320life

PR

プロフィール

ノマ@320life

ノマ@320life

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

2023.06.02
XML
テーマ: 読書(8290)

書名



栞と嘘の季節 [ 米澤 穂信 ]

引用



「偉大にって、誰が、どんなふうに」
「誰でも、どんなふうにでも。だからこれだけの本が必要だし、こんなもんじゃ足りない」(略)
「悪い答えじゃなかったと思う。本当のことを言うと、割と気に入った。でも、ゼロをプラスにできる施設って考え方じゃ、足りないと思うな」


感想


2023年118冊目
★★★

2022.05.21  黒牢城 [ 米澤穂信 ]
2021.07.30  本と鍵の季節 [ 米澤穂信 ]

の米澤さんの作品。
この本は、『本と鍵の季節』の続編。
前作を知らなくても読めないことはないけど、たぶん楽しさ半減どころか1/3くらいだと思うので、先に『本と鍵の季節』を読むことをおすすめします。
今回は、短編ではなく、1つの物語だった。
読み終わってスッキリするタイプの「日常の謎」系ミステリーではなく、最後に「で、このあとどうなったんだろう…」と思う。



図書委員の堀川次郎と松倉詩門。
返却された本に毀損などがないかを確認していた堀川は、『薔薇の名前』の下巻に栞が挟まれたままであることに気付く。
それは、凝ったデザインで、ラミネート加工された押し花。
ーーートリカブト。
猛毒の草が、なぜここに。
堀川と松倉は、栞の持ち主を探し始める。
同時期に、写真部のひとりが撮影した写真が賞を獲る。
トリカブトの花が写り込んだその写真は、校内で撮影されていた。
花壇の花を葬っていた少女・瀬野と、図書委員の二人は栞の持ち主を追う。
瀬野の思い出、そして栞を「切り札」と呼ぶ集団の存在。
「何があっても、どんなことをされても、お前が生きていられるのは私が生かしてやっているからなんだ」。


まず、手作りでラミネート加工された猛毒の花の押し花の栞っていうシチュエーションが良い。
このアナログなアイテムが、何気ない日常に潜む可愛らしい、目に止まらないちっぽけな存在が、何十人もを死に至らしめるほどの威力を持つ。
そのギャップ。
そして、表面的には平凡な高校生活を送っているように見える「普通の高校生」たちが、それを持たなければいけないそれぞれの理由。
お守りのように、切り札として。


本当にそれを使うかというと使わないのだろうけれど、それを望む気持ちは分かる。
力を持たない自分、力の下に置かれている自分。
それが本当は、形勢逆転の反撃の一手を潜めているのだと思えたら。
生きていけるんじゃないだろうか。
絶望の中でも。
自己も他者も含めた生殺与奪の権を握っているのだと、思えたら。
それは、生きていく力になるんじゃないだろうか。

最後に、瀬野さんは栞を1枚取り返す。
でもまだまだ栞は存在する。
彼女がその1枚1枚を取り戻しに行く様は、まるで映画みたいだな。
(そういう映画あったような。自分の過ちを回収に行くために戦う、という。)

この物語では、読者もまた騙される。
語り手が正直ではない、というのはミステリだと「ずるい!」となるんだけど、最初に散々「 図書館の自由に関する宣言 」について触れられているから、ミスリードといえるのかな。
「図書館は利用者の秘密を守る」。そして、「図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。」。

この本の中で、堀川が延滞処理(返却督促)をするシーンがある。
その時に、あくまでも返却の督促であり、「期限が過ぎている」という事実のみで、何を借りているのかは見ることが出来ないと言う。
なるほどなと思った。
そういえば、返却期限が迫っていると図書館からメールでお知らせが来るときも、本のタイトルは載ってない。

それを思えば、昔は何を調べ、何を読むかということは図書に依っていたけれど、今はインターネットが代替手段となっている。
よく事件が起こると過去の検索履歴やSNSに投稿した記事が紹介されるけれど、それは図書館の自由の権利のようなものとは別なんだろうか、とふと思う。

引用部、利用者が少ない学校の図書室の必要性について瀬野さんに問われ、堀川は答える。
本があること、それは可能性の担保なのだと。
瀬野さんは言う。ゼロをプラスにするだけでは足りないと。

瀬野さんはきっと、マイナスをゼロにする何かが欲しかったんだろう。
トリカブトの押し花を「切り札」として、「お守り」として欲した少女たちもまた。
私は図書館にーーー本に、マイナスをゼロにしてもらったと思っているから、それを誰かが受け取ってくれたら良いのにと思った。
本の間に栞を潜ませ、「次に必要とする誰か」に見つけられることを願った図書委員長みたいに。

本があなたを助けてくれる。あなたを守ってくれる。
でも、そう、現実で、彼らは物理的な「力」を欲していたんだ。
それに本は、どう答えることが出来るだろう。


にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

ランキングに参加しています。
「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2023.06.02 00:00:14
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: