Accel

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June 28, 2012
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 村長達の話が終わると、年下のモワウが、セルヴィシュテに気さくに話しかけてきた。

「ね、君たち、うちに来て見ないか。
 エルダーヤの事、教えてくれよ」
 にこやかに笑いかけるモワウに、セルヴィシュテが頷く。
 ラトセイスは黙っていたが、その目はやや意味あり気な光をたたえていた。

 村長たちも、それぞれ、立ち上がる。
 彼らは、銘銘に家があるようだ。
 どうやら、なにかあれば、この大きめな家に長達が集まって来ているようだった。



 エルダーヤからの客人が大きな家から出てモワウの家に向かっているころ・・・

 それにデールもついて来たが、ちゃっかりハダッドもくっついていた。
 そのハダッドの姿を見て、近づいて来た者がいる・・・
 25歳くらいの青年だ。
 エイープを繋いだ紐を手に持っている。

「ハダッド。
 今回も、大変だったな。」
 青年が、ハダッドに、声をかけた。

 ギュワーサ、ギニュー、デールが、彼を遠巻きに見た。
 ハダッドは、肩を軽くあげ、応えた。
「イーニー。
 大変なのは、お互い様じゃないの。



 ハダッドは、イーニーの所まで行くと、彼の連れていたエイープを撫でた。
「イーニーは私が出る前に交易に行ったわね。
 あの船は沈んだわ。
 これから、どうする?」
 イーニーと呼ばれた青年は、腰布をいじりながら応えた。

 じゃあ俺も、交易はしなくて済む」



 そんな彼らを一際熱く見守る視線があった。
 ギニューである。
 ギニューはハダッドの友人であり、ハダッドからイーニーへの恋相談を何度も受けていた・・・。

 交易をする身は、誰かを好きになる事は、ある意味酷だった。
 一度交易に出ると1年以上戻れない。
 その上更に、生きて帰れる保障はなかった。


 ・・・イーニーがいるからね、だから頑張って帰るの・・・・


 いつも、ハダッドはそう言っていた。

 イーニーが好き・・・というよりも、なにか目的がないと、とてもではないと交易をやっていけなかったのだろう。
 その気持ちは、ギニューもよく判る。
 ギニュー自身、弟がいるからこそ、頑張ってこれたのだから・・・・
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 「それじゃあ、ね」
 ハダッドがそういってイーニーから離れようとした時だ。
 イーニーが追いかけるように言った。
「あ、あのさあ・・・」

 ンメヘエエエエエエエ・・・
 彼の声を遮るように、エイープが啼いた。
 イーニーは日に焼けた手でエイープを撫でながら言った。
「あの・・・・」

 その様子をヤキモキしながら見ていたギニューは、とうとう、弟を小突いた。
「ほれ、行きな」
「え?」
「こういう時は、男が出て行くものなのよっ!」
「えええ???」

 ギュワーサは困惑してしまった。
 ハダッドに、どうやら、好かれてしまった・・・?事は自覚しているが・・・
 はたして、今までハダッドに対し特別な感情を抱いたことはない。
 というか、これまでも、女性に対し、好きになるとか、そういう感情を持ったことがなかった。

 なにしろ、5歳の時から交易しているのだ。
 辛く恐ろしい取引、船旅・・・・
 生きるか死ぬかの中である。
 女性は共に交易をする”仲間”でしかなかった・・・・



 それでも、ギュワーサは、姉に押され、ハダッド達の方に2、3歩、近づいた。
 すると、ハダッドがこちらを振り向いた。
「ンメヘエエエエエエエエエエエ」

 ハダッドは、ギュワーサから視線をイーニーに戻した。
「わたし・・・
 どうやら、ギュワーサに興味持っちゃったみたいで。
 これから、ゆっくり、彼のことを知りたいの・・・・」

 ハダッドはイーニーから離れた。
「じゃあ」
 ハダッドは一人でギュワーサ達の家の方へと歩き出す。
 ギュワーサは、複雑そうな表情をしていたが、イーニーに軽く会釈をし、姉と、デールとで、家に戻った。


「ンメヘエエエエエエエエエ」
 エイープが啼いた。

 イーニーとて、ハダッドに好意を抱いていた。
 しかし、お互い交易の時期がずれており、なかなか話し合う時間が持てなかった。

 いつ戻れるかわからない、そんな状況下で・・・
 互いの状況を手紙にして家に置いていたり・・・
 土産を買っておいたり・・・
 そんなやりとりを、3年は、していたのだ。


 交易の船が沈んだと聞いて・・・
 イーニーも、もう交易に出なくて済むと思った・・・


 これからハダッドと、一緒に、住めないだろうか・・・・

 そんなことをちらりと思っていたのだが・・・・



 イーニーは、フッと軽く自分だけで笑った。

 そういえば、お互いに、きちんと、気持ちを伝えあった訳でもない。
 ただ、手紙をやりとりし、土産を買い合う。
 それだけであったでないか・・・・

 しかしながら、まさか・・・

 イーニーはエイープを撫でた。



 まさか、ギュワーサに”もっていかれる”とは、ねえ。


 イーニーは、エイーブの群れの方へと、一人・・・
 戻って行った。





「お帰りなさい」
 モワウに誘われて連れて行かれたその家には、6人の人が集まっていた。
 あまり大きくもない家なので、やや窮屈である。
 しかも・・・・・!
「ンメヘエエエエエエヘヘヘヘヘヘ」
「う!う!うわーーーーーーーーーーーーー!!!
 なんで家の中にコイツがあああああああああああああああああああ」
 茶色の髪の少年、セルヴィシュテが、頭を左右にゆすりながら嘆いた。
 家の一番奥に、例の動物が・・・・いるのである。

 既に家に居たのは、男女それぞれ3名。
 年代も、少年・青年・中年、各1名という構成である。
 彼らは、雰囲気が、なんとなく・・・村とチグハグな感じがした。
 特に男達は精悍な雰囲気で、逞しい。

 モワウが、にっこり笑いかけた。
「こちらの方々は、ハーギーの人さ。
 入れ替わり立ち代り、6人、俺のところにいらしているよ」
 6人の人は、軽く会釈した。
 セルヴィシュテとラトセィスも、頭を下げる。

「じゃあ、俺からより、そちらからぜひ自己紹介をよろしく頼んでいいかしら?
 こちらの客人は、エルダーヤからいらしたんだ。
 ここのことは、ほとんど判らないみたいだよ」


 皆、床に座った。
 6人の中でも一番逞しい雰囲気の中年の男が口火を切った。
「俺は、ジューロ。
 俺も、エルダーヤの事は全く知らない。
 いや、俺らは、このメンニュール大陸の事すら・・・よく知らない。
 君たち、俺らハーギーとはなにかを、大体聞いたかな?」

 エルダーヤから来た少年達は頭を縦に振った。
 するとジューロは一瞬下唇を噛んでから、言った。
「そうとも。
 俺らの居たハーギーはなにもかにもが恐ろしいところだった。
 ようやく、そこから出てきたはいいが、どのように暮らしたらよいのやら。
 こうやって、理解のある方の所にようやく来る事ができたのだ。
 色々教わっているところだ」

 ジューロの隣の青年が今度は言った。
「俺の名前はイッサー。
 最近やっとエイーブを呼んでついてこさせるくらいにまではなったよ」
 イッサーがにこりと笑った。

 こうして、ハーギーの人々が自己紹介を終えると、今度は必然的にセルヴィシュテ達の番となった。
 セルヴィシュテは・・・
 茶色の瞳を、やや、伏せて言った。
「なにから話せばいいかな?
 俺の名前はセルヴィシュテ・・・
 名前が長いから、セルヴィ、でいいですよ。
 俺も、エルダーヤ以外の事は全然知らなかった・・・・」

 セルヴィシュテは、茶色の瞳をきらりと輝かせると、きりっとした表情で言った。
「俺の住んでいるところでは、こういう家という場所では、家族が住んでいるんです。
 親と、その子供とが・・・。
 それが、家族っていうんです。
 そして、農場や、炭鉱や、大工なんかをして、みんな仕事をして。
 女の人は、大抵は、子供を育てたり、近所の子供の世話をしたり・・・
 だから・・・・
 ”ここと”・・・
 ギュワーサさんの話や、ハーギーの皆さんの話・・・
 そういったことと比べたら、俺の住んでいた所は、とても穏やかで、ほのぼのとした所です」

 ハーギーの6人が、ほう、と感嘆の声を上げた。


「この、この布が、ハザで作られていると聞いて、調べるために、来たんです・・・」
 セルヴィシュテは、腰の布を示した。
「へえ~」 
 モワウが、興味津々に布に触れた。

「このハザでは・・・
 なにもかにもチグハグなところさ。
 昔はそうじゃなかったらしいけれど・・。
 だから、”他の大陸から来て、まともに生き残れる人は・・・・”」
 ジューロはそこで、口を閉ざす・・。

 ずっと黙っていたラトセィスが、静かに言った。
「そうですね」

 皆の視線が、帽子を被った少年に注がれた。
 特に、セルヴィシュテは、ひやりとした。


「だから、私も不思議でしょうがないのです。
 このセルヴィシュテが、うまく乗り切ってこの大陸を歩いていることを・・・・」


 ラトセィスは、茶色の帽子の鍔に触れた・・・。
 すると、彼の緑がかった青い瞳が隠れ、唇だけがそっと動いた。
「私の名はラトセィス。
 このハザの出身です」

 彼が言い終えると・・・・

 モワウが、やっぱりね、という笑みを見せた。




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Last updated  June 28, 2012 05:45:54 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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