Accel

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June 28, 2012
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 ハーギーの人たちや、モワウは、セルヴィシュテが語る生活に、いちいち驚いていた。
 取引が全く存在しない大陸、エルダーヤ・・・
 その地には安泰の神マルヌークがいる、と、モワウは聞いていた。

 モワウも、交易には何度も出ていた。
 交易の先は、必ず、エルダーヤだった。
 美しく、芳しいエルダーヤ・・・
 あの地で留まることはできないだろうか?
 そう思ったことも何度もあった。

 しかし・・・・
 なんと哀しい運命なのであろうか・・・
 我らのこの地、メンニュールにて生きて行かねばならない。

 一度交わした我らのこの契約。

 生きて、いくためには。

 契約を守らねば。

 ならないのだ・・・・・・



 日が傾き、ハーギーの人達は、自分達の宿営地へと戻って行った。
 セルヴィシュテとラトセィスは、モワウに、家に泊まるよう薦められ、半分喜びつつ、夕食を頂くこととなった。
 喜んでいないのは勿論、茶色の髪の少年、セルヴィシュテであるが。

「ンメヘヘヘヘ」

 エイープに、まだ嫌悪感を感じているこの少年に、モワウがいちいち笑っていた。
「このエイーブは、とっても俺になついているんだ。
 どんなに群れに戻してもここに来るんだよ。
 もしかして、女の子だったのかなあ。
 だったら、エイーブになる前に、来て欲しいよねっ!」


「でも、セルヴィ、本当にさ、布がこの地で作られているかもしれない・・・
 ただそれだけの理由で来たの?
 この大地は、異色の者を受け付けない、そのような力のある処らしいんだ。
 今までも、俺は何人か、エルダーヤからの人と知り合ったけど、彼らの末路は恐ろしいものだったよ・・・
 ねえ、布がハザでできているなんて、誰から教わったの?」

 調理をしているから、向こう側を向いているモワウの姿にやや感謝しながら、セルヴィシュテは言葉を選びつつ、慎重に話した。
「うん。
 これはね。
 俺の親父が、貰ったものだよ。
 親父に下さった人が、ハザからのものだと言っていたって」
「・・・」
 モワウの様子に、セルビシュテは、やや、喉が渇いてきた。

 確かに、ここは・・・たかが布の秘密を求めてやってくる位の場所ではないようである。
 しかしながら、この布の生い立ちを教える訳にはならなかった・・・

「モワウ。
 君達にも色々あるように、俺にも沢山の、約束があるんだ。
 この布は、その約束を果たす為に、親父が貰ったんだ。
 俺は、この布の秘密を探したいと思って、自分で来たんだ、この俺のために・・・」

 セルヴィシュテは、眉間に皺を寄せ、瞳を左右に揺らして言った。
「君に詳しいことを教えることができなくて、悪いけれども・・・」


 セルヴィシュテは、呼吸が荒くなった。
 モワウは納得してくれるだろうか・・・

「そうか」
 振り向いたモワウは、相変わらずにこやかだった。
「君にも、約束があったんだね・・・」

 両手に、皿を持っている。
 こちらに持ってくると、それを手渡した。
「約束の事は聞かないよ。
 大丈夫。
 俺らも、交わした契約は、言わないことになっているから」
 食べようぜ、と歯を見せて笑った。


 干した肉やパオ(粉を練って焼いた食品)、野菜の盛り合わせを頂きながら、モワウは今度はラトセィスに質問を投げかけた。
「君も交易しているの?」
 ラトセィスは、帽子の下からはみ出た黄色の髪をゆらした。
「いいえ・・・」

 セルヴィシュテは、ドキドキしてきた。
 ラトセィスは、なにを言うだろうか。
 どこまで、言うであろうか。
 このラトセィスの事は・・・
 ほとんど・・・
 わかっていなかった。


「私も、とある契約を交わしていたのです。
 その契約に基づいて、エルダーヤへ行きました。
 そして、このセルヴィシュテと出合ったのです」
 ラトセィスは、青い瞳にえもいえぬ危険な光を湛えて言った。

「このセルヴィシュテは、どうも、不思議な力を持っているようです・・・
 実は私の契約が、お釈迦になってしまいました。
 ですから、私はこちらに戻ることができなくなったのです。
 偶然にも、セルヴィシュテがハザに来ると言い出したので、連れてきてもらったのですよ・・・」
 ラトセィスとモワウの間に、なにか恐ろしい緊張感が走るのを、セルヴィシュテは感じ取った。

「モワウさん。
 ご存知の通り、契約がなきものとなったあかつきには・・・
 その末は・・・」
 ラトセィスの声に、ピリっとした針のようなものが含まれた。

「ですから私自身、もう自らの体がどうなっていこうとも・・と、諦めていたのです。
 が、このセルヴィシュテに付いていくと・・・
 不思議なことに、私はこのとおりまだ元気ですし、ハザに戻ることもできました。
 なにか、あるのでしょうかね・・・」
 にこり、と、ラトセィスは笑った。

 モワウは、真剣な顔つきでセルヴィシュテに言った。
「君には、判らないだろうな。
 俺らの契約の恐ろしさを・・・・
 君の約束とは、また違う力を持っているんだ、このハザでの契約は。
 君は、どうやら、ラトセィスの事を知らないようだけれども、それは当たり前だ。
 俺らの契約、およそ、エルダーヤの人には理解できないだろうし・・
 いや、例えこのハザの者であっても、教えてはならない。
 自分が交わした契約については・・・・」

 「ンメヘヘヘヘヘ」

 セルヴィシュテは、急に、疎外感を感じた。
 同じくこのハザの出身である、モウワとラトセィスには、なにか、共通の秘密があるらしい。

 自分の持つ、あの秘密よりも、大きい契約。
 それほどまでに恐ろるべく契約を・・・交わしている。
 それが、彼らなのだ・・・






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Last updated  July 6, 2012 09:02:29 PM
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先ほどは楽しいコメントありがとうございました☆  
皆さまからはだいぶ後れを取って、
今まだうろうろとこのあたりを読んでいるふろぷしーもぷしーです。

何かわけのありそうな、不思議な生き物エイーブ。
ちょっと間の抜けた、でもちょっと悲しげな、この鳴き声が好き♪

セルヴィシュテがビビるところも、思わず笑っちゃいます。


モワウやラトセィスの抱えている『契約』って、
どんなものだろう・・・ 

急に疎外感を感じたセルヴィシュテの気持ちが
よくわかります。 


(February 19, 2014 12:05:57 AM)

もぷしーさん★  
月夜見猫  さん
おはようございます。
>今まだうろうろとこのあたりを読んでいるふろぷしーもぷしーです。

いえいえ、読んで頂けるだけでも大変ありがたいですう~☆

>何かわけのありそうな、不思議な生き物エイーブ。
>ちょっと間の抜けた、でもちょっと悲しげな、この鳴き声が好き♪

って言って頂けると、うれしい♪

>セルヴィシュテがビビるところも、思わず笑っちゃいます。

てへへ☆

>急に疎外感を感じたセルヴィシュテの気持ちが
>よくわかります。 
流石もぷしーさん、よくくみ取って下さいましたね。
引き続いて、あくーるをお楽しみ頂けますと幸いです☆★ (February 20, 2014 07:40:40 AM)

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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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