角館の町を少し離れて、道に掲げられた看板に誘われるまま、どんな所かも分からぬが見返り渓谷に寄り道することにした。 雨は殆ど上がっていたが少し寒い。 吊橋の上から下の流れに目をやれば、その水は絵の具を流したような青い色、崖のいたるところには木の葉を赤くしたモミジだろうか。
田沢湖を半周廻って乳頭温泉郷へ行ってみた。 どこかの露天風呂に入ってみたくてナビを黒湯温泉にセットし、細い道のカーブを何度か曲がると少し開けた場所に出た。 そこには何台かの車が止めてあって「黒湯」と書かれた大きな看板があった。 タオル一本持って坂道を降り、目指す旅館にたどり着く。 山の空気は冷たさと湿りを帯びていた。 料金を払って露天風呂へ急ぐ。 入り口をくぐって直ぐ内湯と脱衣所がある。 裸になって先ずは内湯に身を沈める。 先客がひとり、会釈を交わして自分も入る。さほど大きくもない湯船から湯がドッとあふれ出す。 何と云う贅沢! 湯の温もりが、冷たい空気に触れ湯気となって一面が乳白色の世界である。 先から居た人が「もう、上がります。 お先に…」と湯を出て行った。 ワタシは内湯の右側の扉を開け露天風呂へ出ると冷たい風が一気に体を冷ます。 湯に浸かって7、8分も経っただろうか、ワタシと同じぐらいの歳の男性が入って来られた。 「どこから来られたんですか?」とワタシが訊こうとした時、扉が開いてバスタオルを着けたご婦人が…、ここが混浴だったことを思い出したが、その時は既にそのご婦人は体に巻いていたバスタオルを取っ払って、湯に入って来た。 どうも、ご夫婦のようだ。 ワタシは目のやり場に困ったが二人は何事もないように、ごく普通の会話を互いに交わしていた。 気の小さいワタシはとうとう何も話せずに、スゴスゴと退散することとなった。 (あの~、何も見てませんからね)
湯を出たら、やはり気の小さい家人が女湯を出て外で待っていた。

山の湯は裸天下と枯薄
車に乗るや、八幡平へと向かった。 玉川温泉はいっぱいの人で蒸けの湯温泉に寄ったが、今年の営業を終えたのか、湯治客の車もなくて外の湯へ降りる道には縄が張られて入っていけないようになっていた。

行く秋の今年をたたむ湯宿かな
後生掛温泉でこの日は宿を取って、ゆっくり湯に入って…、ああ疲れた。
…つづく。