Accel

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February 8, 2013
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 風がやや涼しくなり、日が少しずつ、傾き始める時刻となった。
 いつの間にか草むらに転がって眠りについていたセルヴィシュテは、なにかにくすぐられて起きた。
「・・・?」
 手でそれを払って、目を開けると・・・
 ラトセィスが笑いながら、草でセルヴィシュテの頬をくすぐっていた。
「ラトス・・」
 セルヴィシュテは、上半身をゆっくり起こした。

 この相方のラトセィスは、今まで・・・
 どちらかというと、自分と、距離を取っていた・・・



 なにが、あったのだろう・・・・


 ラトセィスは、草を地面に置くと、向こうの山を見ながら静かに言った。
「あれは、ボボドの山です・・・」
 セルヴィシュテも、南の地平線に遥かに聳える山を、目を凝らしてみてみた。
「ボボド?」
 ラトセィスの方に向き直って、茶色の髪の少年が、首を傾げた。
「ええ。
 昔は、神様がいらっしゃって、沢山の人が祈祷登山に行ったそうです・・・」
 ラトセィスの瞳が、軽く伏せられた・・・

「ラトス・・・・」
 セルヴィシュテは、相方の表情を読もうと必死になった。



 ラトセィスは地面に座ると、空に熔けそうな色の瞳で・・・膝を抱えながら言った。
「セルヴィシュテ。
 今の今まで、私に何も聞かないで来てくださった事、感謝します・・・
 そろそろ、教えなくてはならないですね・・・」
seru-rato01.jpg

 短い草で覆われた草原が・・・さわり、と音を立てた。

 別に、いいんだよ、無理をしなくても?」
 セルヴィシュテは、いきなりのラトスの発言に、戸惑った。
 なんだか、ラトスの、最後の別れの言葉でも、聞かされるような・・・
 そんな気がした・・・

「いいえ」
 ラトセィスはそう言うと、おもむろに・・首もとの、赤い紐を解き始めた・・・
 ラトセィスは、黄色い服の襟元に、いつも、赤い紐を結んでいた。
 別段、セルヴィシュテは、それをあまり気にもしていなかったが。
 ラトセィスが、その紐を解くと、薄い黄色の服の首元が、ややあらわになった。

「私は、このハザの、10数個あると言われる国のうちの一つの国の、王子・・・」
 ラトセィスが、少しだけ、襟元をはだけた。
 その鎖骨の下に、なにか、紋様が刻まれていた・・・

「いえ、王子でした、と言った方が、正解ですかね」
 ラトセィスは、軽く笑うと、紐を首に回し、また襟に通す・・・・

「王子・・・」
 セルヴィシュテは、やや、動揺の表情を見せた。
 ラトセィスは、いつも、他人行儀な言葉遣いをしていたが、まさか王子だとは・・・


「で、”でした”、っていうと、もう王子じゃないの・・・」
 セルヴィシュテは、もう結ばれたラトセィスの赤い紐を見つめながら、変な質問をした。

「ええ。
 あの国はもうありません」
 ラトセィスはきっぱりと言った。
「あ、ありません・・・。
 って?
 ないってこと・・・?」
 セルヴィシュテが、見えもしないのに、ラトセィスの首元にまだ興味ありそうなのを見て、ラトセィスは笑いながら言った。
「ええ。
 ”燃やされました”」
「・・・・・・」


 セルヴィシュテは、ただ、唖然とした。
 そして、そのときに、ふと、急にだが・・・・
 自らの事についても、思い出された。
 事と次第によっては、この自分も、このハザの、王子という立場になっていたかもしれなかったのだ・・・

 「燃やされた・・・」
 それでも、セルヴィシュテは、ただラトセィスの言葉を復唱した。
 ラトスの魔法も、炎の魔法のはずだ。
 燃やされた、というからには・・・・ラトス以外の者によって、”燃やされた”のだろう・・・


「リュベナは、妹です」
 急に別の事をラトセィスが切り出した。

「私の王家の血筋は、やや特殊でしてね・・・
 特に、あの子は、その力が強かった・・・」
「は、はあ・・・」
 段々、話の中身が濃くなってきて、セルヴィシュテは理解するのに着いていくのが精一杯である。


「ハザ全体の事のようですが・・・
 最初に生まれた女の子は、ある者のところへと、差し出されるのです・・・
 姉も、勿論そうでした・・・
 ですから、リュベナは、大丈夫だと、思っていたのです・・・
 いえ、だからといって姉が差し出されて平気だと言うわけではないですが・・・」
 ラトセィスは、足元の草を抜いたりしながら、寂しそうにそう言った。

「だとういうのに!リュベナまで・・・
 いったいどうなっているというのか・・・
 私は、それから、身分を隠し、民の直接の声を聞いて歩くことにしたのです・・・
 どこでもそうでした。
 約束は・・・守られていない・・・
 苦しむものばかりでした・・・」

 ブチリ!
 ラトセィスが、草を引きむしった!


「少女達は、エゲルという者のところへと連れていかれるようでした。
 ですから、私が、交渉してみることにしたのです。
 このターザラッツのちからを持って・・・」

 と、そこで、ようやくラトセィスは、ハッとした。
 セルヴィシュテが、半分わかったような、わかっていないような、そんな顔をしているのに気が付いた。


「ああ、すみません、つい、私としたことが・・・
 理解できます?」



 ラトセィスの話を要約すれば・・・
 ラトセィスは、ターザラッツ王国の王子であること。

 彼には姉と妹がいること。

 このハザでは、最初に生まれた女の子はエゲルという者のところに連れ去られること。
 ラトセィスの姉はエゲルに連れて行かれたのに、妹のリュベナも連れて行かれたこと。
 ラトセィスは、他の民の悲しみの現状も知り、自らエゲルに交渉してみたこと・・・



 その先の話がまた怒涛のような恐るべき内容であった・・・
 エゲルは、エルダーヤに住まう忌むべきものに、少女を捧げている。
 それをしないと、メンニュールが闇と化してしまう、と。
 それを聞いたラトセィスは、その忌むべきものを葬る方法がないかと聞いた・・


 エゲルは言った。そのためには、ガルトニルマの力を得る必要である・・・
 さらには、すばらしい力を持ったリュベナは、炎の神ガルトニルマの力の元となるのにふさわしく、そちらに仕えている、と・・・


「ガルトニルマの力を得るためと、そしてリュベナのために・・・
 ガツトニルマに近づくにつれ、むしろガルトニルマは悪しき力であると、わかってきました。
 ですが、私は、大きな過ちを犯していました。
 そのガルトニルマよりもなお、おおいなるちから・・・
 それが、エルダーヤにある、と、思い込まされてしまったのです・・・」


 ラトセィスは立ち上がった。
「ガルトニルマからリュベナを取り戻したと思ったのもつかの間・・・
 ターザラッツは焼け落ちていました・・・
 すべて、すべては、エルダーヤの恐るべき神の仕業と思っていた・・・」


 びゅう・・・
 風がはためいた。
 ラトセィスの緑の上着が、バタバタとはためく・・・


「ガルトニルマ・・・
 まだ、リュベナの魂を、ヤツは持っています。
 私は、リュベナのために。
 私の大切な妹のために、全てを投げ出す覚悟があります。
 犯してきた罪、間違って歩んだこの道・・・
 リュベナは、ガルトニルマと、そしてこの私の犠牲者なのです・・・
 あの子には、笑って暮らして欲しい・・・・」


 ラトセィスは、青い瞳を真っ直ぐにセルヴィシュテに向けた。
「セルヴィシュテ。
 私は、ガルトニルマと契約を結びました。
 その契約は、あやつの力を得ること。
 つまり、あやつに対抗する手段を持っていないのです。
 ですが、あなたは違う。
 あなたなら、ヤツをみつけられる・・・
 あなたなら、行き着くのです、セルヴィシュテ!」


 セルヴィシュテは、やっと立ち上がると、険しい顔をした相方の目をみつめた・・・
「ラトス・・・
 そうかもしれないけれど、俺はなんの力も持っていない・・・
 そのガルトニルマの処にたどり着いても、そいつをやっつけられるかどうか・・・」
 それを聞いたラトセィスは、唇の両端をきゅっと笑わせた。


「大丈夫です。
 私は全てをかけて、あやつと契約しました。
 そのかけたものでは、あやつと勝負できません。
 でも、かけていないものが、あります・・・」

 ラトセィスは、燃え上がるような瞳で、くすりと笑った。




 ラトセィスからの、恐るべき告白を受け、セルヴィシュテは、まだ動揺していた。
 少年二人は、南に見えるボボドの山を目指していた。
 この平原では、特になにも目標とするものがなかった。
 あの山に、なにか特別な雰囲気を感じていたセルヴィシュテは、昔は神がいたとラトセィスから聞き、当面の目的をあの山としてみた。
 ラトセィスはだまって付いてくる・・・・


 今まで、なにかを、このラトスに感じていた・・・
 不思議な、よくわからない繋がり。
 あまり、接点がなく、あまり話もしないし、特段息があうとかそういう感じもない。
 でも、「なにか」を感じていた。


 同じ、ハザの・・・・
 同じ、ハザの者なのだ。
 それも、王家の。


 セルヴィシュテは、腰に下げた布を、さすった。

 父さんは、ラトスが、ハザの王子だと、知っていたのかな・・・・・?


 ラトセィスが、王家の者として使えると言っていた不思議なちからについては、まだ知らなかった。

 ガルトニルマ・・・・
 エゲル・・・

 沢山の、なんだかわからない恐るべきものが、この先に待っている。

 契約、という言葉も、はっきりとラトセィスから聞かされた。
 どのようなことでもって契約となすかは、想像できなかったが・・・・

 このハザでは、沢山の人が契約している、ようだ。


 今まで、エルダーヤでは、なかったことが。
 この、メンリュールでは、あたりまえ、のようだ・・・

 それとも、単に気が付かなかっただけか?
 エルダーヤでも、なにかの契約があるのだろうか????

 セルヴィシュテは、父から貰った布を引き出すと、ゆっくり目の前に掲げた。

 この布に、もしかして、その秘密が隠されているかも、しれなかった・・・・

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Last updated  February 19, 2013 12:43:28 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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