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2023.05.13
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テーマ: 読書(8290)

書名



タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース [ 窪 美澄 ]

引用




「………」
むーちゃんは私の顔を見て黙っている。むーちゃんが助けを求めるように倉梯君を見た。
「で、で、でも、毎日、毎日、死んでも、毎日、毎日、生まれてくるんだ……」
私とむーちゃんは倉梯君の顔を見つめた。
「だ、だ、だ、だから、大丈夫なんだ」


感想


2023年101冊目
★★★

前情報なしに読んだら、なかなかにヘヴィな内容だった。
ネグレクト、虐待、ストーカー、貧困、風俗、暴力、孤独死、差別、自殺。
でも読書中も読後感も爽やか。前向きでキラキラして明るい感じ。
それは主人公とまわりの人間との関係性がとても良いから。

3歳のときに父が死に、10歳のときに母が家を出ていった。
それからは、残された15歳の姉・七海とふたりで暮らしてきた「みかげ」。
住まいは、貧困と荒廃に飲まれた団地。自殺の名所。

ある日みかげは、団地で奇妙なおじいさんに「団地警備員」に誘われる。
ぜんじろうさんは、ポカリと菓子パンを手に団地を回る。
生き残っている者の確認。子どもたちの安否確認。飛び降りる者のチェック。
みかげは、「いつか本物の死体が見られるかも」と期待し団地警備員に加わるが……。

団地=スラム、という図式の物語をよく見かけるようになった。

団地のコトリ [ 八束澄子 ]
光のとこにいてね [ 一穂ミチ ]

も貧困の象徴として登場する。
この小説の中でも、「昔は団地は憧れの象徴だったんだよ」と述べられていたけど、

87歳、古い団地で愉しむひとりの暮らし [ 多良美智子 ]

この方みたいな団地に憧れる者としては、現状の団地イメージは、なんだかやるせない。

みたいなことが起こっている。
建物の間もゆったり作られていて緑が多く、環境は良いのだけども…。

団地警備員をするぜんじいは、ゴミを拾う。
これはたぶん、「割れ窓理論」と同じなんだろう。
ひとつのゴミ、ひとつの割れた窓が、荒廃を助長させていく。
名探偵のままでいて [ 小西マサテル ] 」でも校長先生が掃除していた理由はそれだった。)
ただ、今それを出来る心理的かつ時間的余裕がある人って、そんなにいるんだろうか。

私は、住んでいるところに管理費を払っておまかせだ。
するとどうなるかというと、ごみが落ちていても「掃除の人がやるもんな」とスルーしちゃう。
資本主義的な考え方だな、と思う。
そんな自分に後ろめたさを覚えながら。

俺よ、俺はこんな俺を許すのか?

「死んだ人を見てみたい」っていうの…ほかのジュブナイル小説でも読んだことあったな。なんだったっけ。
お墓を作るのは「禁じられた遊び」だもんな…。
ああ、湯本 香樹実『夏の庭―The Friends』だ。
これもまた、「死にそうな老人」の死を観察しようとする若者の交流の物語だ。

たぶんそれは、人間にある欲求みたいなものなんだと思う。
隠されている、口に出されない。
多死多産の時代が終わり、病院で人が死ぬようになり、人が死に日常で触れなくなった。
禁忌としての死。だからこそ。
若い者こそ、「それが何なのか」に惹かれる。
死とは何なのか。自分は死んだらどうなるのか。
それは反転して、自分が生きていることの確認でもある。

タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース。
死を身近に感じるその時はまた、生きていることを実感する瞬間でもある。
みかげや、その友人たちは、団地警備員をすることで「ぜんじい」と仲良くなり、その遺志を継ぐ。
声を殺して、周囲を伺って潜めていた彼らは、最後に笑う。
それはきらきらと空気が輝く、産声をあげるように。
「ここまで」と決めていた境界線を超えた先に見える景色。



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最終更新日  2023.05.15 06:32:54
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