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2023.08.11
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テーマ: 読書(8559)
書名


シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々 (河出文庫) [ ジェレミー・マーサー ]

感想

2023年175冊目
★★★★

いわた書店「1万円選書」で選んでいただいた本。
(2022.02.06「 2022年1月に読んだ本まとめ/これから読みたい本 」)
かつ、2023.01.03「 2023年の課題図書48冊 」の1冊。

これを選んでもらったのは、たぶん絶対選書カルテの「これまでに読まれた本で印象に残っている本BEST20」に『ブックセラーズ・ダイアリー』を挙げたからだと思う。
(2021.11.28「 ブックセラーズ・ダイアリー [ ショーン・バイセル ]
雰囲気がとっても似ている。

カナダのオタワで犯罪担当の新聞記者をしていたジェレミー(著者)は、酒と薬物に溺れ、犯罪ルポの本で犯罪者の本名を暴露し脅される身に。
フランス・パリへ這々の体で逃れてきたものの、資金は一月ですぐに底をつく。
ある雨の日にジェレミーは、偶然立ち寄った英語書籍を扱う書店で、店主のジョージが途方に暮れた人間や物書きをただで書店に泊めていると聞く。
こうしてジェレミーは書店に転がり込み、ほかの奇妙な居候たちと共同生活を始める。
しっちゃかめっちゃかの「伝説の書店」シェイクスピア&カンパニーの一員として。

本人の自伝でもあり成長譚でもあり、店の歴史でもあり群像劇でもあり、店主の回顧録であり現在進行系のヒューマンドラマでもある。
これ、実話なんですよね?というくらいキャラの立った面々が登場し、こういう「家族でない人たち」の好悪のゆるい繋がりが好きな私はとても楽しく読んだ。
すごいなあ、こんな場所がまだあるんだ。

そもそもこの本屋さん、めちゃくちゃ有名らしいのだけど、知らなかった。
(ちなみに、サンフランシスコには店主ジョージの友人・詩人のファーリンゲティが開いた姉妹店「シティ・ライツ書店」があるのだけど、こちらも超有名らしい。)

初代を開いたシルヴィア・ビーチも回想録『シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店』を書いていると言うし、アーネスト・ヘミングウェイは『移動祝祭日』にこの書店のことを書いているというから、次はこれらを読んでみなくっちゃ。

この「移動祝祭日」というタイトルが(本の内容は知らないのだけど)、この「シェイクスピア&カンパニー書店」にぴったりなのだ。
毎日毎日、入れ代わり立ち代わり、さまざまな出来事が起こる。
くるくる回るメリーゴーランドみたいに。
夢が輝く街で、幻燈のように煌めく。


無料の食事と宿を提供する本屋は、その時々の居候メンバーを中心に運営される。
店主を含めいつも貧乏だ。
紅茶は使いまわし、ピクルスのつけ汁はスープに。


「みんな自分は働きすぎだ、でも、もっと稼がなきゃと言う」ジョージは僕に言った。
「そんなことをして何になる。できるだけ少ない金で暮らして、家族といっしょに過ごしたり、トルストイを読んだり、本屋をやったりすればいいじゃないか。ばかな話だ」


店主のジョージは長年共産主義者だったが、資本主義社会で生きていかざるを得ない以上、「できるかぎり害をおよぼさないようなやり方で経済に参加する」ことを選んだ。
経済に参加するということは、「仲間に害をなすことで報酬を得る」ことを前提にしている。
ジョージは言う。
「少なくとも本を売っていれば、だれも傷つけずにすむ」
本当は無料で本を貸し出す図書館をやりたかったのだと。

「貧しい人々を見ろ、シングルマザーを、囚人たちを見ろ。文明を測る基準はそこにある」


この言葉は、偶然にも、ぴったりちょうど

2023年08月09日  174.モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語 [ 内田洋子 ]

の「露天商賞」(イタリアの本屋たちが選出する文学賞)を受賞した作品が刑務所や病院、生活困窮者の支援所などの図書室へ寄贈されることと重なる。

「何者でもない」存在として、店に居候をするジェレミーは、鬱々悶々とした日々を送る。
当初は刺激的で楽しいけれど、同時に空疎な夢のような毎日。
ここにいてはいけない、と思う。
祝祭の中で人は永遠に生きてはいけない。
彼は最後に書店を出る。

僕は水面すれすれに飛んでいった一匹の蜂が海に呑みこまれるのを見た。そこまで泳いでいき、水から救い出そうとしたが、刺されるのが怖かった。(中略)いつもこうだ、岸に戻りながらそう思った。いつだって善意はあるのに、充分なことができたためしがない。


ジェレミーがスペインを三週間かけて周っているときの、この何気ないエピソードが、すべてを表しているように思う。
ほとんどの人間は、そうなのだ。
けれどこの書店は違う。

水面に現れたボート、救命装置、シェルター。
溺れるものを引き上げ、粗末な食事でもてなす。
裏切られ、騙され、盗まれても。
それは天使が姿を変えて訪れたかもしれないのだから。

こういう反撃の仕方もあるのだな、と思う。
資本主義社会への痛烈なアンチテーゼ。

店主は、生き別れとなった娘に店を継がせることを夢見る。
病を得た店主のために、ジェレミーは娘を探そうとする。
どうなるのだろう、とドキドキハラハラしながら読んだ。

この話は、もうずいぶん前のことだから、その後の書店はどうなっているのだろう。
今は ホームページ もできて、大きく変わったのだろうな。
「古き良き時代」は過ぎ去るーーーそれでも資本主義の魔手から逃れていてほしいと願うのは、わがままなことなんだろう。

この本に登場する、写真だけ撮って立ち去るミーハーな観光客のように、私もいつかここを訪れたい。
そのときに読める本を買えるように、英語力を磨いておかなくてはね。


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最終更新日  2023.08.12 11:40:44
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