15歳となったばかりであった。 ついこのあいだまで、皮でできた鎧を身につけていたが、焼けてしまった。 その下に着ていた茶色の服も、あちこち焼けて穴さえ開いていた。 少年、セルヴィシュテは、やや後ろを歩く相方に目をやった・・・ 大陸の向こう、自分の出身のエルダーヤから、ここまで。 ずっとこうやって、一緒に歩いてきた少年、ラトセィス。 なにが、と言われればうまく説明できないが、不思議な、引き寄せられる感覚を、ずっとこのラトセィスに感じていた。 つい先ほど、このハザの王家の者である、といきなりラトセィスから告白を受け、セルヴィシュテ自身についても、この少年はかなり考えをめぐらしていた。 いきなり父親が教えてくれた、自分の出生の秘密・・・ ハザのお姫様の、子供だ、ということ・・・・ そういえば、お母さんの国は、どこにあるんだろう・・・ セルヴィシュテは、腰の布に触れた。 この行動も、もはや癖となりつつある。 「いい匂いだねえ」 セルヴィシュテは、勤めて明るい声をだした。 ラトセィスが、やや西を見て言う。「この時期はプーフですね・・」 一度、言葉を切ると、帽子に触れながら言葉を続けた。「黄色の果物です。 どこかでその木を栽培しているのでしょう・・・」 二人は、少しだけ西を見ていたが・・・ セルヴシュテは南へと足を進めた。 さて、茶色の髪の少年の目星どおり、小さな村らしき影が見えてきた。「ラトス、どこかの家に泊まれるといいね」 セルヴィシュテは、少し足を速めた。 村は、本当にこぢんまりとしており、少年達は、老夫婦の家に泊めてもらっていた。 若い者が珍しいらしく、ぜひうちにと、何件からも声がかかった。 セルヴィシュテは一番年をとっている夫婦の家に泊めてもらうこととしたのだった。 老夫婦は、あまり色々聞いては来ず、まるで自分の子供のように少年達を可愛がり、自分達が使っていたと思われる暖かい毛布を提供までしてくれた。 が、少年は、年老いた老人の体を案じ、逆に老人達の体を揉んでやったりするのであった。 老人達は比較的早く眠りにつき、少年達は小さな蝋燭を前に向き合って、ぼんやりとしていた。 考えて見れば、こうやって、何という訳でもないが、向き合っているなんて、今まであったかどうか・・・ 「・・・・」 セルヴィシュテは、向かいのラトセィスをちらりと見た。 なんだか、ひどくはかなげに見える・・・ 今にも、はたりと、消えていきそうだった・・・「ラトス・・・ どこか、苦しいのか・・・?」 セルヴィシュテは、ちょっとドキマキして聞いてみた。 なんだか、切ない思いがこみ上げていた。「いいえ」 ラトセィスの声が、短く応える・・・ ラトセィスは、床に転がって頬杖していたのを解き、ぺたんと横になった。「ただ、苦しいと言えば、こころ、ですかね・・・」 横を向いて転がったラトセィスの頭部を見ながら、セルヴィシュテも床に横になった。「こころ・・・?」 セルヴィシュテは天井を見ながらつぶやいた。「あの、黒い髪の方が・・・ 何度も私に言ってくださいました。 真実を見つめなさい、と。」 一旦ラトセィスの言葉が途切れ・・・ 少しだけ静かな夜の音のみとなった。「・・・ 最初は意味が判りませんでしたが・・・ 私は、真実からずっと、目をそむけていたのです・・・・ 私の仕えた者が間違っていた、という事に・・・・」 ラトセィスの声が・・・震えていた・・・。 セルヴィシュテは、胸が熱くなって、体を半分起すと、少しラトセィスににじり寄った。「だけど、だけど、ラトスは、そうする以外考えられなかったんだろう?」「・・・そうですよ」 あっさりと、ラトセィスは答えた。皮の帽子を顔に被せていた・・・。「ただ一つしか見えなかったのです。 そうするしかないと思っていました。 でも、間違っていると・・・気が付いてはいました・・・ 他の道があることは、本当は・・・・気が付いていたんです・・・ それに気が付かないふりをして、進んでしまったのです・・・」 ラトセィスの肩が小刻みに震えていた・・・「ラトス・・・」 セルヴィシュテは、言葉が詰まってしまった。 目を硬く閉じると、また床に横になった・・・・ 左脇の蝋燭が見える・・・「お、俺も、かも・・・・」 なにげなく・・・そう、言ってみた。 セルヴィシュテは、両手を頭の下に当てて、ぼんやりと言った。「俺もさ・・・ よく見えないままに、ここまで来たんだ・・・ それしかないと思ってさ・・・・ でも、もしかして、誰かを傷つけているのかな・・・・」 ラトセィスが、向こうで、ごろりと寝返りを打つのを感じた。「・・・セルヴィシュテは、本当に、ハザは初めてなのですか・・・・」 聞かれたセルヴィシュテは、どうしたものかと、頭を廻らした。 このラトスと同じく、ハザの血を引く者だと・・・教えていいものだろうか・・・・「・・・本当かどうかはわからないけど・・・ 俺ってさ、ハザから、来たらしい・・・」 と、ラトセィスが、音を立てて起き上がった!「・・・!?」 ラトセィスが、ものすごい勢いでこちらを見据えている! セルヴィシュテも、思わず、起き上がって、相方と向き合った!「・・・お、俺も、今まで、言わなくて、悪かったよ・・・ ただ、親父との約束だったんだ、他には言わないって・・・」 ラトセィスは、しばらくセルヴィシュテを見つめていたが、少し、顔を俯けた・・・。「・・・だから、こっちに、俺の親が、いるかも、しれないと、思っていたんだ・・・ なんだか、でも、だんだんどうでもよくなってきたけれど? それよりさ、ラトスが、なんかを探しているっているって、すごく感じていたんだ・・・ だから、俺はいつも俺の目的を探していたけど、お前の目的の事もも、探していたつもりだよ・・・」 と、ラトセィスは、顔を背けてしまった。「・・・・どうしてですか・・・・」 しん・・・ 急に、闇が濃く感じた・・・ ラトセィスの横顔が、ひどく切なく見えた・・・「どうして?って・・・」 セルヴィシュテは、なぜか心臓がチクチクと痛む気がした。 ラトセィスと、こうして、旅の目的について・・・ 根を詰めて話した事がなかった。 今まで、前に進むのに夢中すぎたのだ・・・ いや、話そうと思えばいつでも話せた。 でも、話の核心に触れることができないから、話せなかったのだ・・・・。 今、その核心に触れてしまっている以上・・・・ どんどんこうやって、話の中身が濃くなっていくのが避けられないことに、セルヴィシュテは恐れを感じてきた・・・。「そ、そうだな・・・・ やっぱ、なんだろうな・・・ 俺がなにかを探しているのが、必死だったように、お前にも、なにか必死なものがあるのを、感じたからかな・・・」 セルヴィシュテは、ちょっと床を指で突きながら言った。「それに、いつも、ラトスは、辛そうで寂しそうだったからかな・・・」 すっかり後ろを向いてしまったラトセィスに、もうかける言葉が見つからず・・・・ セルヴィシュテは、耳元を掻いて、どうしたものかと何度か頭を捻った。「俺、一緒に探すよ・・・ ラトスがみつけたいものを・・・・ お前が大事なものなんだろう? 俺のみつけたいものはさ、俺は、自分の中では、もう一区切りできたんだ・・・ 俺がさ、どういう生い立ちかなんて、もうどうでもいいんだよ。 俺には優しいお父さんがいてさ、あっちに戻ればまたいつものように暮らせるんだ・・・」 セルヴィシュテは、ゆっくり床に転がった。「・・・ラトスは、大事な妹を、みつけたいんだろう・・・ みつけようぜ・・・ そして、なんだかっていう、悪いやつも、やっつけちゃおう・・・ どうにかなるさ・・・」「セルヴィシュテは・・・」 ラトセィスが、夜風に溶け入りそうな声で言ってきた。「あなたは、判っていないのです、あいつの恐ろしいちからが・・・・」 セルヴィシュテは、茶色の瞳を開けて、天井を睨んだ。「どんなに恐ろしくても・・・ ラトス、どれほどに恐ろしくても、なによりも恐ろしいものがあるんだ。 知っているか・・・」 ラトセィスがちらりとセルヴィシュテの方を見たのを感じた。 セルヴィシュテは、そのままの姿勢で、毅然と言った。「・・・それは、諦めることだよ、ラトス。 信じるものと、恐れるものは、俺ら人間が決めていくんだ・・・ だから、お前が最初に信じたものは、それはそれで正しいんだ。 だけど、それを正しくないと思って、違うものをみつめていく、それも、正しいんだ。 恐れるものは、俺ら人間が恐れているものであって・・・ だから、それに打ち勝つのも、俺らなんだよ・・・ 諦めたら、勝てないだろ」 セルヴィシュテは、体を起し・・・ ラトセィスとしっかり向き合った。「こころが負けたら、負けだ! 信じて進む! そうだろう!?」 二人の少年は・・・ 数秒、熱い視線を合わせた。 しばらくすると・・・ ラトセィスは小さく頷いた。 セルヴィシュテも、微笑んで頷いた。 ひたすらに・・・・ 見えぬものを追って、探って、ここまで来た。 見えてきた。 みつけるべきもの。 そう、己のつまらない人生の隠された部分など、些細なことである。 事実はもう既に伝えられてある。 これまでに、感じたことのない、つながり・・・ うまく説明できない、この繋がり・・・ だけど、このことにも、なんの説明などいらない・・・ この、つながりを、感じる、ラトス。 ラトスが求めるものなら、俺も求めるとも・・・・ そして、ラトスが立ち向かうというなら!俺も立ち向かう! われらのかみ みつめたまえ われらのこのいくべきすがたを われらのかみ あたえたまえ われらのいくべきみちを われらのかみ みちびきたまえ われらのいくべきみらいを いくひさしく われらをみつめ あたえ みちびきたもう われらのかみ いつから われらのてんじょうから おすがたをかくされたか なるべきすがたはみえず みちもみえず みらいもみえぬ かみよ われらのぬしよ ふたたびわれらのまえに いや、みつける・・・・・・ ほろり・・・・ ちいさく・・・・ だれかの声が・・・・ つぶやいた・・・ ************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
February 18, 2013
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表題のとおりです。俺は今までトロンボーンでしたが、今日から!フルート吹きになりました!!!ドンドンパフパフ★☆★☆理由は・・・・・・・・以前バスフルートを試奏した時、その衝撃に「欲しい!」と思ったのであります!でもン百万もするんですYO奥さん!クダンのバスフルートは、その時既に買い手がいた状態だったそーです。へーへーへーーーへーーーーーーーかくして、俺のキャラに楽器を持たせてますが、ラトス メトロノームセルヴィ ピッコロトランペットニルロゼ トロンボーンマエーリ ピッコロマーカフ ホルンンサージ 音叉そして・・・・・・・ビアル バスフルート、なのです!!!!うぐわおーーーーいつかバスフルート吹けるようになりたいっ!のが、今日になったんです(イミフメイ相方「バスフルートを吹くにゃまずフツーにフルート吹けないとダメっしょ」俺「当たり前じゃん」イコール、普通のフルート(一番安いヤツ。ただしNOT中国)を買いました(は・あ・と!)買ったもの メトロノーム(キッコンカッコンじゃないと”見れない”んです)1.980円 ・クリップ400円 ・シール150円 ・フルート本体(黒いヤツ)ヒミツ ・テントウ虫のバッヂ(のだめがつけてる)不明(恐らく1.500円位) ・筆入れ262円 ・油膜取り(青いヤツ)&クロス等は、おまけして頂いた。これら合計で9万行きません!!!!!!ありがとうございますヴァースさん!あ、のだめのてんとう虫バッヂ、3,500円もしてる!本革で、カワイイです★こんなカンジです(は・あ・と!)****************************フルートを買ったお店音楽の森ヴァース****************************処で俺、実名を晒してますが、PIXIVで実名になっているんですよ。ですので絵のサインが俺の実名なんですよ。小説を描いている人は月夜見猫サンで、絵を描いてるヒトは工藤 のぞみサンだと思って頂ければ(イミフメイ*********************ところで、いつかの話なのですが、このAccelを「了」と出来た後・・・本の形にして出版、という夢を持っています。その時、本の執筆者の名前は、月夜見猫?挿絵は工藤のぞみ?そう思ってきた時、段々俺の考えも変わって来て・・・・そういう事で、この楽天においても、俺は実名の 工藤 のぞみ に変更させて頂きたくヨロシクオネガイイタシマス。って・・・・・・・「月夜見猫」の変更の仕方が判らない(OZLフッ・・・・・(鼻でため息結局コッチは月夜見猫のままでイキますわ(トホホ
February 10, 2013
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風がやや涼しくなり、日が少しずつ、傾き始める時刻となった。 いつの間にか草むらに転がって眠りについていたセルヴィシュテは、なにかにくすぐられて起きた。「・・・?」 手でそれを払って、目を開けると・・・ ラトセィスが笑いながら、草でセルヴィシュテの頬をくすぐっていた。「ラトス・・」 セルヴィシュテは、上半身をゆっくり起こした。 この相方のラトセィスは、今まで・・・ どちらかというと、自分と、距離を取っていた・・・ こうやって、起してくれたり、笑いかけたりなど、しなかった。 なにが、あったのだろう・・・・ ラトセィスは、草を地面に置くと、向こうの山を見ながら静かに言った。「あれは、ボボドの山です・・・」 セルヴィシュテも、南の地平線に遥かに聳える山を、目を凝らしてみてみた。「ボボド?」 ラトセィスの方に向き直って、茶色の髪の少年が、首を傾げた。「ええ。 昔は、神様がいらっしゃって、沢山の人が祈祷登山に行ったそうです・・・」 ラトセィスの瞳が、軽く伏せられた・・・「ラトス・・・・」 セルヴィシュテは、相方の表情を読もうと必死になった。 ラトスに、変化が現れている・・・なにかが、なにかが。 ラトセィスは地面に座ると、空に熔けそうな色の瞳で・・・膝を抱えながら言った。「セルヴィシュテ。 今の今まで、私に何も聞かないで来てくださった事、感謝します・・・ そろそろ、教えなくてはならないですね・・・」 短い草で覆われた草原が・・・さわり、と音を立てた。「ラ・・・ラトス・・・ 別に、いいんだよ、無理をしなくても?」 セルヴィシュテは、いきなりのラトスの発言に、戸惑った。 なんだか、ラトスの、最後の別れの言葉でも、聞かされるような・・・ そんな気がした・・・「いいえ」 ラトセィスはそう言うと、おもむろに・・首もとの、赤い紐を解き始めた・・・ ラトセィスは、黄色い服の襟元に、いつも、赤い紐を結んでいた。 別段、セルヴィシュテは、それをあまり気にもしていなかったが。 ラトセィスが、その紐を解くと、薄い黄色の服の首元が、ややあらわになった。「私は、このハザの、10数個あると言われる国のうちの一つの国の、王子・・・」 ラトセィスが、少しだけ、襟元をはだけた。 その鎖骨の下に、なにか、紋様が刻まれていた・・・「いえ、王子でした、と言った方が、正解ですかね」 ラトセィスは、軽く笑うと、紐を首に回し、また襟に通す・・・・「王子・・・」 セルヴィシュテは、やや、動揺の表情を見せた。 ラトセィスは、いつも、他人行儀な言葉遣いをしていたが、まさか王子だとは・・・「で、”でした”、っていうと、もう王子じゃないの・・・」 セルヴィシュテは、もう結ばれたラトセィスの赤い紐を見つめながら、変な質問をした。「ええ。 あの国はもうありません」 ラトセィスはきっぱりと言った。「あ、ありません・・・。 って? ないってこと・・・?」 セルヴィシュテが、見えもしないのに、ラトセィスの首元にまだ興味ありそうなのを見て、ラトセィスは笑いながら言った。「ええ。 ”燃やされました”」「・・・・・・」 セルヴィシュテは、ただ、唖然とした。 そして、そのときに、ふと、急にだが・・・・ 自らの事についても、思い出された。 事と次第によっては、この自分も、このハザの、王子という立場になっていたかもしれなかったのだ・・・ 「燃やされた・・・」 それでも、セルヴィシュテは、ただラトセィスの言葉を復唱した。 ラトスの魔法も、炎の魔法のはずだ。 燃やされた、というからには・・・・ラトス以外の者によって、”燃やされた”のだろう・・・「リュベナは、妹です」 急に別の事をラトセィスが切り出した。「私の王家の血筋は、やや特殊でしてね・・・ 特に、あの子は、その力が強かった・・・」「は、はあ・・・」 段々、話の中身が濃くなってきて、セルヴィシュテは理解するのに着いていくのが精一杯である。「ハザ全体の事のようですが・・・ 最初に生まれた女の子は、ある者のところへと、差し出されるのです・・・ 姉も、勿論そうでした・・・ ですから、リュベナは、大丈夫だと、思っていたのです・・・ いえ、だからといって姉が差し出されて平気だと言うわけではないですが・・・」 ラトセィスは、足元の草を抜いたりしながら、寂しそうにそう言った。「だとういうのに!リュベナまで・・・ いったいどうなっているというのか・・・ 私は、それから、身分を隠し、民の直接の声を聞いて歩くことにしたのです・・・ どこでもそうでした。 約束は・・・守られていない・・・ 苦しむものばかりでした・・・」 ブチリ! ラトセィスが、草を引きむしった!「少女達は、エゲルという者のところへと連れていかれるようでした。 ですから、私が、交渉してみることにしたのです。 このターザラッツのちからを持って・・・」 と、そこで、ようやくラトセィスは、ハッとした。 セルヴィシュテが、半分わかったような、わかっていないような、そんな顔をしているのに気が付いた。「ああ、すみません、つい、私としたことが・・・ 理解できます?」 ラトセィスの話を要約すれば・・・ ラトセィスは、ターザラッツ王国の王子であること。 彼には姉と妹がいること。 このハザでは、最初に生まれた女の子はエゲルという者のところに連れ去られること。 ラトセィスの姉はエゲルに連れて行かれたのに、妹のリュベナも連れて行かれたこと。 ラトセィスは、他の民の悲しみの現状も知り、自らエゲルに交渉してみたこと・・・ その先の話がまた怒涛のような恐るべき内容であった・・・ エゲルは、エルダーヤに住まう忌むべきものに、少女を捧げている。 それをしないと、メンニュールが闇と化してしまう、と。 それを聞いたラトセィスは、その忌むべきものを葬る方法がないかと聞いた・・ エゲルは言った。そのためには、ガルトニルマの力を得る必要である・・・ さらには、すばらしい力を持ったリュベナは、炎の神ガルトニルマの力の元となるのにふさわしく、そちらに仕えている、と・・・「ガルトニルマの力を得るためと、そしてリュベナのために・・・ ガツトニルマに近づくにつれ、むしろガルトニルマは悪しき力であると、わかってきました。 ですが、私は、大きな過ちを犯していました。 そのガルトニルマよりもなお、おおいなるちから・・・ それが、エルダーヤにある、と、思い込まされてしまったのです・・・」 ラトセィスは立ち上がった。「ガルトニルマからリュベナを取り戻したと思ったのもつかの間・・・ ターザラッツは焼け落ちていました・・・ すべて、すべては、エルダーヤの恐るべき神の仕業と思っていた・・・」 びゅう・・・ 風がはためいた。 ラトセィスの緑の上着が、バタバタとはためく・・・「ガルトニルマ・・・ まだ、リュベナの魂を、ヤツは持っています。 私は、リュベナのために。 私の大切な妹のために、全てを投げ出す覚悟があります。 犯してきた罪、間違って歩んだこの道・・・ リュベナは、ガルトニルマと、そしてこの私の犠牲者なのです・・・ あの子には、笑って暮らして欲しい・・・・」 ラトセィスは、青い瞳を真っ直ぐにセルヴィシュテに向けた。「セルヴィシュテ。 私は、ガルトニルマと契約を結びました。 その契約は、あやつの力を得ること。 つまり、あやつに対抗する手段を持っていないのです。 ですが、あなたは違う。 あなたなら、ヤツをみつけられる・・・ あなたなら、行き着くのです、セルヴィシュテ!」 セルヴィシュテは、やっと立ち上がると、険しい顔をした相方の目をみつめた・・・「ラトス・・・ そうかもしれないけれど、俺はなんの力も持っていない・・・ そのガルトニルマの処にたどり着いても、そいつをやっつけられるかどうか・・・」 それを聞いたラトセィスは、唇の両端をきゅっと笑わせた。「大丈夫です。 私は全てをかけて、あやつと契約しました。 そのかけたものでは、あやつと勝負できません。 でも、かけていないものが、あります・・・」 ラトセィスは、燃え上がるような瞳で、くすりと笑った。 ラトセィスからの、恐るべき告白を受け、セルヴィシュテは、まだ動揺していた。 少年二人は、南に見えるボボドの山を目指していた。 この平原では、特になにも目標とするものがなかった。 あの山に、なにか特別な雰囲気を感じていたセルヴィシュテは、昔は神がいたとラトセィスから聞き、当面の目的をあの山としてみた。 ラトセィスはだまって付いてくる・・・・ 今まで、なにかを、このラトスに感じていた・・・ 不思議な、よくわからない繋がり。 あまり、接点がなく、あまり話もしないし、特段息があうとかそういう感じもない。 でも、「なにか」を感じていた。 同じ、ハザの・・・・ 同じ、ハザの者なのだ。 それも、王家の。 セルヴィシュテは、腰に下げた布を、さすった。 父さんは、ラトスが、ハザの王子だと、知っていたのかな・・・・・? ラトセィスが、王家の者として使えると言っていた不思議なちからについては、まだ知らなかった。 ガルトニルマ・・・・ エゲル・・・ 沢山の、なんだかわからない恐るべきものが、この先に待っている。 契約、という言葉も、はっきりとラトセィスから聞かされた。 どのようなことでもって契約となすかは、想像できなかったが・・・・ このハザでは、沢山の人が契約している、ようだ。 今まで、エルダーヤでは、なかったことが。 この、メンリュールでは、あたりまえ、のようだ・・・ それとも、単に気が付かなかっただけか? エルダーヤでも、なにかの契約があるのだろうか???? セルヴィシュテは、父から貰った布を引き出すと、ゆっくり目の前に掲げた。 この布に、もしかして、その秘密が隠されているかも、しれなかった・・・・************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
February 8, 2013
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PIXIVに載せましたが、一応こっちにも全く同じのを載せてみます。**************************************今書いている「Accel」の原型となっているオリジナル同人本です。約20年前に描いたものです。当時Accelは「駆道万里」という題名でした。でもキドバンという名前がしっくりこなかったので、accelerando(略してaccel.)次第に早く、という意味) にしました。アクーレ(アクール)という言葉の響きと、小説が段々早く展開していくという意味どちらもよく、この名前にしました。キャラは・・・・ラトスが、「今」とずいぶん違ったキャラになってますね・・・・王子、かなりふっとんでます。ビアルは当時は自分の事を少女のように美しいと自覚していてそれを活かして変装して男から金を巻き上げていました。 現在では全く逆の立場ですwこの本が初めてのオフセットです。若さが溢れていますね。****************************************
February 8, 2013
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アモは、やや、袋から後ずさりしたが、少しだけ呼吸を整えた。「だ、大丈夫か? ええと、安心しろ、まずは口のその紐を切るから・・」 アモは、袋から少しはみ出た女の子の髪の毛が手に触れるのを感じた。 少女の口には、黒くて、なんだか蛇みたいな感じの、ぐにゃりとした紐が、巻かれている・・・ かなりきつく縛ってあるようだ。 アモは、自らの剣で、その紐を切った。 紐は、ノタリと両脇に垂れ下がり、なんだか震えているように見えた・・・ アモは、袋を更に切り裂こうと、切り裂き口に剣を当てた。「ま、待って!」 少女が叫んだ! アモは、驚いて、少女の顔をまともに見てしまった。 自分と同じ位の年頃で・・・赤茶色の髪に囲まれた顔は、泣きじゃくって赤くなっていた。 アモは、ちょっと肩をすくめながら、少女をなだめた。「大丈夫だってば・・ 袋を切るだけだから・・」 そう言いつつ、剣を袋になぞらせる・・・「ま!待って!お願い!!!!」 また少女が叫んだ! アモの手が再び止まった。「あ、あたし、その・・・」 そこで、ようやくアモは、少女が言いたかった事に気が付いた・・・ やや切り裂かれた袋から、少女の白い肩が覗いている・・・ 服を、着ていない、ようだ・・「・・・ご、ごめん」 やっと剣を袋から抜いたアモは、赤くなって、目を逸らしたが・・・ だが・・・果たして、この状況は、全くよくないものだった。 夜もかなりふけてきている・・・ あまりアモの帰りが遅ければ、ヘプター夫婦も心配するだろう。 それに、この少女だって、誰か家族がいるかもしれない・・・「あ、あのさ、ええと、俺は、ヘプターさんっていう人の所に遊びに来ていたんだよ。 その家に、ヘプターさんの奥さんがいるんだ。 きっと、服を貸してくれると思うよ・・・ 一緒に行くかい・・・」 アモは、少女が返事をしないうちに、彼女の入った袋を担ぎ上げた。 少女は、小さな悲鳴を上げたが、抵抗はしてこない・・・・ まだ、泣いているようだった。 ・・・なんだろう・・・ あの、黒いのは・・・・。 剣で切れないどころか、二つに増えるなんて・・・ それに、あの弓と矢は、どこから・・・ アモは、少女を担ぎながら、大きな屋敷へと、向かって行った。 少女は、他に方法がないからだろうか、観念しているらしく、静かだった・・・「あら、あら・・・アモったら・・・」 案の定、ヘプターの妻シーヤは、かなり呆れていた。 どうも、アモが少女を拾ってきたと勘違いしているようだ。 まあ、そう思われた方が、都合がいいのだが・・・「まあ、可哀想に・・・こんな格好になって・・ さあ、奥に。 私の服は少し大きいかもしれないけれど、好きなのを選んでいいわよ・・・」 シーヤが、足の部分を切られて袋からやっと足を出した少女を、奥に連れて行った。 ヘプターは、かなり深く眠りについていた。 アモは、なにがそんなに疲れたのかな~などと、布張りの椅子に横になるヘプターの顔を覗き込んでいた・・・ 少女は、シーヤの服を着ると、自分の家に戻ると言い出した。 まあ、まっとうな要望である・・・ 家の者に、こんなに遅くまで帰って来ないのを、心配されているに違いない・・・「じゃあ、俺送るよ」 アモは弓の筒を背負った。「でも・・・」 少女は、アモとシーヤを見比べた。 シーヤが優しげに言った。「お嬢さん・・・ このアモは、私も今日会ったばかりだけれど、なかなかしっかりしていると思うわよ。 うちの夫と一緒に城に仕えているの。 きちんと送り届けてくれるわ、きっと」 弓の貼り具合を見ているアモの姿を、少女が計るように何度も見つめる・・・「さ、行くなら早く行こう。 家の人が待っているんだろう?」 アモが、少女に笑いかけた。 月のない夜だった・・・ 風はやや温かい。 少年と少女が歩いていくと、木々から、夜鳥が鳴き交わす声が聞こえた・・・「やっぱり、俺は弓なのかなあ・・・」 少女から少し離れて並んで歩くアモが、独り言のようにつぶやいた。 あの素晴らしい弓の感覚が、まだ忘れられなかった・・・「ところで君、あの黒いヤツ! あいつのこと知っている・・・?」 アモは、少女にさりげなくそう聞いた。 すると、いきなり少女の足が止まる。「・・?」 アモも、足を止めた。 少女が、なにか怖いものを見るような目で、アモを見ている・・・「あ?あれ? なんか、変なこと言った?俺・・・ あの黒いの・・・ あんな変なの、俺初めて見たよ」 と、少女は、口に手を当てて言った。「あ・・・あなた、誰なの・・・」「は?」 今度はアモが驚く番である。 誰、と言われても・・・「だ、誰って・・・ ええと、俺は、アモだよ・・・」 アモは、急に、恐ろしい思いがこみ上げてきた。 まさか、ハーギーであることを、この少女に教えなくてはならなくなるのか・・?「・・そうじゃないわ・・・」 少女は、やや落ち着いたような顔つきになった。「”ここらへん”の人なら、みんな知っているわ、黒の者よ、あいつは・・・ アモは、ここらへんに住んでいるわけじゃないのね・・・」 そう言われて、ようやくアモも、やや肩をなでおろした。 そうだったのか。 この近隣に、あのような物が徘徊していたのか・・・「って、黒の者って、あいつだけじゃないって事? みんなが知っているっていうことは、そういう事だよね・・・」 アモは、首を捻ってそう言った。「そうよ・・・」 少女は、北に歩み始めた。「どんな奴なの、その黒の者って・・・ なんだかずいぶん酷い奴じゃないか。 君をあんな目にあわせて。 他の人たちも、ああいうふうに、連れ去られているのかい・・・?」 少女は頷いて言った。「それだけじゃないわ・・・ 色々な物を盗んだり、人を騙したり、恐ろしい病気にしたり・・・ とにかくありとあらゆる災難を招くのよ・・・」 俯き加減の少女の背に、アモはなんと言っていいか、わからなかった・・・「俺、あいつに切りつけたら、二人に増えた・・・」「まあ・・・」 少女が、少しこちらを振り向いた。「そ・・そういえば・・ あ、あの、ありがとう・・・」 少女は、立ち止まると、小さな声でそう言った。 アモも立ち止まって、頭を掻いた。「いや?俺は困っている人を助けただけだ・・ さあ、早く君の家に戻ろう」 アモが歩き出そうとすると、少女が追いすがるように言った。「あ、あの、どうやって、あいつをやつけたの・・・」 アモは、左側の少女を振り向いた。 少女と視線が合った・・・ やや、恥ずかしくなって、少し目をそらすと、アモは右手の弓を少し上に上げた。「俺の力じゃないよ。 とても素晴らしい、どなたかのお力が、俺の近くにあったんだ・・・」 アモは歩き出した。 少女もその後に付いていく・・・ 暫く歩くと、家が数軒建つ広間になった。「ここで、いいわ・・・」 少女は、頭を下げて言った。 アモは、軽く手を振った。「でも、大丈夫?家の人に怒られない?」 少女は、軽く笑った。「時々、この位の時間まで、働くこともあるから・・・」 少女が背を向けた時、アモは、ついこう言った。「あ、あの・・ もしなにか大変な事があったら、俺に言って・・・ 俺はその黒の者と直接渡り合えないかもしれないけれど、もしかしたら少しは・・・」 少女は、立ち止まった。「無理よ・・・ あいつらを、どうこうできないの・・ あいつらのいいようにされていくのが私達の定めなの・・・」「定め?」 アモが思わず大きな声になった! 少年は、一歩少女の方へと歩んだ。「定めだって!?」 アモは、険しい表情になった。 少女が、恐れるように黒い瞳の少年を見つめた。「定めだなんて、そんな馬鹿な話があるか! 俺らは、自分達で、道を作ったぞ! たとえ、どのような大きな者に対してでも、どのような恐ろしい者に対してでも・・ おかしいと思ったから、俺らは、協力して、あいつを」 ハッ、とアモは口を噤んだ。 ハーギーの・・・あの、ハーギーでの事は、”普通の”人に言っては恐れられてしまう・・・ そう、この近隣では、ハーギーの者は、好んで人を殺し、好んで略奪すると思われている・・・ アモは、震える手を握った・・・ そうだ・・・ 今の自分は、この少女にとって、”黒の者”と同じく、恐れるべき対象なのだ・・ 「・・・と、とにかく、なにかあったら教えてね」 アモは、首を振ってそれだけを言うと・・・ 身を翻して来た道を辿った。 少女は、黙って少年を見送った。 赤茶色の髪の少女は、古ぼけた自宅へと戻った。 父が、戸口に立っていた・・・「お父さん・・・」 少女は、なんと言ってごまかそうかと、必死になって考えた。 が、その時間は無用であった。「あの少年は?」 父が、アモの去っていった方に頭を向けてそう言っていた。「・・・?」 少女は、父の視線を見た。「・・・お父さん・・・・」 少女の父は、再び言った。「レシア・・・ 会話が聞こえたよ。 ここまで、な・・・ あの少年は、ここの少年でなないのだな・・・」 父が、視線を、娘に・・・落とした・・・「お父さん・・・目が・・・」 娘・・・レシアは、父と目を合わせた!「あの少年。 なかなかいい事をいうな、レシア・・・」 父は、娘の肩に、大きな手を置いた・・・・************************にほんブログ村 *************************参加ランキングです
February 2, 2013
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明けましておめでとうございます今年もよろしくお願いね実は今日、初買でスマホデビューしました(*⌒▽⌒*)スマホなんて俺にゃ関係ねえええとずっと思ってたんだけど、あるゲームがやりたくて、それがスマホ対応で、やべー、ヤリテエエエって感じでテンションハイ。落ち着け俺、ちゃんと考えろ、スマホ買う意味あるんかと非常に自問自答し、やはり今までのを使おうと決心したんだけど。初売り広告で機種変がめっさ安かったから、とりあえずa社に行ったの。で、自分にあった機種が10.500で安かったので即断。溜まってたポイントを使って値引き、実支払額5.250。今必死に操作方法を特訓中ですσ(^_^;σ(^_^;σ買った機種はスライドすると下にバカってkyiboadのようになってるヤツです(^_^)v(^_^)v親指を両刀使い方するのが得意の俺にぴったりベストな機種を安くゲットできた上、抽選で2等を当てて米2キロを2つも当てちゃいましたいやあ~、目出度いッスっつうか、これで今年の運を使い果たしてなけりゃいいんだけど…皆さまもなんかイイコトあるといいッスねほいぢゃ、今年も4649(^^)/************************************************************ちょう、ヴぁか。てがつけられない、ふっふっふ。俺。一応念のため・・・・非常に聡明かつ冷静かつ端的な石頭男と一緒に行って、彼のOKを得て買っております。ちなみに、このケータイのお金は「こづかい」から買いました。ふふっ
January 1, 2013
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