Accel

Accel

December 30, 2012
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 ヘプターが向かった先は、いつだったか、アモが料理長と出逢った、あの街であった。
 どうやら、ヘプターは、この街に住んでいるようである。
 この街は、大きくて美しく、街はぐるりと木の柵で覆われ、入り口もこれまた木の扉がついている。
 扉の前では、3人、護衛が立っていた。
 ヘプターは軽く護衛に手を振ると、馬ごと扉の中に入っていく・・
 この扉は、別に、なにかを意味しているとは到底思えないアモである。
 なにしろ、この自分も、以前勝手に自由に出入りできた。
 もちろんやろうと思えばこの柵さえも飛び越えられるであろう・・・


 ヘプターは街の山沿いの方に馬を進め、大きな家が数軒並んでいる処へと行った。

「おい、着いたよ」
 アモは、これまた驚いた。
 アモの目の前には、結構大きくて立派な建物があるのだ。
 ヘプターは、これほどの家に住んでいるというのか??

 少年が目を丸くしているのを見たヘプターは、ハハハと笑いながら言った。
「おいおい。
 なに驚いているんだ。
 このお屋敷は、ここいらへんの富豪のドーッチェ様のお宅の一つ。
 とても安く部屋の一部を貸していて下さるんだ。
 お影で、結構いい生活さ。
 俺の住んでいるところは、あそこ、あそこ」

 それでも、アモは、ぽかーんと口をあけたまま、屋敷を見やる。


 そういえば・・・
 俺を買った富豪の家もこんな感じだった。
 この家の富豪はどんな富豪だろう・・・


 アモは、馬から下りると、きょろきょろと辺りを見回した。


「行くぞ」
 ヘプターは、手を振りながら、大きな扉を開いた。


 城や、以前に変われた富豪の家を見てきたアモにとって、このように立派な場所というのはまあ慣れていないわけではない。
 広い廊下と、美しい絨毯。
 時々、洒落た衣装の紳士や淑女とすれ違った。
 ヘプターは二階に上がり、階段から三番目の部屋の扉を叩いた。
「おーい、帰ったよ」
 少し、間があった。
 ヘプターは、首を振りながら、扉をゆっくり開いた。
 中から、どうやら、婦人がヘプターと会話をしているようである。
 アモは、ドキドキしてきた。
「まあ、入れ」
 ヘプターは、気さくな笑顔でアモを招き入れた。

 部屋は意外と簡素であった。
 壁も木でできており、最低限の家具が整然と並んでいる。
 部屋の中央に小型の食卓があり、そこには既に茶が用意されていた。
「いらっしゃい」
 ヘプターの妻が、柔らかな笑みを見せた。ヘプターと同じくらいの年頃であろうか・・・少し長い、栗色の髪を後ろで束ねている。
「あ、アモと申します」
 アモはシャチホコばって自己紹介をした。
 その様子を、ヘプターがニヤニヤと見ている。
 妻も、くすりと笑って、椅子を勧めた。

「ヘプターが若いのを連れてくると言うから、どのような方かと思えば、こんなに若い子を連れてくるなんて・・・」
 妻は、笑いをこらえ切れないようだ。
「そうだろうねえ。
 いまだかつて、こんなに若いのを連れてきた事はない」
 ヘプターは、もう甲冑を脱いで、くつろいだ様子である。
「シーヤ。
 こいつも、かなり弓がうまいぞ。
 浮気はだめだからな」
「まあ!」
 アモは、いきなりのこの会話に、なにがなんだか判らないといった表情をするだけである。
「もう、困った人ね、あの人」
 苦笑しながら、シーヤと呼ばれたヘプターの妻は、アモに目配せした。


 アモは、シーヤが食事を片付けるのを手伝いながら、寝込んでしまったヘプターのことについてその妻から色々聞かされた。
「私達、実は、契約結婚なのよ・・・」
 シーヤが寝ている夫の様子を注意深く盗み見ながら、小声でそう言った。
「契約?」
 アモが、黒い瞳をきらりとさせた。

 アモも、ある種の契約をしていた・・・勿論、あのメルサと・・・


「結婚を、契約で、ですか・・・」
 アモが、自分自身に言うように、言った。
「・・・そう。
 親が、もう決めていたのよ・・・従うしかなかったの。
 じゃないと・・・」
 シーヤが、軽く手を震わせている・・・
 アモは、何人か、この年代の女性と話をした事がある。
 彼女達はみな、苦しい思いをしていた。
 このシーヤも、なにか、苦しい思いをかかえているのだ・・・

「でも、幸せなんでしょ?」
 アモは、釜の脇に残った小さな野菜を、口に入れた。
「ヘプターさんは、俺に、家族を見せてくれるって、言ってました。
 ヘプターさんは、とてもあなたを大事にしているんだと思いましたよ」
 アモは、少し赤くなってそう言った。
「家族・・・」
 シーヤが、それでも切なそうにヘプターを見つめる・・・

「・・・・」
 アモは、なにか不都合な点があるのか、聞きたい衝動を、必死に抑えた。
 自分にも秘密があるように、この夫婦にも、なにかがあるのだ、なにかが。


「あ、あの、俺、馬に餌でもやってきますよ・・・」
 アモは、少し間が悪くて、そう言うと、さっとヘプターの家を出た。
 ヘプターは、とても、妻を愛しているように、感じていた。
 でも、その妻は、なんだか雰囲気が違う・・・なんだろう・・・
 アモは、ヘプターの家に行けば、夫婦が笑い合って暖かい家庭が見れるのだと思っていた。
 でも、どうやら違うようである・・・
 どの家でも・・・どのような男女でも・・・
 なんらかの、悲しみと、苦しみを、持っているのだろうか・・・

 アモが、外に出て馬のところへ行こうとした時。
 少年の目が、急に、キッと向こうの闇を見据えた。
 ハーギーで練磨されたこの少年は、ほんのわずかな異変でも察知する・・・
 向こうで、誰かが、苦しみの声を上げている・・・もちろん、声にならない声を。

 アモは、気配と足音を殺し、つつ、とそちらへ近づいた。
 弓と矢はヘプターの家に置いて来ていたが、それでも、黒髪のこの少年の腰には、中型の剣が納まっている・・・
 ハーギーの時から、常に身につけている剣である。
 今は、弓が主な武器であるが、富豪の処で鍛えられる前までは、剣が主な武器であった。
 この少年にとって、剣は、弓にも勝ると劣らない。


 はたして、向こうで、闇夜に紛れるかのような黒い衣装を着た者が・・・これも黒い袋を引きずっているのをアモは発見した。
 袋から・・・誰かが、助けを求めている。
 アモは、ゆっくりと、自らの気配を表に出した。
 すると、袋を引きずっていた者が、こちらに気が着いたようである。
「よう」
 アモは、ニヤリと相手に笑いかけた。

「なかなか、よさそうなの持っているじゃない?真っ黒さんよ。
 よかったら、獲物を俺にも分けて欲しいねえ・・・」
 隙のない歩みで、アモは前に出た。

 相手は、黒い外套・・・黒い頭巾を被っていて、どのようなものか全くつかみ所がない。
 しかし、メルサに比べたら、恐ろしさなど、大したものではない。
「さあ、どう?分けてくれるかな?」
 自信満々の声で、アモは威嚇した。


「たわけが」
 夜を震わすような、波長の声が・・・相手からした。
 アモは、冷たいその声を受け、黙って剣を抜く・・・
「たわけって誰さ」
 きっ、と剣を構えた。
「俺に逢っがあんたの最後さ。
 そのような形で誰かを連れ去ろうなんて、ろくな奴でない証拠。
 冥土の土産に教えてやろう・・・
 俺の名はアモ」
 言い終わらぬうちに、剣を繰り出した!
 相手の首に、深々と刺さった!・・・のはずが・・・

「!」
 相手が、二つに別れた!
 なんと、黒い衣装の相手が、二人に増えたのだ!

「・・・」
 アモは、やや目を細めた。
 なんだ?これは・・・

 恐ろしい戦慄を感じた。
 まさか、メルサと同じような力を持つ輩なのか・・・・


 アモは、剣を目の前に掲げながら、左へとゆっくり移動する。
 例の袋の前にたどり着き、その前に立った。
 この袋の中の人を守らねばならない。

「常人ではないな、貴様・・・」
 そう言いうアモの額に汗が流れた。

 いったいどうすれば・・・
 切っても、どうなるか、大体目処がつく。
 しかし、このままでは・・・・


 と、その時・・・
 彼の足元に、なにかがぶつかった。
 ハッとして、そちらを見ると・・・・
 夜目に美しい、弓が・・・そこに、転がっている・・・

 アモは、ただ驚いてその弓から目が離せなくなった。

 「ふふふふ・・・」
 夜風よりもより寒い声が、こちらへと吹きついて来た。
 あの黒い奴らが、にじりよって来ていた。

 アモは、躊躇せず、足元の弓を手に取った。
 もう考える時間などなかった。
 いつのまにか!彼の右手に、弓が一つ、添えられていた!
amo02.jpg

 アモは、迷わずに、弓をつがえ、美しく光る矢を引き絞り・・・・
 黒い物体に向けて放った!

 どおおっ!


 大きな音がした!
 素晴らしい閃光がひらめく!
 アモは、美しい力がみなぎるのを感じた!
 これほどの、これほどの、弓が、この世にあったのか???


 少年はもう一つの黒い物体を見つめた!
 彼の手には、もう一つの矢が、あった!
「受けよ!」
 アモは、思わずそう叫んで、矢を放った!

 美しい矢は、吸い込まれるように、黒い物体に突き刺さり・・・
 黒い物体は、華々しく、白く美しい火花に浄化されていくようだった・・・


 アモが、ふう、と額の汗を拭ったその時、その手に、あの弓がない事に気が付いた。
 アモは、慌てて左右を見たが、弓はどこにもなかった。

 胸の高鳴りと、あの素晴らしい感触に、しばし恍惚としていた。
 その彼の心を現実へと戻したのは・・・足元の黒い袋から、またもや苦しみの声を感じたからである。
 アモは、腰の短剣を抜くと、袋を切り裂いた。
「あ」
 思わず、アモはそう言った。
 袋の中には・・・少女が、入っていた。



にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ
*************************
参加ランキングです





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  February 9, 2013 01:26:02 AM
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

月夜見猫

月夜見猫

Comments

月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

Calendar

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: