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2023.08.19
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テーマ: 読書(8559)

書名



ぼくはテクノロジーを使わずに生きることにした [ マーク・ボイル ]

目次


プロローグ 
自分の場所を知る 
冬 
春 
夏 
秋 
シンプルであることの複雑さ

無料宿泊所〈ハッピー・ピッグ〉について

感想


2023年182冊目
★★★

2023.01.03「 2023年の課題図書48冊 」の1冊。
もともと、前に読んだ


ぼくはお金を使わずに生きることにした [ マーク・ボイル ]

が結構衝撃で(1年間、お金をまったく使わずに生活してみる試み)、その著者が出した「続編」を見つけて「この人その後どうなったんやろう」と思っていた。
タイトルから、「スマホ断ち」「オフグリッド(電力自給自足)」みたいな話なのかなと。
違いました。
テクノロジーを使わずに生きる、の徹底っぷりがすごい。

舞台は著者の故郷、アイルランド。

そこで著者は、すこしのお金で生きていける「自給自足」を行う。

スマートフォン?もちろんない。
離れたところの両親との連絡手段は、手紙。
この本も、鉛筆と紙で書かれた。
時計もない。誰かに会いたい時は、歩いていく。


際限なくある「仕事」で忙しくしながら、著者は「なぜ自分はこうしているのか?」を問う。
それでも、元の暮らしには戻れないのだと。
少なくとも自分がこうしている限り、自分は自分に嘘をつかずに済む。

万が一にもできるならば、産業文明が濫造した「レンズ」を取りはずして、自分自身の目で、この世界をありのままに見たい。もっとも根源的なレベルにおいて人間は動物であるけれども、その事実が真に何を意味するのか、ぼくにはまだ、ほとんどわからない。何年も前にこう決めた。生計を立てるためにわが人生をついやすのではなく、わが人生をじかに生きよう、と。(略)自分の魂を、いちばん高値をつけた入札者に売りたいとは思わなくなった。


今のわたしたちの暮らし。
一握りが享受する、便利で快適な暮らし。
誰かを、何かを、多大に消費し、犠牲にし続ける生活。
それに目を瞑って、気付かないふりをして。
SDGsなんて言葉できれいに覆って、未来をラッピングする。
「持続可能な開発目標」の裏返しは、「壊滅的な衰退」が現状の延長にあるから。
今、そこに繋がる道を着実に歩んでいるから。

何かが、徹底的に、決定的に、間違っている。
その感覚を拭えない。
違和感を抱えたまま、矛盾を孕んだまま、日々に忙殺される。
そんなことを考える暇もないくらい。
今が良ければいい。自分が逃げ切れるなら。
けれど、そのあとは?

使わない能力はたしかにおとろえるものの、思うに、まともな字を手で書けない第一の原因は、一分間に四十ワード書こうとするから、ようするに電子メールと同じ速さで手紙を書きあげたがるからだ。速度を落としさえすれば、きちんとした字を書くのは易しくなる。速度を落としさえすれば、何事にせよ、きちんとやりとげるのが易しくなる。


時々、道を歩いていて思う。
私はこのまわりに生えている植物の名前をほとんど知らない。
それが食べられるのかどうかも、薬になるのかも、何に使うのに向いているのかも。
雲の形から天気を予測することも、飛んでいる鳥を捕まえることもできない。
たった数十年前には、当たり前だった知識は、のきなみ失われた。


冒険図鑑 野外で生活するために (福音館の科学シリーズ) [ さとうち藍 ]

子供の頃、『冒険図鑑』という、野外で生活する術が図解された分厚い辞書のようなこの本をずっと読んでいた。
何かあったらーーーこの本で身につけた知識を活かそうと思いながら。
木から器を作る方法。川での魚の捕まえ方。


大きな森の小さな家 インガルス一家の物語1 (世界傑作童話シリーズ) [ ローラ・インガルス・ワイルダー ]

『ぼくはテクノロジーを使わずに生きることにした』を読んでいる間じゅうずっと、懐かしいような気持ちだった。
何故だろう、と思っていたら、これも子供の頃何度も読んだ『大きな森の小さな家』の世界と、著者の暮らしが同じだったから。
厳しい暮らしなのに、それに憧れるような気持ちがあるのは何故だろう。
生きている感じ、がするからかな。
荒々しい自然と対峙して真剣勝負をする。
剥き出しの生。
そうしたら、生きている、と思えるんだろうか。

でも一方で、この著者の暮らしに疑問を覚える自分もいる。
そこまでしなくていいんじゃないの?
今の少子高齢化が叶ったのは、技術進歩があったからじゃない。
それを否定するだけの、「後退」の価値はあるの?

それでもスローダウンは必要だと思う。
でもこの世界で生きていくにはお金も必要で。

猛暑が続く。
エアコンの適切な利用を。
この機械がなければわたしたちはどうなるの?
でもそもそも、この機械を使い続けることがもっと暑い日を生むんじゃないの?
どうやって作ったかも、どうやって動くのかも分からない機械。
自分で作れも直せもしない機械が、命を握っているなんて?
それでもエアコンを使わずにはいられなくて、それこそが今の問題そのものみたいに感じる。
問題だと思って、でもそれに気づいたときには、それなしではいられないようになっている。

テクノロジーを使わずに生きることにした著者は、でもこの世界で、ひとりでそのやり方をするには限度があることにも気付く。
世界の毒は、どこにも回る。
影響を受けずにいられるものはない。
けれど、それでも、「何かがひどく間違っている」世界の片隅で、昔の技術を学び、実践していく著者はすごい。

もしかしたら、医療やエネルギーの先端技術はそのままに最小限の精鋭として、それ以外を違う形で変えていくことはできるのかも。
テクノロジーを使わずに生きることはできない。
著者も自問する。
火を使うのはテクノロジー?ナイフは?
そのバランスを、見直さなくては。
わたしたちにとっての火と、ナイフは何なのか。


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最終更新日  2023.08.19 06:21:02
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