2013年12月26日
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ダークな映像を支える正当派な切り口
シザーハンズ
EDWARD SCISSORHANDS


■監督 ティム・バートン
■出演 ジョニー・デップ /ウィノナ・ライダー /ダイアン・ウィースト
アンソニー・マイケル・ホール /キャシー・ベイカー


さて今回は、年末にふさわしい
ティム・バートン 監督、 ジョニー・デップ 主演コンビが送る
この名作のご紹介となります

(1988)『ビートルジュース』(1989)『バットマン』の
ティム・バートン監督が得意とする
お伽話の様な語り口で作られるダーク・ファンタジーの中でも

世間の関心の世知辛さと世の浮き沈みを現代を舞台に描いた作品では
初期の秀作としてあげられる

ティム・バートン作品では常連の
ジョニー・デップとの初顔合わせになった本作を

ご紹介致します☆

- STORY -

エドワードは、発明家の博士によって生み出された人造人間。
だが、完成直前に博士が急死してしまった為、
彼は両手がハサミのままこの世に残されてしまう。

その後、ゴースト屋敷のような丘の上の家で、
顔が傷だらけで孤独な日々を送っていた彼の元にある日、
化粧品のセールス・ウーマンのペグが訪ねて来た。

心優しい彼女は、そんな彼の姿に同情し、自分の家に連れて帰る。
そうして家の中へ通された彼は、写真に写っているペグの娘キムに心奪われ、
彼女に恋してしまうが……。

- 解説 -



ティム・バートン監督の初期の代表作で

バートン作品の常連俳優
ジョニー・デップとの初顔合わせとなった一作です


映像の鬼才として
エキセントリックな作品を撮る事で知られるバートン監督ですが
本作を見て興味深く感じるのは

社会からはみ出て一般人と相見えない変わり者の主人公を視点に世の中を描く
「ハリウッド黄金期」を思わせる娯楽作品に見る群像劇の「様式」を
見る事が出来る点にあります


先の見えない不安と期待が入り乱れた
国内不和を抱えながら新時代の到来に期待した
50年~60年代にハリウッドで制作された娯楽作品の数々は

「ハリウッド黄金期」として

国内不和と先の見えない生活の不安を忘れさせてくれる
西部劇や時代劇、現代劇の形を借りて鑑賞者の願望を描いた内容で
人気を博しました

本作から感じるある種の「レトロ感」は
ティム・バートン監督の時代に流されない普遍的な価値観で捉えた
「ハリウッド黄金期」に作られた作品が持つ空気感そのものであり

独特なダークな味付けのラブファンタジーとして知られる本作には
この様な「正統派」な 痛快娯楽劇の精神が根付いており

やがて去っていく主人公との 終わりが分かっている 儚い恋が描かれる
本作から感じる切なさには

やがて衰退して行くかつての映画産業の繁栄と輝きが投影された
ティム・バートン監督の「映画愛」がある様な印象があります


一般的に稀代の変人で知られているティム・バートン監督の
一般作品と相見えない 天才的な個性が際立つのも

現実世界を作品の中にしっかりと投影して 自己の個性を位置づける
バランス感覚が優れている点に 理由がある様に思われ

本作はバートン監督の映画人としての「力量」を強く感じさせるものがある
初期の秀作だと言えます



昔ながらの映画の要素

鬼才で知られるバートン監督ですが
本作を見て興味深く感じるのは

「美女と野獣」「風来坊」という様な
昔ながらの映画の要素を用いて作られている点で

変わり者 を主人公にしながらその「視点」で世の中を描き
世の 世知辛さを浮き彫り にする

従来のハリウッド群像劇の「様式」を見る
正統派 な切り口で描かれている点です


風来坊の主人公が街を訪れ 街の関心を一糸に惹きつけ
問題を解決して 想い人を残し一人去って行くと言う
「王道」の物語で作られた冒険活劇映画が人気を博した50~60年代とは

戦後の復興に高揚しながらも覆い隠されていた

先の見えない不安と期待が入り乱れた
国内不和を抱えた世の中にありました


安定した時代に生まれていればその才能を活かして
一角の人物になっていた、そんな可能性を感じる主人公が

持ち前の冒険心と知謀で 街の不和を正して行く痛快娯楽劇は

国内不和と先の見えない不安を忘れさせる
鑑賞者の願望を描いた内容でもあり

西部劇や時代劇、現代劇の形を借りて描かれて行く人気作として
数々の名作が生み出されて行きました


本作から感じるある種のレトロ感は
それら作品が作られて来た時代の空気感そのもので

本作の根底にあるのは「正統派」痛快娯楽劇の精神にあると言えます

世の世知辛さが描かれるのも終わりが分かっている儚い恋が描かれるのも
正統派な映画の「様式」に則って造られるからで

それらはティム・バートン監督の天才的個性が光る映画が成り立つ為の
構造的基盤だと言えます

ティム・バートン作品には昔を懐かしむ感覚で
映画でしか感じられない切なさを輝きを持って描く所に大きな魅力があり

本作はそれらが理想的な形で表現されている様に思われます

山田洋次作品との 意外な共通点

ティム・バートン監督作品に見られる大きな特徴の
社会に適応出来ない不器用なタイプの主人公は

ディズニースタジオ時代
無口で人付き合いが苦手で奇行を繰り返した
バートン監督自身を反映させていると良く言われております


興味深い所で 実は本作とは似ても似つかない 邦画作品に

下町の人情を ユーモラスに描いて来た 『男はつらいよ』 シリーズの
山田洋次 監督の 名作 (1966年) 『なつかしい風来坊』 という

一風変わった風貌と価値観を持った風来坊に対して
初めは好意的だった街の人々がある出来事を堺に態度を豹変させる中での
人の世の世知辛さと幸せの形を涙と笑いで描く

本作と全く同じプロットで作られた映画があります

バートン監督の映画は
目眩く天才的なダークな映像美に目を奪われがちになりますが

山田洋次監督が描き出す一連の作品が持つ 真のテーマである
『人の世の心の移り変わり』
同様のテーマとして本作にも根付いており

海を越えて時を超えて共有され描かれてきた
この様な 普遍的なテーマ にこそ真の価値があると思われ

この辺りに初期のティム・バートン作品の中でも
本学が特に人気が高い理由があると言えます


又、若きジョニー・デップ演じる主人公エドワードのハサミの手とは
肉体的な個性と言うより「変わり者」「不器用な人間」を表現した比喩であり

主人公が 鋭いはさみで傷だらけになるのも
不容易な言動や行動で人や自分自身を傷つけてしまう

互いに近付きたくても近付けない「ハリネズミのジレンマ」を
映像で表現したものだと言えます

ティム・バートンの ダークな味わいを持つ 独特の世界観とは
この世の醜さの象徴である 魑魅魍魎なキャラクターの中に
監督自身の人柄 が反映された「愛おしさ」を感じる所に特徴があり

「普通の人」とは異なり不器用ゆえに世間から弾かれたり
言葉が足りない事から生まれる誤解から
忌み嫌われる存在としてレッテルを貼られると言った

そんなネジレた 世の中の摂理と醜さ にも
自分自身を投影し それらすべてを 包み込む

愛情 が映し出されている様な印象があります


本作とはまったく作風が異なり接点も感じられ無い様な
山田洋次作品と同じものを感じるのも

山田監督の 『男はつらいよ』 で描かれる
周りに迷惑をかけた事を恥じて映画のラストで人知れず去っていく

不器用な人間の象徴の様な「寅次郎」が

時折周りの空気を無視して話す言動が物議を醸し 誤解を呼ぶ
山田監督本人を投影したものでは無いのか と思える所に

意外な接点があり

世代と作風と国の垣根を越えて
同世代の時に撮ったそれぞれの作品に共通する

『人の世の人の心の移り変わりと、その醜さ』 を
「愛しく思う」眼差しで撮る所に

悲しい話を作っても この世界の素晴らしさが 伝わって来る作品になる
のだと思います☆


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最終更新日  2023年03月29日 12時54分49秒
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