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2023.01.24
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テーマ: 読書(8559)

本のタイトル・作者



ベスト・エッセイ2022 [ 青木 耕平 ]

本の目次・あらすじ


息子よ安心しなさい、あなたの親指は天国で花となり咲いている 青木耕平
トーストと産業革命 青山文平
月みる月は 彬子女王
我が町の「宝」 井上理津子
「あいつなりに筋は通ってるんだ」 岩松 了
犬の建前 宇佐見りん
紙 内田洋子

安野光雅さんを悼む 大矢鞆音
ともに歩けば 小川さやか
ナマケモノ 奥本大三郎
神様、世間様 尾崎世界観
ネガティブな皆さんへ 尾上松緑
料理 小山田浩子
「声」分かち合う喜び 温又柔
それは私の夢だった 角田光代
大人への扉を開けたのは 加納愛子
アイヌとして生きる 川上容子
失われゆく昭和探して 川本三郎

ガラスのこころ 岸田奈美
雪原 岸本佐知子
"諦められない"心でアイヌ語研究に熱中 金田一秀穂
田中邦衛さんを悼む 倉本 聰
機械はしない 終業挨拶 黒井千次

佃煮に想う 小泉武夫
陰のある光 小泉 凡
関係性の結晶 齋藤陽道
「すごい」と「やばい」 酒井順子
河合雅雄さんを悼む 佐倉 統
この世の通路 佐々涼子
愚かさが導いてくれた道 沢木耕太郎
最後の飛翔 椹木野衣
「覚えられない」 茂山千之丞
UFO 柴田一成
父と兄の書棚が招いた変な読書 志茂田景樹
愛しの小松政夫さん 鈴木 聡
落合博満への緊張感 鈴木忠平
おじいさんの空き地 瀬尾夏美
那須正幹さんを悼む 高樹のぶ子
『老人と海』をめぐる恋 高見 浩
夢を彷徨う 髙村 薫
部屋にいる感じ 武田砂鉄
最高の食事 田中卓志
白土三平さんを悼む 田中優子
クールでお茶目なかっこよさ 谷 慶子
さいとう・たかをさんの思い出 辻 真先
悪態俳句のススメ 夏井いつき
特に秘密、ありません 二宮敦人
瀬戸内寂聴さんを悼む 林 真理子
親父の枕元 原田宗典
遠き花 藤沢 周
珠玉の世界 ブレイディみかこ
「やめた」後の達成感 ほしよりこ
祖父母のすずらん守る 星野博美
あそこの棚に置いてある。 堀江敏幸
(笑)わない作家 万城目 学
多分、両方だと思いますよ 町田 康
写真を撮られるということ 松浦寿輝
エリック・カールさんを悼む 松本 猛
脳内ドイツ マライ・メントライン
学園の平和、取り戻せ! みうらじゅん
忘れがたきご亭主 三浦しをん
冷水を浴びせる―坂上弘の文体 三浦雅士
翻訳とは 村井理子
閉、じ、こ、も、り 村田喜代子
コロナ禍 社会と密になった 本谷有希子
立花隆さんを悼む 柳田邦男
学び始める春 失敗を楽しむ 山本貴光
胃袋の飛地 湯澤規子
死も遊びだと思いましょ 横尾忠則
ロクな恋 李琴峰
心の扉を開く言葉 寮 美千子
いつか「コロナ福」だったと言える日 鷲田清一

感想


2023年011冊目
★★★★

表紙の猫が怖いなと思ったらこれ虎だね。2022年は寅年だったからか。
毎年出ている『ベスト・エッセイ』。
新聞掲載にされていた物が多いのかな。
2〜3ページの短いエッセイがたくさん入ってオトクな1冊。
エッセイ好きにはたまらない。
お気に入りの作家が取り上げられていてムフフとなるもよし、この本からお気に入りの人を見つけるもよし。
この中では万城目学の「(笑)わない作家」が、前に読んだ
万感のおもい [ 万城目学 ]
に収録されていた。

作家だけじゃなく、お笑いの人なんかのエッセイも掲載されている。
寝る前に2〜3編読む、電車の合間に読む、みたいな読み方も出来ておすすめ。分厚いけど。

エッセイって、「ぱっ」と目をやったところ、「はっ」としたところ、に焦点がある。
その人のその「あっ」を感じることが出来て嬉しい。

というわけで、今回のお気に入りのところ。

武田砂鉄さんの「部屋にいる感じ」は、同じマンションに暮らす住人たちが、お互い全然知らない者どうしのままなんだけど、コロナでステイホームになったときに、「みんなそこにいる」という奇妙な安心感みたいなものがある、と感じる話。

原田宗典「親父の枕元」は、はがきの宛名の、長野の住所が書かれるはずの場所に、ふるえる字で書かれた文字―――ふるさと、が胸に迫る。

「宗ちゃん、私ね、今日みたいに山がきれいに見えると、ああ良かったって思うの。昨日どんなに嫌なことがあっても、ああ良かった、山がきれいって思うの!」


寮美千子「心の扉を開く言葉」は、奈良少年刑務所で先生をしていたとき、生徒が書いた詩を紹介する。

空が青いから白をえらんだのです

たった一行のその詩のタイトルは、「くも」。
自分から発語したことのない彼は、その詩について説明する。
いつも殴られていたおかあさんが、亡くなる前に「つらくなったら空を見てね。わたしはきっとそこにいるから」と彼に言い残したのだという。

加納愛子「大人への扉を開けたのは」。
18歳で家を出る時、父の『お楽しみはこれからだ』を持って出る。
ちょうどNHKの「趣味どきっ 読書の森」で平野レミさんの回を見て、この本(平野レミさんの夫、和田誠さんイラスト)が出てきて「あっ」と思った。
この本のタイトルは、トーキー映画の最初のセリフ「You ain't heard nothin' yet!(あなたがたはまだ何も聞いていない)」の意訳なんですね。知らなかった。

田中卓志「最高の食事」は、ツイッターでも話題になっていた、お笑い芸人アンガールズの田中さんが、番組でお母さんの「息子が小さい頃に作っていたお弁当」をいじられたときの話。
「イジられ慣れ」していたお母さんが作った、中高生のときに食べていたお弁当。
冷凍からあげ、プチトマト、卵焼き、ごはん、みかん。
「一切テレビ的な演出の入っていない、無防備なお弁当」をお母さんは作る。
そのお弁当は、「冷凍食品が入っていて愛情を感じられない」と言われ、お母さんはうつむいてしまう。
その時に田中さんは言うのだ。

「おい!お母さん落ち込んでるだろ!冷凍食品がダメとか言うけどな、うちのお母さんは共働きで看護師をやっていて忙しかったんだよ!3交代で忙しい中、弁当も作ったから、冷凍食品くらい入るんだよ!でもな、身長を一番伸ばしたのはこの弁当だ!」

いやもうここ、私読んでて泣いちゃったよ。お母さんも泣いていたそうだ。そりゃ泣くよ。
こんな言葉が息子からとっさに出てくるなんて、お母さんはほんま一生懸命にええ子を育てはったんやなあ、と思った。

本谷有希子「コロナ禍 社会と密になった」では、コロナのときに出産を経験し、ひたすらテレビを見ていた著者の話。
コロナに、東京オリンピック。
コメンテーターがしたり顔で何かを述べ、専門家たちが喧々諤々の議論を交わす。
そうして著者はそこで形作られる社会の意見に沿い、「世論というものに同調すると、とても楽に社会の一部である自覚を持てること」を発見する。
これ、わかる。
乳児がいると、ずーっとテレビを見てた。
ワイドショーからワイドショーへはしごする。
生放送でそこに誰かがいて、何かを喋っていてくれるのが嬉しかった。孤独だったから。
そしてそこでぐるぐる同じ話をしている。
専門家じゃない人が専門家のようなことを言い、素性の怪しい専門家が専門家らしいことを言い、それは誰も本気の議論なんてしようと思っていない井戸端会議で、ただ喋って喋って聞いてほしいだけで、誰かが話しているのを聞いていたいだけで、でもそれが「みんな」の声になる。
世間の、社会の、声になる。恐ろしいことに。
筆者は言う。

コロナに打ち克つとは、とどのつまり、人々が疫病というコンテンツに飽き切ることなのではないか。

ウィズコロナ、アフターコロナ、ニューノーマル。
コロナがそこまで致死率が高くないと分かってからこそ言えることではあるけれど、結局人はどんな悲惨な事態にも、非常事態にも、慣れて、飽きる生き物なのだなと思う。

椹木野衣「最後の飛翔」は、20年近く飼ったオカメインコのホワイトフェイスが死んでしまった話。
最後に飛ぼうとした鳥に、人間にとってそれ、最後の飛翔は何にあたるのかと考える。

村井理子「翻訳とは」。
琵琶湖の近くで犯罪系の作品の翻訳を多く手掛ける著者。
英語から日本語に訳すと、文字数は1.5倍になるのですって。
1冊訳すのには早くて2ヶ月だという。え、早い!
ただし校正や編集が入り、店頭に並ぶのは半年後なのだそうだ。
それでも早い気がする。

彬子女王「月みる月は」は、筆者が虎屋の社長から、成人の儀礼として大きな饅頭の真ん中に萩の箸で穴を開けてそこから月をみる「月見饅」の存在を聞いた話。
仁明天皇の時代、16種類の菓子を御神前に備え厄除け祈祷をしたことから、旧暦6月16日に、16歳になったひとがいる年は月見をし、月見饅から月を見ている間にはさみで袖下を切り、短い袖を以後着る「お袖止め」という成人の儀式をしたのだという。
なにそれ。意味わからんけど面白い。
月を見ながら三度唱える「月々にみる月は多けれど月みる月はこの月の月」が最後に引用されていて意味がわからなかったんだけど、ネットで調べると「毎月のように月を鑑賞できる月があるけれど、名月を見る月 といえばまさに今月のこの月(旧暦8月15日の中秋の名月)だね」という意味らしい。

倉本聰「田中邦衛さんを悼む」で紹介されていたチャールズ・チャップリンの
「人生―――人の行動は、アップで見ると悲劇だが、ロングで見ると喜劇である」
も、含蓄のある言葉だ。

エッセイって、読んでいてとても楽しい。
知らなかったこと、気づいたこと、聞いたこと、見たこと。
「?」であれ「!」であれ、それは、違和感だ。
自分の外側、範囲外にあるものだからこそ、耳目を引く。
異物に触れ、噛み砕いて飲み込んで、内側に入れて観察する。
その過程を記したもの、がエッセイだと思う。

本を読むこともまた、「?」と「!」の異物を取り込み、吸収することだ。

これまでの関連レビュー


『ベスト・エッセイ2019』
(あれ?2020と2021読んでなかったっけ?)



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最終更新日  2023.01.24 05:34:32
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