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2023.03.16
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テーマ: 読書(8291)

本のタイトル・作者



夏日狂想 [ 窪 美澄 ]

本の目次・あらすじ


広島の裕福な家庭に生まれた礼子。
父親に溺愛され、人力車でキリスト教の女学校に通うお嬢様だったが、父の急死で人生が一変する。
幼い頃からの夢である舞台女優になろうと、彼女は放浪の詩人と東京へ向かうがーーー。

引用


私はその詩を読んで、はらはらと涙を零した。彼が子どもの頃に見たサーカスと、私が子どもの頃に見たサーカスは同じものではなかったはずだ。けれど、私があのときに感じたもの悲しさ、もののあわれがその詩には凝縮されていた。彫刻を彫るように、彼は大きな石のかたまりのなかから、言葉を彫り出し、取り出して並べ、気にいらないといっては、その言葉に執着することなく、捨てた。捨てた言葉たちのほうが多かったはずだ。まるで命を懸けるような推敲の、思考の果ての、絞り出された言葉を見るたび、生きている詩人に出会えた、という喜びが私の心を満たしていった。


感想


2023年053冊目
★★★

途中まで完全なフィクションだと思っていて読んでいた。
いちばんはじめに、中原中也の詩「春日狂想」が引用されていて、それがタイトルと類似していることから、実在の人物をモデルにしていることに気付くべきだったな。
実在の人物をモデルにした物語だった。
どうしてもその史実の出来事をなぞっていくから、飛び飛びで散らばった印象。

間の男性遍歴のところは「おい…おまえ…」となった。

主人公である令嬢・礼子は、長谷川泰子という方がモデル。
ウィキペディアで調べてみたら、この方の戦前の芸名が「陸礼子」。
「中原中也、小林秀雄 (批評家)との三角関係で知られる。」。
私は小説中に登場する批評家がいったい誰をモデルにしているんだろう?と思っていたのだけど、小林秀雄だったのかあ…。
小説にあった回顧録も、実際に『ゆきてかへらぬ—中原中也との愛』として出版されている。

恋多き女、魔性の女。
というか、自分が欲しいものが分かっていて、それにまっすぐな人。
その引力がまわりを引き付ける。

瑞々しい感性をもった少女は、徐々にそれを失っていく。
そうしてかわりに、別のものを得るのだ。


器量よしとして皆にちやほやされ、父親には溢れんばかりの愛を注がれて育った。
文才にも恵まれ、書いたものは雑誌に掲載される。
何者かになれるのだと信じていた少女。
自分の中にある力を証明したくて、けれどそれを出来なくて。
まわりにいる男たちの中から、「何者かである人(と自分には分かる人)」を自分の代わりに世に押し出していくような。

でもそれは、自分を応援して、支えているのと同じなんだよね。

小説の中でも、いろんな人と付き合ったり別れたり同棲したり結婚したり…で、「お前もうそろそろ腰を落ち着けろよ」と思った。
あいつもこいつもええ奴やんけ…もうそいつでええやんか…。
でもそうはいかないんだよね。
戦時中をともに乗り越えた相手ですら、最後には別れてしまう。

結局彼女は、中原中也がいちばんだったのかなあ。
私には、どうしても最初の「姉と弟」のようなイメージが離れない。
魂の双生児。存在のかたわれ。
他の人と結ばれてもなお、わかちがたい繋がり。

本の中に、礼子と、先輩である寿美子が広島の陳列館(原爆ドーム)で、ドイツのバームクーヘンを食べる場面がある。
これ、史実だったのね。
最近読んだ「 怪盗フラヌールの巡回 [ 西尾維新 ] 」の中に、広島から盗まれたものとして初代バームクーヘンというのが出てきたんだけど、法螺だと思っていた。
美味しいですよね、バームクーヘン。
本国ではそんなに有名なお菓子じゃないというのも本当なのかな。

これまでの関連レビュー


夜に星を放つ [ 窪美澄 ]



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最終更新日  2023.03.16 14:20:02
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