工房 北極星

工房 北極星

2015.04.28
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カテゴリ: ニュース
 女文字を装った手紙が届いた。読んで帯の間に隠すと、お人よしの夫が気づいて声をかけてくる。「姉から、来てほしいと言ってきて」と偽って家を出た若妻、一度は心咎めて引き返しかけるのだが、「もう悪人でもかまわない」と決めてしまえばあとは急ぎ足で……。
▼24歳で死んだ樋口一葉の小説「裏紫」は未完で、冒頭5ページ分ほどしかない。それでも、「文学として」の注釈つきではあるが、姦通が罪に問われた明治のころの一女性の覚悟を書いて傑作である。日本の姦通罪は戦後すぐになくなった。韓国も先日、憲法裁判所が「刑法の姦通罪は違憲」との判断を示して廃止したという。
▼憲法裁は過去に4回、姦通罪の違憲審査を繰り返してきた。9人の裁判官のうち6人が「違憲」と言えば「違憲」と決まる仕組みで、7年前の前回は5人、今回は7人が「違憲」と判断したそうだ。姦通愛は私生活に対する国の行き過ぎた介入ではないのか。そんな議論が韓国社会で長く続いた末の結論だとうかがえる。
▼配偶者に対する契約違反であって犯罪ではない。姦通をそうとらえるのが世界の流れだ。一方、韓国で日本で、或は多くの国で、姦通罪は道徳上の罪であり続けている。密会の場に急ぐ「裏紫」の主人公お律が浮かべる「冷やかな笑み」はいまの読者もドキリとさせる。道徳意識は刑法を追って簡単に変わりはしない。

日本経済新聞2015.3.2
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最終更新日  2015.04.28 15:19:21
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