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料理長54歳さんCalendar
このブログをご覧頂きありがとうございます。
早いものでブログを開設して2年になります。初めてから9ヶ月はほとんど手付かずでしたが、狭心症をやってその記録を残そうと思ってブログを日記風の記録媒体として利用することにしました。
しかし、段々と日常で考える事やニュース、ゴルフなどを書くことが多くなってきました。最近は、少しマンネリになったのか更新も滞っていますので少し「渇」を入れる為にも新たなことに挑戦してみたいと思います。「物語」をしてみたいと思いますので・・・・はじまりはじまり・・・
第一話「走る雲」
黒い岩肌に打ちつける白い波しぶきが、また大きくなったきたようだ。空を見上げると雲の動きも早くなったきた。いつもと反対に動く雲は陽光にキラキラと輝きながらヤマの方に走っていく。
この数年、「のわけ」が来るたびに作物も倒れ、山の禽獣も少なくなりひもじい思いをしながら春を迎える年が多くなってきた。一族の長として、食料の調達は一番の問題であった。「のわけ」がくると、木の実が落ち、冬の食料が激減するのだ。人間だけでなく山を生息地とする生き物も数を減らしてしまう。狩りをしても兎や鹿を仕留めることもできず徒労に終わる事も多くなる。飢えは人々の心を乱し、諍いをおこし、一族離脱が増える。ムラの人数が減るたびに勢子が減るから狩りをしても獲物は少ない。木の実を収穫するにも人手が少ないと山から大量に運べない。
白い雲に混じって低く黒い雲も現れてきた。陽に焼けた岩肌にポツ、ポツと雨が降ってきた。そろそろムラに帰らねばとヤマトは思った。「のわけ」の度に暗い顔を見せていると一族の者はまた不安を募らせるだろう。せめて明るい顔を見せて「のわけ」が酷くはならないと皆に話したいのだが・・・今度の「のわけ」は何か違うのだという自分の直感を話すわけにはいかない。生温かい風が強くなってきた。
海の見える断崖を離れてムラに向かう。足元の草むらも少し強くなった風のせいで揺れ始めている。笠を被らずにいると流石に暑い。まだ、夏なのだから汗も吹き出てくる。額から、頭から濡れるように汗が滴る。草むらを抜けると林の入り口に子供がひとり待っていた。随分長く待っていたのだろう。手足が藪蚊に食われて赤く腫れている。
「どうしたヤマガ?」とヤマトは自分の子供の名前を読んだ。ヤマガは泣きそうな声で「蚊に食われて・・・でも父上の様子を見て来いと言われて・・・」と答える。ヤマトはムラの皆もヤマトの観天望気が気になっているのだ気付いた。それで、ヤマガに様子を見にいかせたのだろう。
「風見は終わったからムラに帰ろう」とヤマガに言うと嬉しそうにコックリと頷く。「随分待ったんだろう?オンブして帰ろうか?」としゃがむと直ぐにヤマガはヤマトの背に乗ってきた。ヤマガの手がヤマトの汗臭い首に両手を回したので後ろ手でお尻を掴んだ。暫く歩くとヤマガが重くなってきた。すっかり寝込んだ様子で寝息が聞こえる。「随分長く待ったのだろうなぁ」と一人ごちているとヤマトの背中はヤマガを背負ったのでますます暑くなってきた。
寝入ってしまった重いヤマガを背負いながらヤマトは考えていた。自分の背中にはこの子だけでなく一族の行く末という重い荷物を背負っているのだ。飢えとは年寄りと子供から死ぬということだ。病も流行るだろう。そうすれば女も死ぬ。女が死ねば幼子は誰が面倒をみるのだ。他人の子供や家族の食料を準備するほど皆に余裕はない。家は暗くなり、一族の間に諍いが始まり長であるヤマトはそれを鎮めるために働かねばならない。
この春から考えていた事がヤマトの頭に浮かぶ。断崖の上で観天望気しながら考えていたことだ。いよいよ決断の時が来たのかもしれない。先祖より住まいしてきたこの地を離れるのだ。一族を連れて食料のある地を目指すのだ。預言者であり語り部であるカミは一族の先祖は何日も小船に揺られてこの地にやって来たという。先祖もシマを離れてこの地に漂着したのだ。今や先祖が住んでいたシマの生活を知るものは誰もいない。生きる為に山に入り、猪や鹿や兎を獲り木の芽、木の実を集めて食料にする毎日で精一杯なのだ。
ようやくムラが見えてきた。風はまた強くなってきた。雲も低くなってきた。明日は、「のわけ」が来るのだと一族のものに伝えねばなならない。ムラの入り口には、柵があり何人かの男がたむろしている。ヤマトの姿を見るとその内の一人が急いで近づいてきた。立ち止まると「のわけが来てるんだろう?」とジロリと暗い目をしてヤマトに尋ねる。「そうだ、明日にはな」「そうかい、明日かい。それじゃ、ヤマに行くんだな」「そういうことだ。家では危ないからな。これから忙しくなるから皆に知らせてくれ」と話すと全員が慌ててムラの家々へと跳ぶように走って行く。
「のわけ」の時はいつものことだが、ヤマへ行くとなれば2~3日は大変だ。ヤマは暗い洞窟だから雨も風も凌ぐことができる。少しばかりの食料さえあれば・・・煮炊き用のマキも運ばねばならないだろう。しかし、「のわけ」が去った後はどうなるのだろう。家も倉も倒壊しているのではないか?そうなれば、食料として蓄えてきた木の実も水を含んで芽を出してしまう。ムラの全員が飢えるのだ。
ムラの中心にある祭壇の前でカミと呼ばれる老女がブツブツと何かを呟いている。その周囲には数十人の人が集まっている。老女は断崖から観天望気をして帰ってきたヤマトに気付くと「どうじゃった。のわけは大きいかい?」と尋ねた。「これまでと同じだ、ヤマに行くぞ」と答えると集まっていたものたちの顔が暗くなっていく。気取られたのかと一瞬思ったヤマトだが声を励まして「早く皆もヤマに行く準備をしろっ」と大声を出すと蜘蛛の子を散らすように集まっていた一族のものが家に逃げ帰る。その背に向かって「一人残らずヤマに行くんだぞ、ムラに残っていれば命はないぞ」とヤマトは怒鳴ってしまった。強張った顔の筋肉を緩めてカミを見ると老女は一人虚空に視線を泳がしている。のわけが来るのに慌てる素振りもない。ヤマトの大声にも驚いた風もない。ヤマトが「カミもヤマに行くんだろう?」と言うと「わしの命はそんなに長くはないし、どうせ飢えて死ぬくらいならのわけを退散させるお呪いをしているさ」と老いて皺くちゃになった手をさすりながらヤマトに言う。「カミがいなければ、祖先のことやシマのことをだれが伝えるのか?あなたには我が一族を語る仕事があるだろう。そしてカミの知る全てを教えなければ・・・。私と共にヤマに行こう」
ヤマトは重大な決意をしている事を気付かれないようにカミをヤマに誘った。いずれ、カミにはこの地を離れる時には同行して貰わねばならない。そうしなければ、我が一族は放浪の民となってしまい野人と同じなのだ。野人は人間の姿はしているが、その時の欲望だけで行動する動物と同じなのだ。我らは森や林に生きる動物ではない。ただ生き延びる為に生きているのではない。太陽に感謝し、地に感謝し生きとし生けるものに感謝するのだ。 天地自然に感謝してこそ人間なのだ。これこそがわが祖先が守ってきた掟ではないか。
湿気を含んだ風が強くなり勢いが増してきた。黒い雲が轟々と空を走っている。太陽は雲間に隠れてしまいムラは暗くなってきた。
続く・・・・
諸見里しのぶさんを応援してます・・・女… 2008.01.26