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理由も、理屈もない。僕らはバカなくらい純粋に海が好きなだけだ。遠いあの日、お前たちを自転車で誘い、向かった先の海のように。無謀にも、調べもせず、地図も持たず、辿り着けなかった海。それでも悔いは無かったはず。お前たちと共に向かえたのだから。そして今、ボクらは海へ向かい、辿り着くことができた。あの日の気持ちと何ら変わらず、更なる先へと旅に出た。独特な地形が特徴の南伊豆の海岸線。その多くの表情は海からでないと見ることができない。このエリアがシーカヤッカーたちに愛される所以。ボクは今回で3回目のエントリーとなった。昭和時代の少年たちの心を持ち続ける2人のカヤッカーたち。造形作家のイナー、そしてサポート役のタカさんと共に…。スーパービュー踊子号に乗ったときから旅は始まる。遠足バスではしゃぐ子どものようにイナーと喋り出す。腹が減れば、横浜駅で買った崎陽軒のシュウマイ弁当をガッツク。ハイテンションなノリは、音楽のグルーブに近い。2時間近く列車に乗ってると、車窓から温泉の硫黄の香りが漂ってくる。高揚してた気持ちがクールダウンし、外界との対話が始まる。単線故に、対向列車の通過を待つ緩い時間。もうそこには都会の日常は存在しない。終着駅の伊豆急下田駅で下車し、送迎車に乗り換えて約30分。子浦海岸の目の前にある定宿、民宿こさやに到着。いつも明るい笑顔で気さくに話しかけてくれるオバチャンがお出迎え。早速、手作りのところてんと麦茶でもてなされる。寡黙だが、人情味ある漁師のオジチャンは夕食の仕込み中。自分で釣った鮮魚を中心に、精一杯の献立で楽しませてくれる。南伊豆カヤッキング・トリップを堪能できるのは…。このオジチャンとオバチャンのお陰でもある。エントリーするまでは、汗が止まらないくらいの暑さだが…。海上にでれば、風が汗と体の火照りを取り除いてくれる。暑さで鈍ってた感覚が戻り、体中で対話を始める。まず応えてくれたのは、パドルから伝わってくる波の会話。耳をすませば、鳶や海猫の鳴き声が聞こえてくる。視覚以外、4つの感覚も覚醒してることに気づく。ボクは日常PCに向かっている時間が多い。見ることに偏り、触る、聞く、嗅ぐ、味わう感覚が…。自然に癒されているだけではないように思う。自然環境が、乱れた五感のバランスを調整してくれている。また、閉塞感から感じる苛立。森羅万象を体感することで開放感に溶かされていく。ボクらは同じ場所で、同じ時間の中、旅を共有している。しかし、皆別々の世界と対話し、別の思いを感じて生きている。孤立せずも、孤独を楽しむことが大切なのだと思う。体内に昭和少年が生きているが、ボクらは子どもではない。あの時代へ戻りたいなどとは思っていない。旅することで、懐かしき近未来を夢みているだけなのだ。※一部画像はウインドスター八ヶ岳からの提供を受けました
Jul 31, 2010

皆さまに猛暑お見舞い申し上げます。昨日、ボクは久々に三浦半島南西海域をカヤッキングしてきました。日頃、冷房環境のもと悪化してた代謝が改善。日常のドロドロした倦怠感とは一線を画した、心地いい疲労感を味わえました。実は昨日のカヤッキング、慣らし漕ぎも兼ねたデイトリップ。明日からは南伊豆へ本格的なカヤッキングトリップに向かいます。ボクにとって毎年恒例となっていて、生きてる証を感じる手段のひとつ。なので、充分堪能できればと期待を膨らませています。まだまだ続きそうな猛暑、皆さまご自愛下さいね♪
Jul 26, 2010

それは、真夏のある日の旅だった。幾度か列車を乗り換え、また乗り遅れたりもした。予めネット検索で緻密にたてた計画に早くも狂いが…。後は、己の直感を信じて行動するしかなかった。そして辿り着いたのがこの海岸だった。訪れたはずがないのに、記憶の片隅にある海岸へ。左手に山の稜線、右手に海を望みながらボクは歩いていた。すれ違う者は誰もいない。幾つもの入り江を周り、海の視界が広がったところで足を止めた。そして、暫くその光景を眺めていた。景色に違和感がないのに、何かが違うと感じた。何処かで、時間がずれてしまっている気がする。さっき列車を降りた無人駅の事務室。閉じられたカーテンの破れ口から覗く闇を思い出した。ふと正面に目をやると、不思議な形をした岩が突き出ていた。それは赤子のようであり、また地蔵のようにも見えた。不思議な形をした岩の横にはトンネルの入口があった。ボクは恐る恐るその入口へと向かい、躊躇しながら中へ…。トンネルの中は、外の蒸し暑さを忘れさせるくらいにひんやり。闇の中を暫く進むと、出口を示す光が射して来た。ボクは小走りになり、光の方へ向かった。トンネルの中からは明るく見えた光。しかし出てみると、空は暮れかかっていた。かつて見たことが無い、美しくも恐ろしさを感じる落陽の海。その反対側にポツポツと光る街の灯りの方へとボクは向かった。風もないのに軋む板の音。軒先に整然と並ぶ提灯。格子戸の隙間から漏れる灯り。しかし家の中に人気を感じない。辺りを見回しても人影がない。海辺街の砂利道をさらに進んでみる。暫く行くと、坂道の上から提灯を持った集団が降りて来る。老夫婦、若い女、子どもたち、皆うつむいている。「どうかされたのですか?」と思わず訊ねた。「村の若い者を皆で駅へ見送りに行ったのじゃよ」と老人が応えた。老人はさらに付け加えて言った。「これから海岸で御霊をお迎えするから、あんたも来なさい」ボクは訳も分からずにその集団に付いて行った。闇が大きな口を開けて待つような海岸へ。すっかり陽が落ち、提灯の灯りが老人の額の皺を揺らす。「この浜は、宇宙海岸と書いてソラ海岸と言うのじゃよ」「あの世へ旅立った者の御霊と出会える場所なのじゃ」「さあ、あんたも一緒に空を見ててごらん」老人がそう言うと一同砂浜に腰掛け、ボクもそれに従った。やがて、彼方の岬で花火が打ち上げられ始めた。目まぐるしく打ち上げられる花火の迫力に圧倒されていると…。老人がひっそりと話かけて来た。「旅立って行った者たちは、いつかまたここへ帰れることを願っておる」「ワシらにはそれが分かる。その強い思いにあんたはびっくりしてるのだよ」確かに、音以上に、光の舞いの激しさからそれを感じとれる。いつの日か、必ず帰ってくるという思いが。「ご老人。ならば何故皆悲しそうにうつむいているのですか?」とボクは訊ねてみた。「ここにおる皆もやがて旅立つときがくる」「既に宇宙へ旅立った者たちが帰れるのは、そのずっと後じゃ」「つまり、生前は再び姿を見ることは叶わぬのが掟」「だから、せめて御霊だけを感じようとするのじゃ」「それは悲しさではなく、諦めという儚さなのじゃ」「この思いを人間が持つことで謙虚になれ、心に安らぎが得られる」クライマックスに派手な花火が上がり、御霊たちは消えた。老人たちは街へと帰って行った。ボクは再び闇に包まれた海岸に佇んでいた。暫くすると睡魔が襲い、そのまま眠り込んだ。気づくと、辺りで人々の喋り声が聴こえる。目を開けて辺りを見回すと、海水浴客たちが通り過ぎて行く。パラソルの下で水着姿で寝転ぶ自分を認識。すべて夢だったことに気づく。遠くまでベタ凪ぎの海を見渡してみる。水面に映る光りが、あの御霊の炎のように感じた。やはりここは宇宙海岸だと思った。※この記事の内容は架空です。先日、日本海の或る海辺街を旅した際に思い浮かんだことと、そこの海辺と街の花火大会で撮った写真を組合わせて構成しました。
Jul 20, 2010

日本中に感動を呼び起こしたサッカー日本代表団。南アフリカ・ワールドカップ大会から帰国した。その興奮が収まらない、関空に押し寄せたサポーターたち。それを報道するTVで見ながら、ボクは2週間余り前の記憶が蘇った。それは、ワールドカップの興奮と対極にある私的な静寂。または、旅しながら先祖へ祈りを捧げる、まさに巡礼だった。今年で5年目になった沖縄でのカヤッキング・トリップ。他の場所でのそれとは、ボクにとって、意味合いが全く異なる。那覇国際空港に着き、レンタカーに乗り換えて先ず向かうのが平和祈念公園。戦没者の碑に刻まれている伯父に会いに訪れます。伯父は沖縄戦で戦死したと、妹である母親から聞かされてました。その当時まだ未婚で、本田選手と同じ位の年齢だったようです。母を始め、母の姉妹にはとても優しかったとのこと。戦場から、琉球人形などに手紙を添えて送ってきたとか。ボクは母が感じてる伯父の優しさの陰に、ある思いを強烈に感じます。それは、悲しみを通り越した諦めと、受け継ぐ者たちへの願い。そんな伯父の思いの欠片をひとつひとつ拾いにボクはここに…。この地、この海を幾度も旅することで、伯父の願いを体感したいのです。ボクと、ボクの心に宿る伯父のために。平和祈念公園はボクにとって、伯父との待ち合わせ場所みたいな所。そこから伯父を連れ出し、ふたりのトリップが始まるのです。次に訪れる定番スポットは、玉城村にある浜辺の茶屋。ここでお茶しながら、目の前の海をぼんやりと眺めます。海が美しく見えつつ、切なく感じるのは、伯父とふたりで眺めているから。浜の茶屋を後にし、玉城村から約60km北上したところにある瀬底島へ。そこにあるのが、カヤッキングと宿泊でお世話になっているテラワークス。オーナーのショッキーは沖縄屈指のベテラン・カヤッカーでありサーファー。また奥様のナオさんは料理上手で、カヤックからSUPまで乗りこなす行動派女性。ここを訪れるたびに思うことは、里帰り。ショッキー夫妻はボクにとって、実家を守る兄夫婦みたいな存在なのです。そしてボクがいつも泊まる場所は離れ。ここは昔、ヤギを飼ってた小屋だそうです。つまりボクは、つかの間のヤギというところかな!?ナオさんが作る地産食材を使った料理は母屋で皆で頂きます。その上手さ故、料理を写真に収めるのは最初だけでおしまい。後は、味覚に集中したり、緩い会話をゆっくり楽しみます。そんな時間の流れは、都会にいるとなかなか…。ニャンコたちもマッタリ♪夜は少しずつフけて行き、やがて皆は早めの就寝。ボクもヤギ小屋へ戻って翌日に備えます。そして、夢の世界へ…。つづく…
Jul 1, 2010
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