Accel

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July 23, 2010
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 ザザザザ・・・・

 森の中は木々が生い茂っているが、地面にその影はない。
 どこをどう見回しても、暗闇ばかりだ。
 空を見れば、星も見えたであろう。
 だが、”見えて”はなかった。

 太い木の幹の上に腰かけている人影があった。
 のんびりと、居眠りしているようにも見える。
 しかし、実はそう見えて、恐ろしい程に辺りを警戒していた。


 「ケッ」
 小さく闇夜に呟いた声質は、男のものである。
 男は、身じろぎもせず木に背を預けていた。

 と。
「ん?」
 ガサ・・・ガサ・・・
 向こうの方から、全く!警戒などしていない足音がやって来た。

 おいおい。
 こんな夜中の森の中、少しは足音を殺すとか、考えろよ??

 彼は、心の中で呟く。


 件の足音は、とうとう彼の居る木の下を通り過ぎて行った。

 あいつ、大丈夫かいな・・・?

 男はそう思ったが、しかし、自分の身も、危険な立場にある。


 と!

 その瞳は、蜂蜜色に輝いている。
 男が立ち上がると、僅かながらに照らす月が、彼を映しだした。
 すばらしい長身の持ち主であった。

 ッツ!
 音も立てず、男は地面に飛び降りる。
 ”ヤツラ”が、先程通り過ぎた人物に向かって、襲おうとしているのを、彼は察知していた。


 男がその場に付くと、ニヤケた嫌らしい声が、辺りから響いていた。
「ケケケ・・・随分な上玉の女だな」
「売ればかなりになる」
「いや、待て、その前に、へへっ・・・
 俺らで楽しんでしまおうぜ?」
「へへへへ・・・」

 ガサ・・・ガサッ。

 木から飛び降りた男が加勢しようとした時だ。
 チーン!
 金属音が響いた。
 男らに囲まれた女が、相手に斬りつけたのだ。
「なんだ!」
「やっちまえ!」

 カチーン!
 いきなり、その男は後ろから剣に斬りつけられた。
「へへ。
 どうも」
 蜂蜜色の瞳を持つ男は、剣の向こうでニヤリと笑った。



 7人程居た追手をのすと、男は女に言った。
「なあ、あんた。
 こんな夜遅くに出て歩く方が悪いんだ。
 無謀にも程がある」
 女は無言である。
 こちらが助けたというのに、会釈の一つもしなかった。

 月明かりが照らされると・・・
 黒い外套をすっぽりと着こんだ女の顔が、白く浮かび上がった。

 透き通るような、白さであった。
 その顔の上に、ゆるく弧を描く眉。
 その下に、夜空を切り取ったかのような黒い瞳。
 すらりとした鼻。
 花弁のような唇・・・

 これまで沢山の女を見た事があったが、これ程までに美しいと思える女性は初めてであった。
 いや、女性、というか・・・
 少女、であった。
 はかなげな年頃で・・・
 きっと自分と同じくらいの年であろう。

「なあ、あんたさ・・・」
 男、いや、月に照らされた人物もまた、少年と言った年頃であった。
 少年が、少女に軽く歩み寄った時である。

 ハッ!

 少年が急に後ろを振り返った。
「!!!!!」
 少年は少女を抱きかかえ、思いっきり左へ飛んだ。
 その向こうを、風を切る早さで、”なにか”が動いた!
「あんた、そこを動くな!」
 少年は腰の剣をざらりと抜いた。

 ぐうううううううう

 暗闇の向こうから、なんとも形容しがたい音が、響き渡って来た。

 少年は、久しぶりに脂汗をかいていた。
 こんな、全身の毛がささくれ立つのは、”あの時”以来だ。
 そう、メルサの前に出たあの時・・・


 メルサを切った、少年ニルロゼは、今暗闇の中で、正体不明の物と対峙していた。

 ぐうううううう!!

 ・・・早い!!

 ぎりぎりでかわす!

 くそ、なんだ、こいつは・・・
 手とか足とか、体の一部が見えればなんとかなるのに・・・

「っつあっ!!!」
 鈍い痛みが太ももを襲った。
 相手は鋭い爪を持っているようである。
 しかも、恐ろしく強そうな腕も持っているようだ。
 そんなのに叩かれたら・・・

 ニルロゼがそう思った瞬間、月が急に明るくなり、彼らの周りが見えるようになった。
 なんということであろうか。
 ニルロゼの対峙していた相手は、なまはんかではない大きさだった。
 腕も足も、大きな木の株のようである。
 目は赤々とこちらを照らしていた。
 恐ろしい事に、口が横にでっかく開いていて、そこには容赦なく牙が並んでいる。
 その手には5本の長い爪が光っていた。

「・・・!」
 恐ろしい腕が、ニルロゼを襲った!
 彼は思わず右手で自身を防御してしまい、怪物の腕力で吹っ飛ばされた。
「く、く・・・」
 ニルロゼは、首を左右に振った。
 これは・・・
 負ける・・・

 右手に持っていた東の鍛冶の剣が、奴の左腕に突き刺さっていた。

「かはあっ!!」
 見えぬ速さである。
 ニルロゼは、思いっきり胸を奴の爪に抉られた。

 つう・・・
 これまでか!?

 しかし、彼は力を振り絞って、右の短剣に手を伸ばした。
 奴の腕が、恐ろしくはっきりと、彼を襲ってくるのを、ニルロゼは見た。



 それは、白い世界だった。
 上を見ても、右を見ても、左を見ても、白かった。
 白のなかで、ふんわりと浮いていた。

 ここは、どこだろう?

 なんどか首を回したが、考える事をやめた。
 白い色しか、なかった。

 ここが、天国ってヤツか?


 少年、ニルロゼは、蜂蜜色の髪の毛を揺らし、そう思った。


 ああ、なんて素晴らしい感覚なんだろう・・・

 俺の・・・傷が・・・

 そう、そう。
 あの変なヤツにヤラれた傷が、すっごいいい気分で・・・

 こんな素晴らしい感覚があるなんて・・・

 なんて素晴らしい感覚なんだろう・・・


 ナーダ?

 ナーダ・・・

 そうだ

 ナーダだ。

 あいつが、触ってくれてる。

 この手は、ナーダじゃないか・・・


 ナーダ・・・



「・・・」
 気が着くと、目の前には・・・
 白い、美しい顔の少女があった。
 あの、恐ろしい魔物と対峙する前に出逢ったあの少女である。
「・・・?」
 ニルロゼは、少女が自分の胸に手を当てている事に気がついた。
「すみません、ナーダさんではなくて」
 少女がそう言った。

「な!!!
 俺はあいつの事なんか!!??」
「・・・ナーダさんの事を、何度も呼んでいらしましたよ」
 処女に言われ、ぐうの音も出ない。
 くそっ。

「つつつ」
「ほら、まだ力まないで下さい。
 ものすごく抉られていたのですからね」
 少女は静かにそう言った。
 そう言えば、彼女はずっと、ニルロゼの胸に手を当ててくれていたのである。
「あんた・・・
 俺を治療してくれているのか?」
「私は薬師です」
「・・・」

 やっと一呼吸入れると、ニルロゼは少女に聞いた。
「ここは、どこだ?
 洞窟?」
「ええ。
 私も時々身を隠す時に使います」
 ほどほどに高い天井が見えた。
 見える、という事は、明かりがある事である。
 向こうで、パチパチと木がはぜる音がしていることに、やっとニルロゼは気が着いた。
 そして、世にも言えない不思議な香りが充満している事にも。

「あんた、名前は?」
「そういうあなたは?」
「俺はニルロゼ。
 この礼はいずれ・・・」
「お礼はいりません」
「はっ?」

「いちいち受け取っていたら、きりがございませんから・・・」
「しかし、俺の気が済まない」
「ですから、私はどなたからも、お礼を頂いておりません」

 パチ・・・パチ・・・
 木のはぜる音だけが、静かな洞窟内に鼓動した。

「なあ。
 俺さ、大陸一と恐れられる、ハーギーから出て来たんだ」
 ニルロゼは、首を左側に傾けると、必死の思いで短剣を取ろうとした。
 少女が、不思議そうに短剣を手渡して来る。
「俺、赤ってのを追っているんだよ。
 でもさあ、なんだか、それよりももっと、面白いのを、見つけたような気がする」

 さっ!
 目にも止まらぬ速さであった。
 少年は、自分の右肩に彫られていた紋章・・・
 メルサが着けた紋章に、短剣をあてがうと、ざっくりと切り抜いてしまった!

「あんたについて行くぜ。
 なんと言われようともな」

 少年は、ニヤリと白い歯を見せて言った。
niruvia07.jpg
******************************
おひさしぶりです。
病気がよくなった訳ではないのですが、そろそろ書いておかないと「書く癖」が抜けてしまいそうなので、無理のない範囲で書いてみようと思います。

言い回しや、小説の進行、背景など、もしかして手抜きになってしまうかもしれないです。
それをしたくなかったので書かないでいたんだけど、病気がよくなるのを待っていても時間がロスするだけなので、あまり根を詰めずにやってみようかなと思います・・・
よろしく(泣





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Last updated  February 21, 2013 12:11:19 AM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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