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2008年05月11日
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カテゴリ: オペラ
 新国立劇場 14:00~
 3F右手

 マリー:ヴィクトリア・ルキアネッツ
 シャルロッテ:山下牧子
 ヴェーゼナー:鹿野由之
 シュトルツィウス:クラウディオ・オテッリ
 デポルト男爵:ピーター・ホーレ
 シュトルツィウスの母:村松桂子
 ピルツェル大尉:小山陽二郎

 マリ大尉:黒田博
 ラ・ロッシュ伯爵夫人:森山京子
 若い伯爵:高橋淳
 東京フィルハーモニー交響楽団
 指揮:若杉弘
 演出:ウィリー・デッカー

 オペラである必然性ないんじゃないの、と思ってしまいました。或いはオペラを名乗る必然性ないんじゃ、でも可。

 20世紀後半、第二次世界大戦以降、オペラというものは、存在自体を問われるメディアになってしまいました。要するに、それまでのオペラが、社会にとっての表現であったり娯楽であったりしたとすれば、もはやそれは表現や娯楽の担い手ではなくなってしまった。少なくとも、かつてのような地位からは滑り落ちてしまった。
 オペラは聴衆から離れてしまい、芸術家のものになってしまった。内容にせよ訴えかける力にせよ、社会全体の要請に応える表現形式というよりは、芸術家個人の表現としての側面の方が強くなってしまった。かつての名作はともかく、新作としてはやはりそうであると言わざるを得ないし、芸術家の側もそういうものであると開き直ってしまった感があります。
 それでも、欧州、特にドイツなどに於いて、オペラというメディア、フォーマットは、まだ社会と繋がりのある文化の一部として某か意味を持っているという共通認識があるのだと思います。とは言うものの、18世紀の社会批判的戯曲を、20世紀になって「オペラ」というフォーマットに載せることに、どれだけの意味があるのか?この点はやはり問われざるを得ないポイントなのです。それが「オペラ」である必然性は何ぞや?と。

 まず、舞台としては、それなりに面白いものであったと言っていいと思います。


 鍵の一つは、最初と最後に置かれた場面にあります。幕が開くと、白塗りの「市民」と思しき人々が、箱形の舞台を埋め尽くして並んでいる。その内、皆が引いて、その中の一人が孤立して取り残される。最初の場面では、それこそがこの劇の主人公であるマリーであり、最後の場面では、それが繰り返される。
 こっから先は勝手な解題ですが、まず、この演出では、「兵士たち」は赤い服で統一され、「貴族たち」は黄色い服で統一されます。それに対し、「市民たち」は平服で、決して明るい色は無く地味だけれど、皆それぞれの服を着ています。マリーの堕落は、この色をまとって行くことで表現されます。冒頭で灰青色の平服を身に付けた(それまでは下着?姿)のマリーは、デポルト男爵(属性:赤)に誘われ、赤い帽子に惹かれ、やがては赤い靴、帽子、襟巻きをまとっていく。やがてラ・ロッシュ伯爵の息子と付き合い、貴族の服(属性:黄)をまとうマリーの前にラ・ロッシュ伯爵夫人が現れ、名誉恢復の申し出を受けます。が、その際、貴族として振る舞おうとするマリーは、姉のシャルロッテによって平民として振る舞うことを強いられ、更には伯爵夫人によって貴族の黄色い服を無惨にもはぎ取られます。その後、市民にも、貴族にも拒絶された下着姿のマリーは、赤い服を着せられ、赤属性の卑しい女=娼婦としての存在を強制されます。

 しかし、赤属性=兵士たちが、諸悪の根源なのでしょうか?黄属性=貴族の傲慢さが悲劇を招いたのでしょうか?そうではない、と思います。
 マリーの最初の恋人、若き市民シュトルツィウスは、マリーが堕落させられたことを復讐するべく、赤属性=兵士たちの一員となります。幕切れの前の場で、彼はマリーを堕落させた元凶のデポルト男爵を毒殺し、自らも死にますが、それによるカタルシスはありません。彼は赤属性のまま死んで行きます。彼の行為は、決して赤属性の非人間性の糾弾にはなっていないのです。
 赤属性も、黄属性も、白属性も、いずれもが非人間性を抱えているのです。一度掟を破ったマリーを回収するところはなかった。市民社会はマリーを拒絶した。だから、マリーは、"軍人用娼婦" になるしかなかった。そういうことではないのか、と思うのです。(シャルロットの行為は、だから、残酷ではあるけれど自分の側にマリーを回収しようとした行為かも知れません。)


 ウィリー・デッカーの演出が、実際にそのようなものを目指したのかどうかははっきりしませんが、そのような解題をしてみてもいいのではないかと思いました。違うかも知れないけどね。

 その意味で、劇としてはまとまっていた。まとめ過ぎ、とも言えるかも知れませんが、落とし所を付けたという意味ではいい仕事と言えるのではないでしょうか。
 けれど、果たして、これ、「オペラ」としてはどうなんでしょう。思うに、殆どシュプレッヒェシュティンメで歌われるこの作品、PA入れて俳優がやっても同様の効果はあるかも知れません。一応「歌う」のが前提であること、及びフル・オーケストラを必要とすることなどから、オペラとして作曲され、オペラとして上演するのでしょうが........
 この劇の現代性の有無を言えば、確かにあると思います。でも、それをオペラとして制作したツィンマーマンの意図、立ち位置が、果たして奈辺にあるものか、ちょっと考えてしまいます。勿論、この作品が書かれた1960年代末には、まだ今ほどにはPA技術などが進化していなかったのも事実でしょう。でも、既に大衆文化の時代でもあります。正直言えば、作曲時点で既にこの作品、微妙な位置付けであったのではないでしょうか。ある意味「古い」のです。ファインアートとしての「オペラ」というクラシック音楽の現代作品としては評価のしようはあるとしても。

 それを措いても、今回の上演、劇としては面白く観ましたが、オペラとして見るならば、率直に言って、残念ながら力量不足が散見されました。マリー役のヴィクトリア・ルキアネッツはよく頑張っていたと言っていいと思いますが、他は皆それぞれであるにせよ、不十分。
 この劇の内容で言えば、普通に歌えました、というのでは駄目で、要所要所で力強く刺すように突っ込んでくるくらいの歌唱がなければ、「オペラ」として上演する意味が無いと思うのですが(それはそもそも無理と言うなら、ツィンマーマンのオペラとして作曲したという選択自体が間違いでしょう)、主要な役はいずれも「歌えてはいる」レベルで、それ以上の突っ込みがもう一つ足りない。「その先のもう一声」が欲しい所で、出せていないのです。デポルト男爵のピーター・ホーレがまぁ「もう半分」くらい出ていたかなと。この点では、日本人キャストは全滅に近い。かろうじて支えるレベルにはあったのがシャルロッテ役の山下牧子。それ以上、唯一「もう一声」の存在感を出せていたのがラ・ロッシュ伯爵夫人役の森山京子。この二人とマリーによる3重唱は、この作品がオペラである必然性を唯一垣間見せてくれた瞬間かも知れません。
 これに、シュトルツィウス役のクラウディオ・オテッリ(でも「あと一声」は不十分、「あと半分」くらい?)とマリーの祖母役である寺谷千枝子くらいが、今日、割合に存在感があったと思います。後は遺憾ながら役者不足。でも、Musiktheaterなどと称しつつPAを入れるようなことをせずに、基本PA抜きで臨むあたりが若杉の意地というところでしょうか。

 東フィルはよかったです。なんでまぁ東フィルにせよこういう音楽の時は張り切ってガンガンやるのか(苦笑)

 若杉弘がこれを上演したかったというのはまぁ結構だし、決して悪い演奏だったとは言いませんが、お客さんの雰囲気といい、ネットでの雰囲気といい、果たしてどの程度この劇がきちんと受け止められたのか、少々疑問ではあります。現代物の場合、作品の存在自体に理解は示される割に、存外きちんと受け止めていない場合がありますし。19世紀の作品と同じように受け止められることが、現代物を理解出来ているということだと思われているケースも無きにしも非ずですから。その意味で、果たして若杉弘(とウィリー・デッカー)の目論見は何処迄成功したのでしょうか。ちょっと考えてしまいます。








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最終更新日  2008年05月11日 19時27分12秒
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